現代異能の災禍希望(パンドラボックス)   作:RKC

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 前回までのあらすじ
 施設の奥に迫る黒子と雷夢の背中に、剣先 剣が追いついた。黒子は元親友と戦うべく、雷夢を先へ行かせる。


43話 枯れた血の花

 黒子(くろこ)は手にしていた漆黒の日本刀を握り直す。刀の峰(みね)を前に向ける非殺傷の構え。

 黒子は元親友(つるぎ)と戦う腹を決めた。ただし、殺しはしない。向こうはこちらの命を狙ってくるかもしれないが、殺さない。どれだけハンデを背負おうとも、ここ一度だけは不殺を貫く。

 

 黒子は覚悟を決めて待つ。廊下の角から敵が姿を現すのを待つ。

 1秒が1分に、1分が1時間に引き伸ばされるような待ち時間。しかし、終わりは必ず訪れる。

 

 廊下の角から同時に顔を出した2人の内、1人の警備を刀の峰(みね)で叩き伏せる。もう一人に刀の間合いの内に入られるが、変則的な柄殴りで対処。しかし一撃では倒し切れず、腕を掴まれ、廊下の角へと引っ張られる黒子。もう一撃を加えれば、地面に倒れ伏した。

 そこに、残りの2人が迫りくる。黒子は刀を上に放り投げ、左からの攻撃を左手、右からの攻撃を右手で受け流した。さらにそれぞれに反撃。片手で流し、片手で返す2対1で真価を発揮する妙技。

 剣(つるぎ)以外の全員を一時的に無力化に成功。肝心要(かんじんかなめ)の最後の1人は、15m先にいた。腕を黒子に向けて突き出している。同時に上に投げていた刀が黒子の手に戻ってきた。

 

 剣(つるぎ)の素能(エレメント)“血刃(ブラッドエッジ)”は体内の血を操れる能力。主に血を高圧噴射し、敵を切断するために使っている。弱点は体外に出て行った血の分だけ貧血を起こすのと、血を体外に噴出する際、自分の体が傷つくことだろうか。

 この力と鉄髄鏤骨(てつずいるこつ)を合わせる事によって、彼女は新たな攻め手を生み出した。骨の弾丸を作り出し、腕を通る大動脈に装填。血を操り弾丸を高速射出。

 その速度は動体視力に優れる異能者(シンギュラリティ)の目をもってしても見切れない、不可視の飛び道具。その威力の代償は余りの高圧に耐えかねた大動脈の破裂と、腕の多部位裂傷。

 剣(つるぎ)はガルーに向けて一発撃っている。そのため、すでに左腕は使い物にならない。残弾は残り、右腕の一発のみ。しかし、当たれば一発で勝負が決まる威力。それを不可視の速度で飛ばせる。この状況、圧倒的に剣(つるぎ)が有利。

 

 一方で黒子は腰に刀を構える。鞘があれば見事な抜刀術を披露しそうだ。そして目を細めて剣(つるぎ)を見つめた。

 

 黒子には奥の手がある。相手の呼吸を盗むことによる敵の動作の予知。奥義や素能(エレメント)とは違う、純粋たる技術。彼女の抜群のセンスがあってこその技。

 

 しかし、初対面の敵の呼吸を盗むためには、瞬きすら許されない極限の集中力が必要とされる。それほど高難易度の技。

 

 だが、元親友(つるぎ)の呼吸は不思議と平常心のまま、一息で盗むことができた。二人の呼吸が同期する。

 

 剣(つるぎ)と心臓の鼓動(リズム)すら同期した黒子が剣を振るう。

 その直後、狙いをつけ終えた剣(つるぎ)は血液を一気に加速。大動脈に装填された骨の弾丸を一気に射出。

 

 放たれた弾丸と刀が空中でぶつかり、目が眩むほどの閃光火花。

 

 ……光が収まった。廊下に立っているのは、両腕を裂損し、満身創痍の剣(つるぎ)と無傷の黒子。諦観の表情を浮かべる剣(つるぎ)と困惑の表情を浮かべる黒子だった。

 

「ツル、なんで…」

 

 剣(つるぎ)は返事もせず、喋る暇も与えず突貫する。ズタズタに裂けた腕から血を高圧で噴射しながら、腕を振るう。当たれば肉が裂ける事間違いない威力だが、黒子は距離を取って避けた。

 噴出された血は確かに驚異的な威力を持っているが、距離による威力の減衰が激しく、20cmも離れれば、ただ血を飛ばすだけの水芸に成り下がってしまう。そこも弱点だろう。

 

「ツル! それ以上出血したら…」

 

