IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか?   作:イイ日旅立ち

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台風が随分と物騒なコースで近づいてきてて戦々恐々な方のイイ日旅立ちです。このままでは日曜の飲み会が……!


てな私的事情はともかく、三十話ですよ三十話。結構な話数の筈なのに全然話的には進んでいないという……あれぇ?


第三十話

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いて! 一生のお願いだから落ち着いて僕とお話しよう! 肉体言語じゃなくて!」

 

 

「御託は要らない! 今必要なのは、貴様の腕だっ!」

 

 

「うわぁい聞きとり方次第じゃ猟奇的意見だなぁチクショー!?」

 

 

 

 

 ガキンッ! と甲高い音が耳に響く。久しぶりの剣戟は突然の来訪者によるナイフとだと思うと、この状況がより混沌な気がするので敢えて考えない。

 

 

 ナイフの近接戦闘における利点は、その小回りの利き易さが挙げられる。

 

 

 小回りは言うまでもなく、長くても30センチ程の刃渡りしかないそれはリーチこそ短いが、それ故に人の手でも扱い易く、また極めれば『速度』という近接戦闘の最重要項目を制す事も出来る。敵の懐に飛び込みさえすれば、引鉄を引くよりも剣を振り下ろすよりも先に、相手の首を掻く事が出来るのだ。

 

 

 

「疾ッ」

 

 

「わわっ!? っと!」

 

 

 

 そういった視点から見れば、彼の少女はかなりの熟練なのだろうともう幾度目になる斬撃を捌き距離を保ち続ける。

 

 

 小柄な体躯は獣のようなしなやかさを感じさせる疾駆と共に、恰も一撃を風のように放り込んでくる。しかも丁寧に急所を確実に狙うコースにばかり来るものだから冷や汗が止まらない。

 

 

 自分よりも背の低い相手とこうして刃を交える事は今まで無かったけど、相手が小さいというのは的がそれだけ小さいという事であり、木刀を揮うも中々芯を捉える事が出来ず悉くをナイフで受け止められる。

 

 

 

「(この子……かなり戦闘慣れしてる……!?)」

 

 

 

 得物の長さの違いは当然のように、木刀を揮う僕に軍配があるのだがそれを意に介さず少女は刀身が短い筈のナイフで器用に木刀による斬撃を受けている。

 

 

 時たま揺れる事もあるが、あれは間違いなく僕の攻撃を『見えた』上での防御だ。確かに木刀だから喰らっても死なないという考えは持っているのだろうが、それにしても攻撃への対処が恐ろしく冷静だ。

 

 

 リーチの違いを恐れない踏み込みに、確実に急所を狙う正確性。

 

 

 これだけ揃って、まさかこの少女がただの少女だなんて僕だって思わない。こんな女の子が当たり前のようにいたら、もっと昔からこの世界は女尊男卑になっていただろう。

 

 

 

 しかし事態はそれどころではない。多分このままやれば僕は負けない。それだけの実力差があり、柳崎や師匠程の威圧も感じない相手に怯むつもりも無い。が、

 

 

 

「……つぅ…っ」

 

 

「っ! そこだっ!」

 

 

「うおおっ!? あ、危ないでしょちょっと!」

 

 

「フン、狙っているのだから当然だ。それより貴様、先ほどから顔色が悪いようだが……臆したか?」

 

 

「まっ……さかぁ!」

 

 

 

 半瞬意識がぼやけ、その隙をすかさず少女のナイフが閃くように突き出され遅れてナイフではなく少女の手の方を掴み、鼻先数センチのところで止める事が出来た。出来なかった時の事は考えたくも無い。

 

 

 そのままナイフを突き立てようとする少女と僕との間に均衡状態が続くが、左手に木刀を持ち替え少女を薙ぎ払うように逆袈裟に揮う。

 

 

 奇を衒ったつもりの一撃だったが、それは少女に掠る事も無くバックステップで避けられ攻撃した筈の僕の方が勢い余って踏鞴を踏んでしまう。

 

 

 

