ラブ鎧武!   作:グラニ

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『変身』とは言葉にすれば簡単で、それを現実にするのは難しい。





14話:Wonder zone ~責務を果たす為に~

アーマードライダー活動許可の条件として提示された補習テストを乗り越えたチーム鎧武とμ'sは、ラブライブ!に向けての練習に熱を入れる。

 

その矢先、早退で練習に参加しない南ことり。

 

そんな中、矢澤にこの提案で秋葉原でひと悶着あったが、東京では滅多に開催されないインベスゲームを見る為に中断。そのインベスゲームで突如暴走するインベスを鎮圧する為、アーマードライダーバロンへと変身した九紋カイトは、メイド喫茶で合流。ことりがバイトをしており、そこで彼女の心中を知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええええぇぇぇぇぇっ!!?」

 

ことりがメイド喫茶で働いていると知った翌日。

 

音乃木坂学院μ'sが部室として使っている部屋で、ことりの声が響いた。

 

1つ分の教室であるこの部屋は、もともと資材置き場だった部屋だ。しかし、使っていないのなら男子の更衣室に使わせて欲しいと理事長に懇願した葛葉コウタと呉島ミツザネ、カイトが許可を貰って掃除をしたのだ。

それを聞いた高坂穂乃果がミーティング時や、雨天時の練習場所として欲しいと言ったので、男子更衣室兼μ'sのミーティング室となっている。

 

「それ、マジ?」

 

若干顔を引きつらせながら矢澤にこが絢瀬絵里に確認の為に聞き返す。その隣では同じように小泉花陽が驚愕しており、それを眺める星空凛がわかっているんだかわかっていないんだか呆けた顔をしている。作曲担当の西木野真姫はどうでも良さげに椅子に座って足を組み、いつものように髪を弄んでいる。

 

「マジも大マジやって。ね、エリチ?」

 

親友の東條希に後押しされるような形で、絵里は頷く。

 

「今度のライブはアキバでやるわ」

 

「面白そうだな、それ」

 

「コウタさんが盛り上がってどうするんですか………昔みたいなランキング争いじゃないんですよ?」

 

勝負事と聞いてか、椅子の背もたれを前にするように座っているコウタに、弟分の呉島ミツザネが宥める。

 

「でも、また何でA-RISEのお膝元で?」

 

「そうよ! まるでA-RISEに喧嘩を売っているみたいじゃない!」

 

A-RISEのファンとして看過出来ないのか、にこが吠える。しかし、絵里は呆気からんとして言った。

 

「だから、よ。A-RISEの目の前ってことはそれだけ人に注目されやすい。そこでライブを成功させれば上位ランクにも食い入る事も出来るわ」

「も、もしA-RISEのファンに目を付けられたら………?」

 

花陽が危惧している事はもっともだ。A-RISEはスクールアイドルの中でも一番のファンがいるチームだ。当然、μ'sのライブを快く思わない輩も出てくるだろう。昨今ではそういう問題視されるファンも多く、注意喚起しているが実在するのが現実だ。

 

「そん時は、俺達が守る」

 

コウタの発言に、一同の視線が集まる。しかし、コウタは気恥ずかしがる事なく、はっきりと告げた。

 

「そんな奴らから守る。今度こそ、絶対に………」

 

コウタの声色は今までよりも確かなもので、オープンキャンパス時よりも頼もしく思えた。

 

「……………まっ、A-RISEはそういうファンを嫌っていると聞きますし、万にないと思いますけどね」

 

ミツザネも同意見なのか、軽快そうに頷く。それは本当の事だからか、それともμ'sの一同を安心させる為なのかはわからないが。

 

「………カイトはどう思う?」

 

絵里はずっと黙って腕を組み、壁にもたれかかっているカイトへと目を向ける。

 

尋ねられカイトは不機嫌そうな顔を隠さずに答えた。

 

「貴様達がそうしたいならすればいい。それを決めるのはオレ達ではない」

 

「そう言うなって、カイト。せっかくのチームなんだからさ」

 

相変わらずだな、とコウタが言うとカイトはぎらりと睨み付ける。

 

「何度も言わせるな。オレが貴様達に付いてきたのは馴れ合う為ではない……オレの信念を曲げない為だ」

 

「わかってますよ。そうやってしていないと、クールキャラが保てないんですもんね」

 

口を挟んできたミツザネに、カイトの眉が動く。

 

「今更素直な爽やかキャラになるわけにはいかないですもんねぇ………」

 

「ミツザネ」

 

壁から離れたカイトはミツザネを睨み、バナナロックシードを握り締める。

 

「潰されたいか」

 

「おや、忘れたんですか? 僕は貴方に勝っているんですよ」

 

ミツザネは挑発に敢えて乗り、ブドウロックシードを取り出す。

 

「フン、貴様自身の力ではないだろう」

 

「そういえばそうでしたね。なら、ちゃんと勝敗を決めるのも悪くはないかもしれませんね」

 

「み、ミッチ!?」

 

「カイトも止めなさい!」

 

そのままインベスゲームを始めようとする2人に、真姫と絵里が声を上げる。

 

しかし、2人が取り出した刃を収める気配はなく、止めるべきコウタも止めようとする様子はない。

 

空気が張り詰め、誰かが固唾を呑んだ時だ。

 

ぐぅぅぅー、と。開錠しようと指に力を込めた途端、間抜けな音が響いた。

 

その場にいた全員が、音がした方向を見る。

 

「……………い、いやー、今日もパンが美味い!」

 

若干顔を赤くしつつ、カバンから惣菜パンを取り出して食べ始める穂乃果。

 

音の発生源はどこかなど聞く必要すらなく、何とも言えない間抜けな雰囲気が漂う。

 

「…………………くっ」

 

突然、カイトの肩が震え出す。まさか笑い出すとは思っていなかった絵里はぽかんとなっていると、バナナロックシードを下げた。

 

「興が冷めたな」

 

「…………まぁ、また今度という事で」

 

ミツザネもブドウロックシードを下ろし、緊張感が収まる。

 

カイトはそのままミーティング室を後にし、思わず安堵の息を漏らす一同。

 

「ミッチ」

 

「いやぁ、すみません。ついつい熱が入っちゃいました」

 

咎めるような絵里の言葉に、ミツザネは反省した色を見せずに笑う。

 

「ミッチ、せっかく理事長から活動の許可を貰ったというのに問題を起こしては………」

 

「だって、ムカつくんですよ」

 

海未の言葉を遮ったミツザネの表情は、普段のような笑みとは違った笑みを浮かべていた。うすら笑いとでもいうのか、オープンキャンパス時とは違った初めて見せる顔だ。

 

「本当は寂しい癖に、一緒になって騒ぎたい癖に………プライドとか、キャラとか気にして………素直になってくれたら、どれだけ楽か…………」

 

「ミッチ…………?」

 

怒りとも憎しみとも取れない感情に、絵里は怪訝さを抱くしかない。異性と触れ合うのか久々だが、これはどういう意味なのかわからなかった。

 

「昔の僕みたいで、ムカつくんです。要するに自己嫌悪ってやつですよ」

 

わからない、という表情を察してくれたのかミツザネは絵里に笑いかけながら言う。それは普段浮かべている笑みであり、いつものミツザネに戻った事に絵里は安堵する。

 

「まっ、やりたきゃやれってんだから、その案でいいと思うぜ?」

 

そう言うのは、今まで静観を決め込んでいたコウタである。

 

「で、作詞作曲の方はどうなってんだ?」

 

「作曲は方向性は定まってきたから、歌詞待ちってトコかしら」

 

コウタの言葉に頷き、真姫はちらりと海未を見やる。μ'sの曲は真姫が作曲し、作詞担当は海未の役目だからだ。

 

「その事で、1つ提案があるの」

 

そう言って絵里は区切り、言う。

 

「今回の作詞、ことりにやってもらいたいの。どうかしら?」

 

「……………………………えっ?」

 

長い間の後に溢れた言葉と共に、ことりの目が丸くなる。やがて、その目は徐々に大きく見開かれていき、

 

「ふぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

南ことりという少女の普段を知る人物からすると、ありえないくらいの音量で絶叫が音乃木坂学院に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

 

カイトは気難しい顔をしながら、引き摺られるように秋葉原の街を歩いていた。

 

カイトの両脇にはにこと凛。μ'sきってのまな板娘’sである。

 

周りからは女をはべらしているように見えるのだが、カイトにはそんな気はない。むしろ早く帰りたい、という願望が脳に満ちていた。

 

昼休みにμ'sのミーティングを行うと聞いて、カイトは絵里達と共に男子更衣室へと向かった。μ'sに協力すると決めた以上、彼女達とのライブに関する打ち合わせはするべきだ。

 

そこで不本意ながらも波紋を広げてしまい、穂乃果のボケで何とか乗り越えたまではいい。その後、絵里から次の作詞はことりに任せたという。

 

昨日、秋葉原で伝説のメイドとまで呼ばれる彼女なら、秋葉原でライブをするのに相応しい歌詞を作ってくれるだろう、というものだ。

 

曲作りに関して口を挟む気はない。役割分担ではカイトが考慮すべきは振り付けだからである。

 

