IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
そして今回ほとんとあるキャラ視点でお話が進みますがちゃんと湊君は出ますよー。ただ、ちょっとキャラの暴走加減が予想外にブレてしまったというか……まぁ、いっか!
あと一言。この作品は後々色んな作品の設定をパクr……オマージュする予定なので、そういうのが不快に思われる方はご了承ください。特撮以外の制限が緩いから使いたかったネタが色々あるんです、武器とか色々。
………俺にとって『IS』という存在は、疎みこそすれ好き好んで触れまわりたいと思うようなものでは決して無かった。
俺には唯一の肉親である姉がいるのだが、その姉がISにおける世界最強になんかなってしまったものだから俺の人生はそれはそれは面倒くさいものへと変わった。
ISが広まった弊害、そう言っていいのかは分からないが女尊男卑が当たり前のように横行し、その中でも俺の姉は世界中の女どもの憧れであったためその弟だった俺は、姉を崇拝する輩にとって邪魔者以外の何者でも無かったのだろう。
姉の汚点だのあの方の家族がこんなザマじゃなどなど勝手にぬかしてくれ、子供の頃の俺にとってそれらの羨望や姉への嫉妬への槍玉にあげられるのはたまったものじゃなかった。
無論黙ったままというのは俺の性に合わなかったので、当時純粋無垢 (自分で言っていいものか)だった俺は、とにかく姉の弟として恥じない人間になろうと苦手な勉強に精を出し、姉のように強くなろうと好きでも無いのに知人の誘いで剣道を始めたりもした。
全ては唯一の家族である姉の弟として、誰にも恥じぬ自分でありたかったから。
そうでなければ自分はこの人の弟じゃいられなくなる。今度こそ、“一人”になってしまうと脅迫観念にも似た感情に従って死に物狂いだったあの頃。
……今となっては、あぁ何てバカなことに拘ってんだろ俺、そう思えて仕方の無かったバカだった自分。
姉のように頭もよく強い訳でも無ければ、見た目だってそこまで秀でていた訳じゃない。
少し姉の特徴が遺伝しているぐらいでしかなく、姉のように万人を惹きつけるような力は俺には無かった。それだけならまだ納得は出来たのだろうが、これだけじゃ終わらない。
例えどんなにテストを頑張っても教師からは『よく頑張りましたね、流石はブリュンヒルデの弟です』としか言って貰えなかった。
例え剣道の大会で入賞しても幼馴染だった奴は『千冬さんならもっと簡単に勝てたような相手を……まだまだ修行が足りないな』と言われた。
お分かりにいただけただろうか。俺は、どんなに頑張ってもどこまで行っても所詮、“織斑千冬の弟”としてしか誰からも認識されずに、誰も“織斑一夏”なんぞに振り向いてくれなかったのだと。
それを悟ってからは早かった。
勉強は後ろ指をさされない程度の点数しか取らなくなったし、剣道も幼馴染の制止を振り切って辞めて今じゃ竹刀だって振らなくなった。見ることさえ疎ましいほどだ。
何をしてもどうせ、俺を見てくれる奴なんかいないのだ。なら少しぐらい手を抜いたって、誰も咎めもしない。肝心の姉でさえ、家を空けることが多くそもそも俺はあの人から褒められた記憶がまるで無い。
『その程度、私の弟なら当然だ』……今思い出してみても、あの人は俺を自分の付属品としてしか見ていなかったんじゃないだろうか?
世界最強であり、世界中の女の憧れを背負い、そんな自分の弟なのだから何でも出来て当たり前とか思っていたのかと思うとゾッとする。だってそれは、俺を“織斑一夏”という個人ではなく“織斑千冬の弟”という世間体の一つでしか無いも同然だから。
どうせ誰も俺を見てくれない。何をしようと、俺はどこまで行ってもあの人のオマケでしかない。
意識するようになってからは何事にもやる気を見出せなくなり、高校受験というステージになってもそれは変わらずただただ家を出たい一心で地方のテキトーな高校を受験したぐらいだ。
「(……その筈、だったんだけどなぁ……はぁ)」
煙草……は、流石に売ってもらえるような甘い世の中じゃないので電子煙草ではあるが、肺いっぱいに取り込んだ香料を吐き出しながら悪態を吐く。
どうしてこんな事になってしまったのか。あの時にタイムスリップできるなら、俺は今すぐあの時の迂闊な自分を殴り殺してやりたい。
前衛芸術のような受験会場で迷子になった挙句、『IS学園』の試験会場に迷い込んだ挙句そのISを起動できたものだから俺の当初の予定は狂いに狂った。
トントン拍子で女だけしかいないIS学園への入学が強制され、今し方朝のHRを抜け出して人気の少なかった校舎裏に逃げ込んできたばかりなのだが気は滅入る一方。
俺にとって女とは須らく苦手で相手したくない連中でしかなく、友人はこの学園に入学した俺を血涙を流しながら羨んでいたが良い事なんて一つも無いっつうの。
全員が全員、あの人に憧れを持ってこの学園に入学しているようなものなのに、なおさら当時の嫌な事を思い出されてしまう。何が悲しくてそんな針のむしろに座り続けにゃならんのだ。
「だりぃー………もう帰ろうかな」
どうせ無駄なこととはいえ、こんな場所一秒だって長居したくない。手持ちの金は少ないけど街に繰り出せる程度には………
「――――――あのー、ちょっと良いかな?」
………チッ、んだよ、今はHRの時間だと思って油断していたがまさかこうも早く追ってくるなくぁwせdrftgyふじこlp!?
