目の前で消し去られそうな光があるのなら、
この手で守りたい。
何故なら、
目の前で手を伸ばさなければ、何も始まらないからだ。
『横浜市の山中で奥地で皮膚や骨など剥き出しになった惨殺死体が発見。付近にあったバックに入っていた免許証から30代の工場勤務の男性と判明。また、ヘルヘイムの果実と開錠されたロックシードが落ちてあった為にインベス関連の事件と認定。警察はユグドラシル支部の』
「あっっつぅ!?」
揺れる車内で啼臥アキトは携帯を使い、適当なニュースサイトの見出しを流し読みしながら缶コーヒーを啜っていた時、カーブに差し掛かったのか車体が大きく揺れ、缶コーヒーから零れた液体がタイパンツを濡らした。
「何やってるのよ」
「だ、大丈夫?」
右隣に座っている西木野真姫からは呆れた目を向けられ、左隣の小泉花陽が慌ててハンカチを取り出して拭き取ろうとしてくれる。
それを見てぷくくく、と小馬鹿にしたような笑いを浮かべるのは星空凛だ。
「かっこつけてコーヒーなんか飲むからだにゃ」
「うっさいわ! つーか、俺は別に別荘で寝てても良かったのにお前が無理やり連行したんだろうが!」
前の座席から覗き込んでくる幼馴染に反論して、アキトは息をついて今度は零さないように缶コーヒーを一気に飲み干す。
アキトはあまり眠気覚ましのコーヒーなどは飲まない。というか、翌日に響く前に寝るようにしている。ラーメン仁朗では正社員は父とアキトの2人のみなのだから、何かあれば対応しなくてはならないのだ。
アキトが寝不足に陥っている理由。それはもちろん、前日に襲撃してきた輩のせいであった。
撃退した後。凛を貸別荘に寝かしたのはいいのだが、服を捕まれ離そうとしても離してくれず悪戦苦闘し、やっとの事で離したはいいが疲労困憊で倒れ込み、アキトが就寝したのは起きる予定の4時間前だ。
高校生くらいの年頃で睡眠4時間であーだこーだと文句を言うのは情けない、と思うかもしれないが何だかんだでアキトの生活時間は規則正しい。というよりも朝が遅いので夜更かしをしてもゆっくりと寝れる時間をキープできるのである。
今日も前もってタカトラから2日目は自由にしていていい、と許可を貰っていたのでゆっくりしようかと考えていた矢先に凛特有の強制連行だ。
すでに太陽が天高く上った昼過ぎとはいえ、午前中は午前中でやる事(具体的に言えば昨日の輩の痕跡消去諸々)をしていたアキトは疲労困憊であった。
「凛。だから寝かせてあげましょう、って言ったのですよ?」
困った顔をして凛を宥めるのは園田海未。その姿はまるでお姉さんのようで、アキトを気遣うように尋ねてきた。
「大丈夫ですか? もし辛かったら寝ていても…………」
「あーいや、今の熱さで目は覚めたっす。気にしないでください」
真面目な海未に言われ、アキトは困ったように頬をかく。これくらいの小言の応酬は昨日の身体的特徴を蔑んだのと同じように幼馴染ならではのやりとりだ。
しかし、そこに昨日までの”何か”はない。
アキトが望んで、刈り取ってしまったからだ。
「………………で、これから行くユグドラシルイーヴィングル支社でCM撮影をするんですよね?」
話題を変えようとアキトが花陽を見やると、うんと頷いてくれる。
「と言っても、取りあえずは打ち合わせ。曲は用意してあるから、それをどう演出したりするかってのを話し合うんだって」
「……………ますます俺の必要性がどこにも感じられない」
はぁ、と疲れたように息を吐いて座席シートにもたれかかる。
2日目の日程は午前中、μ’sの練習。その間にアキトはバス内で食べれるように簡単なサンドイッチを作り、それも先ほど食べてしまった。
今いるバスはユグドラシルの迎えの社員さんが運転しており、タカトラは再び支社へ朝早くに行ってしまったのだ。何か問題が起こったのかは話してくれなかったが、μ’sが来る頃までには片付けておくと言っていたので後々で合流するのだろう。
アネモネと瀬賀長信はμ’sの練習を見学した後、貸別荘を後にした。昼食もぜひに、と呉島ミツザネの申し出を「私達にも予定があるのでね。久々に懐かしい顔を見れてよかったよ」と言われてしまい、無理に引き留める訳にもいかなかったのだ。せっかく余分に作ったサンドイッチは簡単なラップと袋で渡したので胃袋には入っているだろうが、アネモネの反応が見れないのは聊か残念である。
そんなこんなでμ’s9人とアキトを乗せたバスは貸別荘に揺られて、ユグドラシル支社へと向かっている訳だ。
ちなみに、店員オーバーの為にそれぞれバイクで追従する嵌ハメになった葛葉コウタ、九紋カイト、ミツザネの3人はというと。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
それぞれ頬に赤い紅葉を作って、むくれ顔で黙ってバスの後ろを走っていた。
起きた時、コウタはまず高坂穂乃果に抱き付かれているところを海未に発見されて「破廉恥です!」と頬をビンタ(いやだったら一緒に寝るなよ)。カイトはそのビンタの音で目覚めて起きようとしたら変な体勢で寝ていたが為に足がしびれ、ソファーから落下するようになって絢瀬絵里の胸に顔を埋めてしまいビンタ(ミツザネ曰く2回目)。そしてミツザネはというとこれはまたいつの間にすぐ隣まで移動していた真姫の胸を鷲掴んでいた為、起きたツンデレ嬢にビンタ(言っておくがミツザネの手を胸へ持っていったのは真姫)。
