今日という日を忘れない。綺羅ツバサはそう断言出来る。
以前から過激なファンからのアプローチは前々からあったし、そういったものには学校側からも気を付けるように言われていた。
しかし、学校の目を掻い潜り現れたインベスにツバサは、本気でこの世の終わりを見た。普段、力を貸してくれていたインベスが牙を剥いてくるのだから、恐怖を感じない方がおかしい。
そして、もうダメかと思った時。
襲われたインベスを助けてくれた少年を見た時、ツバサは確信したのだ。
今日とう日は、絶対に忘れられないという事を。
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真剣味を帯びたツバサの言葉に、葛葉コウタは自身の動揺を隠すようにコーヒーカップを飲み、言葉の意味を噛み締めて口を開いた。
「……………憧れって?」
その疑問は当たり前だろう、とツバサは思う。初対面の相手に「憧れてました」と言われれば誰だって怪訝に思うしかない。
だからツバサは突拍子なかったかなと思いながら語る。
「私のお婆ちゃん、沢芽シティに住んでたの。小さい頃、沢芽シティへ行って初めて見たビートライダーズの踊り……その自由奔放で楽しそうな踊りに、私の心は一目で奪われたわ」
そうはにかんでツバサは昔を懐かしむように天井を見上げた。
今でも鮮明に思い出せる。プロではないのにも関わらず、それを恥じる事なく自由に踊る彼らを美しいと感じた。そして、アニメなどを見た時よりも心が弾んだ事を。
そして、
「そのステージでね、たまたま見つけたの。私と同じようにダンスを見て目を輝かせている少年を」
「…………それが、俺?」
自分を指差すコウタに、ツバサは頷く。
「貴方がチーム鎧武に入ったばかりの動画にちらっと映ってたしね。メンバーの名前はネットにも記載されてたし」
当時の事を思い出したのか、コウタはあぁと納得したように頷いた。
「動画が更新される度、君の踊りは上達していった。それは私にワクワクとかドキドキを与えてくれて、自然と私を踊りの道へと導いてくれた」
「それで、スクールアイドルに……?」
「正直に言えば予想外。別に躍れればビートライダーズでもスクールアイドルでも良かった……まぁ、私の踊りで皆を笑顔に出来るから、スクールアイドルで良かったのかな」
ビートライダーズは一昔で言う所の不良という意味合いが強い。それはダンスを目的としているはずなのにインベスゲームによる喧嘩もどきに重きを置いているチームがあるため、不真面目や暴力的といった印象がついてしまっているのだ。
そう考えたら、きちんと学校にも通って大々的にダンスを見て貰えるスクールアイドルの方がツバサには合っていた。ビートライダーズのような自由さも嫌いではないが。
そう語っていたツバサが嬉しそうだったのか、コウタも嬉しそうに笑っていた。
「そっか………けど、あのA-RISEのリーダー様が俺なんかを目標にってのは、何か気恥しいな」
トップを着飾るスクールアイドルに、野良のビートライダーズ。世間的に見てありえない組み合わせだと思われるだろう。
「あのチーム鎧武のアーマードライダー、鎧武が音ノ木坂学院に転入したというのは聞いてたから、機会があればずっと会って話してみたいと思ってたの……迷惑だったかしら?」
少し不安そうに聞くと、コウタはまるで嘲笑するように椅子の背もたれに身体を預ける。
「まぁ、暇なら腐るほどあるよ。もうアーマードライダーじゃねぇしな」
「えっ?」
コウタの言っている意味がわからず、ツバサは聞き返す。そういえば、さきほど彼はインベスに対してインベスで対抗した。アーマードライダーなら変身すればいいはずなのに。
それと同時に、音ノ木坂学院の状況を思い出した。
音ノ木坂学院に在住していたチーム鎧武ことコウタ達が、学校には無断で危険性があるとわかっていながらオープンキャンパスを強行したという事で、かなり問題視されているらしい。
特にネットでは鎧武への批判が強く、戦闘狂や殺人鬼といったある事ない事書かれているのだ。
それではわからないが、音ノ木坂学院は彼らからアーマードライダーの命ともいえる力、戦極ドライバーの回収を発表。
つまり、今の彼はただの少年という訳だ。
「……………そっか、だからさっき変身を……」
変身しないのではなく、変身出来ないようだ。
そこで、ツバサに新たな疑問が浮かぶ。
「……………えっ、変身出来ないのにどうしてさっき助けてくれたの?」
「身体が自然と動いたんだ。てか、誰かを助けるのに理由なんか要らないだろ」
ツバサは思わず、ぽかんと口を開けてしまった。しかし、コウタの顔は偽善などではなく本気で言っているようだ。
「じ、自分が怪我するとか思わなかったの?」
「だから、自然と身体が動いたんだっての。それに、人が襲われていたら助けるだろ、普通」
何言ってんだ、とでも言うかのようなコウタに、ツバサはただただ驚く。
インベスを相手に生身の人間では勝ち目はない。だから相対した時は逃げ回るのが常識であり、軽い正義感で挑んでいいアイテムではないのだ。
なのに、この少年はさも当たり前のように挑んだ。それは今までが彼にとって、その行為は正義感などから来るものではなく常識からくるものだからだ。
もしかして、とてつもない人を憧れてしまったのではないだろうか。
そう思っていると、店員が注文したケーキをトレーに載せてやって来た。
ツバサとコウタは軽く会釈し、テーブルに並べられたケーキに瞳を輝かせる。
「うぉぉ……美味そうだな」
「えぇ、やっぱり噂通りね………いえ一番の問題は味よ、味」
女の子のツバサはもちろん、男子のコウタでさえ瞳を輝かせる出来映え。流石としか言いようがなかった。
フォークを手に取りさっそくツバサは注文したチーズケーキを掬い、ぱくりと口に入れた。
