現代異能の災禍希望(パンドラボックス)   作:RKC

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 前回までのあらすじ
 禁断箱が開かれ、中から出てきたのは100年も昔に悪行の限りを尽くしていた“男”。しかし、すぐに暴れるような真似はしなかった。とはいえ雷夢が発端となり、彼女らのグループの他、100人を超える警備員との乱闘に発展する。


47話 浦島太郎の実力

 雷夢によって警備員の海に放り投げられた“男”。空中で体勢を整え、着地地点にいる警備員の肩に乗る。肩車の体勢から、土台の警備員の顔に手を掛け、一切の躊躇なく目を潰した。

 

「うぐぁあッ!!」

 

 男は警備員の叫び声を聞いて口元を緩める。土台の警備員は視力を奪われながらも男を掴み、地面へ叩きつけようとする。

 しかし巧妙に警備員の手から逃れた男は、ふわりと地面に着地。周りには、警備員、警備員、警備員。男の周りに50cmの空間を残し、後は全てが警備員だ。

 

「飛んできやがった! 殺せ!!」

 

 にわかに殺気立つ。

 四方からの同時攻撃。とはいえ、完璧な連携では無い。男はわずかなタイミングのズレを利用して、順番に対処していく。

 

 前、上段前蹴り。後ろ、上段刻み突き。これを右に避けて対処。

 右、足を狙ったローキック。相手の蹴り足の太ももを蹴りあげて対処。

 左、前と後ろの上段前蹴りと上段刻み突きに阻まれて攻撃が届かない。

 

 再び四方からの攻撃。男が対処。

 再度四方からの攻撃。男が対処。

 

 無限に繰り返される神業。

 

 練度の低い警備員たちではこの男を傷つけること叶わない。四方では駄目。もっと多方面から攻めなければ。

 

 まず、雷夢(らいむ)が飛び出した。次いで黒子(くろこ)。彼女らは天井に指を突き刺し、空中から男に蹴りを仕掛ける。五方、六方目からの攻め手。どんな達人でも物理的に対処しきれないフォーメーション。

 

 かくして、男へのファーストヒットが入った。警備員のローキックが決まる。体勢を僅かに崩す男。そこへ、群衆が群がった。

 

 男の髪を掴む手。男の腕を掴む手。男の顔を殴る手。男を押し倒す手。

 男を踏みつける足。男の顔を蹴る足。

 

 良いのが入った。男の首が曲がってはいけない方向に折れる。

 しかし、なおも群衆のリンチは止まない。死体相手に、気の済むまま技を繰り出し続ける。技は次第に暴行へ。洗練さを失ったただの暴力へと成り下がっていく。

 

 その隙を“男”は見逃さなかった。首が折れたまま雑な踏みつけ攻撃を腕で絡めとる。そのまま警備員の足を巻き込み、転倒させた。

 死んだはずの人間が動くという異常事態に場は浮き足立つ。その隙を突いて男は立ち上がり、雷夢や黒子がそうしているように、天井へと指を突き立てた。

 

「流石に分が悪い。外でやろうよ」

 

 その言葉を境に、男の姿が消える。瞬間移動の素能(エレメント)を使って、外に逃げたのだろうか。警備員の大半も男を追って外へと駆けだしていく。

 

「あれが不死の素能(エレメント)……死なない力」

 

 話には聞いていたが、いざ目撃すると驚かざるを得ない。黒子が天井にぶら下がりながら目を丸くしていると、下から手が伸びてくる。彼女はそれを蹴とばして、地面へと着地した。雷夢も同様に地に足付ける。

 

「敵を間違えるな。あの男を狙え」

 

「敵はお前らだ! あの男だってお前らの仲間なんじゃねぇのか!?」

 

「違う、あの男は禁断箱(パンドラボックス)から出てきた奴だ。男の口からそう聞いたはず。

 そうなった以上、私達を止めることに意味は無い。今はあの男を壊す方が先だ」

 

「んなモン聞こえるかよ! でまかせ言うんじゃねぇ! 」

 

 警備員はそのまま殴りかかって来るが、雷夢は相手の腕を取り、ねじりあげる。そうして拘束した警備員の喉元に、黒子が刀を突きつける。

 

「全員落ち着いて私達の話を聞いて欲しい。無駄に喋ると、こいつを刺す」

 

