目指す場所が1つなら、
そこまでへの歩き方は何だって構わない。
新型ロックビークル、ベロニロックのテストとして啼臥アキトはヘルヘイムの森にやって来たが、その途中で謎の電波障害に合いユグドラシル側との連絡を絶たれてしまう。
そんな彼の前に現れた一団は黒の菩提樹と呼ばれる、インベス否定派のカルト組織であった。
宗主の狗道供界にインベスがない世界の在り方を語られるアキトだが、絵空事すら出ない出鱈目な物言いを一蹴。
アーマードライダー黒影となって反撃するのであった。
奇声に近い声を上げながらドンカチを振り下ろしてくるグリドンに対し、黒影ウォータメロンアームズは左手のウォーターメロンガトリングを構えて防ぎ、受け流して空いた胴体に無双セイバーを切り込む。
火花を散らして倒れ込むグリドンはこれで15人目だ。しかし、残りはあと5人ほどだが、黒影は余裕綽々と無双セイバーを構える。
「こ、この……………!」
新たにグリドンがドンカチを振り上げて迫ってくるが、他に攻撃の素振りを知らないのだろうか。先ほどから同じような攻撃をされては流石のアキトも見切れるというもので、簡単に避けてから無双セイバーを振り上げる。
「おいおい、そんなんでユグドラシルの転覆狙ってんの?」
「黙れ!」
叫んで攻撃してきたドンカチは、先ほど家族をインベスに襲われたという話しをしてくれた男の声だ。
振り下ろされたドンカチを避けた瞬間、黒影が無双セイバーで弾き上げる。くるくると回転しながら宙に浮かぶドンカチの柄に無双セイバーを連結し、自分の武器にした。
無双セイバーはアーマードライダーに用意されたロックシード外の装備であり、いくつかの武器と連結出来るようになっている。オレンジアームズの大橙丸しかり、他のアームズもである。
斬撃と鈍撃を交互に繰り出し、グリドンを圧倒していく。もはや勝負にすらなっていないほどだ。
「ぐっ………このっ……………!」
「悪いけど、決めさせてもらう」
『ウォーターメロン・スカッシュ!!』
カッティングブレードを1回スラッシュし、エネルギーを無双セイバーとドンカチに送り横に一文字に薙ぐ。衝撃波が走りグリドン達を切り裂くと、爆発と共に彼らの変身が解ける。
痛みにもがきのたうつ構成員達を見据えていると、黒影の背後で足音が響く。
振り向くと黒の菩提樹のリーダー、狗道クガイがいた。相変わらず笑みを浮かべる姿は、まるで画像を張り付けたテクスチャのような冷たさを思わせた。
「今度はアンタが相手か?」
「救済を受け入れない、というのならば仕方ない」
残念そうな言葉ではあるが、浮かべているのは笑みのままだ。
「これも救済に至る為の試練というのならば、排除するほかないな」
そう言って黒いジャケットから取り出したのは、戦極ドライバーだ。しかし、アキトや通常のアーマードライダーが使っているものとは異なり、ライダーインジケータの部分にあるのはロックシードをセットする為のパーツだ。
それをアキトは知っている。
「ゲネシスコア…………!?」
それはアキトが所持しているゲネシスドライバーのパーツだった。もちろん、アキトは知識のみでそういう使い方が出来るのは知っているが、実際に目にするのは初めてである。
戦極ドライバーを腰に装着した狗道は2つのロックシードを取り出す。どちらも血をぶちまけたかのように紅く、片方は昨日出会ったアーマードライダー武神鎧武が使っていたものだが、もう1つは見た事もないナンバーのロックシードだ。
「君にも見せてあげよう。私の救済を………変身」
『ザクロ!』
『ブラッドオレンジ!』
2つのロックシードを解錠すると頭上に2つのアーマーパーツが形成される。ザクロロックシードを戦極ドライバーのドライブベイに、ゲネシスコアにはブラッドオレンジロックシードをセットしスライドシャックルを押し込んだ。
『ロックオン!』
法螺貝が鳴り響く中で、狗道は静かにカッティングブレードをスラッシュしロックシードのキャストパットを展開した。
『ソイヤッ! ブラッドザクロアームズ! 狂い咲きサクリファイス!! ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道オンステージ!!』
頭上に停滞していたアーマーパーツが1つに融合し、狗道の頭に落ちてくる。全身を赤いライドウェアが包み込みアーマーパーツが展開される。赤い兜と通常ならば左右対称に展開されるはずのアーマーパーツは左右で異なっており、左手に召喚されたアームズは武神鎧武と同じ紅い大橙丸だ。
「私はアーマードライダーセイヴァー………」
「
静かに大橙丸を構えるセイヴァーに黒影も無双セイバーを構える。
一瞬。互いの間合いを図る為に沈黙が漂うが、それは同様に一瞬で崩れ去った。
先に動いたのは黒影だ。
セイヴァーと肉薄した瞬間、大橙丸と無双セイバーが激突して火花を散らす。一瞬の交錯の直後、再び切り付けるもそれも防がれる。
数10回の攻防のやりとりをし、2つの刃が拮抗しながら摩擦熱を帯びていく。
熱量を感じながら、黒影は感じた。狗道はグリドンとは違い戦闘慣れしており、どこか狡猾な気配を纏っている。アキトが最も苦手とするタイプの人間であると。
ほんの一瞬の思案が隙を生み、そのせいでセイヴァーが新しいアームズを召喚した事に気付かなかった。
「なっ………ぐっ!?」
胸部装甲諸共切り裂く一撃はアキトに強烈な痛みを与え、思わず後退して膝をついてしまう。
セイヴァーが召喚したのは弓だ。黒が大部分を占めているも赤色が残るデザインは、よく知るものだった。
「ソニックアロー…………!?」
