ラブ鎧武!   作:グラニ

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巨大インベス

通常個体や変異個体(エナジーロックシードにより召喚されたインベス)が大量のロックシードの摂取もしくはインベスを共食いする事により変化した姿。
この姿になるとアーマードライダーといえど簡単に倒す事は難しく、出現する事も稀。もし、出現したとなると街1つが滅びかねない被害を出す大きな戦いとなってしまうだろう。




6話:僕らのLIVE 君とのLIFE ~音ノ木坂大合戦の終わり~

前回のラブ鎧武!は……………

 

 

 

ついに音ノ木坂学院にとって未来を左右する行事、オープンキャンパスを迎えたスクールアイドルμ'sとチーム鎧武。

 

しかし、オープンキャンパス直前に元都議会議員・志木による音ノ木坂学院のオープンキャンパスを知った葛葉コウタ達は、学校側に報告すればオープンキャンパスか中止になると判断。独断で迎撃する事を決意する。

 

そして当日。ライブの直前にかつての同郷、アーマードライダー黒影こと初瀬リョウジの姿を見つけたコウタはステージを抜け出し、鎧武へ変身。からくも勝利を収める。

 

同時にライブは無事、終了。何とか無事に乗り越えられた。

 

そう思った矢先、オープンキャンパスの事態は急変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂学院のオープンキャンパスは、今戦場と化していた。

 

「うらぁっ!」

 

「ぐっ……!」

 

アーマードライダー黒影が振り上げた槍、影松の一撃を受けてアーマードライダー鎧武が倒れる。

 

「コウタ君!」

 

鎧武の変身者、葛葉コウタを心配して高坂穂乃果が近寄ろうとするが、眼前に3体のインベスか出現して穂乃果を阻んだ。

 

シカインベスにセイリュウインベス、コウモリインベスと何度も相対した事のあるインベスだが、どれもがぎらりとこちらを睨んできている。

 

その眼光に穂乃果だけでなく園田海未や南ことり、気の強い西木野真姫と絢瀬絵里も身を竦ませた。

 

そんなμ'sの前で、眼鏡の位置を直す少年が言った。

 

「やめた方がいいよ。そいつらは人を襲う事に対してまったくの躊躇をしない。下手に手を出せば怪我だけじゃ済まないよ」

 

「城之内……一体どういうつもりだ!?」

 

鎧武の叫びに、城之内ヒデヤスは顔を向けてくる。

 

かつてビートライダーズとしてダンスを競い合った仲だが、そこに友好的な関係はない。そもそもチーム同士での踊る場所を取り合う敵同士だ。故に城之内は友好的な態度をとらず、つまらなそうな顔で鎧武を見やった。

 

「どういうつもりって……君に説明した所で、そのお頭じゃ理解しきれないと思うけど 」

 

「ミッチもお前も、俺の事馬鹿にしすぎてだろ!?」

 

「なら、展開公式の例を答えてみなよ」

 

その瞬間、肩を震わせると悔しげに鎧武は海未を見やった。

 

「う、海未!」

 

「そ、そんな事より、どういう事か説明して下さい!」

 

海未の悲鳴にも近い叫びに、オープンキャンパスの見学者達もこれは学校側のパフォーマンスではない事に気付いたらしくざわつく。

 

「説明もどうも、簡単な話しさ」

 

城之内はμ'sを見廻すように笑い、ステージ上から鎧武を見下す。

 

「君達はスクールアイドルとして戦国乱世に産声を上げたが、それを気に入らない奴がいる。しかし、それを恐れてオープンキャンパスなどの行事を中止にしてしまうと学校は成り立たない……だから、ユグドラシルは人知れずに襲撃犯と戦う事を決行した。まっ、失敗したようだけどね」

 

その言葉に、μ'sのみならず知らされていなかった音ノ木坂学院の関係者全員が驚愕した。

 

「コウタ……それ、本当なの?」

 

震える声で尋ねてくる絵里に、鎧武は少しの間だけ逡巡したようだが黙って頷いた。

 

「ごめん」

 

「っ! そんな、危険があるとわかってオープンキャンパスを!?」

 

「あぁ、悪いけど問答ならしなくていいよ」

 

激昂しかける絵里を遮り、じょは開錠したままのロックシードを掲げる。

 

「君達はここで終わりだ」

 

「っ、まずい! 逃げろっ!」

 

城之内がスライドシャックルを閉じるのと同時に、インベス達が動き出μ'sのメンバーに向かって歩き出す。。

 