しかし、元々ことりという少女は奥手で目立つような性格ではない。慣れない作詞という作業に業を煮やしていたようで、穂乃果が秋葉原で考えたらどうか、とアドバイスをしたらしい。

 

確かにことりは秋葉原という街を気に入っているらしく、それはいい案であるとカイトも思う。人間、好きな環境で作業すれば捗るというものだ。

 

問題は、その後。

 

曲が完成しなければ練習のしようがないという事で、ことりの働くメイド喫茶へ激励に行こうという話しになったのだ。

 

そこでようやく嫌な予感を覚えて早々と帰ろうとしたカイトだが、希のお色気攻撃に怯んだ矢先にまな板娘’sにしがみつかれてしまい、今に至るという訳である。

 

「何故、オレまで巻き込まれなければならん」

 

「アンタもμ'sに協力してくれるなら、付き合いなさい。それとも、自分で言った事を曲げる気? 屈服するんだ?」

 

にこの煽りに歯噛みしながら、カイトはことりのメイド喫茶へ歩く。普段なら理由のない暴力が襲ってくるが、普段以上に表現のしようがない表情をしているのか、周りの男達は羨ましそうな顔をしてから、すぐに目を空していく。

 

正直、喧嘩でも仕掛けて来てくれればその状況を打破出来るものを。せめてこの鬱陶しい腕を振り払う事は出来る。

 

「ウチや花陽ちゃんじゃないだけでも感謝するんやで? もしそうなったら気が気でないやろ?」

 

「フン、貴様達の無駄な脂肪の塊など敵ではない」

 

「カイトさん、鼻の穴が膨らんでますよ?」

 

海未の指摘はひとまず置いておいて、カイトは両脇の2人を見やる。

 

「わかった、今回は付き合ってやる。だから離れろ、歩き辛い」

 

「そう言って、脱兎のごとく敵前逃亡する気じゃないですかにゃ?」

 

「この状況を啼臥に見られれば、勘違いされるのは必然的だが?」

 

そう言うと、凛はすんなりと離れた。

 

「にこちゃん。その立派な胸部装甲でカイトさんを悩殺するんだ! 頑張れ!」

 

「何でアンタは啼臥アキト(カレシ)が絡んでくるとへたれるのよ!?」

 

すっかり彼氏関係を認定されてしまっている事に凛は憤慨する。

 

「なっ、だからアキトは別に彼氏とかじゃないって! 単なる幼馴染みで………」

 

「アイドルは恋愛禁止。わかってるんでしょうね?」

 

凛の言葉を遮り言うにこに、うがーっと反論する猫娘。しかし、そう反論している時点でその気があると証明している事になっているのだが、気付かないのだろうか。

 

腕から離れたにこと凛を見据えながら、カイトは疲れたように息を吐く。役得した気はなく、むしろ活発な子供の相手をしていたような気分だ。

 

「カイト」

 

「わかっている、皆まで言うな」

 

釘を刺してくる絵里にそう答え、逃げる事を観念したカイトは秋葉原の空を見上げる。

 

放課後という時間帯もあって陽は落ち始めているが、ギリギリ夕刻ではない。空にはまだ赤みは掛かっておらず、強い青色が広がっている。

 

都心部の空は排気ガスなどで澱んでいる、と聞いた事があるがその色はかつての沢芽シティと何ら変わりはない色だ。

 

この街が澄んでいるのか、それとも沢芽シティも澱んでいたのか。

 

そんな埒も無い事を考えながら、カイトはことりがバイトをしているメイド喫茶へと歩みを進める。

 

「そういえば、私のメール無視したわよね?」

 

ふと思い出したのか言ってくる絵里に、カイトはそういえばと思い返す。

 

昨日。インベスを鎮圧した後、別々となったμ's達と合流する為に携帯を開くとすでにメールが着信していたので、その指示通りに向かったのだ。普段から了解、などの返信をしないカイトだが、相手が同郷の間柄だったから通じていただけであると痛感した。

 

「店に着いた時に携帯を確認してメールが届いていた事に気付いたからな、返信する手間がはぶけただけだ」

 

「ちゃんと返しなさい。心配したでしょう?」

 

「あの程度の敵にやられるオレだと思っているのか?」

 

それこそ心外だ、とカイトは思う。初陣であるオープンキャンパスでは無様としか言いようのない醜態を晒したが、それ以降の活躍はバロンの強さを証明するのに相応しいものだったずだ。

 

「そうじゃないけど……心配なものは心配なのよ。カイトは特に」

 

「……………気が向いたら返してやる」

 

カイトとて、ここで彼女達と再び袂を断つつもりはない。彼女達を守ってこそ、他者を守り勝利するという信念が守れるのだから。

 

「そうしてちょうだい。でなければ痛電しまくるから」

 

それは素直に困る。

 

妙な知識を付けてきたなと思っていると、視界に昨日インベスゲームが行われたステージが見えた。

 

そこにはやはりガラの悪いビートライダーズが屯しており、ダンスではなく訳のわからない遊びで盛りがっている。

 

それがカイトには酷く歪で、まるで侵略しているように見えた。カイトの気配を察してか希が腕を掴んで来なければ、問答無用で叩き潰しにかかっていたかもしれない。

 

「カイト………」

 

「………わかっている」

 

希にそう返し、カイトはステージへと歩いていく。より正確には、ステージ横にいる少年へと、だ。

 

喧嘩を売る訳ではないと気付いたのか掴んでいた手を離し、彼へと近付く。

 

「……………あ」

 

少年もこちらに気付いたようで、しゃがみこんでいた体勢から立ち上がる。

 

「あ、貴方は……アーマードライダーバロン………!」

 

「九紋カイトだ。ペコ、でよかったか?」

 

名前を確認するとペコが頷く。そうか、とつぶやいてカイトは後ろで騒いでいる連中を指さす。

 

「何故、昨日のように戦わない?」

 

「えっ…………」

 

昨日のインベスゲームはペコとビートライダーズが起こしたものだ。

 

その目的はステージのダンス権を巡ってのインベスゲームであったのは当然の事で、今日もインベスゲームでステージを勝ち取らなければならないのは同じだ。

 

なのに、ペコはステージ脇で羨ましそうに眺めているだけだ。カイトにはそれが不思議に思えた。

 

「踊りたくてインベスゲームをしたのではないのか?」

 

「だ、だって昨日みたいな大事になるのは嫌ですし………それに、オイラじゃ勝てないし………」

 

うじうじと顔を俯かせて呟くペコに、カイトは息をつく。

 

「お前もか………」

 

「えっ………」

 

「その程度なのか、お前のダンスに賭ける情熱ってのは」

 

ビートライダーズが何故、ステージを巡ってインベスゲームを行うのか。

 

沢芽シティでさえ、最後はインベスゲームによるランキング争いが主だったとはいえ、当初は純粋にダンスの為にインベスゲームを行っていた。

 

どうして戦うのか。それは、それほどまでに踊りたかったからだ。

 

踊りはいい。踊っている最中は嫌な事を忘れられるし、周りが楽しくなると自分も楽しくなる。

 

最初は本気でやる気ではなかったはずのカイトですら、本気でのめり込んでしまったのだ。

 

それほどまでにダンスは楽しいもので、それは秋葉原でも同じはずだ。

 

「あんな輩を貪らさせておいて何も感じないのなら、お前にダンスをやる資格はない」

 

「っ、オイラだって踊りたい! 力があれば、あんな奴らにステージを使わせない!」

 

強く言って、ペコはその場に項垂れる。

 

「だせど、オイラには力がない………あいつらはランクAのロックシードで出したインベスに、オイラのインベスが勝てる訳がないよ…………」

 

独白のように吐き出された言葉は、ペコにとって本心なのだろう。ダンスに対する想いも、己の力に対して劣等感も。

 

だからこそ、カイトは怒りを抑えられない。ペコも、そしてことりもそうだ。

 

「……………何故、お前は足掻かない」

 

「えっ…………」

 

「このままでは一生ダンスなど出来ないぞ。それとも、これを期にダンスを辞めるか?」

 

否。ことりはまだ歩き出している分マシだ。自らの意思で変わろうと行動している。

 

「だ、だってオイラには戦う力なんて………」

 

「インベスゲームとはインベスにとって華々しいステージだ。それを痛そうだの可哀想だのという理由で拒絶するのなら、それは奴らに対する侮辱だ」

 

カイトは自然と愛用のバナナロックシードを手に取る。インベスは今でさえお手伝い妖精の意味合いが広まっているが、元々は侵略者だった。つまり、戦う兵士だ。そこに悪意などはなく理由のない侵略ではあったが、彼らは本来戦う存在。

 

ならば、戦を否定することはインベスの生き様を否定するという事に他ならない。

 

それはカイトにとって、自分を否定されているような感じがして嫌悪感を覚えるのだ。

 

「お前のダンスに賭ける想いをインベスに託してみろ。こいつらは人間の気持ちとやらを養分にしているんだぞ」

 

そう言ってカイトは、ペコの左胸に拳を突き当てる。

 

「インベスだけに戦わせるんじゃない。お前も一緒に戦ってみろ」

 

「…………オイラも、一緒に……」

 

ペコは使っているであろうヒマワリロックシードを見つめる。音乃木坂学院やアーマードライダーでなければよほどの事がない限り、ユグドラシルより無料配布されているランクDのヒマワリロックシードを使っている。

