IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
しかも今回もまたです。この子もういっそTSして端から女オリ主にしてももう違和感とか無いんじゃ……うん、何も聞かなかった事にしてください。それでは、どうぞ~。
『いよいよやってきましたお見合い当日! 我が主湊様は今日も今日とて可愛らしい御姿でしかも気合いの入った着物姿! これはもう、実況を任されたたまこと私の血が滾る事極まりないですね!』
『いや何でそんな楽しそうなんですかお姉さま……いくら先輩がまたついてったからって』
『やかましいですよメイド妹。ちくしょう、私が首輪でなければせめてアクセサリーとして説明のつく待機形態を選んでいれば……! 湊様を離さないようにと選んだ鋼鉄のこの身が恨めしい!』
『(……実は私もこのあとついてく事になってるって、言ったらお姉さまにジェノサイドされそうですぅ…)』
今朝からAIが煩い。そしてたま、実況なんて役割は存在しません。
だけど彼女の言う通り、今日はいよいよ皇燐のご令嬢とのお見合い………
「モドキな、モドキ」
「う、うん。それは分かってるけどそんな強調しなくたって」
「やかましい。ったく、どうして私がお前の着付けを手伝わなくちゃいけないんだ……しかも他人のためにとかやる気がまるで上がらないんだが」
「そう言われたってなぁ……じゃあ僕が何かすればいいの? 今日の夕飯を注文通りにするとか」
「…その一言で私への扱いが『飯で釣ればどうにかなる』ってお前の考えが読めるよな」
……うん、ここ数日の柳崎の不機嫌さは結局どうにもならなかった。
今日なんてこっちに顔を合わせてもくれないし。何と言うか、異様に落ち着かない。
いつもならサッパリと割り切るのが柳崎なのに、最近は珍しいぐらい引っ張ってる。僕そんなに悪い事………悪い事……悪い、こと、はぁ、えっとぉ。
「(……数日中で言えば一つだけ、と言わず二つか三つほどあったりしなくも無いんだけど……)」
それを見られた訳じゃないし、それが本当に柳崎の不機嫌の理由だとするなら、いくら鈍いというか“そういった”方面の経験が乏しい僕でも察することはある。
ただその推測通りだとすると……これから僕がやろうとしている事は確かに柳崎の癇に障る事だろうし、不機嫌な事にも頷ける。
頷けるんだけど………あ~もう止め止め! この思考はちょっと危ない! よってストップ!
「はぁ~~~~~~~っ! よっしゃ、そんじゃさっさと行ってこんな茶番終わらせないとね!」
「そうだな。さっさと済ませてしまえ」
「う、うん……あの、帯締めすぎちょっと流石に苦しいきゃもぉ!?」
「………」
「(む、無言で訂正されるのも何か怖いっ!?)」
どうしよう、何となくこの不機嫌の理由を察せてしまったらしまったで物凄く後ろめたい。そう思う必要は、多分無い筈なのにこの圧迫感は何だろう。決して帯を締めつけられた圧迫とは違う事だけは分かってるんだけど。
ただ、このお見合い『モドキ』をさっさと終わらせないとこれが治らない事だけはうっすら理解出来た。
――――――そして、その後のフォローの方法も。多分、これで合ってるんだとしたら僕はわりかし最低な男という事になるのだろうか。うぅぅぅううぅぅうううううぅぅぅうぅぅぅぅううぅぅん………。
『ねぇねぇみなとぉ、ところでおみあいって、どこでやるのー?』
「あ、うん。何でも学園の外の店でさ、皇燐が所有している料亭があるらしいよ。一応IS学園の敷地というかこの島の中にあるのは間違いないんだけど、学生は絶対使わないよね……」
建てた意味が分からないといえばそうだ。いくら自分達がスポンサーだからって、学生の済む場所に学生が寄りつかない料亭なんて高級店を出す意味は薄い筈なのに。
『それはおそらく、学生用ではなくVIP用でしょう』
「VIP?」
『はいですぅ! IS学園はその特性上、イベントごとに海外からも多くの著名人を招く事もありますのでそういった方々をウェルカムするための施設も学園にはあるのですよっ!』
「なるほど……不定期の場所ってわけね」
つまりそこを動かすのだから、少なくともそのお嬢様にとって僕とのこのお見合いは……それなりに力の入ったものという事か。ぶち壊す事には何の痛痒も感じてはいないけど、何となく申し訳無いと思ってしまった。やれやれである。
着付けも一通り終わり、姿見で全体を確認する。
お嬢様が持っていた着物の中から選んだそれは、上は僕の髪に合わせた桜色で下にいくにつれて徐々に白へとグラデーションされているシンプルながらに自分でもよく似合うと自負する代物。
