現代異能の災禍希望(パンドラボックス)   作:RKC

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 前回までのあらすじ
 捕らえられていた柄鎖は姉の隙を突いて脱出。その後、兄が立ちふさがるも、これと相打ち。そこに狼牙が到着し事なきを得たと思われたが、まだ治癒の力を持っている敵が存在している可能性が高いため、気を抜けなかった。


46話 100年越しの浦島太郎

 結果、狼牙(ろうが)が治癒の力を持った敵を捕らえるのは容易かった。吹き飛ばした柄鎖(つかさ)の兄の元へ先んじて行き、近くで気配を消して隠れていると、(くだん)の敵がのこのこと姿を現したのだ。

 そこを奇襲して敵を捕まえた狼牙は、ついでに瀕死の柄鎖の兄を引きずり、柄鎖の元へ戻って来る。

 

柄鎖(つかさ)を治癒しろ。お前らも柄鎖が生きていないと困るだろ。生贄に使えなくなるから」

 

「そ、そのまえに絆十(はんと)様を治癒させろ! 今にも死にそうだ…!」

 

 確かに柄鎖の兄はすぐにでもくたばってしまいそう。

 

「……柄鎖とそいつ、同時に治癒しろ」

 

「ど、同時には出来ない! 先に絆十(はんと)様を…!」

 

 狼牙は喋る敵の頭を掴む。

 

「なら、そいつの頭を潰して俺に嘆願しなくて済むようにしてやろうか」

 

「っ……」

 

「同時に治せ。できなければ柄鎖から先に治せ」

 

「……わ、分かった…」

 

 折れた敵が柄鎖と、柄鎖の兄に触れる。その手が僅かに光った後、二人の傷が一瞬で完治する。

 

 狼牙は敵を抑えながら、いつでも柄鎖の兄に飛び掛かれるよう準備していたが、その心配は杞憂に終わる。治癒は素能(エレメント)によって行われた。正拳でズタズタになっていた体を再生するには、患者のエネルギーを大量に消費する必要がある。

 結果、柄鎖の兄はほとんど栄養失調の病人。とても戦えるコンディションではない。とはいえ、それは柄鎖にも当てはまる事だったが。

 

 ひとまず二人とも栄養補給をする必要がある。そんな時、救急車のサイレンの音が。

 

「やっと来たか…。いや、突入前に呼んだにしてはタイミングが良いと言うべきだな」

 

 少しして、救急隊員が病院の中へ入って来る。 

 

「人が倒れていると通報を受けてきました。傷病人はどこですか!」

 

 今この場には、柄鎖・柄鎖の兄・柄鎖の姉・姉の付き人。病院の外にはコンクリートに顔が埋まっている男とフシみんの遺体。

 救急者には乗り切らないため、隊員は追加の救急車と警察を要請している。しかし警察については柄鎖の兄が権力を用いて止めさせていた。

 

「狼牙様。医療関係の人間はもともと黒葛原(つづらはら)の人間ですが、今は半分以上の人員が剣先(けんざき)に吸収されています。そして剣先(けんざき)上戸鎖(かみとくさり)は同盟関係にある。

 私達が救急車に乗るのはリスクが高いと思いますが。今も兄様が指示を出していましたし」

 

「救急車をジャックするか……それとも柄鎖(つかさ)を背負って逃げた方が良いか?」

 

 狼牙が治癒の素能(エレメント)を使う敵を抑えながら悩んでいると、彼の携帯が鳴る。

 

「悪い、柄鎖が出てくれるか」

 

 敵の拘束で手が塞がっている狼牙の代わりに、柄鎖が電話を取った。

 

「もしもし、狼牙様の代わりに柄鎖が出ています。

 …………………狼牙様」

 

 柄鎖は耳から携帯を離し、狼牙の方を見る。とはいえ、狼牙は耳が良い。通話の内容はすでに聞こえている。

 

雷夢(らいむ)様が禁断箱(パンドラボックス)を開いたそうです」

 

 

 

 

 

           ♢

 

 

 

 

 

 ~~禁断箱(パンドラボックス)施設 少し前~~

 

 雷夢は黒子(くろこ)と別れた後、施設の奥を目指していた。しかし、意外にも奥の方には警備員がほとんどいない。

 代わりに避難していた異能者(シンギュラリティ)の職員は沢山いたが、誰もが戦闘経験のない素人。雷夢の敵では無い。

 力量差は明らかだったが、それでも歯向かってくる職員たち。数だけは多いそれらを、次々と倒していく雷夢。

 

 自分より明らかに弱い雑魚(ざこ)を蹴散らす。ここまでの拮抗した戦闘と違い、なんと快適で甘美(かんび)蹂躙(じゅうりん)だろうか。

 殴る、蹴る、折る、潰す、たったそれだけ、犠牲者は良い声で鳴く。戦闘経験を積んでいる奴は痛みに強いからこうはいかない。

 

 10人程が戦闘不能に。残りは(かな)わないと(さと)り、部屋の隅で腰を抜かしている。

 