それはアーマードライダーデュークが使うアームズ、ソニックアローそのものだ。しかし、色合いや所々パーツが足りていない事を考えるとプロトタイプなのかもしれない。
元々、ゲネシスドライバーは
可笑しいのは、それを何故、黒の菩提樹のリーダーは所有しているのかがわからなかった。
「ソニックアロー? 違うな、これはセイヴァーアロー………救済を与える為の力だ」
「はっ………救済、救済って………そればっかかよ。もっと他に言える言葉はないのかよ」
強がりを吐き捨てながら立ち上がり、ウォーターメロンガトリングを構えると速射を放つ。しかし、無数の弾丸をセイヴァーは軽々と跳躍して避けるとノッキングドローワを引き絞り矢を作り出すと、真っ直ぐに黒影の胸を撃ち抜いた。
「がっ……………!」
火花と共に痛みが胸を走り、肺の空気が一気に吐き出される。それは今まで受けたどの攻撃よりも苛烈で、一撃で意識を吹き飛ばしそうになるくらいだ。
「っ、試作でコレなら完成品のソニックアローは…………」
この攻撃を初対面で後々の友人達に向けて放ってしまった(よりによって1人はとびっきりの必殺技)事に罪悪感を感じながら、のたうつよりも先にその場から離れる。
黒影がいた場所を新たな矢が抉る。黒影は咄嗟にウォーターメロンガトリングを掲げて矢を防ごうとするが、ダメージは止められても衝撃までは殺せずによろめいてしまう。
「くっ………」
「どうした。その程度か?」
木の枝に乗り見下してくるセイヴァーを見上げながら、黒影は呻く。
「だったら…………!」
本当ならば使いたくはない。ユグドラシルの管轄範囲から出たとはいえ、どこに目があると限らないのだから。
しかし、ここで使わなければ死ぬのはこちらだ。
『オーズ!』
「ほぅ…………戦極リョウマはそんなロックシードまで開発していたとは…………」
憧れの英雄を模したロックシードを解錠すると、セイヴァーが興味深そうな反応を見せる。
「……………変身!」
『ロックオン。オーズアームズ! タトバタトバー!!』
ウォータメロンロックシードとオーズロックシードを入れ替えて、カッティングブレードをスラッシュするとアームズが消えてオーズアームズが全身を包む。
黒影。否、オーズはメダジャリバーを構えると足に力を込めると、胸のサークル内の飛蝗の紋様が輝き力を発揮する。一瞬にしてセイヴァーの枝まで跳躍すると、そのままの勢いで斬りかかる。
セイヴァーアローとメダジャリバーが激突し火花を散らす。その際に生じた衝撃で枝が粉々に砕け、セイヴァーとオーズは別の枝へと飛び移る。
間合いが開いた瞬間、オーズはメダジャリバーを無双セイバーに持ち替えてバレットスライドを引き、セイヴァーがノッキングドローワを引いて矢を作り出す。
銃口と矢先を向けるのはほぼ同時で、撃ち出された攻撃を避けて枝から転び落ちるのも同時だった。
枝に手をかけて遠心力で別の枝に飛びつくと、一睨みしてから撃ち合いながら枝へと飛び移った。互い撃ち出した攻撃を避けては次の枝に飛び移る。それはまるで忍びのように機敏で素早いものだった。
しかし。
「っぁ!?」
矢がとうとうオーズのサークルに命中し、枝から転げ落ちる。何とか耐えていた痛みが一気に襲い掛かり、今度こそオーズは倒れ込んでしまう。
「っ…………ああああぁぁぁぁっ!!」
『オーズ・スパーキング!!』
それを気合いで跳ね退け、戦極ドライバーのカッティングブレードを3回スラッシュに出来る限りのエネルギーを開放して飛び上がった。
両足にエネルギーが迸り、背中から赤い鳥のような翼が羽ばたきオーズを加速させる。
しかし、セイヴァーは冷静にザクロロックシードを外し、セイヴァーアローへと装填した。
『ロックオン』
ソニックアローと同様の音声が響き、凄まじいエネルギーが集まって行く。ノッキングドローワを引き絞り、狙いがオーズへと向けられる。
それに気付いても、放たれた矢の如く止まる事は出来なかった。
『ザクロ・チャージ!!』
叫び声と共に放たれた矢とオーズのキックが激突し、エネルギーが拮抗する。閃光と轟音と衝撃が空気を震わし、火花を散らた果てに。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!」
敗北したのはオーズだった。
必殺技同士の激突の余波はオーズに通常以上のダメージを与え、蓄積してきた分もあってついに変身が解かれてしまう。
地面に倒れ込んだアキトは、意識が朦朧となりかけているのを耐えながら転がったオーズロックシードをつかみ取る。
「なん、でだよ……………!」
自分が未熟なのは理解している。他よりも弱い事も。
それでも、わかっていても悔しさが滲み出てきてしまう。せっかく憧れのヒーローの力を使っているというのに、この体たらくが情けなかった。
「俺は、あの人にはなれないってのかよっ………!」
「そうか。君はその力の主に憧れを抱いているようだね」
見下しながら、冷酷にセイヴァーが告げる。アキトにはもはや顔を上げる力は残されておらず、ただただその言葉を聞く事しか出来なかった。
「ならば、君に救済を与えよう」
消えゆく意識の中、狗道の言葉が耳に届いた。
「憧れとは理解に最も遠い感情だよ」
それを最後に、テレビの電源が切れるかのようにアキトの意識はプツンと闇に沈んだ。
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アラートが鳴り響く部屋の中で、星空凛は祈るように胸の所で両手を組みながら幼馴染みの無事を願っていた。
アキトがヘルヘイムの森に入り、通信が切れてから1時間ほどが経った。外ではすでに陽が落ち始めて、茜色が広がっているだろう。
