アイナが先導し、私達はユナワ村の中を歩いていく。
木造の建物に整形した石?でできた板が鱗のように並べられた物で屋根が作られており、どこもかしこも入口には朱色の布が掛けられていた。
アイナ曰くあれらは瓦屋根、暖簾と呼ぶらしく、私は兜越しではあったが私は初めて見るその光景を見て、触れて、感じていった。
そんな風に村を見て回っていると家の軒下にいる村人と思しき人達から
「アイナ様!?どちらに行ってらっしゃったんですか。ツグマチ様がカンカンになって探していましたわよ。」
「いやいや、無事に帰って来て何よりだ。早く御屋敷にお戻りになってくだせぇ。ツグマチ様を落ち着けさせることが出来るのは貴方だけなんですから!」
とアイナを中心に周りに取り囲むようにゾロゾロ集まって話しかけてきた。
「アハハ、ご心配をお掛けして申し訳ありません。今から怒られて参りますので通して下さいね。」
アイナはその包囲網を、にこやかに微笑みながら手を振って切り抜けていた。
この頃には村の景色は完全に夜模様となっており、家々から漏れる光が導となって道を照らしている。
「お前、結構人気者なんだな。」
私は村の景色を見流しながらそう呟いた。
照れくさそうな、されど少し違和感があるような声色でアイナはこちらに首を向け
「えへへ、とても有難いのですがね…でも、私は…」
言葉に詰まりながらもアイナが何かを言おうと決心したかという顔をした時だった。
「アイナ嬢着きましたよ、何があったかは知りませんが俺達も着いて行きますので戻りましょう。」
と村でも一番とも思える程大きなお屋敷の立派な門の前に着いたリュウがそう呼び掛けたのでアイナは顔を横に振ると両手で頬をパンパンと軽く叩いて
「はい、ありがとうございます!イリア様、貴方の事もお父様に紹介したいので是非お越しください!」
とこちらに振り返りながら笑ってみせた。
けれど、私にはその顔に違和感を感じた。
そう、言うなれば作り笑い。
凄く自然な顔で、今日の昼頃にしていたものとは思えない不気味な程に普通な笑顔。
私は何がアイナにそんな表情をさせるのか気になりながらもアイナに連れられ、そのお屋敷の中に入って行った。
屋敷の中に入ってみると一面に白い砂が敷かれ、石で囲まれた池が夜空の月を映す大きな庭園が備わっており、入口と思しき扉まで続いている飛び石を私はひょいと飛びながら向かった。
アイナが先に扉にたどり着くと小さく深呼吸をしてから
「お、お父様、ただいま帰りました。」
ゆっくりと扉を開けて覗き込んだアイナの声がシン…とした家に響いた。
アイナの後ろから覗くとそこは木組みでできた立派な柱に黄土色の土壁が張られた大きな玄関ではあったものの、出払っているのか誰一人として出迎えてくれる人がいなかった。
すると、
ドタドタドタ!
と屋敷の奥から何者かが走って来る音がこちらに近付き、
「アイナ、今までどこに行っていたのだ!!お前という者はまったく、、、」
金と藤色の着物を纏い、頭の後ろに太い髷を結った正しく富豪という存在を体現した男が現れた。
(こいつがアイナのお父さんか…いかにも金持ちみたいな面してるな。)
私は顔を引っ込めるとアイナの後ろへと陣取る。
「まぁまぁツグマチ様、こうして反省してるみたいですし許してやって下さい。」
リュウがアイナの後ろから2人の間に挟まる形で陣取り、そう言った。
「何だ貴様は…リュウか。そうかお主が保護してくれたのだな、また世話になったな。」
彼の一声を受けてハッとしたのか落ち着きを取り戻したように大人しくなったツグマチは私達を招き入れると奥へと案内した。
青く夜の闇に染まる廊下を抜けて先程見えた庭園が見える襖の前に辿り着くとツグマチはリュウをその部屋の中へ入れると私に向かい
「これから少し大人だけの話をする、お前はその間別の部屋で待ってなさい。アイナ、部屋を案内してやれ。」
と言うと襖をピシャリと締め出してしまった。
取り残された私達はえもいえぬ空気の中、目を合わせる。
「そ、それじゃあイリア様ご案内致しますね。」
「よ、よろしく…」
私はアイナに連れられ広い屋敷の中を歩いて行った。
「私、こうやってお友達を家に連れて来たのは初めてなんです。お父様があの様に怒ってるのはそれ故ですので、どうかお父様を嫌わないであげて下さい。」
私は(家出は初めてじゃないのか…)と思いつつ
「友達って……私達まだそんな仲じゃ…」
そう言いかけた瞬間、アイナはバッと振り返ると
「え、違うのですか!?私達お友達じゃないのですか!?」
驚きの表情を浮かべながら肩を掴んで前へ後ろへとブンブンと揺らしてきた。
兜も被ってるせいで振られる度に頭をガンガンとぶつける。
これじゃあ、ある種の脅迫じゃないか!!
