ラブ鎧武!   作:グラニ

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12話:Darling ~アキトの距離感~

スクールアイドルμ'sの作曲担当のツンデレ嬢、西木野真姫。

 

ガチお嬢様である彼女は資金提供者の息子に言い寄られており、危うく貞操を奪われる所であった。

 

どうにかしたくとも両親を頼る訳にはいかない真姫が頼ったのは、クラスメートの幼馴染み、啼臥アキトであった。

 

彼に恋人役になってくれと頼んでしまい、それで解決するかと思えば執拗に追い掛けてくるストーカー息子。

 

学生が解決出来る話しではないというアキトに、真姫は両親を頼らない想いを吐露するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅー………」

 

「何時まで剥くれてるのよ」

 

放課後のファーストフード店。

 

明日、ついに緊急補習テストを控えた凛達は、その場で勉強の続きをしていた。

 

が、どうも集中力が切れたらしい凛がうーうーと唸って、うるさくて正直勉強になりはしない。

 

この場にいるの凛に親友の花陽に、ミツザネ。そして、珍しい旧友の姿もあった。

 

「困ってるなら私を頼りなさいよ!」

 

「はわわっ、お姉ちゃんダメだよ……凛ちゃんも一杯一杯なんだから………」

 

音乃木坂学院ではなくセーラー服を着て茶髪、さらには同じ顔立ちと一見すれば双子であるとわかる少女達が、凛の正面に座っていた。

 

凛の前で腕を組んでふんぞり返っている少女は、左側の髪を赤いヘアピンで止めており、笑うと口から八重歯が見える。

 

その隣にいるのは髪を後ろの方でバレッタを使い止めている少女だ。目元が優しく気弱そうな雰囲気を出しており、その証拠と言わんばかりに弱く姉の袖を引っ張る。

 

「本当にそっくりですね……えっと…………」

 

初対面であるミツザネがあぐねいていると、それを察した姉が言った。

 

「姉の(いかづち)よ、カミナリじゃないわ。間違えたら承知しないからね」

 

「い、妹の(いなづま)なのです」

 

凛や花陽の小学生時代の友人、工藤雷と工藤電。たまたまこの店で勉強をしていたら、ばったり出会して同席する事になったのだ。

 

その直後に凛の集中力が切れて、今に至るという訳である。

 

「うー………!」

 

「まるでどら猫ね……」

 

唸る凛を見た雷が感想を述べ、ミツザネを見やった。

 

「ミッチも大変ね。これの首根っこ、あいつの変わりに掴んどかないといけないなんて」

 

「あいつって、アキトの事ですか?」

 

いつの間にかニックネームで呼ぶ雷は、ミツザネの言葉に頷く。

 

「雷ちゃんと電ちゃんとは小学生の頃一緒だったから、よく5人で遊んだりしたんだ」

 

当時を懐かしむように言い、笑う花陽。

 

小学生当時、雷電姉妹と合わせた5人。時にはアキトの友達と一緒になって遊んだりしたものだ。もっとも、それも中学校に上がるまでであり、アキトとは高学年の冬頃を皮切りに疎遠となってしまったので残ったのは凛と花陽だけになってしまったが。

 

凛はコーラを一飲みして喉を潤すと、テーブルに伏せた。

 

どうも集中力が切れただけではない。それなら心までもが落ち込む必要などないのだから。

 

「凛ちゃん………」

 

「なんていうか、難儀ねぇ」

 

花陽と雷の言葉に、凛は顔を上げてしかめっ面睨む。

 

「どういう意味?」

 

自分でも何故落ち込んでいるのわからないのにわかったような顔をされると、カチンと来るものはある。

 

しかし、花陽は呆れたように溜息を吐き、雷は明らかに肩を竦めた。

 

「凛ちゃん、わかってるでしょ」

 

「凛が落ち込む要員なんて、アキトが絡んでる事以外に考えられないわよ」

 

長年付き添ってきた友達だからこそ、自分でも気付かない点に気付くものなのか。

 

指摘されて凛はようやく、自分の今の状態が集中力が切れたのではなく不機嫌であると理解した。

 

その要員は2人の言う通り、アキトと接してないからだろう。

 

幼馴染みのアキトとは、物心付いた頃から一緒にいる。生まれた病院が一緒だったのか、近所だったのかは今となれば思い出せないが、少なくとも花陽よりも先に出会っていた。

 

小学校高学年で凛が猫を助けられなかった事を言わなければ、きっともっと仲良くなっていただろう。

 

凛にとってアキトとは傍にいて当たり前のような存在である。母親を幼くして亡くした彼は凛や花陽の家で寝泊りしたし、半ば兄弟……家族に近い感覚だ。

 

つまる所。

 

「凛さんはアキトに会えなくて寂しい、って事ですね。末永く爆発したらどうですか?」

 

ミツザネの余りにもストレートな言葉に、凛の顔が赤くなる。

 

「べっ、別にそんな事ないよ! 子供じゃないんだし……それに、ついこの前まで別々だったんだし………」

 

色々と言い訳してみるも自身でさえ認めてしまった感情に、凛はみるみる顔が熱くなる。

 

その様をニヤニヤとした表情で見てくる周りに、凛はとうとう降参したように押し黙った。

 

「何、この可愛い生き物………かよちん、ウチに頂戴!」

 

目を輝かせた雷は凛の頭をわしわしと撫でてくる。その輝きは目がしいたけになりそうなほどであり、言われた花陽は困ったように苦笑した。

 

「ダメだよ、お姉ちゃん。凛ちゃんにはアキト君という飼い主さんがいるんだから」

 

「電ちゃん、何言ってるの!?」

 

さらっと弄る側に立つ電に、凛は彼女の性格を思い出す。普段は気の優しく良い子なのだが、親しい友達などが相手だとミツザネのように弄りをちょくちょく入れてくるのだ。

 

どう言い繕っても意味はない。そう感じた凛は自身の中でも整理するために、今燻っている感情を言葉にする。

 

「……………ずっとアキトとは一緒にいて、なのに凛が馬鹿だったせいで離れ離れになって……………また一緒にいられるようになったのに……」

 

そう言って、凛は感情を吐き出す。

 

「…………寂しいよ」

 

「…………………やっと素直になったわね、この駄猫」

 

雷は今までよりも真面目で、それでいて楽しげに笑った。

 

「アキトの事でうじうじ悩んでるなんて凛らしくもないわ。アキトにだけは無遠慮で身勝手で、振り回すのが凛でしょ?」

 

それだけを聞くと単なる我が儘女にしか聞こえないかま、実際にそうなのだから反論の余地はなかった。

 

 

「けど、その時のアキト君と凛ちゃん。とても楽しそうだった……」

 

花陽の言葉に、雷電姉妹も頷く。

 

「もっと自信を持ちなさいな。アキトの眼中にあるのは凛だけなんだから」

 

とても同い年とは思えない精神の持ち主である雷の言葉に、凛はようやく笑った。

 

「そうだね……うだうだ考えるのもいい加減飽きたにゃ!」

 

そう言って凛はバンと立ち上がり、他の客に注目されるのも気にせず叫んだ。

 

「アキトの馬鹿ーっ!!」

 

本人がいたら間違いなく理不尽さを覚える言葉を吐き出した凛は、脳内の酸素の入れ替えるかのように息を吐くと座って伸びをした。

 

「んーっ、なんかスッキリした」

 

「本当、単純馬鹿は楽でいいわねぇ」

 

雷の軽口も凛は笑う。そもそも、あーだこーだと考えるのは凛の性には合わない。考える前に動く、それが凛の性分だ。

 

「いやー」

 

と、そこで黙っていたミツザネが言った。

 

「つまり、凛さんが攻めでアキトが受けって事でよろしいですか?」

 

「ミッチ、流石に空気読もう………?」

 

変わらずギャグを入れてくる唯一の男子に、思わず突っ込む花陽。非常に珍しい事ではあるが、ミツザネ相手に早めに釘を打っておかなければさらなる混沌となるのは、この短い期間で学んだ事である。

 

その事をミツザネも理解しているようで、続けて言った。

 

「でも、どんなに理由を問い詰めてもアキトは家に来るのを拒んだんですよね?」

 

「えっと、確か………」

 

内容を言いかけて、凛は思わずコーラの紙カップをぐしゃりと握り潰してしまう。あれは明らかに凛を不機嫌にさせる為の挑発であり、まさしくそれに引っ掛かってしまったのだから。

 

花陽と電がハンカチを差し出してくれたのを受け取り、零したコーラを拭き取りながら首を傾げた。

 

