手にするは杯
飲み込むのは酒
心はほんのりと。
本当に手にしているのは刃
本当に飲み込むのは固唾
本当の心は悲しみ。
地下通路を突き進んでいくと、ずっと古ぼけた壁が続いていたのが少し小奇麗な壁に変わっていくのを見て戦極リョウマが呟く。
「どうやら支部の敷地内には入ったみたいだね」
「私達が目指しているのって、プロフェッサーに招かれたあのビルでいいんですよね?」
ずっと駆け足だったので息を弾ませた高坂穂乃果の質問に、頷いてリョウマは足を止めるとタブレット端末を操作する。
あれからどれほど走っただろうか。時間をいちいち確認している暇はなかったのでどのくらいかはわからないが、せっかくこれからライブだというのにその体力までもが使ってしまったのではないか、と心配になるほどの距離だったような気がする。
しかし、そんな啼臥アキトの心配を他所にμ's達は軽く息を整えるように深呼吸すると、もう落ち着いたのかけろっとしている。現役アーマードライダーである湊ヨウコはもちろんの事、あのリョウマですら平然としているのを見るとどうも納得いかない気持ちになってしまう。
「アキト、息が上がってるにゃ」
「…………うる、さい」
「鍛え方が足りません。弛んでる証拠ですよ」
幼馴染の1人である星空凛の指摘にぶっきらぼうに返すも、μ'sの基礎メニュー担当である園田海未からも言われてしまい、何も言えなくなってしまうアキトであった。
「みんな、見てくれ」
リョウマの掛け声で、一同はリョウマがかざしたタブレット端末に集まる。一同に見えるようにしてくれたので覗き込むと、敷地の図面が表示されていた。入口の門を現したかのような箇所より少し入った所で丸型のマークが点滅している。このマークが自分達の居場所を示しているという事は、取りあえず敷地内には入ったのだろう。
「わかると思うけど、このマークが我々だ。つまり、敷地内に入った事になる。高坂君の言う通り、目指すべきビルはここだ」
そう言って画面の上から指でマップを縮小するといくつもの四角い図形が出てくる。その中でもひときわ大きな図形を指さし、それが2日目に訪れたビルであるという事は明白だ。
点滅マークからビルまでの距離は、図面上ではそれほどの距離はない。リョウマ達と初めて会った時もCM撮影で訪れた時もそれほど歩いた記憶はないので、地下を辿って行ってもそれは同じだろう。
「問題はビル内にちゃんと出入り口が繋がっているのか。そして、それはビル内のどこに出るのか、ね」
絢瀬絵里の言葉に、神妙そうに西木野真姫が頷いた。
「多分、この上は暴走したインベス達で溢れ返っているわね」
「ビルの中にも、もしかしたら…………」
この島の目的はインベスによる人間業の代行であり、それを指揮しているユグドラシルの拠点には当然、大量のインベスが滞在していたはずだ。それらが一斉に暴走したとなれば、この人数をヨウコ1人で護衛し切るのは困難である。
「脱出する際、8割くらいタカトラが切り伏せたから、増えてなければほとんどいないはずだ」
「どれだけ強いのよ、先生」
リョウマのさらっと吐いた武勇伝に、矢澤にこが頬を引きつらせる。周りにいるアーマードライダー達がその手でも手練ればかりなので忘れがちになるが、本来ならばインベスとはそう簡単に撃破出来るような存在ではない。黒影部隊が常に複数で殲滅に当たっているのを考えれば、その異常性は一目瞭然だ。
「今のうちにどう進むか確認するよ」
続いてリョウマは画面を叩き、別のマップを出す。社内の壁に掛けられたような簡易的な案内図のようで、いくつもの部屋があった。
「まず、来るときに使ったエレベーターを使用する。走ってて思ったけど、多分電力供給は落ちていない。エレベーターは通常通り動くだろう。どの階だったかは覚えてるね?」
リョウマの確認に、南ことりと小泉花陽が頷く。昨日、朝早く向かった際に色々あった翌日だったからが一同気が入らず、まったく違うフロアに降りようとした際にこの2人が指摘してくだのだ。
「その様子なら大丈夫そうだ。そのまま、昨日と同じ場所へ向かうんだ。機材の使い方はヨウコが知っているけど、これにもマニュアルは入ってるからわからなくなったらこれで操作するんだ」
「……………その言い方だと、プロフェッサーもいなくなるん?」
東條希の言葉に、リョウマは薄く笑う。
「私もかつてはアーマードライダーだったからね」
「っ、リョウマ!」
ぎょっとなったヨウコが、リョウマの胸倉を掴み上げた。
「アンタ! 自分の身体を…………!」
「よ、ヨウコさん…………?」
今までにないほど鬼気迫る表情のヨウコに、花陽が少し脅えた声を漏らす。
「それ以外に方法がなければ仕方ないだろう?」
「けど、アンタはもう戦えない身体でしょう!?」
あくまでも飄々とした態度を変えないリョウマに、ヨウコは苛立った叫びをあげる。
「ど、どういう事ですか!?」
「…………こいつ、当初はタカトラや私と一緒にヘルヘイム調査に参加していた。けど、こいつの体はヘルヘイムの毒素を受け付けなかった………通常の人間よりも毒素を排出する事が出来ないのよ」
