IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか?   作:イイ日旅立ち

46 / 51
遅れてすいませんがデフォルトの挨拶になりつつあって本当に申し訳ありません。


何とか書きあげることが出来ましたけど、これからも不定期になりそうです。それでは、どうぞ。


第三十七話

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――あぁ、最悪な気分だ。

 

 

 

 泥のような眠りから覚めた私は眠っていた……

 

 

「(いや、“眠らされていた”が正しいのか)」

 

 

 否、無理矢理寝かしつけられた部屋を見渡しながら、全身の動きにくさに気が付いた。

 

 よくよく見れば目に見えるほとんどの部分に包帯が巻かれていて、おそらくこの手術着のような服の下にも所狭しと巻かれているのだろう。窮屈で仕方がないが、指一つ満足に動かせる状態で無いのは分かっている。

 

 

「……情けないなぁ、私は……ッ」

 

 

 声に出しただけで体に激痛が走る。

 

 

 先の全身発剄による経絡系へのダメージがまだ残っているのだろう。経絡が耐えきれなかったために血が噴出し、さらには中身に至る部分にまで損傷が広がっているため普段の動きにも支障が出てしまう。

 

 全身発剄だなんて何をやっているんだ私は………そこで思考を止める。いや、そこから先を考えたくないというのが本音だ。

 

 

 思い出したくない。私が、湊を傷つけたことなんて。

 

 

 思い出したくない。私が、一時でも湊の敵だったことなんて。

 

 

 

 ――――思い出したくない。何よりも、湊の目に映った私が湊自身から『敵』だと認識されたことが。

 

 

 

「~~~っ!? あ、ぁああぁあぁあぁああぁぁぁぁっ……! くぁぁぁ……!」

 

 

 全身が震えて、心身内外の痛みに私は情けなくも声をあげて泣き散らしてしまう。

 

 嫌だとどんなに思っても、現実が変わる訳じゃない。

 

 湊は、私の、敵になった。例えそれが何かしらの要因があってのことだとしても、私はあの時、確かに湊の敵だった。アイツ自身から、そう思われていた筈だ。

 

 

「來蓮さ……っ! 來蓮さんっ!」

 

「わたしはっ、わたしはぁぁああああああっ!?」

 

 

 誓った筈だ。私は湊の味方だと。

 

 十年前のあの日、アイツの前で確かに私はそう誓った。その筈なのに何だこの様は。

 

 小娘に良いように湊を捕えられ、あまつさえ何も出来ず変わり果てた湊を取り戻すことも出来ず、こうして床に伏しているなんて。

 

 これは何だ? 夢か、夢なのか。だってそうだろ、湊が私の敵になって、私のことを覚えていなくて、私に刃を向けて私も湊に同じ刃を向けてアイツを…………

 

 

「落ち着いて! 大丈夫だからっ、湊さんは大丈夫だからっ!」

 

「でもっ! 私はアイツを斬った! 斬ったんだ! 守るって言ったのに! 約束したのにっ!」

 

「まだ間に合うからっ、湊さんはまだ取り戻せるっ。だから……っ」

 

 

 寝ている暇なんて無いのに。今すぐにでも行かなきゃならないのに。私の体は動かない。

 

 すぐにでも謝りたいのに。会ってどれだけ私が心配しているのか伝えたいのに。アイツは私を知らないでいる。

 

 気が狂いそうになる。いっそ狂ってしまえれば、楽になれるのにそうなってはならないのだと聞こえてくる声に理性がかろうじて働く。

 

 暴れようとする私を妹様が必死になって抱き止める。その感覚と、ふと感じた衝撃に私の意識は再び泥のような闇の中へと堕ちていく。

 

 

 

「……ごめんね、來蓮さん。でも、こうでもしないと貴女は……」

 

 

 

 ―――――私は、弱い。好きな男一人守れもしない。私は今、何よりも惰弱な自分を呪いたくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

「…簪ちゃん、その」

 

「來蓮さんなら、今眠らせてきたところ。一度目を覚ましてたけど、まだ心の方が……」

 

「そう……」

 

 

 私だって出来ることなら泣いていたと思う。でも、今の私がすべきことは泣くことなんかじゃないから、今立ち止まることはしない。

 