白い部分には色調を合わせるように桜の木があしらわれていて、桜吹雪の様なんかよく出来ていると思う。お嬢様曰く安ものらしいけど、十分に可愛い一品だ。
………僕がそれを着る事さえなければ、文句なしに褒めちぎれたんだろうけど。残念でならない。
「そんじゃ、行って来い。んでさっさと終わらせるんだぞ?」
「うん。それじゃ、行ってきまーす」
まるで母親だなぁと思いつつ、小物が入った巾着袋を持って学園島都心部に向かうモノレール駅へと向かう。
袋には風子ちゃんのペンダントトップを入れており、首にはいつも通りちかねちゃん。流石にたまはこの格好に不釣り合い過ぎるのと、やはり調整がまだ終わっていないため今回は二人を介した通信越しでの知覚となっている。まぁ、いたらいたでツッコミきれないので助かるんだけども。それは言わないでおくとしよう。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「……うぉ」
『すっごいねぇ……すっごい、古いたてものだねぇ』
「趣深いって言ってくれると、日本人としては嬉しいかなぁ?」
都心部に到着し、端末に指定された場所へとやってきたんだけど……これは凄い。
近代都市の一面もある都市にありながら、いくら都心から離れているとはいえ、見た目だけなら完全に京都とかにある老舗そのものだ。確か皇燐の本家も京都だからそれに合わせたのかもしれない。
でもそれにしたって景観破壊もいいところだ。多分京都だと逆なんだろうけど、ここはIS学園島の市街地。つまりは近代都市をイメージして造られた場所であるため、こういう古式ゆかしい建物の方がいっそ清々しいまでに景観にそぐわない。
これもきっと海外のこういった店に行ってみたいという要望などもあるんだろうけど、それにしたって節操が無いというか、何と言うか……。
「―――――まいっか。僕にそんな内部事情なんて知ったこっちゃないし」
『それより早く中を見たいですぅ! さぁハリーハリーハリー!』
「はいはい」
僕が考えても詮無い事だ。だから入口前で思考に耽るのを止めて、店というのに何故かある門を通る。
観音開きのそれを通り抜けると、そこには皇燐御用達であろう黒服の面子がずらりと並んでいる。何と言うか、うん、ヤクザか何かっぽい。
「お待ちしておりました。お嬢様が奥でお待ちになっております」
「は、はぁ」
一番ガタイの良い黒服サングラスに先導されつつ、木目の揃った綺麗な床を歩いていく。
そして最奥と思しき場所の襖の前まで案内されると、先導してくれた人がいなくなり僕だけとなった。いや、正確にはこの奥に例のご令嬢がいる訳だけど。
「(…そもそも僕は一体どういう人間としてここに招かれてるんだっけ?)」
一目惚れらしいけど、それをあの人達も理解した上なのだろうかこれ? やけに黒服の人達のサングラス越しの視線を感じたけど、あまり好意的で無いのだけは確かっぽい。
でもそれはそれで好都合。何も起こらなくたって、あちらからこの話を無い物としてくれるならトラブルが起きなくて済むしね。むしろ率先してそっちを望みたい。切実に。
一つ呼吸を置いて、襖をゆっくりと開ける――――――――
「――――お待ちしておりました。あぁ、貴女が、あの時わたくしを救って下さった……」
部屋の中は建物の外見と変わらない、内装が少々飾られたぐらいの和室だ。多分、そこにかけられた費用は僕の想像を超えるんだろうけど、それは気にしない事にした。お金の事を気にし出すとちょっと色々と駄目になる気がするので。
だからとりあえず、目の前にいる銀髪の同じく着物姿の少女に返事を返す事にした。
「えっと、こうしてお会いするのは初めてですよね? その、クラスマッチの時の……」
「はい。あの事件の時、貴女が身を呈してわたくし達を護ろうとして下さった事、わたくしはずっと見ておりました。……あの時よりも御髪が短くなっていらっしゃるようですけど、凄くお似合いですわ。貴女の可憐さは花でも恥じ入って開く事を拒んでしまう事でしょう」
「そ、それはどうも……」
凄いよこの子。僕生まれて初めて背景に花を咲かせる人を見た。
漫画とかならよくあるんだろうけど、それは漫画の世界であって現実ではない。
そしてそれ以上に驚ける事というのは、その背景の花が“百合”である事だ。
一応、その手の事はお嬢様から教わっていたけど、女性同士の恋愛を比喩してそれを花に例えて“百合”というらしい。男同士だと“薔薇”になるそうだけど、これってつまりそういう事と思って間違いないのかな?
