今回は主人公ユキセの、なんともない平穏な日常話withフガクさんです。
活動報告の方で『前夜』の番外編で今後読みたいお話のアンケートをのせたので、ご希望があればコメントをお願いします。
【うちはフガクの場合】
腕がつってきた気がして、ユキセはちょっと眉を寄せた。
まだ十歳にもならない子供が持つには、重い袋を両手で持っていたからだ。
アカデミーから帰り、夕飯の支度をしようと冷蔵庫を覗いたら、食材がすっかり無くなってしまっていた。
今朝、朝食を準備したときには買い物をしなければと考えていたのに、頭から抜け落ちていた。
幸い、まだいつもの夕食の時間までは間があったから、ユキセは居間にいる祖母に声をかけ、買い物袋をつかんで家を出た。
うちはの集落を走っていたら、任務帰りの大人たちとすれ違った。
もちろん、一族の大人達とは全員顔見知りだったのだから、挨拶も忘れない。
何人かは、手を振ってくれた。
せんべい屋のおばちゃんにはどこへ行くか聞かれたが、時間を気にしていたから、今回は「お買い物!」とだけ返して、歩調を緩めなかった。
里の商店街に着くと、がやがやと賑わっていた。
ユキセは肉屋、八百屋、…と順繰り回り、無事に食材を手に入れた後にほっと息をついた。
(はやく、帰らなきゃ…)
そう思うと、急激に腕がずっしりと重たく感じてきた。
子供がまとめて持つには少々重い量の買い物をしてしまっていた。
いつも、買いこむときはいとこのシスイやイタチにお願いして付き合ってもらっていたから、限度を忘れかけていたらしい。
そうは思っても、帰らないわけにはいかなかったから、袋を持ち直して、歩き出す。
商店街を出て、しばらくおぼつかない足取りで歩いていたら、不意に後ろから声がした。
「…ユキセか?」
「えっ…。あ、フガクさん!」
振り返ると、警務部隊の隊服をまとったうちはフガクが立っていた。
勤めを終えて、帰る途中だったのかもしれない。
「どうした、…随分たくさん買い物をしたんだな」
フガクは、言いながら、ユキセの買い物袋を見て納得したようだった。
「はい…買い過ぎちゃいました」
何とも言い辛くて、ユキセは苦笑いをしてごまかした。
「…そうか、…かしなさい。俺が持とう」
フガクは特に表情を変えることなく、ユキセが反応する前にさっと袋を取り上げてしまう。
「え。―――え!?でも…」
慌てて仰ぎ見るがフガクは、帰るぞ、と付け加えてスタスタ歩き出してしまう。
「フガクさん!」
自分よりも歩幅があるフガクに追いつくために、小走りになる。
なんだ、という風にこちらを見返したフガクに、ユキセは躊躇したが、ありがとうございます、と小さく言った。
「…構わん。当然のことだ」
フガクはそれ以上言わず、だが、歩く速度をゆるめてくれた。
ユキセの歩幅に合わせてくれたらしい。
言葉でも示さなくても、気遣ってくれるフガクのやさしさを感じて、素直に嬉しかった。
一族をまとめ上げるフガクは、幼馴染達の父ではあっても、普段気軽に口を利くような仲ではなかった。
それでも両親を亡くしたユキセと祖母の、細々とした暮らしを影から支えてくれていたのは薄々気づいていたし、彼の家族は、皆ユキセにやさしかった。
胸がぽかぽかとあたたかくなるのを感じながら、ユキセはフガクの一歩後ろについて、集落へ向かった。