バチバチと火花を散らし、白かった装甲が所々焼けこげている。
岩に打ち付けられた巨大な鉄の鎧はすでに動かない。
右腕は前腕が無く、頭のV字のアンテナもへし折れてなくなっている。
かつて輝いていた目は、涙を流してるかのように液体が漏れ、微かに不規則にライトが点滅する。
・・・・・7分前。
ネームガンダムが持ち場を急に離れ、エリアDへ向かう。
バックパックのスラスターを軽く噴かしながら走る事によって通常よりも少し早く走れる。
「守らなきゃ!少しでも時間を稼がなきゃ!!」
リュウザキはコックピットでそう叫ぶ。
なぜそう思ったのかは後ででいい。
わずかな可能性、負けてしまうと言う可能性が見えてしまったのなら、止められない。
でも、止めたい敵の行動を。
「どこまでも真っ直ぐで・・・・・。」
止めてみせる。
立ち向かう。
今度は、逃げたくない。
自分の好きから、逃げたくない。
「ガンダム・・・・・。」
「ザク・・・・・?
いや、その目のつり具合はグフなのか。」
リュウザキの、ネームガンダムの目の前にいるDエリアの部隊のMSを壊滅させたMS。
全身を複数の赤で塗装したグフをベースにしたMSのようだ。
脚部はR型(高機動型)の物に換装されており、宇宙に対応する為なのか、各部にバーニアが増築されていた。
人形のように動かなくなったMSから、グフはヒートソードを引き抜いて、不気味な光を放つモノアイを揺らし、ネームガンダムを睨みつける。
「あなたじゃ無理です!!」
どこかで少女が叫ぶ。
「今の僕でなんとかできる相手じゃ?!
来るっ!!!」
グフの足のスラスターに火がつき、地面を滑るかのようにホバー移動で接近しようとする。
「接近専用の武器しかないのなら!!」
右手で担いでいたバズーカを放り投げ、後ろ腰にマウントしていたビームライフルに手を伸ばし、スコープが稼働する。
「思い切りがいいと思ったが何を?」
引き金を引き、ビームが発射される。
バズーカの弾倉を撃ち抜いた瞬間、炎が巻き起こる。
「なるほど目眩しか。」
しかし、足を止めない。
高熱に機体を晒されようとも気にもとめず、炎の煙の中から出てきた。
だがその先にネームガンダムの姿はない。
「もらったぁ!!」
側方に回り込んで一気に斬りかかろうと仕掛けたが、見破られていた。
左手で逆手に持ったヒートホークにビームサーベルが受け止められてしまった。
「見破られて?!
まずい!!」
グフが足の裏をネームガンダムへ見せる形をとる。
蹴りならば膝を曲げるだろうがこの動きは、スラスターの火で焼くつもりだ。
すぐに鍔迫り合いを解き、後ろにステップで避ける。
「さっき倒したディランザ以上だな・・・・・。」
「確かに高機動型の脚部だ!
