現代異能の災禍希望(パンドラボックス)   作:RKC

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50話 彼岸と此岸

「でしゃばるのは違うかなと思っていたのですけど」

 

 死体の口が動く。紛れも無く狼牙の声。しかし、その口調はいつもと違う。

 

「“生き返れば”、なんて前振りされちゃうと期待にお答えしないとですよね」

 

 狼牙の体が幽鬼のようにぬらりと立ち上がる。その目は真紅に染まっており、下瞼(したまぶた)から赤が垂れ落ちている。瞳孔は真黒(まっくろ)の渦巻き。

 その特徴的な目は、まさしくフシみんの物。

 

「んー……、男の子の体はやっぱりちょっと勝手が違いますね。股関節の可動域が……。

 あ、それより、もうちょっと異能(キュリア)を引き出しておいた方が戦いやすいのです。よいしょ…っと」

 

 次に折れたままの肋骨に手を当て、グリグリと乱暴に動かす。それは異臓を更に傷つけ、ため込んでいた異能(キュリア)大量に吐き出させた。

 

「というか本人に出てきてもらった方が早いのです。おきてくださーい、狼牙君。まだ死んでいないのですよ~」

 

 かと思えば、頭をゴツゴツと手で叩く始末。すると渦巻きの瞳が、片方だけ元の虹彩に戻った。

 

「……な、んだよ、フシみん…? いや、お前、死んだはずじゃ…というかどこにいるんだ…?」

 

「細かい事はどうでも良いのです。そんなことより大事なことがあるんじゃないのですか?」

 

「……そうだ。あいつを倒さないと…」

 

「そうそう、その意気なのです」

 

 男は困惑していた。内容だけ聞けば会話だが、実際には狼牙が1人で寸劇をしているようにしか見えない。とはいえ男は拳を握り、構える。

 

「まぁ、何か良くわからないけど、とにかく第3ラウンドなのかな」

 

 仕掛けたのは男の方から。狼牙の体より少しだけ長いリーチを生かして、ギリギリの間合いから拳を繰り出す。狼牙の体はその攻撃をギリギリで躱し、腕の戻りに合わせて踏み込んだ。

 それを男のフックが迎撃する。しかし、男の腕を狼牙の手が掴み、柳雪折無(りゅうせつむ)を発動。受け流し、残った片腕が正拳の構えに移行する。

 

 男もそれを見て、正拳を躱(かわ)すべく体を屈めようとする。しかし、躱(かわ)そうという意識に反して、なぜか男の顔が狼牙の体の正拳の射線上に動いた。まるで引き寄せられるように。柳雪折無(りゅうせつむ)の応用。

 

 男の困惑した顔が正拳で吹き飛んだ。しかし、吹き飛ばしの勢いは急激に向きを変え、男は地面に叩きつけられた。まるでクレーン車が思い切り鉄球を打ち付けたような跡が地面に刻まれる。男は蘇生を余儀なくされた。

 

 地面に伏す男への追撃は、もう一度正拳。大地が揺れる。男は再び蘇生を余儀なくされる。

 

 二度の正拳の衝撃により、狼牙の体は男の腕を手放してしまう。その隙に、男は瞬間移動で一時離脱した。

 

「あはっ! 凄いのです、この体。肉体のスペックはともかく、頭の方はビックリするほど明晰。2人の人間の意識を並列起動させながら、高いレベルで結合。戦闘までこなせるなんて。これが死に臨み、応戦する人の底力なのですね……」

 

 基本的に狼牙が体を動かし、フシみんが異能(キュリア)の流れを調整。特に柳雪折無(りゅうせつむ)などのフシみん由来の奥義は、彼女本体が使っていた時より高精度。無駄口を叩く余裕まである。

 

(とはいえ、このままじゃキリがないぞ。アイツが何回蘇るか分からない)

 

(そうですねぇ……したためておいた新奥義があるんですけど、それでどうにかしますか? 構想段階でしたが、この体ならぶっつけ本番でもやれる気がするのです)

 

(……それなら、何とかなるかもな。けどアイツの動きをどう止める。転移されたら当たらないぞ。触れていれば転移できないみたいだが、向こうも捕まらないよう注意するだろうし…)

 

(それは狼牙君の模倣でどうにかできるでしょう?)