「(徐々に動きが鈍ってきている……? 体力が底を突いたか…?)」

 

 

「(や、ヤバい……もう息が……っ)」

 

 

 

 実力差はある。が、それを覆しかねない程に今の僕は万全とは程遠い。

 

 

 既に怪我も回復しているが、寝たきりだった体力は未だ戻っておらず軽神功を使って強化を施そうにも、その剄に体の方が耐えられる状態じゃない。

 

 

 僕の戦法はあくまで剄ありきで組み立てる、ある意味ごり押しもいいとこの体力勝負であるためにこのハンデはかなりデカい。

 

 

 相手の実力も相応である事と、あちらのナイフの切れ味が想像以上である事から無理矢理剄で体を強化して木刀にも僅かに化剄を流している事で既に体はガス欠に近い。

 

 

 

 でもそんな事情を相手が察してくれるなんて道理は無く、容赦なく飛び交うナイフの斬撃をかろうじて捌くも時折体の方が意識とは別にブレてしまう。剄で無理矢理補っている体力は既に底を突いていて、少しでも意識を抜けば動けなくなってしまいそうな程だ。

 

 

 

「ここまでか……多少はやれるようだが、これで教官と渡り合ったなど到底信じられん。不調だろうが、これで終わらせてもらう」

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 

 

 状況は最悪と言っていい。あの子が誰かは全然分からないけど、さっきからの容赦の無い攻撃からして素人ではなく、何かしらの訓練を受けているかナイフを見る限りだと軍人のようにも見える。刀剣ならばまだどこぞの使い手なんて思えただろうけど、ナイフの使い方を教えるのは主に軍隊などだ。

 

 

 でもそれじゃ余計に襲われる理由が分からない。僕は別に軍隊に知り合いはいないし、恨みを買った覚えも無い。

 

 

 つかさっきから好き勝手言ってくれてるけど、教官ってそもそも誰? 何で僕が知りもしない人と比較された上に残念そうというか若干見下されながら勝利宣言されてんの?

 

 

 

 ――――何か、腹立つ。いきなり理由も話さず訳も分からないまま襲ってきたこの少女に、このまま負けてしまうのはとてもじゃないけど平静じゃいられそうにない。幾ら僕が弄られ慣れてるからといって、不運で殺されるなんて冗談でも嫌だ。

 

 

 

 こちらが碌に動けない事が分かっているのだろう。少女はやや大きめにタメを作り、分かり易く次の一撃で仕留めると言ってくれている。

 

 

 上等、内心その言葉を浮かべて来る一撃に対し木刀を腰に差すように構え直す。

 

 

 来ると分かっているなら動かなくていい。今までは女の子だからと思っていたけど、こんなので死ぬのはまっぴらだ。

 

 

 

「(少し怪我させちゃうかもだけど………こんなところで死ぬつもりはさらさら無い……!)」

 

 

 

 まだ何もしていないのに死んでたまるか。何故か浮かんだ誰かの顔を振り払おうとした瞬間、少女が動いた。

 

 

 

「これで―――――終わりだっ!」

 

 

「………そっちがな」

 

 

 

 油断はあっても手を抜くつもりは無いのか。それまでで一番速い踏み込みで突き出されたナイフを僕は極限の集中力を以って凝視し、切っ先を射程圏内に捉えて腰だめの木刀を―――――――

 

 

 

 

 

「止めんかバカ共ォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ―――――――振り抜く前に、突如として頭に落とされた衝撃で突然始まった戦闘は、始まりと同じように突然終わった。或いは、強制終了とも言う。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「HRも待たず消えたかと思えば……何をしている、ラウラ・ボーデヴィッヒ?」

 

 

「は、はっ! その、クラスの連中が話していた教官の攻撃を凌いだ相手というのがどうしても気になり、私自らの手でそのようなデマを払拭しようと……」

 

 

「ほぅ、デマか」

 

 

「その通りです! 教官がこんな奴と同等のように思われるなんて心外です!」

 

 

「君、初対面の人間に対して随分無遠慮ですね」

 

