IS<インフィニット・ストラトス> ~青年で男の娘はアリですか? 作:イイ日旅立ち
でもってまた歳を重ねた訳ですけど、だからといって特に何が変わるでもない自分はもうちょい変わった方がいいのかなー。色々と、頑張ってはいきたいんですがね……
「離せー! この変態! 野蛮人! イケメンコノヤロー!」
「ちょっ!? あんま変なこと叫ばないでくださいこのご時世、訴えられた男の末路なんて悲惨なんですよ!? まぁ、湊さんにはあまり関係ないことですが」
「あるよ!? 大アリだよ!? だって僕男だよ!?」
「なら俺を陥れるような発言は出来ない筈なんですがねぇ……?」
「うっ」
「(……扱いやすいなー)」
何だか一夏君に会話にイニシアチブを取られているような気がしてならないけど、そう言えば僕が主導権を取れる時って大体相手と初対面な時しかなかったよーな。
そういった経緯を経て会う相手には悉く翻弄されて、結局は弄られポジションが定着してしまう。
何だろう、僕ってそんなに単純なのかな? 確かに悩みとかはすぐに解決しちゃうけどさ、でもこの悩みはそう易々と解決してくれないというか、むしろ諦める以外の選択肢が見つからないから困る。
僕とて何時までも弄られキャラに甘んじていたい訳じゃないのだ。偶には僕の姉ぶる柳崎を差し置いてお兄ちゃんぶりたい時だってあれば、少なくとも年下ぐらいには敬意を払われたい。外見上、年上に見られたことがまるで無いから切実にそう思う。
「まぁまぁ、湊さん。あんまり文句言ってちゃダメですってことではい、到着です」
「しまった!? 流れでつい帰り損ねた!? てか、本当に僕も一緒じゃないとダメなの?」
「うーん、湊さんは俺と一緒は嫌ですか?」
「そ、そういうんじゃないんだよ!? ただ、この教室にはちょぉぉぉぉっと会いたくない人間がいるというかね? 篠ノ之以上に苦手に思ってるのにいきなり顔合わせする勇気は、無いかなぁと……」
「そんな子供みたいなこと言わないでください」
「そんな子供扱いしないでっ!?」
どうして僕は九歳も年下な子に窘められてるんだろう。少し泣きたくなってきた。
僕の願望とは裏腹に現実はいつも受けキャラであるという厳しい現実を突き付けてくる。こういう遣る瀬無い気持ちが高まると“俺は世界をぶっ壊す”みたいな発言に繋がるんだろうか、いやそれは無いか。
奮戦空しく?、一夏君の成すがままに僕達は一夏君が抜け出した『一年一組』の教室の扉を開ける。
「すいませーん、ちょっとお腹の調子がグルっとしていたんですがガスっと問題無くなったんで不肖織斑一夏、アイドル連れて帰ってきました!」
「誰がアイドルかっ!」
そしていきなりの爆弾発言に堪らず伏せていた顔を上げてツッコんでしまった。教室は授業の真っ最中だったんだろうそれまで真面目に机の画面と向き合っていた生徒さん達の視線が一気に集まってきた。
「(へー、今時の高校生はノートも使わないのかー。あれは何かの画面かな? あれに直接書き込めるのか……いかん、文明についていけない)」
というか既に今の空気にもついていけてないんだけど、細かいことは忘れるに限る。てか考えたくない。
流石IS学園だけあって視線の持ち主は皆女子ばかり。その視線が僕の体を頭からつま先へと舐めるように観察しているのが何となく分かる。視線に物理的圧力があったなら多分体に穴が空くんじゃないかと思わなくもない視線がおよそ十秒ほど観察を続けた結果。
『『『『『………くっ!』』』』』
「何でそこで舌打ち!? そして何か暗くなってるんだけどどういうことなの一夏君っ!」
「敗北感じゃないですか?」
「いや何の!?」
特に近くにいた子達の反応が劇的で、それまでのじっとりとした視線を止めた途端に席を立ってその場で膝を突いてorzの格好になっていた。ゴメン、何が君達をそこまでうちひしがらせたのか僕にはまるで分かんないんだけど。何に対する敗北感なの、てかこれは敗北感なのか?