 

(……分かった。任せろ)

 

 この間、僅か0.001秒。脳内で会議を終えた瞬間、フシみんは右腕に異能(キュリア)を溜め始める。狼牙は骨格を四足歩行用に変化させ、再び突進を狙う。

 

 1度は男に躱(かわ)された狼牙の突進。今回もやはり男に避けられた。男のカウンターが、殺人的な勢いのついた狼牙に叩きこまれる……かと思われたが、急激に突進の方向が変わる。

 左腕を軸に回転。柳雪折無(りゅうせつむ)の応用。自分自身の力の向きすら変化させる妙技。

 男のカウンターは空を切り、代わりに狼牙の掌底が男の胸に刺さる。その一撃は男の心臓と異臓の動きを一瞬止めた。

 

 その隙に狼牙は構える。腰を落とし右腕を引く。左腕を相手の腹に据(す)え、狙いを定める。

 構えの隙にフシみんは右腕に集めた異能(キュリア)を操る。腕の中で高速回転。

 

「…シッ!」

 

 鋭く吐かれた息とともに、正拳が男の腹を貫いた。それは男の内臓を破壊しつくし、男の体内の異能(キュリア)を根こそぎ吹き飛ばす。

 

 自分の異能(キュリア)を高速で相手の体に注入することで、相手の異能(キュリア)ごと体外に吹き飛ばす奥義。

 

「名前は……螺旋風波(らせんふうは)、とかで良いですかね?」

 

 男が倒れる。

  ――動かない。

 生き返る気配も無い。

 

 男が完全に息絶えたのを確認して、狼牙が尻もちをついた。

 決着。しかし狼牙はどこか自分の勝利を信じられないのか、何度も男の脈をとる。

 

「……勝つ時は、あっという間だったな」

 

「実践はそんなものですよ。今回がレアケースなだけなのです」

 

 気が抜けたのか、尻や膝どころか全身を地面につける狼牙。

 

「何だ、力…が…」

 

 いや、抜けたのは気でなく“力”。再び立ち上がろうとするが、膝立ちが限界。

 その時、正常だった片目がぐるりと渦を巻く。

 

「気絶しちゃった……というと語弊がありそうですが。とにかく狼牙君の意識は寝ちゃったみたいですね。

 安心したのもそうでしょうが、実際に体もヤバい状態ですし。さっきの一発で異能(キュリア)を使いすぎて、蘇生を維持する異能(キュリア)がほとんどありません」

 

 残ったフシみんは狼牙の体を操り、胸に手を当てる。

 

「まぁ、死にはしないと思うのですが…」

 

 そのまま10秒ほど集中し、蘇生を定着させる。異能(キュリア)の消費が止まると同時に、フシみんも意識を失った。

 

 

 

 

 

          ♢

 

 

 

 

 

 ここは何処(どこ)だ?

 

 狼牙が目を覚ました時、真っ先に抱いた感想。

 

 手を伸ばせば指が見えない程の濃い靄(もや)。尋常ならざる環境に、不安を覚える狼牙。

 しかし、音は聞こえる。水が流れる音。一歩(いっぽ)歩けば、石が擦れる音。

 

 河原にでもいるのだろうか。狼牙がそう推測すると、視界が段々と明瞭に。

 ――やはり河原。川がすぐそこにある。

 

 どうしてこんな所にいるのか。狼牙が疑問におもいながら川沿いを歩いていると、新しい音が聞こえてきた。

 

 こと…

 

 石を積む音。音のする方にはフシみんが。学園でいつも見るベージュのブレザー姿。狼牙も先ほどまでの服装では無く、学校でいつも着ている黒のズボンとカッターシャツ姿だった。

 

「……あれ? 狼牙君もここに来たんですね」

 

 フシみんは14段目の石を詰みながら、呑気に呟く。

 