「………何で凛を遠ざけたんだろう」

 

以前のようなギクシャクした関係ないならわかるが、今はもう改善して普通(ここ重要)の幼馴染みである。遠ざける理由は思い至らなかった。

 

本当にそっち系のゲームをする可能性も否めないが、そもそもアキトは凛と同じ未成年である。入手困難な物を仕入れられるほどアキトは交友関係は広くないし、部屋にはそれらしい物はなかった。

 

もしも凛といるのが疲れたりしたら、遠慮などせずはっきりと言ってくるはずだ。そこは確信を持って言える。

 

つまり、遠回しな言い方で凛を遠ざける理由はアキトにはない。

 

それが意味するのは、遠ざけなければならなかった。

 

「…………アキト、何かに巻き込まれてる?」

 

「…………………そういえば、ほぼ同時期に真姫さんも姿をあまり見せませんよね」

 

ミツザネの言葉に、凛と花陽は確かにと頷いた。いつも一緒に行動を共にするお嬢様気質の少女は、最近付き合いが悪い。もちろん、彼女にも予定があるのは理解しているが、テスト勉強をミツザネに任せっきりというよはどうも解せなかった。

 

「真姫ちゃんも関係してるのかな………」

 

「真姫って、あのμ'sの?」

 

雷の言葉に花陽が頷くと、どういう訳か電と顔を見合わせた。

 

「えっとね、昨日の夕方頃なんだけど………」

 

「街でね、その真姫って子とアキトが並んで歩いているのを見かけたのよ」

 

「えっ!?」

 

雷電姉妹が齎した情報に、凛は驚きの声を上げる。

 

昨日はμ'sリーダー高坂穂乃果の提案で秋葉原へ遊びに行った日であり、夕刻といえば解散した時間帯でもある。

昨日、真姫は途中で急用を思い出したと言って帰ったが、それはアキトに会う為だったのだろうか。

 

「ま、まさか真姫ちゃんとアキト君が…………!?」

 

「多分、それはないにゃ」

花陽の最もらしい言葉を凛は否定する。もちろん理由などなく、希望的観測が混じっていない訳ではないが。

 

しかし、アキトと真姫が肩を並べて仲良く歩いている、という光景をイメージして浮き出てきたのは不快感よりも違和感だ。それが何を意味するかはわからないが、あの2人がそういう関係にはならないとどういう訳か思うのだ。

 

「……………昨日は気の所為かと思ってスルーしてたんですけど」

 

ふと、今までよりも真面目な表情でミツザネが告げる。

 

「真姫さんが抜けたあの時より少し前から、幾つかの視線を感じていたんです」

 

「視線を?」

 

凛が花陽を見やると、首を横に振る。と、言ってもミツザネはアーマードライダーとしての卓越な神経わ持つ為、μ'sのメンバーが気付かなくても無理はないだろう。

 

「えぇ、と言ってもあの場にはスクールアイドルμ'sが注目されていた、と思ったので特に行動しなかったんですけど………その後に真姫さんはいなくなった」

 

「…………真姫ちゃん、もしかしなくても誰かに狙われている?」

 

「あの容姿に総合病院の娘ですからね、色んな意味で人気でしょう。何にせよ、無関係として無視するのはどうかと思いますよ」

 

花陽とミツザネの言葉に、凛はハンバーガーの残りを1口で平らげた。

 

「そんなの、直接問い質せば済む話しにゃ」

 

そう言って凛はそそくさとノートなどを鞄に入れ、席を立つ。

 

「考えるのはやめた。突撃にゃーっ!」

 

「ちょ、ちょっと凛ちゃん!」

 

駆け出す凛を追い掛けようと、花陽も乱雑にノートを鞄に入れて走り出そうとした時。

 

凛の前にクラックが裂け、インベスが出現しその右腕を振り上げてきた。

 

「えっ…………!?」

 

「凛!」

 

突然の事に凛は呆然となり、雷も叫ぶ事しか出来ない。花陽も瞠目し、電も目を逸らしてしまう。

 

彼女達では反応し切れない。彼でなければ。

 

「ホワチャァッ!」

 

拳法の使い手のごとく声を上げたミツザネが間に入り、インベスの腕を肘うちで弾き体当たりで間合いを開けた。

 

「ミッチ!」

 

「突撃よりまずはこいつらの相手が先ですね……2人は避難誘導をお願いします」

 

そう言ってミツザネは戦極ドライバーを取り出して腰に装着する。

 

それと同時に周りに3つのクラックが出現し、新たに初級インベスが現れた。

 

仲間が倒れているのを見て、インベス達はミツザネに向かって怒りの声を上げる。

 

インベスの襲撃により騒然となる店内で、ミツザネは涼しい顔でそれらを見渡した。

 

「今、明らかに凛さんを狙っていたよね」

 

冷え冷えとする声で放ち、ミツザネは愛用のブドウロックシードを構える。

 

「志木じゃない。奴だったらもっと卑劣な事を仕掛けてくる……まぁ、何であれ潰すだけだけど」

 

 

『ブドウ!』

 

 

ブドウロックシードを開錠するとミツザネの頭上にクラックが裂け、ブドウアーマーパーツが降りてくる。

 

太極拳を思わせるような動きで両腕を回し、右前へとブドウロックシードを突き出してから戦極ドライバーのドライブベイへセットした。

 

 

『ロック・オン』

 

 

スライドシャックルを押し込みもはやお馴染みとなりつつある中華風の待機音が響き渡る。

 

そして、ミツザネがカッティングブレードに手を掛けた時、インベス達がミツザネへと襲い掛かった。

 

「ホワァッ!」

 

中華風の待機音が鳴り響いてるのに合わせてか、それらしい気合いと共にミツザネはのらりくらりとインベスを避ける。

 

身体能力に大差あれど初級インベスの動きは緩慢であり、避けるだけなら人間でも雑作はなかった。

 

避け切ったミツザネは改めてカッティングブレードに手をかけ、いつもの言葉を叫ぶ。

 

「変身!」

 

 

『ハイィーッ! ブドウアームズ! 龍砲、ハッ、ハッ、ハァッ!!』

 

 

ロックシードのキャストパッドが展開されてブドウアーマーがミツザネの頭へと落下し、その身をアーマードライダー龍玄へと変えていく。

 

アーマーが展開し終えると右手にブドウ龍砲が召喚され、龍玄は迷う事なくインベスへと引鉄を引いた。

 

狭い店内であるにも関わらず民間人にエネルギー弾が 当たる事はなく、インベス達はもんどおりをうつ。

それによりインベス達の注意が龍玄へと向けられ、4体全てが突撃していく。

 

龍玄はそれに合わせて窓を突き破り、外へと飛び出した。インベス達も次々と外へと出て行き、残された凛と花陽は互いに頷き合うと振り向く。

 

「皆さん、今のうちに避難して下さい!」

 

凛達に言われてか、客達はっとなったように慌てて逃げ出す。それによる転倒者も出たようだが、大きな怪我人は出さずに済んだようである。

 

誰もいなくなった店内で息をついて、凛は残っている雷と電を見やった。

 

「2人も早く避難するにゃ」

 

「2人はどうするのよ?」

 

逆に問われて、花陽は答える。

 

「私達はミッチの戦いを見届けるよ。皆と決めた、それが私達の戦いだから」

 

ミツザネ達のように戦う事は出来ない。しかし、戦わせておいて自分は安全な所から物言いなど出来るはずのない。

 

だからこそ、凛達は待つという戦場に降り立つ。邪魔にしかならないかもしれないが、友達が怪我をするかもしれないと肝が冷える時もあるが、それがアーマードライダー達と歩む事が出来る道だと思ったからだ。

 

だから、ここから逃げる訳にはいかない。結末を見届けて、もしもの最悪の時に動けるように。

 

「だから、雷ちゃん達は逃げて。これは私達が決めた事だから」

 

「馬鹿ね」

 

避難を促すと、雷は笑って凛の額にデコピンを当ててくる。

 

「危なっなしいアナタ達を置いて行ける訳ないでしょ」

 

「それに、ライダーさんの戦いは電達にも無関係ではないのです」

 

「えっ、それって………」

 

電の言葉の意味を尋ねようとした時、剃とから轟音が響く。

 

驚いた4人が降りて外に出ると、そこには言葉を失うような光景が広がっていた。

 

そこには道路を埋め尽くさんとしている大量のインベスがおり、それらに囲まれている龍玄が膝を付いていた。

 

「ミッチ!」

 

「まずいですね、これは思ったよりも数が多い」

 

