IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
本編を進めろって話なんですが、ちょっとした息抜きと申しましょうか。ぶっちゃけ気分転換しないて気が滅入りそうだったんで実は移転にするにたって別ネタで湊君の物語を書いてみたいなーとか思ってたりしてまして、その時の残滓をメモ帳から引っ張り出したのが今回の番外編となっております。
元ネタは敢えて言いませんしそもそも本編に欠片も掠っていない内容なので、単にこういうやり取りを書いてみたいという欲望のままに書きあげました。それでは、どうぞ。
「や、すいません。まじすいませんでした!」
こういう始まり方をするネット小説があったようにふと考え、そういえば転生もののテンプレってこんなんだっけと思い至る。
とはいえ、別に僕が死んだ訳でも無ければ目の前で土下座ってるのは神様でも何でもない。単なる俺の友人Aだ。
「そこはせめて名前で呼んで親友!?」
「親友? それは知らなかった。僕の知ってる親友という言葉の定義によれば、少なくとも人が一カ月も喫茶店でメイド服なんぞを着て愛想振りまいて手に入れた命の御金で購入した、【1/100スケール スペシャルエデション ポゼッションサイバスターVSゼルヴォイド】のプラモデルを箱を開ける間もなくチャリンコで踏み潰したりはしない筈なんだけど?」
「だからその…俺も急いでたと言うか、今日は元浜や松田達とナンパをしに街まで……遅刻しそうだったから注意不足で」
「ほうほう。つまり、こういう事だね? 君は僕を親友と嘯いておきながら、その親友の大切なものを凌辱したことなんて至極どうでもいい芥事でしかなくて、それよりも他の人達と女の子に声をかける遊びの方が大事だから、そんなつまらない事で僕に怒るなと、そう言いたい訳だね?」
「心の底から御免なさいっ! だからお願いだから泣きながら詰らないで! 良心の呵責に押し潰されそう!」
おや、知らない間に僕は涙を流していたようだ。問い詰める途中足下で無残に潰れてランナーごと拉げている未だ組み立てすら行われていないプラスチックを見ただけなのに、どうして涙が溢れるんだろう。
一度気付いてしまえば、頬を伝う雫を止める術を僕は持たなかった。
えんえんと、子供の癇癪のように声を上げて泣きに泣いた。それはもう羞恥心とか外面とか、ここが街中で道行く人達の奇異の視線が向けられていようが構わずに、アスファルトにへたり込んで泣き喚いた。
本当に楽しみにしていたのに。このプラモデルを買うために生活費を稼ぐ普段のアルバイトの他に、いつもなら絶対断る女装ウエイトレスまでして時給アップを店長から勝ち取って、御客さんのセクハラの視線にも耐えて今日やっと、満を持して購入出来たこの一カ月の成果が今じゃ不燃ごみ。
「ひっぐ、ごれ、ずっど、楽しみに、じでたのにぃぃ……」
「マジごめん! 金も払うし何なら他に欲しい物までつけるからぁ! 頼むから泣き止んでくれそろそろ俺まで泣きそうなんだ!」
買い直す? これを? 店舗販売自体されていた事が奇跡的な代物であり、プラモ屋の店長の要望通りプリティでキュアキュアな魔法少女物の日朝なヒロインのコスプレまでして取り置きしてもらったこれを?
沸々と、哀しみの下で燻っていた怒りが再燃していくのを自覚する。
世の中には取り返しのつかないものというのは存在して、それを取り戻そうとすることは愚かだと断じられる下らない行為だ。
でも、失われた物を再び。そう望むのは人が人である以上仕方の無い欲望で、取り戻せない代わりに他の物で代用したり喪失の埋め合わせをするのだ。
だが、この場合は?
僕はそもそも失ってこそいるが、「手に入れた」とも言えない状態のままそれを破壊された。
プラモデルなんてものは作ってなんぼ。手でランナーから千切るのではなくニッパーを使うなんて当たり前。丁寧にプラスチック特有の粉や傷が残らないようパーツの一つ一つを研磨し、本体のスペックを損なわず最大限に生かせるよう組み立てて漸く準備が終わったと言える状態になる。
組み上がったプラモデルをよりモデルに忠実にするための墨入れや塗装、場合によってはパーツの改造さえ視野に入れて完成を目指す。
その全ての過程がプラモデルを楽しむものであり、どの作業においても細心の注意が必要で精神的にも肉体的にも疲労が強いられてしまうが、その後に待つ達成感の為ならばいくらでも頑張れるというものだ。
だけど今、僕はその楽しみを味わう事さえさせてもらえずに全てを失った。
代替を得ようにもそもそも代わりの利くような物でも無ければ、得てもいない充足や喜悦をどうして代わりの物で埋めることが出来ようか。
一体僕が何をしたというのか。これほどの理不尽に晒されるようなことを僕がしたのか?