「と…友達!!私達友達!!」
私は手足をばたつかせて、半ばカタコトになりながらそう叫んだ。
実際、アイナは他のメルティア人と違って悪い心は……いや、ある種悪い心は持っていたが友達になるのに”悪い気持ち”はしなかった。
「本当ですか!!」
ブンブン振り回す手を急に放すものだから私は後ろに思い切り尻もちをついた。
私が尻を擦りながら起き上がろうとするとアイナはこちらに手を差し伸べ
「エヘへ、絶対ですよ?」
と笑顔を見せてきたので、私も手を握って起き上がった。
そんなやり取りをしつつも再び屋敷を進む私達。
屋敷の外とは違い、明かりとなるのは夜空に浮かぶ満月のみで、影となっている部分にまで差し掛かると目と鼻の先にいるアイナの輪郭も分からなくなる程だった。
暗闇に溶けながらアイナは
「イリア様…友達の貴方から見て私はどう見えますか?」
と突拍子も無い事を尋ねてきた。
「どうって……」
私はどう答えようか悩んだが、さっきまでなら振り返って目を合わせてくるアイナが振り返りもせずに尋ねた事に気付き、
「そりゃあ、普通のお嬢様だよ。めちゃくちゃ綺麗だけどお転婆で、他人を振り回す女の子って感じかな?」
と嘘偽り無く答えた。
「……そうですか。」
私にはアイナがより一層夜の闇の中に溶け込んだ気がしたが、気のせいだろうか…
そんな風に思っていると客室にたどり着いたようで、アイナは部屋に入ると慣れた手つきで部屋の燈台に火を付けた。
私が誰もいない事を確認した後、兜を脱いでアイナと同じような座り方をすると彼女は
「ではお話が終わるまで私にサルバトイドのお話を聞かせていただけませんか?」
と笑顔かつ食い気味に話してきた。
ウキウキとした顔を浮かべるアイナに
「そう言えばアイナ、何で村の人達の前では作り笑いなんてしてたの?」
と、私はふと先の一件が気になってしまい尋ねてしまった。
「え?」
不意をつかれたかのような顔をし、目を逸らして口をモゴモゴとさせるアイナの目を今度はこちらから合わせにいく。
お昼の仕返しも含んではいたが、それ以上に私は仮にも友達となった人が何か悩んでいるのなら解決してあげたいと願った故の行動だった。
アイナは頬を少し赤らめながら今度は口をパクパクさせて
「お……お茶をお持ちしますねッ!!」
と部屋から走って飛び出してしまった。
(やり過ぎたか)そう思ったが後の祭り、暗闇に取り残された私は何をするでもなく初めて触る畳に手をグーにしたりパーにしたりして感触を確かめるぐらいしかやることが無かった。
次第に私は手持ち無沙汰となり、そうなってくると自然と尿意も出てくるもので
「トイレにでも行くか…」
とその部屋から出てトイレを探し始めた。
しかし、どこまで行っても広い館で私は迷うようにグルグルと歩き回っているとゴソゴソと何かが話す声が聞こえてきたので
(仕方ない、この声の主に聞くしかないか)
と声の元を辿り、闇の中を突き進んでいった。
しばらくさまよっていると、先程ツグマチとリュウが入って行った部屋が見えてきた。
どうやら音の原因もここのようで、私は徒労に終わった事に少し方を落としたが、耳をすまして聞いてみるとなにやら神妙そうな声で2人が話してくるのが聞こえてきた。
「今後はギリテノン王国とも取引ができそうでしてな、今後は火薬価格がもう少し引き下げができる思われる。」