「…………おいしい!」
「うん、こりゃ美味ぇ!」
ツバサだけでなくショートケーキを食べたコウタも満足げに頷く。先程のような暗い雰囲気が払拭され、その表情にも笑みが浮かんだ。
再び口にして、コウタはしみじみと言った。
「今度、μ'sの皆も連れて来るかな」
途端に、ツバサの目が細まる。
「もう、女の子とデートしてる最中に他の女の子の話し持ち出すの失礼だと思うんですけどー?」
「別に恋人じゃないんだし、そこまで気にするトコかよ」
悪びれもなく言うコウタに、そうだけどと答えつつ不満そうにツバサは口を尖らせる。
予期していなかった憧れの人との出会いに少し舞い上がってじったが、それを抜きにしても女の子の前で別の女の子の話しをするのはデリカシーがないだろう。
これでも一応、スクールアイドルの頂点に立つ身だ。それなりに美少女という自覚はあった。なので、こうも平然といられると女の子として自信が無くなってくるものだ。それなりに美容などにも使っているのだから、多少は緊張してくれないと負けた気分になってくる。
「本当に美味いな、このケーキ!」
当然、コウタが知る由もなく、パクパクとケーキを食べている。
何というか、ある意味で図太い神経にツバサは感動すら覚えてしまった。
「…………葛葉君って、μ'sの誰かと付き合ってるの?」
「ぶふぅっ!?」
単なる好奇心からの質問だったのだが、突然吹き出したコウタにツバサは目を輝かせた。
「えっ、いるの!?」
「ごほっ……突然過ぎるだろ、その質問!? いねぇよ、俺とあいつらはそんなんじゃないって」
「えぇー………」
どう見ても今の反応は図星を付かれたモノで、ツバサは誤魔化すコウタにがっかりと肩を落とした。
「だって、その反応はμ'sの中に好きな子がいるからじゃないの?」
「色恋沙汰とか苦手なんだよ」
そう言ってそっぽを向くコウタは、昔に何かあったのか面倒そうな顔をしている。
「…………改めて言わせて」
話題を変える為にあえて前置きをしてから、
「助けてくれて、ありがとう」
「あぁ、気にすんなって。手当てもしてくれたし、良い店も紹介してくれたしな」
そう言って、ふとこうたは力なく笑う。まるで自らを自嘲しているような仕草に、ツバサは首を傾げる。
「………なぁ、もしもアンタのUTX高校が廃校の危機に晒されていて、インベスに襲撃されるけど、オープンキャンパスを中止にしたら廃校が確定する。だけど黙って友達が戦ってまで強行して学校が滅茶苦茶になったら、やっぱりオープンキャンパスを中止にして欲しかったか?」
その質問は、きっと今回の件の事なのだろう。
ツバサが耳にした情報では今回のオープンキャンパスで一定数の入学希望者が集まれば廃校を撤回する、という方針だったそうだ。ならばオープンキャンパスが中止になったら自然と廃校が決定してしまう。
それは嫌だな、というのがツバサの第一印象だ。せっかく練習してきたダンスも披露出来ずに。理不尽な理由で廃校にまでなったら悔やんでも悔やみきれないだろう。
しかし、その一方でμ'sの気持ちもわかるのだ。それは見た方を変えれば自分達のライブのせいで誰かが傷付く戦場になってしまっては本末転倒だし、影で友達がソレをしているなら嬉しいとは絶対に思えない。
傍から見れば、常識的に考えて間違っているのはコウタだろう。ある意味で人命軽視しているのだから。
しかし、同時に廃校という状況にツバサは幸いにも経験していない。
だから、ツバサには明確な答えを持ち合わせてはいなかった。
「……………ごめん、わからないよ」
「………まぁ、だよな」
ツバサが謝ると、コウタは気にした風もなく息を吐いた。
「……………アンタが他校の生徒だから愚痴らせてもらうけどさ」
「…………うん」
「俺達は、音ノ木坂学院にスクールアイドルμ'sが出来たから、彼女らを守る為に転校してきた」
スクールアイドルは、今の御時世において希望であり狙われやすい。正式な事務所と契約したプロのアイドルではなく、衣装や作曲、ダンスの振付も自分達で行う。
それは自衛も含めてだ。ただでさえ未成年に対する犯罪が増加傾向なのだから、人気が出てきたスクールアイドルなど犯罪者にとって格好の餌食だ。
だからこそ、ユグドラシルが目を光らせている。手を出させない為にアーマードライダーが派遣される。
彼らはいわば、その代わりだ。多忙なユグドラシル社員の代わりに常に一緒にいる守護者。
「戦う事しか出来ない俺達があいつらの役に立てる事なんてないのに………戦うな、なんて俺達の存在全否定じゃねぇか」
戦う事しか出来ない、という発言にツバサはそんな事ないと言いたかった。話しではチーム鎧武はμ'sにダンスを教えていると聞いていたし、それだけじゃなくても他の事で何かしら支えているはずだ。
しかし、それを他校であるツバサの口から言うのは無遠慮過ぎる気がした。ツバサは所詮、他校の生徒なのだから。
コウタもコウタでただ聞いて欲しいだけなのか、こちらの顔色を伺ずに続ける。
「そりゃ、戦わない事に越した事はないさ。誰だって平和が一番だし………だけど、現実はそんなに甘くない。以前だって志木は音ノ木坂学院を狙ってきて、今回だって襲撃してきた。なのに、戦う力を捨てるなんて…………」
コウタにしてみれば、戦わないという選択肢を取る事に疑問を感じているようだ。
「……………葛葉君って、高校生だよね?」
高校生らしからなく思考、価値観を持つ少年に思わずツバサは聞いてしまう。
するとコウタは心外なと返す。
「どこからどう見たって普通の高校生だろうが」
「普通の高校生はアーマードライダーなんかやらないよ」
どこかズレている、とツバサは思った。それは彼らにとってアーマードライダーとして戦う事が当たり前という常識になっている、という点が一番の相違なのだろう。
