立ち上がる者が必ず、
勝者になるとは限らない
突然、それはイーヴィングルに備えられてある各スピーカーから流れ出した。
まずハウリングが響き渡って楽しげに観光を楽しんでいた人々が何事かと怪訝そうな顔をする。
そして、直後に理解出来ない音が流れ出す。だいたいの音は人間の言葉で表現出来るものだが、流れ出したそれは聞いた事のない音だった。
『なんだ………うわっ!?』
喫茶店でコーヒーをインベスに注いで貰っていたアメリカ人の男性は胡乱気に顔を上げていたが、カップを持つ手に熱さを感じて驚く。
見るとインベスがコーヒーメーカーを注ぐようにして固まっており、カップから溢れてしまっていた。
痛みが走って引っ込め、男性は当然の如く罵声を飛ばした。
『テメェ、何しやがる!? 火傷しただろうが!』
しかし、インベスは謝る仕草もせず呆然とそのままコーヒーメーカーを注ぐ。
可笑しい、と男性が不審に思った時、後ろの方で轟音と悲鳴が轟いた。
振り向くとウェイターのキャップを頭に乗せたインベスが女性客に対してその爪を胸元へ突き刺している所を目撃してしまった。
鮮血が吹き出し、店内の装飾品類を地獄絵図のように真っ赤に染め上げる。
楽しそうな観光地が瞬く間に地獄の1丁目と化したのを見て、男性は顔を青くして震え上がった。
何が起こっているのかわからないが、この場を支配しつつあるのは恐怖で、この場に留まっていては命がない事が即座にわかった。
男性は逃げ出そうと立ち上がろうとして、背中に鋭い痛みを感じて倒れ込んだ。振り向くとコーヒーを注いだ形で止まっていたインベスが、その強靭そうな爪を振り下ろした形でいた。その爪先には滴る赤い血。
それが誰の血かなど、考えるまでもなかった。
『がっ、ァァァァァァァァ!!』
男性の絶叫が轟き、さらなる悲鳴が上がる。
逃げなければ、と身体を動かそうとするも意識に反してまったく言う事を聞かない。まるで別の何かが身体を支配しているかのように。
そして。
「……………ギィ」
『ひっ…………!』
鮮血を滴らせながら振り上げてくるインベスに、男性は恐怖の形相を浮かべる。四肢は動かないのに顔だけは自由に動かせる事が、自分に降りかかる結末を突きつけられているようだ。
ひゅぅ、ひゅぅと喉奥から息が漏れる音が響きながら、震える瞳で男性はインベスの爪を見る。それは容赦なく振り上げられ、男性の頬に落ちていく。
やがて、それは男性めがけて振り下ろされる。
最後に思ったのは、
『俺達はこんな奴らと共存しようとしていたのか…………』
世界に対しての絶望だった。
「……………ん?」
最初の異変に気付いたのは啼臥アキトだった。
「どうかしたん?」
周囲を見回していると、アイスクリームを片手に持った東條希が声を掛けてきて、アキトは煮え切らない声を返す。
「いえ、その…………」
「何よ、はっきしりしなさいよね」
「っていうか、ミッチの事探さなくていいの?」
希の正面の椅子に座って同じようにアイスクリームを救っている矢澤にこに、ジト目を向ける西木野真姫。片手にはアイスコーヒーが握られており、彼女は座らずに立ったままでいる。
「どうやってこれだけの人混みの中からミッチとアネモネを探すっていうのよ」
4人がいるのはイーヴィングルのショピングモールの2階に位置する喫茶店だった。
スクールアイドルμ'sの夏合宿は佳境に突入し、アイドルとしての練習のみならずユグドラシルコーポレーションが開発した新商品のCM撮影を終えたところだ。今はそれの編集待ちで時間を潰す事となり、こうして街に遊びに来ているのである。
もっとも、この4人には別の目的がある。
μ'sの協力者である呉島ミツザネが、この島で出会った少女アネモネに恋をしてこの時間に密会を予定しているのだ。
最も、予定していたというよりも真姫がそうした方がいいと勧めたら、即その場でデートの約束を取り付けたらしい。
流石にそれはデリカシーねぇな、とアキトは頬を引き攣らせたが、真姫は普段のように振舞ったようだ。
『今更ミッチの事を………なんて、言える訳ないじゃない』
しかし、そう語った時の真姫の表情はとても悲しそうで、今にも泣き出してしまいそうであった。
そんなこんなで、希とにこの提案でミツザネを尾行する事にしたのだが、人混みの多さで簡単に見失ってしまったのでこうして普通に遊んでいるのである。
「んー?」
そんな会話をしている3人に背を向けながらアキトは唸りながら周囲を見回す。
突然であるが、言いようのない空気を感じたのだ。世界が悪意に満ちたような、まるで戦場の中に放り込まれたような。しかし、その度合いは今までアキトが感じてきたものよりも薄く、気のせいと思ってしまえばそれで済まされる程度のものだ。
しかし、直感ともいうべきものが確実に警鐘を鳴らしていた。この感覚を無視してならない。悲劇の前触れともいうべき感覚。
「さっきから何唸ってるのよ」
「いや、何というか…………」
はっきりしろ、と言うにこにどう表現したらいいかわからずアキトはアイスコーヒーを飲んで喉を潤した時だ。