 

ランクCならいざ知らず、ランクB以上のロックシードは庶民では手の出せないほどの価格だ。学生が手に出来るものではない。

 

しかし、だから何だというのだ。確かにランクの高いロックシードをアーマードライダーが使えば強力なアームズに換装出来る。

 

その強さは少なかれインベスゲームにも影響を及ぼすが、インベス自体の強さを決めるのはランクではない。

 

「戦う…………!」

 

ぐっと、ペコの目に焔が宿る。彼は頷くとステージへと駆け出して行く。

 

その後ろ姿を見届けて笑むと、カイトは踵を返す。

 

そこには、にやにやと笑っているμ'sの1、3年生組がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今更恥ずかしくなってあんな感じになってると………」

 

ことりの働くメイド喫茶へ到着するなり、椅子に座り込んでテーブルに突っ伏したカイトを見て、穂乃果が呟く。

 

「カイトさんかっこよかったにゃー」

 

凛としては本気で褒めたのだろうが、カイトはダメージを受けたように身体を震わせる。

 

ことりに作詞を頼むにあたって苦戦していたのを見かねた穂乃果が、メイド喫茶で考えてみてはどうかと案を出したのだ。

 

ついでという訳ではないが店長から許可を貰い、穂乃果と海未も一緒にメイド喫茶で1日だけ働く事となったのだ。

 

その最中にカイト達がやってきて、事の顛末を聞いて穂乃果達は苦笑した。

 

「意外とカイトって熱血漢ってやつなんやね」

 

ツンデレやクールキャラと呼ばれているが、意外にも熱い情を持っているようだ。

 

希の言葉にそうだねぇ、と返すとにこにメイド服の裾を引っ張ってきた。

 

「で、作詞の方はどうなのよ?」

 

その質問に穂乃果はことりを見やる。

 

ことりはテーブルに突っ伏しているカイトへ近付くと、礼儀正しく一礼した。

 

「いらっしゃいませ、ご主人様。お飲み物は如何されますか?」

 

目も合わせていないというのに、ことりは接客応対をする。

 

カイトは今だに顔を上げず、手だけ振って答えた。

 

「昨日と同じコーヒーですね。かしこまりました、少々お待ち下さい」

 

まさしく完璧な接客。伝説のメイドと呼ばれるのに相応しい振る舞いであった。

 

「作詞が進むかどうかは……でもいい気分転換にはなってるみたい」

 

「へぇー。そういえば海未はどうしたのよ? 一緒だったんでしょ?」

 

真姫の言葉に穂乃果は嘆息し、厨房へと入る。

 

「ちょっと、海未ちゃん!」

 

そこには皿洗いをしている姿があった。もちろんそれも仕事なのだが、海未の場合はずっとそれをしているのだ。

 

「ちゃんと仕事しなきゃダメだよ!」

 

「な、何を言うのです。そもそも、メイドの役割とは本来こういうもので………」

 

「もぉー、そうやって屁理屈ばかり………!」

 

言葉では勝てない穂乃果は、溜息をつく。ことりの付き添いという目的はあるが、実は海未の人見知りな性格にも耐性を付けてもらおうと考えていたのだが、どつやらお見通しだったらしい。

 

「ダメだよ、海未ちゃん」

 

と、そこへ食器を下げに戻ってきたことりが言う。

 

「どんな時も笑顔を忘れちゃダメだよ」

 

「えっ、ですがここはフロアからは見えない裏方ですし…………」

 

「だからこそ、だよ」

 

食器を流し場に置いて、ことりは笑顔を浮かべた。

 

「確かにお客様からは見えないかもしれないけど、いつでも笑顔を絶やさない。そういう心構えが大切なんだと思うんだ」

 

満面の笑顔で告げる幼馴染みは、穂乃果も海未も見たことのない幼馴染みだ。

 

そのハツラツとした姿に2人は顔を見合わせて苦笑する。

 

「ことりちゃん。活き活きしてるね」

 

「えぇ、とても楽しそうです」

 

「うんっ、今私すっごく楽しい! この制服を着ると……ううん。この街に来ると不思議と勇気が貰えるの。もし思い切って自分を変えようとしても、この街なら受け入れてくれる気がする……そんな気持ちにさせてくれるの。だから、私はこの街が好き!」

 

ここまで熱く語ることりは初めてだが、その気持ちは穂乃果にもわかる気がした。

 

スクールアイドルを始めようとしたキッカケをくれたA-RISEも、この秋葉原で活動している。

 

変わろうとする穂乃果をうけいれてくれたかのように。

 

この街は常に変化を続けている。それは新しいものをどんどん受け入れていくということ。そして、それは古きを蔑ろにしている訳ではない。街のどこかには、確かに古きを思わせる影があるのだ。

 

「………そうだよ……それだよ!」

 

穂乃果は思いついたように顔を明るくする。

 

「その気持ちを歌にすればいいんだよ!」

 

「この気持ちを………?」

 

ことりに穂乃果は頷く。この街は変わる勇気をくれる。変わる物を受け入れてくれる。

 

それは、上手く言葉に表現する事は出来ないが、大切な事なのだ。変わる勇気も、受け入れてくれる優しさも。

 

それを歌にすれば、必ず人の心に響く歌になる。

 

「やってみよう、ことりちゃん!」

 

「穂乃果ちゃん………うん、やってみる!」

 

歌詞の方向性が決まった。これでようやく完成に近付く事が出来る。

 

嬉しくなってつい笑っていると、来客を知らせる音が響く。

 

「あっ、じゃあ行ってくるね!」

 

より一層輝かしい笑顔を見せて、ことりはお客を出迎えに行く。

 

それを見届けた海未は安心したように息を吐く。

 

「良かったですね。ことりが前に進めて」

 

「うん、そうだね」

 

自分を変えたいと願って始めたバイトだが、穂乃果と海未には行き詰まったように見えたのだ。変わろうと思った、しかしどう変わろうか、と。

 

穂乃果のように元気はつらつな感じなのか、海未のようにしっかりとした感じなのか。

 

その結論はことりにしかわからないが、あの表情は前に進めたたのだろう。

 

「ぴぃぃぃーっ!」

 

そう安堵していたのもつかの間。

 

昨日、カイトと出会した時のようなことりの悲鳴が聞こえ、穂乃果と海未は慌てて入口へと向かう。

 

そして、絶句してしまう。

 

「ぴ、ぴぃぃぃ………」

 

「…………そこまでショックを受けられなければならない理由は思い至らないが……」

 

「た、タカトラ先生…………!?」

 

来客したのはμ'sメンバー全員が驚愕の、呉島タカトラであった。音乃木坂学院の非常勤講師兼ユグドラシルコーポレーション重役で多忙なタカトラが、まさかメイド喫茶に通っていたとは。

 

様々な事が起こり過ぎて誰も言葉を発せない中、ようやく復活したらしいカイトが告げた。

 

「よもや南目当てか」

 

「そうだ。噂で聞きつけてぜひともメイド姿を拝もうと思ってな」

 

「ぴぃぃぃ!?」

真顔でタカトラが告げると、わりと本気の悲鳴がことりが上がる。

 

当然、周りから何事だとざわつき始め、流石のタカトラもバツの悪そうに顔を歪めた。

 

「やはり、あまり洒落は合わんな」

 

「真顔過ぎるんです!」

 

海未が思わず呻く。普段から眉を潜めている年上の男性から真顔で言われれば、ことりの性格ならば真に受けかねない。

 

「南、音乃木坂学院は生徒会を通して申請した上でバイトの許可が下りるはずだ。学校側がメイド喫茶でのバイトを許可したのか?」

 

「…………いえ」

 

ここで嘘を言っても仕方がない。ことりが素直に答えると、タカトラは目を細める。

 

「理事長にも?」

 

こくりと、ことりは頷く。やはり理事長の娘が無断でバイトをしている、というのも問題であるが、その仕事がコンビニ店員などではなくメイド喫茶でメイドである。無論、ただの接客業であり如何わしい事なとないが、やはり世間的には受け入れられにくい職であろう。

 

様々な思惑がことりを襲いかかり、瞳が大きく震え出す。

 

「あ、あのー」

 

そこへ厨房のさらに奥から、女性が出てくる。ことり達とは違ったメイド服を着ており、胸のネームプレートには店長とある。

 

「お客様、この子が何か?」

 

「て、店長。違うんです、この人は学校の先生で………」

 

「学校の、先生…………?」

 

ことりが慌てて付け加えると、タカトラは一礼を返した。

 

「いつもウチの生徒がお世話になっています」

 

「あぁ、ことりちゃんの。いえいえ、良い子でお客様からの評判も良く、こちらとしても助かってますわ」

 

正社員からの評判に、ことりは照れるようにはにかむ。

 

それを聞いてタカトラはそうですか、と頷いてことりを見やる。

 

「南、実際に働いてみてどうだ?」

 

「………私ら自分を変えたくて仕事を始めたんです。それでお客さんと触れ合ったりして笑顔にする事って、すごく大変だなって思ったのとやりがいを感じたんです。私もいつか、もっと大勢の人達を笑顔にしたいって!」

 

タカトラの質問に、ことりは普段のようなオドオドした感じも、おっとりとした感じでもなく、はっきりと答えた。

 