鎧武が阻止しようとするが、黒影がそれをさせまいと襲いかかってきた。

 

「邪魔すんな!」

 

「ようやく思い切り出来るんだ。暴れようじゃねぇか!」

 

鎧武は黒影と戦いを始めてしまい、この場には他のアーマードライダーはいない。

 

今、μ'sを守る者がいなかった。

 

「っ、みんな逃げ………!」

 

はっとなった穂乃果が全員に言うが、すでに前にはシカインベス。左右にはセイリュウインベスとコウモリインベス。

 

この場はステージであり後ろは壁で、逃げ場がない。

 

「っ、にゃーっ!」

 

咄嗟に星空凛が転がっていた棒を掴みあげると、それでインベスに殴りかかる。

 

「り、凛!?」

 

「凛ちゃん!」

 

矢澤にこや小泉花陽が悲鳴を上げるのも構わず、凛はインベスへ襲いかかる。

 

しかし、棒などで太刀打ち出来るはずもなく、インベスがダメージを入るはずもなく、軽い凛の身体は弾き返された。

 

「凛っ、危ないわ!」

 

爪を突き立てようとしたシカインベスの攻撃を、凛は辛うじて避ける。しかし、今ので刺激したしまい、インベス達が怒ったように身を震わせた。

 

「怒らせてどうするのよ!?」

 

「だ、だってぇー……」

 

凛の腕を掴んで怒るにこを他所に、凛は折れた棒を投げ捨てた。

 

真正面から立ち向かうのは無理。左右に逃げ場なし。

 

完璧に詰みな状態であった。

 

「ちくしょう!!」

 

何も出来ない非力さを呪う鎧武の叫びが、学校に響きわたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一連の出来事をファインダー越しに見ていた啼臥アキトは、顔を上げて息を吐いた。

 

「んのやろー。良いようにされてんなぁ」

 

アキトがいるのは音ノ木坂学院校舎の屋上。普段からμ'sが練習場として使っている所であり、つい先日のアーマードライダーバロンが破壊した所だ。

 

オープンキャンパスのみならず、しばらくは工事のため立ち入り禁止のエリアなのだが、アキトは平然とそこにいた。

 

「そして、あの猫娘はなんで自ら危険に首を突っ込んでいくのかね」

 

だから目が離せないんだよ、と呟き展開していた二眼レフカメラをしまい、代わりにあるモノを取り出す。

 

それはこの世界にあるはずのない、ゲネシスドライバーだった。

 

「まっ、せっかく今まで守ってきた所を今更ぶち壊されるのは嫌だしな」

 

ゲネシスドライバーを腰に装着したアキトは、左手にレモンエナジーロックシードを握り締め、両腕をクロスするように伸ばした。

 

「変身」

 

 

『レモンエナジー!』

 

 

頭上にクラックが出現し、レモンエナジーのアーマーパーツが現れる。アキトは伸ばした腕を素早く組み替えてレモンエナジーロックシードを中央のゲネシスコアにセットし、掛金でもあるリファインシャックルを閉じた。

 

 

『ロック・オン』

 

 

戦極ドライバーとは異なった機械音の後、右側のハンドル・シーボルコンポレッサーを押し込むと、レモンエナジーロックシードが展開された。

 

 

『ソーダ! レモンエナジーアームズ! ファイトパワー! ファイトパワー! ファイファイファイファイファファファファファイト!』

 

 

ラップ調の音と共にアーマーパーツが落下しアキトを包み込むと、その姿を啼臥アキトからアーマードライダーデュークへと変えた。

 

変身が完了したデュークは、右手に握る弓・ソニックアローの具合を確かめるように振るう。

 

そして、ソニックアローを左手に握ったデュークは、その場から跳躍した。

 

戦場に介入するため、高々と舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

###############

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛達を襲おうとしていたインベス達に、突然矢が降り注ぐ。まったく警戒していない方向からの攻撃にインベス達は回避する事も出来ずにダメージを受け、さらにその間に降り立った戦士の攻撃を受けて吹き飛んだ。

 

その戦士の姿を認めてμ'sのメンバーは表情を明るくし、城之内は怪訝そうな顔をする。

 

そして鎧武も、驚いたように立ち上がった。

 

「アーマードライダーデューク!? どうしてここに!?」

 

ばさりとマントを翻し、デュークはμ'sメンバーを一瞥する。そして顎で逃げるように示してから、インベス達へと立ち向かう。

 

「み、みんな! 今のうちや!」

 

