ラブ鎧武!   作:グラニ

56 / 68


軌跡とは足跡。

今まで何をしてきたのか、振り返ればすぐそこにあるはずのもの。



42話:モザイクカケラ ~絶望の軌跡~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呉島ミツザネは、何度も転びそうになりながらも浜辺へと歩を進めた。

 

後ろからは9人分の足音が聞こえ、闇夜の浜辺にその音と漣の音だけが響き渡る。

 

「ミッチ…………」

 

どこへ行くのか、という質問を含めて高坂穂乃果が名前を呼んでくれる。

 

ミツザネは答える事なく進み、やがて目視でも海が見えるくらいの所までやってくると何も言わずに座り込んだ。

 

「………………海を見れば悩んでいる事が全て吹き飛ぶ、って聞いた事あるんですけど………嘘ですね」

 

誰に言う訳でもなく呟く。

 

海や空を見れば、たいていの悩みはなくなるという。広大な世界に対して、抱いている悩みなんてちっぽけなモノだと思うからか。

 

だとしたら、それは嘘だ。

 

それが本当なら、ミツザネの胸にわだかまっているどんよりとしたこの気持ちが晴れるはずなのだから。

 

「ミッチが抱えているそれは、ちっぽけなもの………じゃないからね」

 

傷つけないように、言葉を選びながら絢瀬絵里が嘯く。そこにはありありと、情けないという気持ちが感じられた。

 

ミツザネより2つ上のお姉さんなのに、この悩みを解決してあげれるほどの言葉を持ち合わせていない事に、酷く悔しい。

 

それは絵里だけでなく、親友の東條希と矢澤にこにも感じられて口元を緩める。

 

「……………すみません」

 

不意に出た言葉に、全員が息を詰まらせる。

 

謝罪の言葉は、様々なものがある。

 

唯一の希望であるはずのミツザネが、情に振り回されて迷惑をかけてしまった事。

 

アネモネに操られ、園田海未や高坂穂乃果、南ことりへ銃を向けた事。

 

ただの合宿になるはずだったのに、これほどの戦乱に巻き込んでしまった事。

 

「……………頭ではわかっているんです。でも、情がそれを阻む」

 

情は時に、諸刃の剣となる。

 

九紋ヨウコが先ほど述べた言葉が、ミツザネの脳裏を過る。

 

まさしく、その通りだと思う。敵に情けは無用という言葉は、情けを掛ければ殺す事に躊躇いが生じる事を示している。

 

情がなかれば、ただの傀儡と同じで人ではなくなる。しかし、情があるから人は思うように動く事が出来ない。

 

まさしく、情——心次第で人は善にも悪にもなれるのだ。

 

「どれが正しいのか、何が間違ってるのか…………僕にはわからない……………」

 

今まで戦ってきた相手にも、善悪を超えた所でぶつかる事は多々あった。それでも、相手の想いを知っても間違っていると確信が持てたから、真正面からぶつかる事が出来た。

 

だが、アネモネには情が動いてしまった。動いてしまった以上、今までのように真正面から叩き伏せるなど出来なかった。

 

しかし、そうしなければ世界は破滅する。ここにいる9人も、本土にいる音ノ木坂学園のクラスメート達も、別荘にいる兄やその同僚たちも、何もかもがインベスに蹂躙されてなくなってしまう。

 

わかっている。理屈や理由はわかっている。アネモネに銃を向けるのに、これ以上の理由は要らないくらい揃っている。

 

だけど、ここ一番で情が邪魔をしてしまっている。これでは例え目の前に立ったとして、引き鉄を引く事など到底出来なかった。

 

「…………そうだね」

 

不意に、隣に穂乃果が立って同じように海を眺めていた。

 

「うん、ミッチはアネモネちゃんの事を好きになっちゃったから…………戦うなんて、出来ないよね………」

 

頷き、されどゆっくりと自分の中にある想いを言葉にしようと選びながら、穂乃果は口を開いた。

 

「わかる、なんて気軽には言えない。私、馬鹿だし………ミッチが今、どんな想いなのかもわかってあげたいけど…………わからないから」

 

それは当たり前の事だ。穂乃果はミツザネではないし、思いというのは口にしなければ伝わらないものである。

 

「けど、苦しんでる……っていうのと、アネモネちゃんが大切、だってのはわかる」

 

1つ1つ、丁寧に確かめるように、リストにチェックを入れるように言葉を紡ぐ。

 

しかし、不意に穂乃果はこちらを見やってきた。

 

「…………ミッチはこのままでいいの?」

 

「えっ………?」

突然の質問に、思わず聞き返してしまう。質問の意味がわからず押し黙っていると、わかりやすくする為に言葉を砕こうと穂乃果があーだこーだと唸り始める。

 

しかし、どうも言葉にしづらいのか涙目になり、くるりと後ろにいる海未へ助けを乞う視線を送った。

 

「ミツザネ。このままではアネモネさんはタカトラ先生達と戦う事になります………それでいいんですか?」

 

溜息混じりに苦笑を浮かべ、穂乃果の言いたい事を見事に砕いて海未が説明する。

 

穂乃果が「流石、海未ちゃん」と喜んでいるのを他所に、ミツザネはその言葉を自身に投げ込む。

 

このままでは、アネモネは兄、呉島タカトラと激突することになる。ミツザネが戦いから目を背けようとも、もうその流れは変えられない。

 

それを是とするか否とするか、問われれば答えは決まっている。

 

「そんなの、嫌に決まってますよ」

 

好意を向けている少女と大切な兄が剣を交える。

 

そんな光景、出来れば避けたいのが当たり前だ。

 

「そんなの、嫌に……」

 

自分に言葉を投げた所で、ミツザネはμ'sのみんなが微笑んでいる事に気づいた。

 

「何か変ですか………?」

 

きょとんとした問掛けるに、ことりがいつものような優しい笑顔で首を横に振った。

 

「あのね、ミッチ」

 

一言区切り、星空凛が夜空を見上げて言った。

 