館内に設置されているスピーカーから突如、奇妙な音が響く。それは人間の言葉では表現のしようのないものであり、どのオノマトペにも出来ないものだ。
「なんだ…………?」
怪訝そうにアキトが顔を上げた瞬間、身体の奥底で何かが跳ねるように暴れ出した。それは一瞬にして身体を熱し、視界が瞬時に歪む。
「アキト!?」
真姫の声にアキトははっとなる。燃え上がろうとしていた熱が落ち着いていき、アキトは額に浮かんだ汗を拭う。
「どうしたの!?」
「わかんないっす………突然、身体の中にある何かが…………」
近寄って来たにこへ顔を向けた時、その背後に迫る何かに気付いた。
それはインベスだ。さきほどまでアキト達客にへこへこと頭を下げていた接客用のインベスが、にこ達3人の背後に立ち、その爪を振り上げていた。
「っ!」
「きゃぁっ!?」
反射的にアキトは目の前のにこを抱き寄せて飛びのき、振り下ろされた爪がにこの立っていた場所を抉る。
「えっ……………!?」
「な、何!?」
インベスに攻撃されたという事に真姫と希も反射的に距離を置き、アキトはにこの前に立ってインベスを睨む。地面にめり込んだ爪を引き抜きゆらりと立ち上がる姿は、先ほど接客してくれたものよりも神田で見かけた暴走インベスを思わせた。
いや。
これは紛れもない暴走したインベスだった。
「こいつ…………!」
「な、何が起こってるのよ!?」
にこの喚きを皮切りにあっちこっちから悲鳴と共に何かを壊す音が響き渡る。まるでテレビでよく見る暴動が起きたような空気に、3人の少女の顔が青くなった。
この島においての暴走インベスが発生する意味をこの場にいる4人は知っている。ちょうど、昨日の事件で話したばっかりである。
「インベスの暴走………っ、アキト!」
「ちぃっ」
舌打ちをしつつアキトは真姫の制止を振り切ってインベスに突撃する。初級インベスの動きは緩慢であり、撃破する事は不可能だとしても押し倒すなどして行動を遅らせる事は出来るのだ。
アキトはインベスを押し倒すと、即座に戦極ドライバーに手を伸ばす。しかし、その手を真姫が掴んで止めた。
「ダメ! アキトは変身しては!」
「けど!」
アキトは昨日、変身して大きな問題に巻き込まれた。それはμ'sを巻き込んだ大事になってしまい、戻ってきて凛と約束したのだ。
もう変身はしない、と。
わかっている。しかし、この状況を打破するにはこれ以外の方法が思いつかない。
「逃げるわよ!」
にこにもう片方の手を捕まれ、走り出す。周りを見れば同じように逃げ惑い始めた観光客達で埋め尽くされ、アキト達はどこへ向かえばいいのかわからず逃げ出した。
背後から迫る
#############
『ソイヤッ! メロン・スカッシュ!』
戦極ドライバーから咆哮が轟き、エネルギーが無双セイバーの刀身を翡翠色に染め上げる。それを遠慮なく横に振り払い斬撃を飛ばすと、目の前に迫っていたわらわらとしたインベス達を薙ぎ払い撃破していく。
ユグドラシル主任兼μ'sの顧問である呉島タカトラが変身したアーマードライダー斬月は無双セイバーを構え直し、背後で脱出の準備を進めている社員達に叫ぶ。
「機材は放置! 怪我人を優先して脱出するんだ!」
「は、はい!」
斬月の命令に慌てて返事をして怪我をした同僚に肩を貸す社員達。
本当に一瞬だった。
μ'sの撮影を終え、それの編集作業をしていた所に外部からのハッキングで社内に流れ出した理解不能の音。その直後、社に滞在していたインベス達が突如暴走。社員に襲い掛かって来たのだ。
滞在していたアーマードライダー部隊はここのみならず、市街地でも同様の事件が発生した為急行。アーマードライダー以外でもインベスに通用している特殊兵装はある為、少数での鎮圧を開始した。
しかし、元々インベスを扱った実験を島全体規模で行っていたイーヴィングルには島に召喚していただけでなく、ヘルヘイムの森で控えていたものも含めると膨大な数のインベスとなるだろう。
それらを相手にいかに斬月とはいえど鎮圧するのは困難であり、もはや撤退を余儀なくされてしまった。
「きゃあぁぁっ!?」
悲鳴に反応して斬月が振り向くと、脱出経路を突き進んでいた先にインベスがわらわらと出現する。
「くっ…………!」
跳躍して前に躍り出た斬月は無双セイバーを振るうが、先ほど斬月が塞いでいた通路にもインベスは殺到している。このままではじり貧であった。
「主任! このままでは…………!」
「みん、な…………!」
社員の喚きに反応するように、足を怪我してしまった男性社員が告げる。
「俺達を捨て置け…………!」
「っ、そんな事……………!」
「私達はもう、ここまででいいです」
「僕達がいたら足手、まといになる。どの道、この怪我では……………」
「馬鹿な事を言うな!」
口々に告げられる言葉を、斬月はインベスを切り捨てるように叫ぶ。
「見捨てるなど出来るものか! 俺は、もう二度と理由のない悪意には…………!」
「その意気やよし。だけど、現実を見ずにすぐ理想を語ってしまうのは君の長所であり短所だね」
斬月の言葉を遮るかのように、頭上を飛び掛かる影が走る。