「それならハンター達も国防機関も喜びますね。」
何を言っているのかはよく分からなかったが難しい話をしていることだけは分かった。
(聞いていてもあまり面白くないな…)
と私が静かに立ち去ろうとすると
「しかしなぁ、私ももう歳だ。事業の引き継ぎもしなくちゃならんのだが、うちの子が問題でな。」
「アイナ嬢の事ですか?」
という会話が耳に流れてきた。
私は襖に再び耳をつける。
「あの子は何を言っても黙~って普通にこなして身につける子なんだ。」
「とても良い子じゃないですか、何がご不満で?」
「何でも普通にこなせてしまう、それは確かに才能だ。しかしな、”あの子はただそれだけしかできない”のだ。」
私は耳を疑った。
私の両親も、村にいた人達も、ましてや…マイアおばさんに至るまで自身の子供の価値を値踏みし、この様な感情を持つ者はいなかったからだ。
「あの子は何でも普通にこなす。しかし、それはあくまで普通の領域を出ない、何一つ突飛な才能も無いのだ。普通…そんな奴にこの事業を任せる事などできるものか。」
私は自分の事でもないのにそれを聞いて無性に腹が立ち、こんな所にいてたまるかと足音を立てずにその場から立ち去ると元の部屋に戻った。
思えばこの時から既に少なからず彼女に対して友愛の気持ちが芽生えていたのかもしれない。
部屋には既にお茶を持ってきたアイナが戻っており、微笑みながら
「どちらにいらしてたのですか?お茶が冷めちゃいますよ。」
と床をポンポンと叩いて座るように促してきた。
しかし、先程の余波か少しよそよそしい様になって正座をしつつも顔がこっちを向いたりそっぽを向いたりと見ていて忙しなかった。
私は兜を脱ぐとそれを肴に出されたお茶を啜りながら、
「サルバトイドの話が聞きたいんだっけ?」
と切り出してみた。
アイナはそれを聞くとパァっと顔を明るくし、何度も顔を縦に振って頷いた。
「はい、、はい!教えてください。本には書かれたかった村の事、文化のこと!それから…」
そこまで言った時、私はそれを遮るように手で待った、のジェスチャーをとって話の手を止めた。
「教えても良いよ。ただし、条件がある。」
これは完全にアイナの受け売りであったが、物は試しと試みてみる。
「1つ、私のこれから1個だけ聞く質問に正直に答えること。2つ、私の情報を渡すからアイナには1つお願いを聞いてもらいたい、以上!」
それを聞いたアイナは目をパチクリとさせながら
「え、それだけで良いのですか?もっとこう…お金とか住居とかではなくて?」
と返してきた。
(さすがはご令嬢、返礼が即物的だな…)
私はそう思いながらも
「いらない…と言うと嘘になっちゃうけど、今は貰っても困るからそれで良い。」
と静かに答えた。
「…分かりました、私に出来る事であれば何でも致します!」
アイナはガッツポーズの様な仕草をとると覚悟を決めたかの如く正座する姿勢を整えた。
その姿は今日見てきたどの場面よりも令嬢としての箔があるように見える。
それを見届けた私はこう口を開けた。
尋ねた質問は単純明快
「アイナは私の事を、ひいてはサルバトイドの事をどう思ってる?」
この質問は言わばテストだ。私の事をどう思ってるかではなく、どのようなものがアイナの心を惹いているのかを明確にすることに意味があった。