そうぼやきながらもミツザネはブドウ龍砲を構え、戦う為に身を走らせる。以前、近くの通りではもっと多くのインベスが出現した事があったが、あの時はアーマードライダー鎧武の力もあり、退ける事が出来たのだ。

 

さらには、ミツザネ自身が言っていた事だがブドウアームズは対人、少人数戦には向いているが大量の敵を裁くには一撃のパワーが不足しているというのだ。

 

つまり、今この現状を龍玄のみで切り開くのは困難だという事。

 

「店の中に隠れてて下さい!」

 

インベスと取っ組み合いながら龍玄が叫ぶ。しかし、それより先にインベス達が凛に気付き、本来の目的を思い出したかのように標的を変えてきた。

 

しかも、龍玄の足止めをするように役割分担をするかのごとく、分かれて行動する姿に花陽が驚く。

 

「このインベスに、誰かが召喚してる!?」

 

「まさか、他にもμ'sを潰そうとする人達が………」

 

自分達が正しいと思って突き進んでいるこの道が間違っていると言われているようで、凛と花陽の顔が曇る。

 

「気に入らないわね」

 

それを、その名のごとく雷が吐き捨てる。

 

「私達スクールアイドルは、学校の存続という大義名分に従って動いているように見えるかもだけど、やりたいからやってるの。それを利益とか野望とかで潰して………」

 

そう言って雷は隠れるどころか堂々と前へ進む。その佇まいにインベス達に動揺の気配が走った。

 

インベスを用いた犯罪は数多いが、インベスが直接人を殺めるという事件はない。無論、暴走やインベスゲームでの二次被害などでの事故死はあるものの、人間がどれだけ命令しようとも通常のインベスは害を生さない。

 

インベスが人間に出来るのは脅す事が精一杯なのだ。

 

それがわかっているなら、恐れる必要はない。与えてくる恐怖など、所詮作られたものなのだから。

 

「来なさいよ。アンタ達に人を傷付ける覚悟があるなら、掛かって来なさいよ! ただし………」

 

そこで区切り、雷はにやりと笑った。

 

「美少女に野獣は付き物よ」

 

その時、その場の緊張感が一気に増す。まるで怪物に睨まれたかのように背筋が固まり、凛の頬を汗が垂れる。

 

「ったく、おい雷娘(かみなりむすめ)。暴れんなら暴れるって言いやがれよなァ」

 

言葉と共に圧の出先が鮮明になっていき、インベス達が恐れたように引いていく。

 

それは男だ。黒いジャケットにジーンズ、オールバックという髪型はワイルドとは彼の為にあるようなものだ、と言わんばかりに様になっている。

 

現れたのはかつて音乃木坂学院を襲った男であり、ミツザネ達を言わして最強の鎧武者たる野獣。

 

「初瀬さん!?」

 

予想外な人物の登場に、インベスを蹴り飛ばしながら龍玄がその名を呼んだ。

 

初瀬リョウジはそんな龍玄の姿を認めると、やれられと肩を竦めて言った。

 

「よォ、ミツザネ。かの程度の奴らに苦戦するなんて、落ちたんじゃねーの?」

 

かつて鎧武を蹂躙したアーマードライダー黒影の変身者はそう言って戦極ドライバーを腰に装着する。

 

「ちょっと、リョウジ!

かみなりじゃなくていかづちだって言ってるじゃない!」

 

意外な人物の登場に凛達が驚いていると、雷が初瀬へと近付いて行く。

 

「あァ?

どっちだって変わんないねェだろ、そんなの」

 

「この………!」

 

文句を言おうとして雷は口を閉じる。今は口喧嘩などしている場合ではないからだ。

 

「い、電ちゃん達はあの人と知り合いなの?」

 

「はいです。電達の学校に来てくれたアーマードライダーさんなのです」

 

その発言に凛と花陽は驚く。アーマードライダーがいるのはスクールアイドルがいる学校である。そして、先程の雷の発言から察するに。

 

「2人もスクールアイドルを!?」

 

「なのです!」

 

電の頷きに凛と花陽は顔を見合わせる。まさか旧友達が自分達と同じ道を歩み、ライバルもなるなど思ってもなかったからだ。

 

その時、エンジン音が響き渡り、初瀬とは反対方向から駆けてくるバイクがあった。バイクはインベス達を跳ね飛ばして凛達の前に停車する。

 

「無事か」

 

「兄さん!?」

 

「タカトラ先生!?」

 

バイクに乗っていたのはミツザネの兄であり、音乃木坂学院非常勤講師の呉島タカトラだった。

 

タカトラはユグドラシル・コーポレーションの重役であり、多忙な身だ。普段は秘書らしき社員が運転する車などで登校したりしていたのだから、本人がバイクを運転しているというのは新鮮に見えた。

 

バイクから降りたタカトラはすでに腰に戦極ドライバーを装着しており、愛用のメロンロックシードを取り出す。

 

「出先で通報の連絡を受けてな、近くだったのが幸いした」

 

「タカトラ先生、免許持ってたんですにゃ?」

 

凛の素直な疑問に、タカトラは苦笑を浮かべる

 

「私とてライダーだ」

 

タカトラはそう言って、初瀬へと目を向けた。

 

「遊ばせる為に転校させた訳じゃないぞ。責務を果たせ」

 

「わかってるよ、タカトラさん。俺だって暴れたくてうずうずしてんだ」

 

雷に離れるよう手振りしてから、マツボックリロックシードを取り出すと初瀬はタカトラに並ぶ。

 

目の前では多くのインベス達が待ち構えており、龍玄が苦戦をしている。

 

「行くぞ、変身!」

 

「変身!」

 

 

『メロン!』

 

 

『マツボックリ!』

 

 

2人が開錠すると、頭上にクラックが開いてアーマーパーツが現れる。

 

タカトラが真上へとメロンロックシードを投げ上げると、インベス達が変身を妨害しようも襲い掛かった。

 

それをタカトラは軽い動きで受け流し、拳法のような打撃をインベス達に放つ。

 

当然、ダメージは入らないがそれによりインベス達は間合いを計るため距離を取る。

 

その隙に落下してきたメロンロックシードを掴むのかと思いきや、タカトラはロックシードをインベスへと蹴り飛ばした。

 

予想外な行動に固まるインベスに命中したメロンロックシードは、そのまま跳ね返ってタカトラの戦極ドライバーに見事セットされた。

 

一方、初瀬にもインベス達が襲い掛かるも持ち前の腕力で本来勝てないはずのインベスを吹き飛ばし、荒々しくマツボックリロックシードをドライブベイにセットする。

 

「ロックシードってあんな乱暴していい物なのかにゃー………」

 

「さ、さぁ………?」

 

疑問を浮かべる凛と花陽を余所に、2人はスライドシャックルを差し込む。

 

 

『ロック・オン』

 

 

同時に法螺貝の待機音が鳴り響き、2人は同時にカッティングブレードでロックシードのキャストパッドを展開した。

 

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天、下、御、免!!』

 

 

『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃インザシャドゥ!!』

 

 

アーマーパーツが2人へと落下し、展開と同時に変身を完了させる。

 

アーマードライダー斬月にアーマードライダー黒影。ミツザネ達と一緒にインベスと戦ってきた戦士だ。

 

斬月はメロンディフェンダーと無双セイバーを構え、黒影も長槍・影松を握り締める。

 

「お前達は隠れていろ」

 

そう凛達に言って斬月は駆け出し、無双セイバーでインベスを斬りつける。鎧武とまったく同じ物のはずなのに、その斬撃はインベスを簡単に撃破していく。

 

黒影も影松を振り回し、ゲームのごとくインベスをなぎ払った。その攻撃はオープンキャンパスで見た時よりも豪快で、荒々しいものだ。それだけであの時、黒影は全力ではなかった事が窺える。

 

黒影は影松を地面に突き立てると駒のように回転し、その勢いでインベスにダメージを与えていく。

 

そこへ止めを刺すかのごとく紫色のエネルギー弾が命中し、インベスは爆散した。

 

「まったく、これじゃあ僕の面目丸つぶれじゃないですか」

 

ブドウ龍砲を下げた龍玄はぼやきながら、近付いて来るインベスを打撃で迎え撃つ。

 

3人のアーマードライダーを相手にインベスの数は急激に減っていき、ついには10体ほどとなった時だ。

 

突如、凛達の背後に新たなクラックが出現し、セイリュウインベスが出現した。

 

「っ!?」

 

「逃げろ、星空!」

 