その表情は真剣そのものであり、聞いていたタカトラは細く笑んだ。

 

「そうか………良かったな、良い社会勉強をさせてもらえたようだ」

 

「…………怒らないんですか?」

 

てっきり怒られるものだと身構えていたことりは思わず聞き返してしまう。

 

穂乃果達もてっきり説教されると思っていたのだが、タカトラは笑みを苦笑に変えて答えた。

 

「今の俺は音乃木坂学院の教師としてではなくユグドラシル社員として来ている。無論、無申請だと知ってしまった以上は学校側には報告しなければならん。が、自ら社会勉強をしてちゃんとえる物を得ている生徒を責める事など出来んよ」

 

バイトというのは、金を実際に貰う事だ。それは社会の一員になる事であり、部活などの対応が通じない事を意味する。

 

ほとんどの学生はバイトを勉強だと捉えずに金稼ぎの為にやっている。それは正しい。正当な働きには報酬が出るのが、社会の仕組みなのだから。

 

しかし、ことりはそれらの先を見ている。

 

それは意識すれば出来る事だが、それに気付く学生は少ない。よしんば知ったとしても、やはり給料目当ての方が強い。

 

だから、若くしてその点に気付けたことりは凄いのだ。誰に言われたのではなく、その事を知ったソレは、学校では教わらない事である。

 

普段、あまり接しないタカトラに褒められたからか、ことりの顔がどんどん赤くなっていく。

 

その事に気付いていないタカトラが首を傾げるので、穂乃果は思わず笑ってしまった。

 

「タカトラ先生。良ければ御一緒しませんか?」

 

「……そうだな。こちらもまだ時間はある」

 

「やった、タカトラ先生の奢りにゃー」

 

絵里の言葉に頷いたタカトラは、浮かれる凛に苦笑を浮かべる。

 

「いいだろう。ミツザネ達の件では世話になったしな。奢ってやろう」

 

「そ、そんな………ミッチ達にはこっちの方が………」

 

ミツザネ達には出会ってからというものの、世話になってばかりだ。一度には袂を割ったかと思われたオープンキャンパスでさえも、その実は音乃木坂学院を守る為だったのだ。

 

出会ってから、μ'sに限らず音乃木坂学院は彼らに感謝ばかりしている。有名なチーム鎧武のメンバーがいるという点でも、音乃木坂学院の名は広まったのだから。

 

「いや、あいつらの表情を見ていればわかる。こうして突っ伏している九紋でさえも、大分丸くなったものだ」

 

ぽんぽんと頭を叩かれ、カイトは半目になって顔を上げて睨みつける。

 

「よく言う………元々はオレ達ビートライダーズをモルモットとして扱っていた癖に」

 

「えっ!?」

 

驚きの声を漏らしたのは誰だっただろうか。

 

μ'sの面々が知るタカトラ先生は真面目一辺倒で、その中には苦手であろうジョークを織り交ぜてくる。皆と距離を縮めようと努力している良き教師である。

 

そのタカトラがカイト達ビートライダーズをモルモットとして扱っていた、という事に驚きを隠せなかった。

 

「…………タカトラ先生、本当なんですか?」

 

「…………否定はしない」

 

ことりの質問に、タカトラは特に気にした風もなく答えた。

 

「ユグドラシルが開発した戦極ドライバー。そのテストに沢芽シティのビートライダーズ達のランキング争いを利用したのは確かだからな」

 

インベスと共存するようになってから10年ほど経つが、最初からアーマードライダー達がいた訳ではない。むしろ、アーマードライダーが現れたのはごく最近である。

 

「まぁオレは感謝しているがな……改めて高みへ挑めるのだからな」

 

「カイト。それツンデレじゃなくてただのデレやで」

 

本気なのか、それとも場を和ませる為のジョークなのか。そう言うカイトに希は突っ込む。

 

くすりと笑い声が漏れ、ふと見るとことりは店長と共に厨房へと戻っていく。

 

「ところで、タカトラ先生はユグドラシルの仕事って言ってましたけど、何ですかにゃ?」

 

気になるのか凛が質問すると、何故かカイトが目を細める。

 

「錠前ディーラーが……奴がこの街に来ているんだな」

 

「気付いていたか」

 

タカトラの言葉に頷くと、カイトは懐から何かを取り出してテーブルに広げた。それはパソコン内部にあるチップのようであるが、小さすぎてよく目を凝らさなければわからないくらいだ。

 

「昨日のインベスゲームで使われたロックシードに組み込まれていた」

 

昨日のインベスゲームといえば、凛と花陽の同級生、ペコが始めたインベスゲームだ。その最中に対戦相手のロックシードが壊れ、インベスが暴走しかけたのだ。

 

その場に居合わせたカイトのおかげで大惨事にはならずに済みんだのだが、またビートライダーズへの風当たりは強くなりそうである。

 

「これ、英語のSって書いてあるのかな?」

 

眺めていた花陽の呟きに、穂乃果はまじまじとチップを見る。確かに微かではあるが、英語のSが刻まれているような気がしなくもない。

 

「よくわかったな」

 

素直に意外だったのか、カイトが花陽を見やる。普段のような高圧的な態度ではない雰囲気のカイトに、花陽は若干困惑した様子ではにかむ。

 

「何となく、です………何となくで英語のSかなって………」

 

「S………一体どんな意味があるのでしょうか………」

 

唸る海未に釣られ、皆が考え込もうとしてしまう。

 

しかし、それをタカトラの苦笑が遮った。

 

「お前達はアーマードライダーでもユグドラシル社員でもない。スクールアイドルだろう? スクールアイドルが考えるべきは、次のライブではないのか?」

 

もっともらしい言葉に、8人ははっとなる。どうも鎧武達といたインベス問題に掛かってきたせいか、敏感になっているようだ。

 

「それで、南の作詞は進んでいるのか?」

 

「はい。きっといい曲になると思います。楽しみにしてて下さい」

 

タカトラに笑顔で答えた直後、突如店内の照明が落ちた。

 

「…………ふぇ?」

 

事前に知らされていなかった穂乃果は声を漏らし、周りを見回す。

 

すると常連らしい客達は待ってました、と言わんばかりにざわつき始め、見れば他のメイド達は何かの準備を始めている。

 

「穂乃果、何が始まるのよ?」

 

「さぁ?」

 

「おい、店員」

 

にこの質問に首を傾げる穂乃果に、カイトの突っ込みが入る。

 

そこへことりが笑顔でやって来ると、手にしているバスケットから何かを差し出してきた。

 

「はい、どうぞ」

 

「ことりちゃん?」

 

差し出されたのは1枚のカードであり、穂乃果が受け取るとことりは他のメンバーにも渡す。

 

「ビンゴカード………ゲームでもするのかしら」

 

絵里が眺めると、それは有り触れたビンゴカードだ。店の中央を見やるとビンゴゲームが配置されており、何かしらのイベントのようである。

 

「くだらん。オレはやらんぞ」

 

「残念。強制参加です」

 

関係ないといわんばなりにコーヒーを飲むカイトに、ことりは満面の笑顔でビンゴカードを手にねじ込んでくる。

 

カイトは不満そうな顔をするが受け取った以上はやる気なのか真ん中のフリーを空ける。

 

「ご主人様、お嬢様方。今日もやって参りました、ビンゴゲーム大会!」

 

ステージに上がったことりがマイクを持って喋り始める。それだけで周りから歓声が上がるのを見るに、彼女の人気の高さが伺えた。

「初めての方の為に簡単なルール説明をします。これからやるのはビンゴゲーム。見事、ビンゴした方にはご指名されたメイドさんとの10分間の触れ合いタイムが設けられますので、頑張って下さい!」

 

どうやらこの店では特有なイベントらしく、周りの客から熱意が伝わってくる。

 

「どうやらメイドさんも参加するみたいやね」

 

希の言葉に周りを見れば、店員のメイドさん達もビンゴカードを握っている。店員、客関係ない参加らしい。

 

「今回、数字の読み上げは私、ミナリンスキーが担当します。メイドさん達はお給料アップのチャンスなので頑張って下さいね」

 

なるほど、お客さんだけでなく店員も楽しめるのはいい企画だろう。

 

穂乃果も真ん中のフリーを空けて、ゲームが始まる。

 

ことりがどんどん数を読み上げていくにつれて周りのテンションが上がっていく。最初は嫌がっていたカイトも勝負事になるからか熱中していく。

 

タカトラも何だかんだで熱が入っていき、ゲームは誰もが楽しめて大好評だろう。

 

「…………またリーチか」

 

「わぁー、タカトラ先生リーチが一杯だにゃー」

 

凛の言葉に穂乃果はタカトラのビンゴカードを覗いてみると、リーチが3つも空いており、もういつビンゴしても可笑しくない状況であった。

 

「た、タカトラ先生凄い! 私なんてまだ1つなのに………」

 

運が悪いのか穂乃果のビンゴカードは1列しかリーチしておらず、周りを見れば似たよ状況だ。

 

しかし、タカトラは困惑したような表情でビンゴカードを眺めている。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや……仮にも教師がメイド喫茶でメイドさんと触れ合いタイムとはどうなんだと思ってな…………」

 

もしこれがプライベートならまだしも、今現在はユグドラシル社員としての仕事の最中である。

 

