IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
そして割と重要な話になるのですが、今活動報告にてちょっとしたアンケートを募集しております。ISネタで詰まり気味なための息抜きというか気分転換を兼ねた新ネタの意見を是非集めたいと思っておりますので、詳細は活動報告にて。
そして出来ればメッセージ機能でお寄せ下さい。それでは。
「……なんかすーすーする」
断髪の翌日。僕は何時になく頭の軽さと涼しさを感じながら起床した。
頭に手を伸ばせば肩口でさらさらと指が髪を通り、今までなら二の腕辺りまで感触が続く筈の髪がそこで途切れる。
鏡を見るまでもなく、昨日の断髪で三つ編み部分がさっぱり無くなっているのだ。
今までは三つ編みを解くと何故か体調不良になってしまっていたのだが、三つ編み自体が無くなるとそうでもないようだ。至って体は健康そのもの、体力の方も完全に近いぐらいだ。
「……はぁ」
しかし洩れる溜息は何故なのか。
どうも自分が思っていた以上に髪への思い入れがあったようで、昨日から引き摺ったままだ。
でも何時までもそうしている訳にもいかない。少なくとも三日後に控える皇燐ご令嬢とのお見合いに向けて、それまでに学園を闊歩して篠ノ之達に僕のこの状態を見せなくては。
お嬢様の作戦では、あくまでもお見合いの事は隠した上で僕の異変を篠ノ之達に感付かせ、そこから篠ノ之達自らの手でお見合いの情報を掴み、その上での行動に期待するという他力本願な内容だが……
「(成功率というか、問題発生率なら抜群だもんなぁ)」
何せ世紀の天才に、僕の知る限り何かを仕出かす確率百%な人達。というか、基本僕の知り合いは皆そういう人ばかりな気がしなくもない。
ただお嬢様曰く、僕以上のトラブルメーカーはそうはいないという。
不満が無くは無いけれど、この問題が元は僕が引き起こしたものだから文句は言えない。故意じゃ無いのに……。
溜息混じりに布団を畳み朝食の用意をすべく立ちあがる。
少しして味噌汁の鍋に火をかけていると、柳崎が起きてよろよろとこちらに近づいてくる。普段ならそのまま卓袱台を引き出してテレビでも見ているのだが。どうしたんだろ?
尋ねようとする前に柳崎の手が僕の髪に伸び、起きた時の僕のように手で髪を梳く。
「んっ……どうかした?」
「……いや、やっぱり無くなったんだなぁって。こんなに短くなってしまって……」
「何で僕より落ち込んでいるのさ。そんなに気にされると流石に困るんだけど」
「だけどなぁ、湊の三つ編み、好きだったんだけどなぁ……はぁ」
その悩ましげな溜息止めて。顔が近いから首筋に普通に当たってぞわぞわするから、口にはしないけど。
こちらに近づいてきた時と同じく力無い歩みで居間に戻ると少し危なっかしく体をブレさせながらも卓袱台を用意し始めた。寝起きだからだろうけど、今日一日ずっとそんな調子じゃないよね? 違うよね?
ひとまず、僕が今の髪型に慣れる前に柳崎に慣れてもらわないと。そうじゃないと本気で心配になるじゃないか。切られた僕よりもショックだったなんて、どれだけ好きだったんだか三つ編み……
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
校内をうろちょろしなければならないのだが、流石に授業中に動く訳にもいかないのでいつも通り、学食に行くぐらいしかしないし出来ない。
まぁ放課後には篠ノ之の研究所に行ってこの頭を見せびらかしに行かないとならない訳だけど、その際お嬢様から“ある事”を仄めかすように言われている。
「(何で僕が悲劇のヒロインなんぞに成りきらなきゃならないのさお嬢様ぁ……)」
何でも、僕の異変をある程度ストーリー仕立てにおく事でより篠ノ之達への牽制になるのだとか。
内容はこうだ。
前回のクラスマッチ・トーナメントの無人機襲来の際の行動がある人物にバレてしまい、挙句その人物の目に止まってしまった。
ソイツは僕の外見に目をつけ、目撃情報を黙っている代わりに僕に次々と無理難題を突き出してそれに従わざるを得ない状況を作り上げていった。
それは僕以外の知人達の秘密であったり、生徒である一夏君達の身柄であったり。不幸な事にソイツには相応の権力があるが故に、僕は誰にも相談出来ずにただ力無く笑って周囲へその事を隠し通すしか無かった。
しかしソイツは手を緩めること無く、僕の服従を絶対にするための命令を下した。