それはつまり、アーマードライダーに変身する事はリョウマにとって、死に直結している事を意味していた。ヘルヘイム関連の研究第一人者にしてみれば、致命的な欠点だろう。
その話しを聞いて、μ's達の間に愕然とした空気が流れる。
「まったく、こうなるだろうから伏せていたというのに」
「そんな呑気な…………!」
変わらない態度のリョウマに、海未は瞳を震わせる。
確かに変人で、狂人で外道衆だ。何事よりも研究を優先して、こちらの事をモルモット程度にしか思っていない。
けれども、μ'sの歌を褒めてくれた時、リョウマの瞳に宿っていた輝きは本当に応援してくれているファンのそれだった。事件が起きてからも研究という名の傍観に徹するのではなく、自ら積極的に意見を出して解決に道筋を示してくれた。
その人物が死の間際に自ら踏み込もうとしていると知って、μ'sが平然としていられる訳がない。
「ここでμ'sがライブをしなければ、我々は生き残れない。いや、ライブが成功したとしても、本当に解決出来るかなんてわからない。ただ薄っぺらい希望に託しているだけだ………なのに、今更自分の命を惜しんでいる場合か?」
「……………………………っ」
ヨウコが悔し気に下唇を噛み締める。リョウマの言っている事は正しい。信じる信じない以前に、この作戦には穴が開き過ぎて成功率などほぼないに等しい。
しかし、そうなると解せない事がある。
「じゃあ、何でプロフェッサーはこの作戦を推したんだよ」
アキトの質問に、リョウマはヨウコの手を振り払いタブレット端末を希に押し付けて背を向けて歩き出す。
「……………μ'sは人間の可能性を体現しているから、かもね」
「………行きましょう」
真姫が仲間達を見渡して言う。一同の視線を集めながら、もう一度順番に目を合わせながら続ける。
「今は問答している時間はないわ」
「真姫の言う通りだな。」
頷いてアキトはそれに、と区切ってヨウコを見やる。
「アンタが手綱を引けばいい」
「………………わかったわ」
アキトの言わんとしている事を理解し、ヨウコは渋々と頷いた。納得はしていないが、真姫の言う通り時間がないのは確かだ。
もうこの作戦で動き出してしまっている以上、変更は聞かない。今更他の案を模索している時間など、当然ないのだから。
「…………こっちだ」
リョウマが再び走り出し、全員がそれについていく。走りながら希がちらちらとタブレット端末に目を落としているのが、あとどのくらいでビルの範囲内に入ったから見逃さない為だろう。
「ビル内に入った!」
「見て、あそこに階段があるよ!」
希と同時に穂乃果が前方を指さす。
そこは少し広がった空間だった。広がったと言っても広大という訳ではなく、20人ほどが入れるほどの丸い空間であり、端に螺旋階段が1階分ほど伸びていた。その先には赤塗りの扉があり、そこだけが真新しい色合いをしていた。
「……………どうやら、あれがビルへの境目のようだね」
「私が先行するわ。最後尾はアキト君とリョウマに任せたわよ」
ピーチロックシードを取り出したヨウコに、アキトとリョウマは頷く。2列くらいにμ'sが並んだのを見て、ヨウコはロックシードを解錠した。
「変身!」
『ピーチ!』
地下であってもどこであっても、空間があればクラックは広がる。ピーチアーマーパーツが出現し、ロックシードを戦極ドライバーにセットしてスライドシャックルを押し込む。
『ロックオン』
中華風の待機音が鳴り響き、カッティングブレードをスラッシュした。
『ハイィーッ! ピーチアームズ! 舞姫、アン、ドゥ、トルァ!!』
再びアーマードライダーマリカとなり、今度こそ忍び足で螺旋階段を上り扉の前でしゃがみ込んで待機する。
全員が扉前まで移動したのを確認して、マリカはこちらを見合ってくる。
最後尾ではあるが、アキトからは全員の顔が見える。それぞれが緊張した顔つきで、少しだけ息が上がっている。走った事による体力の消費ではなく、緊張感から来る動機だ。
当然である。アキトは秘密の身でなれど、何度も戦場に立った。しかし、今この瞬間が、彼女達は初めてなのだ。真横を死が過る戦場という空気が。
マリカは突入しない。したくとも、この状況では花陽あたりが必ずもたれ転んだりして、失敗するのは目に見えているからだ。
ちらりと、マリカがこちらを見た気がした。どうにかして場を和ませろ、と。
アキトの目の前にるのは、絵里と凛だ。少しばかり瞳を震わせて、まだ突入してもいないのに緊張しているようだ。
仕方ない、とアキトは絵里の肩をとんとんと叩いて振り向かせると、震えた瞳がこちらに向けられてくる。
そして、何も言わずに絵里の胸を鷲掴んだ。
直後。
チーーーーン。
「…………ん? 誰か電子レンジ使った?」
「そんな訳ないでしょう」
穂乃果の言葉に海未が突っ込みつつ、全員が振り向くと。
股間を抑えて悶えてひっくり返っているアキトと、
顔を赤くして胸を隠している絵里と、
彼女達に背を向けているので小柄な体躯しか見えていないだろうが視線だけで修羅をも殺してしまえそうな形相をした凛がいた。
「……………何やってるん?」
「馬鹿に仕置きにゃ」
「場が和んだわね。行くわ」
「え、ちょ、まっ…………せめて回復を…………!」