それは二足歩行で緑のカラーリングをしたロボットのようなものだ。ロックシードの形をしたコンソールにアーマードライダー黒影が搭乗しており、そこから操作しているのか機敏な動きを見せる二足歩行ロボット。
聞いた事はある。まだ開発段階で正式採用されていいないが、ベロニレックを隠れ蓑にして作られていた新たなロックビークルのはずだ。
「なんだ、あの本日のビックリドッキリメカは?」
「チューリップホッパーだってば。前に資料渡したろう?」
ぬっと背後から出てきたのは戦極リョウマ。ユグドラシルのヘルヘイム事業における根幹を作った男であり、タカトラの親友だ。
「お前ならどう見る?」
「この音じゃないかな」
そう言ってリョウマが指をさすのは通路に設置されているスピーカーだ。それだけで斬月は無双セイバーのバレットスライドーを引いて弾丸を装填すると、スピーカーにムソウマズルを向けてトリガーを引く。
放たれた弾丸は適格にスピーカーをぶち抜き、耳を鳴らしていた音が止む。
すると、襲い掛かろうとしていたインベス達の動きが止まり、やがて我を取り戻したように身体を揺らし始める。それはまるで「これは一体!?」と動揺しているようだ。
「なるほど、音が原因というのは間違いなさそうだな」
「根本的な解決には至らなそうだけどね。この建物を含めて島には数多くのスピーカーが設置されているし」
やれやれ、と他人事のように肩を竦めるリョウマに斬月は変身を解いて部下達に駆け寄る。
「ともかく、今はシェルターに避難するのが先だ」
「彼等はどうするんだい?」
リョウマの言う彼等とは、当然インベスの事だ。しかし、本当に音ご原因でインベスが暴走しているのならば、下手に連れていく訳にもいかない。
「残念だが置いておくしかあるまい」
本当ならばこの場で処分する、というのが適正な判断なのだろう。しかし、今の彼等は暴走などしていない普通のインベスだ。どうやっても手を掛けるという事が出来なかった。
「…………まぁ、それでもいいけど」
その事は当然、リョウマも見抜いているだろう。しかし、特に追及する事なく、そのまま黒影達に指示を出す。
それを尻目にタカトラは携帯を取り出し画面を確認するが、そこには誰からの着信もなく圏外の文字が非情に映し出されている。
「みんな、無事なのか………」
市街地でも同じような事が起こり、恐らく至る所で暴動が起きているだろう。
神田でも揉め事に巻き込まれているとはいえ、スクールアイドルとはいえただの女子高生だ。
この場が落ち着き次第、街へ駆り出す事を決めてタカトラは避難誘導を始めるのだった。
突然暴走し出したインベスに対して、九紋カイトが取る方法など1つしかなかった。
「変身」
『バナナ!』
愛用のバナナロックシードを解錠し、戦極ドライバーにセット。スライドシャックルを押し込んでカッティングブレードをスラッシュするのと同時に駆け出した。
『ロックオン。カモンッ! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』
アーマーパーツがカイトの身体を包み込み、その姿をアーマードライダーバロンへ変える。
バロンはアームズウェポンであるバナスピアーを握り締めながらわらわらと迫りってくるインベス達に向かっていく。
本来ならば絶望的な数であるが、それを希望に変えてしまうほどの強さをバロンは持っていた。
だから、残された絵里達のやるべき事も決まっている。
「避難誘導するわよ!」
「って、言っても絵里ちゃん………」
「ここ、外国だから日本語通じないんじゃ………」
ここはいつもいる神田ではない。どこへ逃せばいいのか、言葉が通じないなどの壁はある。
しかし。
「とりあえずそれっぽい事叫べば大丈夫よ」
「賢くねぇ! というか、もう周りの人達避難し始めてるっぽいよ!」
凛の言葉に絵里が周りを見ると誰もかれもが我先にと逃げ出していた。それはまさきく蜘蛛の子が散らすように。
「やっぱり日本と違って危機意識が高いのかな?」
全世界に渡って広がっているインベスを扱っているのは、日本企業のユグドラシルのみだ。話しでは今でこそ海外展開しているが、最初は資金援助のみで日本のみで事業を行っていたらしい。
日本で日常茶飯事に行われているインベスの召喚というのも、外国ではあまり見られない光景だとタカトラの授業でやったのを覚えている。
となると、絵里達に出来る事はない。
「なら、私達は………」
常識的に考えて絵里達が取るべき行動は他の一般人と同じ避難だ。知り合いにアーマードライダーがいたとしても3人はただの女子高生であって、その場に留まっても邪魔にしかならないのだから。
だけど。
あの時、9人は誓った。彼等が戦う理由を知って、何故同じ子供なのに剣を取る理由を知って。
誰かの為に必死になってくれている彼等に、μ's以外の誰が必死になろうか。
「カイトは………」
絵里が目を向けるとバロンはバナスピアーを振り回し、群がるインベス達を吹き飛ばしている所だ。まるでゲームのように掃討される様を見てつくづくバロンの力を見て、もうこの世で彼に勝てる存在は片手で数えるくらいなのでは、と思ってしまいそうになるくらいだ。
