IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
万人向けを謳っている訳ではありませんが、それでも読んで下さった方に不快な思いをさせてしまったのは一重に私の不徳であって指摘は御尤もなものとして受け止める次第です。
とはいえ、それで方向性を変えてしまうことは作品自体を大きく変えてしまうことになってしまうので今後は前回のようにはならないよう留意するつもりですが、それでも不快に思われたならすいません。ですが方向はこのままで続けていきます。勝手ですいません。
そして今回もまたキャラ崩壊注意です。前回の二の舞にはならないようにしたつもりですが………それでも嫌に思われたらすいません。
「…………」
ただひたすらに前を見る。
人は後ろを向いたり余計な横道についつい目がいきがちになってしまうけど、やはり最後には前に進まなければならない。
後悔していたっていい。欲望に目が眩んでいたっていい。
ただ前へ。そうやって、人は進化をしてきたのだ。それが果たして正しいことなのかどうか、それを決めるのは人では無いだろうが。
「? どうしたんです湊さん。何だか死んだ魚のような濁った眼をしてますよ?」
そんな僕の思考の途中、隣から気遣わしげな声が聞こえてきた。学園で今のところ一番信用できる少年であり、世界で唯一ISを起動出来る少年こと織斑一夏君だ。
一夏君はフレームレスの眼鏡越しにこちらに視線を寄越していて、ふと背後の気配が気になり少しだけ目をやってみたらその視線に後ろの女子がやられていた。どうにも裸眼越しではなく眼鏡というフィルターを通した異性の視線はここの生徒達には効果覿面のようだ。一夏君曰く、必要は無いけどかけてると女子から声をかけられなくて重宝しているらしい。
それはきっと、織斑譲りの凛々しい顔立ちと眼鏡の組み合わせが抜群に格好良さを演出しているからだと思うんだけど、本人は気付かないらしい。まぁ得てして自分に魅力に本人は気付きにくいものだろう。
だけど、今それを指摘するよりも何よりも優先して、僕は彼に言わなければならない事があった。
「…一夏君」
「はい」
「……ぼくを、おうちにかえしてはくれませんか……?」
「うん、それ無理です。これ、一応博士からの言伝ですしどの道検査結果が出るまで湊さん帰れないじゃないですか」
何ということでしょう。憤死物の覚悟で涙目上目遣いのコンボで尋ねたというのに、一夏君は微動だにせず事実だけを述べていた。やはり男の僕に同性を籠絡出来るような魅力なんて無いじゃないか、柳崎のあほー。
「(………~~~~~~っ、や、ヤバかった! 湊さんに見えない所で思いっきりシャー芯を刺してなかったらヤバかった! 理性的な意味で!)」
何やらプルプルしているようにも見えるし額には脂汗が浮かんでいるけど、表情自体は普通にしているしやはり効力は無かったようだ。つまり、僕は最低でも夕方近くまでは“この状態”で無ければならないのか。
ちなみに、この状態というのは簡単に言ってしまうと『一夏君の席の横に椅子を設置して、そこで授業を傍聴している』ことを指し、教育課程は六年前に済んだ筈なのに何の因果か教室で授業を受ける羽目になっていた。
そもそもどうしてこうなったのか。
廊下に出た瞬間、僕が最も恐れ再会したくなかった山田真耶との出会いまで振り返ってみよう。あ、これ現実逃避だから。読んでる人はあんまり気にしないで…………いかん、頭がやられたままのようだ。
『あぁぁ、ぁああぁあぁぁああ………!?』
忘れもしない、緑の少女の面影を強く残した眼前の女性を。
少なくとも、僕にとって彼女はかつてのトラウマの象徴であり、篠ノ之のように慣れを必要とする程度で済む存在でも無ければ織斑のように原因さえ分かれば対処できないことも無い相手という訳でも無い。
僕にとって山田真耶という存在は、謂わば自然現象と同格の存在だった。
一たび起こってしまえば人如き矮小の存在を歯牙にもかけない圧倒的な力。台風であったり地震であったり津波であったり。
かつての僕における『山田真耶』とはつまり、そういう存在だった。要するに、絶対に怒らせてはいけない相手だということ。或いは第一級危険物、「触れたら危険!」と同義と考えてもらって構わない。
問題児中の問題児。小4の時点で近くの中学生はおろか高校生の不良すらも片手間で蹂躙できるいっそ笑えるまでに暴力的な力でもって、教師陣も彼女を受け持つことはイコールで退職をも視野に入れるほどに疎まれていた存在だった。