「フシみん、か? ……なぁ、ここはどこなんだ? なんで俺たちはここにいるんだ?」

 

「三途の河原」

 

 何か知っている様子のフシみんから帰って来たのは、到底受け入れがたい返答。

 

「……何だって?」

 

「三途の河原。といっても私が勝手にそう呼んでいるだけですけど。私達は一度死んだからここにきているのですよ」

 

 “何処(どこ)”、だけでなく“何故(なぜ)”にもフシみんが答えてくれる。しかし、狼牙は要領を得ない。

 

「死んだ……って、男に殺された時の事か?」

 

「そうなのです。一応私の素能(エレメント)で蘇生しましたけど」

 

「待て。そもそもどうしてお前が……俺の中にいた?」

 

 自分とフシみんの意識が同居していたあの感覚を何と言い表せば良いのかと、少し悩んだ狼牙。フシみんは淡々と答える。

 

「私の体は確かに死んだのです。一文無(アンデッド)で生き返りましたが、それすらも無駄にして、完膚なきまでに死にました。

 とはいえ、私の魂は死ななかった。一番近くにいた狼牙君の体に、お邪魔させてもらったのです。魂が生き続けるという意味では本当に不死みたいなのですよね、私」

 

「た、魂……? なんだそれ?」

 

「肉体が死んだにもかかわらず、こうして私の意識がある以上は意識が付随する別の何かがあるはずなのです。それを便宜上“魂”と呼んでいるだけですよ。

 とにかく、私の意識はこうして狼牙君の中にあるのです。ほら、狼牙君も変に思いませんでしたか? 私が死んだ後、柄鎖ちゃんを助けに行こうとした時に柄鎖ちゃんの居場所が分かったじゃないですか。あの時点で狼牙君が知り得るわけ無かったのに。あれは私がこっそり助言したからなのですよ?」

 

「あぁ、確かに……。つまり魂には記憶も付随していて……」

 

「もう。今は考えても仕方のない事は考えないでほしいのです。これが最後のお別れなのですから、会話を楽しむべきなのです」

 

 フシみんは頬を膨らませながら言う。狼牙は彼女のセリフを聞き流せない。

 

「これが最後のお別れ……だって?」

 

 狼牙の肌が泡立つ。

 

「そう、お別れなのです。狼牙君はここで死んで、私だけが生き残る。

 私達は今、死の分水嶺(ぶんすいれい)にいるのですよ」

 

「いったい何を……俺が死ぬ?」

 

「狼牙君、ポケット」

 

 困惑しながらも、言われるままに狼牙がポケットを漁(あさ)る。手に掴んだのは六文銭。

 

「やっぱり六文あるのです。私よりお金持ち」

 

 フシみんもポケットを漁(あさ)る。手を広げて五文銭を狼牙に見せつけた。

 

「なんでこんなものが……」

 

 入れた覚えも無ければ、そもそも現代では使えない昔のお金。

 

「多分、死ぬ権利を持っている人は六文銭を持っているのですよ。ほら、三途の川の渡し賃は六文銭っていうじゃないですか。私は魂が貧乏なので渡河させてもらえないのです。彼岸(ひがん)には行けず、此岸(しがん)で立ち往生」

 

 不満そうに言うフシみん。一方で狼牙は六文銭を握りこんだ。

 フシみんの言葉はあまりに根拠に欠ける。しかし、いきなりの河原、突然現れた六文銭。なにか嫌な予感を感じる狼牙は身震いした。

 

「な、なんだよ……こんなもの…!」

 

 狼牙は手の中の六文銭を川の方へ放り投げる。不思議と銭が水に落ちる音はしない。

 

「無駄なのですよ。以前、お金を落とした時がありましたけど、不思議とポケットに戻って来ちゃうのです」

 

 フシみんは狼牙のポケットを指差す。狼牙が恐る恐るポケットに触れると、銭が擦れる音がした。

 

「な……!?」

 

 ポケットには再び六文銭。狼牙はそれを捨てようとするが、どうにも手放すことは出来ない。

 狼牙がそうこうしている内に、ギィ…と軋(きし)む音が聞こえてきた。

 