だとするとホバー移動だと思ってたのはスラスターの出力を調整してマニュアルで?!」
一定の距離をとった両機はまたに睨めあう。
「もくもく作戦はもう使えない。
あのスピード相手にビームライフルで狙うのは不可能だ・・・・・。スラスターで無理やり向きを変える動きを誘うにも今の僕には出来ない・・・・・。
仮にできたとしてもあのパイロットはそれを分かってるはず・・・・・。」
「こないのなら、こちらから行かせてもらおう。」
紅のグフが仕掛ける。
ネームガンダムは防御の姿勢を取る。
X字に斬りかかられたネームガンダム。
そこに残ったのは2つに割れたラージシールドだ。
「あまい!!」
読まれていた、これも。
空中で、大きくビームサーベルを振りかぶっていたネームガンダムにグフが蹴りをくらわせる。
「なっにぃぃぃ・・・・・?!」
機動戦士ガンダムの作中では、グフとの戦いでシールドを斬らせて飛び上がり、落ちながら切り掛かってダメージを与えたがそうはいかない。
吹き飛んだネームガンダムが地面に転がる。
V字アンテナの右側が折れてしまった。
埃にまみれ、装甲に黄色い汚れが目立つ。
「うおおおおおお!!!」
ネームガンダムは立ち上がり、グフへ向かって全速力で走る。
体を捻り、体全体でビームサーベルをグフへと、片手でバットを振る様に斬りかかる。
しかしそれは簡単にヒートソードで受け止められるがそれだけではなかった。
受け止められた瞬間、衝撃に耐えられたかった右腕が折れて地面に落ちる。
「なァ?!!」
ガンダムの右腕が転がり落ち、両者の視線はそこへ集まる。
ひと足先に視線を戻したグフが腹に蹴りを入れネームガンダムを突き放す。
膝を地面につくネームガンダム。
警告音が鳴り響く。
危険サインの赤い照明がコックピットの中を照らす。
「まだ、やれる!!」
聞き手を失ったネームガンダムが、立ち上がり、太陽を背にした紅のグフへと向かう。
スラスターを全開にし、残った左腕で殴り掛かろうとする。
「正気か?!」
戦意を削いだと思っていたのか、反応が遅れてしまい接近を許したグフは剣を捨て、ネームガンダムの左腕を掴み、右肩を押さえてバックパックと脚部のスラスターを展開する。
スラスターの出力の違いだろうか。
ネームガンダムは押されていき、しまいにはオーバーヒートを引き起こしてしまいスラスターの火が止まる。
ネームガンダムが押され、脚部が地面との摩擦で削れ、左足が折れて弾け飛ぶ。
「ぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!」
凄まじいGに襲われてリュウザキは操作レバーを強く握るも動くことができない。
爆音が鳴り響き、砂埃が舞う。
岩石に埋められるような勢いで押し付けられ、ネームガンダムは機能停止した。
そう、負けたのだ。
勝利は目前だったが、負けてしまったのだ。
敵に拠点を攻め入る戦力などはなかった。
ただ一体の囮にまんまと釣られ、のこのこと向かっていったせいで。
岩にぶつけられた衝撃により顔面を強打し死亡した。
ひどい交通事故にあったかのようなものだ。
コックピットを焼かれたり、機体が爆発し負けたのではない。
頭を強打して死亡し敗北したのだ。
リュウザキがこの敗北を受け入れるのに、理解するのに、数秒、数十秒の時間を有した。
「あ、れ・・・・・。
なんで、ここに・・・・・。」
真っ白な空間の中に、液晶画面のようなものがあり、そこにはリュウザキを倒した相手のMSが映っていた。
まるで狩った相手の返り血で赤く染まった紅のグフ。
「僕は・・・・・。
あの人に・・・・・。
あの、機体に・・・・・勝ちたい。」
拳をゆっくり前に突き出して呟くのだった。
「あのガンダム・・・・・。
成形色を生かした作りをする癖は間違いなく・・・・・。」
リアルワールドから、ミッションワールドのセーフエリアへ移動した黒髪の少女。
オデッサデイでの戦闘ログから一部映像を切り抜いた絵を見てつぶやく。
これは、ある少女の昔の記憶。
「これで!決まり!!」
ビームサーベルで敵ガンプラを両断する白いMS。
それを操る青髪の少年。
まっすぐで、真剣な目をしている。
「お、おれはこんな子供に負けたのか?!」
ガンプラバトルの筐体から光が消えて対戦していた同士の顔が見える。
大の大人が、小学生ぐらいの子に負かされた光景が出来上がっていた。
戦いの時は真剣な眼差しをしていた少年は、今や勝利による喜びで満面の笑みを浮かべていた。
真剣に遊ぶ。
少女には経験がなく、1つの事に全力を注ぐこと、それがとても美しいモノだとこの光景を見て初めて感じだのだ。
「わたくしでもできるかな・・・・・。」
ぼそっと溢れた無意識の独り言。
しかし、少年はその言葉が耳に入った。
「できるよ!一緒にやろ!!」
その一言があって今がある。
教えてくれたから。
作り方や、遊び方も、手を差し伸べてくれたから。
「この前買ったルブリスできました!」
紫のラインを黄色に塗装して、頭部アンテナを切断して、空いた穴をランナーを溶かして埋めたガンプラを見せる。
その時の反応はすごく嬉しかった。
自分の初めて作ったものを褒めてくれた、成功体験こそ人の向上心を煽る。
自分のルブリスと、少年のガンダムを並べて2人で喜んだ。
だけど・・・・・。
雨雲の空の下、うつむいて座る少年へ話しかける。
「おりゅうさん・・・・・。
わたくし、おりゅうさんのガンプラとっても好きですよ・・・・・?」
部屋に閉じこもったあなた。
これで終わりだなんてしたくない。
あなたの作ったガンプラ、頑張って直したよ。
かっこいいのに、他の人の声はどうして耳に入れて、わたくしの声には応えてくれないの?
