IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
何か無性に膝を突きたくなる衝動に駆られる今日この頃。暑くて死ねるぜぃ……
………そこは一面広がる水面。
「―――――――――ふぇ?」
そんな間抜けな声が漏れても仕方ないと思う。つい今し方までアリーナの中でISに触れていただけなのに、どういう訳かいきなり視界が青一色。
見渡す限り鏡面のような水面しか見えず、陸地どころか上に見える空さえも実は水面と言われても頷くほど澄み渡る『蒼』が目に刺さるのにまるで刺激は無く心身ともにリラックスさえしている。
こんな訳のわからない状況だと言うのに、何故か心はこの事態を至極冷静に受け止めていた。
この光景、“波一つ立たない水面”のイメージは僕がよくやる精神集中の際に浮かべるものだからだ。
―――――おや、もう少し取り乱した姿を見てみたかったのですが。思いの外冷静なのですね……
「っ!」
『あ、そう警戒しないで……と言われても無理かもしれませんが、私の話を聞いてくれません? そして出来ればいつの間にか取り出したその竹刀を下げてもらえると私は嬉しいです』
突如聞こえた声に思考よりも早く体が反応を起こしていた。
声のする方に水の中から引っ張り出せた竹刀を突き付けつつ馬乗りになって体勢を固定する。小柄な僕でも一点を極めて抑え込めばそこそこに効果はあるのだ。
………だけど、無意識下で行った防衛反応を僕はすぐに後悔する羽目になる。
「なっ!? ご、ゴメンなさい痛く無かった!?」
『あ、はい。全然大丈夫です。むしろふにふにの太股に挟まれてたり顔近かったり乱暴にされたりで若干嬉しゲフンゲフン!』
「……うん?」
今何だか変な事を呟きそうになってた気がするんだけど、気にしない方が良いと本能が告げているので素直に下に敷いていた“十代後半らしい女の子”の上から飛びのき頭を深々と下げる。
とんでもない失態のあまり、僕はここが何処なのかそもそもここが何処なのかさえも聞く事を忘れ、その後体感にして数十分の時間を要して何とか蟠りを解く事が出来た。まぁ、一方的に謝り倒していたのは僕だけど。
『……とりあえず、落ち着きましたか?』
「あ、うん。ゴメンね、みっともなく取り乱しちゃって」
『いえいえ、お気になさらず。私といたしましては涙目上目遣いで謝られた日にゃ理性ぶっ飛びそうでしたからもう大変良い物を見せてもらいました』
「え、えーと、それは良かった…ね?」
『はい。やはり、私の目に狂いは無かったようです。貴方が、創造主が選んだ私の伴ry……ドライバーなのですね』
何やら今聞き捨てならない単語が洩れかけたよーな。というか、「どらいばー」?
僕の疑問を察したのか、僕が口を開く前に白髪の少女は少しだけ悪戯っぽく微笑むと膝を突いて頭を下げた。
それはまるで、中世の騎士が王に傅く様にも似て。少女はしっかりとした声音で、
『………我が主』
「…は、はぃ? え、え?」
『私は貴方の剣で盾。貴方を遥かなる蒼穹へ導くための翼。貴方を―――――』
「いやいやいや!? あのちょっと待ってもらえるかな!? 色々と頭がついていけないんですがっ!?」
何だかいきなり傅かれても困る。しかも見た目が年下っぽい少女にそうされるとまるで僕がイケナイ事をしているようで罪悪感がすごいすごい。
しかし白髪の少女は言葉を止められたのが心外だったのか、ムッとした表情でこちらを見上げてきた。
『…あの、ドライバー。私が折角三日三晩寝ずに考えてきた宣誓イベントを邪魔立てするとはどういう事ですか。そんなにフラグ要りませんかAIですよ萌え要素満載ですよ?』
「いやだから待っ………うん? えーあい?」
『はい。というか、私、自己紹介してませんでしたっけ?』
「してないよ! というか今の今まで碌に会話らしい会話してないから! 君だって僕の名前知らないでしょ?」
少し的を外れた僕の指摘に、本来なら向こうも答えられない筈なのだが相手の少女は僕の予想の遥か上を行った。
『いえ、私は貴方を知っています。崩上湊二十四歳。何の呪いか絶世の美少女の外見を持ちながら性別が♂という男の娘属性完備の年上属性。見たところ本日のコーディネイトは闊達さを表現しながらも外見の可憐さを損なわないように膝丈のワンピースの裾にはフリル、青いパーカーもやや大きめのサイズで両肩をはみ出させる着崩しも可能でお色気路線でも攻める事が可能な素晴らしい組み合わせですね。食べていいですか?』
「――――いやま。とりあえず食べるのはダメということで」
かろうじて言えたのがそこまでで、個人情報というよりは途中からただのファッション批評から欲望カミングアウトの流れだった。
まるで会話のペースが握れないまま、少女は何事も問題では無いかのように続けた。