さらにこのメイド喫茶には教え子がいる。その目の前で満面の笑みを浮かべてメイドさんと触れ合うのは、タカトラの矜持に反する。

 

しかし、そこで辞退してしまえば「え、じゃあお前何でここにいんの?」という空気になってしまいかねない。

 

「だったら、ことりちゃんとμ'sの曲を歌うというのはどうですか? それなら変に思われないと思いますけど……」

 

「……………致し方ないか」

 

どこか諦めたように息を吐くと、タカトラは穂乃果へとビンゴカードを差し出した。

 

「高坂、悪いが交換してくれ。当たる可能性は低い方がいい」

 

「えっ、いいんですか? せっかくビンゴしそうなのに」

 

「構わん。それにこういう場に俺が似合わないのはわかっている」

 

穂乃果とビンゴカードを交換したタカトラは、コーヒーを一飲みして息をつく。初体験のメイド喫茶では、やはり気疲れしてしまうようである。

 

「というか、タカトラ先生の目的ってそもそも何ですか?」

 

「先程言った通り、錠前ディーラーの摘発だ。この付近で活動しているという情報だからな」

 

錠前ディーラー。非合法なロックシードを売買する闇の商人。彼らが取り扱うロックシードはどれも正規ルートでは手に入りにくい高ランクの物ではあるが、ところどころ不備が報告されている。

 

なので世界的にも錠前ディーラーの取り締まりは強化されているのだ。

 

「お前達もないとは思うか、気を付けろよ?」

 

「はーい」

 

「さてさて、お次のビンゴをまわしますよー」

 

ことりの声で穂乃果は再びビンゴカードに注目する。タカトラの強運によりリーチは3つで、重なった数字ではない。ここまで来れば数撃ちゃ当たる戦法でビンゴするだろう。

 

が。

 

「はい次は…………24番です!」

 

元気なことりの声により、穂乃果とタカトラの表情が固まる。

 

絵里が覗き込んでみると、タカトラが手にしているビンゴカードにあるリーチが、この24番により空いたのだ。

 

「高坂、こっそり戻す………」

 

「あっ、そちらの男性の方ビンゴのようですね。どうぞ、こちらへ!」

 

いつの間にか、近くのテーブルに控えていたメイドさんに促されるタカトラ。助けを求めるかのようにカイトを見やるが、彼はわざとらしく目を逸らして肩を震わせている。

 

穂乃果としても同情の目を向けるしかなく、タカトラは観念したように立ち上がってステージへと歩いて行った。

 

それだけでメイドさん達から黄色い声が漏れ、男性客達から嫉妬の目が向けられる。

 

「タカトラ先生かっこいいもんねぇ」

 

周りの反応を見て、穂乃果は呟く。噂によればモデルからの勧誘も受けたという話しもあり、その容姿は納得のものだ。

 

壇上に上がったタカトラは顔を引き攣らせまいと努めているようで、ぴくぴくと頬を動かしながらことりの横に立つ。

 

「はい、ビンゴおめでとうございます!」

 

「あ、ありがとう……ご、ございます。その、………まさか本当に当たるとは………」

 

緊張ではなくどうこの場を切り抜けたらいいか、という意味で狼狽しているタカトラに対し、ことりは普段と変わらない接し方だ。

 

「東條」

 

「ばっちしやで、カイト」

 

穂乃果が振り向くと、そこには希がカメラを構えており、カイト

悪そうな笑みを浮かべている。

 

いつもはツンケンしているのに、どうしてこういう時だけ協力してくれるのだろう。

 

そして、タカトラは軽く恨めしげにカイトを睨むが、どうにもならないと悟ったのか息を吐く。

 

「では、お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「…………メロンニキで」

 

ぶっ、とコーラを飲んでいた凛が思わず吹き出しそうになって咳き込んだ。おそらく使っているメロンロックシードと呉島兄を足したのだろう。

 

「タカトラ先生、意外とギャグ出来るわね」

 

にこが笑いを堪えながら言う。普段から真面目一辺倒なイメージのタカトラとは違った姿は新鮮に映った。

 

「では、メロンニキさん。希望されるメイドさんはいらっしゃいますか?」

 

「凄いわね、ことり。笑わずに進行してる………」

 

「流石、伝説のメイドさんだね」

 

絵里と花陽の言葉は、わりと本気なのだろうが長年の付き合いである穂乃果と海未にはわかる。笑うまいと耐える為に、ことりが若干早口ななっているという事を。

 

「では、ミナリンスキーさんを」

 

「はい、ご指名ありがとうございます! では、何をしましょうか?」

 

「………μ'sの曲をお一つ、ダンスを如何かな?」

 

ざわり、と周りがざわついた。所々で「μ'sって、音乃木坂学院のスクールアイドルだよな?」「期待の新星だぜ」「動画見たけど、かなりレベル高かったな」などの高評価が聞こえ、8人は思わず頬を緩めた。

 

「μ'sお好きなんですか? 私まなんですー。では、今準備しますね」

 

そう笑顔で答えたことりはビンゴゲームを片付け、カラオケの機材を持ってくる。そして、ミュージックプレーヤーを設置すると、曲が流れ出す。

 

オープンキャンパスでもやった『僕らのLive 君とのLife』である。

 

しかさは、タカトラはことりが差し出したマイクを手で制して断ると、一歩前に出る。

そして、曲調が最初に加速する地点に差し掛かると、動き始めた。

 

それはイケメンだからと黄色い声援を送っていたメイドさん達や、嫉妬の眼差しを向けていた男性客達も、歌ったμ's達も目を奪われてしまう動きだった。

 

曲とはミスマッチなラップ調のダンスなのに、その動きはミスマッチを忘れさせるほどに凄まじく、そして強い輝きを放っている。

 

一瞬、μ'sの曲ではないのではないかと錯覚してしまいそうになるほどに。

 

そこは、まさしくタカトラのオンステージ。

 

ことりも歌ってはいるが、そのダンスに見惚れてしまっているくらいである。

 

「は、ハラショー………」

 

「うん、凄い! 」

 

呆然と呟く絵里に同意するように穂乃果も頷くが、他に言葉が出なかった。

 

そして、あっという間に曲が終わり、店内に賞賛する声と拍手が響きわたった。

 

それによりタカトラははっと我を取り戻したように咳き込むと、ことりに会釈してから席に戻ってくる。

 

「凄いです、タカトラ先生!」

 

戻ってきた教師に、当然のごとく生徒が殺到する。真面目の塊のような教師が素晴らしいダンスを披露したのだら、騒がずにはいられない。

 

タカトラはというと、珍しく苦笑しながら席に着いて脱いだスーツを着直す。

 

「昔齧っていただけだ。素人の域は出はしない」

 

「それにしては凄すぎたにゃー」

 

凛の言う通り、男性のダンサーということもあってか迫力だけならA-RISEを超えているだろう。

 

只者ではない。それが穂乃果が感じた言葉だ。

 

「カイトさんは知ってた?」

 

同郷のカイトに尋ねると、彼は考え事をしているらしく黙っていた。

 

これまた珍しい、と穂乃果が周りと顔を見合わせた時だ。

 

拍手であるはずなのに、賞賛などが一切感じられない歪な音が耳に響いた。

 

「まさか、あの呉島タカトラがダンスが得意でメイド好きだったなんてな。戦極や九紋も知らないんじゃないか?」

 

その声に、タカトラとカイトの目は見開かれ、その場にいた全員の視線が声の主に向けられる。

 

入口に立っているのはハットを被った男だ。年はタカトラと同い年くらいで、黒で統一された服にキャリーバッグを引きずっていた。

「シド!」

 

「沢芽シティから出て、ようやくオサラバ出来たと思ったんだがねぇ………これも宿命とでも言うのかい?」

 

タカトラは声を荒あげると椅子から立ち上がり、テーブルを飛びよけて前に出る。

 

カイトも警戒心を隠そうとせずに立ち上がり、ただならぬ雰囲気に周りの客達もざわつく。

 

「カイト、この人は………」

 

「錠前ディーラーシド。沢芽シティからの腐れ縁だ」

 

にこの問いかけに視線を外さずに答えるカイト。その表情に余裕というものはなく、緊張感ばかりが高まっていく。

 

「貴様か。学生達にロックシードを売り捌いたのは」

 

「さぁてねぇ。顧客なんざ腐るほどいるからな。いちいち覚えちゃいねぇよ」

 

その時、騒ぎを聞きつけた店長が奥から出てくるが、シドの顔を見るなり驚いた顔をした。

 

「あ、貴方は………!」

 

「よぉ、店長。残念だが取引はおしまいだ。ユグドラシルに勘づかれちまったからな」

 

取引。その言葉に思わずことりが声を上げた。

 

「まさか店長さん………ロックシードの売買を!?」

 

「この店のメイド達のプライベートを暴こうとする輩を退けるロックシードも、これでおじゃんだな」

 

まるで嘲笑うかのように言うシドに、店長は絶望したかのように膝をつく。

 

それを見つつ、タカトラは告げた。

 

「どんな理由があろうと、非合法なロックシードを手にするのは違反だ。そこに釈明の余地はない」

 

タカトラは戦極ドライバーを取り出すと腰に装着した。隣ではカイトも戦極ドライバーを装着しており、それぞれが得意とするロックシードを握り締める。

 