というギャグマンガよろしくのコントを繰り広げた結果である。飲酒もさせてもらえず騒ぐことも出来ずに、さらに理不尽な理由で叩かれた3人のライダーが不機嫌になってしまうのも無理はなかった。
それでもついて来るという事は、よほど新型のロックビークルが気になるのだろう。もしかしたら、いずれ自分達も世話になるかもしれない物である。かく言うアキトも楽しみにしていたりするのだ。
バスが走る景色はいつの間にか海辺から山道となり、木々が窓一杯に広がっている。常夏島特有の日差しが差し掛かっている為、外はかなりの気温だろう。バスの中は冷房が効いているのでマシだが、外の3人を考えると笑い事では済まされない。
しかし、それでも外の景色は普段と変わらぬ平和そのもので、どこぞの世界のようなどんよりも怪物たちによる襲撃もない
サガラが言っていた危機はひとまず去った、と見ていいだろう。確かにあの輩達はこの世界の住人達で対処するのは難しい。
しかし、解せない事もある。この世界は他の世界とはかなり特殊な仕様の世界で、足を踏み入れられるとしたらかの破壊者くらいだ。破壊者の力も元を辿れば同じ組織から得たものではあるが、あそこまで昇華させたのはほかならぬ彼自身のもの。
そも、悪の侵入を世界が許容するはずもない。それを弾き返せるだけの力はこの世界は持っており、まず組織が介入する事は絶対にありえない事だった。
だが、現に奴は存在して昨日戦った。それも2体の異なる怪人と共に。
「………………あるいは」
小さく、誰にも聞かれない程度の声で言葉を漏らす。
世界が、ソレを望んだか。
嫌な予感が景色と共に過ぎ去り、アキトは苛立ち気に握っていた缶コーヒーを握り潰した。
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山道を下ると一瞬にして景色は人々で賑わう繁華街へと変わっており、その活気あふれる街並みはバスに乗る少女達に感嘆の声を漏らさせるには十分なものだった。
全世界を股にかける日本企業のユグドラシルが管理する人工島といえど、この島を利用する客の国籍のほとんどが外国人だ。故に日本よりも海外の街並みに近付けた造りになっており、1つ1つの建物に有名な建築家による技巧が施されているらしい。
「あっ、見て見て! あの建物の屋根可愛い!」
「ホントだ! わっ、大道芸人さんもいる!」
練習疲れで眠っていた穂乃果と可愛いものに目がない南ことりも起きてきゃっきゃと騒いでおり、その後ろの席ではどこかスピリリュアルパワースポットはないかと数珠を片手に探している東條希。その横ではおそらく美容系な店はないかと見ている矢澤にこ。
「これからCM撮影っていうアイドルらしい仕事をするってのに、まったくその気が感じられないんですが」
「いいんじゃないかしら。私達も高校生だし、こっちが素の顔だもの」
アキトの呟きに苦笑しながら絵里が答え、後ろの窓を見る。走っている間ずっと、絵里は後ろで追従している3人をチラチラと気にかけては、時折「大丈夫かしら…………」と小声を漏らしていた。
よほど心配症なのだろう、とアキトは苦笑してトイカメラを構える。せっかくの街並みなので風景に写真に収めておきたいものだ。
「穂乃果さん、ことりさん」
丁度、アキトから見て穂乃果とことりが絶好のシャッターチャンスの位置にいたので、赤信号でバスが止まっている今のうちに立ち上がって声を掛ける。トイカメラを掲げると意図を察してくれたのか、2人は笑顔を浮かべて立ち上がりそれぞれポーズをとる。
よし、とトイカメラ構えてファインダーに2人と外の建物を入れる。
そして、シャッターを切る。
同時に、少し遠くの方で黒煙が上がり、同時に爆発音が響いた。ファインダーで入れていた建物から黒煙が上がり、驚いてアキトは顔を上げる。
「えっ…………!?」
穂乃果達も驚き、街並みを見ていた全員が黒煙の上がった方へ眼を向ける。
「何が…………!?」
「はい、はい………インベスが暴れている!? 馬鹿な!?」
バスの運転手が支社の人間と携帯電話でやりとりをしていると、そんな声が聞こえてくる。しかし、その報告を聞いた運転手はただらなぬ焦りをして、μ’s達の視線に気付いて「失礼します」と小言を口にしてから会話を聞かれないようにする為バスを降りた。
「…………インベスの暴走って、そんなに大事なのかな?」
「……………ここが人工島、イーヴィングルじゃなければね」
首を傾げる穂乃果に、真姫は腕を組んで告げた。その言葉にμ’sの大半が頭にハテナマークを浮かべて首を傾げた。
「どういう事よ?」
「この島が半分はリゾート施設。もう半分がユグドラシルの研究施設だ、って事は知ってるわね?」
代表としてにこが投げた質問に、真姫は確認するように呟く。その確認については穂乃果と凛以外はうんと頷く。合宿ではせっかくのリゾート地を観光する為の自由時間も設けており、そこでは万が一ないと思うが研究施設の近くには近寄らないように、と顧問でありユグドラシル主任の呉島タカトラから釘を刺されているのだ。
「タカトラ先生は、そこでインベスによる業務代行の研究をしてるって言ってたわ」
「業務代行………つまり、人間の仕事をインベスが出来るか、という事ね」
絵里の言葉に真姫は頷く。これはイーヴィングル運営しているチームのホームページやパンフレットにも載っている情報で、その気になれば誰でも手に入れられる事が出来るものだ。
