現代異能の災禍希望(パンドラボックス)   作:RKC

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 前回のあらすじ
 攫われた柄鎖が、姉にいびられる。
 一方、雷夢と黒子、メイド長・執事長5人の一行は禁断箱を襲撃していた。ハゲを酷使して戦力外に追いやりながらも玄関を突破し、リーダーとリッチの二人に後ろを任せる間、他のメンバーは奥へと進む。


42話 剣先の当主

 玄関を突破すると、しばらくは散発的に警備が見られるだけ。その程度で勢いづいた4人の侵入者を止められるはずもなく、一行は内部へと進んでいく。

 

「左、もうすぐ非常口…のはず」

 

 黒子(くろこ)が自信なさげに呟く。廊下からは少し見えづらいが、確かにドアが存在しており、緑の人のマークが上に輝いている。

 とはいえ、目標は施設の一番奥。一行は非常口を通り過ぎる。その瞬間、非常口のドアが吹っ飛び、走る一行を強襲。近くにいたガルーが飛んでくるドアを蹴飛ばして防御する。異能者(シンギュラリティ)の蹴りを二度も喰らった哀れなドアは、原型を(とど)めぬまま地面を転がる。

 

「い、行ってください…!」

 

 事前に確認した施設の見取り図が正しければ、玄関とこの非常口からしか中に侵入できないはず。玄関はすでに抑えている。最後の出入り口を防衛し、援軍を押さえる役を買って出たガルー。

 しかし、彼女の言葉通り先に進んだのは黒子と雷夢の二人だけ。残りのツインテールは足を止めて、ガルーと一緒に残る。

 

「な、なんで…?」

 

「アンタは燃費悪いんだから、1人でここを押さえ続けられないでしょ?」

 

 二人の前には数人の警備が。玄関に大勢たむろしていたのより少し服装が豪華だ。

 隊長格、なのだろうか。

 

「……それにこいつら相手にアンタじゃ役不足よ」

 

「そ、そうでしょうか…」

 

「そうよ。ったく、相手の力量を見抜けられないんだから」

 

 その言葉をきっかけにツインテールが動く。前にいる警備二人の間に突貫。自ら挟み撃ちされにいく愚行……かに見えたが、左の警備には体で、右の警備には彼女の長いロングツインテールが対応する。

 

 奥義 “赫髪(かくはつ)”。自分の髪の毛を自在に扱える能力。髪の毛の引っ張り強度は一般人の物でも鋼鉄に匹敵する。それが異能者(シンギュラリティ)の物となれば如何程(いかほど)のものか想像もつかない。

 敵の手足に絡めるも良し、敵の首を絞めるも良し。彼女の1m20cmのツインテールは3,4本目の腕となって右の警備に襲い掛かる。

 

 一本の髪束は警備の目を潰す。良く手入れされた太さ0.01ミリの髪の毛。それが無数に瞳を撫でた。

 もう一本の髪束は警備の足を捕らえる。2本の足を一括(ひとくく)りにし、自由を奪った。

 

 そして髪の毛がたった一本、警備の喉を締めた。弾力のある皮膚と肉に埋もれる細い髪の毛。それを掴み、引っ張るには人間の手は大きすぎる。

 呼吸を塞がれた警備は自らの爪で皮膚と肉を裂き、ようやく髪の毛を掴んだ。目を潰していた髪の毛も、いつの間にか無くなっている。

 

 警備が痛む目を開くと、目の前には拳。左の警備はすでに気絶させられていた。

 

 2人を制圧。残りの3人も同じように倒そうとするツインテール。髪の毛を2人に(から)め、1人を生身で対応する。

 しかし、ここで予想外の出来事。髪の毛の手ごたえが無い。確かに敵の首を絞めつけてやったはずなのに。とはいえ、1人はすでに制圧済み。残りの2人も拳でノックダウン。

 

 この戦闘でツインテールは無傷。強いて言うのであれば、髪を切られたのがダメージに入るだろうか。彼女はいつの間にか地面に落ちていた自分の髪束を拾い上げる。

 