「お迎えの音なのです」

 

 靄(もや)で姿は見えないが、川の対岸から何かが近付いてくる。規則的な櫂(かい)の軋む音。狼牙は冷や汗をかきながら、川とは反対側へ全力で逃げた。

 

 しかし、川から離れると靄(もや)が濃くなる。そんな中走り続けていると、気づけば見知った顔。フシみんがいる所になぜか戻って来た。

 

「……ね、お話しないのです? これが最後のお別れなのですから」

 

 フシみんがそう言うと、狼牙は観念したように座り込んだ。

 

「そこまで深刻にならなくても良いのです。色々脅しましたけど、川を渡ったら実際に死ぬかどうかは分かりません。私が勝手に思い込んでいるだけですし」

 

「なら、良いんだけどな。……正直、嫌な感じしかしない」

 

「やっぱり死にたくないですか?」

 

「当たり前だ」

 

「そうですよねぇ。私と違って狼牙君は死んだら悲しむ人がいますし」

 

「お前にもいるだろ。少なくとも俺が」

 

 そう言われたフシみんは狼牙から目線を逸らす。痒いのか、もぞもぞと体を掻きむしっていた。

 

「……私も、狼牙君が死ぬのは悲しいのですよ」

 

 フシみんの言葉に狼牙は反応を示さない。代わりに疑問をぶつける。

 

「俺の魂が死んだらどうなる。俺の体をお前が使う形になるのか?」

 

「多分、そうかと」

 

「だったら後で柄鎖に伝えておいてくれ。“先に死んで悪かった”って」

 

「……分かったのです」

 

 了承するフシみん。その目には少しだけ羨望の光。

 

 二人が静かになると、川の方から聞こえてくる櫂(かい)の軋む音が良く響く。

 ギィ…と鳴るたび、狼牙の体が震えていた。それを見たフシみんは震える彼の隣に座り、そっと手を握る。

 

「別に痛いわけじゃないのです。ただ……そう、睡眠。

 布団はありませんけど、良く熟睡するように。きっと、悪くはないと思うのですよ」

 

「それはお前が死にたいからそう思うだけだろ」

 

「狼牙君も死にたいと思う事は無いのですか? 思い出すだけで吐きそうな嫌な思い出があるとか、世界から嫌われているような漠然とした疎外感を覚えるとか」

 

「……無いわけじゃない。けど次第に風化するだろ、そういう記憶や感情は。

 内臓を全部吐きそうだったその時に比べれば、今は夢で見て、寝覚めが悪い程度だ」

 

「へー、便利ですねぇロウガ君の記憶は。私は全然そんな事無いのですよ。

 嫌な事を忘れるのは生きていく上で必要な機能だと聞いたことがありますから、生存本能の強い狼牙君は忘れっぽいのですかね」

 

 ガコッ

 

 船が桟橋にぶつかる鈍い音。それと同時に二人の前に真っ黒なフードを被った船頭が現れる。

 

「銭を見せろ」

 

 狼牙は深呼吸をして震えを抑え込む。そしてゆっくりと立ち上がり、ポケットに手を入れた。

 船頭のフードの中には光が全く入り込んでおらず、表情を伺い知る事は出来ないが、首から上がフードごと動き、狼牙のポケットの方を見る。

 

 その瞬間、狼牙は反対の腕で船頭の腹に正拳をぶち込んだ。船頭は反応すらできない。

 

 しかし全くダメージは無い。正拳が船頭を貫いたのは確かにも関わらず。むしろ船頭の体に刺さった腕が抜けず、拘束された狼牙の方が手痛い。

 

「抜け…ない…っ!」

 

「船頭さんには触れないのです。ここでの私達は実体を持たないただの魂。連れていかれるか追い返されるか、仕分けを待つだけの存在なのです」

 

 ジタバタする狼牙のポケットに船頭が手を突っ込む。

 

「ぐ…ッ! 止め――」

 

「一文足りぬ。お前は帰れ」

 

