IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
そんな中、15周もした猛者のデータがあり見たところやたら能力値の高いキャラが………そんなにシンが好きですか。私も個人的に大好きです。特にZシナリオで。
満を持して……という訳でも無く、むしろ何の前触れも無く病室に現れたウサミミ美女。
「はっ……はっ………ふぅ、あ、あのっ」
ここまで相当な距離でも走ってきたのか、息を切らして肩を上下に揺らしながらその女性はこちらに声をかけてきた。
そして僕は感情の赴くまま、その声に返事を……
「―――――サラダバー!」
「は…? って、オイ湊!」
「覚えt…みっちゃん!? ここ三階じゃ……!」
……する事無く、すばやくベッドから飛び降りて窓枠に足をかけてアイキャンフライ。
少し眠っていたせいか少し体が重たい気がするけど、多分大丈夫。一瞬みた感じじゃ大体高さ10メートル前後ぐらいだった感じだし。それぐらいなら大丈夫大丈夫。
いきなり篠ノ之に来られてもこちとら覚悟も何の用意も無いのに受け入れろとかそれ何て無茶ぶり、ってなものである。
なのでここは逃げを打つべく身を投げた訳だけど、正直その場凌ぎ感は拭えない。
この首輪がついてる限り、ISとは離れられそうに無いし、柳崎との会話を思い出してみてもやはり篠ノ之との繋がりが出来てしまう可能性が高い。
客観的に見れば、貴重なサンプルであろう僕である立ち場や、篠ノ之ほどの美人さんとお近づきになれる可能性が増えると一般男子諸君からしてみれば垂涎の立ち場なのだろうが、それが必ずしも誰にとっても理想的な立場では無いのだ。
子供の頃からの苦手意識を未だ引っ張る僕としては、せめて心にゆとりを持った状態での顔合わせで無ければ震えて喋れない自信がある。
なので、この場限りはせめて見逃して欲しい。言い訳とはか……うん、柳崎任せたっ。
良識はある方だと思うし、あの場に篠ノ之と二人っきりで残してしまってどんな会話が行われるのか気になると言えば気になる。
少なくとも子供の頃の篠ノ之はかなりの人見知りというか、認識した人間以外にまるで興味を抱かず自分だけの世界に閉じこもるような子供だった。
僕が小学校を卒業するまでの間で主観ではあるけどかなり改善出来た、と思いたい。
思いたいけど、いきなり初対面の相手と軽妙な会話が出来るかと問われると今の篠ノ之にそれが出来るかどうかは分からない。というか別に軽妙な会話を飛ばす必要性は必ずしも必要という訳ではないのだが。
しかしまぁ、スクリーンに映っていた時の事はよく覚えていないけど、特別変な様子じゃ無かったっぽいしきっと大丈夫。
柳崎に関して言えば、決して愛想が良いという訳でも無ければ、中身はともかく口調が乱暴なので誤解を招きやすい事が挙げられ、その点が篠ノ之との間で変な摩擦にならなければいいんだけど……
「(……まっ、今絶賛逃走中な僕が心配するのもなんなんだけどねっ)」
この首輪がある限り、施設の中からも出れそうに無いのでしばらく何処かでほとぼりが冷めるまで身を潜めるとしよう。あっ、あそこの影とか丁度良さげ………
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「………ふ、普通に着地して逃げた…」
「あのバカが。何の前触れも無く逃げ出すとは……っ」
全くどうしてくれる。お陰でこの女と奇妙な雰囲気になってしまったじゃないか。あの男女、後でいぢめちゃる。
湊が病室から文字通り“飛び出して”しまい、部屋には茫然と窓枠から身を乗り出して走り去る湊を見つめ続ける兎耳のカチューシャ女と私だけ。
ぶっちゃけて言えば湊から話を聞いた時に一度話をしてみたいとは思っていたりもしたが、まさかこうも早く機会が巡ってくるとは……
しかしどうする? いきなり話しかけるのも不自然だろうし、何より今話しかけても無視されそうな気しかしないんだが。
「………はわぁ。少ししか見れなかったけど、みっちゃん変わってなかったなぁ。相変わらずカワユスだし、年かさが増えて色っぽさも増してたみたいだし………うん、良かったにゃぁぁ~……」
どうしよう。あの蕩けた顔に一発デコピンをかましてやりたい気分に駆られ、相手が“あの”IS開発者の一人に名を連ねる天才科学者であると何とか理性で手を抑え込む。
―――――現代において幅を効かせているISであるが、大まかその開発者として知られている人間は『三人』いる。
一人はISの基礎構想の発案者であり、世界で最も有名な科学者である“篠ノ之束”。
もう一人は、その篠ノ之束の幼馴染であり、ISの兵器としての運用及びその骨子を作り上げたという“十村衛治”。
そして最後の一人。前者二人にも劣らぬ頭脳を誇り、主にISのコアなどに類するシステム面を担当したという“イクス・アインシュタイン”。
ISを少しでも齧ったことのある人間であれば誰でも知っているような人物達だ。私の場合はちょっとした仕事でその名を同僚から聞き及んだぐらいだが、むしろその程度の知識しかない私ですら預かり知る程の知名度という事だ。
そんな超の上にドが付くほどの有名人と湊が知人同士というのだから、最初話を聞いた時は驚かされたものだった。
それも、アイツが酷い目に遭ったという話題だったから性質が悪い。
その頃に私がいればと思わなくもないが、そんな仮定に意味は無い。
ただアイツがこの女との邂逅を決して望んでいる訳じゃなく、この出来事を好意的に受け止めていないというその事実。
「………うん」
それだけあればいい。要するに、湊はこの女から逃げた訳で、ならば私は精々その借りを後で高く売りつけてやればいい。今後一週間三食毎日アイツの手作り料理で手を打ってやるとしよう。嗚呼、何て友人想いな女だろう。感謝しろよ、湊?
