多くの雑踏、多くの雑音が私を叩き起す。
既に私を覆う肉布団は私の熱しか感じられなくなっていた。
(寒いなぁ…)
赤黒く変色した服に顔を埋め、自身の息で暖をとる。
暖かく鉄臭い熱気が私を温めた。
昨夜一晩走って一体どこに着いたのだろうか、そう思ってると荷車の前方から
「そろそろ検問所か、あしが付かないようにスラムの闇市に流すのもアリだが…どうする?」
「密猟してないとは言えバレたらヤバいですからねぇ、売っぱらちまいましょう」
という会話が微かに聞こえてきた。
(マズい、私がいるのがバレてしまう)
咄嗟に私は荷車の運搬口から周囲の様子を確認する。
そこは巨大な城壁の前に広がっている大規模な市場、多くのメルティア人が闊歩し流通が盛んなスラム街であった。
(柵の向こうにはこんな所があったのか…)
そう感心していたが重大なことに気が付いた。
それは、ここにいるメルティア人達も私の姿を見たら捕獲しに向かってくる可能性があるにも関わらず、ここまで多く人目があることだ。
昨晩の出来事を考えた場合、少しでも正体が知られるのは避けたい。
(どうしよう…どうしよう………そうだ!)
私はふと目がいった同胞の死体が着用していた衣服を拝借するとフードのようにして頭に被った。
心許ないが今自分ができる最善の手段で身を守り、意を決して外へと飛び出す。
(自然体に、元からいた風を装って…)
人波を避けつつまずは人目の少ない路地裏を目指す。
ここにいる全ての人の目線、意識が私に向いているように感じ、嫌な汗が吹き出してくる。
が、そんな杞憂とは裏腹に何の問題も無く路地裏までたどり着いた私は一息つくとまずは雨風を凌げる場所を求めて彷徨い始めた。
私は普段見ない木組みのボロ屋を目で流しながら、時折通り過ぎる人影を避けて何刻もの時間を彷徨い歩いた。
日も傾き始め、早く住める場所を探さなければと焦り始める。
そんな時私は大柄な男性と角の出会い頭にぶつかってしまった。
「痛ってぇなぁ!!って何だ、子供かよ。」
その男はよろけた体勢を立て直すと、そう悪態をつきジロジロと私を見下ろしてくる。
私は目を合わせまいと黙って衣服を深く被った。
「お前…もしかしてサルバトイドか?」
確信を突いたその問に全身から血の気が引く。
サルバトイド…村にいたメルティア人も言っていた名前、それが私の種族名なのか?
何一つ分からない私でも命が狙われている種族ということは昨晩の一件で分かりきっていたので、隙を見て逃げようとすると
「おいおい、待て!!誰か、ここにサルバトイドがいるぞぉ!!」
大声がスラム街中に響き渡る。
暗くなりかけた街に次々と明かりが灯り、ガヤガヤと人が窓から、扉から顔を覗かせ刺さるような視線をこちらに向けた。
「ほんとにサルバトイド…?」
「子供じゃないのか?」
「でもあの動き、確かに昔狩ったのに似てるな…」
しめた、まだここにいる人は私がそうだと気付いてない。
今この男の目さへ逃れられれば…
私は追っ手の目線を切りながら潜める場所を探していた、だが…
「捕まえるのに協力した奴は売り払った際の額を山分けにするッ!!」
男が放った悪魔の一声は周囲のメルティア人が私へ向ける目をおぞましいものへと変えた。
「あれくらいの子供なら…いけるかもしれん」
「髪の一本でも貰えさへすればいいもんな!」
「そっちに行ったぞ!追い込め!!」
突如として連携し始めたあれらは統率のとれた獣とでも形容するべき様で私を追い詰める。
私は逃げながら闇市と思しき裏通りにたどり着くと放置された角材や無造作に置かれた商品棚を倒しながら追っ手を撒いていたが
(あぁもう…しつこい!!)