「だから、この島にはインベスが多いんやね。昨日のスーパーもインベスがレジ打ちしてたし」
真姫の言葉に納得が言ったのか、希が漏らす。昨日寄った全てのスーパーにインベスが必ず仕事をしていた。ある個体はレジ打ち。ある個体は品出し。ある個体は商品を見せられればそのコーナーに案内する接客係。
それらはインベスが人類に貢献出来る新たな可能性を見出す為の実験だったのだろう。
この島において、インベスとは秋葉原などの一般的な地域のようなお手伝い妖精のような意味合いではなく、立派な働き手。つまり社員だ。
だとしたら。
その社員が暴走し、暴動を働いている。
それはつまり実験の失敗。言い方を変えればインベスの反逆になってしまうのではないか。
「それって…………!」
ようやく事態の把握に頭が追いついたらしく、海未が悲鳴に近い声を上げる。
「えぇ。暴走の原因はどうあれ、きっとユグドラシルは暴走の危険性がないと確信していたからこそ、島中にインベス達を放っていた。けど、もしそこにインベスの暴走の一欠けらでも可能性が出てきてしまったら」
「ユグドラシルの信用が下がる。ううん、もっと現実的に言えば、最悪な話し一斉にインベス達が暴走するかもしれない…………!」
それは仲間だと思っていた部下達が一斉に敵に変わる事。謀反を思わせるような悪夢だった。
絵里の言葉に流石におバカ3人衆も気付いたのか、顔を青くして慌てる。
真姫にほとんど喋ってもらったが、アキトは目を細める。もし暴走の事実が本当ならば、あのバスの運転手の慌てようも納得がいった。
その時、バスの窓がコンコンと叩かれアキトが目を向ける。そこにはミツザネのバディインベスであるドラゴンインベスが窓の淵に足を置いて叩いており、アキトを注意を引こうとしていたらしい。ドラゴンインベスはそのまま下へと落ちていきクラックが消え、アキトが窓を開けるとバイクで追従していたミツザネ達がヘルメットのバイザーを上げて見上げてきた。
「何かあったの?」
周りはそれなりに高い建物が多く、アキト達の乗っているのは観光バスの為、それなりに高さがあるので見えるがバイクでは少し離れた場所で上がっている黒煙が見えないのかもしれない。
「遠くでインベスが暴れているらしい」
「何だって!?」
その言葉を聞いたコウタとカイトがバイクを走らせようとした時、目の前の交差点で高級そうな外車が吹き飛ぶ。
目を前に向ければ逃げ惑う人々を飲み込むように巻き上がった砂塵。その中から秋葉原で見慣れた影が出てきて、咆哮と共に砂塵が吹き飛ぶと現れたのは6体の初級インベスに3体の上級インベス。コウモリ、シカ、ビャッコのいつものずっこけ3人組であった。
敵の姿を目視した途端、カイトが真っ先にバイクを走らせ、続けてコウタも走り出した。
「アキト、みんなをバスから降ろして離れて!」
「わかった!」
言葉を投げてからミツザネもバイクを走らせ、同時にアキトは車内のμ’s達に呼びかけた。
「みんな、バスから降りましょう!」
「う、うん!」
アキトの言葉に頷いて順次、一同が降りていく。もちろん、この騒動を狙って盗人が来ないとも限らないので忘れ物をしていないか絵里と協力して速攻で見回る。元々、荷物など携帯と財布くらいで残りはコウタとカイトのバディインベスが在住している貸別荘だ。今日は打ち合わせで、衣装もユグドラシル側が用意する手筈だったのでほとんどなかったのが幸いした。
アキトと絵里がバスを降りると、その前の方でμ’sの8人がインベス達と対峙している3人のライダーを見守っているのが見えた。逃げろ、と言った所で3人が戦ってくれるのなら自分達は出来る事をしようと決意した9人だ。例え危機的な状況でも梃でも動かないだろう。
「「「変身!」」」
『オレンジ!』
『バナナ!』
『ブドウ!』
腰に戦極ドライバーを装着し並んだ3人は掛け声とともに、それぞれのロックシードを開錠してドライブベイにセットし、スライドシャックルを押し込む。
『『『ロックオン』』』
それぞれの戦極ドライバーから音声と共に和洋中の待機音が入り混じり、喧しいくらいの鼓舞が響く。頭上にクラックが開いてアーマーパーツが出現。
そして、カッティングブレードをスラッシュしたのと同時に走り出した。
『ソイヤッ! オレンジアームズ! 花道オンステージ!!』
『カモンッ! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』
『ハイィーッ! ブドウアームズ! 龍砲、ハッ、ハッ、ハァッ!!』
それぞれがアーマードライダー鎧武、バロン、龍玄へと変身を遂げた3人にインベス達が威嚇の声を上げながら迎え撃とうと肉薄した。
先行したのは鎧武で大橙丸でインベスを斬り付け、インベス達の意識を避難している人達から逸らすように立ち回る。
それを見て他のインベス達が鎧武から離れ人々を襲おうと身体を向けるが、その先に先きまわりしていたバロンがバナスピアーを構えて飛び掛かり、後ろから龍玄がブドウ龍砲で援護射撃を行う。
「はぁっ!」
合いと共にバナスピアーを突き出し、インベスがのけぞった瞬間に周囲へ薙ぎ払うように振るってバロンは周囲にダメージを与えていく。まるでその動きの隙間を狙ったかのように龍玄の放ったエネルギー弾が通り過ぎていく。
