本当にあったとは言い切れない、それぞれの日常 シーズン4 作:JUBIA
【求!カワイイ子役】
氷海のとある場所で、ミュージカルに出演するカワイイ子役を募集していた。
カワイイ子役といっても、ただカワイイだけではない。
しっかりとした演技も必要だ。
「団長、連れてきたニャー」
「お、どれどれ」
アイルーは、一見して、ただの魚にしか見えない、小さなスクアギルをズルズルと引きずってきた。
団長のウルクススは、スクアギルの回りを一周しながら、マジマジと眺めた。
「うーん。カワイイかどうかは別として、まぁサイズ的には問題ナシだな。あとは、演技力か」
「まー、見ててくださいニャー」
アイルーは、スクアギルに台本を渡した。
スクアギルは、台本のセリフをすべて暗記すると、素晴らしい演技を団長達に披露した。
「おぅ! ブラボー!!」
「それじゃ、この子で決まりですニャー」
スクアギルは、リハーサルで自分の出番が来るまでの間、暇を持て余していた。
「ねーねー、アイルーさん、お腹すいたー」
「あぁ、その辺にあるオヤツでも食べながら待っててニャー」
用事を思い出したアイルーは、その場にスクアギルを残し、どこかへと去っていった。
「オヤツ、オヤツー。……ん? えもの、えものー♪」
小さなスクアギルは、その場を行き交うスタッフ達に、次々と吸い付いた。
ちぅー、ちぅー♪
用事を終えたアイルーが戻ってくると、そこには干からびたスタッフ達が、気を失って倒れていた。
そして、小さかったハズのスクアギルは、とても子役には見えないほどの大きさに成長していた。
「あニャーっ! また一から子役探しニャー!!」
予定していたミュージカルは、急遽、延期になった。
【重厚で重甲な間食?】
天空山に、仲睦まじいアルセルタスと、ゲネルセルタスの夫婦がいた。
夫婦は何をするのも一緒で、周囲からはおしどり夫婦といわれている。
そんなある日、夫婦はハンターの襲撃を見事、返り討ちにしたあと、巣に戻った。
「あんた、今日もお疲れ様」
「おまえもよく頑張ったよ」
互いに、労いの言葉を掛け合う。
しかし、この日、夫のアルセルタスは、ふと気付いたことを妻のゲネルセルタスへ聞いた。
「おまえ……最近、ちょっと……太ったか?」
「えっ?」
戦闘中、夫は妻を持ち上げて飛行した時、いつもより若干の重みを感じていた。
「いやねー。体重は、ここ最近変わってないわよ」
「そう、か」
夫は、ガッチリとした胴体、脚の妻の身体をジロジロと見ている。
「なによ? 疑ってるの? そりゃぁ、50g前後の誤差はあるでしょうけど、太ってなんかいないわよ!」
「うーん。でも……今日、おまえを持ち上げた時、いつもより重く感じたんだ」
一歩も引き下がらない夫に、妻は業を煮やした。
「はい、はい。それじゃ、私が少しだけ太ったってことで、この話は終わり。いいわね?」
「そ、そーだな」
ご機嫌斜めの妻を、さらに機嫌悪くさせるのは、夫として失格だ。
もう何も言うまい。
夫は口を閉ざした。
アルセルタスは、心からゲネルセルタスを愛していた。
多少太ったとしても、妻を見限るような真似はしない。
ただ、太ったなら太ったと、正直に認めて欲しかっただけだ。
しかし、これ以上、問い詰めて夫婦喧嘩してしまっては、元も子もない。
ある日、夫は妻がいないのに気付いた。
そういえば、ここ最近、妻は黙って出掛けるのが増えていた。
餌でも探しに出掛けたのだろう。
最初はそう思っていたが、基本的に食事は夫婦揃って済ませていた。
おそらく、自分の目を盗んで、小腹を満たしていたのだろう。
案外、男性に比べて女性のほうが、食に関して貪欲な部分もある。
だからといって、妻にとやかく言う気はさらさらない。
「たまには俺も、オヤツを一緒に食べてやるとするか」
夫は巣を出ると、妻を探しに行った。
巣からかなり離れた場所で、夫は上空から妻を見付けた。
ゆっくりと近くに降り立つ。
妻は、こちらに気付きもしないで、ムシャムシャと何かを頬張っている。
もうオヤツを見付けたのか。
さすがは我が妻。
声をかけようとした時、妻の食しているものがチラリと見えた。
それに息を
妻が食べていたのは、アルセルタスの死骸だった。
妻が……ほかのアルセルタスを……食べている!?
なぜだ?
どうしてだ?
認めてしまったなら、間食で食べていたモノの正体がバレてしまう、からか?
そういえば、妻は確か……バツサンだった。
俺で……4匹目だ。
もしかして、元旦那達は……?
夫は、妻に恐怖を感じた。
そして、妻に気付かれる前に、その場を飛び去った。
巣に戻った夫は、ガクガクと全身を震わせながら、この先、一体どうすればいいのかを考えた。
そういえば、聞いたことがある。
雌が……雄を食べる種族がいるのを。
まさか、自分がその類の種族だったとは!
だとしたら、これはどうにも避けられない運命ってヤツなのか!?
愛した妻に食べられる。
雄として、これは本望なのだと……俺は、思うべきなのだろうか?
俺は……それを受け入れなければならないのか!?
夫の葛藤は続いた。
それから少しして、巣に妻が戻ってきた。
夫は腹を
「俺は……運命ってヤツを受け入れるよ。もしおまえが……生きたままの俺を食べても……」
愛する妻のためなら、この命も惜しくないと思っていた。
もう覚悟は決めている。
夫の言葉に、妻は驚きの表情を浮かべた。
そして、一つの小さなため息をついた。
「バカね。生きているあなたを食べるワケないじゃない! さっき食べていたのは、アルセルタスの死骸よ。すでに死んでいたの。雄は雌より寿命が短いのよ。雌が雄を食べるのは、私達なりの
「……そ、そうだったのか」
夫の胸の奥にあった覚悟が薄れていく。
「いやねー、あなたったら。そんな風に誤解されるのがイヤだから、あなたには隠していたのに……」
「ごめん、ごめんよ……うぅぅ。俺は本当に、おまえを愛しているんだ」
夫は、妻をひしと抱きしめた。
愛があればあるほど、旨味成分が増していく。
抱きしめられた妻が、目を怪しく輝かせたのを夫は知らない。