その内容は用意していない。何故ならその内容が如何に凄惨であったのか、そしてそれ故の断髪だと知らしめるためにだ。
……ぶっちゃけその場で考えた設定なのだが、曖昧だからこそ想像の余地を与えそれが余計な思考を与える。それこそが篠ノ之達の焦燥を煽り、よりお見合い妨害への熱意を増大させるのだそうな。
「(……ていうか一応相手は天才中の天才なんだけどなぁ。こんな穴だらけな設定が通用するかどうか)」
お嬢様曰く『湊が絡んでるんだから何も考えてなくったって博士達なら逞しい妄想力を発揮してくれるわ♪』なんだとか。全くもって意味が分からない。
しかし分からなくてもそう動くしかない訳で、まずは昼休みになったら食堂だ。
「―――――と、言う訳なので簪ちゃんお昼一緒に食べよう!」
「それは別に……って、み、みみみみ湊しゃんっ!?」
「おぉ~、何時になくカミカミだね簪ちゃん」
「……いやそうなるって絶対。ウガミーその頭はどうしたの~……?」
正直予想以上の反応にお兄さんびっくりです。というか、簪ちゃんの顔がガチで青褪めているからびっくりどころじゃない。
食堂で見つけた簪ちゃんと本音ちゃんに声をかてみたところ、普段表立ってリアクションをしない簪ちゃんの珍しい姿をゲット。本音ちゃんまで怪訝な顔……だと思う緩い笑顔が若干曇ったように見える顔でしきりに僕の髪に触れていた。
「とりあえずさ、ここで騒いだら迷惑かけちゃうからご飯貰って席につこう。め?」
「は、はい…」
「む~、ちゃんと理由を吐いてもらうよ~?」
「あはは……えっと、うん。それはいいんだけどね……」
ここで発動お嬢様からの指令その一。理由を尋ねられたらなるべく意味深な態度を取るべし。
果たしてその効果は出たのか、とりあえず簪ちゃん達が顔を見合わせて何かを呟いたようなのだが些か声は聞こえてこない。一応、意識はしてくれたのかな?
ところで、僕の知人達ならばほぼ全員に髪を切っただけで異変が伝わるなら長い付き合いのこの二人にもそれが伝わるのでは?
お嬢様がこの件に簪ちゃんを関わらせていないのは家の問題があるからだろうけど、でもどう考えても学園を歩き回ればこのようにばったりと会ってしまうし、自然見合いの事も気取られかねないんじゃ?
「(……お嬢様に限って、そこを計算し忘れたなんて事は無いと思うんだけど)」
そう信じる事にして、親子丼定食を注文して適当な席に座る。向かい側には信じられないものを見るような眼を向けてくる二人の少女。柳崎もそうだったけど、僕の髪型だけでそこまで精神状態を左右されましても当方は困ってしまうのですが。
「……湊さん。その髪は、一体……?」
「う~ん。特に理由って程のものは無いんだよ? ちょっとした気分転換みたいなもので」
「嘘だね~。だってウガミーの髪を切る事をおば様や周りの人が許してくれる筈無いも~ん」
「にゃはは、そんな事無いよ。僕にだって髪を切る権利ぐらい…」
「………あるんですか?」
「そこで純粋な疑問を浮かべられる僕への認識って何!? 何だか酷く納得し難いものがあるのですが!?」
簪ちゃんが相手だからより一層クる。
何だか僕へのあらゆる権利が周囲の人達が持っているかのような認識に思わず全力でツッコんでしまったが、この作戦でも無い限りは確かに髪を切る事さえも周りが許してくれなかった事実を考えると………
「………あのぅ、僕ってそんなに」
「ち、違うんだよ? 湊さんが悪いんじゃなくて、湊さんの周囲が過保護過ぎるっていうか、湊さんが年上なのは知ってるけど………偶に、年下みたく思えるなぁって、そそそそそんなこと考えてないからねっ!? ほ、本当だよっ?」
「かんちゃんかんちゃん。墓穴ってる墓穴ってるぅ~」
「はうわっ!?」
「………ぐすん」
泣ける。からかわれてる訳でも弄られてる訳でもないのに、何故か溢れる涙を僕は拭う事しか出来なかった。
その後簪ちゃん必死の説得により精神を持ちなおした僕は、少しだけ冷めた親子丼に箸を伸ばした。
卵のプルプル具合と出汁とのマッチ具合、予め炙って焼き目をつけた鶏肉と玉ねぎと刻みネギの歯応えのハーモニー。うん、食べてるだけで少し元気になれた気がする。
間に麩が入った味噌汁と付け合わせのしば漬けを交互に三角食べしていると、漸く本題を思い出した簪ちゃんが月見うどんの器を音を立てて置いた。
「って、そうじゃないんです!」
「おおっ、いきなりどうしたの簪ちゃん?」