 剣(つるぎ)は黒子の忠告を無視して、血を放出し続ける。黒子も下手をすれば自分が切り刻まれるため、止める事も出来ない。加えて背後からは、先ほど打ち倒した取り巻きが立ち上がり、襲ってきている。

 

 前に触れれば即死、後ろに捕まっても遅かれ早かれ死ぬ。黒子は貧血で動きの鈍った剣(つるぎ)に背中を向け、取り巻きに対処することに。刀で膝を打ち、剣(つるぎ)を巻き込むように後ろへ投げ飛ばした。

 

 そうして時間を稼いだ隙に、取り巻きを再び打ちすえる。残りの3人を気絶させた。

 ひとまずの安全を確保したつもり黒子だったが、振り返ればすぐ目の前に剣(つるぎ)。触れられる事こそ逃れたものの、血刃(ブラッドエッジ)の加害範囲内。

 

 黒子は歯を食いしばる。……しかし、痛みはやってこなかった。剣(つるぎ)の体から垂れた血が黒子の服にシミを作るだけ。

 

 その後、剣(つるぎ)は前のめりに倒れる。黒子はその体を思わず抱き留めた。

 腕の中の剣(つるぎ)は酷く枯れている。血を失いすぎたせいで肌のハリは失われ、実年齢より老けて見えた。

 

「なんで初段を外したんだ…?」

 

 黒子が剣(つるぎ)に問うが、カサカサの唇は動かない。

 

「肩の上、ワザと外したのはどうして…、それにどうしてこんなに血を失うまで無理を…!」

 

 積もった疑問をぶつける黒子。やはり返事はない。

 聞かれている本人は、血の足りない脳で他の事を考えていた。

 

(本当に中途半端だったな。剣先家のためにクロを裏切り、クロを助ける為に当主としての責任を放棄した、今もこうやって。

 何か、全部面倒になっちゃった…)

 

 力を振り絞って、自分の手を顔の前に持ってくる。

 

(しわしわ。もうちょっと死に方は選んだ方が良かったかも…)

 

 その時、手が濡れる感触が。黒子の涙が渇いた肌に染み込む。

 

(何で泣いて…。まだ私の事を友達だと思ってるの? この頭花畑…)

 

 掠れた視界の中に黒子の姿が目に入る。

 

(血、いっぱいかけちゃったな。感染症にならなきゃ良いけど。

 私の射撃を切るって何だよ。やっぱりバケモノだなぁ。

 というか、何で黒子と戦う事に……黒葛原(つづらはら)からの要請、なんか…無視、すりゃ……よか……っ) 

 

 ついに意識が薄くなってきた。

 

「……ぅ」

 

 掠れた声を聞いて、黒子が剣(つるぎ)の口元に耳を近づける。

 

「……クロ、ごめん。わざわざ目の前で死んじゃって…」

 

「……ぇ」

 

 突然の言葉に驚く黒子。彼女を他所(よそ)に、剣(つるぎ)の瞳孔がどんどん散大していく。

 

「い、今、クロって…!」

 

 ついには瞳から対光反射が失われた。

 

「……ツル? ツル!」

 

 黒子は48kgの肉袋に呼び掛けるが、当然返事はない。

 

「きっ、貴様…! よくも当主様を!!」

 

 感傷に浸る間もない。黒子は激昂して襲い掛かってくる敵を刀で3枚におろした。その際、死体(つるぎ)も手放してしまい、3等分の肉塊が地面に転がるのと同時に、死体も地面を転がる。

 

 遅れて黒子が膝を付いた。蹲(うずくま)り、すすり泣く。しかしそれも数十秒の事。

 

 黒子は立ち上がり、雷夢を追いかけるために施設の奥へと進む。涙は止まっていなかったが。

 

 

 

 

 

            ♢

 

 

 

 

 

 ~~ 禁断箱(パンドラボックス)突入時 廃病院にて ~~

 

「大丈夫なのです?」

 

 私は柄鎖ちゃんの姉にいびられて消耗している人を気に掛けます。あれから1時間経っており、大分正気を取り戻していました。

 彼は私があげた水を飲んで、一息つきます。

 

「ふぅ……あ、ありがとう。水の代金を返して……あれ、財布が無い?」

 

「あ、ごめんなさい。つい癖で盗んじゃってました。この水も君のお金で払っているのです」

 

 財布を返しますが、彼は何とも言えない顔を浮かべています。

 

「……そういえば君は異能者(シンギュラリティ)だろう? 見たところ高校生ぐらいだし、どうして作業服を着てこんな仕事を? どちらかと言えばあのお嬢さん側の人間じゃあないのか?」

 

「別に異能者(シンギュラリティ)だからといって、みんながお嬢様、お坊ちゃまじゃないのですよ。私はただの根無し草、かろうじて戸籍があるくらいなのです」

 