「観念しろ、シド!」

 

「お硬いねえわ、相変わらず。もっと気楽に生きようや」

 

シドは懐からパインとイチゴのロックシードを取り出して開錠すると、クラックからセイリュウインベスとコウモリインベスが召喚される。

 

それを見て店内は騒然となり、きゃくたちがわんさかと入口へ殺到する。

 

「カイト、そっち任せたわよ!」

 

絵里はカイトに言い放ち、穂乃果と頷き合い入口へと走る。

 

「押さないで下さい!」

 

「落ち着いて、順番に避難して下さい!」

 

穂乃果と絵里が先導する事により、避難しようと焦っていた客達は少し落ち着いたらしく、順次に避難していく。

 

それを襲おうとしたインベス達は海未と花陽が召喚したインベスにより遮られ、接近を許さない。

 

「…………避難は頼んだぞ」

 

タカトラの言葉に頷き返し 穂乃果達は客達と一緒に避難して行く。

 

ここからは穂乃果達ではなく、アーマードライダーの舞台。

 

これより先、スクールアイドルといえど観客か係員となるしかない。

 

スポットライトは、鎧武者達に向けられたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避難していく教え子達の後ろ姿を見届け、タカトラは苦笑を浮かべる。

 

インベス関連の問題はユグドラシルの、引いてはアーマードライダーの領分だというのに。

 

これまで何度もインベスで怖い目にあっただろうに。それでも仲間の為に戦おうとしてくれる姿勢は、教師などの立場を抜いても喜ばしい物だった。

 

「なかなか使い勝手のいい駒を持っているな。ビートライダーズのお次はスクールアイドルか?」

 

「あいつらを侮辱する事は許さん」

 

カイトが敵意を漲らせ、シドを睨む。

 

タカトラは知っている。九紋カイトとはこういう男だ。認めた相手を侮辱する事は許さない。

 

そして、タカトラ自身も生徒を馬鹿にされて黙っている気など毛頭ない。

 

「観念して貰うぞ、シド」

 

「ったく、お前らとやり合うのは損しか生み出さないからゴメンだったんだけどな」

 

そう言ってシドが懐から取り出したのは、ライダーの印字がされた戦極ドライバーだった。

 

ドライバーを腰に装着したシドは、チェリーロックシードを取り出す。

 

「が、ここでお縄になるのはもっとゴメンだ」

 

シドはそういってらっしゃいチェリーロックシードを開錠した。

 

「変身」

 

 

『チェリー!』

 

 

頭上のクラックが開かれ、かつて沢芽シティで目にしていたアーマーパーツが降りてくる。

 

「それでいい。その方が余計な気を使わずに済む。変身」

 

「覚悟してもらうぞ……変身」

 

 

『バナナ!』

 

『メロン!』

 

 

2人もロックシードを開錠しアーマーパーツを召喚すると、シドと同時に戦極ドライバーのドライブベイにセットする。

 

 

『ロック・オン』

 

 

するとカイトとシドの戦極ドライバーから西洋風の待機音が、タカトラの戦極ドライバーからは和風の待機音が鳴り響き、同時にカッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『カモンッ! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天、下、御、免!!』

 

『カモンッ! チェリーアームズ! ドドンとパフォーマンス!!』

 

 

アーマーパーツが落下し、3人の姿を人から戦士へと変えていく。

 

アーマードライダーバロン。

 

アーマードライダー斬月。

 

そして、アーマードライダーシグルド。

 

チェリーを模したアーマーパーツは展開すると赤い果実部が両肩に展開され、胸部装甲に当たる部分が狩人を連想させるような毛皮で覆われる。

 

そして、両手には赤い球体を先端に付けた棍棒。アームズウェポンである双紅臥だ。

 

それがシドが変身するアーマードライダーである。

 

「久々だねぇ、斬月」

 

「相変わらず狩人みたいなデザインは悪趣味だな」

 

「そう言いなさんな。俺としては気に入ってるんだからよ!」

 

シグルドは双紅臥を振り上げ斬月に迫る。斬月もメロンディフェンダーで防いでから無双セイバーで切り結ぶ。

 

2対の棍に対して斬月は刀と盾で応戦する。その一撃の凄まじさに周りのテーブルなどが粉々に砕けちっていく。

 

バロンはセイリュウインベスとコウモリインベスを

 

「ちぃっ」

 

斬月はシグルドの隙をついて押し込み、壁から店の外へと飛び出た。

 

外ではμ'sの面々が警告してくれたのか、一般人は路上パフォーマンスを観るかのように円を描いて離れていた。

 

おかげで全力、とまではいかなくともそれなりに暴れる事は出来る。

 

観衆の中に見える生徒の顔に、仮面の下で細く笑む。

 

斬月はメロンディフェンダーを前面に出して防御を重視した構えを取る。

 

対して、シグルドは軽快そうに双紅臥を回しており、今にもステップを踏みそうなくらい力を抜いていた。

 

手加減をしてる訳でも遊んでいる訳でもない。それがアーマードライダーシグルドのスタンスである。

 

「変わってないねぇ、その堅物スタイル」

 

「貴様が言うか!」

 

先に仕掛けたのは斬月だ。メロンディフェンダーを構えたまま接近し、所謂シールドバッシュを放つ。

 

シグルドはそれを双紅臥で弾きながら後退する。そこへすかさず無双セイバーを突き出し、もう一方の双紅臥で防がれる。

 

しかし、今度はそこへ蹴りなどの足技も織り交ぜる。

 

刀と盾による剣術を主とする斬月だが、実は足癖が悪かったりする。悪いというのは語弊があるが、足も使えるのだ。

 

しかし、シグルドはすぐに対応し、足技に対して足技で返してくるようになった。

 

そして、無双セイバーと双紅臥が激突し鍔迫り合いとなる。以前の戦いと同じ展開だ。

 

「不意打ちの蹴りも多用したら不意打ちにならねぇっての!」

 

「貴様こそ。その程度の攻撃では俺の防壁は破れんぞ」

 

以前から戦ってきた斬月とシグルドだが、攻防に決着が着いたことは少ない。大抵、アーマードライダー部隊が援軍としてやって来て、シグルドが数に負けて退散するのだ。

 

ずっと同じことの繰り返し。まさしくいたちごっこである。

 

「だったら、こんなのはどうだい!?」

 

シグルドの言葉と共に、途端に双紅臥が紅く発光する。同時に熱を持ったような感覚を覚えた斬月は、驚く間もなく激しい痛みに吹き飛んだ。

 

「ぐっ………!?」

 

その一瞬で斬月は。タカトラは理解した。

 

今のは双紅臥が発熱し、ダメージに至るほどの熱波を放ったのた。

 

「どうだい?」

 

「貴様………ロックシードのリミッターを外すだけでなく改造を!?」

 

シグルドの言葉に、斬月は呻きながら言う。

 

通常、戦極ドライバーのカッティングブレードをスラッシュすることにより、アーマードライダーはロックシードのエネルギーを解放する。

 

その動作もなしにロックシードのエネルギーを解放したという事は、戦極ドライバーを用いてヘルヘイムの果実から変質させたロックシードではなく、人の手が加えられたモノだという事だ。

 

だが、それにはデメリットもある。

 

「暴発するぞ!」

 

そもそも、リミッターといのは解放しておくと危険だから取り付ける言わば安全装置だ。

 

正しい順序を飛び越えて、無理矢理エネルギーを解放していけばロックシードが壊れるのは必然的である。

 

「力にはリスクってのが必要なんだよ。そこを上手くコントロールすればいいだけの話しだ」

 

それがどうした、と言わんばかりにシグルドは笑う。

 

再び双紅臥が紅く輝き出し、斬月は立ち上がって無双セイバーを構える。

 

「っしゃぁっ!」

 

気合いと共にシグルドは斬月へ双紅臥を振り下ろす。

 

斬月は無双セイバーで防ぐも弾かれ、メロンディフェンダーを構える。が、メロンディフェンダーと双紅臥が激突した瞬間、再び熱波が斬月に襲いかかり火花を散らす。

 

均衡は一気に崩れた。シグルドの猛攻はメロンディフェンダーでは防げず、無双セイバーなら弾く事は可能だが2対に対抗するのは難しい。

 

無双セイバーも2刀ならば対抗しようもあるのだが。

 

ロックシードの力を解放する術もあるが、万全ではないこの状況で放っても避けられてしまうだけだ。

 

「余所見してんなよ!」

 

「しまった!?」

 

咄嗟に掲げていたメロンディフェンダーが弾かれ、手から離れていく。

 

守りの要を失った斬月の胸部装甲に双紅臥の連撃が打ち込まれ、その身が激しく吹き飛ぶ。

 

「タカトラ先生!」

 

不安が走ったのかざわつく観衆の中から、ことりが声を上げる。

 

しかし、斬月には返答をする余裕はなく、何とか立ち上がるもシグルドはすでにカッティングブレードを1回スラッシュしていた。

 

 

『カモンッ! チェリー・スカッシュ!!』

 

 

双紅臥にさらなる輝きが増し、やがてエネルギーが棍を巨大化させる。

 

「っらぁ!」

 

「ダメェッ!」

 