奴らは近道を使っての先回りや道の封鎖を行い、しつこく迫ってきた。
息があがってくる、呼吸が浅くなる、1日も歩いていたのだ、もういつ体力が尽きてもおかしくない。
そんな時、逃げながら曲がった路地の先は扉があるのみの行き止まりに突き当たった。
「お願いします、開けて下さい!!」
私は一筋の希望を求めてその扉を死に物狂いでドンドンと叩いたが、その扉が返事を返すことは無かった。
ゾロゾロと足音が迫る。
夜が迫り、闇へと落ちる路地裏を大勢の大人達が松明を持って光を照らす。
そして、私を守り、隠していた暗闇がパチパチと火の粉を上げながら破られた。
「見つけたぞぉ!!」
「観念してその顔見せやがれ!!」
そう口々に言いながら血走った目、汚れた手先で私の四肢を押さえつける。
(痛い、痛い、痛い!)
よそ者である私に向けられた力加減は容赦なく、華奢な手足を折る勢いであった。
「髪を確認しろ!それでサルバトイドかどうか分かる!」
「被ってる布を外せ!!」
「この布、血を吸ってるぞ!人殺しもしたな!?」
メルティア人達は私の正体を隠していた布を無理矢理引き剥がすと全員が目を丸くする。
「「「こいつサルバトイドじゃねぇ!!」」」
その言葉に私は耳を疑った。
ふと視界の端に目が行く、驚くことに私の星色の髪は暗い赤色に変色していたのだ。
(これは…あぁ、あの時の)
そう、この色は同胞の死骸を纏っていた際に髪に血液が染み付いてできた物だ。
勝ち筋が見えた私はこう言い放つ
「何なんだよ、急に皆で追い掛けて来て!死人の身ぐるみ剥いだから追われてると思ったのに!サルバトイドって何だよ!」
それを聞いたスラム街の人々は今までと態度を一変させ、ガヤガヤと騒ぎ始めた。
咄嗟に思いついたはったりであったが効果はてきめんだったようだ。
「何だよ、皆追ってるから本当だと思ったじゃねぇか」
「やめだやめだ!頑張って追ってたのが死体漁りのガキだなんて最悪だ!」
一人、また一人と追っ手がその場から立ち去って行く。
難を逃れたと安心し切った私がため息を吐くか否かという時、最初にぶつかったあの男が襟首を掴み宙へと持ち上げた。
「何!?」
「他の奴らの目は逃れられても俺の目は誤魔化せねぇぞ?お前、逃げ始める時変な走り方してたよな?あの走り方はな、獣人しかしねぇんだよ!」
男はそう言うと襟首を掴んでいた手を首へ移動させ、ジワジワと首を絞めてきた。
私は絞める腕へと爪を突き刺したり、届かない足で腹を蹴ろうと抵抗するも男は気にする様子もなく処刑を続行する。
「へへっ、悪いな。捕獲用の道具も人員も居ないからな、逃げられないようにするにはこうするしかねぇんだ!!」
絞める力を強めていく、行き場が無くなった血液が頭を膨張させるような感覚へと陥らせ、意識が無くなりかける…
(お父さん…お母さん……助け……)
父も母も既にガズワーンに食われた今、私を助ける者は誰もいないと思われた…その時
ガチャり
私が先程叩いた扉が開いた。
中からは薄汚れた服を着た三十路を過ぎたくらいであろうかという女性が出てきた。
私は縋る思いでその女性に出せない声、震える手足で助けを求めた。
「あんた、人ん家の前で人殺しとか止めてくれるかい?縁起が悪くてしゃーないわ」
その一言に男の手が緩んだが、それでも依然首を捉えた状況は変わらない。
「こいつはサルバトイドだ、この場で殺さないと逃げられるだろ?」
「何を言ってるんだい?そもそもここは私の家の敷地内だ、勝手な事は許さないよ!それとここに入ったからにはその子も客人だ、手を離して出ていきな!」
女性が毅然とした態度でそう男を一蹴すると、私を放り投げるように離すとブツブツと恨み言を呟きながら闇の中へと消えていった。
呆然と座り込んだ私をその女性は小動物のように持ち上げると家の中へと招待した。
家の中はスラム街らしくボロボロで強風でも吹いたら壊れるのではないかという雰囲気を醸し出している。
「何も無いあばら家で悪いねぇ、それにしてもあんた死体漁りなんてあんまりするもんじゃあないよ!」
「ありがとう…えっと、おばさん」
その女性は机の上にお茶を出すと私の髪の毛をワシャワシャと撫でてきた。