しかし、どこか不安を覚えたらしい凛が絵里の服を引っ張ってきた。
「ね、ねぇ………なんだか、いつもより荒々しくないかな?」
「えっ………?」
一瞬、言っている意味がわからず絵里がまじまじとバロンを見ていると、
「っ!?」
倒れ込んだインベスを睥睨し、バロンはその顔面にバナスピアーを突き刺した。
あまりにも残酷な仕留め方に凛の後ろで花陽が怯えたように声を漏らす。だが、その殺し方は花陽だけどなく絵里と凛でさえも絶句してしまうものだ。
カイトは力や強さに一家言を持っているが、そこには正々堂々と正面から立ち塞がる壁をぶち壊すという流儀があった。
姑息、卑怯といったものを嫌い、特に這い上がった者に対してカイトは尊敬の念を抱いていた。それは特にインベスに対してが強く、よく戦いの後にインベス達が倒れた場所を悲しそうに見つめている所を見た事がある。
真っ直ぐな強さが、まさしくカイトだったはずだ。
なのに、その追い打ちをかけている姿は、普段の彼とはまったく異なっているように見えた。
「っ、カイト!」
言いようのない悪寒に襲われた絵里は、咄嗟に名前を叫ぶ。
すると、バロンは暴君のごとき攻撃を止め、まるで我に返ったように頭を振りかぶった。そして絵里を見やってから、戦極ドライバーのカッティングブレードを1回スラッシュする。
『カモンッ! バナナ・スカッシュ!!』
バナスピアーにエネルギーを集中させると背後から軍隊のように迫ってきていたインベス達を薙ぎ払うように振るう。斬撃がバナナのような黄色の波動を帯びて一閃し、3度ほどの攻撃で周辺を埋め尽くしていたインベス達は全て燃え盛った。
「カイト…………」
まるで何かを振り払うかのように荒々しく撃滅したバロンは、一瞬だけ黄昏るように残り火を見つめてからロックシードのキャストパットを閉じて変身を解いた。
「……………ちっ」
苛立ち気に舌打ちをしてカイトはこちらへと近付き、絵里達と合流した。
「大丈夫?」
「誰に物を言っている」
絵里の気遣いにも普段通りの返しをしてくるが、凛のどこか不安げな瞳にばつが悪そうに顔を歪める。
「………………わからん。突然、オレの中の何かが騒ぐような感覚が走った」
「何かが…………? どこか具合が悪いとか……………」
心配する花陽にカイトは背を向けながら腕を振るう。以前のカイトならば鋭い目で黙殺していただろうし、随分と丸くなったものだ。
「それにしても、どうしてインベス達が突然暴走し出したんだろう」
インベスは基本的に人間に対して友好的で、神田でだいぶ見かける回数が多くなってきたがこれほどまでに一斉に暴走が起きる事はない。昨日、説明された通りこの島においてインベスはユグドラシル社員として活動しているのだから、なおさらである。
凛が疑問を口にすると、カイトが目を細めながら公園に設置されているスピーカーを見やった。
「あの不快な歌のせいじゃないのか?」
「えっ?」
カイトの言葉に絵里は思わず声を漏らす。
「何だ?」
「歌? これが? ”音”、じゃなくて……………?」
先ほどからスピーカーから流れている不可解な音色。それを絵里はずっと音と感じていた。何せどの人語にも当てはまらず、オノマトペにもならない羅列なのだから”音”であるとしか判断出来ない。
しかし、カイトはこれを”歌”だと言った。歌とは絵里達が使う言葉の集まりで、メロディと共に奏でるものだ。
絵里の指摘にカイトははっきりとぽかんと口を半開きにしてまじまじと見てくる。やがて、確かにと目を細めて額に手を当てた。
「…………何故だ」
「カイト…………?」
「オレは、何故これを歌だと思った?」
譫言のように自問し、カイトの瞳が大きく震える。ひび割れてしまいそうになるくらい大きく見開かれ、今までの中ではっきりと動揺し心が揺さぶられている事に絵里達は驚いた。
そして、その状況は決して良くないと直感が告げる。
「カイッ……………!」
抱きしめてもいい。その手を握るだけでもいい。とにかく何か、彼を落ち着かせなければと絵里が手を伸ばした瞬間。
銃声と共に4人のすぐ傍を爆発が襲った。
「っっ!?」
突然の敵意にカイトですら反応出来ず、直撃は免れたものの衝撃で身体が吹き飛ぶ。まるで磁石に引っ張られたような、もしくはロープが身体に括りつけられていて引っ張られたような感覚に絵里は胃の中に入っているものを吐き出しそうになった。同時に肺の空気もおかしくなったように抜けて、地面に叩き付けられて出来た事は咳き込むだけだった。
「っぁ…………」
「な、何……………?」
視界が明暗し不良になるも、すぐ傍で花陽と凛の声が聞こえる。
そして、じゃりっと石を踏む音が耳を貫く。
「えっ…………」
絵里より先に回復したらしい凛が、虚の声を漏らす。
次第に視界が蘇った絵里が顔を上げると、そこに立っていた存在に瞠目せざる得なかった。
「…………………鎧、武?」
4人より少し離れた場所に、アーマードライダー鎧武がいた。仲間でもある葛葉コウタがカイト同様に戦極ドライバーで変身する最初のアーマードライダー。