「……大変だね。それに真面目なんだ」

 

「真面目、ですか?」

 

「あぁ。その歳で不遇にも負けずに働いてるようだし……。それに悲壮感も無い。

 普通だったら将来の見通しの立たなさに、嫌になって来るものさ…」

 

「一応、仕事でここにいるわけじゃないのですが……。まぁ、私の人生はもうすぐ終わりを迎える予定なので、将来の見通しに不安はないのです。

 それに1つ大間違い。私は真面目では無いのですよ。自分の都合で友達を売るクズなのですから」

 

「……? それはどういう…」

 

 彼の言葉を遮って続けます。

 外から気配を感じる。もう時間なのです。

 

「さ、ここから離れた方が良いのです。他の作業者も連れて避難してください」

 

「え、でも、まだ待機してろって言われて……」

 

 私は渋る彼からペットボトルを奪い、軽く握ります。それだけでペットボトルは圧に耐え切れず、蓋を吹き飛ばして中身を吐き出しました。

 

「こうなりたくなければ、皆で避難した方が良いのです。命あっての物種でしょう?」

 

「あ、あぁ……」

 

 私の有無を言わさぬ思いを感じ取ったのか、彼は素直に退いてくれます。私は窓から廃病院の駐車場へと飛び降りました。そこには私が倒した警備員が数人寝ています。そんな中、見知った顔が1人だけ立っていました。

 

「久しぶり、ですかね? 1,2週間は会っていないと思うのですが」

 

 狼牙君。一番の友達と再開に自然と口角が上がります。

 

「フシみん……。ここに倒れてる奴らは、お前が?」

 

「はい。ちょっと邪魔になるので寝てもらっているのです」

 

 私が倒れている人たちを見回すが、狼牙君は私から目を逸らしません。多分、感づかれていますね。

 そうであればサプライズをする甲斐がありません。少しは驚いてくれるかと思ったのに。私は早く本題に入るため、戦闘態勢に入ります。

 

「さ、手合わせしましょう。今日は寸止め無しのフルコンタクトなのです」

 

 私が構えると狼牙君も構えました。しかし、心の整理がついていないのかやりきれないといった表情を浮かべています。

 

「フシみん……なんで、こんな……何のために!」

 

 君に殺してもらうため。

 

 1週間前、謎の追手に殺された時にふと思ったのです。死ぬなら、狼牙君の手が良いな……って。欲を言うなら腕の中で。

 不思議ですよね、死に方を選ぶつもりは無かったのですが。

 

 しかし、私を殺してくれと頼んだところで狼牙君が殺してくれるとも思えません。だからそうせざるを得ない状況に持ち込むのが一番でした。

 とはいえ、そのために柄鎖ちゃんを危険な目に合わせるのはやりすぎですかね? もう少し勉強していればもっと上手なやり方が思い浮かんだのでしょうか。

 

「ツカサちゃんは廃病院の中にいます。お姉ちゃんにいじめられていたのです。殺すつもりは無いと思うのですが、暴力には弾みがありますから……ね?」

 

 私がそう言うと、狼牙君は様々な表情を見せてくれます。

 嫌悪、怒り、躊躇(ためら)い、そして恐れ……次の瞬間には、腹を決めたようです。

 

 少しだけ羨ましい気持ちになります。やはり私より柄鎖ちゃんの方が大事なのです。だからこそ殺して貰えるのですが。……複雑な気持ちです。

 

 そう思った瞬間、顎に衝撃。視界が上を向きました。

 昔、「戦う時と場所は選ばない」などと言っておきながら、お恥ずかしい話です。センチメンタルな気持ちになって、目を伏せてしまいました。そんな隙を狼牙君が逃すわけは無いのです。

 

 私が下を向き、狼牙君を視界に捉えた時には、すでによく見た正拳の構え。限界まで引き絞られた拳が解き放たれます。

 

 

 

 正拳を受けた私は攻撃の勢いのまま、数メートル下がります。ダメージは右腕の尺骨単純骨折、橈骨(とうこつ)粉砕骨折、上腕骨解放骨折、エトセトラetc……。柳雪折無(りゅうせつむ)で受け流したにもかかわらず、この損傷。致命傷を逃れただけとは。

 

 右腕を動かそうとしますが、動くのは親指と人差し指と中指だけ。肘と一緒に尺骨神経がおしゃかになったようです。

 ハンディキャップにしては、ちょっと大きすぎるのです。とはいえ、勝つ事が目的ではないので問題ありません。

 

 

 

 ……狼牙君、私を黄泉(よみ)に送ってくれますか?

 

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