「………はハ」

 

 乾いた笑いと共に、雷夢の瞳孔が興奮で開いていく。(いかづち)家の血が、クズの系譜がこの状況に呼応して沸き立つ。腰を抜かす職員の首根っこを引っ掴み、持ち上げる。

 自由な手で職員の喉ぼとけを指で挟んだ。そのまま力を入れて挟み潰す……

 

「にゃぁ」

 

 その時、猫の鳴き声が。雷夢が聞き覚えのある声に振り返ると、いつの間にか彼女が飼い始めた猫がそこにいた。

 

「コットン」

 

 ようやく名前を付けたらしい。猫が名前を呼ばれると、雷夢の方に近寄る。彼女は職員を放り投げ、足元に寄ってきた猫を撫でる。

 

「どうやってここに来た」

 

 ここにたどり着くには雷夢が通って来た道のりを通る必要がある。しかし、異能者(シンギュラリティ)の猫といえど無事にここまで来られるのだろうか。

 

素能(エレメント)か?」

 

「にゃぁ」

 

 肯定か否定か。人間が知る(よし)はない。

 

「まぁ良い。それより、禁断箱(パンドラボックス)の解放が先だ」

 

 雷夢の瞳孔は普段の大きさに戻っていた。意識のある職員の中で一番偉そうな奴を引っ捕まえ、奥の部屋へと進む。

 そこでは制御盤やモニターが色々と並んでいる。それらの前の椅子に連れて来た職員を座らせた。

 

素能(エレメント)の発動を防いでいるガスの流入を止めろ」

 

 逆らえば自分の身がどうなるかはさっき見た通り。職員は言われるがまま、制御盤を操作した。ガスの流入を止め、換気を最大出力で回す。

 

「ガスが抜けるのにどれくらいかかる」

 

「た、多分、5分かからないかと…」

 

「そうか」

 

 雷夢は計器を見て、確かにガスが止まっていることを確認すると、制御盤を叩き壊した。そして携帯を取り出し、別行動している狼牙へと電話をかける。

 

「もしもし、狼牙様の代わりに柄鎖が出ています」

 

 電話口からは柄鎖の声。どうやら、向こうも上手くやったらしい。

 

禁断箱(パンドラボックス)のガスを止めた。一旦は決着だ」

 

 雷夢がそう言うと、しばらく電話の向こうが静かになる。

 

「…………雷夢様、ビデオ通話でそちらの様子を映していただけませんか?」

 

 雷夢は言われた通り、ビデオ通話に切り替えて制御室の風景を映した。こっそり逃げようとしていた職員を引っ掴み、二人並んで自撮り風に映る。

 すると、再び電話に向こうが静かに。しばらくして柄鎖の代わりに狼牙が出る。

 

「ガスを止めて、何か変化はあったか?」

 

「まだない。ガスが抜けるのに5分かかるらしい」

 

「……ガスが抜ければ、中の奴が出てくるのか」

 

「かもしれない。中の奴は100年箱の中にいた。ガスが抜けたとしてもすぐに外に出てくるとは限らないがな」

 

「……ガスの装置そのものを壊した方が確実か?」

 

「制御盤はすでに壊した。装置の方にも今から向かう。お前も戦闘可能なら今すぐこっちに来て――」

 

 その瞬間、雷夢の全方位センサーに突如何かが引っ掛かる。携帯を手放し、後ろにいる正体不明の物体に肘鉄。しかし、手のひらで受け止められる。そのまま無勁(むけい)で弾き、膝蹴りを推定敵の腹に叩き込んだ。

 

「ぇぐッ」

 

 膝がモロに入る。突如現れた“そいつ”は数歩よろめいた。とはいえ、次の瞬間には攻撃など喰らわなかったかのように、無傷で立っていた。“そいつ”は雷夢が手放したスマートフォンを手にし、それをまじまじと見ている。

 

「……これ何だろ? なんか別の場所の景色が映ってる。

 あ、真っ暗になった。ボタン押したからか? ……とりあえず返す」

 

 “そいつ”はスリープモードのスマホを雷夢に放り投げる。

 雷夢と同じ薄い紫の長髪、身長は170cm程度、何より全裸。股間には棒と玉が二つぶら下がっていた。

 

「……女性の前で全裸は良くないか」

 

 その男は部屋に居る職員を引っ掴み、その服を瞬く間に()いだ。剥ぎ取った衣服をそのまま装着。男と職員の背丈が同じぐらいだったので、それなりにフィットしている。

 裸にされた職員は恨みがましい目で男を見つめるが、意にも介さない。

 

「お風呂とかって近くにある? 仮死状態とはいえ、長いこと閉じこもってたから流石に(あか)(かゆ)い……」

 

 ぐしぐしと服越しに体を()く男。雷夢は少し考えた後、手招きする。

 

「……近くにある。ついてこい」

 

 先行する雷夢に男は大人しくついていく。二人は道を引き返す道中、黒子とすれ違う。

 

「え、あれ、その人は……」

 

禁断箱(パンドラボックス)の中にいた奴だ」

 

「一応、ブイブイいわせてるν(ニュー)のリーダーをやってる……やってた、になるのか? ν(ニュー)って今もある?