流れるような動作にマリカはそっとドアノブを回してフロアの様子を確かめ、ハンドシェイクで指示をしてから扉をそっと開けて突入した。
込み上げてくる名状し難い感覚を抑えながら、ライフル銃を構えてアキトは走り出したμ'sの後を追いかける。
飛び出した先はロビーであるとすぐにわかったが、正面玄関が見えなかったのでどこにいるか把握は出来なかった。把握する前にμ's達が移動したので付いていくと、どうやら清掃スタッフが利用する部屋の近くにあったらしく、かなり細い通路を走った。
そして、角を曲がって飛び出すと、そこには昨日見たロビーが広がっており、そこにはインベスの影も形もない。突っ切るのに問題はなさそうだ。
中央のエレベーターに差し掛かり、リョウマがボタンを操作する。エレベーターはどうやら上層階にあったらしく、降りてくるまで時間を有した。
その瞬間、頭上で嫌な音を聞きつけ、アキトは咄嗟に見上げる。
「っ、上だ!」
アキトの声を合図にするかのように、上空から初級インベス達が落下してきた。
「きゃぁっ!?」
「エレベーターは!?」
「もう数十秒ってとこかな」
花陽が悲鳴を上げ、海未が確認するとプロフェッサーは焦りを滲ませずに答えた。
爪を振り上げる初級インベスに対して、アキトはライフル銃の銃口を向ける。使い方は朝方、ヨウコにレクチャーを受けたが実際に撃った事はない。
普段から、神田では戦いに身を置いていたのだ。弓を引くのと同じ感覚でやればいい。
などとは、思っていない。
銃は命を奪う兵器だ。今までならば容易な気持ちで引こうとして、いざ直面してその恐怖に負けていただろう。
だが、今は。
覚悟をした今ならば。
「っっ!」
引き鉄を引くと、当然のように銃口から弾丸が吐き出された。近距離で発射した為に火花がアキトの指を掠めるが、衝撃を受けた初級インベスが吹き飛ぶ。
「アキト…………!」
「みんなが覚悟決めてるのに、俺だけ脅えて撃てませんじゃかっこつかないだろ!」
眼前の脅威を払った次は、狙いを定めずに牽制の弾幕を張り巡らせた。倒す必要も、殲滅の必要もない。エレベーターが来るまでの時間稼ぎをすればいいのだ。
「無茶するんじゃないわよ!」
アームズウェポンである桃黄扇を振り回しながらマリカが叫び、近付いて来るインベス達を薙ぎ払う。
「…………来たわ!」
にこの声に反応してアキトは撃ちながらエレベーターまで歩み寄る。
チン、と仕様上仕方ないとはいえ、場違いな音を立てて扉が開き、リョウマを先行にμ's達が入っていく。
「湊君、アーマードライダーが乗れば重量オーバーになる。君が壁を上がってくれるかい?」
「アンタは無茶言うわね…………!」
リョウマの無茶振りに苛立ちながら、戦極ドライバーのカッティングブレードを1回スラッシュした。
『ハイィーッ! ピーチ・スカッシュ!!』
エネルギーを解放し、桃黄扇に纏わせると投擲しブーメランのように群がるインベス達を薙ぎ払った。
爆発が連鎖的に起きて衝撃が走り、アキトは思わず手で風を防ぐ。
ひとまず脅威を払ったとはいえ、一時的に過ぎない。早急に場を移動する必要があった。
「私は先に行ってインベスを払うわ」
「頼みます」
マリカに声を掛けられて、アキトが頷くと唯一のアーマードライダーは跳躍して登って行った。
「アキト!」
凛に呼ばれて、アキトはライフル銃を肩に担ぐとエレベーターに乗る為に1歩を乗せた。
ブーッ。
「……………えっ?」
無情が音が響く。
アキトが足をどけると音が止む。
もう一度乗せる。
ブーッ。
再び無情が音が響いた。
「……………どうやら、俺はライブチケットを持ってないから入場不可らしいな」
「そんな……………!」
花陽が絶望の声を上げる。誰もが絶句してしまい、何も言葉を発せない。
昨日はこのメンバーに加えて高校生が3人も乗っても大丈夫だったのだ。なのに、どうして今制限が掛けられているのか。
「…………もしかしたら、インベス達のせいでパーツが歪んでいるのかもしれないね」
「他にエレベーターはないんですか!?」
リョウマの冷静な判断に、海未の涙声が響く。しかし、目を伏せた開発主任は首を横に振り、現実を示す。
「仕方ない。行ってくれ」
「嫌だ…………嫌だよ………!」
涙を浮かべて凛がアキトの腕に抱き付いて来る。それが差す意味を、この場にいる誰もが理解していた。
「だって、アキト…………!」
凛の言葉は続かなかった。
奇声を上げながら、至る箇所からインベス達が現れてくる。このまま射撃攻撃でもされれば、エレベーターごと全滅だ。
「行けよ」
「やだよ…………!」
「行けってば」
「やだ……………!!」
「行け!」
「絶対にやだっ! アキトが残るなら、凛も残る!」
「凛!」
強く両肩を掴んでアキトは叫ぶが、唇を震わせて凛が抱きついて来る。
大きく震えた瞳に、恐怖が宿ってしまっている。
「り、凛の貧相な胸でいいなら、いつだって揉んだり触ったりしていいよ。だから…………」
「馬鹿、違う。いいか、ミッチもタカトラ先生も作戦として行動してる。もう動き出してるんだ!」
「だからって、アキトが犠牲になっていい事じゃないよ!」
