ラブ鎧武!   作:グラニ

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仮面には涙の跡は見えないかもしれない。


それでも、ライダーは仮面の下で涙を堪えているんだ。



49話:STAY GOLD ~さらに闘う者たち~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦意が消えていき、気配がなくなったのを確認してから啼臥アキトは変身を解いた。

 

同時に背後で崩れる音を聞きつけ慌てて振り向くと、そこには膝をつく戦極リョウマの姿が。額には汗の玉が浮かび上がっており、苦悶の色が染みついている。

 

「おい…………!」

 

「ふふっ………まったく、ままならない身体だ…………」

 

苦笑を浮かべ、アキトの支えで立ち上がったリョウマは息をつく。

 

戦国ドライバーの開発者にして、ヘルヘイム事業の重要人物である研究者の身体は、ヘルヘイムの毒素を受け付けない体質なのだ。常人以上にその毒素は身体を蝕み、文字通りの猛毒となってしまう。

 

アーマードライダーに変身する事は文字通り、自身を死地へ追いやる行為だ。それでも、リョウマはわかっていて変身して戦った。己の心の従ったのだ。

 

だから、アキトには咎める事も怒る事も出来ない。事実、アキトだけでは狗道クガイを倒すのは不可能だったろうから。

 

「アキト君、君を秋葉の守護者と見込んで頼みがある」

 

息絶え絶えになりながらも、リョウマは真っすぐにアキトを見つめてくる。

 

「この場を任せてもいいかい?」

 

「アンタは?」

 

「タカトラの加勢に行くよ」

 

白衣ポケットからダンデライナーを取り出して、瞳を緩ませずに告げる。

 

「瀬賀長信は………瀬賀先生は、私にとっても恩師だ」

 

「説得に行くのか?」

 

「私はそんな高尚な人間じゃない」

 

ただね、と区切ってから、

 

「尊敬している師だからこそ、バカげた事をしている彼が気に入らないのさ」

 

人間染みた青臭くて、けれども真っ直ぐで熱い思い。

 

それを聞いて、アキトの答えなど決まっている。

 

「…………自分の心に従えばいいだろ」

 

「感謝するよ」

 

ふらつく身体を何とか動かして、リョウマはダンデライナーを起動させて跨り、崩れた壁から飛び立って行った。

 

それを見届けてから息をついたアキトは、上を見上げる。

 

自分に出来る事を始める為にも、まずはこの場を歩き出した。

 

耳朶に残る不吉な言葉を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

##########

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高坂穂乃果さ息絶え絶えになりながら、顎まで垂れてきた汗の玉を拭うと周りを見やった。

 

アイドルや女子高生という姿には相応しくないほど、誰もが疲弊していた。ライブを開始してからどれほどの時間が経ったのかわからないが、少なくとも現時点でμ'sが披露出来る曲はやり尽くしたはずだ。

 

インベスの暴走を鎮められると希望を託してのライブは、確かに幸を成したという情報が来ている。

 

だが、それは裏を返せばライブが止まれば再びインベス達が暴走するという事だ。

 

止める訳にはいかない。しかし、すでにμ'sの曲はほとんどやり尽くしてしむった。

 

「ど、どうするのよ………」

 

歌い過ぎで喉がカラカラになりながら、矢澤にこが誰となく尋ねる。

 

「もう、曲がないわね…………」

 

「かよ、ちん。大丈夫……?」

 

「な、なんとか………」

 

しゃがみこんでにこの疑問に西木野真姫が堪える。その隣では星空凛が半ば倒れている小泉花陽を気遣う姿があるが、はっきり言ってこれ以上のライブ続行は難しいものがあった。

 

「でも、止める訳には………」

 

「私達が歌わないと……」

 

「みんなが………」

 

園田海未の呟きを引き継ぐように、綾瀬絵里に東條希が立ち上がろうと身体を叱咜させる。しかし、今までした事がないほどの連続ライブは過酷なもので、膝をついてしまう。

 

「穂乃果ちゃん…………」

 

瞳を震わせる南ことりに、穂乃果は歯を食いしばりながら気丈に姿勢を正す。眩暈と共に意識が消え入りそうなのを堪え、仲間を激励する為に声を荒上げる。

 

「みんなっ! もう少し、もう少し頑張ろう!」

 

アキトは言っていた。ここでμ'sがライブをしなかったら、仲間達が託してくれた希望は絶望になってしまう。

 

ここまで繋いでくれた人達の想いをμ'sは背負っている。

 

それを今、ここで絶やす理由にはいかない。

 

だから。

 

「ミッチ達が………アーマードライダー達が頑張ってるんだから、私達も頑張らないと!」

 

穂乃果の激励に、にこが身体を震わせながら起こす。

 

息絶え絶えだった花陽も、膝をついているが決して顔を俯かせてはいない。

 

誰1人とて、厳しそうな顔はしているものの、瞳の焔は消えたりしていなかった。

 

「……………行こう!」

 

「その必要はないわ」

 

気合いを入れ直した所で、インカムを外した湊ヨウコがマイクを通して告げてくる。

 

「各地に向かった社員達からの連絡。インターバル中、インベス達が暴走する気配はなく、アネモネの歌も途絶えたそうよ」

 

一瞬、空白が生まれた。

 

「……………それって………」

 

次いで言葉を発した絵里に、ヨウコは強く頷いた。

 

「えぇ。当初の作戦は成功………貴女達が、インベスを止めたのよ」

「……………やっ………!!」

 

ぶわぁっ、と汗が吹き出る。それは決して嫌なものではなく、歓喜によるものだ。

 

いっせいに声が爆発した。疲労とか汗とか吹き飛ばすくらいに、ただただ。

 

「っっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

歓喜に震えた。今までのどのライブよりも達成感とか、やりきったとか。そういつまたものよりも純粋に生きていると改めて実感が湧き出て、9人の少女達は喜んだ。

 

「よかった…………!」

 

「うん、うん!」

 

「本当に…………」

 

ずっと一緒にいた幼馴染み達でさえ、感じた事のない気持ちに抱き合い、喜びを分かち合う。

 

「…………アキト!」

 

仕切りに喜んだ後、はっとなったように凛が声を上げる。

 

