IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
一応話の屋台骨は組み上がりつつあるのですが、被ったりするのが怖くて色んな二次小説を漁ってます。いやぁ、何であんな面白いんだろ皆……精進せねば。
「………くふふふっ♪」
暗く光を閉ざしたある一室。
IS学園の敷地の中でも数が限られている個室のうちの一つであり、そこを割り当てられる人間はごく限られた生徒しかいない。
世界各国から生徒を招致しているIS学園の中に置いて、代表候補生よりも優遇措置が用意されている生徒となれば一体どれほどのVIPなのか。
そしてその“ごく限られた少数”である少女は、一人豪奢な造りのベッドの上で笑みを零していた。
常識で考えれば、話す相手もおらずたった一人でテレビも点けずに何が可笑しいのか不思議に思うか、悪意的に見るのであれば気が触れているのか疑わずにはいられないほど、少女の浮かべた笑みは……昏かった。
「嗚呼……っ。今日もまた見つける事が叶いませんでした………私の桃色の君は、一体何処にいらっしゃるの……?」
いっそ泣き声のように掠れた声は、少女の視線の先。
ベッドの天蓋裏に大きくプリントされたある写真にのみ注がれ、恰も天に届かんと手を伸ばすように、或いは………恋い焦がれて止まない相手に触れるように、両の手が伸ばされる。
「今日でもうどれ程の時間が経過したでしょう……。貴方に会えない時間が重なっていく都度、私は貴方への想いを一人で慰める事しか出来ないのです………っ」
少女の体が大きく震える。自身を抱きしめるように身を屈めるが、無意識下の少女の感情は肉体にすら影響を及ぼししばらくの間、少女から震えとそれに伴う熱が収まる事は無かった。
……そうして少しの時間が経ち、少女は悩ましげな息を吐きながら着たままだった制服の上着から一冊の手帳を取り出した。
生真面目な生徒ならば誰もが携帯している生徒手帳。それを携帯しているという事は、この少女が少なくとも周囲からは生真面目であると思われている証左である。
が、それが少女の本来の姿かと問われれば、否。その答えしか無い。
何故なら少女と親しい者でさえ、夜な夜な少女が深夜に耽っている行為を知らない。誰も、少女の胸の内を知りはしない。
それはこの少女がそれだけ普段を
「……こうして写真越しでしか私の想いを聞いて下さらないなんて、なんて焦れったいお方……」
聞き様によれば不満のような言葉を呟く少女の顔には、昏い笑みも泣きそうな声も含まれない。ただただ純粋な、この年頃の少女であれば誰もが抱いてもおかしくない、一つの感情が笑みと羞恥が綯い交ぜになった複雑な表情として浮かんでいた。
その写真は天蓋の物と同じ人物が写し出されている。少女の持つ権限によって得られた、学園の至るところに設置されてある警備カメラが捉えた彼の者を写した唯一の手掛かりだ。
場所はアリーナ外部と観客席を繋ぐ通路。
アリーナの出入りの要所の一つであるそこには当然のようにカメラが設置してあり、学園主催のイベントの際に多くの関係者を招く事もあるため誰もそのカメラを不審には思わない。
だからこそ、その写真に写っている“彼女”の表情には怪訝さなど一切無い。自分が映っていると考えはしても、まさか動画の一部分を切りぬいて画像にして持たれているなど、写真の少女が考える訳が無い。
そしてそこに写っているのは、二人の女性。
一人はここ最近になって非常勤講師として体育の授業を受け持っている赤髪の女性。
目的の人物と親しげに会話している様子は少女にとって腸が煮えくりかえるような嫉妬を覚えて久しいものだが、目的に近づくための手掛かりでもある。
その顔に爪を突き立て上下に引っ掻き、既に何回繰り返したかも分からない行為で溜飲を下げたところで漸く本命の姿を目に焼き付ける。その際、隣の女や背景など少女の脳内からは情報が除外されただ唯一、彼の人物しか少女の目には見えていない。
「……あぁ、何時見ても飽きるという事が無いその笑顔を、何時私だけに向けて下さるのですか……?」