デュークに見蕩れていメンバーを叱責し、東條希を先頭にステージから下がる。

 

それを見た城之内は、好奇心の目でデュークを見た。より正確には、注目しているのはゲネシスドライバーだろう。

 

「前にネットで見た専用武器のソニックアローにエナジーロックシード……へぇー、初めて見たよ。噂のゲネシスドライバーを使うアーマードライダー」

 

しかし、城之内の表情に焦りや驚きといった色は見られない。興味深そうに見てくるだけだ。

 

「君の事は知っていたよ。ネットでも有名人だからね……だから、君の介入は想定の範囲内さ」

 

そう言って城之内はもう2つのロックシードを取り出し、躊躇う事なく開錠した。

 

「合計5つつのロックシードを!?」

 

安全な所まで避難した真姫が驚いた声を上げる。

 

城之内が最初に開錠した3つのロックシードはランクAのイチゴ、フドウ、マンゴー。さらに追加で開錠したのは同じくランクAのパインにキュウイ。

 

ランクAのロックシードで召喚出来るインベスは上級インベスであり、その分コントロールが難しいのだ。それを同時に5体もコントロールするという手際を見せるあたり、城之内が普段からロックシードを使っている事は明白だった。

 

「流石に5体は久々だから、少し頭痛いけどね」

 

「数が増えようと、さして変わりはしない!」

 

そう言ってソニックアローを構えるデュークに、城之内は朗らかに笑った。

 

「君は実に馬鹿だな」

 

城之内は片手を上げると、新たに召喚されたビャッコインベスと初めて対する事になるカミキリインベスが、デュークに向かってではなく周りの見学者へとその向きを変えた。

 

途端にその場で悲鳴が上がり、デュークはソニックアローを構えて弓を引く。

 

しかし、矢を放つ前に後ろからシカインベスに襲われ、デュークは咄嗟に振り返りチャージしていた矢を放った。

 

「クソッ!」

 

舌打ちをしながらシカインベス達を迎撃するデューク。

 

その隣では黒影の攻撃を受け止めながら、鎧武が叫ぶ。

 

「卑怯だぞ、城之内!」

 

「あははっ、卑怯もラッキョも大好きさ。これでデュークもしばらくは身動きが取れないよね」

 

城之内の言う通り、せっかく駆けつけてくれたデュークもインベスに押さえつけられて動けない。一般人を襲うなど上級インベスなら1体で事足りる事だ。

 

しかし、デュークは焦らず告げた。

 

「なら、彼女らにも参戦してもらうさ」

 

「……………何?」

 

一瞬、デュークの言っている意味がわからず情報の表情が微かに歪む。

 

デュークは片手でセイリュウインベスとぶつかり合うと、もう一方の手に自身のであろうバナナのロックシードを取り出し、それを凛に向かって投げつけた。

 

「開錠しろ!」

 

「わ、わかったにゃ!」

 

受け取った凛が指示通りにバナナロックシードを開錠すると、頭上にクラックが出現しコウモリインベスが飛び出してくる。

 

すると、境目が出来るかのように不可視のフィールドが張り巡らされ、丁度インベスと一般人を隔てる壁のようになった。

 

襲おうとしていたインベスの攻撃もフィールドによって阻まれ、苛立ちの声を上げるインベス。

 

そのフィールドに、城之内は初めて忌々しげに舌打ちした。

 

「インベスフィールド……」

 

「そうか、インベスゲームが始まれば発生するフィールドで中からも外からも手出しが出来ない!」

鎧武が感心したように頷きながら、黒影の攻撃を避ける。

 

インベスゲーム。インベス同士を戦わせる一種の娯楽だが、その際に発生するバトルフィールドは外からの干渉を防ぎ、中で戦うインベスが外に飛び出さないようにするための結界なのだ。

 

そして、その中ではアーマードライダーも活動が可能である。

 

「こういう輩と戦う際に有効な手だ。覚えておけ」

 

「………なるほど。単純過ぎて忘れていたよ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をして、セイリュウインベスを斬りつけるデュークを睨む。

 

「想定外だったか?」

 

「あぁ。そんな単純な解決策かまある作成で来るとは思ってなかったからね」

 

そう言って城之内は戦極ドライバーを取り出し、腰に装着する。

 

「インベスゲームはその中にいるインベスがいなくなれば終了となる」

 

「インベスがいなくなるなら、後はお前達を片付ければ終わりだ」

 

「こちらのインベスがそっちのインベスを殲滅すればそのまま潰せるよ」

 