 

 來蓮さんを寝かせた更識が所有する病室を出、お姉ちゃんと虚さんが乗り込んでいた特殊車両の中で話を整理していた。

 

 

 話は既にお姉ちゃんから聞いている。

 

 先の無人機襲来事件。その時の湊さんを見た三大家が一つ、皇燐家の令嬢皇燐沙桐が湊さんを見初め、あの時の映像から彼を追いついに今日、顔合わせということで件の店に呼び出された。

 

 

『ひっく、ぐす、ごめんなさいです……私も先輩も、ご主人様があんなになってしまうなんて……』

 

「大丈夫だよ、風子ちゃん。風子ちゃんが悪いわけじゃないから、そんなに自分を責めちゃだめだよ」

 

 

 中での詳しいやり取りは脱出する際に拾った風子ちゃんのデータから知ることが出来た。

 

 湊さんが皇燐沙桐に何かをされたところまでは音声で拾えているんだけど、その何かがよく分からない。どうやら握手してからの僅かな間で何かしらがあったようだ。その何かさえ分かれば……っ。

 

 

(……ううん、焦っちゃ駄目。それに今はちかねちゃんが頑張ってくれてるんだ。落ち着かなきゃ駄目……)

 

 

 まだ私達が慌てないで済む理由の一つに、湊さんのチョーカーとして彼の位置や情報を送ってくれるちかねちゃんの存在があるから。

 

 

 湊さんは現在ちかねちゃんの事も忘れてしまっているらしく、首のチョーカーもあくまでアクセサリーの一つとしか思っていないようで身につけているまま。ISの待機形態が不自然なアクセサリーじゃなくて本当に良かった。

 

 今はちかねちゃんが湊さんの身体情報をスキャンし、それを逐次ホストである湊さんの本当のIS、布都御魂へと届けられている。つまり、送られた情報は篠ノ乃博士達の下に一連の事件も知られている。

 

 少なからず湊さんへの気持ちを持っている博士が未だ沈黙を保っているのは少し不安だけど、湊さんの変貌の原因を調べられるのは現状博士だけだ。

 

 だから私が今できることは、情報が揃って自分が動く機会に備えてあらゆる準備を整えること。

 

 同じ現場にいた織斑君や鈴を始めとする他の女の子達には悪いけど、五人には話してこの一件から引いてもらった。

 

 織斑君が激しく抗議してきはしたけど、あの人を巻き込む訳にはいかない。

 

 

 

 

『何でだよッ!? 俺だって湊さんを助けたいんだッ!』

 

『じゃあ聞くけど、君は私と一対一で戦って勝てる?』

 

『それは……っ』

 

『私にも勝てないような人を巻き込むつもりは無いの。多分、今ここにいる皆の中で一番強いのが私だから、他の人達の協力も必要無い』

 

 

 

 

 辛辣な言葉にはそれなりに意味がある。

 

 

 何せ彼は世界的に知られている“唯一”の男性IS操縦者。その動きは学園にいるであろう各国の諜報員達も追っているだろうし、彼の動きが読まれればそれはすなわち国内の問題を、表の皇燐と裏の更識との間の軋轢がより激しいものになっていることを知られてしまいかねない。

 

 彼が諜報員達の存在にも気付けないのは仕方ない。確かに成長率は著しいものがあるけど、今は駄目だ。戦力的にも彼が意識していない部分で抱えている爆弾をこの問題に引っ張ってくる訳にはいかない。

 

 同じ理由で他国の代表候補生である鈴達の助力も願えない。彼女達がそういう人間では無いと分かっていても、問題に絡んでいるという事実だけでも更識だけでなく彼女達の身にさえ危険が及ぶ可能性がある。

 

 

 ………だってもう、少なくとも私は退くつもりなんて一切無いのだから。

 

 

 皇燐沙桐から湊さんを取り戻す。

 

 そのためになら、私は表の皇燐にだって楯突くことを辞さない。

 

 

 だってあの人は、湊さんは私にとって特別な人だから。そんな人が自らの意志じゃなくて、誰かに関与された結果として誰かの物になることは認められない。それが最悪の方法であるのなら、尚更だ。