「私の髪が切られた? どうやって……」

 

 倒れている警備の側には刃渡り5cmほどの白いナイフが。

 

「これは……骨? 骨のナイフ…」

 

 見慣れないブツだが、ツインテールの知識に一件ヒットする。

 

剣先(けんざき)だったっけ。骨の形状を変えられる奥義を新しく開発したっていう…」

 

 その時、廊下の奥から足音が。(かど)から姿を(あらわ)したのは、刃長70cmほどの骨の剣を持った警備が2人。

 

「は? (なが)。背骨でも引っこ抜いてるの、あれ…」

 

 ツインテールはナイフで切られた不揃いな髪を集め、ツインテールではなくポニーテールで結ぶ。

 

「ガルー、手伝って。あれは私じゃ役者不足」

 

「わ、わかりました……」

 

 後ろで控えていたガルーがツインテールの隣に並ぶ。警備の2人も正眼に構えて、戦闘態勢。

 

(リーチ差、キッツ)

 

 対峙して改めて分かる、剣という武器の有意性。たった70cm。しかし、その70cmがツインテールにとっては果てしなく遠くに思える。

 

(防御して……いや、血なんか流したらそれこそ継戦(けいせん)できなくなる)

 

 逡巡するツインテールの隣で、ガルーは僅かに身を沈める。次の瞬間、前に突き出される骨の刀を躱し、対面する警備の目の前に出現。反応する間もなく、ヤクザキックが警備の腹に決まった。

 

 ガルー。袋鼠(カンガルー)の略称。彼女は有効的な素能(エレメント)や奥義を一切持たない。女性ながらにして男性より高密度の筋肉を、異能(キュリア)の高速循環によって更に強化。超高水準の基礎スペックと体術で敵を倒すのが彼女の戦い方だ。オーストラリアのボディビルダーと言われる袋鼠(カンガルー)の名に相応しい脳筋スタイル。

 

 純粋な力比べであれば、彼女より優れる生物は地球上に存在しないだろう。しかし、超パワーの反面、身体能力を強化する際の疲労も大きく、すぐにガス欠するのが弱点だ

 

 剣を振る暇もなく1人を無力化。加えて、剣も奪い取っている。

 もう1人の警備がガルーに剣で切りかかった。しかし、奪った剣で相手の一太刀を力任せに弾き飛ばす。そして、ガルーにとって人生初めての上段振り下ろし。

 体術の経験を反映したそこそこの太刀筋。しかし、元の筋力が強すぎるせいで敵の受けごと潰し、警備を唐竹割(からたけわり)に。

 

「警備の人、あんまり剣に慣れてないんでしょうか…?」

 

「いや、アンタのパワーが凄すぎるだけだから。……とはいえ、確かにお粗末な感じはあったわね。付け焼刃の剣術よりかは、慣れてる素手で戦った方が強かったりして」

 

「……そんな事より、次が来てます」

 

 ガルーが非常口の方に目を向けると、暗がりの奥から手が見える。先制攻撃するべく、彼女は持っていた剣を敵目掛けて全力で放り投……その時だった。ガルーの体が大きく吹っ飛ぶ。

 パァン! 遅れて空気を切り裂く音が響く。音の発生源は非常口の向こうから。

 

 敵の攻撃が目視できない。しかし、何か飛び道具だろうと直感したツインテールは非常口から射線が通らない所に身を隠す。

 

 一方、ガルーの怪我は酷い。腹からとめどなく血が溢れている。彼女の任務は敵の侵入を時間いっぱい防ぎ続けること。しかし、この怪我ではもって1分か。

 それを察した彼女はせめて刺し違えようと、非常口に向かって走る。決死の特攻だった。

 

 

 

 

 

 少しの戦闘音の後、通路から出てきたのは数人の警備。彼らは1人を除いて全員が骨の剣を持っており、その刀身は血で汚れていた。

 

「……もう一人は?」

 

「あれ、いませんね……逃げたんでしょうか。どうします、(つるぎ)様」

 

「奥に向かうぞ。……くそっ、()ってぇ…」

 