呆けた表情のまま先ほどまで湊が眠っていたベッドに倒れ込む兎耳女……ええい面倒だからバカ兎でいいか。バカ兎に声をかける事にした。
「オイ、そこの変質者」
「うにゃぁ~、十年ぶりのみっちゃんの匂いだぁ~………うん?」
「“うん?” じゃない。というか何やってるか変態」
「ふぇ……? ひ、ひにゃぁぁあああ!? あ、ああああのあのこれは違くてっ。その、何と言いましょうかみっちゃんってふわふわして綿飴みたいな甘い香りがするよねだからその残り香を満喫しようとしてただけで決して変態とかそんなんじゃないんだよっ!」
「……カミングアウト御苦労。お前は『変態兎』に決定だ、おめでとう」
「そんな不名誉な称号やぁー!?」
知るか。その意見には同意してやらんでも無いが、枕に顔を突っ込もうとした時点でアウトだ。それは私ですらおb……コホン、お袋さんに禁止されているというのに。それをお前如きにさせてたまるか。
とりあえずベッドから引き剥がす事には成功したが、いきなり振り回されたからかバカ兎は涙目でこちらを睨んでくる。成程確かに普通でも無い異性であれば十人中九人は確実に落とせるだろう事が伺える。
「(まっ、その肝心な“一人”が落とせないんだろうが。てか落とさせてたまるか)」
話を聞いた時から薄々と感じていた懸念が現実と分かった以上、目の前の女に容赦をかけるつもりなど、無い。
ここはいっそ徹底的に私の事を売り込んでおくか。多少脚色しようとも問題あるまい。何せ、逃げたのはアイツなのだから。
「…ところで、何時まで睨んでくるんだお前は」
「うぅぅ…! あ、貴女が酷い事言うからでしょっ!?」
「お前自分の行動棚上げして何言ってるんだ。どう考えても変態以外の何者でも無いだろ」
「何さ何さー! いいじゃん、ていうか貴女誰? 私とみっちゃんとは関係無いでしょっ!」
ほぅ、私が話題を振らずともそちらから来てくれたか。しめしめ……。
内心好事家のような笑みを浮かべつつ、少しだけ得意げな顔を作り言葉を返す。
「まぁ、お前とは何の関係も無いのは認めるがな。湊に関しては別だぞ? 私は今日、アイツの付き添いで態々遠い地元から遠路遥々こんな都会くんだりまで足を運んでるんだからな」
意訳としては『私は湊との付き合いがあるから関係なくは無い』だろうか? その中にもそこそこに悪意を滴らせた言葉を混ぜて返してやると、兎の表情が強張った物に変わった。というか、考えれば気付くだろうに。
わなわなと震えたかと思ったら、兎は何やら考えこんでから徐に口を開いた。
「………へ、へぇ~。そうなんだぁ~? で、でもそんな文句を言うぐらいなら、ついてこなければ良かったんじゃない?」
「そうもいかないだろ。アイツはあんな顔だし、それも無自覚で巫山戯たことを平然と言うものだから変な輩に絡まれ易くてな。私が見てないと危なっかしいんだ。それに」
「…それに?」
「―――アイツと一緒にいる事を苦に感じた事は、この十年あり得なかったしな。部外者に言われるまでもないさ」
「ぐぬ……っ」
うっ、お、思っていたより言葉にすると恥ずかしいなこれは……し、しかし、今ので湊との関係を多少仄めかす事には成功しただろう。
案の定、兎は悔しそうにこちらを赤い顔で睨んでいてなんなら地団駄すら踏み出しかねない程に怒っているのだと傍から見ても分かる程だ。
正直、十年も会っていないというのに成長した姿を見て湊がああも反応した様子に嫉妬していないと言ったら嘘になる。
十年間。私が湊と一緒にいた時間の方が長い筈なのに、その中でもアイツの中ではコイツや他二人の事が忘れられないという。
これが筋違いな嫉妬だと理解はしているが、理解と感情は別だ。
あの時スクリーンを見て固まった湊を見て、真っ先に思ったのが“面白くない”という事。
そしてつい先ほどアイツから小学校時代の話を聞いて感じたのは紛れもなく“嫉妬”だった。
アイツは気付いていただろうか。怖かった痛かった苦労したと愚痴っていた時のアイツの顔。あれは……
「(さてと…)で、私の事は今話したが、そもそもお前こそ何者だ? アイツの事を渾名呼びしていたようだし、私の知らない友人か何かか?」
多少溜飲を下げた事だし、いい加減ちゃんと会話でもしようか。どうせしばらくしたらあのバカが帰ってくるだろうし、それまで時間を潰すなり何らかの機会を作るなりしておかないと。コイツがISの一任者である以上、首輪の解除にはどうしても目の前の兎の力が必要になるのだろうし。