「そういう時はお世辞でもお姉さんって言うもんだよ!私の名前はマイアって言うんだ、マイアおばさんとでも呼びな。」
顔を若干顰め、眉間にシワを寄せながらもニコニコとそう語りかけるおばさんの声はとても優しく、つい母親を思い出した。
その記憶からか私はお腹の虫を抑えることができず、大きな音を立ててしまった。
それを聴いたマイアおばさんは笑いながら調理場に向かい、何かを準備し始めた。
思わず、何かを手伝おうと席を立つと制止するように
「大丈夫大丈夫!あんたは客人なんだから座ってな!」
と大声で伝えた。
私はついスンとなり、途切れた会話の間をどう繋ごうかとあくせくしていた。
「私は…私の名前はイリア・サルバーニャと言います。」
「サルバーニャ?聞かない姓だね。あんたも外から来た感じかい?」
無理矢理繋ごうとした会話からふとそんな疑問を投げかけられた。
(しめた、これは役に立つ情報が聞けるかもしれない。)
そんな期待を持ちながら話を続ける。
「外?」
「そうだよ、そんなに小さいなら記憶が無い時にメルティアにでも来たのかねぇ。なんでもこの国は移民が大半を占めてて今でも移民がよく海を渡ってやってくるらしいんよ。」
私はつい持った疑問を投げかけてみた。
「マイアおばさんも外から来たの?」
「そうさ、この国で商売すれば一攫千金なんて触れ込みに騙されてのこのこ来たらこのザマってわけさ。あの子には悪いことをしちゃったねぇ。」
「あの子?」
おばさんが顎でクイッと奥の部屋を指したのでその部屋を覗いてみる、するとそこにはボロ布で作られたベットに眠り、時折苦しそうに咳をする子供の姿があった。
「その子はね、私達が元々いたイドロヴィアって所で流行病に罹っちまってねぇ…どうにかして治してやりたかったんだけど薬が頗る高くて買えなかったのさ。」
「…それでこっちに来たんだ。」
「そうだね…」
聞いてはいけない過去を聞いてしまった気がし、気まずい雰囲気が流れる。
(どうしよう、外の人とは会話したこと無いから何を話したら…)
そんな気持ちを察してくれたのか、おばさんは先程から調理していたスープを持ってきてくれた。
そのスープはやけに薄い汁に変色した肉や野菜が入れられたゲテモノとも言える代物で、明らかに食べてはいけない臭気を発している。
とは言え申し訳なさそうにこちらを眺めるマイアおばさんの厚意を無下にする訳にもいかず、覚悟を決めた私はせめて匂いは嗅がないようにグイッと飲み干した。
外で初めて食べた物の感想は一重に吐き気がするこれに尽きた。
厠で盛大に吐き出したせいで全身の水分が流れ出ていく感覚が私を襲う。
朦朧とする中マイアおばさんがもう夜も耽けてきたので泊まっていきなさいと寝床まで提供してくれた。
それはおそらくスラムで寄せ集めの様に売られているであろうボロ布でできた寝床であったが、
(初めての外泊…!)
生まれて初めての体験に内心ワクワクしながら布団を被ると一日の疲れからかあっという間に夢の世界へと没入した。
私はそこで不思議な、されど非常に不快な夢を見た。
それは村が炎に包まれ、ガズワーンが家族達を食べたあの日の光景、逃げる私を上空から見る誰かの視界のような景色。
そしてフツフツと湧き上がる怒りと言うべきか恨みと言うべきかという感情が激流となって私の中に流れ込む感覚。
「縺オ繧薙$繧九>縺オ繧薙$繧九>
縺?∪繧薙↑ 縺ヲ縺?≠繧翫≠繧」
(嫌だ、この夢は…)
その不快感はあの日の光景を見たからでも、ガズワーンを見たからでもない。
ただひたすらにこれを見ている者になっているということが、気持ちが流れて来るのが心の底から気持ち悪かった。
そして次の瞬間、それは私の口をこう動かした
「縺薙■繧峨r隕九◆縺ェ?」
「ハッ……! 夢か……」
私は気味の悪さに思わず目を覚ました。
全身からダラダラと脂汗をかいており、吐いた事も相まって水分不足でフラフラとしている。
外を見やるとまだまだ真夜中で星空がこちらを覗いていた。
覚束無い足取りで水を飲もうと調理場に向かおうとした時だった。
フッと現れた黒い影が私を地面に押し倒した。
「え?」
突然の出来事に体が動かなかったが、その影が振り下ろしてきたナイフには何とか反応し、その手を抑えることができた。
(誰だ…まさか、昨日の男が!?)