一般的な人間は暴れているインベスに立ち向かおうとはしない。インベスゲームという決闘法があるとはいえ、それは最終的な自衛手段であり、逃げるのが普通だ。
しかし、彼らの普通とはアーマードライダーとなって自身らが戦う事を当たり前としていた。最悪、怪我では済まない可能性とてあるというのに。
そもそもにおいて、そこが違うのだ。戦う事を当たり前にするコウタ達と戦わない事を当たり前にする穂乃果達。
価値観が違っていてどちらも譲らないのなら、話しが平行線を辿るのは当然である。
「でもさ、葛葉君の言い方だと戦う事が前提だよね」
「………まるで人を戦闘狂みたいに言うなよ。カイトじゃあるまいし」
「戦闘狂じゃないけど戦いたい。私にはそう聞こえたけど?」
ツバサの指摘にコウタは黙る。
現実として音ノ木坂学院のみならず、廃校寸前の学校という土地を狙う輩は多い。政治家のような人間がくだらない私情でホームシアターなどの施設をつくる、というのもよくある話しではある。
ただでさえ島国で土地が少ないのだから、遊ばせておく余裕などないのだから、土地はそれなりに価値はあると前に授業で習った。
それを狙う輩は、どんな卑劣な事をしてくるかはわからない。今回の志木がいい例である。
だが、それらに対して戦うなりなんなりするべきは学校やユグドラシルであって、コウタ達ではない。
「現状は襲われてるんだぜ? それに対して戦う力を捨てるなんて………」
「それは学校側はするべき事で、君がする事ではないと思うけど?」
突き放すような言い方になってしまうが、ツバサははっきりと告げた。君達は間違っている、と。
でなければ、彼らは戦い続けるだろう。たとえ生身であっても、先ほどのように恐れを知らない狂戦士のごとく。
そう言われたコウタは納得出来ないらしく、むすっとした表情で腕を組んだ。
ちょっと出過ぎた真似かな、と思いつつもツバサは紅茶を飲む。
「…………ならさ、もしも葛葉君は戦いをしなくてもいいっていう平和な世界になったら、何がしたい?」
「…………………戦わなくていい世界?」
「もしもの話し。他にする事がない、って訳じゃないでしょ? 夢、とまでいかなくても趣味とか」
ツバサの言葉に趣味か、と呟いて考え込むコウタ。
「……………そうだな。なら、思い切りダンスがしたいかな……沢芽シティにいた頃はフリースペースを奪い合う為のインベスゲームに皆重きを置いていたから、そんなの関係なしに踊りたい。馬鹿みたいに無我夢中で………」
そう語るコウタは楽しそうに笑みを浮かべる。それだけで彼の中にあるダンスに対する熱意は衰えていない事がわかる。
「あ、ラブライブの決勝に乱入してダンス勝負するのもいいかもな」
「あら、私達A-RISEだけでなくμ'sまで敵に回す気?」
突拍子もなく挑発されたツバサは、驚きつつもにやりと笑った。如何に伝説のチーム鎧武といえど、現役のスクールアイドル達の頂点がつどう場所に堂々と殴り込むというのだ。売られた喧嘩は買わざる得ない。
ツバサの受けて立つという言葉にコウタは笑う。
それを見て、ツバサは思った。
何だ、戦い以外でもやりたい事あるじゃない。
まるで戦いこそが生きる道、と侍のような雰囲気があった。
しかし、今のコウタは年相応の少年だ。今やりたい事を口にする、高校生の顔だった。
しかし、それは一瞬で終わる。
「い、インベスが暴れているぞーっ!」
「っ……!」
「あっ、ちょっ、葛葉君!?」
入り口からそんな声が聞こえ、コウタは即座に立ち上がるとツバサの制しも聞かずに駆け出して行った。
先程まで普通の高校生だったというのに、一瞬で戦う戦士の表情に戻ってしまったコウタ。
ツバサは放っておく事も出来ずに会計を済ませてからコウタの後を追いかける。
店を出てからツバサがコウタの後ろ姿を見つけるのに、それほど苦労はしなかった。
道を人々が一方に逃げ走っているのだ。そこに逆らって行けばコウタに辿りつけるだろう。
しかし、ツバサはそこに違和感を感じた。インベスが暴れるというのは日常茶飯事でなくともよくある事だが、逃げている人々が切羽詰った表情をしているのだ。
暴れているのは通常のインベスではない。そう感じながらもツバサが走ると、交差点の所でコウタを見つけた。
「葛葉君!」
今だインベスに立ち向かっていない姿を確認し、安堵の顔で彼と並び立った。
しかし、コウタは呆然としてはいないがただ一点を睨んでおり、怪訝そうにその視線を追って目を見開く。
「えっ……」
呆然とした呟きは確かに自分のもののはずなのだが、それを認識出来たかも怪しい。
そんな状態になるほど、目に前の光景で起きている事は理解し難いものだった。
目の前ではアーマードライダー部隊がインベスを鎮圧するべく戦闘していた。が、その優劣は劣勢などではなく、さらに酷いものだ。
蹂躙。人々を守るはずの頼もしきヒーローが、怪物に蹂躙していた。インベスは通常や上位体よりさらに大きくなったシカインベスと辛うじて角から判断出来るが、その姿は大きく異なっている。
まず全身に蔦なようなものが巻き付いており、見た事のない紫色の果実が生えていた。さらに皮膚にあたる部分には薄青く発光しており、それだけでも異なるインベスだというのがわかる。
シカインベスから蔦が伸び黒影を拘束すると、そのまま引きずるようにして振り回した。アーマードライダーの装甲で強固に守られているはずの身体が変な方向に折間借り、絶叫とともに息絶えた。
周りには言葉にしたくないような地獄絵図が広がっており、直視したツバサは口を抑える。先程食べたケーキが胃から逆流しそうになり、思わずその場にうずぐまる。
「……………わかってるよ。契約違反だって言いたいんだろ」
そんなツバサの耳に、何の抑制のないコウタの呟きが入る。吐き気が全身に襲いかかっている為に顔を上げられないが、足が進んでいるのがわかる。
ダメだよ、葛葉君!