「アキト………」
「凛ちゃん、ごめんね………」
申し訳なさそうに顔を伏せるのは、μ'sのリーダー高坂穂乃果。穂乃果がアキトの背中を押してしまったばっかりにこんな事態になってしまった、と顔にありありと書いてあるが凛には責める気など当然起きなかった。
「穂乃果ちゃんが謝る必要ないよ! 元々は安全だって言い張ってた癖に安全じゃなかったプロフェッサーのせいだよ!」
「凛、辛辣ね…………」
「まっ、否定出来ないから仕方ないけどね。インカムの電波拾えればよかったんだけど、どうやら向こうで紛失したようだし、困ったね」
現れつつある後輩の黒い面に西木野真姫が改めて冷や汗を流し、戦極リョウマは悪びれた態度もなく端末を操作する。
しかし、一向に画面が復活する様子はなく、それがさらに凛の不安を駆り立てた。
「…………ダメです。向こう側からジャミングされていては、こちらでの干渉は不可能に近いと思われます」
「どうにかしてアキトの居場所を特定出来ないのですか!?」
園田海未が焦りの声を漏らす。アキトはこの合宿に半ば無理やり連れてきてしまったようなものだ。友達が危険な目に合っているかもしれなくて、その後押しを自分達がしてしまったのだから気が気でない。
「…………そうだ。星空君はよくアキト君と電話をしているのだろう? 悪いけど携帯電話を貸してくれないかな?」
「えっ? あ、はい」
突然の申し出に凛は頷き、猫のストラップの付いた携帯を差し出す。それを受け取ったリョウマはUSBコネクタに接続して何かしらの操作をし始めた。
「何をするのですか?」
気になったモニターを横から覗き込む絢瀬絵里に得意げな顔で一指し指を突き立てながら説明した。
「星空君の携帯には保存されているアキト君の携帯電話の番号が保存されている。つまり、アキト君が所持していた携帯の電波が記憶されている訳だ。そこからアキト君の携帯のGPSを調べて現実世界で検索を行い、こっちで出てきた座標をヘルヘイムの森に当てはめれば最後にいた場所を確認できるはずさ」
「えっと、難しすぎてわかんない………にこちゃん、わかる?」
「……………………………………」
「ダメだよ、穂乃果ちゃん。にこちゃんフリーズしてる」
穂乃果が矢澤にこを見やると固まっており、南ことりが目の前で手を振ってみるも反応が返ってこなかった。
「現実世界とヘルヘイムの森ってリンクしているんです?」
「だいたいはね。もちろん、川があるとか山がうんぬんっていう些細な違いはあるけど」
東條希の質問に答えながらキーボードを叩き終わると指をパチンと弾く。
「……………よし、タカトラ。今から送るアキト君のデータを送るよ」
リョウマがマイクに言い放つと、部屋にアーマードライダー斬月に変身したμ'sの顧問、呉島タカトラからの応答が返ってくる。
『どこだ!?』
「とりあえず、回れ右して真っ直ぐ進んでくれるかな?」
『真逆か!』
キキィーと向こうで車輪が擦れる音が響く。
しかし、タカトラが向かってくれるならば安心である。
凛が知る中で斬月は最強のアーマードライダーなのだから。
「……………っ」
ピチョン、と頬に落ちてきた冷たいものでアキトは意識を取り戻した。
朦朧としていた意識がやがて鮮明になっていき、身体に走った痛みではっきりと視界が見える。
視界に無造作にくり抜かれたような天井は、洞窟を思わせた。アキトが身体を起こして周囲を見回すと人工的に切り崩された岩が並んでおり、どこか生活感の残っている洞窟にいた。
「俺、どうして…………?」
記憶を辿ると狗道との戦闘に敗北したのが最後だ。倒れ込んだアキトを狗道が見逃した、とは考えにくく誰かがここまで運んでくれた、と考えるのが妥当である。
「サガラか…………?」
ぼやいていると、身体に服が掛けられている事に気付いた。それは夏場だからか薄いが前が開いたフリースであり、近くには黒いウェストポーチが置いてあり中からウォータメロンロックシードとオーズロックシードが覗かせていた。
戦極ドライバーはアキトが装着したままであり、ドライブベイにはヒマワリのロックシードがはめ込まれている。
「……………あんの脳筋に気遣いなんて出来るなんてな」
ぼやいてから寝そべっていた岩から立ち上がり、ウェストポーチからロックシードを手にしてから外を目指して歩き出した。ヒマワリロックシードのおかげかある程度の体力は回復しており、戦闘は難しいが歩くだけなら問題なさそうである。
歩きながら、アキトが思うのは当然、黒の菩提樹だ。
黒の菩提樹がユグドラシルを打破しようとしている。それは日頃のニュースなどからも推測されてきた事であり、ユグドラシルや警察も活動拠点などを上げるのに躍起になっていたらしい。
杞憂すべき点は、彼らの口から漏れた『ミスターセンゴク』なる人物。
もしも、本当に戦極リョウマがユグドラシルを裏切り黒の菩提樹と繋がっているのだとしたら、これ以上の脅威はない。彼ほどにヘルヘイム、インベスを理解している者はいない。
問題はそこではない。
「……………本当にプロフェッサーが裏切っていたとして、それを誰にどう伝えるか………」
直接伝えれば、あの飄々とした口調で夜道に襲撃される可能性がある。それもμ'sを巻き込む形で。
弟である葛葉コウタ。九紋カイトに伝えてもそのまま殴り込みに行き、下手をしたらμ'sの活動に支障を出してしまうだろう。
タカトラに伝える。、と案が一番按配な気がするが、身内を無条件で信じてしまう純粋無垢が呉島タカトラという男だ。それを伝えた時、コウタ達と同じように動いてしまわないかが気がかりだ。