「俺がそんな事させるかよ!」

 

デュークと城之内の間に割って入り、鎧武が吠える。黒影を拳で吹き飛ばし、その黒影こと初瀬リョウジもテンションが上がってきたのか豪快に影松を振り回す。

 

「いいじゃねぇか! やっとテメェも火が点いてきたみたいだな、葛葉ァ!」

 

「初瀬ちゃん。鎧武よりもフィールドを破壊して欲しいんだけど?」

 

もう1つ。フィールドはアーマードライダーの攻撃で破壊可能なのだ。使っているロックシードのランクによって破壊にかかる時間は異なるが、基本的にどのアーマードライダーなら出来る事だ。

 

黒影は城之内の言葉に、鎧武へ突撃する事で答えた。

 

「邪魔すんなよ城之内ィ! 今イイトコなんだからよォ!」

 

「ですよねー。まぁ初瀬ちゃんにはそういうの期待していないから、せいぜい葛葉を抑えておいてよね」

 

城之内はそう言ってドングリロックシードを取り出し、気だるげな感じで言った。

 

「変身」

 

 

『ドングリ!』

 

 

頭上にクラックが出現しアーマーパーツが形成される。

 

それを戦極ドライバーのドライブベイにセットし、スライドシャックルを差し込んだ。

 

バロンと同様の洋風なファンファーレが高々と鳴り響き、カッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『カモン! ドングリアームズ! ネバーギブアップ!!』

 

 

少し間延びした音声と共にアーマーパーツを被り、城之内はアーマードライダーへと変身する。

 

「アーマードライダーグリドン。名前なんて区別に必要なだけのモノだけど、我ながらこの名前はどうかと今でも思うよ」

 

城之内が変身したグリドンは右手に握る小槌のようなドンカチを弄ぶように回し、左手を上げた。

 

「スマートじゃないよねぇ、こういうの!」

 

左手を上げた瞬間、凛が召喚したコウモリインベスを仕留めようとしていたインベス達が動きを止めて、デュークへと向き直った。

 

「万策尽きたか?」

 

デュークがソニックアローを振るった瞬間に剣閃が走り、シカインベスが爆散する。

 

その閃光を背に構えるデュークに舌打ちし、グリドンはドンカチを構えて先ほどのような冷静な態度とは裏腹に叫んだ。

 

「だから嫌なんだよ、想定外はさぁ!」

 

グリドン。コウモリインベス。セイリュウインベス。ビャッコインベス。カミキリインベス。

 

5体の敵を前にしても、デュークは高貴な佇まいを崩す事なく冷静にソニックアローを構えるのだった。

 

 

 

 

 

一方、デュークとグリドンの戦いと同じフィールド内で、決着を付けようと刃を交える鎧武と黒影。

 

無双セイバーと影松がぶつかる度に火花が散るが、その隙を縫ってダメージを与えているのは影松だ。

 

「ぐっ………」

 

先程のように力任せに対抗しようとするのだが、黒影は必ず攻撃のタイミングをワンテンポ送らせてきたり、拮抗する力の場所を外したりして鎧武の体勢を崩してくるのだ。

 

「同じ事に引っ掛かるかよ!」

 

先程のように思考は熱くなっているのに、攻撃は短調ではなく複雑かつ激しいモノだ。

 

ただでさえ開いていた差に鎧武は焦りを感じつつ、耳のイヤホンに怒鳴りつけた。

 

「誰か来れないか!? こっちはかなりのピンチなんだけど!」

 

『完全に作成が裏目に出ましたね……アーマードライダーはほとんどヘルヘイムの森に振ったからそちらに割ける人員がありません』

 

「結局、奴らの思う壺って事かよ!」

 

吠えながら後ろに下がり、鎧武はイチゴロックシードを取り出す。

 

「受け止められないなら、それより速い攻撃で裁くしかねぇ!」

 

 

『イチゴ! ロック・オン』

 

 

開錠したイチゴロックシードとオレンジロックシードをすかさず交換し、鎧武は待機音を待たずにスラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! イチゴアームズ! シュシュっとスパーク!!』

 

 

「何やっても無駄だってのォ!」

 

アームズチェンジをしてイチゴクナイを構える鎧武に、真正面から突撃して影松を突き出す黒影。

 

それを屈みながらイチゴクナイで突きを裁いて、黒影の懐に入り込む鎧武。さらに連撃を叩き込むが、黒影の気配が変わった。

 

「しゃらくせぇ!!」

 