その姿。右手に握りしめた大橙丸。左腰に下げられた無双セイバー。どれをとっても鎧武である。
ただし。
色合いはオレンジ色を基調としているのではなく、赤い。とにかく赤い。鎧も刀もロックシードも。まるで血をぶちまけたかのように赤く、さらに向けられているはっきりとした殺意も相まって邪悪な存在にしか見えなかった。
「コウタ、君……………?」
「な訳あるか」
花陽の言葉に吐き捨て、立ち上がってカイトはもう一度バナナロックシードを構える。
しかし、それを解錠するより先に。
「絵里、逃げろ」
「カイト……………?」
思いもしない言葉に絵里はカイトを見やると、再び驚愕が襲う。
「こいつは、強い…………!」
「アーマードライダーバロン。九紋カイトだな…………」
立ち止まった赤い鎧武はカイトに言葉を投げる。
「だったらどうした?」
「私怨はない。が、計画の邪魔をされる可能性があるものは排除する」
赤い大橙丸を向けられ、しかしカイトは一歩も引かずにバナナロックシードを解錠した。
『バナナ!』
「やれるものならやってみろ…………! 変身!」
『ロックオン。カモンッ! バナナアームズ! ナイトオブスピアー!!』
先ほどと同じようにしてカイトはバロンへ再び変身する。
召喚されたバナスピアーを構えると、一瞬にして間合いを詰めて突き出す。カイトの槍裁きは東京に存在するアーマードライダー達の中でも避けたり防げる者は少ないと言われている。
それほどまでに強力で鮮麗された突きを、赤い鎧武は大橙丸を突き出して切っ先で受け止めた。
「っ!?」
「なかなかの攻撃だ。だが」
一撃を切っ先という点で防がれた事に驚愕してしまったのか、バロンが茫然となる。それは完全な隙であり、赤い鎧武が大橙丸を振り上げてバナスピアーを弾き、無防備となった胸部装甲に大橙丸で斬り付ける。
火花と共に金属が擦り切れる音が響き、バロンが人形のように吹き飛ぶ。衝撃が死んでいないのか何度も火花が炸裂し、バロンは苦悶の声を漏らしながら倒れる。
「っ、このっ……………!」
『カモンッ! バナナ・スカッシュ!!』
エネルギーを纏わせた槍を突き出し、黄色い刃が赤い鎧武に向かって伸びる。しかし、赤い鎧武は無双セイバーを抜刀し、バレットスライドを引く。
放たれた弾丸は数発、黄色い刃に命中しバロンの攻撃は砕け散った。
「ならば!」
『マンゴー!』
『ロックオン。カモンッ! マンゴーアームズ! ファイトオブハンマー!!』
バナナロックシードとマンゴーロックシードを取り替えてアームズチェンジをする。汎用性の高いバナナアームズから重鈍で強力なパワーを秘めたマンゴーアームズへと。
「おぉぉっ!」
マンゴーパニッシャーを振り上げて駆けていき、赤い鎧武へ振り下ろす。しかし、それはバナスピアーと比べて遅い振りであり、赤い鎧武は優々と避け背中に無双セイバーを振り上げた。
「ぐぁっ…………!」
「そんな……………!」
反撃しようとマンゴーパニッシャーを振るうも掠りもせず、反撃ばかりを許してしまうバロン。それは絵里が見てきた中で最大級の劣勢だった。
「………………っ!」
『カモンッ! マンゴー・スパーキング!!』
斬撃に吹き飛ばされ地面に転がったバロンは立ち上がり、戦極ドライバーのカッティングブレードを3回スラッシュした。
ロックシードが一度に解放出来る最大限のエネルギーをパマゴーパニッシャーに纏わせると、巨大な鎚となって敵を襲う。
赤い鎧武はそれを大橙丸と無双セイバーで防ぎ、エネルギーが爆発する。その中でも苦悶の声を漏らす事なく拮抗すると、無情にも黄色い鎚が消し飛ぶ。
「なんて強さだ……………!」
愕然としたバロンの言葉は、今のが最後の手だった事を現していた。
『ブラッドオレンジ・スカッシュ!』
ギター音の直後に、怨嗟が轟き大橙丸が怪しく光る。
そして。
「絵里、凛、花陽……………!」
震える声が、絵里の耳に届く。
「逃げろ…………!!」
「カイトォォォォォォォォォォッ!!」
悲鳴にも近い声は爆発によってかき消され、絵里達の眼前を爆炎が立ち上る。
熱風が3人の間を駆け抜けて視界を奪われる。次に見た光景は燃え盛る海の中に悠然と立つ赤い鎧武の姿だった。
「そんな…………」
どこにもバロンの、カイトの姿が見えない事に絶望が絵里を襲う。瞳から悲しみの涙がじわりと溢れ、歪んだ世界で赤い鎧武がゆらりとこちらを見やった。
「武神鎧武………」
後ろでぽつりと花陽が嘯く。畏怖を、そして計り知れない何かを秘めた声色で。
「なるほど。そういえば君達の仲間にも鎧武はいたのだったな……」
赤い鎧武は足を止めて大橙丸を肩に担ぎ、左手で顎を摩る。
「鎧武の偽者だのパチモンだと言われるのにも飽きた事だし、今この場より名乗ろうか…………武神鎧武、と」
赤い鎧武改め、武神鎧武はそう言い放って、不意に背後を振り返る。
その瞬間、風が巻き起こり爆炎を吹き飛ばした。その勢いは盛っていた炎を鎮め、中から2つの影が飛び出す。
それは膝を付いている絵里達の前に着地すると、抱えていた少年を差し出してきた。
