現代異能の災禍希望(パンドラボックス)   作:RKC

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 前回のあらすじ
 パンドラボックスを襲撃する計画の前日、柄鎖が行方をくらます。二四三からの連絡によって、狼牙は柄鎖の居場所を知る。それを受けて計画を修正・前倒し。それぞれが行動を起こす。
 一方で柄鎖は姉に捕まっており、光の無い箱の中に閉じ込められていた。


41話 強行突破

 

 

「……ねぇ、僕従(ぼくじゅう)

 

「はい、はい。なんでしょう、お嬢様」

 

「あれから1時間は経つのに全く反応が無いのだけれど」

 

「えぇ、えぇ。そうですね」

 

 柄鎖(つかさ)の姉と付き人は柄鎖を閉じ込めた箱を前に、会話を繰り広げる。

 

「箱の中にマイクは入れたのかしら?」

 

 付き人がスピーカーの音量を上げる。聞こえるのは呼吸音だけ。

 

「入っていますし、壊れてもいないようですよ」

 

「じゃあなに? 柄鎖はこんな小さい箱の中で黙ったまま(うずくま)っていると。そういう事かしら」

 

「えぇ、えぇ。そのようです」

 

「……貴方が光を遮断して、閉鎖空間に閉じ込めればひどい苦痛を与えられると言ったのだけれど?」

 

「はい、はい。その通りです。

 刺激が無ければ、時間間隔が曖昧になります。1時間を1日,2日と勘違いする人も。そろそろ箱の中の二酸化炭素濃度が高くなって息苦しくなる頃ですし、普通なら泣き叫んでもおかしくないのですが。私が閉じ込められた時はションベンを漏らしましたし」

 

僕従(ぼくじゅう)、言葉遣い」

 

「失礼いたしました。私が閉じ込められた時は小水を漏らしましたし」

 

「だったらどうして、これだけ穏やかにしていられるのかしら?」

 

「ふむ。察するところ、柄鎖様はこれまで生贄として死ぬことを運命づけられて生きてこられたわけですし、メンタル強者なのではないでしょうか」

 

「……あなたの精神力が弱いだけでは無くって? こんな箱に閉じ込めた程度で人間が狂うとはとても思えないのだけど」

 

「でしたらお嬢様も入ってみるのはどうでしょう? 人を痛めつける時は、与える痛みを事前に知っておくことでイメージがしやすくなりますし」

 

「冗談、そんな面倒くさい事をどうして私が。……そうね、そこの貴方」

 

 柄鎖の姉が指差すのは、1人の男。柄鎖虐めの舞台である廃病院に諸々の機材を運んだり、姉が不快に思わない程度に掃除をする役目の1人だ。

 

「この箱に入りなさい」

 

「は、はい……」

 

 立場の低い男は姉の命令を断れない。予備の箱へと体を滑り込ませる。その直後、付き人は箱の中にマイクを放り込んだ後、蓋を閉じた。

 

「え、な、何ですかこれ!?」

 

 突然閉じ込められ、驚く男。しかし姉や付き人は何も言わず、そのまま観察を続けた。

 

「そ、その、出していただけませんか…?」

 

 初めの数分は平身低頭といった様子。

 

「…だ、出してください! ここから出してくださいよ!」

 

 次第に語気が荒くなる。

 

「…出せよ! 出せっつってんだろ!!」

 

 ついには立場の差も忘れて怒鳴り始めた。

 

「取り乱してはいるけど、全然辛そうではないじゃない?」

 

「まだ30分経っていません。ここからですよ」

 

 

 

しばらくすると、箱の中の男は叫ぶのを止める。代わりに殴打音がスピーカーから響くように。それも定期的に。

 

「……何度も何度も、馬鹿なのかしら? 力づくでどうにかならない事はとっくに分かっているでしょうに」

 

「お嬢様、これあるあるです。自分に痛みを与えているんですよ。あっ、今のは壁じゃなくて自分を殴りましたね。どうにか刺激を得ようと必死だ」

 

「暗所監禁あるあるは聞いてない」

 

 

 

「……~~~ぅうああああぁぁぁぁぁあああッ!!!」

 

 突然スピーカーから大音量が響いた。

 

「うるさいわね…」

 

「……ハッ……ハッ…ハッ、ハッ、ハァッ、ハァッ!」

 

「あ、残りの酸素に意識を向けましたね。呼吸を落ち着けようとするほど、逆に焦るんですよ。これもあるあるなんです」

 

「きぃぃいいいイイイイイッ!!」

 

「多分ここからは退屈ですよ。今まで通り過ぎた状態をランダムに繰り返すだけかと」

 

 男を閉じ込めてから約1時間。姉は付き人に顎で合図し、箱から男を引きずり出させる。男は3日間何も口にしていないのでは、というほど衰弱していた。

 