「犠牲なんかになるつもりはない!」
まっすぐ凛の瞳を見据えて訴える。ここでお前は残ってはダメだと、行かなければならないと。
「俺はちゃんと今日を生きて明日に行く。けど、ここでお前が行かなかったら明日に行くどころか今日を生き抜く事だって出来ないかもしれない! ただでさえ低い希望が絶望に変わる。ミッチ達が託してくれた希望を、こんな所で絶望なんかにする訳にはいかないんだ!」
μ'sをここへ送り届ける為に残り、戦っている2人の戦士。
彼らは信じている。9人の女神が歌声を響かせてくれると。その歌声が地獄を打ち消してくれると。
だったらこんな所で、立ち止まっていていいはずがない。
「適当に相手したら適当に地下通路に逃げ込むよ。だから、行ってくれ」
「アキト……………」
そう説得しても、凛は決して離れようとしない。気持ちはおそらく、μ's全員が同じだ。
だからこそ、自ら地獄へ身を投じる必要があった。
リョウマを一瞥する。その手はエレベーターのコンソールの閉じるボタンに掛けられている。
だから。
「凛、頑張れよ」
「っ、アキッ……………!」
言い終わるより先に凛を突き飛ばす。アキトを掴もうとしていたμ'sのメンバー達も不意を突かれたように倒れ込んでくる凛を受け止めるので精一杯で、対応出来なかった。
閉まる扉に飛びつく凛が、涙を浮かべて言葉を発する。それは当然、アキトの声には届かずそのまま上へと上がって行った。
それを見届けてから、踵を返す。
目の前に群がる暴徒と化したこの世界の隣人。
それを眇めながら、アキトは嘯いた。
「………悪いね。いつもなら饒舌に語り部っぽく、物語を盛り上げるよう謡うトコなんだけどさ」
インベスとは元々、侵略者だ。そこの悪意も理由もなき、言うなれば本能のみによる侵略ではあったが、どう見繕っても侵略という行為に暴力は付きまとう。
それを煽り、饒舌に語るのが本来のアキトの役目。
だが、今この場にいるのは凛の幼馴染で、μ'sのファンで、仲間である啼臥アキトとしている事を望んだ。
「だから、人間っぽく足掻いてやるぜ…………!」
頭上でクラックが開き、初日の晩のように青い影が通る。落としたのはあの時と同じ、赤いドライバーと禁じられた果実。
ゲネシスドライバーとレモンエナジーロックシード。
受け取ったアキトはゲネシスドライバーを腰に装着し、右手にレモンエナジーロックシードを握り締め両手を前で交差するように突き出した。
「変身!」
『レモンエナジー!』
素早く組み替えてレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーのコアにはめ込み、リファインシャックルを閉じると高貴な声が響く。
『ロックオン』
戦極ドライバーと同じワードだというのに、アップテンポで鼓舞するような発音ではなく落ち着いたワードが異なる力であると証明しているようだった。
放つ空気が一変する。襲うタイミングを計っていたインベス達が恐れを成したように脅えだす。キィキィと歓喜の声を上げていたはずなのに、それが恐怖が入り混じったものに変わる。
監視カメラが作動しているかもしれない、という危険も忘れてアキトはその身を変える。ずっとずっと前から、秋葉の街を守護してきた戦士へと。
『ソーダ!』
シーボルコンプレッサーを押し込み、キャストパットが展開されてレモンエナジーアーマーパーツがアキトへと落下した。
『レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!』
開発者の趣味によりラップ調の叫びと共に、インベス達の前に
アーマードライダーデューク。
まだ、この世界には存在していないはずのゲネシスドライバーで変身したライダー。
創世弓ソニックアローを携えて、公爵は叫ぶ。
「さぁ、テンション上がって来た! 激しく暴れようじゃねぇの!」
ソニックアローを振り上げて、デュークはインベス達に突撃する。
テンションが上がる。
それは彼の大切な幼馴染の口癖と同じもの。
実はそれを先に言い出したのはアキトで、それをマネているだけと知る者はあまりいない。
##########
「はぁっ!」
「むぅん!」
気合いとと気合いが刃に乗って激突し、火花が散る。連続した剣戟が走り、周囲の木々を泣かせるように揺れた。
アーマードライダー斬月とアーマードライダー武神鎧武。
だというのに、今2人は剣を交えている。
1人はこの世界を正しいと信じ、護ろうとして。
もう1人は世界は間違っていると、破壊する為に。
「くっ…………!」
斬月の装甲から火花が散り、間合いが開く。
互いに2対の剣を得手として戦っているが、その結果は歴然として出てしまっている。斬月は主に無双セイバーとメロンディフェンダーを使い、剣と盾という堅実なスタイルで戦ってきた。しかし、今使っているドリアンアームズはドリノコ2対による二刀流だ。
武神鎧武は日頃から無双セイバーと赤い大橙丸による二刀流。使い慣れている者と慣れていない者がぶつかれば、敗北するのはどちらかなど火を見るよりも明らか。