「そうですね…サルバトイドの方々は以前より書物の方でよく読んでいました。強く、優しく、そして星色の髪を持つ種族…まるでおとぎ話に出てくるような方々で、私にとっては正に特別な存在なんです。」
アイナは目をキラキラと輝かせた。
その目は私に「感想はどうです?」と語りかけてくる。
しかしこれでハッキリした。やはりアイナが気にしているのは”特別性”だ。
貴族の娘として生まれたにも関わらず凡才しか発現せず、親からは普通と疎まれ、村の人からは貴族様の娘だ、と過度な期待をされる。
(それがアイナの悩みの種か…)
そこで私はすかさず、もう1つの条件であった要求を述べた。
「そっか、じゃあお願いの方も今言っちゃうね。アイナ、私と一緒に旅をしないか?」
「………はい?」
アイナは豆鉄砲でも食らったかのような顔で口をポカーンと開けている。
正直この提案は昨日までであれば絶対に生まれなかった選択肢だ。
しかし、リュウやワゴラそしてアイナと接し、私はメルティア人の中でも様々な人が居て、信頼できない者も信頼できる者もいることを知った。
(コイツらと一緒にいると、とてもうるさいのは確かだ…でも)
アイナの悩みはここを離れればきっと解決する。
私は以前の自分と同じく土地に縛られたこの子を助けたい!その想いが口を、体を動かした。
「私は自分の村から出て右も左も分からない、今もリュウって人のハンターとして雇って貰うぐらいしかまともに生きていく為の選択肢が無い。私の持つ情報はどんな事でもアイナに教える、だからその対価にアイナは私の横に着いてメルティアの色々な事を教えて欲しい。」
逃げるように行く手を探すアイナの手をパッと握る。
彼女は全身をビクッと震わせ、口をアワアワとさせていた。
「私は友達であるお前と一緒に旅がしたい!」
「え…えっと……」
アイナは深く深呼吸をすると私と目を合わせた。
その目はこの暗い夜の闇であっても輝くように覚悟の光がともっているようであった。
「ありがとうございますイリア様、私も貴方と共に世界を見てみたいです!貴方が気付いていらっしゃるかは分かりませんが実は私、この村が苦手なのです。」
「あぁ、気付いてるよ。」
私がそう応えるとアイナはそう予想していましたよと言うようにフフフと笑って見せた。
「ですが、この村には成人するまでは自分の意思で村から離れてはいけないという掟があります。なので…その、イリア様…私をここから連れ出して頂けませんか?」
アイナは照れくさそうにモジモジとしながら時折こちらに視線を向ける。
要はあれか、私に連れ出して貰えば外的要因だから掟的にはセーフになるって事を暗に示してるのか。
そうと分かったらやる事は1つだ。
「あぁ、分かった。私がお前を連れて行ってやる!でもまずはどうやって出るかを一緒に考えな…」
「その必要は無いぞアイナ」
私とアイナは突然現れたその声にバッと振り返る。
そこには先程まで別室で話していたリュウとツグマチが仁王立ちしていたのだった。
(マズい…!)
私は急いで兜を被ろうとするとツグマチはそれに合わせるように兜を掴んで地面に押さえつけた。
「お前がリュウの話に聞くサルバトイドの生き残りか…アイナを連れて行くとか言ったか?お前のようなガキがか?」
ツグマチはこちらにこの夜よりも暗い瞳をしながらこちらを睨み付けた。
(いや、いや、そんな事よりも今リュウから話を聞いたとか言ってなかったか!?)
