IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
仕事自体は別の学部の研究室の手伝いなんですが、ちょっとした手違いで迎えのバスが一時間も遅れてその分外で待たされて……もう暑いわ暇だわ散々でした。これが後四回もあると思うと………orz
まぁ本編はそんなんとは全く関係ない展開ですが。それでは、どうぞー。
ぶつかり合う純白の騎士【白式】と操縦者の怒りと相まってまさに“怒れる龍”な【甲龍】。
出会い頭の衝突は互いの得物による物だった。
白式の方は日本刀の造形をそのままに最新技術の粋を集めて造られた刃である、“雪片弐型”。
対する甲龍の得物は相手が国の名前を冠する刀ならば、こちらは銘に“竜”を冠する二対の青竜刀からなる“双天牙月”。
共に両国が誇る近接戦闘における代表格。その初撃を制したのは……
「で、ぇええええいっ!」
「…っ!」
裂帛の気合で二刀を振り抜き、甲龍が白式をその刀ごと大きく後退させた。
それは本来のスペックであればあり得ない光景。
近接戦闘のみに特化した白式は、その燃費の悪さと取り回しの悪さを覗けば近接時における攻撃力、洗練された装甲は操縦者の稼働を阻害する事無く100%のパフォーマンスを発揮させ馬力においても他の第三世代と比較しても加速、膂力ともに最高クラスのIS。
ならば甲龍の方はというと、こちらはイメージ・インターフェースを用いた特殊兵器の搭載を目的としたその他大勢の第三世代とは真逆のコンセプトである、安定性と燃費を重視した結果高い水準での安定性を実現した機体だ。
しかしそれは裏を返せば特化した能力が無いという事であり、クロスレンジでぶつかり合った場合、白式が押し負ける要素はまず無いと言っても過言ではない。
ならば機体以外にそれを為した理由……それは一重に、操縦者のレベルの差。
甲龍を駆る凰鈴音は他の代表候補生と比べると選出された時期が遅い方であり、訓練時間も相応に少ない方であると本人もそれを自覚しているところがある。
が、彼女にはそれを補って余りある戦闘センス。或いは、戦時中における怯まない度胸、勝負勘といったある種の才能に恵まれそれが彼女のスキルアップを高いレベルにおいて実現した。
それはスペックで負けていようが、相手が未だ素人を抜け出しつつある程度でしかない織斑一夏ならば尚の事。その程度の差ならば、彼女の実力を以ってすれば埋める事はそう難しい事では無かった。
「(……いやー、こうしてやってみると分かったけど、コイツ本当につい一、二か月前までISに触った事も無いっての? 何つー習得の速さしてんのよ、鈍感さといい、癪に障るわね……ッ)」
未だ代表候補生レベルには遠いとはいえ、それでも一般生徒として見れば十分に今の一夏はトップクラスの実力を持っている。それは代表候補生としてその名に恥じない実力を備えている鈴だからこそ、たった一度刃を交えただけで理解できた。
が、今はまだその程度。さらに言えば、ここに来てもう一つ。彼女が白式に競り勝ったのには理由が存在していた。
再度突撃をかけてくる白式の雪片弐型の刃筋をギリギリまで見極めながら、その筋をズラすように双天牙月の内一刀を合わせて威力を相殺し、続く二刀目で白式の腹を薙ぐも突撃を躱わされた一夏は深追いする事無く、受け止められた時点で後退を始めていたためかろうじてダメージを食らわずに済んだ。
その後も数度の突撃をしかける一夏と白式に対し、表面上の怒りとは裏腹の冷静さでもって一撃一撃を丁寧とも言える技術で躱わし、防ぎ、そして空いた二刀目で追撃を行う。
流石にこうも攻撃をいなされて、一夏も自分と鈴との実力の差を噛み締めるしか無かった。
彼とて訓練を怠っていた訳ではない。鈴と同じく代表候補生であるセシリア・オルコットや篠ノ之箒による二対一の特訓を経て、その操縦スキルも彼が実感している以上に成長を果たしている。