まさしく阿吽の呼吸とも言えるような動きで互いの動きをカバーしていき、それに感化されたのか鎧武も無双セイバーを抜刀して斬って撃つ。
神田でもそうだったようにこの3人の強さは無敵と言っていいほどのもので、逃げ惑っていた観光客達も見世物を観るかのように歓声を上げた。
アーマードライダー達の猛攻により初級インベス達はボロボロであり、それを見た3人は声を賭けずにそれぞれがカッティングブレードをスラッシュした。
『ソイヤッ! オレンジ・スカッシュ!!』
『カモンッ! バナナ・スカッシュ!!』
『ハイィーッ ! ブドウ・スカッシュ!!』
ロックシードから解放されたエネルギーが雄叫びを上げながら燃え上がる。それらは各々の意思に従って剣や槍、銃へと注ぎ込まれていき、敵を倒す為の牙を研ぎ澄ましていく。
「行くぜ!」
鎧武の掛け声から始まった猛攻は飛び掛かって大橙丸を縦に両断し、バロンはバナスピアーを薙ぎ払う。龍玄はインベスに向かってエネルギー弾を速射し、その攻撃を受けたインベス達は爆散した。
暴走したインベスが倒された事により、周りからの歓声がより一層強いものとなる。しかし、アーマードライダー達は敵意を収めることなく次の敵へと向き直り武器を構え直した。
初級インベス達を従えるようにしていた上級インベス達。普段からよく戦っているインベスだが、鎧武達の放つ闘気は普段よりも強まっているような気がした。
「……………?」
戦いにおいて油断した者から狩られる、というのはアキトも身に染みている言葉だが、それにしても鎧武達の強さを比較してみれば対峙しているインベス達は例えるならばスライム相当である。
実際、神田でも同じ3体と戦った所を見た事があるが、まるで蟻をあしらうかのように蹴散らしており、思わず自分との強さの差に膝をついているのを覚えていた。
なのに、まるで強敵と遭遇したかのように鎧武達は警戒している。その証拠にさっさと攻撃して倒せばいいものを相手の行動を伺うように間合いを測っているみたいだ。
「……………」
「海未ちゃん、どうしたの?」
ふと、アキトと同様に背後で戦いの成り行きを見守っていたことりが親友に呼びかける。振り向くとどこか脅えたような表情をした海未が、胸の前で祈るように手を組んでいた。
「大丈夫!? 顔、青いよ!?」
「だ、大丈夫です。ただ…………」
心配してくる穂乃果に笑いかけてから、海未はインベス達を見やる。
「あのインベスが放つ気配というか、プレッシャーというか…………どこかで感じた事が………」
海未の言葉は最後まで続かず、戦闘音で遮られた。
「なん………だと…………?」
アキトが振り返って目の前に広がっていた光景。
それは、インベスに吹き飛ばされる鎧武達だった。
ビャッコインベスの爪に殴られ鎧武が火花を散らしながら転がり、シカインベスの角とバロンのバナスピアーが激突し、空を飛び回るコウモリインベスへ龍玄もブドウ龍砲の弾幕を張るも命中していない。
「くそっ、やっぱこいつら………!」
立ち上がりながら毒づくと、鎧武は大橙丸と無双セイバーを連結させてナギナタモードに変化させてビャッコインベスの爪と切り結んだ。
無双セイバーナギナタモードは鎧武の兵装の中では最大の威力を秘めている武器で、何度もビャッコインベスを圧倒した刃のはずだった。しかし、アキトの目の前ではビャッコインベスの爪に無双セイバーは小回りが利かずに胸部装甲から火花を散らす鎧武。
少し離れたショップウィンドウの前ではバロンとシカインベスが肉薄している。が、バロンの巧みな攻撃をシカインベスが華麗に避けて防ぎ、受け流すという展開が続いているようだ。バロンの苛立ちが攻撃に現れて、だんだんと荒々しくなっていくのがわかる。
そして、龍玄はいつの間にか戦場を屋根の上へと移しているが、対空件を取られたままのようだ。飛来するコウモリインベスの攻撃を避けながらブドウ龍砲で反撃するも、有効打には至っていなかった。
あの鎧武達が苦戦している。その事が9人の女神を不安にさせ、アキトは咄嗟に持ってきた戦極ドライバーに手を伸ばす。
「っ、ダメだ!」
その仕草が見えたのか、龍玄が叫んで制止してくる。その隙を狙ったコウモリインベスに弾き飛ばされ屋根から
転び落ちるが、倒れ伏せながら叫び続けた。
「君が変身した所で、手に負える相手じゃない!」
「そうだぜ! 心配しなくても、こんな奴らすぐに………うわっ!」
安心させようと鎧武も止めてくれるが、後ろからビャッコインベスに攻撃されてのけぞる。
その様子を見て、アキトは笑ってみせる。
強がりを言い放つ友達を助ける為に。
「仮にそうだとしても、ユグドラシル部隊が来るまでの時間稼ぎくらいは出来るだろ」
「アキト君がアーマードライダーに!?」
そう告げてアキトが戦極ドライバーを取り出すと、希と真姫以外から驚きの声が上がる。2人は昨日の買い出しの際にミツザネから戦極ドライバーを受け取る場面に立ち会ったのだから衝撃は少ないようだが、それでもいい顔はしていない。
しかし、ここで1つの問題が生じた。
それは昨日の騒動で愛用していたバナナロックシードは壊れてしまい、今アキトが持っているロックシードはオーズロックシードのみという事である。
オーズのロックシードもゲネシスドライバー同様、この世界にはない物である。つまり、それで変身する事はデュークに変身する事と同じ意味を持つのだ。
(い、意味ねぇぇぇぇぇっ!?)