そんな彼女に当時委員長として話しかけた時、僕は拍子抜けしたのを覚えている。あれは確か、図画工作の時間で校内の風景をスケッチしていたときだった。
適当な場所を探してうろうろしていた僕が偶々飼育小屋の前を通り、兎でも描こうと近づいた時にその子を見つけた。
『(あ、あの子……)』
その時点で篠ノ之や織斑といった他の問題児達との付き合い方に煩悶としていた僕にとって、彼女の噂を知りその面倒をみるようにと人身御供として委員長を押し付けられたのは泣きたくなる程の恐怖だったのだが、その時の彼女を見て僕は内心、首を傾げざるを得なくなっていた。
『~~♪ もうっ、飼育委員のひとはダメだよね。ちゃんとえさを持ってきてないんだもん。わたしが持ってきたから、いっぱいたべてね?』
だって、その緑髪を見ただけで下っ端不良程度なら卒倒するとまで言われる少女が、ごくごく普通の少女のような笑みを浮かべながら飼育小屋で兎を世話していたのだ。
着ているシャツやスカートに汚れが付くのも構わずに、両手一杯に抱えた野菜をそれぞれ兎達に与えている。この姿を見て、彼女がとても先生まで怯えるような子にはとても見えなかった。
だから、僕はその子に声をかけることにした。ひょっとしたら噂みたいに怖い子じゃなくて、今見ている通り優しい子だと思ったから。
『あ、あの……山田さん?』
『わひゃ!? だ、だれっ!?』
『あぅ、お、おどろかせてごめんね? あと、クラス一緒なんだけどぼくのこと分からない?」
『……(フルフル)』
『(授業の挨拶とかやってるのに…)ぼくはクラスの委員長をやってるんだけど、こうしてお話するのは初めてだよね? だから、改めてじこしょうかい! ぼくの名前は“崩上湊”っていうんだ。きみは?』
『(びくっ)……山田、真耶、です…』
急に話しかけたからか、少しぎこちない様子ではあったけど当時の彼女はそれだけを言い終えるとスカートの裾を握り締めて顔を上げようとはしてくれなかった。
これが僕と彼女とのファーストコンタクト。この後、何とか普通に話そうと僕が四苦八苦しながら彼女とも他二人と同じように向き合おうとする訳だが今はそれは割愛しよう。
後にその時の自分の迂闊さ、そして彼女の本質を思い知りマジモンのトラウマを抱くことになるので……これ以上の過去話はちょっと精神衛生に優しくない。
そんなトラウマイスターとの邂逅である。以前柳崎と篠ノ之が鉢合わせした時のように逃げだそうとしたのだが、咄嗟に肩を掴まれて心臓に氷の杭が刺さったような悪寒に襲われる。
『ちょっと湊さん待って! ……って、どうしたんですか? 何だか顔色が尋常じゃ無く悪いですよ?』
『……っ、は、はぁぁぁ~…………。い、一夏君だったんだ~……』
『? 何をそんなに安堵してるのか分かりませんけど、今ちょっと湊さんにうろちょろされると困るんですよ』
『……はひ?』
肩を掴んだ相手が一夏君だったことで一気に全身に血が戻ったような開放感にへたり込みそうになりながら、彼の発した意味の分からない言葉に奇妙な返事が出てしまった。そんな僕に構わず、一夏君は言われた内容を復唱するように指を立てながら口を開いた。
『えっとですね、束s…じゃなくて、博士からの伝言なんですけど―――――
【みっちゃんと首輪の検査結果が出るまで帰らないでねー。しばらくはいっくんにお守を頼んであるから、放課後また~!】
………という訳なんで、それまで俺と一緒に行動してもらいます。あっ、ちゃんと外部関係者だって証としてこのIDカード持ってて下さいね』
それは逃亡不可という過酷な現実。
こうして、僕は恐怖とトラウマと周囲の視線という三重苦に胃に穴が開くようなストレスに苛まれながら一夏君と隣に陣取ってよりにもよって山田の授業を聞き続けることを強いられているのである。以上、現実逃避終了。
「湊さーん、本当に顔色悪いですけど保健室……は、ダメでしたねそーいや」
「は、ハハッ………もうやだよぉ……おうちかえりたいよぉ」
「…何で俺っつうかあの人と同い年なのにそんな口調が抜群にマッチしてるんですか湊さん。赦せるから良いんですけど、周り、見た方がいいですよ?」
「うぇ? ……………あ゛」
幼児退行しかけていた思考が一気に冷めた。何故なら、僕が子供っぽい仕草をやればやるほど、年下である筈の女の子達からやたら生温かい視線を注がれていたから。
クラスの黒一点の隣を奪っていることから後方の織斑の殺気を帯びた視線はさておき、そうでなくてもいきなり訳のわからない私服の(しかも首輪付き)不審人物に対し、不信感や奇異の視線を向けるならまだしも彼女達の『ほわわん』とした視線は少し解せない。というか、分かったらダメだと本能が告げている。