双紅臥が斬月に襲いかかろうとした瞬間、ことりが駆け出し前に立って庇おうとする。

 

しかし、その程度で止まるシグルドではない。仮面の下では悪魔のような笑みを浮かべているだろう。

 

斬月はことりの腕を掴んで抱き寄せ、咄嗟にカッティングブレードを3回スラッシュする。

 

 

『ソイヤッ! メロン・スパーキング!!』

 

 

機械音声と共に斬月のメロンアーマーパーツが果実モードへと戻り、振り払われる双紅臥へと突っ込む。

 

アーマーパーツと双紅臥がぶつかり、絶大な防御力を誇っているはずのメロンアーマーパーツに亀裂が入り、瞬く間に砕け散る。

 

「きゃぁっ!?」

 

その衝撃で斬月とことりは吹き飛び、倒れ込んでしまう。

 

ビルからセイリュウインベスとコウモリインベスが吹き飛ぶように吐き出され、それを追撃しようとしていたバロンはシグルドへと構える。

 

「……お次は九紋の小僧がお相手かい?」

 

シグルドの軽口にバロンは答えず、間合いを測るようにバナスピアーを構えて腰を落とす。

 

それを隙だと判断したのか2体のインベス達はバロンへ襲いかかるが、それをバナスピアーで切り払う。

 

しかし、そのせいでバロンは斬月の援護に迎えない。無防備となった斬月に、シグルドば愉快そうに肩を震わせた。

 

「どうやら、今回で俺の勝ち越しのようだな」

 

シグルドは、シドは勝ち誇ったような顔をしていただろう。事実、この状況でどんでん返しなど期待出来ない。アームズを失ったアーマードライダーの防御力など、通常兵器ですら脅威だ。

 

だが。

 

「…………以前、言ったはずだ。シド」

 

呟き、斬月は立ち上がる。その仮面に隠れている眼光は、まったく衰えず。

 

「俺はこれ以上、俺の信念を……言葉を曲げる気はない」

 

「………理由なき悪意には屈しない、だったか」

 

くだらない、とでも言うかのようにシグルドが笑う。だが、斬月は強くロックシードを握り締める。

 

その事に、シグルドの余裕が消える。アーマードライダー斬月はメロンアームズのみを使い、他のアームズは使わないはずだからだ。

 

「お前、そのロックシード………」

 

「あぁ……あまり生徒を巻き込むのは好ましくないが、おかげで助かっ

た」

 

そう言って残念が掲げたロックシードは、ことりが庇った時に渡してくれたものだ。

 

「店長が、これをって」

 

イキな計らいをしてくれる店長に笑い、斬月はロックシードを開錠した。

 

 

『ドリアン!』

 

 

頭上のクラックが開き、刺々しいアーマーパーツが召喚される。

 

「っ、そのアームズは!」

 

それを見たシグルドが明らかに焦りを見せてくる。アームズチェンジを妨害しようとするが、丁度そこへバロンが吹き飛ばしてきたコウモリインベスとぶつかって転倒した。

 

「ぐっ、テメェ………!」

 

怒りでバロンを睨み付けるシグルド。それは確実に隙となった。

 

斬月は破損したメロンロックシードを外し、ドリアンロックシードをドライブベイにセットし、すかさずスラッシュした。

 

 

『ロック・オン。ソイヤッ! ドリアンアームズ! ミスター・デンジャラス!!』

 

 

ドリアンアーマーパーツが斬月へと装着され、刺々しい装甲が展開される。

 

白を基調とする斬月には似合わない濃い緑色のアーマーに、手に握られているなはアームズウェポンでもたる2対の剣、ドリノコである。

 

この軽さの武器なら、双紅臥にも対抗出来る。

 

「ちぃぃ………!」

 

「南、下がっていろ」

 

斬月の言葉にことりは頷いて穂乃果達の元へ駆けていく。

 

それを見届ける暇もなく斬月はシグルドへと間合いを詰め、切り結ぶ。

 

「くっそ………!」

 

「もう諦めろ!」

 

舌打ちをしながらシグルドは応戦していくが、斬月の猛攻に耐え切れずにダメージを受けて行く。

 

シグルドが優勢だったのはロックシードのエネルギーを強引に引き出していたからであって、戦闘力ではない。

 

そのエネルギーも盾で真向から防ぐのではく、弾けば対応も出来る。

 

「ハァッ!」

 

斬月の気合いと共に放たれたドリノコの横なぎにより、シグルドはよろめいて膝を着く。

 

勝利が近付いてきたからか周りから歓声が上がる。

 

しかし、斬月は油断する事なくシグルドから目を離さない。この男は油断してらならない性格をしているのは、昔からわかっている。

 

用心しようと微かに斬月が呼吸した時だ。

 

シグルドが咄嗟に双紅臥を地面に叩きつけると、爆発して煙幕が上がった。

 

「何っ!?」

 

「きゃあっ!!」

 

バロンの所まで煙幕が届いたのか、動揺する声がする。

 

その直後に聞き慣れた少女の悲鳴が聞こえ、斬月はドリノコを払って煙幕をかき消した。

 

すると、そこには逃げ込んだのであろう。シグルドが絵里の首を腕で締めるようにしていた。

 

「エリチッ!!」

 

吹き飛ばされたのか、希が悲痛な声を上げる。

 

「シドッ、貴様ァ!!」

 

「がなるなよ、タカトラ。大人ってのは汚いモンだろうがよ」

 

かつてビートライダーズ達をモルモットとして扱っていた身だからこそ、その言葉には言い返せないし言い返すつもりはない。

 

その事に関しての罪は背負うと決めたのだから。

 

だから、絵里を。生徒を巻き込んだシグルドに激しい怒りを抱かずにはいられなかった。

 

「さぁ、変身を解きな。こんな華奢なガキの首なんざ、ライダーなら簡単にへし折れるぜ。何なら試してやろうか?」

 

「ひっ………………!」

 

普段は毅然とした態度をしている絵里に、さしもの恐怖の色が浮かぶ。その様子に希達から小さく悲鳴が漏れる。

 

絵里を人質に取られてしまっては、斬月は身動き出来ない。

 

しかし、ここで変身を解いたとして、絵里を解放するという確証はない。

 

ユグドラシル社員としては批難されようとも、罪を背負ってでも悪の芽を摘むのが責務だ。

 

しかし、今の斬月は、タカトラは音乃木坂学院の教師だ。そして捕まっているのは音乃木坂学院の生徒。

 

それが決断を躊躇いさせる。

 

「さぁ、早くしろ!」

 

どれを選択しても希望の未来が見えてこない。

 

かつての戦いを沸騰させるこの状況に、斬月は展開しているキャストパットに手を伸ばした。

 

その時。

 

どこからか球体が飛び出し、シグルドの頭に命中した。

 

「あ?」

 

ほんの一瞬、シグルドの注意が逸れる。

 

その瞬間に、人並みから飛び出してきた影があった。

 

「わぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ペコ!?」

 

飛び出した少年を見て、凛が驚きの声を上げる。

 

ペコはそのままシグルドに組み付くと、戦極ドライバーのロックシードを外そうとする。

 

「この、ガキがっ!」

 

しかし、シグルドに振り払われたペコは吹き飛び、絵里も宙へと放り投げられてしまう。

 

「絵里………!」

 

吹き飛んだペコは斬月が受け止め、宙に放り出された絵里は飛び上がったバロンが受け止めた。

 

「絵里、1回スラッシュしろ!」

 

バロンの言葉に瞳を震わせていた絵里は、はっとなって頷く。バロンの戦極ドライバーへ手を伸ばし、カッティングブレードを1回スラッシュした。

 

 

『カモンッ! バナナ・スカッシュ!!』

 

ロックシードからエネルギーが解放され、バナスピアーへと集束していく。

 

絵里を強く抱きしめ、シグルドの目前へと降り立ったバロンはバナスピアーを突き出す。

 

「ハァッ!」

 

「ちぃっ!」

 

突き出された槍をシグルドは辛うじて避けようとするが、エネルギーの余波が身体を襲い、火花を散らす。

 

「がぁぁっ!」

 

シグルドは地面を無様に転がり、悔しげにバロンを睨み付ける。

 

「九紋カイトォ……!」

 

呪詛のように吐き出し、殺気を放つシグルド。それを正面から受けなから絵里が小さく声を漏らす。

 

しかし。

 

「なっ………!?」

 

突然、シグルドの戦極ドライバーに装着されているロックシードが火花を散らして砕け散った。

 

変身が解け、シドは驚愕のあまり目を見開く。

 

「ロックシードの限界が来たらしいな」

 

元々、無茶な改造をしていたのだろう。ロックシードの研究をしているユグドラシルの人間としては、よく持った方だと思った。

 

斬月はシドに向けてドリノコを突きつける。

 

「観念しろ。もうお前に手立てはない 」

 

斬月の言葉に、シドは苦虫を潰したような顔をする。

 

これで錠前ディーラーを確保して終わる。誰もがそう思って安堵した時だ。

 

「いえ、ここでシドを失う訳なはいかないんですよ」

 

 

『ブルーベリー・オーレ!!』

 

 

ギター音と共に認証音が響き、彼方から回転してくる物体があった。それは斬月を斬り付け、さらには絵里といるバロンへと突撃する。

 