だが、メロンアームズにチェンジしたくとも武神鎧武の猛攻がそれを許さない。よしんば変えたところで、メロンでは火力不足だ。あのロックシードにはどんな状況にも対応出来るように、わざとそのように調整を行っているのだから。
否。
それを覆せた上で、同じようなアームズを召喚するロックシードがある。使えば尋常ではない負担を強いられてしまうが、逆転の一手を賭けるならばそれしかないだろう。
「何とか隙を作らなければ…………」
だが、それを許さぬ相手である事も承知している。
転がり立ち上がった斬月を待っていたのは、飛び掛かる様にして膝でのしかかってくる武神鎧武だ。何とか横に転がって避けるものの、範囲外に逃れられた訳ではない。
切り上げられた斬撃に火花を散らしながら後ずさり、斬月は転がりながらもカッティングブレードを2回スラッシュした。
『ソイヤッ! ドリアン・オーレ!!』
ドリノコから濃い緑色の閃光が上がり、刃となって武神鎧武を襲う。だが、渾身の一撃も二刀に阻まれ、弾かれて砕け散る。
だが、その攻撃を弾いた事により武神鎧武の方に僅かな隙が生まれた。
「今だ!」
『ウォーターメロン!』
一瞬で戦極ドライバーからドリアンロックシードを外し、アキトから返却されたウォータメロンロックシードをはめ込む。
まだ戦極ドライバーを正規運用する前、実験で使用した以来だった。当時はあまり体力のない若造だったが為使いこなせなかったし、今となっても自ら使いたいとは思わない。
しかし、この力を使わなければ明日を切り開けないというのなら。
『ロックオン』
「………………1つ、聞きたい」
法螺貝が鳴り響く中、武神鎧武が大橙丸を向けてきたままで告げる。
「何故、この世界に拘る? お前は頭がいい。ならば、この世界が間違っていると理解出来るだろう?」
その言葉はおそらく、弟やアキトに向けられた言葉と同じなのだろう。
2人とも若く、まだ未熟だ。だから言葉を受ければ、悩み思考に時間を割いてしまう。結論を出さずにいると、さらに言葉を畳みかけられる。そうやってやがて、思考に絡めとられて身動きが出来なくなる。
アキトはあえてそれに乗って、真っ向から叩き伏せたのだろう。あれにはそういった内面の強かさがある。
しかし、弟は社交的な場所に連れて行かれる事が多かったから、表面的な強さはある。ポーカーフェイス、動揺を表に出さない力が。
だが、それでは言葉の鎖に縛られる。やがて、相手に情を覚えて正しいと思えるようになってしまう。そのままずるずると情という引力に引き寄せられ、弟のように相手の言い分も正しいと思えるようになるのだ。
「聡明なお前にはこの世界が…………」
「理解出来ませんね」
瀬賀の言葉を叩き伏せるように、タカトラは告げる。
何度も目にしてきて、対峙してきた。
ユグドラシルにおいて戦前に身を置くのだから、瀬賀のように悲劇に染まってどうしようもない修羅となった者とは何度も。
言葉を交わそうとも思った。弟のように情に流されそうにになった事もある。
しかし、その度に自身に言い聞かせるのだ。
「世界はこんなはずじゃなかった事ばかりだ。ずっと昔から、いつだって、誰だってそうだった。こんなはずじゃない現実から逃げるのか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ。だが、自分の悲しみを晴らす為に、今を懸命に生きている人々を巻き込んでいいはずはない!」
この世界はインベスと共存の道を辿っている。今更修正が付かないほどに、人々とインベスは言葉を交わせずとも手を取り合えている。
そこに悲劇はある。生きていく上で、悲しみのない世界などありはしない。
けれども、瀬賀のように悲しみに負ける者がいるのも確かならば、それを乗り越えようとして乗り越えた者もいるのだ。
だから、タカトラはその世界を護る。護らなければならない責務がある。
それは人によっては、傲慢な振る舞いに見えるのかもしれない。
幼少の頃より、自由のなかった呉島家でたった1つ、信じて疑いのない信念。
「私は自分が正しいと思う信念の為に、この身を捧げる! 例え残酷で、冷酷だと言われようとも!」
「貴様の正しさは人を追い詰めるという事がわからんのか!」
怒号と共に武神鎧武が大橙丸を振り上げて踏み出す。
それよりも先に、カッティングブレードをスラッシュした。
「……………変身!」
『ソイヤッ! ウォーターメロンアームズ! 乱れ玉、ババババン!!』
斬月の姿が従来のもととは変わる。
メロン果肉のような色合いだったパルプアイも金色の輝いていたフロントブレードも赤く染まる。左手にはメロンデフェンダーにガトリング砲が備わったウォータメロンガトリング。
アーマードライダー斬月ウォーターメロンアームズ。
かつて、実験過程で数度だけで変身してきた形態だった。
斬月の無双セイバーと武神鎧武の大橙丸が振るわれ、互いの肩口を切り裂く。火花が散ってのけぞるが、怯む間もなく次撃を打ち込む。
「くっ……………!」
「ぬっ……………!」
しかし、武神鎧武の攻撃はウォータメロンガトリングで防がれ、斬月の攻撃は無双セイバーによって阻まれる。