「(分かる。分かるぜその気持ち。この人見てると確かに守ってあげたくなるオーラというかいぢめたくなるオーラを感じるよな。言葉を交わさずとも分かってくれたか同士!)」
『(当然! いきなり出てきた時はビックリしたけどなまら可愛過ぎよこの人!)』
『(しかも近くだからこそ分かるこの陽だまりのように心を解す香り!)』
『(仕草の一つ一つが狙っているかのようなあざとさなのに、それを無意識しかも天然でやっても赦される可愛さ! ありがとう織斑君、貴方が私の隣の席でいてくれたお陰で私もその恩恵をあずかることが出来るわ!)』
「『『『(こういうの………アリだな/よね!!』』』」
何だろう。僕を囲んだ一夏君を始めとする他の子達が何故か親指を立てている。何やら目だけで意思疎通ができてるあたり、既に結構な仲良しさんなのかもしれない。一夏君は人と仲良くする才能があるみたいで余計な心配は要らないようだ。まぁ、今心配されるのは多分僕の方なんだろうけどねぇ。
そして『キンコンカンコン』とチャイムが響き、とりあえず午前中の授業が終わりを迎え僕は溜まりにたまった精神的疲労からがっくりと頭を擡げた。
その際、先の四人から妙に構われて食堂までおんぶされたり道中で頭を撫でられたりする訳だけど、僕はどうやら年上には思われていないらしかった。泣いてなんか、いないんだから……っ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
――――キーンコーンカーンコーン……
「……もうこれで授業無いんだよね? 僕は頑張ったんだよね? もう、ストレスに耐えなくてもいいんだよね……!?」
「そうですよ湊さん。よく分からないけど、とりあえず今のが最後の授業でしたんで」
「いやったーっ!」
『あぁ、諸手を上げての笑顔いただき!』
『そのデータ後で私にも!』
『なら食堂で撮った“両手でおにぎりを頬張る”時の写真と交換ね』
『くっ、背に腹は代えられないか……っ』
周囲の子の声はとりあえずシャットダウン。短い時間だったとはいえ、こうもあっさり子供扱い及びマスコット的扱いされるとは思わなかった。流石はエリートが集まるIS学園……! は、あまり関係ないだろうけど。
織斑が教壇に立つ度に飛来してくるチョークや出席簿を躱わし、織斑君のドS発言で牽制してもらったり、休み時間になる度にこちらに山田が近づいてきた気配を察知してなりふり構わず遁走したりと精神的バイオレンスな時間が漸く終わりを告げ、抑圧されたストレスからの解放感についつい声が大きくなる。
最後のHRがあるけど、それさえ終わればすぐさま篠ノ之の所に行けば後は帰るのみ。
喜びを一夏君とハイタッチで分かち合っているとふと、こちらに近づいてきた人影が話しかけてきたのでそちらにも快く返事を返す。
「お疲れ様です、崩上さん。その、大変だったみたいで」
「うんっ、もう無理! もうやっと帰れるって希望だけで無理矢理テンション上げてる感じだからね!」
「それって結構一杯一杯なんじゃ……な、なぁ一夏」
「言うな。言ってしまったら折れちゃうかもしれないだろ。今はそっとしておけ」
「う、うむ、そうだな……しかし、この人が姉さんの……」
篠ノ之に似て身長も女子としては高く、スタイルも高校生離れしているこのポニテ少女の名は“篠ノ之箒”ちゃん。
篠ノ之という名字からも分かる通り、篠ノ之の妹である。ついで言うと、一夏君とは幼馴染の関係にあるらしい。
『い、一夏っ!』
『…ん? ってなぁんだ、箒か。こいつは箒って言って束さんの妹なんです湊さん』
『……って、何故私をスルーしてそっちの人に話しかけてるんだお前は!? 私を無視するな!』
『えー? 朝の自己紹介が終わった時も、俺がイギリスのに喧嘩売られた時も無視した挙句助けてくれなかった人が何か言ってる気がするけど、皆何か聞こえたかー?』
『『『私達なんにも聞こえてないよー』』』
『ぬなっ!?』
但し、織斑との一件で何やらふっ切ってしまった一夏君からしてみれば、箒ちゃんは姉と自分を比較してきた身近な存在であるため未だ姉と似たような扱いではあるが、アイツと比べてまだ軽い方だろう。多分。全然顔見て反応してないけど。
そして先ほどから一夏君に便乗して僕の頭を撫でている周囲三人については既に彼と数年来の付き合いがあるようなやり取りを見せていて、僕が心配するようなことが無くて安心すれば良いのやら、子供扱いを嘆けばいいのか微妙な心境である。
「うぅぅ……」
「大丈夫だって、箒ちゃん」