それに気付いた斬月が叫び、龍玄がブドウ龍砲の緑宝撃鉄を引くが、それよりもセイリュウインベスの攻撃の方が早い。

 

セイリュウインベスが爪を振り上げてくる。突然の危機に花陽や雷、電は声を上げる事も出来ずに呆然となってしまう。

 

しかし、凛だけは。不思議と恐怖を感じなかった。

 

あの時と、インベスに高所から落とされた時たと同じだ。これから死ぬがしれないというのに、死の恐怖が具体的にイメージ出来ない。

 

まるで、死ぬ事はないかのように。

 

そしてそれは、現実のものとなる。

 

セイリュウインベスと凛達の間を隔てるようにクラックが出現し、青い影がセイリュウインベスを吹き飛ばす。

 

セイリュウインベスを壁に叩き付けた青い影はセイリュウインベスから離れると、凛達にその姿を視認させる事なく再度襲い掛かる。

 

セイリュウインベスを掴んだらしい青い影は勢い良く飛び上がり、爆音と共に青光の粒子(フレア)を撒き散らす。

 

上空へと舞い上がったソレは高速で駆け抜け、セイリュウインベスを攻撃する。

 

優勢に立っていた3人のライダーも、インベス達も呆然とソレを見上げていた。

 

そして、ソレはセイリュウインベスを空中で爆散させると凛達の前に降り立った。

 

青い影はインベスのようであるが、インベスよりも人間に近い姿をしていた。

 

ライオンをイメージさせる姿だが、知られているライオンインベスは赤い色を基調としたインベスだ。しかし、そのインベスは青い色をしており、さらに両腕には3枚ほどのブレードらしきパーツが備わっていた。

 

「インベス、なのか………?」

 

見た事のない相手に、燻しがるように見る斬月。

 

青いインベスは凛を一瞥してから踵を返し、ライダーとインベス達と向き合う。

 

「おいおいおい、強そうな相手じゃねェか。こいつが次のメインイベントってかァ!」

 

未知の相手だというのに黒影は嬉々として影松を構え、青いインベスに突撃した。

 

青いインベスは突き出された影松を軽い動きで避けると、黒影を右腕のブレードで斬り上げる。

 

「うぉっ!?」

 

反撃に驚きつつも体勢を立て直した黒影が攻撃を仕掛けるが、その全てが避けられ防がれる。

 

「こいつ、ただのインベスじゃない!?」

 

「ミツザネ、気を引締めろ!」

 

龍玄の射撃に合わせて無双セイバーを構えた斬月が、吹き飛ばされる黒影と入れ替わるように青いインベスに斬りかかる。

 

斬月の無双セイバーを腕のブレードで防御し、青いインベスの反撃はメロンディフェンダーで防ぐ。

 

一見すれば互角に見える攻防だが、そこに龍玄の射撃が加わると形勢は変わっていく。

 

エネルギー弾はブレードでは防ぎきれず、防御の合間を縫って青いインベスにダメージを与えていく。その隙をついて斬月が攻撃を加え、さらに復帰した黒影が青いインベスを吹き飛ばした。

 

「やるじゃない!」

 

知り合いの黒影が良い所を持って行ったからか、雷が喜ぶ。電も嬉しそうに笑い、黒影は勝利を宣言するかのように槍を掲げる。

 

しかし、それは決定的な隙だ。

 

「っ、初瀬さん!」

 

「へっ?」

 

龍玄の叫びに黒影が振り向こうとする。それより先にエネルギーの奔流に巻き込まれた黒影はファーストフード店の隣に突っ込む。

 

「初瀬!?」

 

「そんなっ……!」

 

思わず凛は愕然とした声を漏らしてしまう。

 

黒影の強力な一撃により吹き飛んだはずの青いインベスは、まったくダメージを受けた様子もなく佇んていた。

 

両腕のブレードは展開するように広がっており、そこからフレアが吹き出ている。両腕だけではなく足や背中からもフレアが出ているという事は、そこはブースターのような役割を果たしているようだ。

 

「ろ、ロボットみたい………」

 

花陽の呟きは当たっているような気がする。展開してブースターなど、アキトが好みそうな機構だからだ。

 

青いインベスは顔を上げると、はつきりとライダー達を睨み付ける。

 

そして、本来開かないはずの口にあたる部位が開き、

 

「ーーーーーーーーー!!」

 

言語にならない咆哮が轟いた。それだけでインベス達は萎縮したように固まり、龍玄と斬月も怯んでしまう。

 

その隙を狙ったかのようにブースターを点火した青いインベスの姿が掻き消えた。

 

そして、次の瞬間には切り裂かれたらしいインベス達が全員撃破されていた。

 

「速い!?」

 

「なろがァ!」

 

瓦礫を吹き飛ばして出て来た黒影は勢い良く影松を放り投げ、高速移動をする青いインベスへと掴みかかった。

 

とても見える速さではなかったというのに野生の勘かはたまた見えていたというのか、黒影は見事青いインベスを掴む事に成功する。それによりぶれるような動きしか見えていなかった青いインベスの姿がはっきりと見えるようになり、それを見逃すまいと龍玄とカッティングブレードを2回スラッシュし、斬月は無双セイバーにメロンロックシードをセットした。

 

「ナイスですよ、初瀬さん!」

 

 

『ハイィーッ! ブドウ・オーレ!!』

 

 

「この機を逃してなるものか!」

 

 

『 ロック・オン! 壱、十、百、千、万……メロン・チャージ!!』

 

 

ブドウ龍砲と無双セイバーの銃口にエネルギーが収束していき、それを見た黒影もカッティングブレードを1回スラッシュする。

 

「喰らいやがれ!」

 

 

『ソイヤッ! マツボックリ・スカッシュ!!』

 

 

黒影の右手にエネルギーが集まっていき、その拳を青いインベスへと打ち込んだ。

 

真横からの一撃に青いインベスは吹き飛ぶ。龍玄と斬月の方向へと。

 

それに合わせて2人はトリガーを引く。凝縮されていたエネルギーが解放され、巨大な奔流となって青いインベスを襲う。

 

青いインベスはエネルギーに耐えるようブレードを構えるが、耐えきれなくなったのか爆発に包まれる。

 

「きゃあっ!?」

 

その余波で天井に亀裂が入り、崩れた瓦礫が凛達へと落下する。

 

その瞬間、爆発に飲み込まれていた青いインベスが爆風を吹き飛ばし、凛達へと加速した。4人を抱き上げた青いインベスは瓦礫を背中のブースターで弾き、道路へと降り立った。

 

「凛さん達を助けた!?」

 

「雷、電!」

 

驚きつつもブドウ龍砲を構える龍玄と、心配なのか名前を叫ぶ黒影。

 

青いインベスは凛達を降ろすと2、3歩離れる。そして、再び凛を見つめたような仕草をした後、再びブースターを吹かして飛んで行ってしまった。

 

嵐のように現れ、嵐のように去っていく青いインベスにその場にいた全員がぼうぜんとなる。

 

通常体とも、エナジーロックシードで召喚された変異個体とも違った姿をしたインベス。それが持つ能力は並のインベスはおろか、アーマードライダー達をも上回るものだった。

 

脅威が去った事に安堵したのか、3人のライダー達は変身を解く。

 

「新型のインベスだと………」

 

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 

変身を解いたタカトラは腕を組んで思案し、ミツザネは真っ先に4人へと駆け寄った。

 

凛は服についた埃を払いながら他の3人を見やるも、これといった外傷は見当たらない。

 

「大丈夫、皆無事だよ」

 

「そうですか……」

 

安堵したように胸を撫で下ろし、青いインベスが去っていった方向を見やる。その勢いで雲の形が崩れており、それだけで凄まじいスピードだったのが見て取れる。

 

「もう、あの青いインベスは何だったのよ…………」

 

風で崩れた髪を整えながら、その場全員の気持ちを雷は代弁してくれる。

 

しかし、凛はそう思いつつも別の思いが芽生えていた。

 

凛はもう一度、青いインベスが去っていった方向を見やる。

 

そして思い出す。こちらを見てくる青いインベスの気配を。

 

「……………どうして」

 

凛は誰にも聞こえないくらいの声で呟く。

 

どうしてあの青いインベスを見て、ライオンの姿をしているのに猫をイメージしたのか。

 

何故。

 

青いインベスに抱かれた時、幼馴染みの匂いを感じたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

##############

 

 

 

 

 

 

 

 

“貌“は面倒そうに空を見上げていると、凄まじい音と共に何かが前に降り立った。

 

目で見なくとも頭を垂れているであろうソレに苦笑を浮かべ、右手に持っているロックシードをお手玉のようにして弄ぶ。

 