エレベーターに乗れず、インベス達を引きつける為に下に残った少年の事を穂乃果達は敢えて忘れていた。それが彼の望みであり、今成すべきことだったのだから。

 

ライブを終えた今、アキトの安否が心を支配するのは当たり前だった。

 

「迎えに行こう!」

 

「待ちなさい! まだ黒の菩提樹の構成員が………!」

 

ヨウコの静止を振り切って凛が抱き合っていた花陽を離して駆け出す。

 

しかし、それより先に出入口が開かれ、入ってきた人影があった。

 

「ひっ…………!?」

 

凛が思わず尻餅をついてしまう。

 

入ってきたのはアキトではなく、様々な世代の人々だ。暴走するインベス達が闊歩していたこのビルのどこにいたというのか、スーツやカジュアルな格好に身を包んだ男達。

 

その全員が瞳を虚ろにさせ、手には赤い錠前が握られていた。そして、腰には戦極ドライバー。

 

「っ、黒の菩提樹………!」

 

「救済は来たれり…………」

 

「我らを救いたまえ……………」

 

虚ろな動きでそれぞれが赤く点滅するザクロロックシードを掲げる。

 

黒の菩提樹のテロ手段は、人間爆弾。

 

それが頭に浮かんだ瞬間、逃げなければという思考に反して身体が恐怖で縫い止められてしまう。

 

そして、輝きが増して。

 

真横の壁がぶち破られ、青い影が飛び込んできた。

 

それは巧みな動きで構成員達が握るザクロロックシードを叩き落とすと、黄色に輝く刃を突き付けてすべてを灰燼に斬す。すると、虚ろな動きをしていた構成員達は電撃が走ったかのように身体を硬直させると、その場に崩れ落ちた。

 

その乱入者に、誰もが二の次を口に出来なかった。それほどに予想外すぎる存在だ。

 

「アーマードライダーデューク!」

 

コントロールルームを飛び出してきたヨウコが、戦士の名を叫びながらピーチロックシードを構えた。

 

しかし、デュークは敵意を見せる事なく、凛へと手を掴むと優しく立たせる。

 

「観光でこの島に来ていた。事情は啼臥アキトから聞いている……彼なら避難した。安心するといい」

 

「本当!?」

 

デュークの齎した朗報に凛の表情が明るくなる。μ'sにもそれは伝染していき、穂乃果も笑みを零した。

 

だが、デュークの纏う気配はどこかピリツとした緊張感を持っており、そのままヨウコへ告げた。

 

「戦極リョウマは呉島タカトラの加勢に向かった」

 

「……………なんですって!?」

 

その言葉にヨウコだけでなく、μ'sにも驚愕が走る。

 

戦極ドライバーの生みの親であるリョウマの身体はヘルヘイムの毒素を受け付けない体質なのだと、ついさっき知った事実だ。加勢に向かったという事はアーマードライダーに変身したという事で、どう考えても無事で済むような事態ではない。

 

「どうして…………!」

 

「奴は奴の心に従った。それだけの事だ」

 

冷酷に告げるデュークだが、その声色にはどこか自身に言い聞かせているようなフシが感じられ、穂乃果は一瞬目を瞬かせる。

 

「ヨウコさん、貴女も加勢に向かった方がいいわ」

 

しかし、その違和感も真姫の言葉に消える事となる。

 

「瀬賀先生の強さは、ヨウコさんも知っているでしょう!?」

 

真姫に続いて絵里も告げる。この2人は間近で瀬賀の、武神鎧武の力を目の当たりにしている。仲間達をも蹴散らした強さを持つという武神鎧武に、呉島タカトラにリョウマが加わったところで難しいものがある。

 

アネモネの声がなくなったという事は呉島ミツザネが接触したのだろう。となれば、残っているアーマードライダーはこの場にいるヨウコのみだ。

 

「…………ダメよ」

 

しかし、首を横に振り意識を失っている黒の菩提樹構成員達を見やる。

 

「こんな奴らからμ'sを護る。それが今の私の役目なの」

 

「それは俺が引き受ける」

 

「デュークはいつも凛達を助けてくれた! 大丈夫にゃ!」

 

デュークの腕にしがみ付くように凛がヨウコに告げる。何度でもすぐに思い返せる。どうしてこの場にデュークがいるのか、など些細な疑問を浮かぶよりも先に、穂乃果に言わなければならない言葉が思いつく。

 

「ヨウコさん。行ってください」

 

穂乃果は真っすぐ見つめ、強く気持ちを言葉にする。

 

「私達は大丈夫です。だから、ヨウコさんは世界を救ってください」

 

「……………………………」

 

ヨウコはデュークを睨み付けるようにしていたが、穂乃果の言葉に瞳を伏せる。

 

「……………そうね」

 

そして、目を開き、踵を返した。

 

「そこのロッカーにドローンがあるわ。多分、希ちゃんの持ってる端末で操作出来るはずよ」

 

「それって……………!」

 

ドローンは遠隔操作可能な無人機だ。カメラ機能をデフォルトで搭載しているものが多く、それを使った盗撮などの犯罪が増えているとニュースで取り正されているのを穂乃果は見た事がある。

 

それを使えば、もしかしたら仲間達の戦闘を見れるかもしれない。

 

「っ、ヨウ……………!」

 

はっとなって海未が叫んだ時、ヨウコはすでに管制室のドアから姿を消していた。

 

残されたμ'sとデュークは、じっと管制室の中にあるロッカーを見つめた。

 

「デュークさん」

 

「なんだ?」

 

視線を外さずに、穂乃果は続けた。

 

「ドローンと希ちゃんの端末、使えるようにしてもらえますか?」

 

デュークは答えない。

 

だが、管制室へと足を向けてくれた。

 

それだけで、十分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アネモネを追いかけているうちに、瓦礫の残骸の中を走って行くような感覚を覚えた。

 

ローズアタッカーを走らせながら周囲を見渡せば、暴走したインベス達に壊された建物が崩れ、さながら映画で使われるような戦場跡地となっており、ミツザネは胸が軋むのを感じた。

 

しかし、それは我慢しなければならない痛み。その原因の一因は、自分にもあるのだから。

 

不意に前方を飛んでいたイーグルンベスから、乗っていたアネモネが飛び降りた。

 