私は一緒に居たリュウの方に視線をやった。
「すまないイリア、ユナワ村にお前を連れてきたのはツグマチ様に合わせる為だったんだ。」
「どういう事だ!!」
私はまた裏切られたのかと厳しく、恨む様な目でリュウに怒りの表情を向けた。
それを諭すようにツグマチは
「イリア・サルバーニャとやら、よく聞け。リュウはお前のギルドカード、即ち身分証を作る便宜を図る様に頼みに来たのだよ。」
と説明し出した。
彼の言う事によると、この国では身分証が無ければ入れない施設や検問所の通行、生きていくために受けることが必須な社会サービスが存在しており、ハンターになった際に受け取れるギルドカードは身分証の1つとして扱われるとのこと。
また、それを入手する為には国民としての戸籍が必要であるが、サルバトイドや孤児、スラム等の貧民街に住む人間には存在せず、その様な人間はこの様に上流階級の者に作成を依頼して貰う他無いという事だった。
つまり、私はここでギルドカードを作って貰わなければこの国でまともに生きていくことができないという事だ。
一通り説明を終わるとツグマチは私達を正座させると
「まずはイリア、お前にギルドカードを作成する件リュウに免じて考えてやらんでもない。ただし、条件がある。」
そう言うと今度はアイナに視線を向けて
「アイナ、お前は村の外に行くならば生き延びていけるという結果を見せろ。具体的に言うなら、このイリアと共に村の近辺で最近暴れているナギカガチを狩猟してみろ。」
と言い放った。
「むっ、無理です!昔から弓や薙刀を習ってはいますがモンスター相手になんて…」
アイナは目をグルグルとさせながら必死に断ろうとする。
一緒にいたリュウも慌てて静止するようにツグマチの顔を覗き込んだ。
「そうですよ、こんな幼い子供をモンスターと戦わせるなんて自殺行為です。誰か護衛でも着けなければ…」
そこまで言うとツグマチはその言葉を遮って
「そこでお前達の出番という訳だ。リュウよ、お主にも働いてもらうぞ?」
と座る足を組み直し、不敵な笑みを浮かべる。
そして、私に向かって手に持っている扇子でピシャリと指した。
「イリアよ、お前は娘を連れて行くと言ったのだ、そう言ったからにはこの子を守れる力があるのかを見極める義務が儂にはある。」
最初に会った際に見せた、ただの金持ちの様な顔が見違える程威厳のある目で私を見据える。
流石はこの国を統べる派閥の一角だ、私は見が竦むのを気合いで押し殺して
「それはその通りだ。それで、私は何をすれば良い?」
と問いかけた。
ツグマチは片方の眉を少し上げると扇子を広げ、口元を隠す。
「うむ、お前に課す条件はアイナの狩猟の手助けをして五体満足でこの村に帰還させることだ、ハンターになる為の試験としては簡単であろう?」
その言葉を聞いた私はどんな条件が来るのかと身構えていた心をホッと落ち着かせた。
それならば簡単だ。ちょっとズルいとは思うがアイナには隠れて貰い、代わって私がそのナギカガチとやらを狩猟すれば良いのだから。
私がその条件を快諾しようとした時、ツグマチは秘していたもう1つの条件を口走った。
「ただし、リュウにも同じくナギカガチを狩猟するように依頼を出す。リュウがナギカガチを狩猟した時点でこの試験は終了とする。」
突然出されたその条件が高い壁となって私の前に立ちはだかった。
名前にカガチとつくモンスターは大型の牙竜である場合がほとんどだ。小型モンスターですら完敗するようなアイナを連れて大型モンスターの狩猟を敢行しようものなら大怪我を負うことは必死、そうなったら私はこの国で普通に生きていくことはできない。
かと言ってアイナを隠して私だけで狩猟をすれば経験の差から先にリュウに狩られ、アイナを連れて行くことができないのは容易に想像がつく。
正直言って勝算は0に等しい。
私はそれ故に一瞬口ごもったが、ここで動かなければどちらの可能性も生まれない!