………甚だ不本意ではあるが、背に腹は代えられない。
「私は……みっちゃんとは小学校の頃同級生で、その時仲良く遊んでたお友達……だもん」
「“もん”て。まぁいいけど、これまで連絡を取ったりとかはしなかったのか?」
「………ううん。連絡先も知らなかったし、今日名簿を見て名前見つけた時すっごく驚いて。それでISに触った瞬間気絶したって言うからすぐにでも駆けつけたかったけど、その時のデータの整理や他の仕事もあって遅くなって……」
言う度に小さくなるようにしょげかえる兎。仕事なのだからしょうがないだろうに、真っ先に湊の下に行けなかった事が堪えているのだろう。
フォローをするつもりはないが、別に落ち込まれても嬉しくもない。
「まぁ、普通十年も音沙汰無けりゃ子供の頃の関係なんて切れてるって思うのが普通だろ。アイツが連絡を取らなかったとしても、不思議じゃないだろ。場所も場所だ、同窓会にも呼ばれ無かっただろうし」
何だか結局フォローになってしまった気がする。何故か縋る様な目で見られると居心地が悪くなるが、後ろめたい事がある訳でもなく平静を装ってその視線を受け止める。
「私だって、みっちゃんの事は忘れた事は無かったんだよ? でも、ISを発表してからは忙しくなって、その前も研究ばっかりしてたからみっちゃんの事が疎かに……」
「つまり、アイツの事はその程度に考えてた友人って事だろ? 別に、お前が落ち込む要素なんて――――」
「――――程度じゃないっ!」
「っ…」
話を切り上げようとした途端、いきなり大声で否定の声があがりほんの少し睨むような眼で相手を見つめてしまう。
しかし兎は未だ顔や目を赤くしたまま、立て続けに言葉を畳み掛けてきた。
「確かに色々忙しくてみっちゃんの事を忘れそうになった時があったのは否定しないよ。でも、“程度”なんかじゃない! 私がみっちゃんの事を“程度”なんて言葉で片付けられるほど淡白に思った事なんて、今まで一度だって無かったッ!」
「…なら、一度でも連絡を取れば良かっただろ。私に怒鳴られてもどうしようも無いだろうが」
口からついて出た言葉は、果たしてどんな事を考えての発言だったのか。
後から振り返ってみても、この時の自分が目の前の女………篠ノ之束に対し、どうして明確に敵意を向け始めたのかイマイチ理解してはいない。
ただ、何となく認めたくなかった。それだけは間違いない。
「まぁ、お前がどう思ってるかは私の知った事ではない」
「なっ……! あ、貴女が先に言ってきたんでしょ!? それに、まだ話は終わって……!」
「あぁ。だから、話を続けるなら
「へ…?」
呆けた顔のバカ兎を無視し、無造作に先ほど湊が出て行った窓枠の下に手を伸ばし、触れた布らしき感触を力の限り引き揚げる!
「―――ひにゃあああああああああああああああぁぁ!?」
「ふええっ!? み、みっちゃんが釣れたぁっ!?」
「……ハンッ。オイ湊、お前どうして
「い、いやぁ。入口から戻ったら鉢合わせになるかなぁと思って。だから会話が終わるまで待とうと……」
「ほほぅ? つまり、お前はさっきの会話の一部始終を聞いてた訳か」
「にゃぁぁあああ!?」
「そ、そげなことばっ!?」
何だろうこの二人。リアクションが似てて何だか腹立つ。
しかしこの反応が今の質問に対しての何よりの回答だろう。この阿呆、乙女の会話を盗み聞きするとはデリカシー欠片も無いな。まぁそういう環境に居たというか、コイツに世間一般の男の感性を期待するだけ無駄か。
男というには乙女趣味だし、女というには偶に見せる大胆さは意外性抜群だし。
結論、湊は多分“崩上湊”という存在以上でも以下でも無いのだ。なので、コイツに一般論を向けるだけ無駄なのである。
「あ、あははは……ひ、久しぶりになるの、かな?」
「そ、そうだね……え、えっと、久しぶり。私の事、覚えてる?」
「むしろ忘れられませんでした」 ※トラウマ的な意味で。
「本当っ!? そ、そっかぁ……私の事、忘れられなかったんだぁ……」
「そ、そりゃね」
「うんうん……そう言って貰えると、嬉しいなぁ。私も、ずっとみっちゃんの事覚えてたよっ」
「あ、ありがと……」
………うん、何かムカつくからさっさと話に割り込もう。そして兎お前さっさと戻れこのバカ。