「この馬鹿を頼むわ!」
「カイト!」
「ヨウコさん!」
飛びだきてきたのはアーマードライダーマリカ。カイトの姉である湊ヨウコ(結婚したので旧姓は九紋)が変身した姿であり、その強さはカイトをも圧倒してしまうほどのものである。
マリカからカイトを受け取り、思わず絵里は息を飲んで口を抑えてしまう。肌は至る箇所が焼け焦げており、着ている衣服もボロボロで、腕からは出血が夥しい。
一目で理解出来るほど、カイトは重症だった。
マリカは桃黄扇を構えると、武神鎧武へと肉薄する。扇子と刀という本来ならば拮抗するはずのない武器がぶつかり合い、火花を散らす。
しかし、桃黄扇は大型の武器であり、マリカが扱いに慣れているとしても相手は刀。刀は元々は敵を攻撃する為の物であり、武器としての優位性は高い。
故に、マリカの攻撃を簡単に捌き切った武神鎧武は大橙丸を横一文字に斬り払う。
「っぁ…………!」
火花を散らしながら吹き飛び地面を転がるマリカに、絵里は恐怖を覚えて強くカイトを抱きしめる。カイト以上の強さを持ったマリカは、絵里の知る中で最強の名に相応しい力を持っているはずだ。
そのマリカでさえも、武神鎧武に圧倒されてしまっているのだから。
「くっ、なんて強さなの…………」
「………………強く、逞しくなったものだ」
立ち上がり桃黄扇を構えたマリカが手を止まる。その仕草は驚いたようで、まるで愕然としているようだった。
「な、えっ……………」
息を飲んでマリカが呟くと、武神鎧武は戦極ドライバーに手を伸ばしてロックシードのキャストパットを閉じる。
身を包んでいたライドウェアが粒子となって消え去り、変身者の姿が露わになった。
「なっ……………!?」
「えっ……………!?」
「そんな………!?」
絵里も、凛も、花陽も現れた人物に驚愕を禁じえない。それほどまでに予想外過ぎる人物だった。
「どうして、貴方が……………!」
「……………瀬賀先生」
絵里の愕然とした言葉を引き継ぐように、マリカがその人物の名を呟く。
そこに立っていたのは、タカトラやヨウコの高校時代の恩師であり、この島で出会った男性。
瀬賀長信であった。
「まさか、この島にタカトラだけでなく九紋まで………いや、今は結婚して湊だったか。祝言を上げたいところだが、そんな状況ではないのでな」
「どうして先生が赤い鎧武………黒の菩提樹に…………!?」
再会を喜ぶ姿はまさしく普通の優し気な男性なのに、背後に燃える公園とカイトを倒したという現実。間違いなく敵であるという事を感じ、絵里は背筋が凍るような思いだった。
「……………残念だ」
『ブラッドオレンジ!』
再びロックシード、ブラッドオレンジロックシードを解錠して瀬賀は睥睨してくる。
「この手で教え子を殺さねばならぬ時が来るなんてな。変身」
『ロックオン。ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道オンステージ!!』
怨念のような咆哮と共に瀬賀の姿が再び武神鎧武へと変わる。それを受けて戦闘態勢になるマリカだが、相手が恩人と知って戸惑いが妙実に出ていた。
それを無視するようにブラッドオレンジロックシードを無双セイバーにセットし、バレットスライドを引く。エネルギーがムソウマズルに収束していき、赤い光が集まって行く。
「さらばだ」
「っ、行けない……………!」
『ブラッドオレンジ・パワー!!』
咄嗟にマリカが庇うように立ち上がり、同時に武神鎧武がブライトリガーを引く。ムソウマズルから吐き出された血のように赤い閃光が走り、絵里達の前で弾けた。
数十秒もの間、衝撃が弾け続け、絵里がようやく目を開けた時に飛び込んできたのは変身が解けて膝を着くヨウコの姿だった。
「ヨウコさん…………!」
「っ、無事…………かしら………?」
息絶え絶えになりながらも笑ってみせてくれるヨウコだが、絶望的な状況は変わっていない。むしろ、さらに悪化していると言ってもいいだろう。
カチャリ、と無双セイバーの銃口を向けられ、身体を固くしてしまう。蘇ったのは秋葉原で人質にされてしまった時の記憶だ。
だが。
『マツボックリ・オーレ!!』
音声と同時に頭上から雨のような衝撃が武神鎧武を襲い、さらに組み付く影が2つ現れる。
「九紋さん、逃げてください!」
「貴方達……………!?」
アーマードライダー黒影。ユグドラシルに配備されている量産ライダーであり、強さとしてはとてもじゃないが武神鎧武に叶うものではない。
しかし、2人の黒影は果敢に武神鎧武に挑み、ヨウコへと目を向ける。
「けど…………!」
「アンタの目的を見失うな!」
「オタッシャデー!」
このままでは確実に2人は死ぬ。その未来が見えていたからこそヨウコは加勢しようと力むが、痛みで思うように動かないようだ。
仲間達の後押しに、ヨウコは悔しそうに顔を歪ませる。しかし、カイトの肩に手を回して担ぎ上げると、絵里達3人に向けて言い放つ。
「逃げるわ!」
「っ、でも!」