それを見てミツザネはローズアタッカーを停車して、ヘルメットをハンドル部に掛けて降りる。

 

アネモネは積み上がった瓦礫の上に降立つと、ゆらりと振り返る。

 

アネモネが見下ろし、ミツザネが見上げる。視線が交錯し、ほんの少しの時間が過ぎる。

 

「………………アネモネ、さん」

 

「ミツ君…………」

 

何かを語りたかった。

 

力ではなく、ちゃんとした言葉で。

 

ずっと考えていた。会ったら何を話そうと、止めるとかではなく、本当にただ言葉を交わそうと必死に考えていた。

 

なのに、何も語れない。何を喋ったらいいのかわからない。驚くほどに口からは吐息しか漏れない。

 

「……………何をしに来たんですか」

 

「止めに来ました」

 

ようやく出た言葉はそれか。返した言葉にミツザネは胸の奥底で自身に落胆した。

 

だが、下手に飾っても偽る事を意味してしまうだけなのかもしれない。

 

真っ直ぐ見つめて、ミツザネは続ける。

 

「世界は壊させない」

 

「無駄な事を…………こんな世界、間違っていると思わないんですか?」

 

吐き捨てるように呟き、アネモネの瞳が冷ややかなものになる。それには受け入れてくれなかった、同情してくれなかった、という悲しみが滲んでいるように感じられた。

 

同情していない訳ではない。

 

ミツザネの心はすでに揺れ動いている。

 

情は時として諸刃の剣となる。

 

けれども、その情をも飛び越えた先にあるものを、大切な少女達が思い起こしてくれた。

 

だから、迷わない。

 

「世界の在り様について、正しいか間違っているか……なんて、他人に判断出来る訳ないじゃないですか」

 

「私はインベスによって死にかけた……そんな世界が」

 

「貴女にとって間違っていても、僕を含めた大勢の人々にとってこの世界は正しいと認識している」

 

世界を変える、という事は今ある世界を壊すという事だ。今を懸命に生きている人々をないがしろにしてまで、誰かを蹴落とし作るものではない。

 

世界を創造する、という事はそういう事だ。創造は破壊からしか生まれないのだから。

 

だから、今ある世界を壊して新しい世界を作ろうと。

 

「それを黙って見過ごす事は出来ない!」

 

「…………そうですか」

 

低く呟き、俯く。そこには後悔や悲しみといった感情が含まれていたが、次に顔を上げた瞬間、ミツザネに叩きつけられたのは凄まじい殺気だ。

 

しかし、ミツザネは怯まない。その程度で怖気付くようなら、最初からこの場には来ていない。

 

「ならば、殺し合いましょう」

 

「いいえ。違います」

 

アネモネは間違っている。

 

けれども、ミツザネがしたいのは殺す事ではなく、止める事。

 

「貴方は僕が止める」

 

「止まりませんよ………瀬賀様がそれを望んている」

 

ぱりぱり、と空気が泣く。アネモネの殺気とミツザネの闘気がぶつかり合い、火花を散らすように空気が震えているのを肌が感じた。

 

「………瀬賀長信が望んだというのなら、貴女の意思はどこにあるんですか」

 

「ありませんよ、そんなもの」

 

言葉と共にアネモネの腕が翡翠色の輝きを纏う。世界を蝕む力が走り、自然とミツザネの膝が力を込めた。

 

「私は瀬賀様の操り人形…………かつて、呉島タカトラの後釜となるべく育てられた貴方と………」

 

そして。

 

「同じです!」

 

アネモネが腕を振るった瞬間、翡翠色の閃光が光弾となって飛び散る。全てがミツザネへと降り注ぎ、華奢な少年の体躯は爆発の飲み込まれる。

 

もちろん、一方的に倒される呉島ミツザネではない。

 

 

『ブドウアームズ! 龍砲、ハッハッハァッ!!』

 

 

黒煙の中から紫色の戦士が飛び上がり、握りしめたブドウ龍砲をトンファーのように構えてアネモネへと強襲した。

 

アーマードライダー龍玄の攻撃に対して、アネモネの全身が翡翠色の閃光を放ち、姿を少女からあの怪人へと変身する。

 

龍玄と接触する瞬間、アネモネは後ろへと飛び下がり避けた。

 

まるで触れる事を拒絶するかのように逃げたアネモネを、龍玄は仮面の下で舌打ちして追撃する。

 

宙に浮かんでいる間は大きく動く事は出来ない。龍玄の打撃を防ごうとアネモネの両腕が光を纏い、白刃となって銃身とぶつかり火花が散った。

 

一瞬の邂逅の中で、10回以上の高速での打撃のやりとり。果てに空気が破裂して互いの体を吹き飛ばすが、間合いは完全に開ききっていない。

 

「ふっ…………!」

 

刹那で呼吸を整えた龍玄が間合いを詰めてブドウ龍砲を振り上げる。白い剣閃と紫の打閃がぶつかり合い、閃光を散らす。

 

振り下ろした龍玄の腕に足をかけ、アネモネが宙を翻る。背後から強襲してくるアネモネの攻撃を前転で避けてから、振り向きざまに銃身と刃が激突。

 

そして、ミツザネに視界に少し離れた所にある小さな機影が入る。

 

ドローン。遠隔無人機として少し前に流行ったラジコンよりも強化したものだ。

 

その足にあたる部分に、見覚えのあるアクセサリーが着けられている。

 

μ's。

 

背中を押してくれた仲間達のものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫の戦士と白い怪人が激突して火花を散らし、瓦礫と化した防衛タワーの壁を上がっていく。

 

その様を画面越しで見届けて、西木野真姫は歯噛みする。目の前で大切な人が戦っているのに、それを遠巻きでしか見れない事に。力になれない事に。

 

「ミッチ……………!」

 

同じくドローンから送られてくる映像を頭上の大型モニターで見ている小泉花陽が悲痛な声を漏らす。

 

「っ、私達もインベスで助けに行こうよ!」

 

「穂乃果! インベスを送った所で、逆に操られてしまうということを忘れたんですか!?」

 

居た堪れなくなった高坂穂乃果がロックシードを掲げるが、園田海未に叱咤されて悔しそうに俯く。

 