何度も刃と刃、刃と盾が交錯して苛烈な衝撃が森林に走った。絶え間なく弾ける火花がアーマードライダーの装甲から散り、それに伴い痛みが襲ってきた。
「っぁ!」
武神鎧武が無双セイバーを突き出してくる。それを同じく無双セイバーで受け流す様に弾き、捌きながら身を翻して上へと切り上げた。
「はぁぁっ!」
武神鎧武に大きな隙が生じる。それを逃すまいと斬月は大きく無双セイバーを振り上げ、武神鎧武を斬り付けた。
衝撃に負けて武神鎧武が後ろへと転がり下がり、斬月は追撃しようと飛び掛かる。
それを見た武神鎧武は咄嗟に無双セイバーのバレットスライドを引く。斬月が失態に気付いたのもつかの間、ムソウマズルから吐き出された弾丸を飛び掛かる斬月に防ぐ術はなく、火花と一緒に墜落した。
地面に打ち付けられた斬月が顔を上げた時、見えたのは武神鎧武が飛び掛かってくる姿だ。咄嗟にウォータメロンガトリングを掲げてをそれを防ぐも、普段使っているメロンデフェンダーよりも大型な盾で視界を阻んでしまった。
ウォータメロンガトリングを降ろした斬月の視界に、武神鎧武の姿はなかった。
「どこへ…………!?」
逃げた、というのはありえない。何せ敵意や殺気、そしてこちらをじっと見ている視線を感じているのだから。
周囲を警戒するように無双セイバーを掲げて見回した瞬間、背中に痛みと火花が散る。
「っっ!」
「うぉぉっ!」
振り返り様に無双セイバーを振るうも弾かれ、斬月の装甲に武神鎧武の攻撃が何度も入り込む。それは苛烈と呼ぶに相応しく、今まで受けてきた攻撃のどれをも上回っていた。
「がっ……………!」
息が漏れると同時に斬月が吹き飛び、地面に転がり伏せる。今までよりも強力な攻撃を受けてしまった為に視界が暗転し、意識が吹き飛びそうになる。
気合いで意識を繋いだ斬月はウォータメロンガトリングを掲げると、武神鎧武目掛けて引き鉄を引く。砲塔が瞬く間に回転し出し、炎を吐き出した。
目の前の森林を焼き尽くさんばかりに吹き飛ばし、轟音と白煙が世界を埋め尽くす。
「………………」
夢中で引いていた弾丸を止めて斬月が確認すると、そこに武神鎧武の姿はなかった。
くそっ、と舌打ちをしながら崩れ落ちて膝を着くと重鈍な盾に目を落とす。
「まったく………何が大鑑巨砲は男のロマンだ、リョウマめ」
威力は十分にあるが、負担も形も大きいので運用が困難なアームズ。それがタカトラがウォータメロンロックシードにいい印象を持たない原因だ。
しかし、武神鎧武が使用するブラッドオレンジロックシードのパワーはタカトラが所持しているメロンやドリアンをも上回っている。対抗するにはこのアームズしかない。
「このままでは…………」
流れを断ち切る何かが必要だ。
ふと、斬月は目の前に広がる野原に気付く。生い茂っていた森林は伐採されたというよりも文字通り吹き飛んだという表現が適切なくらいなくなっている。
「……………そうか!」
『ソイヤッ! ウォーターメロン・オーレ!!』
咄嗟にカッティングブレードを2回スラッシュして、ロックシードのエネルギーを解放。それをウォーターメロンガトリングの砲塔に纏わせると、それを頭上に向けて放った。
赤い小玉スイカ状のエネルギーが森林の上まで打ち出されると、それは花火のように爆発すると雨のように降り注いだ。
斬月にも被害が及ぶが、世界が力の雨で埋め尽くされる。
「くっ……………」
唇を噛み締めて耐え凌ぎ、世界の嘆きが収まるのを感じて顔を上げると、斬月は吹き飛んだ世界の中心にいた。
そして、その前方に。
「昔から思い切りは凄いとは思っていたが、悪化しているぞ…………!」
苦悶の声の中に呆れや懐かしさを滲ませて、武神鎧武が同じように膝をついていた。
視界から消えていたのは、生い茂る植物に紛れていたからだ。自然の中ではいびつな色合いの姿も、殺気が充満している戦場では正しい認識は難しい。良く見れば可能なのだろうが、その良く見ればという行動をしている暇はないのだ。
だから、それをなくしてしまえばいい。具体的に言えば、視界を惑わせている森林を吹き飛ばしてしまえば見晴らしは良くなる。
何とも暴論で強引なやり方だったが、意外にも不器用なタカトタにはそういった方法しか思いつかなかった。
「貴方を止める為だ。どんな無茶だってする」
「なるほど…………無茶はお前の専売特許だったな」
懐かしそうに笑いながらも、敵意を膨れ上がった武神鎧武は右手に握っていた大橙丸を左手に持ち替えて、無双セイバーを右手に握り直す。
「だが、止まる気は毛頭ない…………!」
「……………言葉は不要か」
武神鎧武がカッティングブレードに手を伸ばし、斬月もカッティングブレードに手を添えて1回スラッシュした。
『ブラッドオレンジ・スカッシュ!!』
『ソイヤッ! ウォーターメロン・スカッシュ!!』
互いのロックシードが咆哮を上げる。
次の一撃で決めるつもりなのは、タカトラにもわかった。元々、度重なる問題で身体は悲鳴を上げ、これ以上の戦闘が長引くのは得策でもない。
ここで決めなければ、タカトラは敗北する。
「これで最後だ…………」
武神鎧武が腰を落とし、斬月もいつでも動けるように神経を研ぎ澄ます。
そして。
—————未来をしっかり見て!