「昨日、アキトがヘルヘイムの森で行方不明になって、穂乃果ちゃんが『まるで私達がやっている事を否定されているようだ』って言った時、コウタ君が『そんな事ない』って励ましてくれたの……聞いてる?」

 

凛の伺うような言葉に、ミツザネは頷く。

 

昨日、凛の幼馴染である啼臥アキトがヘルヘイムの森へ行き行方不明になってしまった。新型ロックビークルのテストを本来だったらミツザネは葛葉コウタ、九紋カイトで行うはずだったのだが兄弟喧嘩で3人は出て行ってしまったのだ。

 

ただの合宿になるはずが、どんどん暗雲が差し掛かってきて、それを感じた穂乃果が吐露した弱音をコウタが激励したという。

 

思えば、昨日も昨日で波瀾万丈な日々だったと今にしてみれば思う。その忙しさは、この地獄の前触れだったのだろうか。

 

「励まされて、やってる事は決して間違いなんかじやない、って言ってくれて………とっても嬉しかった。けど、同時に悲しかった」

 

1つ区切り、穂乃果はそっと俯いて続けた。

 

「ミッチ達はたくさん、私達の為に何かしてくれる。ダンスの指導や、私達を狙ってくる人達から守ってくれる………だけど、私達はミッチ達に何もしてあげれてない。貰ってばっかで………今日の事件で、それが嫌ってほど身に沁みちゃった」

 

無力、と思うのは仕方のない事なのかもしれない。穂乃果達はスクールアイドルという肩書を持っていても、結局はただの女子高生。このような戦場のど真ん中で、出来る事など給仕の手伝いが関の山だ。

 

「でもね、無力感を感じても、それ以上に胸の奥から込み上げてくるものがあったんだ」

 

「……………込み上げてくる、もの?」

 

ミツザネが聞き返すと、返って来たのは意外な言葉だった。

 

「むかついたの」

 

「…………………は?」

 

一瞬、穂乃果が何を言っているのか耳が聞き入れられなかった。聞き間違いでなければ穂乃果はむかついたの、と言った。

 

あの穂乃果が。

 

天真爛漫と猪突猛進を絵に描いたような真っ直ぐで人を疑う事を知らず、人に対して悪意を感じた事がないのではないかと思うくらいで、老後で必ずオレレオレ詐欺に難なく引っかかってしまい、それでも太陽のような笑顔を浮かべていそうな。

 

あの穂乃果が、流石の理不尽を前に怒りを覚えた。

 

傍から見れば、これほどの非常事態に巻き込まれたのだから、理不尽さに負けて怒りを振り回しても不思議ではない。

 

しかし、穂乃果のニュアンスはこの事態に対する、という事ではなさそうだ。

 

「何に、ですか?」

 

「……………一番の大元を言えば、あの元議員さん」

 

音ノ木坂学院を廃校にしようと企み、ミツザネ達が転校してきた初日に大量のインベスを送り込んだ元議員、志木。

 

その存在は、ミツザネ達の手により監獄へと押し込まれたはずだった。しかし、志木は金に物を言わせて脱し、2つの脅威を持って再びμ'sの前に建ち塞がった。

 

結果は見事、チーム鎧武にとっては敗北と言っていいだろう。友の取り計らいで何とか関係は持ち直したものの、それでも負けたと言わざる得ない結果だった。

 

その志木が、今この島で起きている事件で介入し、あまつさえμ'sを巻き込むように指示したという。

 

「私達、ただ学校が廃校にならないように活動してるだけだよ。土地の価値とか、お金の問題とか、そういう細かい事は馬鹿な私にはわからない。けど、そういった理不尽さに、私達のアイドル活動が邪魔されている、って思ったら…………すっごく腹が立った」

 

口をへの字に曲げてそう告げる穂乃果に、ミツザネは目を瞬く。ちらりと周囲を見れば、同じように怒りを感じているメンバー達が映る。

 

そして、それらを見たミツザネは、ぽかんとした表情のまま肩を震わせ蹲る。

 

「ミッチ…………?」

 

反応に困惑の表情を見せる小泉花陽が名前を呼ぶと、それがダムに亀裂を入れたかのように声を荒上げた。

 

「っはっはっはっはっはっ!!」

 

大笑いという、楽し気な大声を。

 

「み、ミッチ…………?」

 

先ほどまでずっと一緒にいてくれて、心配そうにしてくれていた西木野真姫も突然の豹変ぶりに、違った意味での心配そうな目を向けてくる。

 

「ちょっと! 私達、真面目なんだけど!?」

 

「す、すみません…………ふふっ…………」

 

ぷんすか、という効果音が付きそうなくらいに頬を膨らました穂乃果に謝るも、笑いが噴き上げてきて顔をそむける。

 

だって、仕方ないじゃないか。

 

「まさか、穂乃果さん達から誰かに対してむかつく、なんて言葉を聞くとは思ってなかったから…………」

 

「…………私達を、何か聖人みたいに思ってませんか?」

 

達、という事は当然、海未やことり達も含まれている。そんな扱いを受けていた事を知ったからか、拗ねたように海未が目を細めてくる。

 

「いや、違いますって…………」

 

「………ミッチはウチらの事を、どう思ってたん?」

 

「もう、穂乃果が珍しくまともな事を言っているというのに………」

 

「って、絵里ちゃん!?」

 

希までもが判目になり、絵里が茶化して穂乃果が突っ込む。

 

「もう、みんなしてーっ!」

 

「…………けど、穂乃果の言う通りなのよね」

 

地団駄を踏む妹をあやすように頭を撫でて、絵里が強くミツザネを見据えてくる。こちらの罪悪感などを無視して、真っ直ぐに向けられた碧眼はいつも向けてくれるそれとまったく同じだ。

 

「私達、むかついた。志木に、この事態に…………でも、それ以上にね」

 

「負けたくない、って思ったのよ」

 

絵里の言葉を引き継ぐように、にこが言った言葉。

 

それは、不思議とミツザネの心に強くぶつかった。

 

「志木には何かしらの思惑があるのかもしれない。黒の菩提樹にはテロを起こすだけの悲劇があったのかもしれない。瀬賀先生にも、アネモネにも、世界を敵に回してでも成し遂げたい何かがあるのかもしれない」