「くっ……!」

 

「カイトッ!?」

 

バロンは絵里の前に手を広げて庇うように立ち、物体を受け止める。

 

「ぐっ、がぁぁっ!」

 

耐えきれなくなりバロンは吹き飛び、変身が解ける。

 

「カイト!」

 

倒れ込んだカイトに絵里、希、にこが駆け寄る。

 

飛来していた物体は弧を描くようにしてメイド喫茶のビルを上がっていく。

 

その屋上には、死神がいた。

 

全身を黒いローブのようなモノで隠しており、その顔すらもフードにより隠れている。

 

しかし、斬月の視力によってそのフードの中に複眼が見えた。さらに飛来していた物体、紫の大鎌を掴んだ腕には装甲がある。

 

「アーマードライダー………!」

 

未確認のアーマードライダー。それも黒影部隊のような量産型ではなく、斬月達同様のオンリーワンタイプだ。

 

量産型ではなくオンリーワンタイプはその性能にも違いがある。それは今の攻撃を見ても一目瞭然だ。

 

「シャドウ…………!」

 

アーマードライダーを見てシドがその名を呟く。

 

アーマードライダーシャドウはビルから飛び降りると、シドの前に降り立った。

 

「引きますよ、シド」

 

「……………ちっ」

 

シドは反論する事なく立ち上がり、ハットを被り直す。

 

「逃がすと思うか?」

 

斬月が戦闘態勢に入ると、シャドウは嘲笑うように大鎌を地面に突き立てる。

 

「見逃して差し上げる、と言っているのです。この状況で貴方方に勝機があるとでも?」

 

バロンは戦闘不能であり、斬月も万全とは言いがたい状態である。これ以上の戦闘続行は不可能と言えるだろう。

 

無論、斬月とてそれはわかっている。しかし、だからと言ってただ見逃してやると言っている相手に素直に従うほど、可愛い性格はしていない。

 

「では、ご機嫌よう」

 

「待てっ!」

 

 

『ソイヤッ! ドリアン・スカッシュ!!』

 

 

カッティングブレードをスラッシュしエネルギーを解放。ドリアンを投擲するが命中するより先にシャドウとシドの姿が掻き消え、ドリアンは地面に突き刺さるだけだった。

 

敵意が完全に遠ざかり、危機は去った。

 

それを確認した斬月はキャストパットを閉じて変身を解く。

 

結果としてロックシード売買の1つを潰す事は出来たが、それも氷山の一角でしかない。大元であるシドを捕らえる事も出来ずに終わり、ユグドラシルとして考えれば失敗。始末書物である。

 

何とも歯痒い結果になってしまった事に、タカトラは虚空を見つめる。

 

「………………次こそは」

 

新たな誓いを立てて、色を失ったメロンロックシードを握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大したことないっすよ、こんな可擦り傷」

 

秋葉原にあるユグドラシル支部にて、シグルドへ組み付いたペコは腕に負った傷を見せながら笑う。

 

戦闘終了後、カイト達はユグドラシル支部にて怪我の治療に訪れていた。本来ならば病院に行くべきであるのだが、それほど大怪我を負った者はおらず、カイトも比較的軽傷だったので真姫の提案を断ったのだ。

 

「で、でも………」

 

それでもやはり心配なのか、花陽が渋るように言う。

 

「大丈夫だって。死ぬこと以外は可擦り傷だって、テレビの女の子も言ってたし!」

 

「いやいやいや、骨折とかしたら可擦り傷って言わないからね?」

 

「せやけど、おかげでエリチを助けられたのはペコ君のおかげやからね。ありがとな」

 

凛のツッコミをよそにペコの頭を撫でる希。

 

ほんわかした美少女からの頭撫で撫で撫でというご褒美にペコの顔はだらしなく破顔する。

 

そして、その助けられた絵里はというと。

 

「ひっく…………ひっく……………」

 

カイトの左腕に顔を埋めて、泣きじゃくっていた。

 

先ほどの戦闘で、今まで以上に死を直接感じてしまった上に、人質になったせいで形勢が危ぶまれたのだ。

 

ペコのおかげで何とか無事に切り抜けられたとはいえ、足手まといになってしまった事実に変わりはない。

 

その事が絵里には強く現実を突きつけたらしい。

 

「ごめん、私のせいで……………」

 

「この程度、怪我の内に入らん………と、言った所で納得しないだろうな」

 

少し痺れてきた左腕を思いながら、カイトは言う。

 

「絵里はあの時、シドに命乞いをせずに耐えた。それは恐怖に屈しなかった」

 

空いている反対側の手で、あやすように絵里の頭を撫でた。

 

「絵里、お前は強い。だから、もう泣くのを辞めろ。アイドルは泣く事より笑うのが仕事だろう」

 

絵里はその言葉に顔を埋めたまま頷き、顔を上げる。そして、目元の涙を拭うと笑ってみせた。

 

それはとても魅力的な笑顔で、言ったカイトが一瞬息を飲むほどであった。

 

そして、それと同時に突き刺さる目線。

 

振り向くと、ニヤニヤした希、にこ、凛。そして尊敬の眼差しで見てくるペコ。

 

「やっぱりカイトさんかっけぇ………!」

 

「ついにデレたわね。アンタ」

 

ペコとにこに言われたカイトははっとり、絵里の腕を払おうとする。

 

しかし、絵里も弄る場面だとわかっているのか、先程まで泣きじゃくっていた癖に手を放そうとしない。

 

「その様子なら問題なさそうだな」

 

その時、医務室に入ってきたタカトラがその光景を見て苦笑する。その後ろには制服に着替えたことりもいて、カイトを見るなり意外そうに目を丸くした。

 

「あっ、ことりちゃん。どうだった?」

 

「うん、オーナーさんから許可貰ったよ!」

 

穂乃果の言葉にことりが答える。

 

何の事だ、とカイトが疑問を浮かべると希が補足する。

 

「今度のライブな、あのメイド喫茶の下でやろうって話しになっんや」

 

「今回の件でメイド喫茶は閉店だって言うから。今まで色んな事を教えてくれたあのお店に、少しでもお礼がしたいんです」

 

強く言うことり。その眼差しはどこか憂いを帯びており、今までお世話になった場所への恩返しがしたい。そんな思いが見て取れた。

 

「…………そうか」

 

カイトはふと、口元を緩めた。

 

「ライブ、楽しみにしている」

 

そう言うと、一同に花が咲いたかのごとく笑顔になる。

 

その笑顔にカイトは心で呟く。

 

やってみせろ。お前達はその道を歩くだけの足があり、決意がある。

 

それは誰にも止められない強さだ。

 

決して折られる事のない刃金だ。

 

それを理不尽で折ろうとする輩がいるなら、お前達の為に薙ぎ払おう。

 

敵意という壁が立ち塞がるのなら、その壁を貫き壊そう。

 

例え他者の古傷を抉る事になろうとも、この9人の女神が頂へと向かう事が出来るのなら、喜んで憎しみを受けて見せる。

 

それが九紋カイトという孤独の皇様に居場所を与えてくれた、出来る返礼だ。

 

そうカイトは、いつの間にか優しく微笑んでいるタカトラを見て決意するのだった。

 

 

 

 

 

呉島タカトラが所有するロックシード

 

 

・メロン

・ドリアン

・ヒマワリ

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

 

「どういう事よ、にこ!?」

 

再び暗雲が立ち込めるμ's。彼女達が安心してラブライブ!を目指せる日は来るのだろうか。

 

 

 

「………………もしかして、タカトラ先生?」

 

意外な所で明らかになるタカトラの過去。

 

 

 

「そのうち、大きなミスをするぞ」

 

「重々、わかっているさ」

 

今の現状に悩むタカトラ。

 

 

 

「ロックシード。入用なら都合してやるぜ?」

 

コウタ達の前に現れたのは…………

 

 

 

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

 

15話 マイザーズドリーム ~やりたい事と現実の間で~

 

 

 

 

 

 




まさかの26000文字数オーバー。区切って3話構成にしてもよかったんですが、キリのいいところが見つからず。

ここまで読んで下さってありがとうございます。グラニです。

熱燗や白菜が美味い季節からくしゃみや涙が止まらない季節……もう春ですねぇ。

花粉症な自分は部屋にいても職場にいてもくしゃみが止まらず………目薬も刺せないので涙ガー


さて、そんなこんなでやっとメイド会終了。

カイトを鎧武サイドのメインにするはすがメロンニキ活躍。ま、まぁあまり出番なかったから仕方ないね。

そしてまさかの斬月ドリアンアームズ。あまり似合わなそうだけど状況的に打開するならドリノコかと。

あ、メロンロックシードは予備があります。始末書ものですが。

そして出てきました、シドさん。テレビでは見事な噛ませでしたが、ここではどうなるやら………?

次回はまたまたオリジナル展開。実は前々から個人的に気になっていたことを補足してみました。タカトラ兄さんの過去じゃないよ!


それと平均評価で高い評価を付けてくださった方々、本当にありがとうございます。

平均評価の所が赤くなったところを見たのが職場のトイレだったのですが、興奮してしまいましたwww

決して高くなくても評価をしてくださると励みになります。

これからも評価、感想お待ちしてますので気軽に書き込んで下さい!

では次回もよろしくお願いします!



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