結局、あれから顔を合わせる事なく別れの挨拶すらもかわせなかった。
直したガンプラすら、返せず疎遠になって。
それから幾つ時を重ねたのか、GBNがサービスする話を聞いた時、もしかしたらと思った。
もしも、彼の想いが生きているのなら、決して触れないはずがない。
なんとしてでも探し出して、見つけ出して、また遊ぶんだ。
そう決心した彼女は今、ここに居る。
メニューを操作して、待機エリアからミッションワールドへ移動するリュウザキ。
先に戻っていたユウキ達のところへ向かう。
「あ、おーい!リュウザキくーん!」
手を大きく振ってここにいるとアピールするユウキが見える。
その側にはセシルとフェンも居た。
「ごめん、勝手に突っ走って・・・・・。」
「気にするな、俺はそういうの嫌いじゃないぞ」
セシルが肩にポンポンと手で優しく叩き、フォローを入れる。
「あの戦闘がなかったら、最後の一押しで残存部隊が攻めに来てた可能性ありますし、結果オーライですよ!」
フェンもうんうんと頷きながら言う。
「GBN始めて間もないし、オデッサデイは今回が初めてだからこれからどんどん遊んでこ!」
ユウキもサムズアップする。
その光景を後ろから眺める少女が徐々に近づく。
「やっと・・・・・見つけました。」
少し低めな声、だけどけして怒ってるわけではなく、優しい声色。
黒くストレートに伸ばした黒い髪に、暗闇でも色がはっきりわかりそうな黄色い瞳。
リュウザキは見覚えがあった。
「待って!!」
声を上げ静止を促す少女は、リュウザキの手を掴む。
無意識にメニューを開いてログアウトしようと手を動かしていたからだ。
GBNもそうだが、VRゲーム全般は自身の意思で手を動かさなければメニューを操作できない仕様になっている。
別の対戦ゲームでは、眠っている人に決闘を申し込み一方的に狩るというのが流行ったための処置なのだ。
「やっと見つけました・・・・・。
リュウザキさん。」
「もしかして・・・・・ヤヒメ?」
ヤヒメと呼ばれた少女は目に涙を浮かべながら、うんっと頷く。
それに対しリュウザキは猛烈な吐き気を催し左手で口を押さえる。
VRとはいえど精神的なものはリアルの肉体に依存する。
つまりこの場合は強制的にログアウトが実行されるのだ。
現実世界に意識が戻ったリュウザキは、カバンやスマホ、ましてや大事なガンプラであるネームガンダムをその場に置いたままトイレへ駆け込む。
洋式便所の扉に入り・・・・・。
外は太陽が沈みかけ19時をまわっている。
冷たいペットボトルをおでこに当てながらリュウザキは家へ帰宅し、荷物を適当に床へ置いてベッドに寝転ぶ。
「あーーーーーー!!!」
枕に顔を埋めて叫ぶ。
それは高い音だった。
家に財布を忘れてガンプラを買えなかった時、忘れてきたー!!と心の中で思ったのを叫ぶ感じと同じ。
トイレでもどしてスッキリしたのか、バトルの事を思い出してあれやこれやと頭の中がいっぱいになった。
その結果、叫んで頭を一回リセットするのだ。
「初めて負けたのに悔しいと思うよりも次は勝ってやるって気持ちが収まらないいいい!」
ベッドから飛び上がってカバンからネームガンダムを取り出し、頭部胴体四肢バックパックとバラバラに外して机の上へ置く。
何故戦闘時に折れたか、その確認のためだ。
それ以外にも出力不足の部分もあるために、各部調整も必要と感じた。
「まずは強度を高めて・・・・・それから・・・・・。」