 

「…………けどね、私達にとってそんな事は()()()()()()のよ」

 

「世界とかじゃなくて、私達は今目の前にある理由なき悪意(理不尽)に絶対に負けたくないの」

 

人は何かしらの理由で動いている。それは当人にとって大切で、譲れないから互いのそれを賭けてぶつかるのだ。

 

それぞれに、それ相応の理由があると知った上で。

 

にこと、真姫と、絵里の言葉は強くミツザネの心の扉を叩くようであった。何かを報せるかの如く、扉を壊さんとばかりに強く、激しく、打ち鳴らす。

 

「負けたら、今で私達がやってきた事が全部無駄になっちゃうから」

 

「全部無駄にする、という事は夢を諦めるって事………」

 

「走り出した足を止めるなんて、ウチらには出来へん」

 

凛、海未、希の言葉は教えてくれているようだった。静かに、まるで勉強を教えてくれているかのように。

 

何か、大切なものから目を逸らしていないかと。

 

そして。

 

「夢は、見るもじゃなくて叶えるもの」

 

「夢物語だって笑う人達に、こっちが笑い飛ばしてあげたいの!」

 

だって。

 

「夢なき夢は、夢じゃないでしょ?」

 

穂乃果の真っ直ぐな瞳に、ミツザネは瞠目を剥く。まるで頭をぶん殴られたかのような衝撃が走る。

 

最初の設問。

 

穂乃果は聞いてきたはずだ。このままでいいのか、と。好きな人と兄がぶつかる、その現状を認めていいのかと。

 

ミツザネは答えたではないか。

 

出来る事なら、止めたいに決まっている。

 

けど、そんな事は()()だ。こちらと向こうの戦力差を考えれば、そんな綺麗事が通るはずはない。

 

()()()()()()()

 

だけど、今目の前にいる9人はなんだ?

 

誰もかれもが、子供が廃校を阻止するという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではないか。

 

「……………そっか」

 

小さく呟き、息を吐く。

 

瞳を閉じて、

 

再び開く。

 

ものの5秒。たった小さな動きだったが、それは劇的な儀式だ。

 

もう一度息を吸い、そして吐き出す。

 

「……………()()()()

 

それはすぐ傍にあった。

 

どうしたらいいか、という気付けば簡単で、気付かなければ永遠に解けない問題の答え。

 

「僕はもう知ってた。僕はどうしたらいいか、なんて」

 

どれが正しくて、何が間違っているかなど誰かに問い掛けたって答えが返ってくるはずがないのだ。

 

それは人が立つ場所によって変わり、答えはその人が導き出すしかない。

 

ミツザネの場合は、間抜けと言われても仕方ないだろう。

 

何故なら、すでにその答えを言葉にしていたのだから。

 

「僕は、アネモネさんを止めたい…………!」

 

世界が、とか。戦力差が、とか関係ない。

 

「それが、僕のやりたい事…………!」

 

「ミッチ……………!」

 

瞳に焔が宿る。

 

それだけで身体に活気が戻ったような気がして、嬉しそうに笑む9人を見渡して頭を下げた。

 

「ありがとう。みんなは、気付いててくれたんだね」

 

「ミッチって、意外と抜けてる所があるからね」

 

片目を眇めてウィンクを決め込み、真姫が言った。

 

「もう、大丈夫ね?」

 

「うん」

 

真姫の言葉に、ただ頷く。

 

それだけで十分だったからだ。

 

「……………っ!」

 

「あれっ……………!」

 

はっと、海未が顔を上げてことりが海の方を指さす。

 

釣られて一同が振り向くと、闇に薄く溶け込むように飛翔するずんむりとした姿を認める。

 

「インベス……………!」

 

それは初級インベスであった。しかし、その視線は確実にこちらへと向いており、視認している事は確かだった。

 

「まずい、居場所が…………!」

 

「いえ、きっと逸れインベスだと思う。でなければ、1体で動いている事がおかしい」

 

絵里の悲鳴を遮り、ミツザネはそう返して取り出す。

 

戦極ドライバーを腰に巻き付けて、数歩前に出た。

 

「あっ、そうそう」

 

少し足を止めて、ミツザネは肩越しに穂乃果を見やった。

 

「穂乃果さん、何もあげれてないって言ってましたけど、そんな事ないよ」

 

「えっ…………?」

 

示してくれたからこそ、今度はミツザネの番だ。

 

その勘違いだけははっきりと否定しなければならなかった。

 

穂乃果達から何も貰っていない。そんな馬鹿な。

 

穂乃果には、μ'sにはミツザネはたくさんの物を貰っている。ミツザネだけではなくコウタも、カイトも。

 

それぞれが戦う理由。

 

証明。

 

贖罪。

 

信念。

 

それぞれを満たす上で、μ'sは切れぬものだ。

 

もしかしたら、他のスクールアイドルでもそれらは満たせていたのかもしれない。μ'sという奇跡がなくとも、戦えたと断言出来るには出来る。

 

だけど、今ここにいるミツザネは、μ'sに出会えたからこそ、こうしてここにいる。

 

彼女達のひたむきな輝きが、ミツザネを照らしてくれるのだ。

 

「確かに、みなさんは何も感じていないかもしれない………いえ、きっそれは自覚がないだけなんです」

 

彼女達の歌声は、ミツザネに勇気をくれる。

 

彼女達の踊りは、ミツザネを頑張ろうという気持ちにさせてくれる。

 

彼女達の笑顔は、ミツザネの笑顔を咲かせてくれる。

 

それはミツザネに限った事ではなく、μ'sのファンも同様だ。

 

だから、ぽっと出てきたスクールアイドルにファンがつく。他にあるようで無い物が、μ'sにはあるのだ。

 

「自覚がないのは、まだ夢の途中だからです。そのうち、きっと結果となってわかってきますよ」

 

チーム鎧武の時もそうだった。最初はダンスを見てくのは少数で、けれども続けていくうちに人気が出てきてダンスを見てくれるファンも増えてきた。

 