 

 

 宿直室は現在進行形で説教部屋に変わっている。

 

 

 

 何故か被害者である僕まで正座を強いられ、その隣には主犯である眼帯少女ことラウラちゃんがいて、僕達の目の前には仁王立ちの織斑が立っていた。

 

 

 一応戦いを止めてくれたのは嬉しいし、この子が皇燐の関係者じゃなくて心底助かったと思うも僕今バテバテなんだけども。その上の正座とか最早シンドいを超えて拷問だ。

 

 

 そんな僕の声はしかし、二人の世界を構築している二人には届いてくれない。何と言うか、独特の空気を互いに放っているというか……こう、教師と生徒なんて関係じゃないような。だって“教官”とか呼んでるし、やっぱり軍人とかなのかな?

 

 

 

「……はぁ。すまなかったな崩上。病みあがりと聞いているが、実際どうだ?」

 

 

「お前が正座を強いてなきゃ今すぐにでも気を失えるぐらいバテてるよ」

 

 

「それだけ喋れたら十分だろ。しかしまぁ、何と言うか……」

 

 

「……あにさ」

 

 

 

 謝ったと思いきや何やらムカつく言葉が聞こえてきましたよ? 本当にこちとら疲れ果てているのに、そのニヤニヤした視線は何だコラ。

 

 

 

「随分とまぁ情けない姿だと思ってな。本当に、あの時私の攻撃を防げた相手とは思えないぞ?」

 

 

「やかましい。絶不調なんだからしょうがないでしょ」

 

 

「殺す気の私の攻撃は凌げておいて、ラウラの未熟な攻撃でバテるとかナメているのか。それじゃ私が弱いみたいだろ」

 

 

「お前何だかんだ言ってそれが本音だな!? 僕の心配欠片もしてないだろ!」

 

 

「フンっ。誰がお前などの心配をするものか。いっそ傷でも付けていれば笑ったものを……」

 

 

「お前、一夏君が絡まないと碌な人間じゃないな。多分、僕限定で」

 

 

 

 ひょっとしたらあの場面以前から僕達の戦いを見ていたんじゃなかろうかコイツ。今度一夏君にある事無い事吹き込んでやろうか。

 

 

 拳をギリギリ握り込みながら苛立ちを抑えていると、隣のラウラちゃんが困惑したように織斑の顔に視線を投げていた。だいぶ尊敬しているらしい相手のフランクな姿にビックリした、そんなところだろうか?

 

 

 

「きょ、教官……」

 

 

「教室でも言ったがな、ここでは先生と呼べ」

 

 

「はっ。では先生、本当にコイツは貴女と渡り合った猛者なのですか? 確かに体調不良なのは顔を見れば分かりますが……」

 

 

 

 そんな相手にガチバトルを仕掛ける君の感性を僕は疑います。てか、知っててあんなナメた台詞ぬかしてくれちゃったのかこの子は。うん、弄りはともかく、侮られるのはちょぉぉぉぉぉぉっと、お兄さん我慢ならないかな? かなかな?

 

 

 チョーカーとネックレスから直接頭の方に『どうどう!』と伝わってくるのがこれまた腹立つ。僕は馬か何かか。何だろうもうこれ、僕最近本気でツイて無さ過ぎる。

 

 

 思考に没頭している傍ら、二人の方は二人で勝手に何かを話しているけど正直内容が頭に入ってこない。もう好きにやってくれと言いましょうか、そもそもいまいち僕が巻き込まれた理由が分からない。

 

 

 

「コイツは先日ちょっとした事故から退院したばかりで体力も回復し切っていないんだ。そんな相手に勝ってお前は自慢するのか?」

 

 

「そ、そのような事はっ!………くっ、ならば貴様!」

 

 

「年上だぞこっちはコラ」

 

 

『『っ!?』』

 

 

 

 ん? 何で織斑まで瞠目してんの? 僕はいい加減目上というか年上相手に口調を改めないラウラちゃんに注意をしただけなんだけど……何その『びっくりした』的な顔は。

 