と、なると。
「……………ミッチ、かぁ」
呉島ミツザネ。タカトラの弟であり、アキトにとっても親友と言っても過言ではない少年。
しかし、この島に来てからの、もっと正確に言えばアネモネと出会ってからのミツザネはどこか不安要素が陰っている。普段ならば真っ先に告げるものの、それをしてはならないとアキトの直感が告げていた。
不安要素と言えば、昨日出会ったアネモネとタカトラの恩師、瀬賀長信だ。長信はアキトを確実に、下手をすればコウタ達をも上回る強さを誇るアーマードライダーだ。
本人達は観光だ、と言っていたが同時期に起こるはずのないインベスの暴走事件に黒の菩提樹の出現。
これらの事象が単なる偶然の重なり、考えるには出来過ぎている。それらは繋がっている、と考えた方が自然である。
「目的も犯人もわかってる………のに、手段がわからねぇ」
この島はユグドラシルが管理しているという事は、常に大勢のアーマードライダーが滞在している。仮に黒の菩提樹がインベスを暴走させる何かしらの術を持っていたとしても、アーマードライダー達が収めてしまう。グリドン部隊で攻め込もうにもアキトにすら勝てない素人集団ならば結果など明らかに見えている。
もしも、アーマードライダーを無力化させる為の戦極リョウマだとしたら。
「…………………ダメだ」
思案していて首を横に振る。どれだけ思考してもリョウマがユグドラシルを裏切って黒の菩提樹側に付く、というのが納得出来なかった。
「っと…………」
ずっと考え込んでいたからかいつの間にか風が頬に当たり、洞窟の入口に来ていた。
立ち止まって顔を上げると、空には暗い帳が広がっており時間帯が夕方を超えている事に気付く。ユグドラシルでは花陽が泣きじゃくっていそうで連絡したい所だが、携帯電話もインカムも紛失している状態ではそれ望めない。
ある種の遭難に近い状況にアキトは泣きたくなってくる。なまじチート染みた解決策を持っているだけに、容易に使えないという事が歯痒かった。
「…………………背に腹は代えられない、か。カリギュラ」
アキトが呼びかけると、頭上で風が舞い上がり青い影が眼前の岩場に降り立つ。
全身を海のように染め、腕などの機関部から青いフレアをまき散らしながらライオンインベスのような風貌は苛烈な空気を纏っていた。
荘厳に立つインベスを見上げながら、アキトは恐怖する事なく言った。
「悪い。入って来たエリアの近くまで乗せて……………」
「アキト、下がれ!」
その瞬間、弾丸が雨のように降り注ぎカリギュラを襲う。巻き上がる砂煙に驚いてアキトが見上げると、そこにはサクラハリケーンに跨り、無双セイバーのブソウマズルをこちらへ向けているアーマードライダー斬月の姿があった。
「タカトラさん!?」
「こんな遠くにいたのか………探したぞ」
サクラハリケーンから降りた斬月は飛び上がってアキトの前に着地し、カリギュラから守るように構えた。
「あの時の未知のインベス…………何故こんな所に」
「ま、待ってくださいタカトラさん!」
このままでは戦闘になると察したアキトは、慌てて斬月の前に立った。
「あいつは俺を助けてくれたんです!」
「何……………?」
アキトの言葉に怪訝そうな声を漏らし、斬月がカリギュラを見やる。すると、カリギュラはアキトの考えを察したのかブースターから青いフレアを吐き出しながら高く跳び上がると、木々を薙ぎ倒しながら去って行った。
せっかく呼んだのに申し訳ない事をしたなぁ、と思いながら安堵の息を漏らす。
「……………一体、何があった?」
変身を解いたタカトラの言葉にどう答えるべきか迷ったものの、意を決したように告げた。
「タカトラさん、黒の菩提樹……狗道クガイって知ってます?」
その名を口にした瞬間。
はっきりと、タカトラの表情に怒りの感情が浮かび上がった。
貸別荘に戻ってきてから、穂乃果達は夕食を食べようとしとしたが食欲が沸かなかったのでパスしてしまった。
「……………はぁ」
自然と漏れた溜息は誰のもかわからないが、先ほどから貸別荘のリビングにはそれしか響かなかった。
タカトラも捜索に出てくれて1時間ほど経ったが、結局アキト発見の知らせはない。体力的にもつらいと判断したリョウマから帰宅を促され、中山が運転する車でここまで戻ってきたのだ。
コウタとカイト、ミツザネとも連絡が取れず9人は心細いと共に強い罪悪感に苛まれながら、全員がリビングに腰を下ろしていた。
ソファーには穂乃果と凛、花陽が据わってずっと俯いており、海未とことり、絵里がテーブルを囲んで時折入口へ眼を向けている。にこと真姫、希は交代で風呂に入っているが、穂乃果がそうであったように洗うだけの作業で戻ってくるだろう。
「……………アキトぉ…………………」
凛が涙声でその名を呟く度に、穂乃果は歯を食いしばる思いが弾ける。やはり、あの時アキトの背中を押してしまったのは間違いだった、と強く後悔してしまうほどに。
しかし、悔やんで謝っても凛がアキトを責める事はない。責めたところで無駄だと思っているからなのか、それとも本当にそう思ってくれているのか。
「……………私、ユグドラシルの支社に行ってくるわ」
そう言って立ち上がったのは絵里だ。生徒会長という立場、何よりも年長者としてこの件で強く責任感を感じているのだろう。
「そんなっ。絵里ちゃんが行くなら私も…………」
「皆で行ったら向こうの迷惑になるわ。それに、アキトもロックビークルを持っているのだし、もしかしたら自力で帰ってきて擦れ違いになったらいけないしね」
「エリチ!」