「……確かに、かなり苦痛を(ともな)うみたいね」

 

「はい、はい。それはもうこの通り」

 

「どうやら柄鎖が異常なだけ……ふん、気に食わない。いつもスカしてて、こんな所でもクール気取ってからに」

 

 姉が手を叩いて合図すると、スタッフの一人が部屋の中に入って来る。目が赤い、異能者(シンギュラリティ)だ。

 

「これ、片付けておいて」

 

「了解なのです」

 

 異能者(シンギュラリティ)の少女は命令通り、衰弱した男を担いで部屋を出て行ってしまった。

 

「……あんな異能者(シンギュラリティ)、スタッフの中にいたかしら? それに柄鎖の反乱を知らせてくれた、初対面の癖に距離感がやけに近かったあの娘に似ていたような…」

 

「えぇ、えぇ。似ているのは当然です。本人でしたし」

 

「……は? 兄や他の家に余計な事を喋られないように始末しておけ、と言わなかったかしら」

 

「はい、はい。その通り、始末しようとしましたとも。とはいえあの人、まぁ強い強い。こっちの手勢が全員無力化されました。殺されなかったんですよ、実力差凄いですよね」

 

「…どうして報告しなかったのかしら」

 

「聞かれなかったので」

 

「……」

 

 姉は天を仰いだ。

 

「……今、報告しておいた方が良いと思う事は全て私に伝えなさい」

 

「では僭越(せんえつ)ながら……。お嬢様が柄鎖様を攫ったことが絆十(はんと)様にバレたご様子です。とはいえ、ここの場所までは知られていないとは思いますが。私兵を禁断箱(パンドラボックス)の方に動かしている様子ですし」

 

「兄さんが……。始末し損ねた子が情報を漏らしたわけでは無い……。

 まぁ、なぜかこちらに敵意はないようだし、放っておきましょう。そもそも、私達でどうにかできる相手でもなさそうだし。

 それより、そろそろ柄鎖の箱の酸素も限界でしょう。出してあげなさい」

 

「はい、はい。承知しました」

 

 付き人が柄鎖の入っている箱を開けると共に、展開していた結界を消す。すると、中から柄鎖が転がり出てきた。

 

「ぅ……!」

 

 闇になれた目は瞼越しの光でも悲鳴を上げる。加えて十分な酸素が無い状態で閉じ込められていたため、頭痛も併発していた。

 地面に転がる柄鎖に、姉は二つの電極を当てる。電極は何やら大仰な装置に繋がっていた。

 

 バチン

 

「グ…ッ!!」

 

 強力な電気を流され、柄鎖がまるで蛍光灯のように一瞬光った。

 

「お目覚めかしら」

 

「……ぁ……っ……」

 

「まぁ、痺れて返事どころじゃないだろうけど。今の貴方はさしずめ、まな板の上の鯉といったところかしら。

 とはいえ、鱗が固すぎるのも困りものね。包丁が通らないせいでこっちの手段が限られる。とはいえ……」

 

 姉の声に合わせて、付き人がアタッシュケースを開けた。そこには、小さな虫篭(むしかご)が。

 

「やりようはいくらでもあるのだけれど」

 

 

 

 

 

            ♢

 

 

 

 

 

 ~ほぼ同時刻 禁断箱(パンドラボックス)施設付近~

 

 その場所は地図には載っていない。しかし、衛星写真からみればすぐにわかる。木々が密集した森の中に、ぽっかりと空いた空間。そこには、敷地を囲う塀とそれに守られる大層な施設が。

 

 塀の外、見通しの悪い森の中には雷夢(らいむ)黒子(くろこ)、他に動きやすい姿のメイド長・執事長が身を隠している。

 

「だ、だいぶ人が出入りしているようだね…」

 

「かなり防衛体制が整っているようです」

 

 黒子とリーダーの言う通り、施設には車が頻繁に出入りしている。人員を輸送しているのが明らかだった。

 

「かえって都合が良い。援軍が集まるのを待つ必要が無い。私たちの仕事は突破するだけになった」

 

「と、とはいえどうやって侵入する…? 塀は簡単に乗り越えられるけど、確か施設までは200mぐらい。室内じゃ力を生かしずらい遠距離攻撃できる素能(エレメント)を持った人員を配置してるだろうし、下手したらハチの巣に……」

 

「ハゲ、お前の出番だぞ」

 

「……ぁっ……っす…」

 

 リーダーに指名されたのはハゲというあだ名で呼ばれるスキンヘッドチビの執事長。執事長やメイド長の前ではイキり散らしていた彼だが、黒子や雷夢がいる前ではひどく大人しい。雷夢(推し)の前だからという訳ではない。単純に彼は典型的内弁慶のコミュ障だった。