『私は第一世代機【布都御魂】……いえ、もうこの名前は古いですね。今日からは貴方に付き従う、そう、今日から私は貴方の為に存在する
―――――どうしよう。全然会話が進んでる気がしないよぅ………
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「………ぃ、……………い」
「(う、う~ん……?)」
つらつらと意識が浮上していく中、何となく体が揺らされているような気がする。
でも体にへばりつくねばっこい眠気は未だ瞼を開かせまいと残っていて、掛けられた声を無視するように浮かびかけた意識は再度眠りに就こうとする。
「……い! おい、起きろと言ってるだろ!」
「……zz」
「っ、いい加減……にぃ、起きろォッ!!」
「ふぎゃあぁっ!?」
崩上湊強制起動。
耳元で聞こえた一喝に飛び上がるように意識が一気に浮上する。
そして目を開けてみればそこはやはりアリーナの中、では無く見覚えが無くても医務室だろうと分かる全体的に白い色調が目に飛び込んできた。
そこで自分がベッドで眠っていた事を自覚し、近くではパイプ椅子に座った柳崎が顔を赤くして目を吊り上げていた。
「……おい、湊。何とも無いか?」
「どっちかって言えば、今し方柳崎に叫ばれたダメージの方が………あ、あと何だか首に違和感がある気が」
「…………それなら、ほれ」
「?」
やる気の無いといった風情で差し出された鏡で何気なく自分の姿を映してみて、こうして眠っているまでに無かったある“変化”に目がいく。
部屋に備え付けであろう安ものの鏡に映った自分の顔は相変わらず少女にしか見えず、けれどその変化は明らかだった。
「首に……首輪?」
「首にするから首輪なんだろ。というかお前、あの木偶を触った瞬間に気絶したんだぞ? 何も覚えていないのか?」
「き、ぜつ…? でも、僕はさっきまで………………うん?」
………あれ? さっきまで、僕は何かしていたんだっけ? 何だかとても疲れたような気がするんだけど、あと何か、大事な事を忘れているような………あれれ?
首を傾げて?マークを飛ばす僕をさらに心配げに見つめてくる柳崎だけど、そちらに意識を割く訳でも無く意識は気を失うまで遡ろうとするもどうしても靄がかかったように何も思い出せない。
ただ一つ分かるのは、気を失う前と今との差異。
首に纏わりついている、厚さ大きさ共に数センチはあろうかという大きさの黒金の首輪。
おしゃれや動物に使う物ともまた違う。これは、明らかに“何かを捕える為”の物だ。
「あの、柳崎。これは何時……」
「お前があの
「……無い、訳じゃないんだけどさ。ただこう、頭に靄がかかったみたいに分かんない事があって……」
「つまり、何かがあった事だけは分かってる訳か」
「でも何があったのかは分かって無いんだけどね。それよりこれ、どうしよか?」
「私に聞くなよ。一応係の人が言うには、それがあのISらしい」
「………ナンデスト?」
この首輪があの黒格好良い鎧みたいなIS? いやいやいや、縮み過ぎでしょーよ。
「お前、知らないのか? ISには“待機形態”っていうのがあって、普段は別の空間に本体を仕舞っておく事で搭乗者が何処でも展開出来るように端末として何らかの携帯できる姿を取るんだよ。常識だぞ?」
「うっ……で、でも男だからそんなにISの事に詳しくなくたって……」
「そうもいかないだろ。お前にその首輪がある限り、な」
やれやれと言うように首を竦める柳崎に違和感を覚えながら『成程首輪っていうのは今の暗喩でもある訳か』などと言われては何だかこれが余計に不吉な物に思えてならない。
怯える僕の頭にそっと柳崎の手が伸び、不覚にも撫でられる事に安堵を覚えるダメな大人の典型僕がそこにはいた。
首輪というものが最も知られている用途は一つ。何かを繋ぎ、一か所に止めておく事だ。
それが犬を小屋に繋ぐ事であったり、家畜用の牛の場合は仕分け用のシリアルナンバーが刻まれていたりと色々細かい違いはあるけど概ね、その意味は変わらない。
つまり僕にとっての『首輪』とは、出来てしまったISとの関係そのものを指す。
直に動かせた訳じゃないらしいけど、こうして首に待機形態で取り付いてからというもの外部からのいかなるアクセスをも受け付けないそうで、実力行使で外す事も僕の安全面を考慮して無理と判断されたらしい。
つまり、何かしら変化があるまでこの首輪は僕から外れる事も無く、またそのような事例が確認されて無い以上僕は研究者にとって格好の研究材料となる。
さらに状況は僕に悪い方向に働く。
このIS、【布都御魂】というそうだけどこれがIS開発者の一人である篠ノ之束博士の所持している物である以上、僕がこのまま所持し続ける訳にもいかず当然返還の義務がある。