『負けた……何か知らないけど負けた……』
『何よあの肌のツヤ。あり得ないっての……プルプルしてるのが目に見えて分かるっての……』
『あ~! 触りたい! あのキューティクルやんごとなき御髪を触りたいその秘訣を知りたいけど振れたら穢れそうな儚さがそれを許さない……あぁぁああぁあああああぁあぁぁああぁぁあああああ!!』
『IS学園怖いIS学園怖い……何よここ美少女しかいないってだけでもショックなのにとびきり最上級じゃないのどうしましょう何か扉開きそう』
うん、敗北感を感じてるのはごく一部だけみたいだ。それ以外、特に最後の方はあまりお近づきになりたくない。あとその扉は開かない方がいいと思います。
突如として授業をぶっ壊したにも関わらず、何の注意もされないと思ったらクラス全体がそんな雰囲気だった。ノリが良いのか、それともバカなのか。確かIS学園ってエリート中のエリート集団だって聞いたような気がするんだけどあれは何だったんだろ?
「(でも、これなら今のうちに!)」
しかし今は好都合。
この隙を逃さずに一夏君の注意が教室の中に向いてるうちに踵を返そうとして、
「ちょっと待て」
いきなりパーカーのフードを掴まれて喉が締り蛙のような声が漏れた。
「ぐえぇ」
「おい小僧」
「けほっけほっ……って、誰が小僧じゃこんなナリでも一応成人だバカ鬼斑………」
「――――ほぅ、その呼び方ということは。やはり貴様かぁぁぁあああ!」
そして僕が自分の失態に気付き硬直する中、背後の気配の殺気が一気に膨れ上がった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
次の瞬間、僕は自身の行動を夕飯に贅沢三昧しても許されるんじゃないかってぐらい褒めちぎりたくなった。
うなじを突き刺すような悪寒と勘を信じて咄嗟にパーカーを残して思いっきり頭を下げる。その動作が終了するのとほぼ同時に先ほどまで頭があった空間を轟音を立てながら何かが通り過ぎ、それが確実に僕の命を狙った一撃だと判断するのはそう難しいものじゃなかった。
パーカーが無残な姿で破れていることを考えると憂鬱な気分になるが、事態はそれを待ってはくれず次に僕はしゃがんだ姿勢のまま右足を大きく引いて背後の存在の足元を掬うように薙ぐ。
こちらも先の頭上を過ぎた一撃と同等の速度と威力を伴った一撃だ。少なくとも殺す気は無いが、殺されるつもりも勿論ない。だから戦力を封じるために放った足払いは迎撃の蹴りによって相殺された。
「……っ」
思惑通りにいかなかったことに歯噛みするもそこで攻勢を止めるつもりもなく、縫い止められた足をもう片方と合わせて一旦引っ込め頭を地に伏せるように位置を下げる。
「っ!?」
「だらぁぁ!」
そしてハンドスプリングよろしく、手で体を持ち上げる動作と共に引き絞っていた両足を解放。狙うはあんちくしょうの顔面、ではなく………
「(キタコレ!) とりあえず、武器が無くなったんだし落ち着いてくれにゃあああっ!?」
相手の利き手であろう部分を狙い打った蹴りは寸分違わず命中し、後方に飛んで行った黒い……出席簿? まぁ武器じゃなかったにせよあれで殺されかけたことを考えれば武器と扱っても問題あるまい。
これで落ち着いて話せると思い口を開いた瞬間、音が遅れて聞こえてきそうな拳が顔面に迫りかろうじて意識が戦闘寄りだったからスウェーで回避出来たけど、まだ殺気が全然引っ込んでない!?