通常のロックシードとも、エナジーロックシードとも異なった錠前だ。

 

本来、果実がモチーフとなっているロックシードはロックビークルを除いて樹から生えるモノが使われている。つまり、それはかなりの特殊なロックシードだという事だ。

 

「…………まさかお前を使う事になるなんてね」

 

“貌“は青いインベスへ目を向けるとフェンスから離れる。ベルトに付けていた帽子を取って、付いているゴミを吹き飛ばしてから被り嗤う。

 

「まぁ大儀であった、とでも言っておこうか、カリギュラ。おかげであいつを守れた」

 

“貌“の言葉にカリギュラは身を震わす。勿体無い言葉です、と言っているようで“貌“は口元を歪める。

 

コレはずっと“貌“の為に動いてくれる。もはや感情などは失せたはずなのに、それでも忠義を尽くそうとする駒だ。

 

“貌“の本質は無邪気で無垢で残酷だ。しかし、その中の“貌“が残忍な振る舞いを許しはしない。

 

「せっかくシャバに出たんだ。そいつらを好きにしていいぞ」

 

“貌“の足元には、黒服姿の男達が苦悶の声を漏らしながら倒れている。全員死んでいる訳ではないが、もはや瀕死の状態だ。

 

「さっきのアレはやっぱり貌を変えられていたのかね。急に襲いかかって来やがって………まぁ、もっとも」

 

愉快そうに肩を震わし、“貌“は男達を睥睨した。

 

「あいつにまで手を出したんだ。それ相応の報いは受けて貰う」

 

“貌“はビルの階段へと続く扉に手を掛ける。それと入れ違うようにカリギュラが男達へと迫る。

 

絶叫が轟く前に“貌“は扉を閉め、何事もなったように階段を降りて行く。

 

すでに使われなくなった廃ビルなのか人の気配はなく、至る箇所に亀裂が入っておりいずれは崩壊しそうなビルであった。

 

埃まみれのフロアを通り裏路地へ出ると、停車しているサクラハリケーンへと跨り、

 

「いやはや、流石だなと言っておこうか」

 

何の前触れもなく現れたネットラジオDJに、驚きもせずに無機質な目を“貌“は向ける。

 

いつものようなファンキーな格好でDJは、飄々と近付いてきた。その姿がさらに“貌“の神経を逆撫でする。

 

「蛇が何の用だ」

 

「お前、てっきり消えて無くなったのかと思っていたが………残っているじゃないか」

 

「用がないなら失せろ。お前に構っている暇はない」

 

“貌“の言葉を無視し、DJはサクラハリケーンに肘を乗せて顔やわ寄せてくる。

 

「いいじゃないか。たまには後釜にやり方を………」

 

「サガラ」

 

“貌“の声色に歪が混じる。

 

「今の俺は虫の居所が悪いんだ。消されたくなかったら失せろ」

 

「………………」

 

普段は飄々としているはずのDJに、緊張が走った。陽気な笑顔が引き攣り、硬直する。

 

“貌“はサクラハリケーンのエンジンキーを回してアクセルを吹かす。

 

「最後に言っておくぞ、失せろ」

 

DJはしばらく沈黙していると、すぅとその姿が消えていく。

 

フン、と鼻を鳴らした“貌“はヘルメットを被りサクラハリケーンを発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ローズアタッカーを停車したアキトはヘルメットを取って、目の前に広がる工場を睨んだ。

 

真姫が寝たのを確認してから買い物に出掛けたアキトだったが、その買い物の途中でボロボロな姿のコウモリインベスから真姫が攫われた事を知ったのだ。

 

先程の少年は温厚そうな雰囲気だったと油断した。それは完全に失態だった。どうやらインベス達に護衛を任せていたというのに、人間が直接西木野邸に侵入し真姫を誘拐したようだ。

 

イーグルインベスが奴らの足取りを追っていてくれたおかげで、アキトは真姫が連れて行かれたこの工場へやって来る事が出来たのである。

 

「ありがとな、ゆっくり休め」

 

ローズアタッカーの先端で倒れ込んているイーグルインベスは、ぎこちない動きで敬礼する。それはまるで「必ず真姫嬢を助けてやって下さいよ」とでも言っているかのようだ。

 

イーグルインベスの真下にクラックが出現し、落下してヘルヘイムの森へ還っていく。

 

ローズアタッカーから降りたアキトは周りを見回す。東京都であるが都会ではなく山奥にある廃工場らしく、使われなくなってからダイブ経つのか建物は錆び付いていた。

 

使われていないのだから人の気配がしないのは当たり前だが、この現状では逆に不自然だ。奴らは人を攫ったのだから、見張りくらいは立てるはずなのに。

 

この前、西木野病院で集まっていた人数を思い浮かべても誰もいない、というのは不自然過ぎる。

 

罠か、とアキトは思う。しかし、悩んで止まっている時間はない。時間が経てば経つほど、文字通り真姫の貞操の危機だ。

 

工場の中に入り込むと、元々は小さな部品を加工する為の工場だったのか小さな機械やベルトコンベアが配置されており、視界を妨げるような物はほとんどない。

 

故に、2人の姿はすぐに見つけられた。

 

「…………真姫」

 

「やぁ、来たんだ」

 

真姫とメンヘラストーカー少年は、アキトのいる場所より少し上の段差にいた。

 

真姫は薬で眠らされているのか意識はないが、衣服は家で寝た時のまま。乱れていない所を見ると手付かずのようだ。

 

「手、出さなかったのか」

 

「君の前で犯った方が気が晴れるからね」

 

そう言って嫌らしい手付きで少年は真姫の赤い髪を撫でる。アキトはそれを見て気味悪さを感じつつも、表情には出さずに堂々と告げる。

 

「こんな犯罪を侵してまで、真姫ってのは手に入れるほどの女か?」

 

「やっぱり、付き合ってるってのは演義だったんだ」

 

嬉々として言う少年に、アキトは沈黙で肯定する。もはやこのような事態になってまで、彼氏役を貫く必要はない。

 

「ならば君にはわからないだろうね。西木野真姫が持つ美貌と、その肩にある権力が」

 

「わかりたくもないな。そんな下らない事」

 

アキトにとって真姫は西木野病院の娘ではなく、μ'sの一員にして友達だ。例え仮に真姫は犯罪者の娘であったり何かしらの複雑な事情があったとして、友達という事に変わりはない。

 

西木野真姫は西木野真姫であり、それ以上でもそれ以下でもないのだから。

 

アキトの返答に少年はつまらなそうな顔をする。肥満体な身体には似つかわしくないくらい優雅な動きで真姫から離れると、階段を降りてアキトと並び立つ。

 

「君は欲しくないのかい? あれほどの美しさを持った彼女を手に入れたいという願望が」

 

少年の言葉にアキトは迷う事なく、時間を置かずに鼻で笑った。

 

確かに真姫は美少女だ。母親があれほどの美しさなのだから、将来だって絶世の美女になる事間違いなしである。

 

それに加え彼女は総合病院の娘であり、医者を志望している。仮に彼女と恋仲になったとして、医者になるひつよはない。紐として生きていけばいいのだ。

 

しかし、しかしである。

 

アキトはそんな生き方など望んでいない。ただ相手に手を引いて貰って己は何もしない、などという振る舞いは決して出来ない。

 

ならば、女は男の3歩後ろを歩けと古風な考えなのか。

 

残念ながら否である。恰好いいし憧れたりはするものの、その生き方では気疲れしそうである。やったとしても窮屈さを感じてすぐに参るだろう。

 

アキトが求めるもの。それは難しくはない。誰もがきっと、求めてるものだ。

 

「悪いけど、俺からしてみれば真姫は高嶺の花過ぎる」

 

「それをもぎ取ってこそ、男だと思わないかい?」

 

「お前の御託に付き合うつもりはない」

 

ベルトに掛けていた帽子を取り、息を吹きかけてからアキトは被る。

 

「真姫を返せ」

 

貫くような瞳に、まるで道化師を見るのようにうすく笑う少年。

 

「でなければ許さないかい、アーマードライダーデューク」

 

ぴくりと、アキトの柳眉が動く。

 

「あの時、君を見ていたのがインベスだけだと思ったかい?」

 

挑発めいた少年の言葉にアキトは否定もせずに、レモンエナジーロックシードを取り出す。

 

真姫から彼氏役を頼まれた日。真姫を親元へ届けた帰りに襲撃されたアキトはアーマードライダーデュークへと変身し、インベスを撃退した。

 