 人質を取った状態で黒子が警備員に呼び掛けるが、構わずすぐにでも飛び掛かってきそうだ。

 

「全員が聞けていなくとも、これだけいればあの男が禁断箱(パンドラボックス)から出てきたという自供を聞いた人間がいるはずだよ」

 

 そう呼び掛けると、1人がおずおずと手を上げる。それに呼応して2人、3人と手が上がっていく。

 

「分かっただろう、今の敵は私達じゃない。封印が解けた以上、あの男を殺す事が最優先のはずだ。このまま放っておけば100年前の悲劇の再来になる」

 

「封印解いた奴が言うな…ぅぐっ!」

 

 雷夢に捕まっている警備員が余計な茶々を挟む。雷夢が締め付けを強くして黙らせた。

 

「あの男を封印するために人が1人、生贄(いけにえ)として死ぬ。私達はその間違いを止めに来ただけだ」

 

「1人殺させないために複数人殺すのか!?」

 

「お前らは戦士だろう。死を覚悟してこの場に立っているはずだ。生まれた瞬間に死ぬことを義務付けられた子供と同類に(くく)るのか? それこそ散った仲間に失礼だろう」

 

「………!」

 

 顔を真っ赤にして歯ぎしりをする血の気の多い警備員たち。とはいえ、反論は無い。それを良い事に雷夢は続ける。

 

「生贄として死ぬのは一人じゃない。もうすでに数人が犠牲になっている。見たことがあるか? 体を切り裂かれ、生体機械に改造され、素能(エレメント)を垂れ流すだけの生贄を。まともな人間としての尊厳すら保てず、生きる(しかばね)として晒し物にされている犠牲者を」

 

 雷夢が警備員を見渡す。生贄の惨状を聞いた警備員たちは雷夢と目が合うたび、気まずそうに目を逸らす。

 

「それも全ては過去の人間達が怯えを胸に、保身に走り続けたせいだ。私達はその負の連鎖を断ち切りに来た。事が終われば煮るなり焼くなりしてくれて構わない。

 だが、今ここ。ここだけは協力してくれ。お前たちは昔の臆病者とは違うはずだ。誇りを胸に、世界を脅かしたと伝え聞く災厄に立ち向かってくれ…」

 

 雷夢が頭を下げると、しばらく場は静まり返った。

 足音がする。1人、また1人と施設の外へと向かっているのだ。

 そのまま外に出て行った“男”を追うように人が流れていく。しかし、1人の警備員が雷夢の肩に手を置いた。

 

「どんな理由があろうと、お前らのせいで俺の友人が死んだ」

 

 警備員の手には力が入り、ぎりぎりと雷夢の肩を(きし)ませる。

 

「……だから、あの男を潰した後はお前らの番だ」

 

 そう言って、警備員は雷夢から手を離し、走って行ってしまった。

 

 

 

 この場に残されたのは、雷夢達だけ。

 

「バカが多くて助かる」

 

 雷夢は先ほど強く掴まれた肩を回し、(ほぐ)す。先ほどの演説から一転、その様子を見て黒子は閉口。リッチは“まぁそうだよな”という目、リーダーは噓八百の演説で大量の人間を死地に送ったあくどさに目を輝かせていた。

 

「それであの男、どうしますか? 死なないってのはどうにも厄介ですよ」

 

 リーダーが皆に呼び掛けるとリッチは首を捻る。

 

「確かにそうだよね。死んでも良いとなると自爆特攻も視野に入れないといけないし。そもそも何回殺せば死に切るのやら……」

 

「……その前に、どうしてあの男は治癒の素能(エレメント)を持っている? 死んでも生き返るなら必要ないはずだ」

 

 雷夢の疑問は(もっと)も。男は黒子に首を切られた時、不死の素能(エレメント)ではなく治癒の(エレメント)で対処していた。

 その疑問には黒子が答える。

 

「多分、生き返るだけで傷が全部治るわけではないんだと思う。

 さっき男が生き返った時、頬に(あざ)が残っていた。警備員の集団に捕まった時、初めて受けた傷。それが残っていたってことは、死ぬ寸前に受けた傷しか治せないんじゃないかな……」

 

「んー……例えば、腕を骨折した後に首を折られて死んだら、首は治るけど腕の骨折は治らない感じ?」

 