教え子の歌声が耳奥で響き、つい口元を緩めた。
「はぁぁっ!」
機敏な変化に武神鎧武が駆け出してくる。
タカトラは負ける訳にはいかない。廃校という本来ならば大人が背負うべき責務を、子供達が解決しようと頑張っている。
本当ならばそれだけだというのに、今は世界の為に悲しみなどを押し殺して顔を上げている9人の教え子。
あの子達が立ち上がっているのに、タカトラが負ける訳にはいかない。
「おおおおおっ!!」
駆け出すと同時にウォーターメロンガトリングをブーメランのように投擲。当然、それは武神鎧武は弾くが、十分間合いは詰められた。
斬月と武神鎧武の刃は互いを切り裂き、擦れ違う。
そして、トドメを指す様に互いに振り抜き、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
武神鎧武が無双セイバーを振り下ろし、
斬月が無双セイバーを突き出す。
火花と衝撃が、黒い土を吹き飛した。
「アキト…………!」
項垂れるように扉にもたれかかり泣きじゃくる凛に、穂乃果は掛ける言葉はなかった。
穂乃果も悲しみに打ちのめされそうになるも、何とか気丈に立位を保っていた。他のメンバー達も悲しみに襲われて座り込んでしまっている者がほとんどで、本当だったのならば穂乃果もそうなりたかった。
だが、穂乃果はμ'sのリーダーであるという責任感が支えていたのかもしれない。
否。
「……………何が責任感だよ」
アキトを見捨てるように、何も出来なかった癖に。
壊れたように自嘲の笑みを浮かべてしまう穂乃果。
μ'sのコンディションは最悪と言ってもいいくらいだった。これでとてもライブをする気にはなれず、下唇を噛み締めた。
「どうして、私達の行く先々でこんな事になるのかな…………」
「それが力ある者の
穂乃果の誰となく放たれた嘯きに答えたのは、リョウマだった。
「力を持つ者は、その意思に関係なく争いに巻き込まれる。そして、気付かない内に力に頼り、逃れなくなる」
「私達に力なんて…………」
「力とは、戦う事に関する事を指す訳じゃない」
壁に背を預けて淡々とリョウマは続ける。
「君達がスクールアイドルをやる上で育ててきた歌唱力やダンスに直結する表現力………それも力だ」
「そんなのを持ってるだけで、どうして凛達ばっかり酷い目に合わなきゃいけないの!?」
凛の慟哭が響く。
悲運に一番塗れている少女の叫びに、誰も声を掛けられない。その痛みを、悲しみを理解出来てしまうからこそ。
「酷い目、ね」
しかし、どこかリョウマは不思議そうに首を傾げた。
「星空君、君はアキト君を信じていないのかい?」
「信じたいよ! 無事だって、ちゃんと………また、会えるって……………!」
しかし、あの状況で生き抜く事がほぼ不可能である事はこの場の誰もがわかっている事だ。普段はアーマードライダー達が守ってくれているからこそ、あの地獄に残される事がどういう意味なのかわかってしまう。
穂乃果は強く拳を握りしめてしまう。この場にもしも、彼らがいてくれたらと思ってしまうほど強く渇望が湧き出てくる。
「ならば信じればいい。私は生憎と現実主義者だからね。信じるという言葉からはほど遠い人間だが、君達はそうではないだろう?」
その言葉に普段ならば誰もが強く頷いていた。しかし、この状況でそんな強がりを言える人物は誰もいない。
どれほど温かい言葉を持ったとしても、凛を襲う悲しみは癒せないのだから。
「……………凛ちゃん。信じよう」
凛の肩を抱きかかえ、花陽が言う。瞳も、唇も、心を震わせつつ、それでも穂乃果以上に気丈に振る舞った。
「アキト君は大丈夫だよ」
「かよちん…………」
涙を抑えきれなくなり、花陽の胸に抱き付く凛。
今は悲観している場合ではない。悲観してしまえば、アキトの言う通りμ'sに託してくれた彼らの希望が絶望に染まってしまうのだ。
その時、エレベーターの動きが止まる。目的の階に到着し、扉が開いた先には先行してインベスを払ってくれたマリカがいた。
「…………アキトは?」
「エレベーターの不調でね」
「………………そう」
多くは聞かずに頷いたマリカはμ'sを先導するように通路を空ける。
「ライブ会場はこの先でしたね」
「えぇ、そのまま突っ切れば…………」
海未の言葉ににこが頷いた時、不意に轟音が響いてビルが揺れる。それだけで天井が軋めを上げて、亀裂が走った。
「っ、急いで!」
マリカに急かされて穂乃果達は慌ててエレベーターを降りる。
その瞬間、亀裂が崩落となり天井が落下してくる。最後に降りた穂乃果の背中を誰かが押し出し、ことりと絵里に抱き付くような形で倒れ込んだ。
「っ、プロフェッサー!」
真姫の悲鳴が上がり穂乃果が顔を上げると、崩落した瓦礫の向こう側に、リョウマの白いメッシュが見えた。怪我はしていないようだが、完全に分断された形になった。
「ちょうどいいね。湊君、私はこのままラボに向かって中継を始める。そっちは任せたよ」
「っ、待ちなさい! アンタ、まさか自分のドライバーを…………!」