少女のノリについていけず呆然としていると、少女の方から僕の手を両手で包みこむように握ってきた。うっわ柔らか、そう思った僕は多分余裕があると信じたい。まぁ、外見だけなら文句なく美の付く女の子だからなぁ。
「……こんなに可憐な、それでいてか細いのにあんなに勇敢に………わたくし、あの時から今までずっと、貴女を忘れた事はありませんでした」
「そうだったんだ……」
「はい。ずっと、想っておりました………貴女の声を聞きたいと、貴女に触れてみたいと」
――――――あ、この子ヤバい。
そう直感したのは、この子の目がモロにトランスした山田のそれと同じだったから。
ただアイツ以上に、その目には輝きがある分正気だとは思うんだけどだからこそ、正気に近いレベルでこの子がトランス―――――狂っているのだと思った時にはもう遅かった。
気が付く前に、少女に握られた手にうっすらとした感覚で何かが刺された事まで理解できて、僕の体は畳の床に沈んだ。
「あ………ぅあ?」
「申し訳ありません。実は私、もう知っているんです」
「………っ、な、にを……?」
口も上手く回らない。頭の中でちかねちゃんと風子ちゃんの声が響いているけど、そのお陰で何とか意識を繋ぐ事が出来ている状態だ。
散らばって無くなりそうな意識をかき集めて目の前の少女の言葉に集中する。少女は顔を上気させて蕩けた瞳でこちらを見下ろしながら、自らもしゃがんで僕の視線を合わせてその手で僕の顔を捉えた。
「貴女が生徒会長さんとご一緒しているところ。あの方は更識家のご当主様で、その方と繋がりのある貴女や柳崎先生は恐らく、その関係者なのでしょう?」
「…ッ」
「もう返事をする事も難しいでしょう。貴女の体に害が無いように使ったお薬は厳選していますが、それでも体が痺れて意識もそろそろ危ないでしょう。ですから、安心して眠ってください」
そうはいくか!? といつもならツッコめるんだけど今日は本気で拙い。ここ最近こんな事ばっかな気がするんだけど、これはちょっと逃げ切れる気がしない。もう口も回らないし、手もビクともしない。
「―――――――崩上湊。えぇ、貴女によく似合う素晴らしいお名前です。わたくしが優しく介抱して差し上げますから、どうか………わたくしに身を委ねてください」
頭の中では必死で本能が警鐘を鳴らしているけど、それはもう遅い。どうしてこう、僕はいつも警戒心が薄いのか。自分ではそういうつもりは無いんだけど、僕は自分で思う以上に厄介なトラブルを惹きこんでしまったらしい。
少女の胸に抱かれたのを最後に、僕の意識は闇に落ちた。ただ、その瞬間にほんの少しだけ、
「―――――――――――湊ぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」
――――――誰かに名前を呼ばれたような、そんな気がした。