本当にあったとは言い切れない、それぞれの日常 シーズン4 作:JUBIA
【破天同轟】
ティガレックスは皆、幼少の頃に、教養やフィールド情勢などを学ぶ場所として「ティガっ子倶楽部」に入部するのが常識とされていた。
今日は、「ティガっ子倶楽部」第2期卒業生達の同窓会の日だ。
卒業してから早5年、立派な大人になったティガレックス達が集まった。
「よう! 元気だったか?」
「おぅっ! 老けたな、おまえ(笑」
「あら、みんな変わらず元気そうね」
ティガレックスやティガレックス亜種達が自然と集い、談笑しているかたわら、ポツンと一頭寂しく、オードブルの生肉をちびちび食べているティガレックス希少種がいた。
「あれ? アイツ、希少種のティガ・ジミーじゃね?」
「来ないと思ったけど、来たんだね」
「昔と変わらず、一匹竜ね」
「だってよ……アイツ、爆破の粉塵を撒き散らすから、うかつに近寄れねぇよな」
離れた場所にいても、自分の話題が聞こえていたティガレックス希少種は、聞こえないフリで生肉を食べ続けた。
昔からティガ仲間には、自分の撒き散らす粉塵が原因で、嫌われていたのも知っているし、慣れてもいた。
そのせいで、大人になったティガレックス希少種は、周囲に迷惑をかけないよう、モンスターっ気のない塔の頂を根城にしていた。
最初の頃は、誰にも気兼ねせず暮らせる場所で、伸び伸びと暮らしていた。
が、そのうち、誰もいない塔の頂が、少し寂しく感じられた。
そんな時だった。
同窓会の便りが届いたのは。
幼少時代は感情の起伏が激しく、粉塵をコントロールできずに辺りへ粉塵を撒き散らしていた。
大人になった今では、感情とともに粉塵もコントロールできるようになった。
昔は嫌われていたけれど、こうして皆が大人になった今、もしかしたら自分を受け入れてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、出席に○を付けて返信したのだった。
しかし、現実はそんなに甘くはなかった。
大人になった今でも、皆の態度は昔とちっとも変わっていない。
と、その時、
「遅れちゃったーっ! もう始まってる?」
一匹のティガレックス希少種(雌)が会場にやって来た。
「あっ? もしかしてティガ・ジミー君?」
慌ただしく入ってきたティガレックス希少種は、あろうことか自分に声を掛けてきた。
「あぁ。もしかして……ティガ・マリー、か?」
「そうよ! 覚えててくれたんだぁ!」
久しぶりの再会に、胸が躍る。
「あっ、ちょっと! 粉塵、漏れてるわよ」
「あぁ、ごめん、ごめん」
幼少の頃、粉塵を撒き散らす自分と違い、ティガ・マリーは粉塵を出せないモン畜無害な希少種として、ティガ仲間と楽しく遊んでいた。
長い間、誰とも会話のない生活を送っていたティガ・ジミーは、ティガ・マリーと積もる話に花を咲かせた。
それを遠くから見ていたティガレックスや、ティガレックス亜種達。
「やっべー! ティガ・マリーって、あんな美モンだったっけ?」
「俺、希少種でもアイツならイケるわ」
「爆破されてもイイッ! アイツとなら、本望だぜっ!」
幼少のティガ・マリーは、おっちょこちょいで地味なモンスターだった。
それが今では、美しくも立派なティガレックス希少種に成長を遂げている。
「俺らも話、混ぜてもらってもいいかな?」
「おいっ、ズリーぞっ! 俺もっ!」
「私もいい?」
気が付くと、ティガ・ジミーとティガ・マリーの周囲は、ティガレックスやティガレックス亜種のモンだかりができていた。
話題の中心となっていたのはティガ・マリーだったが、そのうち、ティガ・ジミーにも声が掛かった。
「ティガ・ジミー、昔は……ごめんな」
「いや、こっちこそすまなかった。いくら感情のコントロールができないからって、おまえ達に迷惑もかけたしな」
「さぁ、昔は昔っ、今は今っ! 楽しくやりましょう」
同窓会の宴は、夜遅くまで続いた。
楽しい一夜を過ごしたティガ・ジミー。
塔の頂に帰ってきたティガ・ジミーは、同窓会に出席してよかったと、心から思いながら眠りに落ちた。
そして翌朝。
この何もない、誰もいない殺風景な塔の頂から、引っ越しを決意したのだった。
【黒く蝕み墓地を染めん】
俺は、戦友とも言えるべき友を亡くした。
周りからは黒蝕竜と呼ばれ、忌み嫌われていた俺達だった。
それでも友と一緒に、時にふざけ合ったり、時には一緒に狩りに出掛けたり、それなりに平穏な日々を過ごしていた。
俺は、しばらくの間、この遺跡平原を留守にしていた。
久しぶりに第二の故郷でもある遺跡平原に戻ってきたついでに、友の墓参りに向かった。
友が葬られている場所は、遺跡平原の中でもあまりモンスターっ気のない、小さな池のほとりだ。
わずかばかりの花と手土産を持って、墓がある場所までやって来た。
墓といっても、まだ若い一本の樹木が墓標代わりになっているだけだ。
樹木の根本に、花と手土産をそっと静かに置く。
「これ、見たことないだろ? 竜仙花といって、この辺には咲いてない花だ。おまえのために、摘み取ってきたよ。肉も少しだけど置いておくから、これで腹でも満たしてくれ」
しばしの間、追悼の意を込め、手を合わせた。
「また来年……来れたら来るよ。次もまた、珍しいものを持ってくるから、楽しみにしてろよ」
久々の墓参りを済ませ、俺はその場を立ち去ろうとした。
が、エリアを出ようとした時、声を掛けてきたやつがいた。
「ちょっと待ちな!」
細い枯れ枝を集めて作ったのだろうか。
少し不格好なホウキを片手にした、年老いたケチャワチャがそこに立っていた。
「困るんだよね。お供えをするのはいいんだけどさ、供物は持ち帰ってもらわなきゃ」
は?