しかし、よくよく考えればあの場にインベスだけというのは不自然なのだ。真姫に近寄る不審な男がいると聞けば、監視させるほどの事をしなくてはならない。

 

あの日。デュークの正体を知ったのは真姫ママだけではなかったのだ。

 

「俺がアーマードライダーデュークだと知ってて真姫を攫った、か………世間にもバラしてないようだし、それも真姫の前で圧倒するつもりだからか?」

 

「そういう事さ。その方が気が晴れる」

 

アーマードライダーであると知りつつ、余裕そうな態度を崩さない少年にアキトは警戒心を強くする。

 

確かに、今この周辺にいるアーマードライダーの中で最弱である事は認めるが、並の人間が操るインベスに遅れを取るデュークではない。

 

それも少年はわかっているはずなのに。

 

それなのに、こちらをまったく警戒していない態度が解せなかった。

 

「俺に勝つつもりか? 生憎と、最弱であってもそこらのインベスに負ける気はないぞ」

 

「そうだね。君に勝てるほどのインベスはエナジーロックシードでも呼ぶのは難しいだろう」

 

まるで馬鹿に説明するかのように、仰々しく告げる。

 

「なら、ロックシードで呼ばなきゃいい」

 

「…………………何?」

 

その言葉に嫌な予感を覚えるアキト。

 

少年はにやりと笑い、膨れんばかりの服の内ポケットからある物を取り出した。

 

一瞬、ロックシードに見えたソレは形のみが似ている別物だった。それは当たり前である。そもそも、ロックシードとはソレをドライバーの力で人間でも扱えるように変質させた物なのだから。

 

「お前……それ、どこで手に入れた?」

 

ロックシードの大元。ヘルヘイムの果実(禁断の果実)を手にしている少年に、アキトは尋ねる。もっとも、だいたいの予想は付くが。

 

「とあるネットラジオのDJからだよ。機材を提供した礼にくれたのさ」

 

予想通り過ぎて突っ込む気にもならなかった。本当にあのDJは面倒事しか起こさない。

 

少年はヘルヘイムの果実を掲げると嬉しそうに声を荒あげた。

 

「これさえあれば、真姫からだけじゃない。全てを手に入れる事が出来る!」

 

そう、と前置きしてわざとらしく言い放った。

 

「君が侍らしている猫っぽい娘とかも、ね」

 

「……………………………………………あ?」

 

アキトの声色が変わった。低く唸る言葉に、それが琴線だと気付いたのか少年の顔にさらなる愉悦が浮かぶ。

 

「そうそう、そういう顔だよ。それを潰してこそ意味がある」

 

「………………お前は」

 

帽子を深く被り、アキトは目を伏せる。

 

「俺にとって、超えちゃならない一線を超えた」

 

「好きなだけカッコつけるといいさ! 君が敗北し、真姫を手に入れるという運命に変わりはない!」

 

高らかと宣言した少年は、ヘルヘイムの果実を握り潰す。皮が捲れて、白いゼリー状の果肉が現れる。

 

それは人間にとって抗い難い甘美への誘いだ。見ただけで脳はソレを食べたい衝動に刈られ、逆らう事の出来ない快楽へと導いてくれる。

 

「……………覚悟はあるんだろうな?」

快楽の誘いに拒絶しようとしない少年に、アキトは尋ねる。

 

「それは大きな力を与えてくれる禁断の果実だ。天を欲するならば、世界を己の色に染め上げられるほどの力を与えてくれる………お前が求めてる栄光とは、そういうモノなのか?」

 

「あぁ、染め上げてみせようじゃないか………理想郷を作るために。真姫を、君の女を全て物にしてね!」

 

強く言い放った少年は、固唾を呑んでからヘルヘイムの果肉を食べ始めた。味はわからないが見た目通りゼリーのごとく果肉は潰れ、咀嚼されていく。

 

そして、少年が果肉を食べ切るのにそんな時間は掛からず、残った皮を投げ捨てた。

 

「…………ふふっ、見ているといい。この力強くでき、み……………お」

 

にやついてたいた少年に変化が現れる。身体から葉や蔦が生え、少年を包み込んでいく。

否。それは少年の意思を無視した侵食である。

 

「なっ、は、ば、か、な………! ぼうそウし、てると……いウ

のか………!?

 

「言ったはずだ」

 

暴走なのではない。それは当たり前の結果だ。

 

「それは大きな力を与えてくれる禁断の果実。しかし、それは人間が御しきれる物じゃない」

 

レモンエナジーロックシードに目を落としながら、アキトは告げる。

 

「人間ってのは運命に逆らえない。逆らっていたり切り開いてるつもりでも、それがその人の運命だからだ」

 

人は運命を変える事は出来ない。

 

何故なら、人の無力で脆弱だからだ。どれほどの知識を持ったとしても、活用するには人は儚い。

 

人は己が運命すら変える事が出来ない。それはその全てが人の領域であるが故だ。

 

ならば、運命を変える存在もは何か。

 

答えは簡単。

 

「運命を変える事の出来る奴がいたとしたら、そいつはもう………人間ではない」

 

アキトはそう言って、変質していく元少年を指さす。

 

「それはそのための果実さ。運命を変える為に人間を辞めて化け物へと“変身“する為の、森からの試練」

 

絶叫が轟く中、アキトは嗤う。

 

「わかりやすく言えば、お前はちっぽけな覚悟で森に挑んだ。そんなお前なんかに、運命の女神は微笑んでくれる訳がなかった、という事だ」

 

もっとも、すでに理解する意識はないだろうが。

 

翠色の輝きが視界を満たし、弾ける。

 

次の瞬間。そこにいたのは少年ではなく、面影すら消え去ったインベスだった。

 

ビャッコインベスに似ているが顔のデザインや鎧の意匠が若干異なっており、その気配も通常のインベスとは違っていた。

 

「ヘキジャインベス、か………」

 

その存在の名を嘯くアキト。

 

ヘキジャインベスはアキトを敵意の目で睨んでいたが、やがて真姫からを求めるように向きを変える。

 

「そんなになっても真姫を求めふか………げに恐ろしは人間の執念、だな」

 

そう言ってアキトはゲネシスドライバーを腰に巻き付け、帽子を取って真姫へと投げる。

 

くるくると回転して真姫の頭に優しく被さった帽子に、ヘキジャインベスはこちらを見やってくる。

 

「……………1つ。真姫だけを考えて、彼女が背負っている責任の重さを理解していなかつた」

 

突然語り出したアキトに、ヘキジャインベスは怪訝そうに身構える。

 

「1つ。お前が直接動きはしないだろうと油断し、真姫をまんまと攫われてしまった」

 

それに続けて、アキトはレモンエナジーロックシードを構える。

 

「1つ。凛達にもひがいが及ぶかもしれないという可能性を可能性で割り切ってしまい、危険な目に合わせてしまった」

 

 

『レモンエナジー!』

 

 

言葉と共にレモンエナジーロックシードを開錠すると、頭上にクラックが裂けてレモンエナジーアーマーパーツが出現する。

 

「俺は自分の罪を数えた……今度はそっちの番だ…………変身!」

 

レモンエナジーロックシードをくるりと指で回し、ゲネシスコアにセットしてからリファインシャックルを差し込み、シーボルコンポレッサーを動かしキャストパットを展開した。

 

 

『ロック・オン。ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!』

 

 

軽快なラップ音と共にアーマーパーツを被ったアキトの姿が、人の形から戦士への形へと変わっていく。

 

アーマーパーツが展開を終え、アーマードライダーデュークとなった戦士は、左手を銃のような形にしてヘキジャインベスへと突きつけた。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ」

 

言い放つとデュークはソニックアローを構えてヘキジャインベスへと突撃する。

 

真姫へ迫ろうとしていたヘキジャインベスを阻むようにソニックアローを振り下ろし、ヘキジャインベスを斬りつける。

 

激しい連続斬りにヘキジャインベスは耐えきれず吹き飛び、ひとまず真姫から引き離す事には成功といえよう。

 

デュークは一瞬だけ真姫を一瞥した。よほど強い薬で眠らされているのか目の前で激しい戦闘が繰り広げられているのにも関わらず規則正しい寝息を立てている。

 

デュークは真姫が起きない事を確認し、背を向ける。

 

ヘキジャインベスは立ち上がりこちらを苛立つように身体を震わせ、右腕の大きな爪を構えた。

 

それに対抗するようにデュークもソニックアローを構え、合図もなしに同時に駆け出す。

 