足早に出ようとした瞬間、風呂から戻った希が髪を吹きながら制止した。その後ろにはにこと真姫が立っており、その表情はやっぱりという言葉が浮かんでいた。
「焦ったらダメ。信じよう?」
「そうです! それに夜遅いですし、外には街灯があるからといってもユグドラシル支社まで距離があります! 何より危険です!」
慌てて海未が絵里の手を掴み制してくれる。中山からも帰り際に、「絶対に貸別荘から出ないで下さいね」と釘を刺された。何でもここ周辺には貸別荘が密集しており、外国文化が盛んだからか夜な夜な密会などがあり巻き込まれるケースが多いのだという。
「…………せめて、コウタ君達がいてくれれば…………」
花陽の呟きに、全員が顔を伏せる。自分達も守ってくれる鎧武者達。一緒にいれば得られる安心感は絶対的で、なのにどうしてこういう時に傍にいてくれないのだろうか。
びゅぅっ、と風が吹いて窓が震える。いつも守ってくれる安全地帯がないという事を改めて認識してしまってから、全員には些細な恐怖心が生まれていた。今、仮に強盗などが押し寄せてきたりしたら、誰も撃退出来ないのだ。
穂乃果達が持っているロックシードは純正のもので、召喚しても妖精サイズのものしか出てこない。人間相手には無力なのである。
はぁ、と重々しく穂乃果が溜息をついた時だ。
入口の方から誰かがドアを開けようとする音が響く。9人の肩がびくりと震え、思わず身構えてしまう。
穂乃果の考えてしまった最悪が現実になってしまった、と後悔しながらロックシードを握り締めた。無力であっても、穂乃果達が対抗できる希望はもはやちっぽけな妖精だけだ。
しかし、それは杞憂に終わった。
「穂乃果!」
入って来たのは呼吸を荒々しくさせ、額に汗を滲ませたコウタだった。
「こう、た君…………」
「全員、無事だな」
続けて入って来たカイトは息絶え絶えでμ'sを見回す。その様子は本気で心配していたらしく、心配してくれたという事に穂乃果は感極まる。
それに気付いて普段通りの振る舞いをしようとカイトが目付きを鋭くするが、咄嗟の事だったのか咽込んでしまった。
「カイト、そんなにウチらの事を心配してくれて…………!」
「ば、馬鹿が………ごほっ」
穂乃果よりも先に感動の声を漏らす希に、カイトは反論しとうとするも咳き込んでしまう。見かねたにこが水の入ったペッドボトルを投げ付けて、コウタを見やった。
「この忙しい時にどこ行ってたのよ?」
にこの言葉には心配、安堵よりも批難の意味合いが強く含まれていた。仲間が大変な時に、どこをほつき歩いていたのか、と言いたいのだろう。
それは重々理解しているのか、コウタは申し訳なさそうに頭を下げた。
「悪い。ヨウコさんからアキトの件は聞いた。街で暴走インベスを鎮圧させるのを手伝ってから俺達もヘルヘイムの森に探しに行ってたらこんな時間になっちまった」
「………………そう。ごめん、責めたりして」
「気にすんなって」
コウタもカイトも、アキトの事を心配して動いてくれていた。それがわかったからかにこが謝罪すると、コウタは笑って済ましてくれた。
「探してみたけど、どうも見つかんなくてさ」
「タカトラとも連絡が通じん。ミツザネはどこだ?」
ペッドボトルの水を一飲みして息をついて聞いて来るが、真姫は首を横に振った。
「そっちが一緒だったんじゃないの?」
「支社を出てからはバラバラだったから。俺はカイトと偶然遭遇して、インベスの暴走を見かけて………メールの返信しなかったんだけど、てっきり俺達みたいにインベスと戦ってるもんだとばっかり…………」
「…………普通の夏合宿になるはずだったのになぁ」
穂乃果の発言で始まったこの合宿は、予想していたものとは異なったものとなってしまった。
わいわい楽しく、とまではなくてもこんな命のやり取りなど当然予定には入っていなかった。まるでこの合宿自体を否定されたような気分になってしまい、穂乃果の瞳が揺れ出す。
どうしてこうなってしまうのか。思えばオープンキャンパスの時も大きな意思に阻まれて、今回もまた穂乃果の理解し切れない
それが堪らなく悔しくて仕方がない。怒りや悲しみが穂乃果の中で入り交じり、やがてそれはある言葉を生み出した。
「…………学校廃校を阻止しようなんて」
「そんな事ねぇ!」
突然、コウタが穂乃果の両肩を掴んで叫ぶ。
「穂乃果達は何も間違ってないだろ! 学校を、居場所を守りたいって思う事が間違いだなんて絶対にない! それを邪魔しようとする奴らは、俺が絶対に許さねぇ!」
強く、強く激励するように。
「だから、穂乃果も諦めるな! 何も間違ってねぇんだから!」
「だけど………そのせいでアキト君が…………!」
間違ってはいない。その想いを否定したくはない。
けれども、現実としてこうやって誰かが傷つき、果てにはアキトの身に何かが起こっている。それはどうやって否定出来ない現実であり、その原因は間違いなくμ'sだ。
「アキトは大丈夫! あいつが、凛や花陽を泣かせるような事、するはずがないって!」
「でも……………」
それでも、コウタの希望的観測が入り混じってしまっている。それはある種の現実逃避だった。
すると、後ろで立っていた面倒そうにカイトが穂乃果の口に何かを突っ込む。突然の事で驚いてむぐっと息が詰まるが、それはいつも穂乃果が親しんで食べているパンだという事にすぐ気が付いた。
気付かなかったがカイトはビニール袋を持っており、その中にはいくつかのパンが入っており、それをμ'sの面々に投げる。
「腹が減っているから変な方向に思考が働く。それでとりあえず食い繋いでいろ」
「……………でも」
アキトの無事が確認出来るまで、喉を通りそうになかった。