 船頭はそう言って、狼牙のポケットから抜き取った銭を放り投げた。河原に転がるのは5枚の硬貨。

 

「……は? 何で…」

 

 狼牙が困惑する間に、船頭は彼の拘束を解いた。腕が抜けた勢いで尻もちをつく狼牙。

 

「次はお前だ。銭を見せろ」

 

「はいはい。今回はちゃんと持ってきましたから」

 

 フシみんがポケットから銭を取り出し、一枚ずつ船頭に渡す。

 

 トス…、チャリ、チャリ、チャリ、チャリ、チャリ

 

 船頭の手のひらに6枚の硬貨が落ちた。

 

「お前は来い」

 

「はいはーい」

 

 船頭とフシみんが乗船。船頭が錨(いかり)を回収している最中、狼牙が声を上げる。

 

「――盗んだなッ! 俺の側に寄った時か!?」

 

 その声を聞いて、フシみんはいつもの微笑をニッコリ笑顔に変える。

 

「私、手癖が悪いので」

 

 悪びれもせず、ひらひらと手を振るフシみん。

 

「何でお前が俺の代わりに……」

 

「私、お友達が少ないのです」

 

 狼牙の言(げん)を無視して勝手に話すフシみん。

 

「だから、狼牙君が仲良くしてくれて嬉しかったのですよ」

 

「うるさい!」

 

 狼牙が船の中にいるフシみんに飛び掛かる。しかし、冷静さを失った猪突猛進。彼女はそれを悠然と受け流した。放り投げられた狼牙は川に着水。顔だけを水面に浮かべる。

 

 一方で船頭は錨(いかり)を回収し終え、櫂(かい)を手に持つ。船が桟橋から離れた。

 

「おい待てッ!」

 

 狼牙は泳ぐ。しかし、いくら水を掻いても前に進まない。船との距離は離れる一方。

 

「さようなら。縁があれば地獄でまた会いましょう」

 

 初めて見せた名残惜しそうな表情。それが、狼牙が最後に見た五文銭(ごもんせん) 二四三(ふしみ)の姿だった。

 

 

 

 狼牙の体が水面下に沈む。不思議と息は苦しくない。

 

「……くそッ!」

 

 安堵。銭を盗まれたことに気づいた時、狼牙が真っ先に感じたのは、フシみんが自分の身代わりになってくれたという安堵。

 つくづく保身ファーストな自分に嫌気が差す。

 

「クッソォオオオオオオッッ!!!」

 

 

 

 

 

         ♢

 

 

 

 

 

 水底へと沈むこと、体感時間で数分。気づけば狼牙はベッドの上で寝ていた。目を開くと、真っ先に目に入ってきたのは柄鎖(つかさ)の顔。

 

「……狼牙様」

 

 酷く憂鬱な表情で狼牙を覗き込んでいたが、彼が目を開けると顔の険(けん)がとれる。

 

「大丈夫ですか、狼牙様?」

 

「……俺は、大丈夫だ」

 

「良かった……」

 

「ここは?」

 

「戦場から一番近くにある病院です」

 

 狼牙がいるのは4人部屋の病室。戦いで出た大量の傷病人がここに担ぎ込まれているため、病床数の関係から個室とはいかない。

 代わりに、雷夢(らいむ)や黒子(くろこ)といった反乱組がまとめて寝かされている。雷夢と、一応黒子の安否を確認して安心する狼牙。

 

 柄鎖は大事なさそうな狼牙を愛おしい目で見つめている。ふと、何かに気づいた。

 

「狼牙様。その……瞳に何か模様が…」

 

「模様?」

 

 柄鎖がスマホのインカメラを起動し、狼牙に渡す。ディスプレイに映される狼牙の瞳。そこには薄っすらと渦巻き模様が。

 

「確か二四三(ふしみ)様の目にもそのような模様があったと思いますが、何か関係が?」

 

「……」

 

 渦巻き模様が涙で歪む。

 

「三回も俺の前で死んでんじゃねぇよ……」

 

 その呟きは誰にも理解されない。

 

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