リボンの色を見る限りは自分より下の学年である事は間違いなく、だがそれとはまったく関係なく少女にとってそこに写っている少女は特別だった。
隣の赤髪の女性と談笑し、顔には一切の穢れを感じさせない、純化された『喜』や『楽』の感情そのままの笑みを浮かべた少女。
彼女の笑顔を見る度に、少女は己が胸に宿る篝火が大きくなるのを感じていた。
それは全てを焼き尽くすように激しい筈なのに、不思議と苦しさを感じない。
それどころか、その炎が大きく猛ける度に感じるのはその少女への愛おしさ。
その笑顔をもっと間近で見てみたい。他の表情も見てみたい。きっと彼女の事だ、例え曇った表情でさえ自分を満たしてくれるに違いない。
それだけじゃない。彼女の声が聞きたい。
彼女の髪に触れてみたい。
彼女の肌を撫でてみたい。
彼女と手を繋いでみたい。
彼女に自分を触って欲しい。
彼女が何を考えているのか知りたい。それに自分を見て欲しい。自分をどう想っているのかを聞いてみたい。
感情だけが昂り、日増しに彼女への想いが焦燥を駆り立てる。
「私は貴女を探しているというのに、貴女はまるで気紛れな風が見えないように私の前に現れてくれない……」
唯一自分の目で見た彼女はその時を境に、まるで泡沫の夢のように学園で見かける事が無くなった。
名簿で探してみても少女の写真は手に入らず、今自分が持っている写真も自分の立場を強引に使って手に入れたものでしかない。それも、かなり強引だったため実家からは厳しく言われたまま。
しかし少女にとってそれは些細な問題。彼女へと傾ける少女の熱意は、実家からの苦言を物ともしていなかったのだ。『恋は盲目』、真実その通り少女―――――皇燐沙桐には写真の彼女しか見えていなかった。
「――――――――けれど」
皇燐沙桐にとってこんな感情は初めてだった。
皇燐沙桐は生まれて初めて、
何より……皇燐沙桐は、生まれて初めて“恋”という感情を知った。
それは少女にとってまさに青天の霹靂とも言うべき出来事。ならば、この想いを諦める理由など、少女には存在しない。
「この教師……確か、柳崎來蓮先生、だったかしら? 少なくとも彼女はこの方の事をお詳しそうですし、それに……」
この教員が更識の当主と話している姿を沙桐は知っている。
そう、“更識”の人間。自分が彼女の事を調べる際、学園の映像データの閲覧を申し込みに行った時に居合わせたのも、更識家当主。
別に、相続権も無ければ皇燐の飾りでしかない自分にとって家同士の問題など興味外というよりも、意識の外の問題で特に何かを思う事は無い。
ただ、相手がそうかと言われればそうじゃない筈。つまりまだ、更識当主が自分に何かを隠している事が……
「例えば、あの方と更識当主と柳崎先生が共通の知り合い、とか……」
あの教員が自分を避け始めたのはつい最近。この写真を手に入れる為に行動したすぐ翌日に、露骨ではないにせよある程度人の意識の動きを読める沙桐からしてみれば、來蓮が自分に近づかないようにしている事は明白だった。
ならば、彼の人物と知人である事は間違いない彼女が自分を避ける理由なんて知れる。自分と彼女を出会わせたく無いからだ。
その理由は知らないし、沙桐にとっては至極どうでもいい些末な物だ。
「徹底的に隠し通すおつもりなら、断絶しなければならない。ほんの僅かにでも繋がりがあるのなら、それは綻びを生みやがては堅牢な城砦をも破る隙となるのですよ、先生?」
手掛かりがある。彼女へと繋がる道が存在するのであれば問題無い。ただ驀進し、立ち塞がる悉くを踏破して堂々と彼女を見つければいい。
「………あらいやだわ私ったら。堂々となんて乙女らしくない……殿方では無いにせよ、女性はか弱い方がよりよく見られる傾向があるとこの恋愛マニュアル『これで貴女もリア充に! 彼氏をオトす百の方法』にも書かれてありますもの。えぇ、相手が同性でもきっと通用する筈!」
もう少女の脳内では彼女との嬉し恥ずかしキャッキャッウフフな結構生活二年目が先行上映されていたりするのだが、それは少女の脳内でしか上映されていないため幸か不幸か、誰も少女の妄想に歯止めをかける事は出来なかった。