その時、外でエンジン音が響き別荘前で止まった。
「あれ? 何してるの? その愛人と逢引してたら遅くなって奥さんにビクビクするサラリーマンみたいな恰好して」
「何その例え!? もう少し良いようってもんが…………!」
「はいはい、ちゃっちゃと入ってください」
「ちょ…………!」
そんな会話と共に入って来た2人は、リビング入口に殺到しているμ's達を見て各々の反応を見せる。片方は観念したような隠し事がバレたような、もう1人は何故こんな事態にと素直に驚いていた。
「あ、きと君……………」
「あ、あはは…………ただいま戻ったっす」
茫然と穂乃果が名を呟くと、もう乾いた笑みを浮かべながらアキトが頭を下げた。
直後、緩慢だったμ'sの時間が加速したように動き出した。
「何やっているのですか!?」
「凄く、心配したよぉ…………」
「無事だったのなら連絡しなさいよね!」
海未、ことり、にこに詰め寄られ絵里は心底安堵したようにソファーに座り、それを希が労わるように頭を撫でる。真姫はアキトの帰還もそうだがミツザネの方にも安堵しているようだ。
「ミッチ、心配したわよ。連絡の1つもないから…………」
「すみません。携帯の電池が切れちゃって…………で、アキトは……………」
真姫に頭を下げながらミツザネは言葉を止める。
「穂乃果…………!?」
「えっ……………」
海未に言われてようやく、穂乃果は泣いていた事に気付いた。
自分のせいでアキトの身に何かが起きたのではないか。自分達のやっている事はただの悪足掻きで、間違っていたのではないか。
そういった重い責任なとが吹っ飛び、無事だったという安心感は穂乃果の涙腺をぶち壊す事など容易かった。
「……………すみません。ご心配お掛けしました」
「…………ううん。穂乃果は大丈夫だよ。それよりも、アキト君には先に謝らないといけない相手がいるでしょう?」
頭を下げてくるアキトに穂乃果は告げて、そっと身をどける。
穂乃果の後ろにいたのは、口元を手で抑えて嗚咽を押し殺しながらも、涙が我慢し切れずに溢れている花陽とずっと俯いている凛だ。
凛は顔を上げずにゆっくりとアキトに歩み寄って、その手を振り上げる。それをアキトは黙って受け入れるつもりなのか目を瞑る事なく、まっすぐ見据えていた。
「……………心配した」
しかし、凛はそれを思いっきり叩き付けるのではなく、そっとアキトの背中に回して抱き付いた。胸に顔を押し付けて表情を隠しているが、肩の震えからきっとくしゃくしゃなのは予想出来た。
そっと穂乃果は涙を拭いながら微笑んでコウタを見やると、安堵したように微笑み返してくれた。
「……………えっと、状況がよく呑み込めないんですけど………」
頬を描きながらミツザネが呟いた時、ぐぅーと腹が泣き出す。
誰だと周りを見回すと、にこと真姫が顔を赤くしてそっぽを向く。しかし、今度は絵里と希の方からも聞こえ、次第にμ's達からも同じ音が上がる。
「…………………あはは」
「ご飯にしましょうか」
穂乃果の苦笑に、アキトは申し訳なさそうに提案する。アキトが心配で皆、食欲が沸かなかったのだから、安心感から気が緩んだらしい。
「今日は元々バーベキューの予定で買ってあるし。待っててください、材料を切ってきます」
「あ、それは私達でやるからアキト君達は休んでて?」
そう言って凛を放そうとするアキトを、ことりが制止する。ヘルヘイムの森で迷子になっていたアキトと暴走インベスを鎮圧する為に戦っていたコウタとカイトはそれなりに付かれているはずだ。そんな3人に夕飯の支度を手伝わせる訳にはいかなかった。
「…………じゃあお言葉に甘えて俺は寝させてもらうかな。カイトはどうする?」
「ならシャワーを浴びさせてもらおう」
「あ、俺もご一緒していいっすか? ずっと森ん中いたから森の臭いが………そんな訳で凛、ゴウハウス!」
「……………凛は犬じゃないにゃ」
アキトから離れた凛は目元を拭うと、息をついて台所へ向かって行ったことり達の後を追って行く。語尾が戻ったので少しは落ち着いたのだろう。
「………僕はバーベキューセットの準備しときますね」
「あ、穂乃果も手伝うよ」
ミツザネの後を追う形で穂乃果も外にある倉庫へ向かった。
みんな無事に合流出来た。その安心感から穂乃果は思考の外側へと懸念を追いやってしまった。
暴走インベスの大量発生。
ヘルヘイムの森でアキトの身に何が起きたのか。
この島に何が起こっているのかを。
パチパチ、と木炭が燃え上がり網上の肉を焼き上げ、周囲に肉の香りが立ち上がった。
それを嗅ぎつけて、ばっとコウタが立ち上がった。
「ご飯炊けたよー!」
「肉じゃねぇのかよ!?」
コウタよりも炊飯器を持ち上げながら目を輝かせる花陽には、先ほどのよう悲しみは残っていなかった。
貸別荘の庭にバーベキューセットを置いてほぼ立ち食い状態になってしまったが、全員が揃っての食事はやはり楽しいものだった。
「でも本当に良かったよー。アキト君に何もなくて!」
「本当です。あ、希! 肉ばかりでなく野菜を食べないといけませんよ!」
「タカトラ先生も大変やねぇ。今回の後処理なんて…………あぁっ、凛ちゃんそれウチが育てていた肉!」
「へっへーん! 早い者勝ちだもんねー!」
銀串に切った肉を刺しながら言う穂乃果の隣で、海未が安堵したように野菜だけ刺さった銀串を希へと突きつけ、その隙に凛が強奪するという楽し気な光景が広がっている。
それを少し離れた所でベンチに座って眺めながら、アキトは疲れたように息を吐いて肉をがっつりと噛み付いた。