だがここにきて彼の経験における一つの弱点を、一夏は認める他無かった。
「(……くそったれめ。鈴の奴がここまでやるとは思わなかった……! やっぱ代表候補生に正攻法を挑んだのがマズッたってか畜生め)」
恐らく戦えばセシリアと鈴の実力は拮抗するだろうと一夏は踏んでいる。が、自分がどちらともと十回戦ったとしてその勝率の高い方と尋ねられたら、一夏はまず間違いなくセシリアの名をあげる。
それは実力差云々と言うよりは、完璧に相性の良し悪しの問題。
セシリアの戦術は相手との距離をとってその精密な射撃とビット兵装による波状攻撃が理想形であるが、彼女自身その長所を伸ばした代わりに近接戦闘のスキルはいっそ悲しい程に低い。それは彼女が近接武装である『インターセプター』をわざわざ名前を呼んでコールしなければならない事実から、如何に苦手としているか分かるところだ。
さらに、彼女の武装の大半がBT兵器。つまり、エネルギー無効化能力という反則的な攻撃力を誇る雪片弐型の持つ“ある能力”とは相性が最悪であり、彼女の懐にさえ踏み込めれば一夏の勝ち目は十分にあるのだ。
だが彼女と同格の強さを持つ鈴には、そういった相性の良し悪しが存在しない。いっそ相性レベルで言えば最悪の組み合わせとも言えるほど、白式と甲龍の相性は悪かった。
セシリアのブルー・ティアーズに対し懐に踏み込む事が勝利の大前提であるのに対し、甲龍にはそれが無い。
そも白式には近接武装、もとい刀一本のみということ戦闘において近接戦闘しか出来ないという欠陥があるがそれは変じて、近接戦闘における無類の強さを発揮するという事でもある。
だがその白式が本来の強さを発揮するクロスレンジの舞台で、白式は甲龍に競り負けた。
この時点で一夏と白式には正攻法で攻めるという選択肢は無くなる。
無論一夏とて相手が自分の知り合いとはいえ、代表候補生、そこに純然たる自身との実力差がある事は分かりきっていたがそれでも、近接戦を重点的に鍛え徐々にではあるが白式本来の速さで戦闘出来るようになった今でもここまではっきりと競り負けるとは思わなかった。
「チッ……やっぱやるな、鈴」
「フン、当然でしょ? 私を誰だと思ってんのよ」
「それもそうなんだがな。まさかこんなに近接戦闘で手も足も出ないとは思わなかったんだよ、このちんちくりんが」
「あんですってぇ!?」
素直に負けを認めるのも癪だったので、敢えて聞こえるか聞こえない声音で彼女のコンプレックスを刺激する一夏。
別にそこに悪意は(そこまで)ありはしないが、これで激昂してくれれば多少は冷静さを欠くかもしれない。その程度の目論見ぐらいは持っていたが。
その目論見通り一瞬柳眉を立てて怒りを露わにした鈴であったが、ふと何かを思い出したように首を振って顔から血の気を下げると一度の深呼吸の後、再び不敵な笑みを浮かべた。
「……ふ、フフンだ。アンタの思い通りにはならないわよ、一夏!」
「そーみてぇだな。お前ならぜってぇキレると思ったんだが」
「そう簡単にキレちゃいけないって、口酸っぱく言われたからねぇ……」
遠い目をする鈴に、試合中にも関わらず鈴の行ってきた訓練に興味を抱くのを止められない一夏。
そしてそれは、次の一言で決定的なものとなった。
「―――――ていうか、まさか崩上さんがあんなにスパルタだったとは思わなかったわ。人は見かけによらないって、本当だったのね」
「な、何いぃぃっ!?」
ここに来て一番の衝撃を表情でいっぱいに表す一夏を余所に、鈴の思考は試合が行われる以前、最初に出会った時以来味方をしてくれたある女顔の青年をある場所で見つけたところまで遡っていた………。
・・・・・・・・・・
『えーっと、そのー。お二人さーん? 試合しないのー? ねぇ、お姉さんの言うこと聞こえてるー?』