だから、μ'sもそうなる。いつか遠くない明日に、必ず。

 

「だから、心配しなくても大丈夫です。僕も、言葉にしないだろうけどコウタさんもカイトさんも同じように思ってますから」

 

だから。

 

「何もしてあげれてない、とか言わないでください。僕達は何が、欲しいから戦ってる訳じゃないんです」

 

ミツザネが見たいのは、9人が元気に踊っている姿だ。

 

ミツザネ達のビートライダーズという青春は、戦いの業火に飲み込まれてなくなってしまった。

 

今、見ているμ'sはまさしく、その青春の再来と言ってもいい。

 

だから、守りたいと思えるのだ。ひたむきに頑張るその姿を見たいから。

 

「その為にも…………」

 

強く愛用しているブドウロックシードを握り締め、目の前の敵を見据える。

 

ボロボロの身体では、戦闘など本当に一瞬しか出来ないだろう。

 

しかし、やると決めた。

 

ならば、もう引く理由など微塵もない。

 

「やるったら、やる!」

 

「……………ミッチ!」

 

前を見据えて戦意を漲らせたミツザネに、穂乃果だけでなく全員が同じ声援(エール)を送ってくれた。

 

「ファイトだよっ!!」

 

「……………変身!!」

 

 

『ブドウ!』

 

 

少女達の激励を受けて、ロックシードが咆哮と光を上げ頭上にブドウアーマーパーツが召喚される。それはまるで、主の帰りをに歓喜するかのように普段よりも輝かしい紫色の光を放っていた。

 

口元を緩め、大きく円を描くように腕を回し、敵に突き出してからドライブベイへ。

 

 

『ロックオン』

 

 

スライドシャックルが差し込むと、戦場を鼓舞するかの如く中華風の音が鳴り上がる。

 

そして、カッティングブレードをスラッシュしてエネルギーを解放。

 

 

『ハイィーッ!』

 

 

瞬時に全身をライドウェアが包み込み、アーマーパーツが装着されて展開した。

 

 

『ブドウアームズ! 龍砲、ハッハッハァッ!!』

 

 

もう曲げない。

 

やりたい事をやる。

 

子供のようにひたむきで、我儘で、どうしようもないくらい真っ直ぐに突き進む為。

 

今、女神たちの前に龍の咆哮を上げながらアーマードライダー龍玄は再び立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

##########

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タカトラは先ほどとは別人と思えるほどの、普段のように飄々と立つ弟から受けた報告に腕を組んだ。

 

「……………アネモネを止める、か」

 

「はい」

 

さきほど海岸ではぐれたインベスと遭遇し、撃破したらしい。

 

にも拘わらず、ミツザネの顔色は先程よりも良く、何より瞳に活力が戻っていた。正直、μ'sと一緒にいればいずれ立ち上がるとは踏んでいたが、早すぎやしないか。しかも、止めるなどという甘い事まで言い出して。

 

「現状を考えているのか?」

 

「もちろん」

 

「…………具体的にどうする気だ?」

 

「わかりません。それを今から考えます」

 

何の迷いのない切り返しに、思わず嘆息を吐き出す。

 

ミツザネは強かだとはカイトの談だったが、今はそれが別の意味で働いてしまっているようだ。現状を考えて、少ない戦力では出来る事は限られている。止める、という事は倒す事よりも困難の事である事はミツザネもわかっているはずだ。

 

「タカトラ先生」

 

ミツザネの後ろにいた穂乃果が、同じように真っ直ぐに見つめてくる。

 

「難しい事を言っているのはわかってます。でも、どうか力を貸してあげれませんか? タカトラ先生も嫌でしょう?」

「…………何がだ?」

 

真顔で尋ねてくる穂乃果に聞き返すと、ふんすと鼻息を荒くして答えてきた。

 

「将来の娘さんと戦うなんて、そんなの嫌でしょう?」

 

「……………すまん、まるで意味がわからんぞ」

 

「穂乃果が言いたいのは、将来の義妹と戦う事になってもいいのか、という事だと思います」

 

意味がわからず翻訳を頼むつもりで海未を見やると、疲れたように息を吐いて説明をしてくれた。

 

が、どこか論点がずれてやしないだろうか。とタカトラは思わず顳かみを指で押して思考を整える。見ればミツザネも「違う、そうじゃない」と言わんばかりに呆れた風だ。

 

しかし、今のがとうとうツボに入ったのか、少し離れた所で作業をしていた戦極リョウマと湊ヨウコが吹き出した。

 

「くっ、私の腹筋をここまで破壊してくるとは………!」

 

「流石、穂乃果ちゃんね」

 

「お前らな………」

 

人事のように語る友2人に、タカトラは眩暈を覚える。

 

「まぁ、君の負けだよ。奴らを止めようが潰そうが、ミツザネの力は必要不可欠だからね」

 

「……………」

 

確かにそうなのだが、納得いかん。

 

さきほどは凛がへの字に曲げていたが、今度はタカトラが口をへの字に曲げる番だった。似合っていないとはわかっているが、態度に出さずにストレスを発散するには致し方のない事だ。

 

「だが、本当に実際どうするうもりだい? 戦力差は間違いなく絶望的だよ」

 

「………それは……」

 

リョウマが嫌味ったらしく告げなくても、この場にいる誰もがわかりきっている事だ。

 

敵は島を埋め尽くさんとする暴走インベス。

 

対してこちらのアーマードライダーはたったの2人。もし1度に攻め込まれでもしたら大軍が食い散らかすように結果は明らかだ。

 

「………………あの」

 

と、そこで手を上げた海未に、全員が注目する。全ての視線が集まった事に持ち前の人見知りが発動しそうになって吃るが、凛とした顔つきで口を開いた。

 

「一度、情報を整理しませんか?」

 

「情報を?」

 

ヨウコが聞き返すと、海未は頷いて続ける。

 

「この島に来てから、アネモネに操られたミツザネの情報。タカトラ先生が別行動をしてから独自に手に入れた情報。私達が直接見た情報………それらを照らし合わせた中に、突破口があるような気がするんです」