 その時、警備の上方には天井に指を突き刺して張り付き、身を隠しているツインテールがいた。髪の毛は首に巻いて下に垂れないようにしている。

 

 会話から察するに、様付けで呼ばれてる真ん中の女がリーダーだろうか。彼女は左腕を抑えて痛がっている。袖には血が滲んでいた。その女が床に転がっている骨の剣を拾おうとする。

 

 垂涎の好機だった。首に髪の毛を巻き付け、手足に組み付けば、殺せるはず。他の警備に刺し殺されるだろうが、この不利な状況で敵のリーダーと引き換えられるならば、十分命を賭ける価値がある。

 

 ツインテールはそのまま女の上に落下し、髪の毛を首に巻き付けた。加えて背中に乗るようにして関節を()め、自由を奪う。

 完全に入った。死んでも離さない……その決意とは裏腹に、現実は非情だった。

 

 何故か髪の毛は切断されており、首が全く締まっていない。加えて、組み付いた手の指も切断されている。

 

「普通ならお前の勝ちだったんだろうが……悪いな、たまたま良い素能(エレメント)持ってて」

 

 剣先(けんざき) (つるぎ)は自分に組み付くツインテールを掴み、地面に叩きつける。取り巻きの骨の剣が、倒れる彼女を針山にした。

 

「馬鹿ッ!。血を飛ばすな……っくそ…」

 

 (つるぎ)はツインテールからダメージをほとんど貰っていないにも関わらず、フラフラと眩暈を起こしている。

 

(つるぎ)様、治療を」

 

「良い。別に出て行った血が戻るわけじゃない」

 

「しかし傷跡は…」

 

「くどい。そんなに私の事が心配なら、手を(わずら)わせるな」

 

「は、はい……」

 

 剣先(けんざき)の一行は、黒子(くろこ)雷夢(らいむ)の後を追いかけるようにして施設の奥へと進む。2つの死体を乗り越えて。

 

 

 

         ♢

 

 

 

 後ろが時間を稼ぐ間にも、侵攻を進めていた黒子と雷夢。施設の奥部は通路も狭く、警備も少ない。代わりに警備の質は上がっており、いかに強力な2人といえども侵攻の速度は遅くならざるを得ない。

 

 17人目の警備を倒した時、後ろが心配になった黒子が振り向く。彼女の目に映ったのは、こちらに腕を向ける元親友(つるぎ)の姿が。黒子の姿を見て、(つるぎ)も瞳孔を縮小させて驚く。

 

「ッ……!」

 

 (つるぎ)素能(エレメント)と新しく開発した奥義“鉄髄鏤骨(てつずいるこつ)”を知っている黒子は、今から何をされるかを予知し、咄嗟に行動した。

 隣の雷夢を押し飛ばし、その反動で自分も横に飛ぶ。素能(エレメント)の応用で全方位を知覚できる雷夢は状況を把握し、その押し出しを甘んじて受け入れた。飛び道具を警戒するような射線ズラし。

 

 しかし、結果として何も飛んでこなかった。2人を強襲しようとした(つるぎ)も、黒子が敵にいると知って、逡巡してしまったのだ。何もせぬまま、廊下の角から飛び出した体を引っ込める。

 

 攻撃が来ない事に首を傾げながらも、雷夢と黒子はひとまず射線が通らないように廊下の角を一つ曲がった。

 

「どっちが対応する?」

 

「……っ…」

 

「……お前は先に行け。後ろは私がやる」

 

 明らかに狼狽する黒子を見て、雷夢は自分が対応することに決めた。推定飛び道具持ちに突貫するのは悪手。廊下の角で待ち受けようとする。一方で、黒子はその場に留まり続けていた。

 

「どうした、早く行け」

 

「……」

 

 苦汁を飲み込む様に、苦々しい表情で喉を鳴らす黒子。しかし、一度顔を下げ、再び上げるとそこに迷いは無かった。

 

「私がやる。先に行っててくれ」

 

 雷夢はそれを聞くなり、すっ飛んでいった。

 

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