力になりたいのに力になれない。それが今、この場にいる全員が共通している感情だ。

 

「そうだ! デュークさん、助けに…………」

 

「断る」

 

絢瀬絵里が言い終わるより、遮る様にアーマードライダーデュークが告げる。

 

「俺は湊ヨウコから任された。お前達の護衛を無碍にする訳にはいかない」

 

「そんな事を言ってる場合じゃ……………!」

 

「それに」

 

矢澤にこの追及をも遮り、デュークは戦っている龍玄を見据えた。

 

「一人で戦わせてやれ」

 

「どうして!?」

 

南ことりが驚きの声を上げる。アネモネが白い怪人となった事にも驚いたが、それよりも彼女自身が強力な存在である事は明白だ。実力は拮抗しており、勝敗はどう転がるかなどわからない。

 

「…………ミッチがアネモネちゃんの事を好きだから?」

 

「あの2人に割って入るな、って事にゃ…………?」

 

東條希と星空凛が浮かべた疑問に、真姫は思考する。

 

ミツザネはアネモネが好きだ。それはすでにわかっている。今だに胸に痛みが走る自分に失笑してしまうが、おかげでデュークの言わんとしている事は真姫もわかった。

 

真姫は何故、ミツザネに好意を寄せたのか。

 

ミツザネはどうして、アネモネに好意を向けたのか。

 

操られていた。ならば、どうして解き放たれた今もなお想いを抱き続けている。

 

答えは簡単だ。

 

「ミッチはアネモネに、かつての自分を重ねているのね」

 

「えっ…………」

 

花陽が愕然としたように声を漏らす。

 

真姫も財閥の娘であるが故に、わかる事がある。親の言いなりになって動く自分は、まるで駒のようだと。

 

呉島タカトラの後釜として育てられたミツザネと、瀬賀長信に付き従うアネモネ。

 

知らず知らずのうちに人形になっていたミツザネと、自らの意思で人形となったアネモネ。

 

意思の違いはあれど、それをミツザネは見捨てる事が出来なかったのだろう。

 

「アネモネは瀬賀長信に付き従う人形。自らの意思で、とは言え呉島ミツザネには許容出来ないものなのかもしれないな」

 

「……………そうね」

 

デュークの言葉に頷いて、真姫はもう一度画面に目を向ける。壁を伝うように駆け上っていく2つの光を見つめ、そっと呟く。

 

「一人で戦わせてあげましょう」

 

「どの道、私達では加勢の仕様がありませんしね」

 

真姫の言葉に同意してくれるように、海未が頷き返してくれる。

 

「…………面倒なのは真姫ちゃんだけかと思ったけど」

 

隣に歩み寄った希が、苦笑を浮かべて言ってきた。

 

「ミッチも面倒やね」

 

一瞬、噴き出す様に笑い、真姫は片目を眇めてみた。

 

「正直なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

背後に付き添っていた無人機が離れていく。

 

それを受けて感じたのは寂しさではなく、嬉しさだった。

 

仮面の下で細く笑みを浮かべ、龍玄は顔を上げる。視線は空高く舞い上がったアネモネ。その距離は目測では測れず、従来の跳躍力では届きやしない。

 

しかし、今はそれを補うための力がある。

 

龍玄は腰を掲げて脚部に力を込めると、足に装着したロックビークル:ベゴニレックが稼働する。使い方も教わらずに受け取った新型ロックビークルだが、これは人の跳躍力を高めるものらしい。アーマードライダーとして使用すれば、高層ビルへ飛び移るなどの芸当も簡単に出来るだろう。

 

「ふっ…………!」

 

息を漏らしたと同時に跳躍すると、龍玄が一気に飛び上がる。彼方まで離れていたアネモネとの距離を詰めて肉薄し、衝撃が走って身体が吹き飛んだ。

 

球体状のビルの上に立ち、龍玄とアネモネが対峙する。夏の島特有の強風が2人を襲い、砂塵を巻き起こした。

 

視界がほんの一瞬、互いの姿を掻き消した。それが引き鉄になったかのようにアネモネが高く飛び上がったのを感じた。

 

強襲する気なのだと考えるより先に、龍玄の手は自然と戦極ドライバーへと手を伸ばした。

 

 

『ハイィーッ! ブドウ・スパーキング!!』

 

 

戦極ドライバーが咆哮し、右手に持つブドウ龍砲の緑宝撃鉄を引いて連射モードから単発モードへと切り替え、飛び上がったアネモネへと銃口を向ける。

 

アネモネとの戦闘が始まって、ずっとブドウ龍砲を打撃武器として扱っていた。怖かったのだ、彼女に向けて引き鉄を引くのを。

 

けれども。

 

アネモネに傷1つ負わせないで止めるのは不可能だ。体術だけで制圧できるような相手なら、最初から苦労はないのだから。

 

ブドウ龍砲に紫色のエネルギーが集まっていき、葡萄の果実のように小さな球体となって蠢き始める。

 

「ハァァァァッ……………!」

 

それにアネモネも気付いているようだが、真っ向から撃ち合う気らしい。両手を重ねると振り上げ、巨大な白刃を伸ばした。

 

龍玄は真っすぐその剣を、アネモネを見据えて引き鉄を引いた。銃口に集中していたエネルギーが吐き出され、それは龍の姿になって白刃へと突撃する。

 

「っ……………!」

 

白刃と紫龍。

 

それがぶつかり合った瞬間、拮抗するまでもなく紫龍が白人を巨大な咢で食い千切るように砕き、そのままアネモネの身体を飲み込むように駆け上った。

 

「うわっ!?」

 

エネルギーが爆発し、その余波で龍玄の足元が崩れ落ちる。元々、瓦礫のようなだった物なので亀裂が入り、いつ壊れても可笑しくはなかったのだ。

 

反射的に別の瓦礫に飛び移った龍玄が顔を上げると、ダメージを受けたアネモネが放物線を描くように落ちていく。

 

「アネモネさん……………!」

 

反射的に龍玄は追いかけるように跳び、何とか地面に落ちていくより先にアネモネの右手を掴む事が出来た。その衝撃を殺し切れずに、瓦礫から身を乗り出す様になったが、アーマードライダーの腕力なら簡単に引き上げる事が出来る。

 