ソニックアローと爪が激突し、肉薄する。しかし、それも一瞬の事でヘキジャインベスの防御を崩したデュークが斬り、打撃を加えるという一方的な攻防となった。

 

このヘキジャインベスは元々戦闘とは無縁な世界で生きていた人間だ。インベスとなったら人間としての意識はだうなるのかわからないが、パンチの打ち方もキックのやり方もわかるはずもない。

 

デュークとてアマチュアだが、それなりに経験がある。それに加えて負けない要因がデュークにはあった。

 

ヘキジャインベスを斬りつけていると、もがく様に振り上げてきた爪に弾かれ、ソニックアローがデュークの手から離れる。そして、そのまま天井へと突き刺さって、落ちてきそうになかった。

 

武器を手放したという事に勝機を見出したのか、攻勢に出ようとするヘキジャインベス。

 

「らァッ!」

 

しかし、デュークはその攻撃を防ぎ、カウンターの要領でパンチを打ち込む。さらに追撃するように格闘を入れる。

 

ほとんどのアーマードライダーには専用の武器があり、その武器を得手とするのがライダーの戦い方だ。鎧武達はロックシードを変える事、つまりアームズチェンジする事で状況に対応する。

 

しかし、ゲネシスドライバーの場合はそうはいかない。そもそもこの世界にはゲネシスドライバーは1つのみであり、さらに武器はエナジーロックシードに関わらずソニックアローのみなのだ。

 

つまり、パインアームズのようなフレイルも、イチゴアームズのようなクナイなどの特徴的な武器はない事になる。

 

そうなると、ソニックアローだけで戦う事になるのたが、それは問題ない。それだけの性能をゲネシスドライバーは引き出してくれる。

 

問題は、ソニックアローがない時の戦闘方法。格闘だ。

 

アーマードライダーは基本的に武器を使う。ならば、得物が無くなった時、その戦闘力は格段に下がってしまうという事だ。

 

そうであってはならない、とデュークは音乃木坂学院オープンキャンパス時に痛感した。ただでさえアーマードライダーの中では最弱だというのに、さらに弱くなってしまっては意味がない。

 

故にネット動画などで護身術などの勉強をしたのだ。実践するのは初めてだったが。

 

打撃で簡単に反撃されると思わなかったのか、よろよろと後退したヘキジャインベスは驚いたようにデュークを見てくる。

 

デュークは左手首を素早くスナップさせると、跳躍して襲いかかる。

 

着地するまでに3連続の蹴りを打ち込み、怯んだ所へさらにパンチとキックを織り交ぜた攻撃。

 

「ォォオオッ!」

 

そして、気合いと共に身体を回転させ、勢いに乗せた右拳を顎に当たる部分へと打ち込んだ。

 

エネルギーが拳に乗り、ヘキジャインベスが思った以上に吹き飛ぶ。

 

それを見てデュークは思わず突き出した右腕を見やった。

 

「思った以上に飛ぶな………」

 

通信教育(自習)も馬鹿に出来ない。そうぼやいたデュークの視界にあるものが飛び込んでくる。

 

それは吹き飛んだヘキジャインベスの傍でクラックが開き、ヘルヘイムの果実がなげられたものだ。

 

ヘキジャインベスは果実を目にすると、まるで餓えた獣のごとく果実にかぶりついた。

 

誰の仕業、とは考えるまでもない。

 

「あっ、あの蛇野郎!」

 

デュークは慌てて阻止しようと駆け出すが、それよりもヘキジャインベスが変異する方が早い。

 

通常、インベスが一度に大量のロックシードを取り込むと変異が起き、イノシシインベスのような巨大なインベスへとなる。

 

そして、ロックシードとは人間が扱えるように毒素を抜いたヘルヘイムの果実だ。

 

ならば、インベスがヘルヘイムの果実を1口でも齧ればどうなるか、想像するのも容易い。

 

さらなる蔦と翠色の閃光がヘキジャインベスを包み込み、やがてその強さは高まっていくにつれてインベスの身体が巨大化していく。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

デュークはそうぼやいてしまうのも無理はない。

 

ヘキジャインベスが変異してなった姿は、上半身は人のように両腕があり先端には鋏のような巨大な武器。顔は阿修羅のごとく凄まじい形相で、怒りや憎しみを体現しているようだ。

 

下半身はわかりやすく、6本足に剣のような先端をしている尾。さながら蠍のようである。

 

さらに驚く事に、下半身の腰にあたる部分に口が開き、咆哮しているのだ。他に例のない破天荒な変異である。

 

「………いや。そういや、どっかの神喰らいゲーでいたな、こんなの」

 

学生時代を思い出しながらデュークは嘯く。

 

「確か、スサノオ……だったか。男色家の魂でも乗り移ってそうだな」

 

スサノオ。日本神話に名を連ねる神であり、母親に会いたいと泣き叫ぶ子供のような脆弱さ、暴君のような凶暴性などを持った多彩な貌を持つ神だ。

 

「いくら多彩な面があろうとも、千もある訳ねぇか」

 

デュークがぼやくと、スサノオインベスの口から咆哮が上がり、素早く身体を回転させてくる。

 

遠心力で強まった尻尾を叩きつけられ、デュークは咄嗟に防ぐも吹き飛ばされた。

 

しかし、運良くソニックアローが突き刺さった場所まで飛ばされ、そのままソニックアローを掴んで勢いを殺しスサノオインベスを睥睨する。

 

「ったく、ボロ屋で暴れるなよ」

 

ソニックアローを引き抜いて地面に着地すると、スサノオインベスが両腕の鋏を構えて突っ込んでくる。しかし、そのスピードは遅く、デュークは余裕を持ってソニックアローを構える。

 

今度は接近戦ではなく、卑怯にも遠距離から攻撃である。

 

ノッキングドローワを掴んで引くと、矢が具現化し輝く。エイミングスコープから射出されているレーザーポインターがスサノオインベスの頭部を捉えた瞬間、引き絞っている手を放した。

 

放たれた矢は狙いから寸分の狂いもなくスサノオインベスの頭部へと命中した。

 

スサノオインベスは顔面に攻撃を受けて、痛がるように突撃を止めて悶える。その隙を逃すまいとデュークはさらに矢を放つ。

 

スサノオインベスは左腕の鋏で矢を防ぎながら右腕の鋏を開き、エネルギー弾を飛ばして応戦してくる。

 

飛んでくるエネルギー弾を転がって避け、膝立ちの状態でデュークが矢を放つ。

 

矢と弾。デュークが避けてスサノオインベスが矢を防ぐ。激しい攻防が始まり、デュークは飛んで数少ない遮蔽物に身を隠した。

 

「埒があかないな……あんま使いたくなかったけど」

 

このままでは時間を無駄に消費するだけ。そう判断したデュークは遮蔽物から飛び出してソニックアローを構える。

 

だが、ただ構えるのではない。ノッキングドローワを引いた手を少し横に捻ると、弦がさらにしなって矢が少し大きくなる。

 

「そらよっ!」

 

デュークがそれを放つと矢は真っ直ぐに加えて回転しながらスサノオインベスへと向かう。

 

スサノオインベスは先程のように鋏で防ごうと掲げるが、矢は鋏を貫通して頭部へと突き刺さった。

 

絶叫を上げて倒れ込むスサノオインベスに、デュークはソニックアローに目を落として言う。

 

「悪いな。このゲネシスドライバーは開発者自らがチューニングした物らしくてな。ただでさえ戦極ドライバーとは性能差があるのに、さらに強化されてるんだ」

 

もっとも、今のような使い方はソニックアローに負担を掛けてしまうのであまり使いたくはない。

 

まだゲネシスドライバーが開発途中という事は修理が出来ないという事だ。武器を無くしたアーマードライダーでは戦う事もままならない。

 

痛みに震えているスサノオインベスは飛び上がると、咆哮と共に輝く。背部が割れたかと思うも、当然そこから触手のような太い蔓を伸ばしてきた。

 

しかし、デュークは驚きもせずにシーボルコンポレッサーに手を伸ばし、1回押し込む。

 

 

『レモンエナジー・スカッシュ!!』

 

 

ソニックアローの刃に黄色のエネルギーが集まっていき、デュークは交差させるように振るう。

 

「でやぁっ!」

 

さらに、止めと言わんばかりに回転して横一文字に斬りつける。

 

その剣閃はまさしく英語の『A』であり、蔓のみならず6本足までも綺麗に斬ってしまった。

 

巨体を地面に叩きつけながらも、起き上がろうとするスサノオインベスに向かってデュークはレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーからソニックアローにセットし直して告げる。

 

 