こうして意図せずに意中の相手を地獄へと誘う想いを膨らませながら、沙桐は汚れた制服を着替えて三年の使用時間である事を確認して浴場へと向かった。
そこにはもう優等生であり皇燐の令嬢である“皇燐沙桐”の仮面を被った少女しかおらず、妄想で汚れた制服は人知れず洗濯機の中なので誰にも少女の胸中を知る術は無かった。
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どうも、最近自分が実はトンでも無く不幸な人間じゃないかと思うようになった、崩上湊。DNAも戸籍も間違いなく男で♂でXY型です。
漸く体の方も復調してくれて、少し鈍り気味な体を解すべく室内で念入りに柔軟に励んでいたり、調整が終わったちかねちゃんと漸く完成したもう一人の被害者とも言うべきラファールちゃんこと命名「風子」ちゃんと駄弁りながら僕はぽつりと一言。
「………暇だ」
『ひまだねー』
『で、でもでもっ。ご主人様はお命がデンジャラスなので仕方無いと思うのですよっ』
体を動かしていても室内じゃやれる事も限られてるし、話をしても話題なんてそう長くも続かない。一日だけならまだしも、三日も閉じ込められればこうもなる。
皇燐のご令嬢に“女”として惚れられたと告げられて以来、柳崎からは念入りに『絶対部屋から出るな』と言われているし、お嬢様からも『とりあえず更識との繋がりは絶対に言わないように。一応こちらも準備はしてるから多少は問題無いつもりだけど…』と最後の方は言葉をぼかしながらだが、なるべく外出は控えるように言われた。
僕だって命は惜しいし、更識には世話にもなっているから迷惑をかけたくないので外に出ないようにしているんだけど、ぶっちゃけ暇でしょうがない。
料理するにも買い出しすら許されず、専ら現在は篠ノ之謹製である警備ロボにちかねちゃん達のAIをインストールしておつかいを頼むのが精いっぱい。これは篠ノ之がロボットを遠隔操作して外出せずに外で買い物をする時に重宝した技術なので、怪しまれる事も少ない。
そう、別に僕が外出しなくたってこの倦怠とか暇にさえ目を瞑れば生活に支障は無いのだ。無いんだけど……
「それでもひーまーだー!」
もっとリハビリも兼ねて体を動かしたいし、折角鈴ちゃん達とも特訓の約束をしたというのにこれじゃ全快したというのに意味が無い。
流石に更識の事情を知らない子達には訳アリだと言って話題から避けさせているけど、事態が好転しない限り何時までも黙っておけないと思う。
『わっわっ! ち、ちかね先輩ちかね先輩! ご主人様がナウにもメルトしてしまいそうですっ! エニシングしてあげられないでしょうかっ!?』
『……んー?』
『そのアンニュイな返事はホワイ!?』
『だって~、ふーこちゃん何ゆってるのか分かんないんだもん。何でフランス人? なのにルー語なの?』
『それは……その、ミーは確かにおフランスが発祥の第二世代ISですけど、バースはジャパンですし、それでも国外キャラという個性を維持するためにもこうしてイングリッシュだけでもスタディしようと!』
『だ~か~ら~、何ゆってるのかわからないってばー! もうっ!』
ちかねちゃん達のやり取りは聞いてて非常に面白いんだけど、声が首のチョーカーとネックレスから聞こえてくると思うと正直、煩いと思わなくもない。というか、どうして皆首につける物が待機形態なのさ、首輪といいチョーカーといいネックレスといい……これでたままで加わったら僕の首がえらくゴテゴテしてしまう。
閑話休題。
「お嬢様が今僕が更識家の関係者じゃ無いように色々と手を打ってくれてるらしいけど、それが終わるまでは外出られないとか、これじゃ干物になっちゃうよ……」
『干物といえばミーは一度で良いからちりめんじゃこをこれでもかってぐらいにイートしてみたいですっ』
「え、ISでも食欲みたいなのってあるんだ?」
『はいですっ。ご主人様達のお食事をシーする度に、ミーも何時か……そう思わない日はないですねっ』
IS、というか風子ちゃんの予想外の考えに多少驚きつつも、本題はこの現状についてだ。というか、ところどころに英語っぽい言葉が混ざると偶に何言ってるのか分からないんだけど、何とかならない?