心の底で絶叫し、戦極ドライバーを取り出した所で固まってしまうアキト。
その時、アキトの背後で新たなクラックが開き、初級インベスが新たに3体追加された。
「っ、おかわりかよ………!」
「アキト、変身するの!?」
戦極ドライバーをひとまず腰に装着したアキトに、期待やわくわくが入り混じった凛の超えが飛ぶ。そこに昨日までの不安や心配といった色はまったくなく、自分の選んだ行動に付き纏う後悔を振り払うように言った。
「したいのは山々なんだが………昨日、酔って海にバナナロックシードを落としたらしくてな……」
「やっぱり飲んでたんですか!」
「せっかくカッコつけたのにだいなしじゃない………」
海未の喝とにこの呆れ声を聞いたのか、ビャッコインベスを蹴り飛ばした鎧武がパインロックシードを開錠した。
『パイン!』
「アキト、使え!」
そして、戦極ドライバーに嵌めてあるオレンジロックシードを外すと、それをアキトに向かって投げた。
オレンジロックシードを受け取ったアキトは初級インベス達と向き直り、開錠する。
「変身!」
『オレンジ!』
頭上にクラックが出現し、オレンジロックシードを戦極ドライバーにはめ込みスライドシャックルを押し込み、鎧武と同時にカッティングブレードをスラッシュした。
『ロックオン。ソイヤッ! パインアームズ! 粉砕デストロイ!!』
『ロックオン。オレンジアームズ! !花道オンステージ!』
鎧武パインアームズと黒影オレンジアームズ。
それぞれの姿となったアーマードライダー達は開戦する。
召喚したパインアイアンを振り回して遠心力を付けてからビャッコインベスの横っ面にぶつけた。
優勢だったビャッコインベスもその威力には耐えられなかったのか吹き飛び、路上で営業していた手押し車を押しつぶして倒れる。
「っしゃぁっ!」
有効打が入った事に戻ってきたパインアイアンをキャッチしてガッツポーズをする鎧武。
さらにパインアイアンを振り回して、ビャッコインベスを攻撃するついでに街灯などを破壊してしまっている。被害総額は少なくともコウタのバイトの給料では到底支払えるようなものではないだろうが、それを気にしていられないほどこのビャッコインベスは強敵だ。
黒影は大橙丸を握り締めて、ジリジリと近付いて来る初級インベス達を見やる。
「っし…………俺だって、初級くらい!」
キィ、と奇声を上げる初級インベスに、ソニックアローを構えるように大橙丸を構える。
相手は初級インベスだ。昨日のような異世界から来訪者でも、鎧武達を苦しめる上級インベスでもない。常に人々の隣に寄り添い、暴れればすぐに鎮圧されてしまうようなスライム相当の立ち位置で、デュークとしても何度も撃破してきた相手だ。
だから、例え戦極ドライバーで量産型の性能しかなくとも勝てる。
そう
だからこそ、斬りつけた大橙丸を容易に受け止められた瞬間、くろかげは愕然のあまり言葉も出ずに固まってしまった。
「アキト……!」
「っ、うわっ!?」
凛の声で意識を呼び戻した黒影は眼前に迫ったインベスの爪を防ぐ事が出来ずに吹き飛ぶ。
デュークの時よりも強く強烈な痛みと衝撃が走る。インベスからしてみればほんの少し小突いた程度で、はっきり言ってしまえばこれは攻撃と呼べる程のものではない。
なのに、このダメージ。
それは量産型の戦極ドライバーだからだとか、ランクの低いマツボックリロックシードで変身しているから、といった幼稚な理由付けで否定出来る現実じゃない。
誰もが見ても明らかなに、変身者であるアキト自身の弱さが引き起こした事実だった。
「アキト!」
「やっぱり無理よ! アキト君には危険だわ!」
真姫と絵里の叫びに転がり立ち上がった所へインベス達の連携に晒されながら、仮面の下でアキトは歯噛みする。
μ’sや他の人間から見れば、これは仕方の無い事なのかもしれない。表向きにアキトはただのラーメン屋の息子で、喧嘩すらするようなバッドボーイではないからだ。
だが、本当はそうではない。鎧武達が来るまで秋葉原の街でインベスが暴れれば駆け付けてアーマードライダーとして戦ってきたのな他ならぬアキトなのだ。
確かにずっと、
なのに。
だと言うのに。
これが現実か。“役目”などという大層な肩書きを持つ癖にゲネシスドライバーでなければスライム相当にすら勝てない。
いや、ある意味でずっとチートを使い続けた結果なのかもしれない。自分自身の力ではなく頼った戦いをずっとしてきてしまった報い。
「っ、がぁっ……!」
痛みに耐えきれなくなって倒れ込んだ黒影に、もう抵抗出来ないと判断したのか標的をμ’sに変更した。
「くそっ、まだスリーカウント経ってねぇよ!」
『オレンジ・スパーキング!!』』
カッティングブレードを3回スラッシュし、ロックシードが解放出来る最大のエネルギーを放ち黒影は跳躍する。黒の肢体にオレンジの輝きが集まり、それが右足に集約していった。
「っらぁぁぁっ!!」
気合と共に黒影がミサイルの如く初級インベスに突撃するが、それは振り返りざまに振られた腕に遮られ、拮抗する事もはなく弾き飛ばされた。
「っぁ!?」
「アキト君!」
吹き飛んで壁に叩き付けられながろ変身が解除したアキトを見て、花陽が悲鳴に近い叫びを上げる。
それを見たバロンがシカインベスと切り結んでいたが、蹴り飛ばすとカッティングブレードを2回スラッシュした。
『カモンッ! バナナ・オーレ!!』
バナスピアーを地面に突き立てると波のようにバナナ状のエネルギーが隆起していき、シカインベスを足元から突き上げ宙へと追いやる。
それと同時にブドウ龍砲を放っていた龍玄もカッティングブレードを1回スラッシュして跳躍した。
『ハイィーッ! ブドウ・スカッシュ!!』
アキトのように飛び上がった龍玄は、ブドウのような無数に発生したエネルギーの球体を右足に纏い空中で弾幕を放つコウモリインベスへと突き刺さる。
さらにその一撃はコウモリインベスを押し付けるようにバロンが打ち上げたシカインベスを打ち抜き、2体のインベスか爆散した。