『ロック・オン』

 

 

「これで決まりだ」

 

エネルギーが矢へと収束していき、ソニックアローのアークリムから羽根のようなものが突き出す。

 

 

『レモンエナジー!』

 

 

ノッキングドローワから手を放し、矢が飛び出す。防御も出来ないスサノオインベスは最後に声を上げる。

 

矢がスサノオインベスを貫き、レモン果実のようにエネルギーが爆発。それに巻き込まれるような形でスサノオインベスが爆散はした。

 

肉塊すら残らず、文字通り木っ端微塵になった元ストーカーメンヘラ少年。最終的に名前すら知る事のなかった少年に、デュークはレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーに戻して変身を解く。

 

「………憐れだな」

 

冷たい声色で呟き、アキトは踵を返す。

 

もはや、敵に向ける感情など存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『昨日、深夜。東京都千代田区の廃屋の中で大量の遺体を発見。所持していた手帳から、全員非合法の武器を密輸していた組織の構成員だと判明。警察は調査の為、神奈川県にある事務所をーーーー』

 

「まーきちゃんー」

 

アイドル研究部部の室でパソコンを使ってニュースを漁っていた真姫は、呼ばれて振り向く。

 

すると満面の笑顔で入ってきた厘ががばりと抱き着いてきた。その後ろでは花嫁とミツザネが苦笑しているが、猫娘を止める気はないようだ。

 

「ちょっ、凛!?」

 

いつも以上に元気な凛に、真姫は思わず呆れてしまう。

 

今日は前々から告知されていた補習テストの実施日であり、先程それが終わったのだ。

 

真姫は先に部室へと向かい、凛達3人は職員室で答案を確認してもらっていたのだ。

 

「凛、くすぐったいわよ!」

 

「にゃー、やっとテストの呪縛から解放されたんだから、もっと構って欲しいにゃー」

 

まったく、と息を付きながら真姫はなすがままになっている。

 

アキトとの彼氏演技関係は、恋人らしい事をせずに終わった。眠りに付いてから目が覚めた時は、西木野病院の部屋だった時には驚いたものだ。

 

そこでアキトから、あのストーカーメンヘラ少年に攫われて危ない所だった事。ストーカーメンヘラ少年は召喚されたインベスが原因で崩落した瓦礫の下敷となり死亡。暴走したインベスは駆け付けたアーマードライダーデュークによって倒された事。

 

寝ている間に事は強引とも言える流れで終着した事に、真姫は言葉も出なかった。

 

しかし、もっと大変だったのはその後。アキトが両親に全てを打ち明けてしまい、物凄く怒られたものだ。

 

結果、西木野病院は重大な資金提供者を1つ失う事となった。もっとも、どうやら相手側は違法な兵器売買に手を染めていたらしく、どの道関係を打ち切っていたそうだ。

 

悩まされていた少年は死亡。守りたかったパイプは崩落。真姫にとって何とも後味の悪い結果となってしまった。

 

「真姫ちゃん?」

 

「…………何でもないわ」

 

ずっと沈黙していたからか、不思議そうに首を傾げてくる凛。

 

真姫は素っ気なく返して凛を離すと、パソコンのディスプレイを見やる。

 

ニュースになっている大量遺体遺棄事件は、今回のインベスが引き起こした物、とされている。が、それはアキトが応援として呼んだタカトラらユグドラシルによって公にされる事はない。

 

たとえ世間的に善悪でいう悪という人達の命であったとしても、多くの人達の死に自分が少なかれ関わっているというのは良い気分ではなかった。

 

「……………ねぇ、凛は家事は出来るの?」

 

「にゃ?」

 

突然の質問に、意図がわからないと目を瞬く凛。

 

「まぁー、洗濯ならそれなりに………」

 

「凛ちゃん。洗濯機に放り込んだら、後は洗剤入れて回すだけだもんね」

 

親友の容赦ない追い討ちにうぐっ、と言葉に詰まる凛。

 

「…………ちゃんと家事が出来る女の子じゃないと付き合えないって、アキトが言ってたわよ」

 

「…………もう少し精進します」

 

真姫の言葉に肩を落とす凛。

 

アキトとは病院で会った以降、顔を合わせていない。丁度、父親が帰ってきた頃だろうし、店を繁盛させる為に奔走しているだろう。

 

ふと、真姫の脳裏にアキトの言葉が過ぎった。

『あいつが死んだ事に、お前が気に病む事はないだろ。真姫は被害者だぞ』

 

確かにその通りである。が、それにしたってこの結末はあまりにも後味が悪すぎた。

 

そう言うと、アキトは苦笑を浮かべて、

 

『お前、けっこうライダーに向いてるかもな』

 

その意味は測りかねるが、褒めているのだろう。

 

アキトは飄々としていたが、この結果は当然の報いだとでも思っているのだろうか。

 

自らの行いが詰みだったが故に、断罪された悪と呼ばれる人々の結末を。

 

「そういえばここ最近、真姫さんはアキトにご執着だったみたいですね」

 

「……………ファッ!?」

 

斜め上からの質問に、真姫は質問者であるミツザネを見やる。ミツザネは満面の笑みを浮かべており、「どうしたんです? 質問に答えないんですか?」と顔で言葉を現している。

これはミツザネが新しい弄る対象(オモチャ)を見つけた時の顔だ。

 

「ま、真姫ちゃんはアキト君と付き合ってるの!?」

 

悪意抜きで話題に乗ってくる花陽に、真姫は困ったように顔を顰める。ちらりと凛の表情を伺ってみるが、意外にも気にしていないのかテーブルで「にゃんにゃにゃーん」と意味のわからない事をしている。

 

少しの間を置いてから、フッと口元を緩めて真姫は答えた。

 

「私がアキトと? ありえないわね」

 

「えっ、でも……」

 

「凛へのプレゼント選びのアドバイスが欲しいって頼まれたから、仕方なく買い物に付き合ってただけ。私があいつと本気で付き合うなんてありえないわ」

 

燻しがる花陽に答えながら、病院で尋ねた事を思い返す。

 

もし、冗談ではなくて本当に付き合うとしたらどうなっていたと思う?

 

それに対してアキトは笑ってこう言ったのだ。

 

「良くて友達以上、恋人未満………なれたとしても、親友が精一杯よ」

 

アキトは他の女の子に構っていられる暇はない。

 

何せ。これだけ元気で奔放で、特別に我が儘になる猫の世話をしなければならないのだから。

 

真姫は微笑を浮かべて窓から空を見上げる。

 

晴天とも呼べるこの天気の中、街を奔走しているであろう親友の姿を思い浮かべながらパソコンの電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

啼臥アキトが所持するロックシード

 

・レモンエナジー

・バナナ

・サクラハリケーン

・ローズアタッカー

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

コウタ「次回は特別篇! 年明けのためにありえない組み合わせだ!」

 

ラブ鎧武!のキャラクターとあのキャラ達がトークショー!?

 

酔った勢いでの作品、どうしてこうなった!?

 

 

次回

 

ラブ鎧武!VS緋弾のアリアW ~謹賀新年メタ全開トークショー!~

 

 

 

 

 

 

 




いよいよ年末となってきて、2,014年もあとわずかですね。

皆様、如何お過ごしでしょうか。グラニは年末を跨ぐ形で仕事ですwww



さて、ここまで読んでくださってありがとうございます。

真姫ちゃんを付け狙うストーカー君は、結局どこぞの蛇にそそのかれて禁断の果実を手にしてしまい化け物になり果ててしまったのでした。

前半で出てきた新キャラ、工藤雷と電の双子姉妹。元ネタは発言通り、『艦隊これくしょん艦これ』より駆逐艦雷と電です。外見もその通りです。苗字は2人な艦長を勤め、戦時中でありながら敵兵を救った工藤俊作艦長から。

残りの暁型駆逐艦も登場予定でございます。スクールアイドルのライバルとして。

また、破天荒な動きをする呉島兄弟。前日に少林サッカーを見たのが原因です。

そして新たな青いインベス。それを従える謎の存在。一体誰なんだ………


最後に出てきたスサノオインベス。元ネタはゲーム『ゴッドイーター』よりスサノオというモンスターです。



さて、次回は新年明けると同時に投稿予定。

タイトル通りメッタメタなトークショーとなっており、本編とはまったく関係ないお話となっています。

特典DVDみたいな感じもたまには悪くないかなー、と。初の試みです。

一体どんなお話をするんでしょうか、この子らは……アキトが一番の不安要員ですがwww

ではでは皆様。今年最後の投稿となりました。

よいお年を。

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