 リッチの合いの手に黒子が更に補足する。

 

「うん、そんな感じ。さっきの感じかららして、多分死ぬ10秒前までの傷しか治らない……かな。だから、治癒の素能(エレメント)も持っているんだと思う」

 

「なら、殺すより怪我させる方が良さそうだね。あくまで言い伝えだけど、あの男は本当に不死と勘違いするほど蘇るらしい。相当な異能(キュリア)量だと考えられる。

 だったら怪我を治癒させて、体のカロリーを枯渇させる方が速いんじゃないかな」

 

「うん、出来るだけ治りにくい怪我。

 皮下組織を大きく傷つける打撲、粉砕骨折、裂傷……」

 

 黒子は言いながら、手にした刀の刃先を(ノコギリ)のように変化させる。

 戦いの相談を進める流れに待ったをかけるのはリーダー。

 

「少し良いでしょうか。そもそも瞬間移動が出来る敵を仕留めるのは難しいと思います。劣勢になれば逃げれば良いのですから。もっと早く気付くべきでした。

 私とリッチはさっきの戦闘で異能(キュリア)が底をついているため、戦闘では役に立ちません。追跡と探査が出来る人材と追加の戦闘要員を引っ張ってきても良いでしょうか。ここにくるまでかなり時間がかかると思いますが…」

 

「……そうしろ」

 

「仰せのままに」

 

 許可を取ったリーダーはすぐに動かせそうな人員をこちらに寄こすため、真っ先に電話をかける。

 

「ほらハゲ。一旦家の方に戻るからなけなしの異能(キュリア)絞って瞬間移動しろ。この施設の外に出るだけで良いから」

 

 一方でリッチは死んだふりをしていたハゲを引き起こし、隊をそろえる為に本拠地に戻ろうと準備を整える。

 

 執事たちを背に、雷夢と黒子は外へと駆けだした。

 

 

 

         ♢

 

 

 

 2人が施設の外に出て、すぐに目に入ってきたのは地面に転がっている警備員たち。3割ほどが倒れ伏している。残りの警備員は群れを成して、まるで台風のようにある一点を囲っている。

 台風の目には“あの男”がいた。前後左右から襲い掛かって来る警備員をキレのある動きで(さば)いている。寝起きよりも戦いの勘を取り戻しているのが見て取れた。

 

 室内よりも人の密度が下がり、動きの自由さを獲得した男は一か所に留まることなく、警備員の数を減らしていく。

 しかし、警備員もただやられるばかりではない。(たば)になっても叶わないと悟り、技をいい加減に振るように。狙って振るわれた攻撃を(さば)くのは容易(たやす)くとも、無造作に飛んでくる攻撃を(さば)くのは達人といえど確実ではない。

 

 誰にも当たらない場所で振られた蹴り。他の警備員の攻撃を避けた男に直撃。

 動かず立っているかと思えば、突然のダブルラリアット。それを避けるのには成功した男だが、別の警備員の掌底を喰らってしまう。

 

 警備員が倒れるごとに、男の(あざ)も増えていく。そして増えた痣が増えすぎれば、男が治癒する。

 

 そんな消耗戦を打破する変化が。雷夢が隙を突いて男の懐に飛び込んだ。

 隻眼(せきがん)に産まれたからこそ完成させられた超密着距離を得意とする戦闘スタイル。それは男にとっても過去に体験した事のない比類なき技。いかんせん対応が遅れる。

 

 雷夢は無理をしない。出来るだけ自分の手の内を見せないように、しかし男の動きを縛るように戦う。そうして周りの警備員に殴らせるのだ。

 男がグーを出せないよう縛る。すると周りの警備員がグーとチョキを出す。

 男がパーを出せないよう縛る。すると周りの警備員がパーとグーを出す。

 

 数の有利を存分に生かされ、永遠と不利を押し付けられる男。しかし、男は一切慌てない。彼が数多の打撲を負い、その代わりに得たものは雷夢への対策法。

 

 徐々に、次第に、雷夢の技が通用しなくなってくる。

 まだまだ技の引き出しはあるが、このままではジリ貧か――

 

 そう感じた雷夢は今持っている全てを使うことに。

 至近距離での裏拳。手首から先を鞭のようにしならせ、男の目を潰すように当てる。男の視界を奪った一瞬にワンツーの連携。

 “ワン”は寸勁(すんけい)無勁(むけい)の合わせ技、二連掌(にれんしょう)