そのすぐ傍でパインアイアンを振り回していた鎧武は、ちらりとアキトを見やってから飛びかかってきたビャッコインベスを避けた。そして、パインアイアンを投擲するとそれはビャッコインベスを拘束するように巻き付き、鎧武はカッティングブレードを2回スラッシュした。
『ソイヤッ! パイン・オーレ!!』
機械音声と共にエネルギーが解放され、無双セイバーを構えた鎧武がビャッコインベスに突撃する。
「セイハァァァァッ!」
一刀二刀三刀四刀五刀。必殺の5連斬撃がビャッコインベスを襲い切り裂く。強化された個体であろうと必殺の一撃には耐え切れずはずもなく瞬時にその身を爆散させた。
「アキト!」
撃破した事による安堵する暇もなく、3人のライダーはほぼ時にアキトへ振り向く。
アキトはインベスに吹き飛ばされショウウィンドウに叩き付けられ、それを庇うように9人が立ちふさがっており、インベス達もすでにその爪を振り上げている瞬間であった。
「っ!」
鎧武が無双セイバーのバレットスライドへ手を伸ばすのも、バロンがカッティングブレードに手を伸ばすのも、龍玄がブドウ龍砲の緑宝撃鉄に手を伸ばすのも。
そのいずれも間に合うはずもなく、インベスの爪がμ's達を捉えた。
刹那。
『ハイィーッ! ピーチ・スカッシュ!!』
戦極ドライバーの咆哮が轟き、一迅の風が走る。それはまるで鎌鼬のように地面に切り傷を作り、振り上げていたインベス達を斬り付けながら宙へと舞い上げた。
「何!?」
突然の突風に髪とスカートを抑えながら絵里が顔を見上げると、舞い上がったインベス達の眼前にピンク色のアーマードライダーの存在を確認する。
龍玄のような中華を彷彿させるライドウェアに両手には桃色の大きな扇子が握られており、それをピンクのアーマードライダーが振るうと旋風が巻き起こってインベス達を切り裂く。さながら鎌鼬の檻とでも言うべきかのような空間にインベス達が捉えられ、地面に着地したアーマードライダーはバロンを見やった。
それだけで察したのかバロンはカッティングブレードに手を掛けると、2回スラッシュした。
『カモンッ! バナナ・オーレ!!』
「セイィーッ!」
バロンがバナスピアーをインベス達に矛先を向けて突くと、刀身からバナナの形になったエネルギー刃が貫き爆散した。
衝撃で周辺のごみなどで吹き飛び、アキトはピンク色のアーマードライダーを見やる。戦極ドライバーにセットされているロックシードはキャストパットが展開されている状態だが、音声から見てもピーチロックシードである事は間違いないだろう。
「あ、あの……助けて頂いてありがとうございます」
絵里がお礼を述べると、ピンクのアーマードライダーはμ'sには目もくれずアキトを見つめていた。
否、見つめたというよりも睨み付けていたに近く、張り詰めた空気が場を満たす。
「………………何故、貴方のような弱者が戦極ドライバーを持っているの?」
先に口を開いたのはアーマードライダーの方だった。キャストパットを閉じて変身を解くと、女性が現れた。
黒髪を凛のようなショートカットで切り揃えており、ビジネススーツの胸元にはユグドラシルの社員バッチに名前が。
九紋ヨウコ。
「えっ………」
それを見たμ's達は愕然とした趣でバロンを見やる。丁度、変身を解いた所でカイトはバツが悪そうにそっぽを向いた。
「あの、もしかして…………」
恐る恐るといった感じでにこが問い掛けると、アキトに向けていた冷徹な瞳とはうって変ってほんわかとした笑顔で言った。
「いつもウチのカイトがお世話になってます。カイトの姉の湊ヨウコです!」
「……………………………………」
一拍の空白から。
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
μ'sの絶叫と共に逃げ出そうとするカイトの襟首をミツザネが掴んだ。
「カイトの、お姉さん…………?」
噂には聞いていたが、このような場所で出会えると思っていなかった相手に絵里は驚いた顔でヨウコをまじまっじと見てしまう。
話しには何度か聞いていたが、カイトの姉がまさかμ'sの合宿先にいた、という事に驚きが隠せない。カイトの苦虫どころか苦味成分をダイレクトに摂取したような顔を見れば、本人の預かり知らぬ所だった事は目に見えている。
「街でインベスが暴れているのを通りすがりのライダーが戦っていると聞いてもしやと思ったけど…………本当に貴女達だったとはね」
腕を組んで呆れ半分嬉しさ半分が混じった顔をしたヨウコは。
つー、と。鼻から何故か鼻血を垂れ流し始めた。
「えっ、だ……大丈夫ですか……?」
「っ、近付くなことり!」
保険委員も務めており心配症であることりが近付くのも無理はない。
しかし、それを阻もうとカイトが叫ぶが、
「くぁぁんわいいぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ぴぃぃぃぃぃ!?」
だらしなく破顔して飛びかかったヨウコに、無惨にも抱きつかれてしまった。
「くっ、画像で見ても可愛いんだから直接会ったらもっと可愛いのは当たり前だけど、まさかこれほどまでなんて思ってなかったわ。いえ、これはきっと必然なよよね、だから私の心が震えてしまうのは仕方の無い事なのよ!」
一体誰に説明しめいるのかわからないが、ことりの胸に顔を埋ませて頬ずりしているヨウコ。
突然の事にμ'sの面々と罵倒されたアキトは無言でことりに頬ずりしているヨウコを見やり、知られなたくなかった事を知られてしまったカイトは四つん這いになって伏せている。
「えっと………」
どう反応したらいいかわからず、穂乃果と海未は困り顔でコウタとミツザネへ助けを求める。しかし、ヨウコを知るであろう2人も面倒というか出来れば触れたくないといった感じで困った顔をしていた。
「きゃぁっ!? ど、どこ触ってるんですかぁ!?」
「ふふっ、いいじゃないいいじゃない。どうせコウタには構ってもらってないんでしょう?」
「何の話しですかぁ!?」