「………か」
「は、はい?」
「……えが、お前が一夏を誑かしたのか崩上ィィィィィイイイイイイイイイ!!!」
「…は? 何言ってんのこのブァカぁぁっ!? こら、今の貫手は殺る気だったな!? 確実に頭をザクロにするつもりの一撃だったな!?」
「私から一夏を取る奴は死ねえええええええええええええええええ!!!」
「落ち着けこのウルトラブラコン!」
矢張りと言うか、何と言うか。こうも懸念が的中すると笑いたくもなるのが普通なんだろうけど、現在進行形で命を狙われてる身としては引き攣った笑いしか浮かべられない。
そうだ。コイツだ。コイツがいるから僕はこの教室に近寄りたくなかったし、何よりも“一夏君が一緒”だったことがそれに拍車をかけていた。
あれはそう、忘れもしない十年前。
一夏君が生まれて間もない頃、当時から乱暴者として知られていたコイツは僕がそれまで見たことも無いほどに上機嫌で見るからにウキウキしていた。
何か良い事があったのかなと当時世話役を学校から押し付けられていた僕は何気なく、本当に何の考えも無しに話しかけた。
話しかけて、しまった………。
『ねぇ織斑さん。今日はなんだかうれしそうだけど、何かあったの?』
『ん? 何だ崩上良く聞いてくれたな! 実は私の弟がそれはもう可愛くて毎日が幸せなんだっ!』
それはもう嬉しそうに、その後数時間に及ぶ弟惚気話に僕は逃げようにも終始キラキラした瞳で語るソイツを前に行動に移せず、くたくたになるまで話を聞かせられた。
そして感想を求められ、半ば朦朧とした意識の中でとりあえず弟のことを褒めなきゃという考えだけで口を開いた。
『えっと、いい子なんだね、いちか君って。僕もそんな弟が欲しいなーなんて………』
『…何? 一夏が欲しいだと?』
『え…? いや、そうじゃなくてたd』
『怨敵退散見敵必殺! 私の一夏は誰にもやらあああああああああああああああんッ!!』
『いぃぃぃぃやあああああああああ!? 誰もほしいとか言ってにゃああああああああああ!!??!』
………嗚呼、忘れもしないあの一撃。あれは未だ僕の中で最高に位置する右ストレートだ。
それを機に、僕は織斑を“鬼斑”と恐れるようになり、彼女の前で二度と弟の話題に触れることはしなかった。
それとはまた違った機会で一夏君に出会ったりもしたが、コイツにバレないよう必死に隠し通していたっけ。
この弟大好き人間にして弟狂い、織斑千冬を前にしてその弟である一夏君と仲睦まじい相手は須らく必殺対象。
それが分かっていたから逃げたかったというのに、思っていた通りの展開に溜息すら出ない。そんな暇があるなら目の前のバーサーカーを仕留める術を考える方がまだ建設的だ。
………でも、だからこそ気になることもある。
そんな弟狂いな織斑が何故、あんな顔をするまで一夏君を放置していたのか。気が付けば、僕の後ろから何やら冷たい視線を感じ気配を織斑に集中させつつも背後を振りかえる。
そこにいたのは、氷の微笑を浮かべた一夏君だった。やっぱり、血は争えないなぁと場違いなことを考えながら一夏君の手が僕の肩に置かれ、織斑の殺気がより濃密になる。止めたげて!? その殺気で教室中が震えあがってる!
だが、一夏君は一人その殺気の中でも微笑を浮かべたまま、織斑に対して口を開いた。
「……へぇ、束さんに聞いた通りって訳か。成程ねぇ……」
「や……その、いち、か?」
「正直眉唾ものって思ってたんだが、こうもあからさまに見せつけられたら、信じるしかないんだよなぁ……………はぁ」
動揺する織斑をスルーするかのように大きく深い溜息を一つ。
「―――――なぁ、湊さん」
「ひぅ、な、何?」
「信じられるか? この人、今まで散々俺のこと家の中でも無視したり愛想無かったりしたの全部、“照れ隠し”なんだってさ」
「…………………………………はぁ?」
たっぷり十秒ほどの間をとってから、僕の口からかろうじて出た言葉はそんな気の抜けたものだった。
それに構わず一夏君は言葉を続ける。
曰く、姉と比較され幼馴染にも見下され精神的にまいった状態の一夏君に、その時の織斑はただただ一夏君と向き合うのが恥ずかしくて何も言えずにいてその後ろめたさが余計に今までの素っ気なさに拍車をかけていたという。