 

 

「簪ちゃん……その、私達が軽率だったせいで……」

 

「お姉ちゃん、今は謝っている時間じゃないよ。それに、もしも謝りたいって思うならこれから私のすることを手伝ってくれればそれで許してあげる。……というか、今は猫の手だって借りたいぐらいなんだから」

 

「……何を、するつもり?―――――なーんて、今更聞いても仕方ないわよね」

 

「うん。私は、絶対に湊さんを取り戻す。湊さんが本気で惚れて皇燐沙桐のところに行ったっていうなら百歩譲って納得………………………出来なくも無いかもしれないことは無いと思うけど」

 

「何気に自信は無いのね……」

 

 

 当然だ。湊さんは、私が初めて気を許すことが出来た他人で、普段は可愛いだけの人だけど、確かにあの人の中には私が見た“ヒーロー”の姿があるんだ。

 

 今はまるで“ヒロイン”のような立場にいる湊さんだけど、むしろ都合が良いとすら言える。

 

 

「……でも、今の湊さんは普通じゃない」

 

「そう、ね。音声データを聞く限りでも、心変わりなんてレベルじゃない。触れ合った一瞬で恐らく何かをされたのか、或いはあの部屋自体が何かしらの罠だったのか」

 

「うん。だから、あんなインチキで争奪戦を出し抜こうとする馬鹿には鉄槌制裁。來蓮さんが動けない代わりに、私がとっちめてやる」

 

 

 らしくない言い方だとは思う。

 

 

 思うだけで、止めてやるつもりは寸毫も無いのだけど。

 

 ……あんなに痛々しい來蓮さんは初めて見た。

 

 いつも堂々として、男勝りで引っ込み思案な私の憧れであった彼女。

 

 湊さんと一緒にいる時に幸せそうな笑顔も、何気ない言葉一つでくるくる変わる表情も、とても魅力的で同じ女性としても同じ人に想いを寄せている好敵手(ライバル)としても、來蓮さんなら……そう思わなくもなかった。

 

 

 ―――――だから、あんな彼女にした原因を作った相手を許さない。

 

 

 皇燐沙桐。湊さんが好きだと言うのは、恐らく本当なのだと思う。風子ちゃんが記録していた会話の中から聞こえた彼女の言葉は、確かに想いが込められたものであったから。悔しいことに、同じ気持ちだからこそそこに嘘が無いと分かってしまう。

 

 でも、あの方法だけは取るべきじゃなかった。彼女は、そもそもの方法を間違えた。だから許さない。絶対に。

 

 

「……かんちゃん、あんなに逞しくなって私は嬉しいよ~……」

 

「何と言うか、お嬢様に負けず劣らずの覇気ですね……やはり、血は争えないということでしょうか」

 

「ううん、それは違うよお姉ちゃん」

 

「……では、何だと思いますか、本音」

 

「それは聞くだけ無駄だって、お姉ちゃんも気付いてるくせにー」

 

 

 

 ――――多分だけど、同じ気持ちを持ってくれているあの人達も、私と同じように思っているのだろう。

 

 

 

 

 

     ●

 

 

 

 

 

「束ちゃん? どうしてこの国には殺人許可証(マーダーライセンス)が発行されていないんでしょうねー? わたし、いますぐにでもばくはつしちゃいそうなんですよ」

 

「少なくとも私にその殺気をぶつけられても困るよ!? それに、もうすぐ原因が分かると思うからっ! あとまーちゃん正気に戻って!」

 

「………大丈夫ですよ、ただちょっと、虫の居所が悪いだけです。私の知らないところで事が動いていたことも、何も出来なかったことも」

 

「……私だってそうだよ」

 

 

 

 親友のやるせない気持ちは痛いほど理解出来る。私だって同じく何も出来なかった自分を恨めしく思わない筈が無いし、だからこそ今全力で彼の異変の原因を調べている。

 

 そもそもこうして学園に留まっているつもりなんて無かった。彼が出かけることを予め知っていた私は彼を追い掛けるつもりだったのだから。

 

 

 でも、それは結局出来なかった。

 

 

 突如鳴り響いた電話。煩わしく思った矢先、その表示された名前を見て久しく感じなかった驚きに動きが止まった。

 