 

「そうだね。情報は大事だ」

 

海未に賛同するようにリョウマが頷き、ヨウコは息をついて天井を見上げた。

 

「…………実際に狗道クガイと接触したアキト君の情報も手に入ればいいのだけれど」

 

釣られてタカトラも顔を上げる。

 

凛と花陽の幼馴染みである啼臥アキトは、アネモネに操られたミツザネを止める為にタカトラ達が知らないロックシードで未知のアーマードライダーとなって戦い、戦極ドライバーの自爆プログラムに巻き込まれ怪我を追ってしまい意識不明の状態にある。

 

昨日、新型ロックビークルのベゴニレックのテストプレイの途中で黒の菩提樹が起こした電波障害により通信が途絶し、その一団と党首でもある狗道クガイと遭遇。そのまま戦闘に突入したのだ。

 

その結果、敗北して何とか逃げ切れた矢先、タカトラと合流して訳である。

 

もしかしたら、そこで見聞きした事も重要になるかもしれない。が、それはアキトが起きなければどうにもならない言葉だった。

 

「昨日、ほんの少しだけアキトから聞いたからもしかしたら、情報出せるかも」

 

そう言った凛に、花陽が驚いた目を向ける。不安げな表情だったが、頼もし気に強い笑みと共に頷いたのを見て、花陽も口をきゅっと締めて頷く。

 

「………最初の接触は、到着早々に僕だった訳だね」

 

「まさか、もうあの時から布石は打たれてたとはね」

 

ミツザネの言葉を皮切りに、にこが片腕を摩りながら言うのを見て、タカトラは到着してからの事を思い出す。

 

到着してからタカトラを出迎えたのは、ユグドラシルの社員だった。即座に顧問から主任としての思考に切り替えそちらへ向かったのだ。

 

「タカトラ先生が少し離れるのを見て、アキト君が飛行機酔いしたから休憩の時間も兼ねて別行動になったんだよね」

 

「えぇ。その離れた隙に、戦極ドライバーに自爆プログラムを起動させる為に僕を操り人形にする為の何かをした」

 

花陽に頷いてミツザネは首元に触れる。そこにはミツザネを操っていた原因たる植物が埋め込まれていたらしく、リョウマの簡易的な診断では異常は見当たらないと思うが、本人にしてみればぞっとする話しだろう。

 

「…………本当に何も異常はないんですか?」

 

「もちのろんさ。検出されたヘルヘイムの毒素量は普段よりかは確かに多いが、許容範囲内だ。問題はない」

 

絵里に尋ねられたリョウマは資料も何も見ずに答える。変人としての印象が植え付けられてしまっている為に真姫達からは不審げな目を向けられるが、リョウマは自分の研究に関する事で嘘をついたことはない。

 

アーマードライダーはリョウマにとって自慢の研究成果であり、その戦闘も実験の感覚でしかない。モルモットでもある変身者に異常があれば、それ以上のデータは取れなくなる事を意味するのだから、偽るまでもなく切り捨てるだろう。

 

「そのままタカトラ先生は別行動になりましたが………どこに?」

 

「到着の前の日に、インベス実験施設が何者かに襲撃されたという話しを聞いてな。調査に向かっていた」

 

海未の指摘に偽りなく答え、息を吐く。

 

「今にして思えば、その襲撃者とは瀬賀先生か狗道クガイのどちらか、だったのかもしれないな………そこで気になる事と言えば、焼き壊れたスピーカーが落ちていた事と…………」

 

一瞬、口をつぐんでしまう。そこで見たのは人間の肉に食らいつくインベスの姿だが、それを女子高生である9人に打ち明けるには抵抗があった。

 

「…………もしかして、インベスが人間を食べていた、という事があったのではありませんか?」

 

しかし、海未の指摘にタカトラは瞠目してしまう。その反応にやはり、という風に目を細める海未に、穂乃果が尋ねる。

 

「海未ちゃん?」

 

「穂乃果、ことり。コウタが4股デートを仕掛けられた時の事を覚えてますか?」

 

「………………何をやっているのよ、あの馬鹿は」

 

ヨウコが呆れたようにぼやくが無視して、海未は続けた。

 

「あの時、私は山で一緒に見たんです。いえ、正確にはコウタに目を塞がれて見た訳ではないのですが、人を食べるインベスと遭遇しました。コウタが撃破したようですが………」

 

「そういえば、そんな情報がチラチラと上がってたね。神奈川と埼玉でも同様の報告が上がっていたかな」

 

「ちょうど、その時って僕やカイトさん達も駆り出された時ですよね」

 

リョウマとミツザネの言葉にタカトラは口元に手を当てて考え込んでしまう。まさか、それも今回の事件に繋がっていた、というのだろうか。

 

思えば、遭遇したライオンインベスはどこは奇妙というか、通常種とは違った強さを持っていた。

 

「……………関係あろうがなかろうが、今は置いておこう」

 

「その次で言ったら…………ウチらが買い物の帰り道で、アネモネちゃんと出会ってインベスに襲われた、って話しやね」

 

買い出しを勝手で出たアキトに連れられて、ミツザネと希、真姫の4人は帰り道に浜辺で黄昏ていたアネモネと遭遇した。声をかけようとした所で大量のインベスが突如として現れ、襲撃されたという。

 

結果として、瀬賀が変身したアーマードライダー武神鎧武に助けられ、無事に貸別荘へ戻ってこれたと言う事だ。

 

黒歴史も掘り返されたが。

 

「…………あのインベス、アネモネちゃんも狙ってたよね?」

 

「えぇ………僕がちゃんと操れているのかを確認しに来たのだとしたら、インベスに襲わせる意味がありませんし。もし、僕の戦力を見極めようとしていたのだとしたら、リスクが大きすぎる………現に、あの時瀬賀さんがいなければ間違いなく根負けしていたのはこちらです」

 

ミツザネの言う通り、操れているのかを確認するだけならインベスを使う意味はない。一緒に襲われ何かがあっては黒の菩提樹にとってマイナスでしかないはずだ。

 