「……………どうして」

 

「?」

 

引き上げようとしたところで、アネモネは俯いたままで尋ねてくる。

 

「このまま捨て置けばよかったのに」

 

「…………出来る訳ないじゃないですか」

 

出来るはずがない。そんな事。

 

「貴女はこれから、たくさんの事を償っていかなきゃならない。殺めた分も、全部全部…………貴女の言う狂ったこの世界で…………だから、こんな所で死んでいいはずがないんです!」

 

一瞬だけ、アネモネが押し黙る。その隙に引き上げようと腕に力を入れた瞬間、

 

「その甘さが貴方の利点で、癇に障るほど鬱陶しいものだ」

 

「っ!?」

 

空気が弾け、龍玄が吹き飛ぶ。顔を向ければアネモネの右腕が弾けたようになくなっており、自らの意思で斬り外したというのは明白だ。

 

「私はすでにインベス…………アーマードライダー(人間)である貴方とは異なる存在」

 

だから。

 

龍玄の視界に映る、彼女が取り出したものを見て咄嗟にブドウ龍砲を掲げて放つ。しかし、彼女がそれを口に運ぶ方が早かった。

 

「私はもっと、強くなる…………」

 

アネモネが食べたのは、ヘルヘイムの果実。

 

人類にとってそれは食せば毒となってしまうが、インベスにとっては力を与えてくれる果実。

 

瞬間。

 

翡翠色の閃光がアネモネから放たれて、龍玄の弾丸を打ち消す。

 

「アネモネさん!」

 

龍玄が慟哭と共に飛び上がり、ブドウ龍砲を振り上げる。肉薄した時にはアネモネはゆっくりと瓦礫の上に立ち、何でもないように両腕を龍玄へと向けてきた。

 

チカッ、と一瞬だけ手のひらが光る。それだけで白い閃光が奔流となって、飛び掛かった龍玄を押し上げた。

 

「がぁっ!?」

 

火花と痛みが走り、意識が暗転した。それを気合いでつなぎ止めているうちに龍玄の身体は打ち上げられるようにして瓦礫に落下し、転がり倒れる。

 

「くぁっ…………!」

 

苦悶を漏らしながら龍玄が身体を起こして、そして確認する。

 

こちらを睥睨するように見下ろしている、冷たい想い人の視線を。

 

「アネモネさん……………!」

 

白い身体にパイプのような装飾をされていた姿は、パイプパーツが先端が尖った槍のようなものに変化している。他、禍々しい紋様や気配を纏う姿は龍玄に言いようのないプレッシャーを与えてきた。

 

「瀬賀様に助けられて、黒の菩提樹に身を寄せてから、私はずっと人体実験の毎日でした。ヘルヘイムの毒素を操る、という。インベスを歌声で操る、というのはほとんどが副産物みたいなもので、真の目的は今の私の姿です」

 

「そんな、非人道的な……………!」

 

「世界を壊す為なら、何だってする」

 

そっとアネモネが右手を掲げると、白い剣が出現する。先ほどのような腕から伸びるのではなく、列記とした武器だ。

 

「その為に得た力………私は止まらない。世界を壊す」

 

「アネモネさん…………貴方は人間ですよ」

 

人ではない、とアネモネは言った。

 

だが、決して違うとミツザネは断言できる。

 

一緒に街を歩いた時、アネモネは確かに楽しんでくれいた。そう思わせる演技だったのかもしれない。しかし、ミツザネのにはそうは映らなかった。

 

あの時、彼女は確かに情が動いていた。

 

情に振り回されるのならば、それは人間である証である。

 

アネモネは緩慢に左腕を天へと伸ばす。腕から白ではなく黒い靄のような気配が立ち昇り、晴天だったはずの空を曇天に染めていく。

 

天が。世界が染まっていく、アネモネの世界に。

 

その光景に、仮面の下でミツザネは息を呑む。

 

「だったら言葉ではなく」

 

雷鳴が轟く。憎むこの世界をぶち壊すように。

 

「証明してみせなさい」

 

「…………アネモネッ!」

 

小さく呟いた龍玄が飛び出し、伸ばしていた腕をアネモネが振り下ろすと強い雷撃が2人が立つ瓦礫を砕く。

 

宙で2つの力が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刃が光る。

 

アーマードライダー斬月とアーマードライダー武神鎧武。

 

互いに繰り出した一撃は相手を捉え、信念を抱いた斬撃は敵を切り裂く。

 

「……………あと一歩」

 

はずだった。

 

「だが、惜しかったな」

 

男が呟く。

 

その眼前には。

 

斬月の肩に切り込んだ武神鎧武の無双セイバー。

 

そして、斬月が突き出した無双セイバーは、武神鎧武の大橙丸によって剣閃を逸らされており、直撃していなかった。

 

つまりは。

 

「がっ……………!」

 

武神鎧武が無双セイバーを振り抜く。漆黒の剣閃が走り、斬月の装甲を引き裂いた。

 

斬月の刺突は右手で無双セイバーを握っていたが故に、攻撃が武神鎧武の左半身から襲い掛かっていく。それを武神鎧武は先読みし、咄嗟に大橙丸を掲げて防いだのだ。

 

「どちらに転んでも可笑しくはなかった。僅差ではあったが、これが現実だっ!」

 

大きく武神鎧武が斬月を蹴り上げ、力を無くした身には防ぐ事も出来なかった。

 

斬月は大きく吹き飛んで地面を転がり、戦極ドライバーからウォータメロンロックシードが外れ変身が解けてしまう。地面を転がったウォータメロンロックシードが火と音当てて砕け散り、呉島タカトラは身体を起こそうと身じろぐも痛みが走って思うように動けない。

 

「くっ…………!」

 

「もう動くな。お前に打つ手はないだろう」

 

無慈悲に無双セイバーの切っ先をタカトラへと向け、歩み寄ってくる。何かしら反撃か、回避をしなければと脳裏を叩くが身体が言う事を効かない。まるで全身の骨が砕け散ってしまったのではないかと思うほどの身体が麻痺してしまっている。

 

「……………それでも」

 

だけど。

 

身体が本当に砕け散ってしまったとしても、タカトラは刀を握りしなければならない。刃を振るわなければならない、それだけの理由があるのだ。

 