μ'sにはとりあえず、ヘルヘイムの森ではテンションが上がり過ぎてユグドラシルの管理区外に出てしまい迷子になった、とだけ伝えた。黒の菩提樹関連の話しにμ'sを巻き込む訳にはいかなかった。
狗道クガイの名を知ったタカトラは、アキトと一緒にユグドラシル支社に戻ってはすぐさまどこかへ行ってしまった。正直な話し、この件はアキトだけで解決出来るはずもなく、やはり頼れるのはタカトラ以外にはいないのだ。
「にこちゃん! ご飯に肉汁をべちゃぁ、なんて酷いよ! 酷過ぎる!」
「ちょ、花陽!? 取り上げないで! 悪かったから!」
「これがジャパニーズ式バーベキュー!」
「絵里、今更帰国子女ぶっても意味はないだろう」
ご飯に一家言ある花陽にとって、バーベキューのタレを直接かけたにこの行動は許し難い。それを感心したような目線で眺める絵里と呆れ顔のカイト。
昼間の騒動が嘘のようにも思える空間にアキトが思わず笑みをこぼしていると、不意に頬に冷たい感触を感じて思わず飛びのいた。
「わっ!?」
「えへへー、はい。どうぞ」
振り向くと、そこにはことりが冷えた瓶を差し出してにこりと笑っていた。
「ことりさん………皆さんと混ざらないんですか?」
「アキト君こそ。凛ちゃんと一緒にいなくていいの?」
瓶を受け取りながら質問するとことりはアキトの隣に座って質問を投げて返された。質問を質問で返すな、と言いたかったが、どこかぴょんぴょんさせることりの声色とは裏腹に、その瞳には真剣な光が混ざっていた。
「……………何です」
「アキト君が何かに迷ってるみたいだったから。お姉さんとしては放っておけないのです」
っ、と一瞬だけ言葉が詰まる。まるで見透かされたような言葉に、アキトは息を吐いた。
「…………ことりさんって、憧れている人っていますか?」
「えっ?」
「ある人に言われたんです」
アキトの中でずっと燻っていたもの。それは、狗道に言われた言葉だ。
憧れとは理解に最も遠い感情だよ。
幼い頃に夢に見たあの青年のように、欲望に負けない強い誰かを掴む手。
そんな男になりたいと、子供の心に根付いた夢。
アーマードライダーとして、
「あの人のようになりたくて、色々マネてみた。このエスニックの格好もその人が愛用してた、ってのが多いし、すぐに困っている人がいたら首を突っ込むような人だから、俺も自分で出来る範囲で手を伸ばしてきた………つもりだった」
だけど。
思い返してみても、アキトは結局あの人のなりそこないだった。きっと、あの人ならもっとうまくやれただろう、伸ばした手でしっかり掴んでいたんだろう。
何度も何度も自分の中でこうじゃない。自分が描くあの背中はこんなんじゃない、と否定する何かが心の底にあった。まるで、イメージを壊されたくなくて、頑なに守ろうとする子供のような幼稚な心。
「………俺じゃ、あの人にはなれないのかな」
どれほど手を伸ばしても、掴むどころか掠りもしない大きな背中。
それがアキトのの心をもどかしく締め上げていた。
「……………うーん」
少し考え込むように腕を組み、夜空を見上げながらことりが言った。
「アキト君がどんな人を憧れているのか、ことりにはわからない」
けどね、と区切ってことりはアキトを見やった。
「アキト君はその人の何に憧れたの?」
「えっ……………?」
言われてアキトは自問してみた。
自分は、あの人の何に憧れたというのだろうか。
後悔するのが嫌だから誰にでも手を伸ばす事。首を突っ込まずにはいられないヒーロー気質。明日を求める欲望。
わからない。ようやくそこで、アキトは気付いた。
自分はあの人の事について、何も知らない事を。当然だ。幼い頃、漠然とした夢の中で見ただけで実際に会った事はなく、会話もした事はない。テレビでやっているドラマも見ているかのように、画面という名の視界に映し出されたものを漠然としか観ていなかったのだから。
ならば、どうしてアキトはその人のようになりたいと思ったのだろうか。
「憧れってね」
考え込んでいると、優しく微笑んでことりが言った。
「違った自分になりたいって思うから、誰かに憧れるんだと思うの。まぁ、辞書とかで調べるとわかるけど、憧れってのはそういう意味だしね」
憧れ、なりたいという欲望。その言葉を噛み締めながらことりの言葉に耳を傾ける。
「それは例えばあの人みたいにかっこよくなりたい、強くなりたい………そういった羨ましい、とかあぁなりたいっていう願いが積み重なって憧れになるんだと思うんだ」
「願望の、積み重ね…………」
「私もね、違う自分になりたいなったって思った時があったの」
その話しは凛が話してくれたのでアキトも知っている。μ's活動開始と同時にメイド喫茶のアルバイトを始め、伝説のカリスマメイドと呼ばれるほどまでの人気となった事。
その始めた理由というのが、違った自分になりたいと。
それは、あの青年のようになりたいと思っている、今のアキトと同じだった。
「私には何もない………穂乃果ちゃんみたいな誰かを引っ張って行く力も、海未ちゃんみたいにしっかり者でもない………コウタ君みたいに誰かを励ませ事も出来ない。誰かの後ろをただ付いて回るだけ………親鳥に付いていく雛鳥みたいに」
そんな事ない、と言いそうになったがアキトは寸の所で止める。ありきたりな慰めなど、その時に誰かがちゃんと伝えているはずだ。
それに、その話しはことりにとってすでに乗り越えた過去だ。証拠に語るその表情はとても誇らしげで、強い意思が瞳には宿っている。
「そんな私にね、カイトさんが言ってくれたの。人は決して他人になれはしない、って」
「………………憧れは無駄、ってことですか?」
アキトの言葉に優しく首を横に振る。シャワー上がりだったのか女の子特有の臭いがアキトの鼻孔を擽り、少しムキになっていた思考が落ち着いた。