そう声にしたくても出来ない。
ツバサの思いとは裏腹にコウタはただ敵へと、戦う力も持たずに突き進んだ。
「アキトッ!」
「アキト君!」
南理事長の前に出た啼臥アキトの右肩から鮮血が飛び散り、咄嗟に星空凛と小泉花陽が駆け寄る。
「狙撃だとっ!?」
「皆さん、伏せて!」
九紋カイトと呉島ミツザネは咄嗟にμ'sメンバーと南理事長の手を引き舞台袖へと逃げる。
悲鳴と共に伏せる生徒達。その中に響く銃声。
「くそったれ!」
アキトは舌打ちと共に力の限り凛と花陽を押し倒して壇上の裏へと転がり込む。
その際にふにょっと顔に柔らかい感触とぺったんという手触り。
「あ、アキト君………!?」
「ちょっと! アキト、撃たれた癖に何してるにゃ!?」
「非常事態なんだ勘弁しろ。あと得したっていいじゃねぇか!」
転がった際に花陽の胸に顔を突っ込ませて、ついでで凛の胸で腕を回すように引き寄せてしまった結果だ。勿論、役得を狙った故意である。
「なんでかよちんは顔で凛は腕!?」
「壁に向かって飛び込む奴がいるか。飛び込むならクッションだろ」
「にゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「だ、誰か助けて………」
撃たれたはずなのに状況に関わらず夫婦漫才を展開し、巻き込まれて嘆く花陽。
それを遠目で見ていた矢澤にこは、カイトの腕の中で呟く。
「…………あいつら狙われてるって自覚あるのかしら」
「さぁな」
にこの呟きにそう返した後、カイトは後ろで青い顔をしている南理事長に言い放った。
「おい、教師達に連絡して生徒を逃せ。無能な貴様でもそれくらい出来るだろう」
「か、カイト………!」
言葉を諌めようとする絢瀬絵里に、カイトは冷ややかな視線を向ける。
「そいつがオレ達から戦極ドライバーを………ひいてはユグドラシルの戦力を撤退させなければ、侵入者を許す事などなかった。今の現状をそいつの無能さの結果と言わずなんて言う」
容赦ない言葉が投げられているが、南理事長は反応しない。殺されかけたという現実、恐怖で動けないようだ。
舌打ちをしたカイトは生徒会長の絵里と副会長の東條希に目を向ける。
「……………無理したらアカンよ?」
「出来ない相談だな」
短い返答に反論する間も惜しいと感じたのか、2人は何も言わずに南理事長の手を引いて後ろへ下がった。
「で、何か策はあるのかしら? 言っておくけど、無意味に突き進むなんて馬鹿な事言ったら腕に噛み付いてでも止めるから」
「……………貴様は怖くないのか?」
先程からにこは他のメンバーとは違い何も言わずに、こちらの言い分を聞いていた。
ずっとそうだ。オープンキャンパスを強行した事も表情で不満を現していたものの、決して感情を爆発させる事なく成り行きを見守っていた。
正直、一番彼女が何かしらの文句を言ってくると思ったのだが。
「………怖いわよ。ただ、怖いからって端っこで震えている訳にはいかないわ。私はアイドル………皆を笑顔にするアイドルが震えてどうするのよ」
その言葉にカイトは目を伏せ、そうかと短く返す。
なるほど。薄々は感じていたが、にこも同じなのか。
「……………にこ」
「っ、何よ?」
突然、名前で呼ばれたからかにこが遅れて返事をする。
「お前みたいに強い奴がいてくれるのなら、オレは戦える」
「…………それは遠回しな告白? 言っとくけど、アイドルは恋愛禁止なんだからね」
「恋愛を訴えるならまな板をどうにかするんだな」
小言で罵り合いつつ、カイトとにこは向こう側を見る。
アキトの右肩は撃たれてはいるが本人の表情に苦痛の色はなく、凛と夫婦漫才を繰り広げている。
さらに向こうでは高坂穂乃果、園田海未、南ことりら2年生組と西木野真姫と逃げたミツザネがアキト達を呆れた表情で見ていた。
「アキト。余裕あるなら撃たれてくれせん? 狙撃の場所見えなかったので」
「死刑宣告かよ!?そっちこそライダーとして戦うって決めたんだろ!?」
ボケなのか本気なのかわからないミツザネの言葉に返し、アキトはちらりとホールを見やる。
カイトもホールを見やると、伏せた状態で生徒達が避難していっている。
「どうする気………?」
「ひとまず他の奴等が逃げてからだ。でなければ動きようがない」
にこにそう答えつつ、カイトは不審そうに目を細める。
避難している最中、生徒達は無防備だ。狙撃しようと思えば狙撃出来たのに、何故何もしないのか。
このタイミングで再び音ノ木坂学院を襲撃しようとするなら、相手は志木だ。ならば生徒会長を想うなどという人道はあるはずがない。
「アキト、肩の具合は……」
「掠っただけだ。大した怪我じゃない」
心配そうに言う凛に笑うアキトだが、その肩からは出血が止まっておらず床に赤いシミを作っている。
それを見ている花陽が顔を青くしているが、アキトは怪我に目もくれずにホールを睨んでいた。
「インベスの仕業?」
「いや、狙撃するインベスなど聞いた事がない。人間の仕業と考えるのが妥当だ」