それはあの2人を見殺しにするという事。それが容易に想像出来るから花陽が叫ぶ。しかし、ヨウコはあくまでも現実を突きつける。
「私達がいて何が出来るというの!」
この場にいても、戦う力のない3人はもちろんの事、気絶したカイトや怪我人のヨウコは足手まといでしかない。
ならば取るべき事は、より希望を残す事だ。
「さっさと行く!」
影松を振り回しながら叫ぶ黒影に急かされ、花陽も意を決したように凛の腕を引いて走り出す。それを追いかけるように絵里もカイトの肩を担いで走り出す。
その最中、背後をちらりと見ると、火花を散らして斬られていく黒影。
それをどうにも出来ない悔しさ、ライダーを置いて自分だげ逃げてしまう罪悪感によって絵里の瞳に涙が流れてしまうのは、当たり前の事だった。
同時刻に発生したインベス暴走事件。
それを鎮圧する為に各ライダー部隊は島中に展開するも、それを妨げる者達が現れた。
その名は『黒の菩提樹』
かねてよりインベス否定派として社会的にも活動が報告されてきたテロ集団である。
暴走インベスを付き従えるようにして現れた黒の菩提樹の先兵、アーマードライダーグリドン達の出現により、人々はさらなる混迷を迎えるのであった。
『ソイヤッ! イチゴ・オーレ!!』
ロックシードの咆哮が響き、アーマードライダー鎧武の放ったエネルギー球体が炸裂し無数のクナイをまき散らす。それによってほとんどのインベスが沈んでいくが、それを掻い潜ってグリドンが肉薄してくる。
「コウタ!」
「大丈夫だ!」
不安を覚えた園田海未が叫ぶと、コウタは無双セイバーを抜いてドンカチを受け止めて即座に反撃する。
アキトを知る青年と別れてから海未とコウタ、高坂穂乃果と南ことりは買い物を楽しんでいた。と、言っても大きな買い物は出来ないので見るだけのものだが、前もってこの島の飲食店で食べれるフリーパスを貰っていたのですぐに食べ歩きモードへと移行したのだが。
そんな時だ。あの音が流れ出したのは。その直後に暴走インベスが出現し、当然のようにコウタは鎧武へと変身して鎮圧の戦いを始めた。
しかし、そこへある一団が介入し始めた。
それがあのグリドン。黒の菩提樹というテロ組織だ。
黒の菩提樹に関しての情報は海未もテレビなどで知っているくらいだが、過激なテロ集団という認識を持っている時点でろくな連中ではない、と思うのは当たり前だった。
「アンタらがの騒動を引き起こしたのか!?」
「そうだ!」
意外にもあっさりと肯定したグリドンがドンカチを振り下ろし、それを避けた鎧武が無双セイバーを向けて間合いを測るように腰を落とす。
「インベスなどという脅威と共存などと
グリドンはそう告げて、少し離れた所で暴れてるインベスを示す。
「あんな暴虐性を秘めた化け物を良き隣人だと!? 君とて何度もこうやって暴走したインベスを処理してきたのならば、わかるだろう!?」
「っ、それは…………!」
グリドンの指摘に言い返せず、鎧武は思わず視線を逸らす。確かに一緒になってからも、鎧武は時に野良、時に誰かの陰謀によって襲い掛かってくるインベスを切り伏せてきた。
そんな鎧武にしてみれば、インベスは共存出来る相手というよりも倒すべき敵という認識の方が強いのかもしれない。
「お前も感じているのだろう? こんな奴らと一緒に生きていくなんて不可能だって。我々の技術で怒りを誘発出来るほどに愚かな存在が、人間に仇名す牙を常に持っているのだからね」
その言葉に海未は暴れているインベスを見やる。さきほどまでは接客していたはずのインベス達が突然暴れ出したのは、やはり黒の菩提樹が原因だという。
「酷い……………!」
「なんて、最低な事を……………!」
ことりが呻くのを聞いて、海未も憤りを隠す事が出来ない。
海未も自分のインベスを侵略者などと考えた事は一度もない。物心ついた頃から一緒にいた彼らは兄であり、弟であり、友達だった。褒めれば照れるし、海未に何かあれば一緒に悲しんだりして感情がしっかりある。
それを、何かで縛って従わせるなど、外道の所業以外の何者でもなかった。
おそらく、仮面の下でにやりと笑っているであろうグリドンは鎧武へ手を差し伸べる。
「君もこちらへ来るといい。君なら理解出来るはずだ、我々の理想を」
「ふざけんな」
しかし。
鎧武は吐き捨てるように一蹴した。
「理解なんか出来る訳ねぇだろ。インベスは敵だ、って言っているような連中の理想なんて」
「君は今まで何度も暴走したインベスと戦ってきた。ならば、わかるはずだ!」
「いいや、わからねぇな。だって」
そこで区切って、鎧武はこちらを見やってくる。より正確には、海未の隣にいる穂乃果を。
ちくり、と胸が痛んだ。
「この世界はインベスと一緒に生きてる。なのに、それを無視してただ敵だと決めつけて滅ぼそうとさせるなんて」
ぐっ、と拳を強く握り締めて鎧武は無双セイバーを構える。
「絶対ェ許さねぇ!!」
「っ、ガキが…………!」
咆哮と共に鎧武がグリドンへ斬り付け、その気迫に飲まれて防御する間もなく火花を散らす。慌てて反撃するも鎧武の猛攻は止まらず、グリドンが吹き飛ぶ。
「わ、我々の崇高な計画の邪魔をするな…………!」