「えと、ちょっといいかな? その制服を着てるってことはこの学園の生徒さん……なんだよね?」
「(ブンブンブンブン!)」
「良かったぁ……。ほら、ここってやたら広いし建物は真新しいしでついうろうろしてたら……その、迷子になったというか。いや良い歳して恥ずかしい限りなんだけど人を待たせてるから早く行かなきゃいけないしでもう泣きそうになってたところで君を見つけてさ。いやぁ、助かったよぉ~」
そんじょそこらの女であったならば、それが教師だろうが同級生だろうがさっさとガン飛ばして怯んだ隙にでも逃げだせた。
逃げだせた筈なのに、俺は目の前の人物を見て織斑一夏史上最大の衝撃を受けたとともに、体が自分の物ではないかのように硬直してしまっていた。
別に蛇に睨まれた蛙というわけじゃない。
ただただ、目の前の人物に目を奪われているだけ。
「(…………うわぁ)」
格好は至って普通。特別と呼べるほどでもなく、白いワンピースの丈の下からはジーンズ生地のハーフパンツがチラリと見えて、上着には青いパーカーを着ているだけの普通の私服だ。
一つ変わっているとしたら首に巻かれてあるやたら厳つい外観の鋼鉄の首輪だが、それがあるせいか余計に服装の普通さが際立っている。
でもそれ以上に問題なのは、それを着ている本人だ。
座り込んでいる俺を覗き込むように中腰のその人からは何と言うか、ミルクと蜂蜜を合わせたような甘ったるい雰囲気とでも言えばいいのか、ただそこにいるだけで荒んでいた心が和らいでいくような、そんな空気に包まれていてさっきまで感じていたストレスなんて何処かに吹き飛んでしまった。
それに、桜の花びらを連想する淡い桃色の髪のお下げも、どんな人形師だって生涯をかけてもこれほどの造形は無理だろうとそう確信させる容貌。あどけない顔には可憐さと凛々しさが同居していて、今は割合可憐さの度合いが凄いことになっているがそれは迷子じゃなくなった安堵故だろう。
ただ綺麗なだけの女なら身近にいるし、そうでなくても着飾った美しさという点で言えばかなりの女がそうだろう。
でもこの人はそうじゃない。会って間もない人の筈なのに、俺の直感はこの人が俺が今まで出会ってきた誰とも違うのだと告げている。俺自身、そんな根拠も何も無い感を信じたくて仕方が無い。
「…? あの~、僕の話聞いてる?」
「っ、き、聞いてます聞いてますっ! 一言一句漏らさずにっ!」
「あはは、そこまで畏まらなくていいよ~悪いし。それより、もう学校始まってるんじゃないの? ひょっとして……サボり?」
意図的に悪そうな顔をしているつもりなのかもしれないけど、ヤバい。ただただ可愛いという感想しか持てないんですが心拍数パナイんですが俺どうすれば!?
いや落ち着け、落ち着くんだ織斑一夏。クールに行こうぜ織斑一夏。これは千載一遇の好機なのだ、これを逃してしまうとこの先この人とはもう会えない気がするし今のうちに何とかせねば。
ともすればふとした表紙に心臓が口から飛び出そうな緊張を意志で抑え込み、“彼女”の言葉に応えるべく慎重に言葉を選んで口を開く。
「ははっ、だってこの学園俺しか男いないんですよ? なのに女子ばっかの教室なんてどうも居辛くて……」
「そっかぁ……それは確かに息苦しいよね。だから逃げてきたと」
「お恥ずかしながら。でも戻ろうにも踏ん切りがつかなくて……だから、その」
「ん?」
ふおおおおおおおお!? 首を傾げるその姿もヤベェ! 決して意図はしていないんだろうが未だ座り込んでる俺を中腰で見ているからその、ワンピースの下の薄い胸がっ、胸がっ! 見えそうで見えないその角度! ええいこの人は化け物か!? (可愛さ的な意味で)
「ええええええええええとですね、迷ってらっしゃりゅようでしゅし何なら俺が案内しましょうきゃ?」
しまったああああああああああああ!? この大事な場面で噛んだ! しかも三回も!