マリカの返答を待たず、白いメッシュが動いて立ち去る音が響く。
はっきりとした舌打ちをして、マリカは変身を解いて一同を振り返る。
「…………みんな、行くわよ。出来る?」
ヨウコの瞳には厳しい色合いが含まれている。μ'sが他者の命に敏感である事は、すでに彼女も理解している事で、身近な2人がその危機に晒されているのだ。
穂乃果自身も、精神状態は普段よりも悪い方向にある事に確かだ。朝方は緊張という意味での不安があったが、今はでは別の意味合いでも負担がのしかかっている。
特に、凛と花陽は。
「……………出来るよ」
しかし、そう言い切ったのは悲しみに飲み込まれていたはずの凛だった。涙に濡れていた瞳は充血しているが、そこにあるのは確かな決意だ。
「ライブを成功させて、アキトもみんな助ける…………!」
「凛……………」
凛の言葉には不安は確かにある。しかし、それ以上に強い決意があった。
それが堪らなく穂乃果には眩しく見えて、思わず目を細めてしまう。
そっと、誰かが手を握ってくれた。両隣に立ってくれた海未とことりが握ってくれたのを見て、気付く。
先ほど、真姫を励ましたように全員が穂乃果に笑みを向けてくれている。
1人じゃない。
その笑みの意味がわからない穂乃果ではない。
「……………そうだね」
穂乃果は海未とことりに笑みを向けて、前に出る。自然と察してくれた9人は円陣を組んで、ピースサインを中央で組む。
あの時、オープンキャンパス前にやったように。
μ'sがμ'sであると自分達の心に訴えるように。
「行こう。世界だなんて気張らずに、私達の…………μ'sのライブを! 1!」
穂乃果が、
「2!」
ことりが、
「3」
海未が、
「4!」
真姫が、
「5!」
凛が、
「6!」
花陽が、
「7!」
にこが、
「8!」
希が、
「9!」
絵里が。
ここにいる9人はただの9人ではない。少女であり、歌い手であり、スクールアイドルだ。
例えどんな時でも、場所でも。歌う理由はただ1つ。
謡いたいから歌い、踊りたいから踊る。
自分勝手で、我儘で、奔放。
それだけで十分。
それが、μ'sというスクールアイドルなのだから。
呉島タカトラが所有するロックシード
・メロン
・ドリアン
・ウォーターメロン
・ヒマワリ
次回のラブ鎧武!は…………
『
絶望の島に響く、女神の歌声。
「やはり、君は私の世界を理解してくれないか」
「あぁ、あの時言った通りだ。アンタの理想なんかクソ喰らえだ」
再びまみえる、狗道クガイとアキト。
「いいのを引き当てたな」
「なんか、こういう所で無駄な運を使った気がする」
『『スイカ!』』
懸命に抗う希望の力が今。
「貴方の目的は神を生み出す事だ。私ならそれが叶える事が出来る………呉島タカトラには無理な話だ」
「冗談はよしてくれ。三流の分際で」
かつて神へと至る道を歩こうとしていた男を変えたものとは。
次回、ラブ鎧武!
48話:火花散らして ~救世主と公爵~
通路を突き進んだ先にあるラボラトリーに入ったリョウマは巨大なモニターの前に立つと周囲を見回す。機材にはどこか触れた様子はなく、これなら問題なくシステムは動くだろう。
「マスターインテリジェントシステム、起動」
リョウマの言葉と共に機材の至る箇所に光が点る。正常を示す緑の光が灯っていき、ぶぅぅんと稼働する音が響いた。
『マスターインテリジェントシステム、起動します。おかえりなさい、戦極リョウマ』
人工知能のような声が響く。事実、人工知能なのだから言葉の流暢さは求めていない。
マスターインテリジェントシステム。
世界各地にあるユグドラシル支部に必ず設置されている戦極リョウマの為だけに用意されたシステムだ。全てがネット上で情報が共有され、どの場所にいても同じように研究が出来る、という訳である。
もっとも、それは上を納得させる為の方便であり、その実態はリョウマの趣味全開の万能システムウェアであるが。
『用件は?』
「これから始まるμ'sのライブシステムのサポートと、島中のネット回線に繋がっている端末に全てそれを流せ」
淡々と命じると、応じるように機材が動く。
リョウマのやるべき事はそれで終わりだ。あとは勝手にシステムが進めてくれる。
リョウマは引き出しを引いて、目を落とす。
戦極ドライバー。
自身の研究を誇張する為に、自分の名を与えた力。
それを取り出し、もう1つ傍にあった黄色い錠前を取り出す。
「………………最初はよく無茶したものだ」
懐かしそうに嘯いて、リョウマはポケットに入れると踵を返して部屋にあったロッカーを開ける。その中には簡単な衣装ロッカーとなっており、ハンガーに掛かってある白衣のポケットに手を入れると、それを取り出す。
それは錠前だった。半分に壊れて元々は何に使われる予定だったのかわからないほどにボロボロで、もはや残骸と言っても差し支えの無いものである。
リョウマの表情に苦味が滲む。
それをポケットに入れた若き狂人は踵を返す。
目指す場所はすでに決めている。
挑発してきたのは向こうだ。
ならば、相応の返礼をせねばならない。