「…………これがカイトの」
「お姉さん、ねぇ…………」
絵里の隣で希とにこが呟くが、どうコメントしたらいいのかという感情が声には含まれていた。
「た、助けて穂乃果ちゃぁん!」
「こ、コウタ君!」
救援要請をぶん投げられたコウタは困りながらも頷いて、ヨウコへ歩み寄る。しかし、その足取りはじりじりと慎重なもので見るからに警戒しているようだった。
「よ、ヨウコさん。見るからにことりも困ってるし、みんなドン引きしてるからやめと…………」
ある程度までコウタが近付いた時だ。
あられも無い顔をしていてヨウコの顔つきが変わり、敵意を漲らせたものになる。
ヨウコはことりを離すとスカートだというのに足を振り上げ、コウタの顔面を蹴り飛ばそうとした。
コウタは反射的に身体を逸らして避けるが、追撃のように襲ってきた衝撃にほ対応出来ず突き出された拳を受けた。
「っ、この…!」
コウタの身体が下がり、咳き込みながらも顔は決してヨウコから離さなかった。
何故なら、もうコウタの眼前にヨウコの靴底が迫っていたからだ。
「ことりさん、大丈夫ですか?」
コウタとヨウコの壮絶な格闘戦を繰り広げている前で、ミツザネは平然と絵里達に話しかけてくる。その腕には逃げようとしているカイトの襟首を掴んでおり、さながら逃げる猫を捕まえているようである。
ふと、μ'sの猫娘こと凛の事を思い出し背後を見る。
「アキト、がっかりだよー」
「アキト君、大丈夫?」
「へーきへーき。まぁ何の役にも立たなかったけどな」
凛と花陽に笑いかけて立ち上がったアキトは、すぐ傍に落ちたオレンジロックシードを拾う。
「で、ミッチ。あの人は?」
「カイトさんのお姉さんですよ?」
いや自己紹介してたからわかるよ。知りたいのはそこじゃない。そう言いたげな顔でアキトがミツザネを見やると、1年生男子は苦笑を浮かべる。
「ヨウコさんはアイドルオタクでさ。しかも可愛い女の子が大好きなんだ」
「あぁ、だからカイトはお姉さんを私達に会わせたくなかったのね…………」
アイドルを見れば豹変してしまう姉。確かにカイトの性格からしてみれば隠し通したかった身内になるだろう。
絵里がカイトを見れば諦めというか達観を決め込んだのか、ボコボコとやられていくコウタとヨウコを遠い目で見つめている。普段ならすぐさま弄り倒すにこと希も流石に空気を呼んでか哀れみの目を向けていた。
「でも、湊って…………」
「夏休みに入る前に結婚されて苗字が変わったんですよ。ネームプレートはそっちの方が回りに認識されてるからつけてる、って言ってました」
「あまり人の個人情報をペラペラと喋らないで欲しいものね」
ミツザネの言葉に頷いていると、格闘戦を繰り広げていたはずのヨウコが近寄って来た。びくり、とことりの肩が震えて穂乃果の後ろに隠れてしまうが、穂乃果も穂乃果で顔が若干引き攣っているようにも見える。
と、相手をしていたコウタは少し向こう側で倒れ伏せている。気のせいか頭に大きなたん瘤が出来ているように見えるが、流石にユグドラシルが管理している施設内で社員が外部の人間を傷つけるはずはないだろう。
「改めまして、いつも弟がお世話になってます」
「おい、触れるな!」
コウタに向けていたとは違って柔和な顔でカイトの頭を掴むと、ヨウコは無理矢理下げさせる。カイトも反射的に抵抗しようとしたのだが、海未に介抱されているコウタが視界に入ったのかなすがままにされていた。
普段とはまったく異なるカイトの姿に、μ'sメンバーは目を丸くしてしまう。特によく行動を一緒にしている絵里達3年組にとってはびっくり仰天な姿である。
揉みくちゃにされたカイトはヨウコを引き剥がすと、珍しくアキトを見やった。
「アキト、怪我はないか?」
「あー、カイトさん。多分、話題を自分から逸らしたかったんだろうけど、それ悪手だぜ」
「そうね、相変わらず場の空気が読めない弟で安心したわ」
瞬間、ヨウコの声色が低くなり柔和だった表情に敵意が宿る。
「貴方、啼臥アキト君よね? 音ノ木坂学院の生徒でない部外者の貴方が、どうして戦極ドライバーを持っているのかしら?」
「文句ならミッチに言ってくれねぇかな。俺はきちんと断ったけど、持っとけって言ったのはミッチだ」
アキトがそう言うと、ミツザネはどこかばつの悪そうな顔をする。しかし、その事は本当なのか否定する様子はなく、少ししてから口を開いた。
「彼には戦極ドライバーが………戦う力が必要です」
「戦極ドライバーは玩具じゃないのよ。貴方達はアーマードライダーの試験者としての経験があり、ユグドラシルの利益になると判断したから戦極ドライバーの所持を許可しているに過ぎないわ」
そう言って、ヨウコは飄々とした態度のアキトを睨む。
「初級インベスにすら勝てないような彼では、墓を増やす以外に出来る事などないわ」
「っ、そんな言い方しないでください!」
瞬間。火が付いたように叫びが走り、誰もがその人物を見やる。
本来ならばアキトの事で感情を爆発させるのは、彼に一番親しい凛だ。しかし、その凛ですら驚いた顔で、隣に立つ幼馴染みを凝視していた。
「花陽………」
見た事のない友人の表情に、真姫が呆然と叫んだ少女の名前を呟く。
花陽は目を大きく見開きながら震えさせ、他人に怒りをぶつけるという行為に慣れていないのか涙を貯めている。
しかし、涙に濡れるその瞳にははっきりとした怒気が孕んでおり、絵里でさえ竦みそうになるほどのプレッシャーを放っていた。
「アキト君は………アキト君は私達を助けてくれたんです! あのままだったらμ'sの誰か………ううん、この場にいた誰かが大怪我を負っていたかもしれない! それをアキト君は守ってくれたんです! 自分が傷付くかもしれないのに、それでも身体を貼ってくれたんです!」
普段の花陽からは考えられないような強く相手を批難する言葉は、幼馴染のアキトや凛ですら驚いているという事はもしかしたら初めて見る面なのかもしれない。