にこの疑問に答え、即座に否定するカイト。インベスはユグドラシルによる強固な防衛手段があるが、人間相手ではユグドラシルは基本的に手を出してはならないという決まりだ。
「結局、いつでも敵は人間か」
カイトのぼやきは誰にも聞かれずに消え、今度はプロジェクターや放送器具が備えられてある放送室の上を見やった。
そこは音ノ木坂学院の校章を象ったレリーフがあり、さらに中央は穴が意図的に空いてある作りになっている。
「………狙撃してきたとしたら、あの校章辺りからだな」
そうぼやいたカイトはにこが声を上げる間もなく飛び出した。
「なっ………!」
狙撃されるというのに恐怖せず躍り出たカイトに、穂乃果達が絶句の声を発する。
パァン。
銃声が響いたのと同時にカイトがいた場所が抉られる。
カイトはそれに構わず駆けて、アキト達と同じように壇上裏に隠れず、むしろその上に堂々と立った。
「ば、馬鹿かアンタ!? 死ぬ気かよ!?」
流石のアキトも焦りの声を上げ、凛と花陽は顔をそむける。
しかし、カイトはすぐ隣に立てられてあった音ノ木坂学院の校章旗を手にし、槍のように振り回した。
「ま、まさか………」
今からカイトが何をする気なのか、弓道部に所属している海未が気付いたように声をもらす。と、同時に顔が引き攣った。
間髪入れずに銃声。同時にカイトが校章旗を振るう。
カン、と同時に見当違いの箇所に弾丸が着弾した。
「……………マジかよ」
「マジです。今のうちにこっちに」
アキトのぼやきにミツザネが手招きしながら答え、凛と花陽に肩を担がれながら舞台袖へと移動していく。
その間も銃声が響くが、カイトがさせまいと校章旗を振るう。
カイトがしている事は言葉にすれば簡単な事。校章旗で銃声を叩き落としているだけだ。
銃声ははっきりと聞こえるし、狙撃出来るポイントなど校章のレリーフくらいで、一度弾丸を捉えてしまえば弾くのは雑作もない。もちろん、アーマードライダーとして鍛えられてきた感覚があればこそ、であるが。
「アキト君、酷い怪我……!」
「かすり傷ですって………」
傷口を見て息を飲むことりに言い放ち、アキトはミツザネとカイトを見やる。
「それより、どうすんの? ドライバーはない。ライダーもいない。もとより相手は人間……インベスで対抗する訳にはいかないだろ」
音ノ木坂学院を襲撃してきた輩は平然とインベスに人間を襲わせていたが、それはやってはいけない
しかし、ロックシードを変えれば呼び出しが可能となっている為、文字通りの捨て駒として見られているのが現状だった。
インベスと戦う為のアーマードライダーとはいえ、インベスを無闇に戦いに起用する訳にはいかなかった。
「相手が人間なら話しは早い。直接叩き潰せばいいだけなのだからな」
「いやいやいや。相手は銃持ってるんですけど、本物の殺し屋なんですけど!?」
真姫から軽くハンカチを当てられながらアキトは吠え、やはり痛みがあるのか顔をしかめる。
「け、警察が来るのを待てば………」
「無理よ」
海未の言葉を遮ったのは、反対側にいたはずのにこだ。どうやらカイトの取った行動からいち早く回復し、裏手を通ってきたらしい。
「不安になって警察に連絡してみたんだけど繋がらず………どうやら街の方でインベスが暴走しているらしく、アーマードライダー部隊が苦戦を強いられていて警官に応援をよんだらしいわ」
「と、いう事は当然アーマードライダーはこちらには来れませんね。僕達だけで何とかしないと……」
にこの言葉だけで結論を出したミツザネは、ことりを見やった。
「ことりさん、僕達の戦極ドライバーは理事長にあるんですよね?」
「う、うん。鍵と防犯ブザー付きの棚に」
思った以上の厳重さに、カイトは肩を竦めた。
「そこまで厳重にするなら警備を厳重にしろ」
「いや、そうでもしないとアンタが無理矢理にでも取り返そうとするからでしょ」
にこのツッコミに対して、カイトは何も言わない。事実、頭に浮かんだ事だからだ。
「………今回の目的は南理事長だとすると、彼女が危険に晒されますね。ドライバーを回収して早く合流しましょう」
「なら、こっちだよ」
穂乃果は言うや否や、舞台袖の奥にあるステージ下へ繋がる階段を降りた。そこには体育の授業などで使用する器具などの置き場になっており、部活などでなければ踏み入れないような場所である。
「ほ、穂乃果……?」
穂乃果について行くと、目の前に広がったのは柔道などで使用される畳を退かしている穂乃果で、その床には蓋が設置されていた。
「こ、これは………?」
燻しがって首を傾げる海未に不敵な笑みを浮かべると、穂乃果は蓋を開けた。
そこにあったのは少し錆び付いた梯子であり、音ノ木坂学院の地下へ繋がっているようだ。
「こんな所に、どうして梯子なんか………?」
「お母さんが昔話してたんだけど、昔の理事長さんが理事長室と講堂を行き来出来るように専用通路を作ったんだって。今では使われていないみたいだけど、校舎を行くより早いと思うんだ」
穂乃果の説明に頷いたカイトは、躊躇い無く飛び込んだ。梯子の深さはそれほどなく、特に問題なく着地出来た。
カイトに続くようにミツザネが飛び降りてきて、μ'sメンバーは梯子を使って降りてくる。最後にアキトが飛び降りてくるが、体勢を崩してしまう。