こんな理不尽を前に、ただ膝を突いて泣くことしか出来ないのか僕は? いいや違う。
目の前には、僕から全てを奪った奴がいる。
仮に奴に復讐したとしても、何も戻ってくる物など無い。そんな事は分かってる。百も承知だ。大抵の漫画だって復讐を肯定しているのは稀だし、あったとしても色物やキワモノ系ぐらいだ。そういった作品も好きだけど、成程、復讐を肯定するというのはこういう気持ちなのだと真に理解できる気がする。
何も返ってこなくても、僕にはやらねばならない理由がある。
悲運にも己の真の姿を現す事無くその役目を果たせなかったプラモデルの声を聞け。無残にも単なるプラスチックのゴミとして分別の際やたらゴミの分別に気合いを入れる近所のおばちゃんに『全く、燃えないゴミはもっと小さくしてから捨てなさいよね』とか言われてより微塵に砕かれるプラモデルの未来を憂え。
僕は彼らを組み立てるという最低限の事すらしてやれない無力な人間だけど、せめて、せめて今彼らの声を代弁してやらねばなるまい。
決意し、一旦泣き止んだように見せかけて嗚咽を止め、目の前で土下座から頭を上げて今まさに許し乞うていた少年の顔に僅かに喜色が浮かぶ。今に見とれ、その顔すぐに絶望色に染め上げてやる。
「………」
「な、この通りだから、許してくれよ湊。ちゃんと後で埋め合わせするからさ」
「……そうやって、今からナンパに行くんだね……………僕というものがありながら」
「――――――――――ゑ?」
既に自分達が大勢の衆目に見られているのは分かってる。ならば、この状況を利用させてもらうっ。
シナを作ってより女っぽく見えるように手の甲で涙を拭って見せる。それだけで目の前の少年の顔から色という色が消え失せ、周囲の視線が少年に非難という感情を載せて突き刺さっているのを内心ほくそ笑みながら最後のトドメを刺す。
「酷いや、酷いや、イッセー君! 僕の大事な物をいっつも壊して! それで飽きたら僕を捨てるんでしょ!? 新しい女の子見繕って、僕のことなんてどうでもいいって捨てるんだっ!」
「ちょっと待ってくれ湊!? 俺さっきお前の事“親友”って言ったよな!? その誤解しか招かない言い方は……」
「聞きたくないよ、そんな言葉! あんなに君に尽くしてきたのにっ。僕の大事な物まで君にあげたばかりか………はじめてだって、君が無理矢理……っ」
「ノオオオォォォォォォッッ!!? ちょっ、待って皆さんこれは違うんですよ!? 今コイツは錯乱してましてそれにきっと皆さんは誤解してるんですっ!」
『(ヒソヒソ)おい、今の聞いたか?』
『聞いた聞いた。カップル同士が何やらかしてんだと思って面白半分で来てたんだけど……あの男マジひでぇのな』
『最低よ最低! 女の敵だわ!』
『プラモデルが趣味なのは変わってると思うけど……彼女なんだから大事にするべきよね? それを壊しておきながら自分はナンパですって………最っっっ低』
『しかも相手の子の境遇もなぁ……』
『もう警察呼ばない? アイツ牢獄に閉じ込めましょうよ』
『いいなそれ。全く、あんなゲスに騙されてあの子も可哀想に』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? 誤解がっ、誤解が広まっていくぅぅぅうううう!? おい湊! これマジで洒落にならないぞ!?」
そんな事言われても、僕が言った事は別に嘘でも何でもない。
いつも昼食の前に早弁をする君のためにタダでお弁当を用意しているし、誕生日の時は君が欲しがっていた僕がクロスワードパズルの懸賞で当てたブランドメーカーの腕時計をプレゼントしたし、何より僕が初めて女装させられたのは君が無理矢理推し進めてきたからだ。ほら、全部本当のことだ。
ただ、それを勝手に彼氏彼女の痴情の縺れだと勘違いしてるのは衆目であり、なおかつ僕を“女”だと誤認しているのも僕のせいじゃない。僕はただ、みっともなく癇癪を上げた子供を演じたに過ぎない。それがちょっとした誤解を相手に与えていたとしてもしょうがない事なのだ。うん。
周囲の視線がガチの犯罪者を見る目に代わり、それを受けた少年が本気で泣きそうになってきていた。ふむ、どうせならもう少し追い詰めたいところなんだけど………
「………さてと、反省はこの辺でいいかな?」
「反省どころか俺の社会的死が目前まで迫ってるんですが……」
おおぅ、これが滂沱の涙というものか。生で初めてみたけど、あんなに涙って勢いよく流れるものなんだねー。凄いや。
反省してくれたようだし、僕としてもプラモ達の無念を晴らせて既にスッキリしている。これ以上の追い打ちは流石に鬼畜過ぎるので止めておこう。顔が女でしかないというのがコンプレックスな僕であるが、こんな時相手を陥れる程度には役に立つからそこまで嫌いになれない。今後も有事の際は利用していくとしよう。
「そういう訳だから、埋め合わせは期待しているからね? あれ、ざっと二万近くしたんだから」
「お、おぅ……それよか、早く俺の誤解を解いてくれ……」
「えー、どうしよっかなー?」
「お願いします湊大納言様! このままだと俺、彼女一度も出来た事無いのに鬼畜外道野郎として御近所の皆様に白い目で見られちゃう! もう親に顔向けできなくなっちまうんだよぉぉぉおお!!」
「はいはい。おじさん達には何かと御世話になってるし、ちゃんと誤解は解くよ。………根付いた偏見はどうにもならないだろうから、後のイメージアップは頑張ってもらうけど」
「アフターケアあああああああああああああああああ!?」
ぼく知ーらないっと。さて、警察沙汰になる前にまずは僕が男である事から説明するとしようか……
そんな、僕こと崩上湊と、お隣さんの息子である兵頭一誠君こと通称イッセー君の日常は、いつも大体こんな感じで過ごしています。流石に、今日はやり過ぎな方……かな?