「その日はそのくらい、かな?」

 

「うん。あとは、ミッチがやけにアネモネちゃんにべったりだったくらいだと思うよ」

 

何故、それを出したとミツザネがことりを睨むが、それも打開策には関係がないだろう。

 

「……………ある意味で、翌日からもっとはっきりとした事が起きたわね」

 

「ユグドラシル支部に向かっている途中で起きたインベス暴動事件、だな」

 

ヨウコの言う通り、翌日から大きく動き出したと言ってもいいだろう。

 

翌日は午前中を練習につぎ込み、瀬賀とアネモネと別れた後一同はCM撮影の打ち合わせをする為に支部へとバスで移動する事になったのだ。

 

その途中で、市街地で暴走したインベス達に遭遇。アーマードライダー達が変身し応戦。事態は何とか鎮圧出来たと聞いている。

 

「そして、支社でプロフェッサー達と出会って…………」

 

「3人が弟…………」

 

「星空…………」

 

花陽と凛の言葉を遮り、タカトラは疲れたように言う。確かにその通りではあるのだが、それを弟の目の前で口にされるのは流石に嫌だった。

 

「…………そこで僕達は支社を出て、各々の行動をとりました。僕はアネモネさんと合流して、普通に街を歩いて………」

 

「へぇー、デートかい? でもその恰好じゃ地味過ぎるね。もっと腕にシル」

 

「黙ってなさい」

 

おちょくる場面を見つけたらすぐに行動に移すのはリョウマの悪い癖である。学生時代からヨウコにド突かれるのはパターンになっていた。

 

そして、遮られたミツザネはわざとらしく咳き込んでから続けた。

 

「……………そして、操られ、防衛タワーへの侵入方法を決めていました」

 

苦虫を潰したような顔をしたのは、罪悪感が込み上げてきたからだろう。

 

「こっちはこっちで、ベゴニレックのテストする為にアッキーがアーマードライダーとなってヘルヘイムの森へ行った」

 

「で、通信途絶となった。多分、黒の菩提樹と………狗道クガイと接触したのね…………」

 

希と絵里の言う通り、アキトは狗道クガイと出会った。その時はまったく影も姿も感じなかったが、この島を奴らの魔の手が覆い始めている事に気が付いた。

 

「…………アキトは黒の菩提樹の事を、被害妄想の集団だって言ってた」

 

「黒の菩提樹は、インベスによって何かしらの悲劇を齎された人々が、世界に対して復讐を誓った集まりなんだそうです」

 

インベスによって引き起こされた事件は、それなりに多い。それによって死人が出る事もあり、問題視されているのは事実だ。

 

「詳しい話しはアキトは話しませんでした。本当にかいつまんで、くらいしか………」

 

「そういえば、ヘルヘイムの森でアキト君と合流し戻ってきた後、タカトラは別行動を取ったよね?」

 

ふと、リョウマが思い出したように聞いて来る。

 

アキトの口から黒の菩提樹、そして狗道クガイの名を聞いた瞬間、タカトラはすぐに懸念した事があった。

 

「黒の菩提樹はテロ集団だったからな。最悪な展開を想定して、各所の避難シェルターが使えるか確認していた」

 

そんな展開はなって欲しくないし、させたくもなかった。しかし、備えあれば患いなしということわざがあるように、最悪を想定する事に労力を費やすのは当たり前のことだ。

 

そして皮肉にも、それは役立ってしまっているのだから、タカオラとしては褒められたくない事だった。

 

「昨日って、インベス暴走の事件が立て続けに起こったよね?」

 

穂乃果の言う通り、アキトがヘルヘイムの森で黒の菩提樹と遭遇している間、島ではいくつもの場所でインベスが暴走を起こしていた。

 

鎮圧に借り出されていたヨウコは息を吐く。

 

「えぇ……今にしてみれば、それもアネモネの声によって暴走を引き起こされていたインベスなのかもね…………そういえば」

 

何かを思い出したように言葉を止めて、ド突かれた所を摩っているリョウマを見やる。

 

「あの時、渡したロックシードの残骸はどう?」

 

「あぁ、あれかい?」

 

要点がいったのかリョウマは椅子に座ってパソコンを操作すると、窓側の壁に貼られていたスクリーンに黒焦げの粉々になった何かの残骸が映し出された。

 

「これは?」

 

「インベス鎮圧に向かった先で、観光客が持っていたロックシードが爆発した。それの残骸よ」

 

ぎょっとμ's達が目を剥く。それはつまり、自爆テロというやつだ。

 

「残骸からだけど、使われていた火薬やロジックから黒の菩提樹のものと断定して良さそうだ。刻印ナンバーは『Messiah』………救世主、か…………」

 

「救世主…………」

 

ふと、凛がアッと声を漏らした。

 

「アキト言ってた。狗道クガイが変身したアーマードライダーはセイヴァーって言ってて、ブラッドオレンジとザクロのロックシードを同時に使っていたって」

 

「同時に2つのロックシードだと!?」

 

聞いた事のないシステムにタカトラは驚き、思わずリョウマの背中を見やった。

 

「……………確かに戦極ドライバーにはそういう機構があるのは事実だ。だが、出力などが安定しなかったから、実用化は見送ったのさ」

 

冷静に告げるリョウマは両手を組んで顎を乗せて、低く唸った。

 

「またしても私の研究を…………本当に勘に触る男だ………」

 

「………………自爆テロなんて………」

 

ニュースで報じられているのはテロがあったというだけで結果であり、その方法までは具体的に公表されていなかった。マスコミなどにも情報を護るようユグドラシルから圧迫していたのだから、一般人である穂乃果達が知るはずはない。

 

黒の菩提樹が自爆テロを行うのは、常套手段だった。その度にすんでの所で命が繋がった者達に聴取を行っても、覚えていないの一点張りだった。そして最後は、精神に異常をきたして死亡する。

 

摩訶不思議過ぎて原因究明も出来ずにいたのだ。

 

「で、今日か……」

 

「私達はバラバラに行動してたのよね」

 