「アキト!」
「大丈夫だ。問題ない」
「それ、大丈夫じゃないフラグですよね」
凛に支えられながら立ち上がるアキトにツッコミ、ミツザネは通路を見やる。
流石に埃っぽく明かりもないのでスマートフォンの明かりを頼りに進む一行。そして、それほど時間をかけずに梯子が見えてきた。
「出口が塞がれている、っていうのはない訳?」
「多分、大丈夫だと思う。話しだと理事長のテーブル下に出口があるらしいから」
カイトは梯子を上り蓋の鍵を開け、押し上げた。流石に錆び付いていたが問題なく上がり、一同は理事長室に出る事が出来た。
「さて、戦極ドライバーは…………」
カイトとミツザネが周りを見渡した時、世界から色が消え失せた。
「ッ!?」
2人は驚き振り向くと、μ'sメンバーとアキトも色を失って固まっていた。まるで時を止められたかのように、微動だにしない。
「やっと来たか。待ち侘びたぞ」
掛けられた声にカイトとミツザネは警戒した顔で構える。
男は理事長室のソファーに座り込んでいた。何時ものように陽気なラッパー気取りの衣服にバンダナ、そして手に鎧武のライダーインジエーターが備わっている戦極ドライバー。
「…………サガラ」
「てっきり強行すると思っていたが、まさか言いなりになるなんてな」
サガラはそう言いながら、2つの戦極ドライバーをテーブルに置く。カイトとミツザネのドライバーだ。
「アナタが何故、ここにいる?」
「あいつがドライバーなしに突っ込もうとしているのでね。流石に見過ごすのはナンセンスだ。この物語が終わるぞ」
「貴様の相手をしている暇はない。どけ!」
叫ぶカイトだが、それを嘲笑うようにサガラは続ける。
「何故、そこの小娘どもに力を貸すんだ? お前らがビートライダーズを辞めた理由は自分の進路を真剣に考えるから、だったと記憶しているが?」
サガラの言う通りだ。カイト、ミツザネ、コウタはビートライダーズを辞めた。それはそれぞれが戦乱から学び取った未来への想い、決意、悩みなどを経ての選択だ。
それは、互いに吐露もしていないし、する気もない。知る気もない。
いわば、3人だけが共有している決断だ。
「アナタには関係のない事だ。ドライバーを返してください」
「連れないねぇ。一応、これでもビートライダーズ同士のランキングを盛り上げた仲だってのに」
盛り上げたというより引っ掻き回しただろう、と内心でカイトは呟く。
「いや、でも驚きだぜ。葛葉や呉島ミツザネはまだわかる。だが、九紋が同じようにヒーローになるとはな」
「……………貴様に話す理由はない」
取り付く島もない。それを知らしめる態度でカイトが返すと、サガラは面白そうに嗤って姿を消した。
「まっ、ツンデレというのもそれはそれで面白そうだ」
「誰がツンデレだ!」
捨て台詞に煮た言葉に吠え返すと、世界に時が戻った。色を失っていたはずの世界に色が戻り、穂乃香達も動き出す。
「あっ、あったよ。戦極ドライバー!」
「棚にあるんじゃなかったの? なんでテーブルに置いてあるのよ」
ことりがソファーの戦極ドライバーを指差し、にこが怪訝そうに首を傾げる。
「まぁ、何だっていいだろ。早く理事長を助けに行こうぜ」
細かい事は後回しだ、とまではいかなくともアキトの言う事は正しい。狙われているのは南理事長であり、その結果は確実に最悪なものになるのだろうからだ。
「わかっている」
頷き返して戦極ドライバーを取ろうとしたカイトとミツザネだったが、それより先ににこと真姫が取ってしまう。
「…………何のつもりですか?」
「約束して」
真姫の言葉にミツザネは首を傾げる。
「絶対に無傷とはいかなくても………なるべく怪我をしないで私達の所に戻ってくる事」
「それが約束出来るなら………ううん、今ここでそれを誓いなさい!」
真姫とにこは真剣な表情で、戦極ドライバーを抱え込む。
その言葉にカイトは何時もの獰猛な笑みを浮かべ、ミツザネは強く頷く。
「にこ、オレを誰だと思っている。信念を貫けなくなった男に価値などない」
「負けませんよ、もう絶対に。僕が僕である事を証明する為にも」
それは強い宣誓だった。2人が戦うそれぞれの為の。
納得出来るような言葉ではなかったが、にこと真姫はどこか諦めの入った笑みを浮かべて戦極ドライバーを差し出した。
それを受け取った2人は頷き、笑う。
その表情は剣を手にした戦士のごとく、戦を待ち侘びるような瞳だった。
呉島ミツザネが所有するロックシード
・ブトウ
・ヒマワリ
・サクラハリケーン
次回、ラブ鎧武!は
「それがこの結果な訳だけど、どうかな無能理事長様?」
音乃木坂学院を襲う名も無き殺し屋。
「生憎と、金髪美女も巨乳美女も………ぺったんこ美女も間に合っている」
己の信念をつらぬくため、槍を掲げるカイト。
「世界がコウタさんや穂乃果さんみたいな単純バカだらけなら、きっとそんな世界も作れる」
遠い表現で2人を褒めるミツザネ。
「これは、身勝手な俺の贖罪なんだ」
そして明かされる、コウタの戦う理由とは。
次回、ラブ鎧武!