「さっきはっ、私がつい余計な言葉を挟んじゃったから変な流れになっちゃったけどっ!」
「まだその散髪の事、聞けてないんだよね~」
「ほ、本音っ! その台詞私のっ!」
この二人の漫才はお嬢様達のコンビとはまた違った面白さがあっていい。というか、癒されてたまらないんだけどどうして僕はカメラを持っていないんだっ。いやそうじゃないだろ僕。
一人で葛藤していると簪ちゃんの大きな―――とはいえ彼女にしてはというだけで実際は普通の声音なのだが―――を耳聡く聞き取った別の少女がこちらに近づいてきた。
すなわち簪ちゃんの友達、鈴ちゃん登場である。
「どったの簪~? 何か大きな声出してるみたいだ………け、ど」
そしてそんな鈴ちゃんも僕を見るなり驚きに瞠目している。だから、君達にとっての崩上湊は三つ編みが全てなのかそうなのか。甚だ疑問というか、問いたださずにはいられない疑問である。
鈴ちゃんは近づくなりトレイを僕達の席に置くと、そのままの勢いでわさわさとうなじを隠すか隠さないかの長さで揃えられた髪を梳く。何かくすぐったくて思わず『あうっ』と零すと、鈴ちゃんが顔を俯けてぶつぶつと何かしらを呟き始めた。
「………ょ」
「あ、あの~、鈴ちゃん? あんまりさわさわされるとくすぐった……あひゃっ!?」
偶に首筋に細い指が触れるものだから余計にくすぐったい。鈴ちゃんの異変を感じ簪ちゃんが止めようとした瞬間――――――
「あ、あの、鈴? そろそろ湊さんを……」
「―――――――何だってのよっ、一体ぃぃぃぃぃぃいいい!!」
………ツインテールを逆立てて爆発した。その様はまさに怒れる猫。もとい、龍。
「えぇ!? 何よこれ、何なのよこれは一体!? 髪が短くなっただけなのにどうして外見年齢がマイナス補正されてる訳まるっきり同年代にしか見えないじゃないしかもやたら可愛いとか何これ喧嘩でも売ってる訳私達思春期少女が一体どれほどの苦労と努力をすればこんな卵肌にサラツヤキューティクルを手に入れられると思ってんのそれを千冬さんと同い年で特に何の努力をしている訳でも無くましてや湊さんがそれを持ってるとかこれはもう戦争よね戦争しかないわよね後で箒達も呼んでこれは立ち上がらなければいけない事態だわやだこの感触クセになりそうじゃないどうしてくれるのよ最高級シルクだってここまでサラサラしてないわよもうマジでいい加減にしてよ湊さんじゃないと私どうにかなっちゃうでしょうがぁああああああああ!!」
『『『………おぉー』』』
思わず拍手しそうになった手を何とか戻し、息を荒げる鈴ちゃんに水を酌んで渡す。行数七行文字数にして三百オーバーをほぼ息継ぎ無。鈴ちゃん凄い。
しかし裏を返せばそれだけの動揺を受けたという事で、しかも文章も途中色々とおかしくなっていたような気がしたんだけどあまりのマシンガントークっぷりに確信が持てない。
そして今度はそれに触発されて一緒にいたらしい一夏君達一同。その中にはまた見慣れぬ金髪ちゃんが増えているけど……
「(あれ女の子、だよねぇ? 所作の気品というか、あの丁寧さは僕がやっとこ覚えたものだからそれを当たり前にこなす男子っていうのは、ちょっと想像出来ないんだよなぁ)」
しかし敢えてツッコむ事はしない。何故なら、その面倒に関わっているのは相談を受けてるらしい柳崎とか直接的に一緒にいる彼らであって僕ではなく。
さらに言えば、僕を見た一同の中で特に一夏君と箒ちゃんが慌ててこちらに近づいてきてるから。他に注意を払ってる暇は無い。
「み、みみみみみみみにゃとさんが、湊さんがああああああああああああああああ!?」
「あ、あぁあぁぁあっ!? ま、まさかまた姉さんが何かをやらかしてしまったんですか!? ハッ! もしかして今度こそ物理的危害をあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ!? 御免なさい御免なさいバカな姉で本気で御免なさい!」
「一夏さんに箒さんも、ちょっと崩上さんが髪を切ってるだけではありませんか! また女子の制服を着ていらっしゃるのは気になりますけど、そこに関するツッコミ以上に気になるのはそこなんですか!?」
「え、えっと………凄く可愛い娘、だね? み、皆の知り合いなのかな?」
………これを宥めるの僕なんだよなぁ。まぁ注目が集まっているのは良いけど、これをどうにかしなきゃなんないのって結構骨だよお嬢様ぁぁぁ。