自己嫌悪にうちひしがれ校舎の壁に頭を連打している俺を後ろから見つめてくる視線を感じる。あぁ、きっとコイツ頭ヤバいんじゃね? とか思ってるんだろうなぁ、印象最悪だろうなぁ……………鬱だ死のう。
膝を突きながら底なしのネガティブ思考に嵌りそうな俺を、傍目から見れば危険人物だろう俺の肩に軽く『ポンポン』と衝撃が走る。
「……え?」
「あの、大丈夫? 頭から血が出てるけど……あぁ折角の格好良い顔が汚れちゃうよ、ちょっとジッとしててね?」
「いやこれは別にうええええ!?」
「あ、コラ。動いちゃダメって言ってるでしょ? 制服も白いから血が目立つんだし、さっさと拭くから」
いやいやいや!? 確かにこの制服特注だから高そうだしクリーニングもバカにならなそうだけど、躊躇なく近づいてあの人の柔らかい手が、俺の顔に触れて優しくハンカチを当て続けている。
――――――ここはひょっとして天国なのだろうか?
さっきまでは『IS学園なんざくそくらえっ!』と言って憚らなかった俺だが、訂正しよう。ここは俺が夢見た桃源郷ですっ!
それほど多く出血していた訳じゃないので、少し傷口を圧迫しただけで血は止まり頭を優しく抑えていた手が離れたことに幾許の寂しさを覚えていると、その人は手を差しのべながら、
「まぁ、とりあえず僕の目的よりも保健室が先かな?」
「ぶフォ!? いいいいいやあのですねそれはまだぼくたちのあいだでははやすぎるともうしましょうかであいがしらなんてそれなんてえろげというかむしろねがったりかなったりというかいやいやしかしじぜんにふんでおかないといけないだんかいもあるようなきがしますけどだいじなのはお互いの意思ですよねっ!」
「? 何を言ってるの? 血は止まったけど、頭の傷は放置してちゃ危ないからね。ちゃんと治療してもらわなくちゃ」
…………俺を……俺を見ないで……ッ。そんな優しい瞳を俺を見ないでっ! 恥ずかしさで今なら空も飛べそうだから!!
でも純粋に俺を心配してくれてるその手を、俺は絶対に離さないように握り返す。きっとこの出会いは、俺にとって運命なのだと己に深く刻みつけながら。
「そうだ、自己紹介しませんか? 何時までも名前知らないのもなんですし」
「いいよ。それじゃ僕からだね、僕は崩上湊。短い間かもしれないけど、よろしくね」
「は、はいっ! 俺は………一夏って言います。だから一夏って呼んでください」
名字は言えなかった。言ってしまえば、目の前の人まで俺を姉の付属品としてしか見てくれない恐怖が咄嗟にそう口走ってしまった。
「いちか……? うん、一夏君だね」
「(呼び捨ても良いけど、君付けかぁ………いいなぁ)」
噛み締めるように呟く様子は見てて癒しにしかならない。そして名前を覚えてもらってただ呼ばれただけで幸せで蕩けそうな俺は大概アホだと思う。微塵も治す気は無いがなっ。
そのままの足取りで俺達は校舎の中に戻っていった。もう、さっきまで感じていた燻りや諦観は跡形も無くサッパリ消え、その代わりあの人の……湊さんの手が触れた感触を忘れないようにする事の方が今の俺には重要だった。
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「(覚えてない、よね、そりゃ。もう十年以上前なんだし)」
隣を歩く少年を見ながら、あんなに小さかった子が今じゃ僕が見上げるほど大きくなった事に年月を感じて、感慨に耽る前に彼を見つけた時の表情が頭から忘れられなかった。
「(凄く、寂しそうな顔。あんな顔をする理由………とりあえず、少しは吹っ切れてくれてたら良いんだけど)」
篠ノ之から招待され、一人で学園に来たまでは良かったけど途中で一人ふらふらと歩いていた人影を見つけて、何故か放っておけなくなり追いかけてみればこの子がいて。
見つけた時に見たこの子の顔を見た途端、僕は話しかけずにはいられなくなっていた。
十年前はあんなに元気だった彼が、あんなに憂いを帯びた顔をするようになった経緯は気になるけど今は彼が元気でいてくれることの方が大事だ。
「……ところで、保健室ってどこなのかな?」
「……俺にだって、分からないことぐらいあります……」
「キバヤシはいいから、とりあえず探そ?」
「うっ、は、はい。というかこのネタ知ってたんですね」
「まぁ、友人にバカなことをする人達が多かったから」
………でも、迷子な状況は何とかした方がいいよね。こんなことなら篠ノ之に連絡先聞いておけば…………それも無理か。どうしたものかなー。