ちなみに現実において、思考が半ばトリップしている二人を余所に急に動きを止めて遠い目をする中国代表候補生と試合に全く関係なく鈴の肩を揺らしながらオイどういう事だ俺なんて最近会っても碌に話してくれないのにどうしてお前からあの人の名前が出るんだオイ聞いてんのかオイ!とどこか必死な男性IS操縦者がいたのだが…………当人達はまるで気にしちゃいなかった。まぁ当然と言えば当然なのだが。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「……なーんか試合止まってるが、鈴の奴やるもんだな。実力差が元からあったのは分かってるけど、あの唐辺朴の動きだって決して遅くは無かった筈なんだが」
「……ふっふっふ」
「何でお前が得意そうに……って、まさか」
試合はある意味、僕の予想通りの展開に進んでいた。何か止まっていてアナウンスが呼びかけるまでの事態に発展しているとはいえ、それでも鈴音ちゃんが一夏君の攻撃をいなす度に我がことのように嬉しく思う自分がいた。
それはそうだ。何せ、ここ数日自分の訓練の傍ら彼女に生身での訓練を行ってきたのは、何を隠そう僕だったのだから。
「実はさ、一人でちょっと発剄の練習してたら鈴音ちゃんに見つかってねぇ」
思い出すのは久しく練習を欠かしていた発剄と素振りをやっていた夕暮れの事。
剣の才能が無いのは自分でもよく分かってる事だけど、それでも練習をしない理由にはならないし布都御魂を扱うためにも体力アップは必須事項だったのでざっと千本ほど行っていると、近づいてくる気配に気づいた。
気を張り巡らしていたため普段以上に気配に過敏だった当時の僕は集中していたせいか妙なスイッチが入ってしまっていたらしく、気配のした方向につい条件反射で木刀を振り抜いた。
さらに素振りと発剄を同時にしていたのが悪かったのか、抜刀時に剄を纏った衝撃波が生じてしまい殺気が乗っていればまず間違いなく人体を害する一撃を“うっかり”で放ってしまったのだ。
拙いと思った一瞬、発剄に当てられたであろう闖入者の『キャッ!?』という短い悲鳴でさらに顔から血の気が引くのが分かった。その声に、どうしようもなく心当たりがあった故に。
『ご、御免鈴音ちゃん大丈夫!? 怪我してない!?』
『は、は、はい、大丈夫……ってぇえ、何今の!? 何で離れてたのにここまで衝撃がくんのよ!? 波○拳!?』
『大丈夫みたいで何よりだよ……ふぅ』
『いやだいじょばないわよ?! いいから今の何なのか、教えて下さいよぉ!!』
『ちょっ、揺らさないで頭ガクガクしちゃう……!』
一応怪我をさせなくて安堵したものの、驚きのあまり涙目で詰め寄る鈴音ちゃんに今度はこちらが生死の境を彷徨う羽目になったのは、多分僕の修行不足のせいだったんだろう。
その後、僕がある程度武術を嗜んでいる事と先の事象の根本的な原因である剄についての説明と見本を見せる事で何とか落ち着いてもらった。
『ま、漫画みたいな話なのにこうして見せられるとねぇ……』
『まぁ、実際現実だしね。僕も柳崎も最低限の剄操作は出来るし、師匠ならこれで空を走れるし』
『………走れる?』
『うん。走れるの』
『……マジで?』
『うん、マジで』
現実って何だっけー? と遠い目をしていた鈴音ちゃんであったが、すぐにハッとした顔になると何かを決意したかのように手を握って詰め寄ってきた。なまじ相手が可愛いだけあってついドキッとしてしまう筈のシチュエーションも、メラメラと闘志に燃える瞳を見てるとそんな気にもならない。むしろヤな予感しかしない。
『ねぇ崩上さん。こないだ私の味方をしてくれるって言ったわよね?』
『う、うん……』
その異様な雰囲気に飲まれながら、僕は鈴音ちゃんの訓練に付き合う事になった。
とはいえ彼女は僕がISを動かせる事なんて知らないし、頼んできたのはISの訓練の事じゃない。
『一夏が近接戦闘しか出来ないってのは分かってるからね。なら、アイツの舞台で完膚なきまでに倒してこそあんちくしょうを凹ませられると思う訳よ。だから、ISの方の訓練はこっちでやるけど、