「普通のインベスを暴走させて観光客を襲わせる。そんなろくでもない計画立てといてふざけんな!」
『ソイヤッ! イチゴ・スカッシュ』
グリドンの喚きを無視すように鎧武はカッティングブレードを1回スラッシュする。無双セイバーに赤いエネルギーが集まっていき、それをグリドンに向かって斬り付ける。
「うおぉっ!?」
ただの斬撃ではなく強力無比な一撃はグリドンを吹き飛ばし、火花とともに倒れ込んで変身が解かれた。
そのまま気絶した黒の菩提樹構成員に目もくれず、鎧武は今だに人を襲おうとしているインベスと向き直る。
「…………ごめん」
『オレンジ!』
短く呟いて、鎧武はオレンジロックシードを解錠する。それは普段、まず最初に使用しているアームズであり、1番使い慣れている力だった。
「人間の身勝手な思惑なんかに巻き込んで………」
「コウタ君………」
鎧武の声色は今にも泣き出してしまいそうなくらい震えており、拳はこれ以上にないくらい握り締められている。
それだけで鎧武が感じた悔しさを察したのか、穂乃果が悲しそうに名を呟く。
それだけなのに、何故かまた胸が痛む。
「今、楽にしてやる」
『ロックオン』
介錯のような気持ちなのだろうか、とイチゴロックシードとオレンジロックシードを交換する鎧武の背中を見つめながら、漠然と海未は思う。
ロックシードを入れ替えた事によってイチゴアーマーパーツが消えて、頭上のクラックからオレンジアーマーパーツが出現する。
あとはカッティングブレードを倒してアームズチェンジする。
はずだった。
瞬間、海未達が建っている通路の少し離れた場所に緑色の影が降り立った。
それは海未が目を向けるよりも早く、聞き覚えのある撃鉄音と銃声を響かせて紫色の弾丸を吐き出した。
「がっ………」
撃ち抜かれたのは、ライドウェアが剥き出し地になった鎧武の背中だ。
「コウタ君!!」
悲鳴に近い叫びを上げて、穂乃果が駆け出してことりが追いかける。
アーマードライダーはアーマーパーツこそ強固な防御力を誇る鎧を纏っているが、意外にもその他のスーツ。つまりライドウェアの防御力はほとんど皆無であり、その部分はアーマードライダー共通の弱点だ、とコウタ自身が話していた事を思い出した。
つまり、今コウタはほぼ生身で銃撃を受けた事になる。
「何者で………す、か……………」
咄嗟にロックシードを構えて襲撃者を見た瞬間、虚を突かれたように海未の頭が真っ白になる。
「えっ………」
「そんな………!?」
コウタの元に駆け寄った穂乃果とことりも、その緑の影を認めて愕然とした声を漏らした。
海未も瞳が罅割れてしまうのではないかと思うくらいに見開き、自然と震える。それほどに、そこにいる存在は不可思議で、海未達からすればありえないものだった。
「……………何故ですか」
震える声で、海未はその影に問い掛ける。もしも海未が男だったのならば、畜生と毒の1つでも吐いているところだ。
「どうして、貴方がコウタを…………!」
貴方達の間に蟠りがあったのは、昔の事ではなかったんですか。
「ミツザネェッ!!」
海未の隣に降り立ち、コウタを撃った弟分でもあるアーマードライダー龍玄に向かって投げた叫びが人々の悲鳴に掻き消された。
呉島タカトラが所有するロックシード
・メロン
・ドリアン
・ヒマワリ
次回のラブ鎧武!は…………
「大丈夫?」
「は、はい………」
龍玄に挑み危ない所を助けてくれた民族衣装の青年。
「………………なーんか、引っかかのよ」
事件の最中に思う、真姫の疑問。
「皆さん、こんにちは。一昨日はお世話になりました」
瓦礫の中で踊る少女、アネモネがその本性を現す。
「僕の邪魔をさせる為に、君に戦極ドライバーを渡した訳じゃない」
「俺もだよ。お前のこんなバカげた事を止める為に、ベルトを受け取った訳じゃない」
激突する
次回、ラブ鎧武!
37話:WORLD END ~闘う者たち~
ハッス、ハッス!
どうも、グラニです。
転がり始めたストーリー。ここからこの合宿で埋めてきた謎を解明していく事になります。
やべぇ、ちゃんと解明できるのかな(爆)
さて、ここで暴走したインベスによる事件が起きた所で、この世界に対しての矛盾点を提示しています。
黒の菩提樹が言うように、インベスは簡単に人を殺せる爪を持っているのにも関わらず、この世界の人々は平然と接している。それは果たして正しい世界のありようなのか。
もちろん、その疑問は我々の世界にはそういった危険が隣り合わせにないからこそ首を傾げてしまうもので、本人達にしてみれば「いや、物心ついたころから一緒だし今更やん」程度の事なのです。
それが一体何を意味するのか。
そして、タカトラは音と判断したのにアキトとカイトは歌と判断したのか。
解明していかなきゃならないのに、さらに伏線を張り詰めるスタイル。
この先の展開を楽しみにしていてください!
ぶっちゃけ、謎という謎よりもどう活路を見出すのか、が正しいかもしれない。
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