でも先にも言った通り僕からこの
………平たく言えば、僕はISが外すために篠ノ之束に会わなければならない。
「フンっ、良かったじゃないか。ISと言えば世界の一大ムーブメントだ、その開発者の一人と懇ろになれるチャンス到来だぞ?」
「………全然嬉しく無いッス」
「どうしてだ? そう言えば、お前が篠ノ之束を見る目が違う気がしたが………な、なぁ、何かあったのか?」
「そう、だね。柳崎……というか、引っ越してから誰にも話す機会が無かったから言わなかったけど、話しておくよ」
柳崎の指摘はほぼ正しい。
確かに僕は“篠ノ之束”という人物を良く知っている。まぁ、小学校時代という注釈は外せないけど。
僕と彼女は学級委員と問題児という関係であり、あの頃引き籠り体質でありとあらゆる事を諦めたような眼をしていた少女は、引き籠りが治るにつれて当時からIS開発という偉業を成す片鱗を見せ始めありとあらゆる発明品を、そのほとんどを悪戯目的で使用していたのだ。
ちなみにその標的及び被害の八割は僕。
そのお陰で未だに彼女の面影を見ただけで体が震えたし、彼女と面を合わせる事になると思うと正直避けたい気持ちが膨れ上がる。
「他にもあと二人いたんだけど……皆悉く問題児でさ。今言った通り篠ノ之は発明品の悪戯でしょっちゅうずぶ濡れになったり真っ黒になったり痺れたりしてさ、他にも何にもしてないのに数メートル殴り飛ばされたり竹刀で叩きのめされたり………うぅっ」
「だ、大丈夫か湊!? 私から聞いて何だがそんなに嫌な事なら思い出さなくてもいいぞ!? 体が凄い震えてるし顔色も悪いなんてものじゃないぞ!」
そりゃそうだ。僕にとって当時のあの記憶はトラウマであり、彼女達には勿論の事こうして知人の中じゃ恐らく一番親しいであろう柳崎とですら“女性だから”という理由で僅かであっても恐怖を感じてしまう。
もうあんな事は無いと分かっていても、子供の頃の恐怖心はそう簡単にぬぐえるものじゃない。一体僕が引っ越しが決まった後どれだけ喜んだか。
あの三人とはちゃんと別れの挨拶は済ませていたとはいえ、正直言えば中学、高校でも世話役を押し付けられなくて助かった。もし押し付けられていたら、今度こそ僕の命は無かったかもしれないのだから。
今なら痛みや衝撃にかなりのレベルまで耐性がついたし、所詮はIFの話だ。考える必要も無ければ考えたくも無い。
「そうだったのか……だから (未だに触る度に体が一瞬震える訳か。私ならともかく、他の女なら余計に……しかも本人に会わなければならないとは。コイツも大概運が無い……)」
まぁ、とはいえだ。
あれからもう十数年も経っているのだから、僕と同じようにあちらだって二十歳を超えて大人としての落ち着きがあってもいい頃だ。スクリーンで見た限りじゃ凄く落ち着きのある人柄のようだったし、いきなり爆発する小物を送られたり電流が流れるぬいぐるみを渡される事も無い筈。多分。きっと。そうだと嬉しいな。
「…もう、大丈夫。うん、どうせこれの件で会わなくちゃいけないんだし、昔のトラウマなんて我慢してみせるよ」
「心配だ。私もついていくぞ」
「で、でもそれは――――」
「文句なら受け付けん。それに……一人よりも、心強いだろ?」
そう言って頭に手を載せたまま、柳崎は常には見せない優しげな笑みを浮かべた。
それがあまりに不意打ちで綺麗だったものだからつい見惚れてしまい、顔が赤くなるのを隠せずあちらにも分かるほどに紅潮してしまう。
「あ、あぅあぅ……」
「(あー、ダメだダメだダメだ抑えろ私……ッ。確かに今の弱った湊の儚げな可愛さは反則級だがここで押し倒しても互いに気まずくなるだけだけどこうも可愛いと私の理性の方がもたんぞ……!)」
「……? 柳崎?」
「(あああああああもうっ! どうしてコイツが女じゃないんだ可愛い過ぎだろもう知らん悪いのは全部湊だ湊が私を狂わせるぐらい可愛いのが悪いんだぁああああああああ!!)」
そんな危険思想が柳崎の内で爆発した事なぞ知らず、僕はふとこの部屋の入り口が空気の抜ける音と共に開かれた事に意識が向いた。どうやら扉は自動ドアでも空圧を使うものらしい。
―――――――そして入口から現れた人物を見て、正真正銘僕の思考はフリーズした。
「――――――――みっちゃんっ!」
……現れたのは、先の話題の中心人物の一人。当時から変わらない兎を模したカチューシャをつけた“篠ノ之束”本人だった。
たまさんもリメイクされます。性格とか武装面とか。
あとさり気なく名前の方も変わってますけど、まぁ呼び方は今のところ考え中です。元の名前にちなんで以前どおり『たま』でいくか何か新しく考えるか。まぁ、こういう事を考えてる時が結構楽しかったりするんですがねぇ。