その疑問に窓辺から差す月明かりが答えてくれた。
「……マイアおばさん?」
私は目を疑った、つい先程まであんなにも優しかったマイアおばさんが今や錆び付いたナイフで私の命を奪わんと過呼吸になりながら突き刺そうとしていたのだ。
「ごめんね…」
顔を俯かせ、視線を合わせようとしない。
「ごめんね…」
尚もナイフを突き刺そうとする力を強める。
「ごめんね……ごめんね……」
嫌だ、初めて外で出会ってあんなにも楽しく話せた人が…
(私が高く売れるから?私が珍しいからダメなの?)
私は残った力を振り絞り、振り下ろすナイフを顔を掠めるように受け流して床に突き刺させた。
刺さったと勘違いした一瞬を見逃さず、私は彼女の服を掴んで体勢を崩し、転倒させると手放したナイフを取り上げて切っ先を向けた。
「何で…こんな事したの?」
震える手で、手汗で滑りそうになるナイフを握り直す。
「ごめんね…私、なんてことを。」
我に返ったか途端に体勢を崩したマイアおばさんを前に私はどうすれば良いかも分からず、ただ警戒して凶器を向けるしか出来なかった。
「私は貴方をサルバトイドって信じたくなかった。でも、貴方を売ればこの子が助かるかもしれないって、この暮らしから助けてあげられるかもしれないって」
奥の部屋からは依然苦しそうに魘される子供の声が響いてくる。
そんな中私はここまで謎だった最大の疑問をぶつけてみた。
「お前達が言うサルバトイドって何なんだ!私は…私は……人間じゃないの?」
暫くの沈黙が続いた後にマイアおばさんはこう答えた。
「そう、サルバトイドの人達は何も知らされてないのね。サルバトイドっていうのはね、貴方達”獣人”の種族名でこの大陸における原住民の名前。」
私はその言葉に思わず聞き入った
「そして今ここにある国はね、貴方達サルバトイドを滅ぼしてできた国なの。」
「……え?」
私はマイアおばさんから話されたその内容に耳を疑った。
「滅ぼした…?滅ぼしたって…でも現に私はここにいるし、村にもあんなに人が……」
混乱と興奮が隠せない私を御するように
「貴方、村以外で自分と似た見た目をした人を見たことがある?」
と問いかけてきた。
確かに、私は村にいた際隠れて外出していた時も、こうして村から離れた所まで来ても同じく星色をした髪をした人は一人たりとも出会わなかったのだ。
信じたくない真実に絶句している私にマイアおばさんは床に頭を擦り付けながらこう懇願した。
「虫が良いのは百も承知。お願い、その髪を一束くれるだけで良いの、それであの子が助かるから…」
その時あの村でメルティア人がしていた事がフラッシュバックの様に蘇った。
(あぁ、私があの時思った感情は……間違えじゃなかったんだ。)
私は手に持ったナイフで肩まで伸びる髪をバッサリと切り落とした。
自分でも何故そうしたか分からない、このメルティア人が優しくしたのはこれを狙ってのことかもしれない。
(気持ち悪い、気持ち悪い)
心がそう思っていても願いを聞いた体が救おうと独りでに動くのだ。
はらりと落ちた髪の毛を餓鬼が食事にありつくかのように掻き集め、救いの神と私を崇めることが、それを行った私の体が気持ち悪くて仕方が無かった。
そう思うと私は、ボロボロになった窓辺へと登り
「さっきは助けてくれてありがとう。でも、私は…もうここに戻ることは二度と無い。」
そう言い残すと何かを言いたげにするメルティア人を背に夜の闇へと飛び込んだ。
スラムの街を、眠りに深けた瓦礫の森を駆け、私は夜闇を貫く一匹の流星となった。
(私はただ、ただ…信じたかっただけなのに……)
しかし、丸一日歩いた疲れと先程の一件で私の手足は傷だらけ、精神に至ってはもう二度と戻らない状態にまで至っていた。
そして流星が地平へと落ちるように私も転がるようにして力尽きたのはスラムでも最底辺が集まる廃棄場の中であった。
お母さんから聞いた事がある、私達に伝わる神話の話。
「命とは変わる物。魂は体を抜けると大地を巡って夕暮れに宙へと昇る。昇った命は星々となって夜明けと共に流星となって地平に死ぬ」