「俺は、もう負ける訳にはいかない…………! これ以上、理由のない悪意に屈する訳にはいかないんだ!」

 

ずっとずっと、昔からそうだった。

 

力がないが為に、意味のない理不尽に苛まれてきた。父親だったり、世間だったり、上げてしまえばキリがないほどに。

 

生きるという事は、抗う事だ。それの見合う力がなければ、生きていく事は出来ない。

 

九紋カイトではないが、弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬのだ。

 

だが、それを誰かに押し付けてはならない。理由もなく、悪意を振り回してはならないのである。

 

だから。

 

例え自分の恩師でも、それを振り回すというのなら許す訳にはいかない。

 

「そうか」

 

静かに呟き、近くまでやって来て見下ろす武神鎧武。仮面に隠れていても、その瞳から放たれている冷たいものはタカトラを貫き、嫌な汗を噴き出させる。

 

「ならば、ここで折れろ」

 

言葉はそれだけだった。首元に突きつけられた無双セイバーを振り上げ、刃が太陽に照らされて煌めく。タカトラの命を奪わんと。

 

「さらばだ、教え子…………」

 

そして。

 

刃が、

 

振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………?」

 

しかし、一向に痛みがタカトラの身体を切り裂く事はない。

 

瞑っていた瞳を開けたタカトラの視界に飛び込んできた光景に、思わず瞠目してしまう。

 

「……………何故だ」

 

震える声で武神鎧武が、瀬賀長信が呟く。

 

「お前は、この男と敵対していたのではないのか」

 

その言葉の先は、タカトラには向けられていない。

 

その言葉の矛先は。

 

「……………さぁな」

 

 

『カモンッ! チェリー・スカッシュ!!』

 

 

咆哮と共に火炎が走り、武神鎧武が吹き飛ぶ。

 

タカトラを身を挺して守った戦士を、まじまじと見つめ返してしまう。

 

「どういう心変わりだ、シド」

 

「気にすんな。テメェと慣れ合うつもりはさらさらねぇよ」

 

現れたアーマードライダーシグルド。錠前ディーラーシドが変身した戦士は、アームズウェポンである双紅臥を手軽に弄びながら告げる。

 

どこからともなく、というよりも突っ込んできて弾いたような感じで武神鎧武の一撃を防いだシグルドに、武神鎧武も怪訝そうな気配を見せた。

 

錠前ディーラーはロックシードを密売する売人。いわばユグドラシルとは敵対関係にある存在で、タカトラもシドの拘束を1つの目標としているのだ。

 

武神鎧武は戦極ドライバーに手を伸ばしてキャストパットを閉じて変身を解除するのを見て、シドも変身を解く。

 

「お前も邪魔をするのか」

 

「当たり前だろ。ウチはロックシードを売買している組織だぞ。ヘルヘイムをなくされたりでもしたら、商売あがったりだ」

 

長信に答えつつ、シドは睥睨した目を向ける。そこには侮辱や呆れといった落胆の色が見られた。

 

「……………あとは、まぁそうだな」

 

うん、と頷いて続ける。

 

「俺は自分で間違った道を進んでる。けどな、それでもアンタは俺を正しい道を歩むよう教えてくれた………そのアンタが間違っている事をしてるのが、たまらなく気に入らねぇ。そんだけだ」

 

「……………そうか」

 

ふっ、と思わずタカトラは口元を緩める。敵対している身ではあるが、元々は同じ時代を駆けた掛け替えのない仲間であった過去に偽りはない。

 

だから、今共に肩を並べるにはそのちっぽけな矜持だけで十分だった。

 

「タカトラ!」

 

「おや、こっちについたのかい? ツンデレ」

 

その時、上空からダンデライナーが走り2つの影が両隣に降り立つ。

 

ヨウコとリョウマ。

 

こうして、あの青春時代を共に過ごしたメンバーは揃った訳だ。

 

「……………まさか、軽い同窓会になるとはな」

 

「そうですね」

 

これがもし、酒の席だったのならばどれだけ嬉しい事か。

 

しかし、ヨウコもリョウマも腰には戦極ドライバーが巻いており、戦意が漲っている。こうして対峙している意味を、ちゃんと理解しているのだ。

 

「瀬賀長信。貴方の行動には意味はない」

 

「相変わらず論理でしか動かんな、戦極」

 

皮切りに始まったリョウマの言葉に返し、長信が懐かしそうに笑う。

 

「意味があるかどうかなど、誰かが決めるものではない。私は私の心に従って動いている」

 

「……………あぁ、わかりますよ」

 

大きく頷いて、リョウマは口元を綻ばせる。かつて見た、あの時代でよく見かけた笑みだ。

 

リョウマの身体はヘルヘイムの毒素を受け付けない体質だ。故にアーマードライダーへの変身は身体に膨大な負担がかかるのだが、それを推してもここにいるという事が言葉の続きだ。

 

「どうして敗者となったのですか………瀬賀先生! 今ある世界を否定しても、それはただの逃げでしかないというのに!」

 

そして、ヨウコが叫ぶ。ヨウコの中で瀬賀長信とは自身を導いてくれた恩師なのは一緒で、特別な立ち位置にる男だ。尊敬という念を抱くという事は、彼女の中では強者であると認識していた。

 

しかし、現実の彼は世界という力の前に負けて砕けそうになっているほどに弱弱しい男だった。

 

それを嘘だと言い張る様に叫んだようだが、瀬賀の返しはいたって淡泊だ。

 

「敗者、か。お前は勝ち負けしか見ない性格は相変わらずだ………よく結婚出来たな」

 

「そ、それは関係ないでしょ!」

 

半ば本気に疑問に思ったらしく目を丸くしてしまう瀬賀に、ヨウコが吠える。場違いとはいえ苦笑が漏れ、本当にこれが、戦いの場でなければどれほどによかったかと思う。

 

「かつて、クラスにすら馴染めなかった跳ねっ返りどもがそれぞれ社会を率いる立場になっている。教師としては嬉しいものだ」

 

懐かしそうに空を見上げていた瀬賀が、一瞬にして気配が変わって睨み付けてくる。苛烈な空気を叩きつけられ、4人は身構えた。

 