何言ってるんだ、コイツ。
「ワシは、ここらへんの墓守をしてるんだけどさ、皆、供物を置いて帰るから、大変なことになってんだよ。ほら、見てみな!」
俺は、さっきまでいた友の墓に振り返った。
置いてきた肉に、無数のクンチュウが群がっている。
あいつら……いつの間に!?
「分かったか? あいつらが食い散らかすから、掃除も大変なのさ。だから、供物は持ち帰ってもらう決まりなんだよ」
「す、すまなかった。そうとは……知らなかったんだ」
「知らなかったと言えば、それで済ませると思われても困るんだがね」
「あ、いや、本当に……すまなかった。すぐに片付けるよ」
「ほら、こういうことが積み重なっていくと、やれ注意書きの看板を立てなきゃならねぇ、やれ規則がどうたらこうたらって、面倒事が増えるばかりだろ?」
「……はぁ」
「みんな、ちゃんとモラルを持った行動をすれば、規則なんてものは本来、必要ないのさ」
「……はぁ」
何とも面倒な話になってきた。
「今、片付けるよ」
肉に群がるクンチュウ達を追い払おうとしたが、それでも肉に食い付いて離れないクンチュウがいた。
「早くどかないと、踏んづけるぞ!」
俺は、しぶといクンチュウを踏み付けようとした。
「そのクンチュウ達も、本当は何も悪くないのさ。ただ、食い物がそこにあるからやってきただけで、クンチュウ達だって皆、生きるのに必死なのさ」
「……」
俺は、踏んづけようと上げた足を下ろし、肉に食い付いているクンチュウを、そっと静かに離してやった。
「世の中、害虫やら害獣やらで騒ぐところもあるが、決してあいつらだけが悪いとは思わないね。きっと、なるべくしてそうなってるんだよ。何事も結果には必ず、その原因となるモノがあるのさ」
「……はぁ」
食い散らかっている肉片を片付けながら、俺は墓守の話に耳を傾けた。
「別に、おまえさんだけを責めてるワケじゃないんだ。ただ、一匹でも多くのモンスター達に、この現状やモラルってもんを教えてやりたくてね。まぁ、塵も積もればなんとやら、ってやつさ」
「……そうっすね」
俺に説教するとは正直ウザかったが、実際、墓守の言うことにも一理ある。
今まで考えたこともなかったが、こうして考えてみると、確かにそうだな、と思えてきた。
「それじゃ、俺がその教えを広めてやるよ。一匹でも多く、だろ?」
これから出会うやつらに、片っ端から説教を説いてやればいいんだろ?
ちょっとした宣教師って気分だな。
「おまえさん、話が分かるイイ男じゃないか。それじゃ、この墓守の跡継ぎは、おまえさんに決定だな! ワシも歳でなぁ、この仕事も結構キツイんだわぁ」
えっ?
俺が……墓守?
そんなつもりはまったくなかったのだが……。
まさか、そんな……無理だろ!?
「いや、こんな俺がここにいたら、みんな怖がって墓参りなんてしに来ないだろ?」
「いんやぁ、強面のおまえさんがそこにいるだけで、いろんな抑止力になるのさ。誰も悪さしたり、マナー悪く墓参りなんて、できないだろ?」
「でも……いやぁ、やっぱ……」
「ほらよっ」
墓守は、手にしていた不格好なホウキを俺に手渡してきた。
「そんじゃ早速、今日から頼むわぁ。あぁ、腰が痛えぇ」
「ちょ、おいっ!?」
元墓守は、腰をトントンと軽く叩きながら、その場からいなくなってしまった。
ホウキを手にした俺は、しばらくこの場に立ちすくんでいた。