一昨日、昨日も激動だったが、やはり今日が一番の起点なのだろう。全てが終わりへと向かい出したと言っても過言ではないのだから。

 

「あの歌が始まりだった」

 

アネモネの歌。

 

それはまさしく、世界を終わらせる歌。

 

「歌………音、じゃなくて?」

 

怪訝そうな顔でミツザネが尋ねてきたので、穂乃果と絵里が顔を見合わせた。

 

「うん、コウタ君がスピーカーから流れてきた音を歌だって………」

 

「カイトも同じ事を言っていたわ」

 

「アッキーも歌って言ってたのよね………」

 

続いて希の言葉に、タカトラはミツザネを見やる。

 

「お前にも音としか聞こえなかったか」

 

「うん………でも、コウタさんやカイトさん、アキトには歌って聞こえたって………」

 

ミツザネが歌と認識しなかったのなら、未成年だからそう感じるという線は消えた事になる。

 

しかし、どれほど思考を捻ってもで3人の関係性は思いつかず、答えは出てきそうになかった。

 

「…………インベスの暴走が始まってからは、もはや怒涛の流れと言っても過言ではないな」

 

「黒の菩提樹を止めようとコウタ君が戦うも……」

 

「僕が後ろから撃って倒し、アキト達の前に立ち塞がる」

 

ことりの言葉を遮り、ミツザネが言う。そこには自責の念が込められているが、表情は普段と変わらない飄々としたものだ。μ'sの面々に気取られないように振る舞っているが、堪えている事は兄からしてみれば一目瞭然である。

 

「カイトも瀬賀先生に倒され………」

 

「戦極ドライバーはキル・プロセスプログラムにより全滅……」

 

ほぼ全行程を振り返ってみて、漏れたのは溜息だった。

 

「………そもそも、黒の菩提樹の目的って何なのかな」

 

しばしの沈黙の後、口を開いたのは穂乃果だった。

 

世間的には黒の菩提樹はインベス否定派のテロ集団ではある事はニュースでも取り上げている事だが、それを凛が首を横に降る。

 

「アキトの話だと、黒の菩提樹のトップである狗道クガイは救済を与えてるんだって。インベスを完全に支配する事によってこれから起こるかもしれない悲劇を食い止めるんだって」

 

黒の菩提樹に集まる人間達の素生は、今までユグドラシルも警察も掴めずにいた。ただただ、インベスを否定しユグドラシルと敵対してきた、というだけが判明していた情報だ。

 

初めて得た情報に、希は怪訝そうな顔をする。

 

「これから起こる悲劇って………?」

 

「…………多分、そのままの意味………インベスによって起きた事件や事故の事だと思う」

 

ミツザネの言葉に、穂乃果達は意味がわからず首を傾げた。

 

それにタカトラはなるほどな、小さく呟いてから穂乃果達へ説明をした。

 

「例えば、音ノ木坂学院のオープンキャンパスは志木の襲撃によって台無しにされ、大なり小なり被害はあった。それはアーマードライダー達が戦い、インベスが暴れたからだ」

 

「それが………」

 

言いかけた所で、絵里がはっとなって息を飲んだ。

 

「もしも、インベスが存在しなければアーマードライダーが生まれる事もなかった。アーマードライダーが生まれなければ、絢瀬がシドに囚われることはなかった」

 

それはもしも、の話し。

 

もしも、ヘルヘイムの森がなかったら、という妄想の話しだ。

 

「奴らはそれを成そうとしている、という事か」

 

「そんな………!」

 

「インベスは確かに危険もあります! だけど………」

 

ことりが絶句の表情を浮かべ、海未が怒りに唇を震わせる。

 

それはミツザネが先程言っていた事でもある。

 

「世界はインベスと共存出来ている、と言っても納得はしないでしょう。していれば、こんな事にはなっていません」

 

それはミツザネが身をもって体験した事だからか、妙に説得力があった。

 

「それに、確信はないですけれど、黒の菩提樹と狗道クガイ、そして瀬賀長信は別々の思惑で動いていると思うんです」

 

ミツザネが告げた内容に、一同の思考に空白が生まれた。

 

「………どうして、そう思うのですか?」

 

「アネモネさんの口から、黒の菩提樹はどうでもいい、という言葉を聞きました。と、言う事は利害が一致しているだけ、という事じゃないでしょうか」

 

「狗道クガイも含まれているのは、どうしてかな?」

 

海未の質問に続き、リョウマも尋ねた。

 

「狗道クガイが言うインベスの完璧なる隷属って言ってますけど、暴走してるじゃないですか」

 

狗道クガイの言い方では、インベスを完全に服従させるのが最終目的だと感じる。それは当然、何もかもを破壊させる殺戮者にするのではなく、順応な奴隷だ。

 

暴走してしまっては、コントロールなど出来るはずもない。

 

「なのに踏み切った………」

 

「口ではそう言っているけど、現状ではそこまで行き届いていない…………何か別の思惑があるように感じるんです」

 

ミツザネの言葉にタカトラは少しだけ思い耽る。その通りだったとして、ならば本当の目的は。そして、何故こうして計画に踏み切ったと言うのか。

 

「…………まぁ、狗道クガイはどこかおかしい人間だったからね。私が言うのもなんだけど」

 

「………………前から思っていたんだけど」

 

そこでにこがリョウマとタカトラを見やる。

 

「いい加減教えてほしいんですけど? 狗道クガイが何者なのか………2人の言い分からしたら、赤の他人って訳じゃないんでしょ」

 

「…………狗道クガイとの関係、か」

 

タカトラはつい、と目を細めてしまう。それを明かす事は薮さかではないが、あらゆる手段を使ってユグドラシルがもみ消した闇だ。

 

「…………狗道クガイは、いわば私の前任者さ」

 

「っ、リョウマ!」

 

喋るか否か考えていると、先にリョウマが口を開いた。

 

「構いやしないだろう。どうせ忘れ去られた事実であり、矢澤君が察してしまっている以上、隠し通すのは余計な亀裂を生む事になる」

 

そう言って、続ける。

 