10話:戦う理由 ~忠義と贖罪による鎧武者の凱旋~
おまけ、というか突拍子のないコラボ。
世界の終わりというのは、思いの他呆気ないものだと誰かは言う。
現在、人類は深海棲艦の攻撃により海も、空すらも奪われてしまっている。
それに対抗出来るのは艦娘という存在感だけであるが、まったくの無抵抗でただ陵辱されるという訳ではない。
それらの脅威があったとして、直接戦っていない大多数の人々にとって、それらは破滅を齎す直接的な脅威になりはしないのだ。
つまるところ。
本当に世界の終わりが訪れるのだとしたら、何の前触れもなく、絶望を感じる暇もなく呆気なく終わるという。
この男、
提督で、
ドライバー。
艦隊これくしょん×仮面ライダードライブ
深海棲艦と唯一対抗出来ていた艦娘達に襲いかかる現象『重加速』。
これにより人類側の劣勢が目立ち、敗戦する艦娘達。
その『重加速』……通称、『どんより』を調査する為に組織された特殊艦隊。
横須賀鎮守府所属、特殊艦隊。『特状艦隊』
しかし、そこに配属した顔ぶれは一筋縄ではいかない者達ばかり。
かつては優秀だったが、とある事件をきっかけに腑抜けになってしまった提督。
「もういいや……考えるのやーめたっ」
泊進之介
まったく笑わず、冷徹を思わせる秘書艦。
「貴方が業務をすっぽかして逃げるからです!」
金剛型4番艦『霧島』
野次馬根性はぴか一!
「青葉、見ちゃいました! 怪人が暴れてる所!」
青葉型1番艦『青葉』
ちびっ子に見えて秀才。多分、この艦隊の唯一の良心。
「хорошо……これは酷い」
暁型2番艦『ヴェールヌイ 』
戦闘時は頼れるビック7。日常は占いと駆逐艦大好き頼れないながもん。
「今日の相性は………おおぉっ、ヴェルたんとぴったしではないか!」
長門型1番艦『長門』
進之介に呼びかけるトライドロンの住人。
「君は超人だ。ただ、エンジンの掛け方を忘れてしまっているだけさ」
「……………提督なのに車っておかしくねーか」
ドライブドライバー『ベルトさん』
深海棲艦の新たな艦隊………
「俺はかつて、お前の姉達を見殺しにした……『どんより』とか関係ない。こんな俺に、皆を指揮する資格なんて………」
「………確かに提督は無理な進軍を行いました。でも、それは勝利出来るはずのものでした。今の結果は……私達の力不足です。提督が気に病む必要はありません。悩む提督なんて似合いませんよ、きっとお姉さまもそう思ってます。だから……妹を、霧島をよろしくお願いいたします」
「俺はもう、後悔したくない……資格なんざどうでもいい。俺があいつらの未来を奪ったのなら、あいつらの分も未来まで突っ走るだけだ! もう、考えるのは止めた……変身!」
この男、走り出したら止まらない。
START YOUR ENGINE!!