 そこに表示された名前は、かつて私やイクスちゃんと一緒にISを開発したメンバーの一人。今の今までずっと行方を晦ませていた人物のものだった。

 

 ただどうしてこんな忙しいタイミングで……苛立つ気持ちを抑えながら、私は通話ボタンを押しこんだ。

 

 

 

 

『……もしもし?』

 

『あぁ? 束かい? 久しぶりだね、俺だよ』

 

『うん、久しぶり……と言いたいところだけど、姿消して今何処で何してるのかな君は? 一人で遊んでるとか言うんなら許さないよ?』

 

『あはは、大丈夫だよ。俺は俺で今忙しくてさ、それに匿ってくれる人達もいるからその人達のところに身を寄せて研究の日々さ』

 

『そう……それで、今何か急用でもあるのかな? 少し急いでるから早めにお願いね?』

 

『つれないなぁ束。まっ、そういうことなら手っ取り早く行こうか…………先日、学園を襲った無人機事件のことだ』

 

 

 

 

 彼から語られたのは先のクラスマッチトーナメントを中止に追いやった事件のこと。

 

 彼の方もその情報がISのコアネットワーク経由で把握していたようで、その時に無人機のデータの詳細を調べたということでこちらにその情報を送りたいというものだった。

 

 そちらはそちらで重要な案件だったので、泣く泣く研究所に残って送られてきたデータを整理して時間が過ぎてしまい、結果として事件の時に何も動くことが出来なかった。

 

 親友の方も独自で動くつもりだったらしいけど、この日に限って他の教員から仕事を任されて学園を出ることが出来なかったという。

 

 

 二人して仕事に忙殺され、あの人の一大事に何一つ出来ずにいた。

 

 互いに悔しさは当然あるし、現場にいた別の彼女があの人を取り戻せていないことに文句を言わずにはいられない。何が守るだ、いつも傍にいるクセに大事な時に守れないのでは意味が無いじゃないか。

 

 

(やっぱり他人に頼ってちゃ駄目だよね。欲しいんなら、自分から手を伸ばさなくちゃいけないんだ!)

 

 

 多分死ぬほど後悔していることだろう。彼女もあの人のことを好いているのであれば、私達よりも傍にいてそれでも力が足りなかった悔しさは推し量れる。

 

 でも、その彼女は今失意に暮れて病床に就いたままだという。それを私は“情けない”と、そう思った。

 

 本当に好きなら、大事に思っているのなら後悔なんて必要無いだろう。要るのはただ、行動に移す意志のみ。

 

 それをせずに寝込んでいるのであれば、所詮その程度だということ。そんな人に、わざわざあの人を渡してやるつもりはない。

 

 

「! 出た!」

 

「っ、束ちゃん、それで、湊君はどうなって!」

 

「……うん、一先ずは、これを更識家頭首のところに持っていこう。そこで、今後の方針を話し合うんだ。悪いけどイクスちゃん、仕事任せてもいい?」

 

「……行ってらっしゃい。私は。ここで待ってるから。それに。あの人のお菓子はまだ食べたい」

 

「まっかせて!」

 

 

 この結果が確かであるのなら、あの人に仕掛けられた行為はあまりに悪質かつ人の道を外れたものだ。心を歪め、感情を弄び、記憶すら操る。それに、それを可能とする方法は今私が研究中の……布都御魂に用いられている技術の一部が転用されている可能性が高い。

 

 

 必要になるだろう布都御魂の待機形態を手に取って、私は親友を連れたって研究所を後にした。握った鋼鉄が熱を帯びているのはきっと、私と同じ理由なのだろう。

 

 

「とりあえず、半殺しは確定ですよね?」

 

「うーん……っていやいや、まーちゃんそれは駄目だって」

 

『いえ創造主。我が主を穢した罪はその命をもってして償うべきです』

 

「どうして私の周りはこんなんばっかなのー!?」

 

 

 

 私だってめちゃくちゃにしてやりたいのにー! 皆が物騒だから抑え役しなくちゃなんないだなんて……うぅぅ、こんなの私のキャラじゃないよぅ。今更だけどね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。