僕を目の当たりにしてそれまでの印象から180度印象が変わった篠ノ之を見て何かを思ったらしく、僕が撮影会で付きっきりになってた時に話を聞いて愕然としたそうだけど、気を取り直しならば篠ノ之と同じように僕を介せば織斑の本音を引き出せると踏んだらしい。要は撒き餌ということなんだろうけど、それにしたって本人に無許可で命の危機に曝された事実に不満が募る。
「それについてはすいません。まさかあんなに暴走するとは思わなかったんで」
「……そりゃまぁ、そうかもね。今まで一夏君にとって織斑の印象が最悪だったんだし、予測は立て辛いよね」
「ぐはっ」
「印象は最悪」という言葉に血を吐く織斑を見ても一夏君の冷え冷えとした視線は変わらない。
でもそこには嫌っている印象よりも、何となく『コイツダメだ』というような呆れやら憐憫が混じっているような、そんな目だ。
「ったくさ、今まで散々俺が悩みに悩んで捻くれてたのがバッカみてぇじゃねぇか。この人がまさかこんなにダメだったなんて思わなかった………けど、それをこの衆目に晒せただけでも溜飲は下がったかな?」
そして口から出たドS宣言。この子やっぱり織斑の弟だと僕に確信させるような、てかやる事が中々にえげつない。
この学園にはIS世界最強の織斑に憧れる生徒は大多数だと道行く先で一夏君から聞いてたんだけど、まさかそれはこのことを暗に僕に教えるために? だとするとこの子の腹黒さは侮れない。
生徒は軒並み織斑の豹変ぶりにフリーズしたままだし、ひょっとしたらこの事を記憶から消去している最中かもしれないと思うとそのまま忘れて欲しいと命を狙われた側の僕が思う程に、今の織斑は可哀想だった。
「違うんだ、違うんだ一夏。日に日に男らしさを増していくお前を見ていると抑えきれない自分が……」
「やかましいダメ姉。人が散々まいってた時に訳分からん御託並べてくれやがって。ていうか何でこんな人が俺の姉なんだよ……それならまだ湊さんが姉の方が良かったよ」
「そこで僕に飛び火しないで!? そして織斑お前はその顔は止めてそれは人類に見せていい顔じゃない!」
「あっ、湊さんは俺の恩人みたいな人だから。何かしたら二度とアンタのことを“姉”として扱わないからな?」
「そんなっ!? それはつまり私を一人の女として見るというのか!?」
「トチ狂ったことぬかしてんじゃねぇ色ボケ姉! そんなんだったら一生“織斑教諭”と呼び口調も敬語オンリーだかんなっ!」
「ゴメンなさいっ! そんな他人行儀されたら私死んじゃう!」
「キャラ崩壊甚だしいなアンタ!?」
それは君もなーと思ったけど、思うだけで姉弟喧嘩に口を挟むのもどうかと思うので止めておいた。
それにしても、二人だけじゃないというのに周りは関係ないとばかりに激しく檄を飛ばす二人は凄いというか、あぁやっぱり血が繋がってるんだと疑わせない。これを機にもう一夏君があんな寂しそうな顔をしないことを祈る反面、何だか違う一面を開花させた気がしなくもない。これ、僕のせいじゃないよね? 違うよね?
「……さて、これで僕はもう用無しだから帰――――」
一つの懸念は去った。だから、もう一つの“最大懸念事項”が発生する前に今度こそ帰ろうと二人が言い争いを続けている教壇から離れ廊下に出た。
これで一安心。そう思った矢先の僕の目の前に飛び込んできたのはうっすら頬を赤くして、なんだったら目に涙すら溜めて微笑む女性だった。
心から嬉しそうな笑顔は異性でなくても思わず頭を撫でまわしたくなるような、生物の根源的な庇護欲を掻き立てる魅力に溢れている。
それでも、僕の胸中に去来したのはそんな素晴らしい感情なんかじゃなかったけど。
「あ、あぁ、あぁあああ………!」
「十年ぶり、なんですよね。もう、会えないかもって思ってたから、まさかこうしてまた会えるなんて……思わなくて……っ」
あっ泣きそうだと思う客観的な自分と、僕の方が泣き叫びたいわと喚く主観的な自分の両方がいるが、自身の混乱っぷりのせいで碌な言葉が出てこない。
ただ動けと。逃げろと脳からの命令は散々出されている筈なのに体は動かない。全身の注意が目の前の相手に向けられ、その一挙手一投足も見逃さず反応出来るように警戒レベルを最大限まで引き上げるが、実際に動ける気はまるでしない。
僕はここで死ぬかもしれない……そんなバカなことを割と本気考えながら目の前の女性、かつてのクラスメイトの一人で僕が心底怖いと思った存在――――――山田真耶を見つめ続けた。