「だが、今となってから私の手で斬らねばならなくなるとはな」

 

「……………瀬賀先生!」

 

「言葉で止まると思うな。もうそんな段階、とっくに過ぎているのだ」

 

ブラッドオレンジロックシードを構える瀬賀に、4人もそれぞれロックシードを構える。

 

「意味は自分で持たせるものだ。自身の行動によってな」

 

その言葉は、当時ずっと言われ続けてきたものだ。

 

その行動に意味はないのかもしれない。大人びていたタカトラ達からしたら、同年代達のクラスメート達は子供染みて仕方がなかった。

 

その無駄な行動に意味などないと見下していた4人に、瀬賀は教えてくれた。

 

意味がないと思うなら、意味を持たせるように行動させればいい、と。

 

至極短絡的で、それでいて難しい言葉だったと今でも覚えている。

 

ならば。

 

「我々にその言葉を教えてくれた貴方を教えを護る為に、その野望を打ち砕く!」

 

「やってみろ…………この憎しみを止められるものなら!」

 

 

『ブラッドオレンジ!』

 

 

『メロン!』

 

 

『チェリー!』

 

 

『ピーチ!』

 

 

『レモン!』

 

 

それぞれロックシードを解錠してアーマーパーツを召喚して、戦極ドライバーにセットする。

 

和洋中の様々な鼓舞を上げる中、タカトラは瀬賀から目線を逸らさずに叫んだ。

 

「みんな、行くぞ…………! 変身!」

 

「変身!」

 

それぞれがカッティングブレードをスラッシュし、その身をアーマードライダーへと変身させていく。

 

 

『ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道オンステージ!!』

 

 

『ソイヤッ! メロンアームズ! 天、下、御、免!!』

 

 

『カモンッ! チェリーアームズ! ドドンとパフォーマンス!!』

 

 

『ハイィーッ! ピーチアームズ! 舞姫、アン、ドゥ、トルァ!!』

 

 

『カモンッ! レモンアームズ! インクレディブル・リョーマ!!』

 

 

アーマードライダー武神鎧武。

 

アーマードライダー斬月。

 

アーマードライダーシグルド。

 

アーマードライダーマリカ。

 

アーマードライダーデューク。

 

1対4というある意味で卑怯な状況だが、それでも臆する理由はない。

 

これは絶対に負けられない戦いなのだから。

 

「なんて考えているんだろうが、俺はそんな正義感だのと暑苦しいのはごめんだね」

 

「シド!」

 

4人の合間を縫ってシグルドが駆け出す。双紅臥と無双セイバー、大橙丸が激突して火花を散らすが、それも一瞬でいなすようにシグルドは切りつけられて吹き飛んだ。

 

「バカが………!」

 

毒づきながら無双セイバーを抜刀して、斬月が武神鎧武へと斬り掛かる。それに追従するようにデュークもマリカも駆け出し、襲いかかった。

 

数度斬りあった瞬間、拮抗して武神鎧武を押さえつける。その隙に背後からレモンピアを刺突するデュークに気付いて、武神鎧武が後ろへ飛ぶ。

 

それを見計らったように飛び込んだマリカが桃旺扇を振り下ろし、風刃が武神鎧武を襲う。空気の刃を無双セイバーを振るった剣圧でかき消すと、大橙丸と連結させナギナタモードにして大きく振り回す。

 

深紅の衝撃波が走って組み付いていた斬月とデュークを引き剥がすが、入れ替わるようにシグルドが肉薄する。

 

武神鎧武の攻撃は苛烈の一言に尽き、一撃で形勢を逆転されかねない。

 

だから、攻撃ではなく防御に専念させる為に攻めの手を休ませない。そのためにシグルドは突撃したのだと言葉もなく理解し、それぞれが合わせるように行動したのだ。

 

「洒落臭い!」

 

鬱陶しげに無双セイバーを振るい攻めに転じようと武神鎧武が動くも、それすら完封するかの如く4つの攻撃が絶え間なく襲いかかる。

 

個々による戦闘力がずば抜けていても、チームプレイに関しては斬月達の方が上だった。

 

「いい加減に………!」

 

痺れを切らしたように武神鎧武は飛び退くと、戦極ドライバーからブラッドオレンジロックシードを外して無双セイバーにセットする。

 

 

『ロックオン』

 

 

『壱、十、百、千、万………』

 

 

どす黒い光が無双セイバーと大橙丸の刀身に集まっていき、必殺の殺意が膨れ上がる。

 

だが。

 

「瀬賀先生。貴方は昔から物事を考えるのが苦手だった」

 

タカトラ達が何か問題があれば話しを聞いてくれるが、どちらも言い分が正しくて譲らないとわかれば生徒達の思うようにやらせる。再会した歳に生徒の主体性に任せる、と言えば聞こえはいいが端的に言ってしまえば丸投げだ。

 

タカトラは教育者として、それを否定するうもりはない。そういった豪快な面に憧れたのも事実なのだから。

 

そして、先ほど呉島ミツザネと共に砂浜で戦った際、ちまちまとした攻撃に対して一撃で振り払おうとしていたのを見て確信した。

 

「だから、小手技に対しては強力無比な一撃で薙ぎ払うだろうと思っていた!」

 

「何っ……!?」

 

無双セイバーを振り下ろそうとしていた武神鎧武の手が止まる。

 

 

『ハイィーッ! ピーチ・オーレ!!』

 

 

瞬間、飛び上がったマリカが桃旺扇を振るう。扇から桃色の球体が浮かび上がると、マリカはそれをオーバーヘッドキックのように武神鎧武へ放つ。

 

「っ………!」

 

 

『ブラッドオレンジ・チャージ!!』

 

 

それを無双セイバーで切り落とす。それは必殺の一撃を凌いだ証拠だ。

 

「リョウマ、シド!」

 

 

『カモンッ! レモン・オーレ!!』

 

 

『カモンッ! チェリー・オーレ!!』

 

 

言葉を交わすまでもなくデュークとシグルドが動き、それぞれのアームズウェポンから拘束の檻となるエネルギーを放ち、一撃を打った反動で動けない武神鎧武を纏いつけた。

 

「お前達………!」

 

「タカトラ!」

「譲ってやるよ、お前にな」

 