花陽も花陽で顔が興奮でなのか羞恥でなのかはわからないが紅潮しており、しかしそれでも大事な幼馴染の事を悪く言われては矛を収める気はないらしく続けてヨウコを批難する。
「単なる時間稼ぎにしかならなかったかもしれない。初級インベスを倒さなければ解決には直結しないかもしれない。それだけの時間があれば貴女やミッチ達ならインベスを倒せたかもしれない………」
アキトは何でもこなせるヒーローではない。普通の少年だ。コウタのような高い身体能力も、カイトのような卓越した戦闘センスも、ミツザネのようなずば抜けた賢さもない。
だが、
それでも。
「だけど、彼は身体を張って一瞬だけでも時間を稼いでくれた! 本当に一瞬だったけど、その時間があったおかげで誰も傷つかずに無事でいられるんです!」
負けたかもしれない。端から見ればアキトはインベスを倒せなかったかもしれない。
だからといって、そのおかげで絵里達を含めて誰も怪我する事なく終えたのは、紛れもない事実だった。
「その瞬間に立ち会う事すら出来なかった貴女に、アキト君を批難する資格なんてない!」
もし、ユグドラシルのアーマードライダーであるミナトがもっと早く駆けつけてくれていれば、アキトは戦う必要などなかったのだ。
ここはユグドラシルが管理する人工島。つまり、ここに訪れる人々の安全はユグドラシルが守らなければならないのだから、それを代わりに守ったアキトは褒められるべきである。
大切な幼馴染だからこそ、例え優しい花陽であっても許せなかったのだろう。何もしなかったのに偉そうに高説するだけで見下す事は、琴線に触れたのだ。
「…………………そうね」
静かにその言葉を受けたヨウコは一度目を伏せてから、アキトを見やる。そこには先ほどのような侮辱の色はなく、しかしそれでも苛立ちの混じった瞳だ。
「確かに花陽ちゃんの言う通りだわ。貴方のおかげでお客様に被害が及ぶ前に事態を収拾させる事が出来た………ユグドラシルを代表して、お礼を言います」
「………………いえ」
「でもね」
そう区切って、ヨウコは花陽を見やる。そこにはだらしなく破顔したアイドル好きではなく、ユグドラシル社員としての彼女があった。
「この場はなんとか抑えられたけど、花陽ちゃんが言った通りアキト君は怪我をする可能性があった。いや、今回は奇蹟的だっただけで、本来なら怪我をしていたわ。最悪、死んでいたかもしれない」
死。
その単語を聞いて、びくりと凛の肩を震わす。しかし、それを言われた張本人は何とも思っていないかのように笑った。
「…………まぁ確かに。初級インベス程度ならって奢りはなかったとは言えないな」
そう言ってアキトは花陽の隣に歩み寄ってその頭に手を置いて宥めるように撫でると、腰につけていた戦極ドライバーを外して目を落とす。
「ミッチ、やっぱ俺にライダーは荷が重すぎるよ」
アキトは戦極ドライバーをヨウコに差し出し、笑みを浮かべる。
「俺が持っていたとしても、下手したら奪われて悪用されるのがオチかもしれないしな」
「……………ごめん」
ミツザネの謝罪の言葉には、巻き込んでしまって、という意味が込められていたのだろう。気にしていないと言うかのように肩を竦めて、アキトはミツザネを顧みる。
「ドライバーじゃなくて、ロックシード都合してくれ」
そして、戦極ドライバーがヨウコの手に渡ろうとした時だ。
ピピピッ、とアラームのような音声がヨウコの胸ポケットから響いて、彼女はしまっていた携帯電話を取り出した。
「はい、湊…………はい。えぇ、一緒で……………えっ?」
電話相手に相槌を打っていたヨウコは、突然驚愕してアキトを見やる。しかし、すぐに数回頷き、電話を切った。
「ごめんなさい。啼臥君、戦極ドライバーの件はひとまず保留よ」
「どういう事です?」
意味がわからずミツザネが尋ねると、ヨウコはどこかばつの悪そうに顔を歪めて告げた。
「啼臥君に会いたいと言っているわ。カイト達からしてみれば会いたくない、
μ'sの面々とチーム鎧武のメンバーに驚愕が走る。
その中でアキトは、珍しく露骨に嫌そうな顔を浮かべるのを絵里は確かに見た。
啼臥アキトが所持するロックシード
・レモンエナジー
・オーズ
・ローズアタッカー
次回のラブ鎧武!は……………
「戦極ドライバーが3つ、紛失したというのは本当か?」
些細な問題は、後々大きな事件に繋がり。
「さて、改めまして石鹸アイドル? のμ'sのみんな。応自己紹介しておこないとね。礼儀なんて払う価値微塵も感じられないけど、そこで無様に転がっている葛葉コウタの兄、戦極リョウマだ。愚弟がいつもお世話になってるね」
残酷なまでに冷酷なナイフをμ'sに飛ばしてくる戦極ドライバーの開発者、戦極リョウマ。
「会いたかったよ、啼臥アキト君」
「………………男には興味ないんだけど」
リョウマが興味がそそられるのは、謎の塊。
しかし、残酷な言葉には深いようで浅い事情が。
次回、ラブ鎧武!
32話:Regret nothing ~ベルトを作った男~
はい、というわけでようやく2016年初の本編更新でございます。
再びラブ鎧武!特有のオリジナル回……ここからグラニの独壇場です。
ここではアキトの弱さに触れてみました。オープンキャンパスで城之内が言っているように、アキト自身の強さは本当に弱いです。下手をしたらユグドラシル社員の黒影トルーパー並に。
この合宿を通じてアキト君がどう成長していくか。そこも見て頂けると嬉しいです。
さて、世間ではμ'sファイナルステージの先行抽選が発表されました。
自分は2つとも落選しました。
が。
アキト「生きる希望がないよ…………」
進之介「絶望するな。約束する、俺が最後の希望だ」
なんと、友人の進之介(ドライブ好き)が初日2枚とも当たったとのことで、初日に参加できるようになりました!
最後の彼女達の華々しいステージ。最後までトップギアで見届けてみます!
ここからは、μ'sのラストステージだ!!
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