 

「…その、付いて来て、下さぃ……」

 

 その様子にツインテールやリッチが必死に笑いをこらえていた。とはいえ、ハゲに連れられて各々が塀の前で身を寄せる。

 ハゲは親指でコンクリート塀に穴を開けて、中を覗き込んだ。施設の玄関がちょうど見える。

 

「3,2,1で、ぃきます…」

 

 今にも枯れそうな声でカウントダウン。

 3,2,1 そう告げられた瞬間、その場にいる全員は施設の玄関に移動していた。

 

 ハゲ。もう一つのあだ名は“ブリンク”。(またた)く間に遠間(とおま)を移動する瞬間移動(ブリンク)という素能(エレメント)の使い手。

 視界の中にしか移動出来ないという制約はないものの、精度を上げる為に塀に穴を開けた。

 

 そうして敵陣の後方に出現した雷夢、黒子の一行。近くにいた二人の兵を、一番近くに転移したリーダーとガルーが奇襲し、一瞬で倒す。先頭の雷夢はカードキーで入退室を管理する自動ドアを力づくで蹴破った。

 

 施設内に響く警報。ガラスが破れる音に外の警備が一斉に振り向くが、すでに遅い。

 

 外の警備を上手くスルーし、施設に押し入った一行。彼ら、彼女らを待ち受けるのは玄関を埋め尽くす警備員たちだった。ゾンビ映画一歩手前の密度。

 警備の内の誰かが、警報を聞いて侵入者を阻む結界を張る。

 

 しかし、これも瞬間移動によってスルーされた。とはいえ、急いでの瞬間移動だったため、距離が短い。一行が転移したのは玄関を抜けて、幅が狭くなっている通路の部分。

 前には十数人もの警備、後ろには何十人もの警備。ちょうど挟まれた形。

 

 先頭の雷夢と黒子が突出した。雷夢がまたたく間に2人に掌底を喰らわせれば、黒子が3人を切り伏せる。

 しかし相手もやられるばかりではない。玄関の警備と挟み撃ちするため、何とか時間を稼ごうとする。しかし、頑張ろうとした警備の後ろには、再び瞬間移動したガルーとツインテールが。逆に挟み撃ちにあった警備は一瞬で押しつぶされた。

 

 その間に玄関の警備が一斉に一行へと詰め寄せる。通路で人数制限があるとはいえ、その勢い鉄砲水のごとし。それを防ぐべくリーダーが結界の素能(エレメント)で壁を作り、気勢を削いだ。

 とはいえ、向こう側には人材が腐るほどいる。その中にリーダーの結界を破れる者もいたようで、結界は数秒と持たず壊された。しかし、壊された傍からリーダーが再び結界を張る。

 

 壊す、張る、壊す、張る。

 

 コンマ1秒の世界で破壊と再生が繰り返される。その間に連続の瞬間移動で異能(キュリア)をほとんど失い、戦力外となったハゲは警備に紛れて気絶したふり。通路の警備を(ほふ)ったメンバーはそのまま奥に進んでいった。

 

 この場に残った戦力はリーダーとリッチだけ。リーダーが時間を稼ぐ間に、リッチは倒れている警備兵に触れる。そして異能(エレメント)制御(インペリオ)”を発動させた。

 

 すると死体となり動くはずのない警備兵たちが一瞬痙攣。直後に起き上がり、リッチの命令にだけ従う忠実な肉人形へとなり替わった。

 

 死霊術師(リッチ)。触れた物体を自在に操る素能(エレメント)制御(インペリオ)”をもって、敵の死体を自らの戦力とする戦い方から付けられたあだ名。

 

 リッチの人形はリーダーの結界を壊している警備に襲い掛かる。その戦闘力は生前と大差ないどころか、リッチの異能(キュリア)コントロール力と戦闘センスが適用されているせいで、より強化されていた。

 

 瞬時に標的を仕留める人形たち。しかし、その際に他の警備によって2体の人形が壊されてしまう。しかし、リッチの力はここからが恐ろしい。先ほど仕留め、死んだはずの警備がいつの間にか人形化しているのだ。

 リッチは人形が持っている素能(キュリア)を消費し、制御(インペリオ)を発動することもできる。人形が人形を増やす、ゾンビの如き感染力こそが彼の力の真価。とはいえ、精密かつ同時に動かせるのは10体が限界だが。

 

「あんまり殺すな。この後のデカい(いくさ)の戦力だ」

 

「分かってるよ、リーダーの結界を壊せる奴らを始末するだけ。とはいえ、案外ぬるいね。これなら生きて帰れるかもしれない。遺書を置いてくるんじゃなかったなぁ」

 

 鉄砲水の様な警備の勢いは完全に殺されていた。

 

 

 

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