 今って大正何年? ……いや、そもそも大正? そんなに天皇長生きじゃないよね」

 

「ν(ニュー)はすでになくなった。今は令和4年、西暦で言えば2022年」

 

「2022年!? ……すごいな、100年も経ってるのか。……それより、そっちの君」

 

 男は戸惑う黒子の方を見つめる。

 

「涙の痕があるけど、何か悲しい事でもあった?」

 

 言葉自体は黒子を心配しているように聞こえるが、男の顔には面白いものを見つけた、というニュアンスの笑みが浮かんでいる。

 

「いや……別に……」

 

「そんなはずは無い。何か深く心が傷つく事があったはず。

 ……血が付いてるけど、怪我したってわけじゃなさそう。返り血、ってことは近しい人が殺されたか……近しい人を殺した、とか?」

 

 黒子の体が震える。男はそれを見逃さなかった。

 

「近しい人とはどんな関係だった? 思い出話とかがあれば聞かせて欲しいな。後は、どんな状況で殺した? 与えた致命傷は……」

 

 黒子の方へ少しずつ近寄る男。そして、彼女の射程範囲に入る。

 

 逆夢(マニフェス)で刀を手に顕現。異能者ですら瞬く間も無い斬撃。それは男の首を捉え、頸骨の隙間を通り、首を完全に切断した。

 ……はずだったのだが、男はピンピンしている。首から血が一滴垂れた程度。男は黒子から距離を取り、射程範囲外へと逃げた。

 

「やっぱり治癒の力があると油断しやすくなる……。100年の空白もあるかもしれないけど」

 

 高速かつ正確無比な斬撃。それはあまりにも綺麗に細胞を切断するが故に、治癒するのは容易。ズタズタに傷つけられる方が治癒には苦労する。

 

「それより異能者(シンギュラリティ)の体を切断できる刀。……浦島太郎の僕には知らない事が色々出てくる」

 

 男は黒子を前に、常に一定以上の距離を保っていた。隙の無い男に、黒子も踏み込みあぐねている。

 

「止めろ」

 

「けど……!」

 

「いいから止めろ。そいつは風呂に入りたいらしい。玄関の方にまで連れて行く」

 

「……そういう事なら、分かった」

 

 雷夢の言葉を聞き、黒子は構えを解く。とはいえ刀は握ったままだが。

 

「そっちのは話が分かる。なんとなく気が合う気がするな。僕と髪色も一緒だし。名前は?」

 

(いかづち) 雷夢(らいむ)

 

「奇遇。俺も苗字は(いかづち)。親戚さんだったんだ」

 

「……」

 

「いや、100年経ってるから親戚というよりは……子孫? でも僕の子供ってわけじゃないし……」

 

 男がぶつぶつと呟く間に、(つるぎ)の遺体が残っている場所まで戻って来た。

 思わず体を硬直させ、目を逸らす黒子。その様子を見て男は話を変える。

 

「あぁ、これか。君が殺したのは」

 

 男は遺体を蹴り飛ばそうと足を振りかぶる。その動きを視界の端に捉えた黒子は、一瞬で戦闘モードに。男は直前で思いとどまった。

 

「寝起きで(だる)いし、君と事を構えるつもりはないんだ。ただ人を(けな)すのが癖で。

 (さが)でね。虐めて、(もてあそ)んで、(とが)めるのが。そうやって好き勝手してたら、いつの間にか荒くれ者の頭目だ」

 

「……道理だな」

 

 最後に雷夢が呟いてから廊下の角を一つ曲がると、玄関付近で敵を抑えているはずのリーダーとリッチの背中が見えてくる。どうやらここまで押し込まれたようだ。

 リーダーが張っている結界の向こう側には相変わらず大量の警備員が。

 

「……お祭り?」

 

 封印から脱出したばかりの男が首を傾げたのも無理ないだろう。

 

「雷夢様、そいつは?」

 

 リーダーは結界を張り替えながら問いかける。

 

禁断箱(パンドラボックス)に封印されていた奴だ」

 

 “そうだよな?”と言いたげな顔で雷夢が男に視線を送る。

 

「まぁ、そうだね。それよりお風呂は……」

 

 男が自分を禁断箱(パンドラボックス)から出てきたν(ニュー)のリーダーだと認めた瞬間。雷夢は男の頭を掴み、床に叩きつけた。

 

「だ、そうだ」

 

 そのまま床を擦るように男を引きずり、警備員の大群の方に放り投げる。リーダーは雷夢の意図を汲んで、結界を解除していた。

 

「お前らの目的は今変わった。こいつを壊せ」

 

 雷夢が警備員たちに発破をかける。一方、放り投げられた男は放物線を描きながら、警備員の海へとダイブを余儀なくさせられていた。

 

「……やっぱり、寝起きで頭回ってないな…」

 

 男は自嘲気味に呟いた。

 

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