「崩上さん…」
「一夏君って何だかツンデレっぽいし、きっと色々とまだ踏ん切りがつかないだけだよ。織斑にしたってそうだけど、二人とも素直じゃないみたいだし」
織斑が一夏君に距離を置いていたのと同じ……と言ってしまうのは流石に一夏君に失礼なので完全に一緒にはしないけど、素直じゃないのは二人ともだろう。
一夏君が箒ちゃんに素っ気ないのだって、何か切欠一つで乗り越えられる程度のものだと信じてる。僕は何もできないけど、何かをするまでも無いと思う。
まぁ何にせよ、ここはあくまで子供たちの場所であって僕がいるべき場所じゃない。山田からもさっさと逃げたいことだし、さっさと篠ノ之から検査結果を聞いて地元に帰りたい。今は無性にあの殺風景な景色が恋しい。
――――――――そう、安穏な未来がもうすぐそこまで来ていると信じていたのは、つい五分ほど前の話。
「湊さん? テンションの乱高下が激しいんですけど……まさか躁鬱病!?」
「いや違うんじゃないか? 何となく理由は察せるが……」
「え? 冷血剣道少女にして脳筋少女でもある篠ノ之さんは、優しくて可愛くて実際こんな人が姉だったらシスコンでも構わないって思える湊さんがこうなった理由が分かるのか!? 篠ノ之さんのクセに!」
「おい止めろ! それ以上はいくら私でも泣くぞ!? せめて“篠ノ之さん”は止めてくれ頼むから!」
「じゃあ……そうだな、妖刀ホルスタインで。あっ、今の上手くね? お前のキレやすい性格と剣道と身体的特徴がが上手い感じでミックス出来た気がするんだが、どうだろう?」
「喧嘩を売ってるのか? 喧嘩を売ってるんだな? そしてホルスタインは何処から引っ張ってきた!?」
「落ち着けよ箒。今はそんなことより湊さんだ」
「そんなことで片づけられた……ぐすっ」
こちとら軽く糸色望しているっちゅうに、何仲睦まじくやってるんだろうか。あてつけだろうか、夫婦漫才なんて見せつけよってからに。
HRが終わり研究所へ向かう人影は三つ。
僕の付き添いを買って出てくれた一夏君と、その一夏君との確執を無くそうと軽くいぢられながらも健気に反論を繰り返す箒ちゃん。そしてもう一つは僕な訳だけど………
「ん~♪ 湊君は見かけによらず力持ちなんですね。私を背負っても足取りが軽いですし」
「………マァ、ソウダネ」
「髪も伸ばしたんですね? 前は三つ編みもこんなに長くなかったですし、使ってるリボンも変わってますね? 使ってるシャンプーも香り付きみたいですし、この艶はそのせいでしょうか? それに………」
「シャンプーノ違イマデ分カルンデスカ?」
「はい♪ 昔の湊君は弱酸性系の普通のリンスinシャンプーを使ってましたけど、今はちゃんと使い分けてるんですね。この香りは……○○会社の新作ですか? あの会社の整髪剤なら髪の上質さも頷けます」
「あ、アハハ………」
そう、あくまで人影は“三つ”ではあるが、それは人数まで三人では無い訳で。
HRが終わりすぐに抜け出そうとしたのだが本気を出した山田にあっさり捕まり、篠ノ之のところに行くのだと説明すると自分もとついてきて、さらには背中にひっついたまま強制おんぶの状態になっている。
ただでさえ恐怖対象だというのに背中に密着されて心臓がさっきから不整脈のがマシだと思うぐらい不規則に乱れてる。いやこういうのを不整脈って言うのか。
背中に『ふに』だの『ぷにょん』だの柔らかくかつサイズ大を確信させる感触があるというのに、それは僕に一切の桃色妄想をさせない。男としての性が完全に恐怖に塗りつぶされているのである。
「それにしても、山田先生と湊さんって仲が良いんですか? さっきからずっとその体勢ですけど」
「はい♪ 私に友達がいなかった時に話しかけてくれたのが湊君でして、その時から私の一番のオトモダチになったんです!」
「へぇ、意外です。山田先生って普通に友達とか大勢いそうでしたから……俺とか箒はそういうの苦手ですし」
「私に飛び火させるな! いや、その、強ち間違いでも無いが……」
「ふふっ、皆さんの青春はまだまだ始まったばかりなんですから気にしなくても大丈夫ですよ。それに、織斑君も篠ノ之さんも魅力はいっぱいあるんですから、そのうち嫌でも楽しくなりますよ」
「……そんなもんですかね」
「今は分からなくても、気付けばそうなってると思いますよ」
「が、頑張ってっ、みます……(まずは一夏と……!)」
和やかな会話が繰り広げられる中、僕は一人何も起きないことを祈り不自然にならない速さで研究所への道を急いだ。
――――――猛禽類のような目が細められたことに気付かないまま。