艦これドライブ
「深海棲艦ども、ひとっ走り付き合えよ」
11月にも入り肌寒くなってきましたね。熱燗が美味い季節………皆様、如何お過ごしでしょうか。
私目は艦これを始めた上に今月から一人暮らしを始めるので、けっこうてんわやんわです。
さて、今回の話しで音乃木坂学院が襲撃されるという事態に。普通ありえねー展開ですね、無理し過ぎたか……。
今更ですが、ことりママを随分と無能扱いしてますがこれアンチに入らないですよね……彼女はただ単に子供達を危険から遠ざけたいだけなのですが。
おまけの艦これとドライブは思いついただけで、書くはどうかは未定です。というか、ウィザードの方が絡ませるのは楽かな………www
そういえば、今日は凛ちゃの誕生日という事をあとがきを書いてる出勤時に気付いたので、ちょっとした小話を。
時間軸やデュークであることはバレていますが、そこはまぁ気にしないで下さい。
ハッピーバースディ・リン
「……………何、これ」
「何って、誕生日プレゼント」
アキトに呼ばれた凛が差し出されたのは、ダンボール箱一杯に積まれたカップラーメンだ。
女の子の誕生日プレゼントに、これを渡すつもりなのか。
まじまじと幼なじみを見ると、彼は「どうした?」といわんばかりに首を傾げている。
「アキト。流石に女の子に対してこれは……」
「そうだよ、凛ちゃんだって女の子なんだよ!?」
「アンタのセンスを疑うわ……」
一緒に付いてきたミツザネ、花陽、真姫がぼろくそ言っているが、アキトは困ったように顔を顰めた。
「んな事言われたって………こっちは毎日がきつきつなんだ。世間的なプレゼントしたくたって、出来ないって。悪いがそれで勘弁してくれ」
「だから、正式なユグドラシルのアーマードライダーとして働けば幾らかバイト代は弾むよう、兄さんに進言するってのに」
「デュークの存在は秘密。そういう約束なんだ」
「…………まぁ、見る所レア物なカップラーメンばっかりだし、くれるなら有り難く頂戴するにゃ」
そう言って運ぼうとする凛だが、意外なその重さに驚く。ダンボール一杯に積まれているとはいえ、中身はカップラーメンである。
「お、重いにゃ………」
「あれ、そんなにか? なら、お前の部屋まで送るよ」
その言葉に、きゅピーンとミツザネの目が輝く。
「なるほど、そうやって売り込むとは………アキト、恐ろしい子ッ!」
「チャプチェを知らなかった分際で何を言うか」
凛では軽々しく持てなかったダンボールを持ち上げたアキトは、外に駐車してあるサクラハリケーンの荷台に載せて固定する。
それから凛にヘルメットを渡し、ミツザネへ言った。
「この後どーすんだ?」
「僕達はこのまま解散だね。ラブライブを前にきちんと休める時は休んどかないと、文化祭の時みたいなのはごめんだから」
「穂乃果ちゃんがいたら泣いちゃいそうだね」
手厳しいミツザネに、花陽は苦笑を浮かべる。
結局、そこで解散となり凛はアキトの運転の元、凛の家へと向かう。
「ここでいいか?」
「うん、ありがとう」
部屋の片隅にダンボール箱を置いたアキトに凛は頷く。
凛の母親はあまりラーメンを食べる事に対してよく思っていないのだ。普通に食べるなら問題ないが、凛の場合は下手をしたら毎日のように食べているのだから栄養面から見て小言を言われるのは仕方が無いだろう。
ふと、凛はこの前母親から言われた事を思い出す。
アキト君が恋人になってくれれば、私も安心なんだけどねぇ。アンタの食生活が心配で……もう早く付き合っちゃいなさいよ。
ぼん、と凛の顔が赤くなる。確かにアキトという少年は凛の中では幼馴染みという点では花陽よりも近しい位置にいて、異性という点でもミツザネよりも近しい位置にいる存在だ。
だが、しかし。母よ、それはストレート過ぎる表現ではないのか。
「…………おい、凛?」
「…………にゃっ?」
こちらを覗き込んできたアキトの顔が間近に迫り、凛の思考が止まりかける。
「どうした、茹でタコみたいになって」
「な、何でもない……」
何とか目線を逸らさずに答えた凛に、不思議そうな顔をするアキト。しかし、これといった追求はせずに離れた。
「じゃ、俺帰るから」
「にゃっ。ありがとね、これ」
「一応、全部見とけよ。変なゲテモノがあったら引き取るから」
そう言って部屋を出ていくアキト。
ふぅ、と息をついて凛はダンボール箱へと手を伸ばす。女の子へのプレゼントとしては微妙かもしれないが、ラーメン通の凛にとっては幅広いラーメンを食べれるのはうれしいものだ。
一体どんなラーメンがあるのか、と若干わくわくしながら漁っていると、中から紙袋が出てきた。カップラーメンが入るほどの大きさではなく、まるでアクセサリーを梱包しているような紙袋だ。
「アキト、何も言ってなかったけど………」
間違えて入れてしまった、という訳ではなさそうだ。裏面にハッピーバースディ・星空凛とプリントアウトしたシールが貼られている。
もしかして、本命のプレゼントはこちらで、後は単なるカモフラージュなのではないだろうか。
中を開けて入っていたものを取り出す。
それを見た凛は驚いた後、気恥ずかしそうにしながらも、嬉しさの篭った笑顔を浮かべた。
「凛ちゃん。その髪留めどうしたの?」
「へっへーん、似合うでしょ」
翌日。
μ'sの練習前の柔軟で穂乃果が言ってきたので、凛はない胸を張った。
「へぇー、珍しいな。凛が女の子らしくアクセサリーに気を遣うなんて」
「コウタ、それは凛に失礼ですよ」
意外そうなコウタを咎める海未ではあるが、実際珍しいという自覚はある為苦笑を浮かべた。
それを遠目で見ていたミツザネ、花陽、真姫は笑う。
「なるほど……」
「ふふっ、流石アキト君」
「凛の事になると良いセンスしてるじゃない」
そう言う3人の視線の先。
そこには凛を象徴するような猫の髪留めが太陽に照らされて輝いていた。
甘い物語書くのムズい!
そして案の定ギリギリだな、おいwww
余談だけど、11月1日は今の仕事を始めた日でもある。
凛の誕生日で、仕事を始めた日で、一人暮らしを始めた日……
一体何の因果なのだろうか。