デュークとシグルドに頷き、無双セイバーを放り投げた斬月はカッティングブレードを3回スラッシュし、解放出来る全てのエネルギーを解き放った。

 

 

『ソイヤッ! メロン・スパーキング!!』

 

 

斬月の全身から翡翠色のエネルギーが立ち上がり、その全てが右足へと集中していく。

 

そして、跳躍して右足を突き出し、武神鎧武へと狙いを定める。

 

その刹那に様々な想いが斬月を駆け巡り、狙いが揺らぐ。

 

だが、ここで揺らいではならない。私情よりも優先しなければならないものがあるのだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

その想いが崩れないように、斬月は叫びながら武神鎧武へと強襲する。

 

そして、確かに聞こえた。

 

タカトラだけでなく、全員が。

 

「本当に立派になったな、お前ら」

 

一撃が武神鎧武に激突し、激しいエネルギーの本流が起こり斬月は吹き飛ぶ。

 

なんとか着地して顔を上げた瞬間、武神鎧武の全身からエネルギーが迸り戦極ドライバーとブラッドオレンジロックシードが砕け散った。

 

ライドウェアが霧散して現れた瀬賀は、力を無くしたように崩れ落ちる。

 

戦意がなくなり、斬月達は変身を解いて瀬賀へ歩み寄ろうとした。

 

「…………本当に嬉しいよ」

 

仰向けになった瀬賀のか細い声が聞こえ、タカトラは歩みを止めた。

 

「教え子が世界を動かす大切な役目を担っている………教育者として、これほどに嬉しくて誇らしい事はない」

 

「瀬賀先生………」

「気にするな……お前達はお前達の仕事をした。それだけだろう」

 

ごほっ、と咳と同時にせがの口元から赤い液体が零れ、喘鳴が聞こえる。それもどんどん小さくなっていくような気がして、タカトラは拳を握りしめてしまう。

 

自分がやった事だとわかっているが、それでも本音を言ってしまえばこんな事はしたくなかった。

 

瀬賀はタカトラの、ここにいる4人の恩師なのだ。

 

「…………九紋……いや、今は湊だったな」

 

言葉を受けてヨウコが目を細める。

 

「遅れたが結婚おでとう。しあわせな家庭を作れ……あぁ、祝いの品を空港のロッカーに入れてある。番号の書いた紙はジャケットにあるから、後で受け取ってくれ……島のものだし、粗末な品だが許せ………」

 

思いのしない贈り物に、ヨウコは瞠目した。そして、瞳を大きく震わせると耐え切れなくなったように背を向けた。

 

「………あり、がとうございます………!」

 

震えた謝礼に笑みを零すと、瀬賀は気配をリョウマと少し離れた位置にいるシドへと向けた。

 

「お前達には……」

 

「余計な気はいらない。我々はそういったものは無縁だ」

 

相変わらずの無碍に瀬賀は弱々しく肩を震わせると、タカトラへと視線を向けてきた。

 

すでに瞳孔が合っておらず、姿は見えていないだろう。

 

「呉島………こんな私が言えた義理ではないが、アネモネを……あの子を頼む」

 

「っ………」

 

そっと息を吐いて、瀬賀は続ける。

 

「私の復習に付き合ってくれて、人ならざる存在にまでなってしまったあの子は、きっと私を恨んでいるだろう………それだけの事をしたのだから、恨まれるのは当然だ……だけど、あの子は私が巻き込んだだけなのだ。彼女に罪は………」

 

「彼女のせいで、我々は多くの同胞と社会的信用を失った。そんな彼女に酌量の余地を与えてしまえば、私は亡くなった仲間達に顔向け出来ない」

 

瀬賀の言葉を遮り、タカトラが断言する。言葉通り、タカトラには彼女を許す理由はまったくない。

 

彼女のせいでどれだけの人々に悲しいが降り掛かったというのか。μ'sも、弟達も、この島に普通にやって来ていた何の関係のない家族達にも。

 

ここで情を動かす事は出来ない。冷徹にして冷血にして、冷酷な答えしかタカトラは口にする事が出来なかった。

 

「………そうだな。それだけの事をしてしまったんだ」

 

自嘲するように笑う瀬賀を、タカトラは真っ直ぐ見つめる。罪を許す事は出来ない。だから、最後を看取る。この場にはいない彼女の代わりに。

 

「ならば、あの世で恨み辛みを受けるとしよう」

 

「…………ミツザネの話しでは街で会った時、彼女は心の底から楽しんでいるようだった、と」

 

ぽつり、とタカトラの言葉に、瀬賀が瞳を震わせる。

 

「その時のミツザネは操られていたし、アネモネの演技だったのかもしれない。気休めにもならないが、もしも貴方を憎んでいたりしたら、そんな感情は出てこないでしょう」

 

「そうかな…………だといいが」

 

ふっ、と笑ってそっと右手を伸ばした。

 

その先は、雲1つない青い空が広がっている。

 

「世界ってのは………美しいなぁ………インベスに復讐を誓い、世界は間違っていると見つめてきた。けれども、この目に映るものは美しくて……………世界というのは、この空と同じように思うようにいかない事ばかりだ………」

 

独白が響き、やがて瞳は閉じられる。

 

「本当に、この世界は…………こんなはずじゃなかった、事……………ばっか…り…………だ、なぁ……………」

 

そして。

 

伸ばされた腕が、ぱさりと地に落ちた。

 

その様を見届けたタカトラはそっと俯き、佇まいを正した。

 

「………………ありがとうございました!」

 

強く、深く頭を下げる。

 

例え罪人であっても、相手は自身の尊敬する恩師であったからそ。

 

背後で2つの礼の気配と、少し離れた位置で帽子を外して礼をする気配。

 

青く澄んだ空気が、4人の間に通り抜けた。

 

まるで悲しみに浸りそうになる涙を、攫うかのように。

 

優しく苛烈に靡いた。

 

 

 

 

 

呉島タカトラが所有するロックシード

 

 

・メロン

・ドリアン

・ヒマワリ

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

 

 

 

もしもは仮定の話し。

 

現実は何も変わらない。

 

けどね、

 

もしもって考える時は、あるんだ。

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

ラブガイム50 STAY GOLD ~そして終わる者たち~

 

 

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