『それはミーに個性をポイしろという事ですかっ!? そ、そんなのオーボーデース!』
「言えないからって外人訛り……」
『ふーこちゃん、おねがいだから分かることばでしゃべってよ~』
どうやら『横暴』を英語では言えなかったらしい。やたらハイスペックかと思いきや、ISにも苦手分野はあるらしい。まぁ知ったからどうしたって話なんだけど、いやそうじゃなくて。
「今の問題はこの有り余る暇と持て余し気味な体力を消費する事であって、漫才もそれなりに楽しいけど僕としては運動したい気分なんです。具体的には組手ちょーやりたい」
ちかねちゃんを振り回せるようにするためにも体力向上は必須だし、あんな大きな剣を振った事なんて今まで無かったからどういう動きをすればいいのかとかもやってみたい。
それに今は風子ちゃんもいるので、彼女を使った武装の使い勝手とかも確かめておきたい。いや、大鑑巨砲主義って男の子なら誰でも憧れない? 篠ノ之曰く『ロマンの詰め込み過ぎは良くないって言うけどほら、欲望を解放しろって誰かが言ってたじゃない?』らしい。怖い物見たさもあって、早く見てみたい。
でもそれらを行うためにはアリーナなり道場なりに行かねばならず、そうなるとどうしても人目に触れてしまう。それでは皇燐のご令嬢に見つかる可能性が増えてしまうし、お嬢様の手配が済んでいない以上外に出たら柳崎に叱られる。同い年なのに叱られるってなんぞ………。
『言ってても始まりませんし、もうスイミングしたらどうですっ?』
「いや泳いでどうする……あぁ、寝ろって事ね。でもそれって確か、スリープで良かったんじゃないの?」
『……ISにだって、のっとあんだすたんな事ぐらい、あるですっ……』
「そこまで言ったらもう“分からない”って言いなよ……」
それに今寝たら夜眠れなくなるじゃないか。そう文句を言おうとして口を開きかけたその時、
―――――――ドンドンドンッ!
『『『………はい?』』』
控えめ……とはお世辞でも言えない荒っぽいノックが宿直室のそう広くない部屋に響き、僕達はそれまでの会話を一時ストップして扉を凝視した。いや、二人も気分的にはちゃんと凝視していた筈だから、嘘じゃないよ?
それはともかく、この部屋にノックとは珍しい。そもそも使われていないから僕と柳崎はここを使わせてもらってる訳だし、柳崎は今学園での仕事で出向いているためここにはいない。すなわち、表立って存在が知られていない僕を訪ねてくるような人など篠ノ之とかぐらいしかいない。
もっと言うと、その知人に限ってそもそもノックなんてしない。大概ノックを待たずに飛び込むように入ってくるのでこれが知人の誰でも無いと伺える。
「(……これってもしかして、僕人生詰んだとか?)」
『(いやいやそんなまさかですよ、いきなり敵本陣にチャージしてくるなんてそんなですよっ)』
『(でもどーするの? もしそのおじょうさまが相手なら、みなとしんじゃうの? しぬの……ヤだよ……)』
『(わー! 先輩がマジ泣き五秒前ですっ!? ほらご主人様早くレスキューしてあげるのですっ)』
やかましい。それにいきなり死ぬ訳じゃないから、きっと。
ちかねちゃんを宥めて、一応臨戦態勢を整えながら気配を消して扉に近づく。何があってもいいように、手には木刀を構えて、そして……
「(ドンドンドン!)はーい、今開けまーすよtt」
しつこいノックに少しうんざりしながら扉を開けて、
「―――――シッ!」
「っ!?」
目に飛び込んできた黒色の何かを木刀で受け止め、突然の来客と鍔迫り合いに入る。てかまさかの嫌な予感的中かオイィ!?
しかし相手の方の力はそれほどでも無く、弾き飛ばして距離を取って改めて敵の姿を視認する。
僕よりも背が低く、怜悧さを覗かせる隻眼は何処かの誰かを連想させる。眼帯をしているようだが、動きからして別に片目が失明してる訳じゃ無さそうだ。てか、
「……成程。一応、噂される程度の実力は持っている訳か」
「いや、いきなり人の切りかかってきて何なの君!? てか何事!?」
「貴様に恨みは無いが……教官と渡り合ったというその実力、確かめさせてもらうっ!」
「いや知らんがな!? てか話の余地すら無しですかぁぁぁぁああああ!?」
皇燐の関係者……では無いのかな? 銀髪だけど。
しかし話を聞いてくれる様子でも無く、仕方なく臨戦態勢のまま眼帯少女の突撃を迎え撃つのだった……ていうか本当の君誰ええええええええええええええええええ!?7