帰ってご飯も食べずに取り組んだガンプラの改修作業。
寝る間も惜しんでの作業を続け、気がつけば暗く外が見えなかった窓から光が差し込む。
「とりあえずこんなものか・・・・・?」
一見すると前と何が変わったの?と言いたくなる程のものだ。
外見状の違いは、上腕と前腕を固定する円形パーツが増え、手のパーツをサンダーボルトの連邦系に変更、それと一部塗装が変わったぐらいだ。
しかし、内部は大幅に改修され間接部が簡単に外れないように真鍮線を通し、それを隠すように円形のパーツをつけた形になる。
それは腕、足、足首に使われている。
そしてそれだけではなく、とある隠しギミックも搭載した。
RX-78-2を模して、その色まで寄せた改修型ネームガンダム。
前の仕様を前期型と呼ぶならこの仕様は中期型と呼ぶべきだろう。
「起きたら試し乗りするからなあー。
お前も休んでおけよー。」
返事が返ってくるはずもない無機物に対し声をかけて、ベットに潜る。
何かがカタッと音を立てたのは気のせい。
お昼にさしかかる11時ごろにゲームセンターで昨日と同様にGBNへログインする。
リアルワールドではなくミッションワールドへ飛び、改修したネームガンダムの試し乗りをするのだ。
「そろそろ来る頃だと思ってました。」
ゴシックなドレスに身を包んだ綺麗な女性。
一見、その世界には似つかわしいモナリザの如く美しく、クレオパトラのような美人が立っていれば誰もが振り向くであろう。
「あなたの事です。差し詰め、夜更かししてガンプラの改造をしてたのでしょうね。」
しかしリュウザキはまたもや反射的にログアウトをしようと手を動かす。
「久しぶりの再会ですのに・・・・・。
あの戦いでは、自ら向かって行って。
わたくしからは逃げるのですか・・・・・?」
悲しげな顔をし問いかける彼女。
その目を見る事なく、リュウザキは顔を背けながら答えるのだ。
「怖いんだ・・・・・。
君に酷いことしてあわせる顔なんてないのに、それでも寄り添おうとする昔のまんまの君が・・・・・。」
「わたくしは怒ったりしてませんよ。
あなたのガンプラを見て怒りより嬉しいって感情が出てきたんです。」
何故?と不思議に思い、それを口にする前に彼女は話を続ける。
「あのガンプラの作り方、昔のままで好きって気持ちが伝わったんです。
どんなに否定されようと、これが自分の理想、自分の想いなんだって言ってるみたいで。
あの子の名前は、何ですか?」
「ファーストネームガンダム!」
少年が目を輝かせながらそう叫ぶ。
作中最初のガンダムと、少年の初めてのオリジナルガンプラ。
その双方を織り交ぜたネーミングこそが、そうだった。
「・・・・・ネームガンダム。」
口元に手を添え、フフっと彼女が笑う。
「バカにしてるわけじゃないんですよ。
昔と変わらなくて、つい。」
それはつまりバカにしてるのでは?と言おうと思ったリュウザキの思考をわかってか、それを言わせまいと喋る隙を作らない。
「見せていただけませんか?
あなたの愛機を。」
明らかに怪しい路地裏にて、2人の男性が向かい合っていた。
「これを使えば機体の性能を、本来のスペックが引き出せますよ。」
白いスーツを着た男がアタッシュケースを開き、目の前の男へ見せる。
「安心してください。遺物ですので、不正なデータなどではないですよ。
我々はただ、データが欲しいだけですので。」
—次回「未定」
書き溜めてないどころかここから先のプロットすらないですわ〜!!