 

 

『(……あの、今のみなとすっごくこわくなかった?)』

 

 

『(ミートゥですよ……今のご主人様、大概頭にキてるっぽいですよ……あわわ)』

 

 

 

 全く、確かに僕は織斑のようにしっかりした外見じゃないんだろうけど大体僕達の会話から年代が同じという事ぐらい分かるだろうに。全く、本当に全く……。

 

 

 

「で、何か用? 僕もうすぐにでも寝たいんだけど」

 

 

「あ、あぁ……その、すまなかった。年上のように思えなかったものでつい」

 

 

「うん、今後気をつけてね? 僕だから良かったけど、こういうのに口うるさい人もいるからさ、怒られないように織斑以外にも敬語を使うようにしてね」

 

 

「う、ぃや、はい………ではない! その、私は貴女が教官と同格だとまだ認めた訳ではないっ!」

 

 

 

 『貴女』か……うん、もう自分の性別が誤解される分には怒らない。怒りませんよ、僕。本当ダヨ?

 

 

 

「だから、今度は体調を万全にした状態で私と戦……って、下さい」

 

 

「うん。良く出来ました」

 

 

 

 途中で何とか言葉を言い直せていたようだけど、そんなに僕相手に敬語は嫌ですか。何と言うか、社会に向かなそうな子である。軍人気質なのに礼儀を払うのが織斑だけとか、上下の関係にも響きそうなものだけど……注意された事無いのかな? 僕の説教にも驚くぐらいだし。

 

 

 ラウラちゃんがそう言って二人が部屋を出て行き、入れ替わるように入ってきた柳崎と山田がこちらに駆け寄ってくるが僕はそのまま体を横に倒した。ごつんと卓袱台に頭をぶつけてそれなりに痛いけど、気が抜けたせいかもう動く気がしない。最近こんなんばっかな気がするなぁちくしょうめ。

 

 

 

「おい湊、お前大丈……夫じゃないな。顔色最悪に悪いぞ?」

 

 

「千冬ちゃんに何かされたんですか!? 何かされたんなら、私からしっかりシメ……言っておきますからね!」

 

 

『お姉ちゃん達! あのねあのね、さっきあの銀髪の子がみなとにおそいかかってきたの! みなともがんばったけど、すぐにかおがあおくなって!』

 

 

『まだ体力がリカバリーしてないみたいで、それで途中でバテてしまったですよ。あのまま織斑ティーチャーが来なかったらえらいこっちゃでしたよ……』

 

 

 

 二人に肩を支えてもらいながら布団まで連れていってもらうが、この、何だね。この圧倒的情けなさというか、こうも迷惑をかけっ放しだと本当に申し訳ない。

 

 

 それもこれも全部僕が悪いのか。それとも星の巡りが悪いのか。多分、その両方だと思うけどそれはそれで救いが無さ過ぎる。

 

 

 

「本当に……迷惑かけてばかりでごめん」

 

 

「っ……、な、ならさっさと寝て治せ。そしてまたお前が飯作ってくれ、それでチャラにしてやらない事も無いっ」

 

 

「そ、そうですよっ! むしろ私なんかずっと迷惑かけっ放しだったと言いましょうか、いつも湊君に酷い事してばかりでしたし、こんな事ぐらいならお安いご用ですっ!」

 

 

「そ、っか……でもそれじゃ気が済まないから、ちゃんと治したら何でも言ってね? 出来る範囲でなら………」

 

 

 

 そろそろ限界……でも、今度ちゃんとした形で何か礼をしないといけないよなぁ。お見舞いに来てくれた人とか、それに実質看病を付きっきりでしてくれた柳崎とか篠ノ之には特に。

 

 

 だけどそれを最後まで口にする事無く、僕の意識は途切れてしまった。

 

 

 朦朧とした意識だったせいで見えなかった、二人の表情には終ぞ気付かないまま…………だったのは、果たして僕にとって幸いだったのやら。もう色々と疲れてきたなぁ……はぅ。

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