「私が配属する前に、ヘルヘイムの研究を担当していたのが狗道クガイだ。もっとも、まったく研究は進んでいなかったド3流だったけどね」

 

「リョウマが配属されてからは、ほぼ主導権を奪われ研究を進んでいった。リョウマが研究を率いるようになるまで時間が掛からなかった」

 

「…………狗道クガイは、プロフェッサーを恨んでいるのでしょうか?」

 

海未の言葉に、リョウマは何でもないように「どうだろうね」と笑って見せる。

 

「どうしてユグドラシルを離れたんですか?」

 

「さぁね。正直、最期の方はいてもいなくても変わんないような奴だったからね。いつの間にかいなくなってたよ」

 

辛辣な言い方になってしまっているが、それはある意味でリョウマらしいと言えばらしいのかもしれない。

 

タカトラも正直、そこまで詳しい訳ではない。そもそも、いつどうしてユグドラシルを離れたのか、何が起きたのか詳細を聞いてはいないのだ。

 

「…………今は奴との関係より、この状況をどう突破するか、だろう?」

 

リョウマの言葉で、一同は黙り込んでしまう。合宿で起きた事をまとめてみたが、その中で地獄の突破口はなさそうであった。

 

「…………あぁーもう! こういう難しい事考えるの苦手だよーっ!」

 

ずっと重苦しい空気で、シリアスモードを続けていたからか穂乃果が唸ってソファーに倒れ込んだ。一気に空気を傷されたタカトラも息を吐いて、気持ちを入れ替える。

 

「すみません、時間を無駄にしてしまったかもしれません………」

 

「いや、振り返る事は良い事だ」

 

気落ちする海未を慰めるように言ってから、タカトラは天井を見上げる。

 

「………インベスの暴走を止められたら、少しは楽になるかな?」

 

「少しどころかかなり楽になるわね。後は黒の菩提樹の構成員を倒せばいいんだから」

 

穂乃果の呟きにヨウコが答えるが、はっきり言ってそれは夢物語である。

 

「島のスピーカーを壊して回るにゃ!」

 

「どれだけの数があると思ってるのよ!?」

 

凛の突拍子のない発言に、にこが後頭部を叩きながら突っ込む。

 

「だって、アネモネちゃんって声で操ってるんだし………」

 

「現実的じゃないよぉ………」

 

ぷんすかと頬を膨らませる凛に、花陽が苦笑を浮かべながら突っ込む。確かに現実ではないが、理想としては合っているだろう。

 

「じゃあプロフェッサーがハッキングして、その中継を潰す!」

 

「ことり、言ってる事何気にエグイわね…………」

 

ことりが満面の笑顔で告げた内容に、絵里が思わず小言を漏らした。

 

しかし、リョウマは当然笑顔で答えた。

 

「ここのちんけな設備でそれが出来るとでも?」

 

「まぁ、普通に無理やね…………」

 

予想通りの答えに希が肩を落とした。しかし、着眼点は間違っていないような気がした。

 

「……………そうだ!」

 

枕を抱えていた穂乃果が立ち上がって、仲間達を眺めた。

 

「ライブをしようよ!」

 

「……………………………………………………は?」

 

破格な予想外な言葉に、全員の目が点になる。破天荒な話しをし出すのはもはやいつもの事だが、それにしたって急過ぎた。

 

「プロフェッサー見せてくれたじゃん! 私達のライブを見てたインベス達が落ち着いていく様子を! それにライブをすれば避難している人達も明るくなってくれるだろうし、少しでも希望を…………!」

 

「穂乃果、貴女はまたむちゃくちゃな事を…………」

 

まったく、といつものように海未が小言を姑の如く口を開こうとした時だ。

 

パリーンと、ガラスが砕け散る音が響いて、全員がそちらへと目を向けた。

 

そこにいたのは、目を見開いて衝撃を受けている真姫だった。ずっと会話に参加しないで何やら思考していたようなので声を掛けなかったが、いつもの彼女らしくない。

 

「真姫ちゃん!?」

 

驚いて凛が近寄ろうとするも、それよりも先に真姫が口を動かした。

 

「…………………………った、わ…………」

 

「えっ?」

 

足を止めて、花陽が聞き取れずに顔を寄せようとした。

 

「繋がったわ…………!」

 

その前に真姫が告げる。

 

何かを見つけたように、はっきりと。

 

「何が繋がったんですか?」

 

「つまり、こういう事よ」

 

ミツザネの質問に、立ち上がった真姫ははっきりと答えた。

 

「脳細胞が、トップギアよ!」

 

きゅっと、だらしなくしていたネクタイを締め直して、強い瞳で言い放った。

 

不思議とその声は、確信を齎す予感をタカトラに与えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

呉島ミツザネが所有するロックシード

 

 

・ブドウ

・キウイ

・ヒマワリ

・ローズアタッカー

 

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は……………

 

 

 

「穂乃果の言う通り、ライブをするんです」

 

真姫の提案とは穂乃果の言う通りライブをする事に!?

 

 

 

なのにライオンインベスに襲われる羽目になる真姫。

 

 

 

「手なら、あるぜ」

 

目覚めた戦士が、希望の次手を打つ!?

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

43話:モザイクカケラ ~希望の欠片~

 






今月3回目の更新!

どうも、グラニです。


今回は1年(リアル時間)で続いてきた夏合宿編で何が起きてきたのか、というおさらい的な事をしてみました。

自分でも張った伏線を確認する為にも←
伏線管理出来ないならやるなよ、とよく怒られたものです。

自分でも読み直しながら書いたので、取りこぼしはないと思います。もしも、「あれ、この問題・疑問に触れてないけどどうなってんの?」というのがありましたら感想やツイッターでご一報ください。

後々の話しで修正入れます。

真姫ちゃんが閃いたものとは!?

果たして、それは吉となるのか凶となるのか?

勝利の鍵はμ'sのライブ!?


……………劇場版に続き、アニメにもやられました。



感想、評価随時受け付けておりますのでよろしくお願いします!

Twitterやってます
話しのネタバレなどやってるかもしれませんので、良ければどうぞ!

https://twitter.com/seedhack1231?s=09



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。