「「やります!!」」
その覚悟の言葉はほぼ同時にアイナからも放たれ、私達はつい目を見合わせた。
その様子を見たリュウは
「何だよお前達、いつの間にそんな息ピッタリになったんだ?」
と大笑い。
一方ツグマチは依然口を扇子で隠して表情を見せなかったが、何かを決心したか扇子を閉じるとゆっくり立ち上がってその部屋を後にした。
そして部屋を出ていく際
「試験は明日から3日掛けて行う。それまでは休息をとれ」
と一声のみを残していった。
嵐は過ぎ去った。私達は緊張から解き放たれたように大きく息を吸って、それをめいいっぱい吐き出した。
動いてないのにクタクタだ。アイナの方も話してる最中は気付かなかったが脂汗でビシャビシャになっている。
そして、緊張が途切れたからか
グウゥゥーーーー……
とお腹が夕食を欲して大きな音を立てた。
そんな私達を見かねたリュウは手をパンと叩くと号令をかけた。
「そう言えば飯がまだだったな。よっし!お前ら、飯にするか!」
「賛成です!イリア様も私もお腹ペコペコです。」
「今夜の夕飯は全国から取り寄せられた魚介のフルコースだ!明日からビシバシ働くんだから今のうちに味わっとけよお前ら?」
未だに体が硬直気味の私の手をリュウとアイナが掴んで半ば無理矢理に起こす。
(さっきまであんな空気だったのに適応が早いな)
私は二人に連れて行かれる前に地面に置かれた兜を被ってマフラーとマントを巻き直した。
「全くもう…そう急かすなって!!」
私達は広く長い廊下を駆けてゆく。ただ、行きで暗闇に閉ざされていたその道は月明かりに照らされて青く輝いていた。
アイナの家を抜けると私達はリュウに連れられ村外れにある古びた建物へと辿り着いた。
そこにはカガ荘と書かれたボロボロな木の看板が今にも取れそうになって立てかけられていた。
「よしっ、ここだ!着いたぞお前達!」
「着いたぞお前達!じゃないが!?」
「え…私、魚介のフルコースと伺っていたのですが?え?」
自信満々なリュウとは裏腹に不満爆発な私と今日一番の困惑した表情を浮かべるアイナ。
呆然とする私達の元へ
「皆さーーん、お待たせしました!市場で魚とか色々買って来ましたよーーー!!」
とデカめのタコをブンブンと振りながらワゴラが合流した。
全てを察した私とアイナはリュウの方へと視線を向けた。
「あのさ…全国から取り寄せた魚介のフルコースって」
信じたくなかったが念の為確認をしてみる。が、すぐにそれが無駄骨である事を私は知ることになった。
「え?そりゃあ、ユナワは全国から物品が集まる町だからな!それをいっぱい買って調理すれば魚介のフルコースだろ?ワゴラ、イリアにどれくらい良いやつ買ったか教えてやれ」
「はい、ご主人様。」
頭にずっしりとした物が乗っかり、それが先程ワゴラが持っていたタコであると理解するのにそう時間は掛からなかった。
ゲラゲラと笑う大人達を他所に私は大きなため息をついて
「・・・アイナ」
「はい!」
「ユナワの市場って何でも売ってるのか?」
「はい!」
「了解、教えてくれてありがとう。」
「はい!」
と、ユナワについての確認作業を行っていく。
そして、それが分かったや否や私はワゴラの腰にぶら下げてあるアイナがお昼に渡したお金が入った袋を掠め取ると一直線にある所へと向かった。
「イリア様どちらへ向かわれたのでしょうね、やっぱり市場でしょうか?」
「旦那様、やっぱり海も見た事ない子に突然タコ食わせるのはマズかったんですよ!」
「いやぁ、そんな事は無いと思うけど…って、、、お!帰って来たぞ。おーい!イリアーー!何を買って……」
私は指と指の隙間に挟めるだけのドスヘラクレスを携え、風の如き速さでリュウへと突撃した。
手のドスヘラクレスはギチギチと異音を鳴らし、兜にはタコも絡みついていることもあって、その風貌は正しく怪物。
リュウは私が直前まで迫るとギョッと顔を青ざめ、手をブンブンと振りながら待ったの構えをとった。
フーフーと息を荒くした私を前にリュウはこう喋った。
「よーーし、イリア!その…なんだ……落ち着けw」
「ここで明日からの狩りを出来なくさせてやる!このクソメルティア人がーーー!!」
後に近隣住民から苦情が入れられたのは言うまでも無かった。