『成程、こっちでの動きをISにフィードバックさせるんだね?』
『そーいう事♪ てな訳で崩上さん……じゃなくて、師父! 今日から特訓に付き合って下さいっ!』
『お、応ともさっ。てか、師父だなんて恥ずかしいんだけど……』
『いいじゃないですか、こういうのは気分が大事なんですから!』
『…そーいうもん?』
『そういうものですよ。じゃあ………行きますっ』
模造刀の青竜刀二本を構えて意気揚々と吶喊してくる鈴音ちゃんを前にとりあえず考えをふっ切って、彼女の意気込みに応えるべく僕も全力で彼女との特訓に付き合う事にしたのだ。それが、鈴音ちゃんとの特訓の始まりだった。
・・・・・・・・・・
「――――――って待て待て」
「ん?」
「お前今、“全力”って言ったのか? 全力で、鈴の奴に訓練つけてやったのか?」
「そうだけど……それが何か?」
全く何も分かっていないこのバカを見て、私は思わずアリーナで未だに薄ら笑いを浮かべる少女に同情を送りたくなった。
確かに湊は才能という面で言えば、元より常人を遥かに超えた剄の許容量とその操作技術だけであり、本来の武術ならあくまでも一般人のそれ程度でしかない。
それでもアイツが武術を続けていた理由は実は私もよく分かっていないのだが、私や師匠に近づこうとアイツのしている努力というのがまた……何と言うか、私でも引くレベルだったりする。
そも才能に絶対的な差があるのにそれを理解した上で追いつこうというのだ。それが生半可な努力では足りないのは当たり前だし、湊も分かっていてその努力を欠かさなかった。
それを具体的に言えば、湊レベルの剄による回復能力が無かったらまず間違いなく過労死する。初日で。
一応コイツもそれを多少なりとも分かって手加減はしていたんだろうが、それでも全力。鈴の奴が受けた特訓を思うだけでつい涙が出てきそうになってしまった。コイツ、自分を過小評価してるが打たれ強さと体力だけなら私以上だからなぁ。
それは多分、幼い頃より刻まれたトラウマが湊を無意識のレベルで剄操作の達人に引き上げたのだろうとは師匠の言葉だが、アイツらに弄られて今の湊があると思うと本当に涙が出てきた。
「(だって結局、より強い負荷に耐えるために本能が無理矢理体のスペックを引き上げてるんだものなぁ……哀れな)」
そしてそれをそうだと気付いていない人間が全力で行った訓練。あの少女にトラウマが刻まれていない事を切に願う。
私がある意味幸薄い少女な鈴に手を合わせていると、湊が誰かと話している事に気付いた。誰かと思えば、あの兎の妹の方が申し訳なさそうに何かを頼みこんでいるようだった。
しばらくして会話を終えると、姉の方が絶対にしないであろう苦労人の顔をした少女がこちらにもやってきて説明をしてくれた。その内容を聞いて、私は懸念が現実になった事を思い知りあの少女に今度何か奢ってやろうと強く思った。
…………トラウマが発動して使い物にならなくなったから、湊にアナウンスで呼びかけさせて目覚ましにさせるって。アイツ本当に何したんだ……?
「本当にすいません……織斑先生が言うには、『元凶はアイツだろうからアイツ使って試合を再開させろ』って事で」
「うん、それは分かったけど。僕が声をかけるだけでいいの?」
「(むしろそれしか今の鈴を戻せないんだろ……不憫な)」
無自覚ドSで無自覚ドM。厄介な性癖な幼馴染に私はかける言葉を持ち得なかった。
その後、湊がアナウンスで呼びかけた事で何とか試合が再開されたが鈴の方の動きが何処か必死な物に代わり、織斑一夏の方は湊に応援されていると勘違いしその妙なやっかみを力に変えて鈴の動きに食らいついていた。相も変わらずその気も無いのに人を振り回す。だからこそ、コイツ自身不憫から離れられないんだろ……因果応報、此処にあり………って事なんだろう、多分きっと。