「無駄なんかじゃないよ、絶対に。私達が
「じゃあ…………」
「大切なのはね、どんな憧れを持ってなりたいと願っても、
遮ったことりは少し気恥ずかし気に指を弄りながら続ける。
「穂乃果ちゃんみたいになろうとしても、海未ちゃんみたいになろうとしても、コウタ君みたいになろうとしても、結局それは
だからね、とことりはアキトに向き直ると、優しく手を握って来た。
「憧れは理解からもっと遠いって言ったのは、憧れちゃうとその人のなりたいっていう部分だけを見ちゃうから、きっと程遠いって事なんだと思う」
でもね。
「アキト君は大丈夫だよ。アキト君ならきっと、その人の憧れじゃない所を見て、ちゃんと受け入れられるよ」
「受け入れる…………」
「アキト君はその人っていう理想になりたかったんだんだよね? だったらそれは間違いなんかじゃない。大切なのは、自分である事と、どんな飛び方でもいいって事を忘れない事、だと思うな」
自分は自分。
それは当たり前で、知っていると自負したつもりだった。しかし、改めて言われて、アキトはその意味にようやく気付いた。
あの人のように誰にも手を伸ばして掴めるような人になろうと努力しても、結局は自分は啼臥アキトという枠からははみ出せないのだ。
アキトはようやく、自分の弱さに気付いた。
ゲネシスドライバーを手にして、オーズの力を手にして。それで憧れの英雄になったつもりだった。否、
だけど、それは所詮ただのマネ事であり、だからこそ簡単に地金を晒して敗北する。善悪を超えた枠で険しい道を辿って来た戦士たちに、ズルをして歩いてきたアキトが勝てる道理などなかったのだ。
「……………ことりさん、やっぱお姉さんですね」
「…………あ」
そこでことりは、かなり恥ずかしい事を言ってしまったと自覚が込み上げてきたのだろう。顔を赤くして慌ててt取り繕った。
「ご、ごめんね! なんか偉そうな事ばっか言っちゃって…………」
「いいえ。やっぱり、お姉さんに相談してよかったです」
もう! とお姉さんという呼び方をするとことりは困ったように頬を膨らますことりに笑いながら立ち上がると、持っていた事すら忘れていた串の肉を噛み付いて食べる。
「うっし…………! すっきりした!」
「アキト君! 白米白米!」
ふと、炊飯器を持ち上げる花陽に手を振り返してから、ことりを見やった。
「すみません、変な事相談しちゃって」
「ううん。あっ、それとさっきの質問の答えだけどね」
先ほど、会話の切り出しでアキトがした憧れる人はいるか、というものだろう。
「もちろん、いますよー。今でも穂乃果ちゃんに海未ちゃん、コウタ君! 絵里ちゃんの強い意思に希ちゃんの包容力にににこちゃんの芯の強い所。カイトさんの向上心ももちろんそうだし、凛ちゃんの元気よさや花陽ちゃんのアイドルにかける情熱! 真姫ちゃんの将来を見据えている決断力にミッチの気遣いの良さ」
それとね、とアキトを指さした。
「アキト君の頑張り屋さんも! みんなみんな、私の憧れの人だよ」
「…………………俺なんか、そんな憧れるような人間じゃないです。ただ目の前のちっぽけな幸せの為に全力で生きてるだけです」
「それがすごいんだよ! 高校に行かないで実家の手伝いだもん」
穢れの無い白いキャンパスのように、偽りのない言葉にアキトは笑った。
「やっぱり、お姉さんは凄いや」
「頑張れ、男の子!」
アキトも自然と笑みを浮かべて、礼を込めてお辞儀をしてから花陽の元へと歩き進めた。
今までのような鬱憤さを晴らした時とは違って、今度は一味違う。
そう断言できる気分であった。
啼臥アキトが所持するロックシード
・レモンエナジー
・オーズ
・ウォーターメロン
・ローズアタッカー
次回のラブ鎧武!は……………
「タカトラ、君はいざという時の詰が甘い。だからこそ、わかりやすく、はっきりと言うよ。啼臥アキトには気をつけろ」
「彼がアーマードライダーデュークである可能性が高い」
アキトの正体がついに露見してしまう!?
「僕、アネモネさんを好きになってしまったようです」
告げられた言葉によりはっきりと自分の気持ちを理解してしまう真姫。
「そうだよ、綺麗事だよ。だからこそ、現実にしたいんだよ」
コウタが出会ったアキトを知るサムズアップと笑顔が輝かく青年。
「でも、わかるよ。君の言っている事」
パンツを探す民族衣装の青年。
そして始まる。
それは唄と共に。
次回、ラブ鎧武!
35話:人間ってそんなものね ~偽りへの仮面~
やりとげたよ、最後まで………
本当に、
本当に、
ありがとう、18人の女神にお礼を………。
どうも、グラニです。
ファイナルライブ。初日はドームで2日目はライブビューイングで見届けてきました。叫んで、泣いて、そして一杯お礼を言ってきました。
けっこうきついっす。うん、1週間経ちますけど精神的にきついっす。
でも、それでも前に進みましょう。
それがラブライバーのあるべき姿です。例え疑惑だのなんだのと噂が流れようとも。
さて、本編の話しに移りましょう。
結局、タトバキックは外れるもの。果たして敵を撃破する事は出来るのだろうか。
度重なる試練を前に、本当にこのまま突き進んでいいのだろうかと不安になる穂乃果を激励するコウタ。何事も順調にはいかないのです。
そして悩むアキトに自分を例に教えてあげることりたそ。
答えを見出したアキトは果たして、愛染狗道に一矢報いることが出来るのか!?
次回もお楽しみに!
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