 “ツー”は狼牙から習った正拳。インパクトの瞬間に無勁を合わせるのも忘れない。

 

 刹那に最大火力を叩き込まれた男は数歩よろめく。内臓という内臓が破裂しているが、周りの警備員が襲い掛かって来る頃には全ての傷を治癒していた。

 

「やっぱりどの時代にも強い奴はいるんだね。初見じゃ流石に対応できなかった」

 

 雷夢がもう一度男に接近しようとする。しかし、男はそれだけはさせない。雷夢と自分との間に警備員を挟むようにして戦い続ける。

 

「というか、二回目でも怪しそうだからもう近づけたくない。後で相手するよ」

 

 雷夢を常に意識して戦っているため、警備員からの打撃を喰らう事が増えたが、それでも雷夢だけは近づけないように戦う男。

 

 男が戦い方を変えれば、雷夢も戦い方を変える。

 近付くのは難しいと察し、自分を(おとり)に。そうして、黒子がいる方に追い込む。もう一人の猛者(もさ)の存在を知らない男は、脇から伸びてきた刀に反応しきれない。

 

 他にも警備員がいる状態で刀を振るうと周りを巻き込んでしまう。そのため、黒子は突きを繰り出し、突きを引き戻す際に(のこぎり)状に変化させた刃で男の服と肉を削り取った。

 

 一度削っては身を隠し、隙を突いて再び刀を伸ばす。警備員の隙間を縫ってのヒット&アウェイ。男に影も踏ませず、ザクザクと削っていく。

 傷は治癒していくが、その消耗は激しいはず。

 このままでは削り殺されると慌てたのか、男は無理やり黒子を捕まえようと動く。しかし、黒子は捕まりそうで捕まらない位置取りを心がけ、ギリギリで(かわ)す。

 そんな男の隙を雷夢は見逃さない。男が再び雷夢に意識を戻した時、すでに彼女は0歩の距離に。

 

「ちか……いッ!」

 

 自分を捕まえようと伸びてくる雷夢の手を2回弾き、最後の突進を大きく回転して受け流した。

 

「自分でもビックリ。たまにあるよね、何かすごい上手に出来る時」

 

 そのまま男は目を付けていた警備員の1人を捕まえる。戦いの中で攻撃した際、素能(エレメント)で体を硬化させていた警備員。彼の鳩尾(みぞおち)に1本拳。

 指1本という僅かな面積に拳の威力を全て乗せられ、胃を撃たれた警備員は硬化したとはいえども悶絶。

 

「硬化の力、貰うよ」

 

 男は警備員を捕まえたまま、生来の素能(エレメント)を発動させた。

 

 強奪(バーグラ)。他人の素能(エレメント)を奪い、4つまでストックできる。5つ目の素能(エレメント)を奪った場合、ストックしている素能(エレメント)を1つ捨てる必要がある。

 奪った素能(エレメント)は自由に使えるが、練度は初級者のまま。そして奪うためには5秒間対象者に触れる必要がある。

 

 5秒。普通の人にとってはすぐだが、異能者(シンギュラリティ)にとっては悠久(ゆうきゅう)にも感じられる時。

 

 1秒。本能的に今が危険な状態という事を察した雷夢が突っ込む。

 2秒。片手を使えない男が雷夢の攻撃を、急所を外しながら受け続ける。周りの警備員も男を囲んで攻撃し続ける。

 3秒。警備員が邪魔で近寄るのが遅れた黒子がようやく攻撃に参加。無限に傷を負い続ける男。5秒なら死んでも傷を治して生き返れると強引だ。

 4秒。雷夢が拘束されている警備員に正拳を放つ。素能(エレメント)を奪う前に死なれてはたまらない。男が警備員をかばう。

 5秒。時が満ちた。

 

 瀕死の体を一気に治癒し、奪った素能(エレメント)――硬化の力を発動させる。

 

 ギャリギャリギャリ!

 

 脇から伸びてきた黒子の刀と硬化された皮膚が擦れ、嫌な金属音が鳴り響く。これで黒子の対策は完了。男は用済みの警備員を振り回し、周りの敵を遠ざける。

 

 再び仕切り直しの間合い。警備員はすでに10人ほどまでに減っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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