そんなおとぎ話を走馬灯のように思い出すと自嘲気味に笑いながら
「星は夜明けと共に地平に死ぬ……」
と呟く。
幸い夜明けはまだ遠い。
仰向けとなって、宙に浮かぶ今にも地平に落ちそうな星々をボヤける目で見据えた。
私の願いが叶うなら、星に願いが届くなら、お母さんとお父さんがいるそちら側に……
ゆっくりと目を閉じる。
もう何も見えない、聞こえない、感じない、私もそうなろうとしていた時の事だった。
「おい、大丈夫か?」
少し掠れた様な男の声。
ガチャリガチャリと金属音を鳴らしながらそれはこちらに手を差し伸ばした。
「おい、聞こえるか?ダメだな、息はあるがここにいたら死ぬだろうなぁ…」
頭や頬をポンポンと叩く感触が伝わる。
しかし、私がサルバトイドと気付いたのか急に慌ただしくし始めた。
「あ?何でこんな所に!?……あ~、、、普段は野垂れ死にする奴を拾うなんてしないが……仕方無いか。」
その男は私をおんぶする形で背負うとどこかへ向けて歩き出した。
その広く、硬い背中は多数の突起があるようでとても快適とは言えなかったが、
(あぁ、お父さんもよくこうしておんぶしてくれたな…)
そうして私は今度こそ完全に眠りについた。
朝の日差しと荷車の走る音で目を覚ます。
「ここ…は……」
見知らぬ天井、見知らぬ部屋の中、私はベットの中で眠っていたようだった。
窓辺からは石造りの家々が立ち並ぶ都市が見え、私はますます混乱した。
状況の確認をしようと起き上がり、そっと部屋の端にある扉を開けた。
長い廊下に沢山の部屋、豪邸…とまではいかないがかなり大きな家ということだけは分かった。
私が恐る恐る歩いていると階段が見えたので階下に降りてみる。
すると、朝の日差しに照らされてだだっ広いこの家のテーブルにポツンと座りながら茶を啜る男の姿があった。
「おはよう、よく眠れたか?」
男は私の方を向くとテーブルを指さし、ここに座れとジェスチャーを送ってきた。
渋々と私はその男に指示されるまま男の真向かいの席に座る。
「よしよし、素直な子でよろしい。取り敢えず腹が減ってるんだろ?机に置いてあるのは好きに食っていいから。」
見ると机の上にはパンと思しき物や菓子の類と見える食事がバケットに入れて置いてあった。
とは言え昨日の事もあり、私はお前もこうして騙すんだろ?と睨みつけて威嚇した。
それを見かねたのか男は、はぁ…とため息をつきながら立ち上がるとおもむろに私の横に立って、菓子を一つ齧って見せた。
「ほら、毒なんかねぇよ。安心して食え。」
その言葉、その行動に私はもう一度人を信じてみたいと思い、試しに菓子をそろそろと取って口の中に入れてみた。
今まで食べたことも無い味、それよりも丸一日ぶりにありついたマトモな食事に私は思わずがっついてしまい、次に、また次にと机の上に置いてあった食事を全て平らげてしまった。
それを呆気にとられながら見ていた男は
「うおぉ…まさかそんなにがっついてくれるとは思わなかったよ。」
と少々引き気味になりながらも元の席に座ると真剣な眼差しを向けながらこう聞いてきた。
「それで、何があった?」
私はその問の真意に気付いてはいたが
「何…って?」
と聞き返した。
「何ってどうしてサルバトイドのお前さんがこんな所にいるのかって事だよ。」
「・・・実は」
私は2日前に起こった事の顛末をその男に聞かせた。
村が滅んだ所まで聞くとその男は驚いたように目を見開いて私の肩をテーブル越しに掴んだ。
「お前、今何て言った!?村が滅んだって言ったか!?」
鬼気迫る様子に私は無我夢中で頷くと落ち着きを取り戻したように手を離した。
「そうか、驚かせて済まなかった。理由についてはいつか話す。それよりもお前、村が滅んだんならこれからどうするんだ?行くあては?」
私は首をふるふると振り、これからどうしようという不安に駆られていた時の事、その男から突拍子も無い提案を受けた。
「あー…もし行くあてが無いならお前ここでハンターにならないか?」
「・・・え?」
その一言が私の人生を、運命を大きく変えるモンスターハンターの世界へと誘った事にこの時の私はまだ気付かなかった。