鎧武の腕を弾いて黒影の拳が胸に入る。吹き飛ぶ鎧武を追撃するかのように、影松を捨てた黒影が打撃を繰り出した。

 

「オラオラオラァ! さっきの威勢はどうした葛葉ァ! そんなんだとチーム鎧武の名が廃るぞ!」

 

「勝手に廃らせとけよ!」

 

もはやチンピラのような物言いに返しながら、打撃を受け止める。攻撃の速さで黒影が反撃できないように仕掛けようと思っていたのだが、それは悪手だったようだ。イチゴクナイでは一撃が弱い。

 

かと言ってパインアイアンでは威力に申し分ないが、一撃が重くて簡単に避けられてしまうだろう。ミツザネのように策を弄する事の出来ない鎧武に出来る事は、真っ向勝負しかなかった。

 

「うらぁっ!」

 

連撃の中に打撃も織り交ぜるも、天性の勘ともいうべきものか黒影は見事に防御する。連撃に向いてないはずの槍を器用に動かし、斬撃も打撃を受け止めている。

 

一行に攻め立てる鎧武だが、その体力は無限ではない。アーマードライダーになった事で筋力も動体視力も格段に上がったが、体力だけは人間そのものなのだ。

 

やがて息が上がっていき、体力が限界に達した隙を黒影は見逃さなかった。

 

「ッラァッ!」

 

強引な拳の振り上げ。それは鎧武の身体というよりも、顎に命中した。

 

「がっ…………!」

 

顎が人体の急所の1つだ。先端を強打されれば脳震盪を起こし、側面に衝撃が加われば脳が揺れて内出血などが起きやすいのだ。

 

ただでさえ脆い箇所に加え、アーマードライダーという強化された一撃だ。鎧武の、コウタの脳は激しく揺さぶられ、出血は免れたものの視界が一気にブレて意識も明暗した。

 

深刻なダメージに鎧武の身体から力が抜け、膝をついてしまう。

 

「白タオルには早ェぜ! まだ終わりじゃねぇよなぁ!?」

 

しかし、そこへ黒影が容赦なく追撃を放つ。影松を振り回してから横に薙ぎ払う攻撃を、当然鎧武は防御する事い出来ず、火花を散らしながら吹き飛んだ。

 

吹き飛んで地面に倒れ込む鎧武は消えそうな意識を強引に繋ぎ止めて気絶は回避した。しかし、もはや鎧武の状態は満身創痍と言っても変わりはしない。とてもじゃないが戦えるようなコンディションではない。

 

それでも目の前の野獣は戦うだろ。鎧武が戦えないとなれば、次は周りの人達に牙を剥く。それだけは許せない、と立ち上がろうとするも力が入らずに崩れ落ちた。

 

それを見て黒影は心底つまらなそうに影松を肩に担ぐ。

 

「んだよ。本当に終わりかよ……つまんねぇな」

 

「コウタ君!」

 

すぐそばのフィールドを叩き、高坂穂乃果達μ'sが駆けつける。

 

「そんな………鎧武が、コウタが…………」

 

絶望が入り混じったような声で、信じられないといった感じで園田海未が嘯く。

 

「ひ、酷いよ……」

 

「酷い、だァ?」

 

ことりの言葉に、ゆらりと振り返って黒影は告げる。

 

「何甘ったれた事言ってんだ? ここは戦乱の世。互いに刃を持った以上、雌雄を決するのは当たり前だろ」

 

狂気地味た黒影の言葉に顔を青くするμ'sメンバーだが、その言葉は正しい。

何故なら、それが戦いというモノだからだ。これは葛葉コウタが勝手に始めた戦いだ。それがこの結果だというのなら、敗者は受け入れざる得ない。

 

しかし、まだ鎧武の戦いは終わっていない。否、終わらせる訳にはいかなかった。

 

鎧武なら大丈夫。

 

そう信じてくれた穂乃果は、まさしくヒーローを見る子供のようだった。

 

そんな彼女の前で、どれだけ倒されても敗北宣言をする訳にはいかない。

 

「…………ァ」

 

小さく声を漏らしながらも、鎧武は身体に力を入れる。動け、動けよと自身を叱咤しながら、指に力を込める。

 

この程度の逆境。かつての戦いに比べたらお遊びと同じレベルだろう。あの時に受けた悲しみや悔しさ、絶望に比べたらこの程度の痛みで倒れる訳にはいかないだろう。

 

お前はアーマードライダー鎧武。ライダーは人々が望んだ時、必ず蘇るんだろうが。

 

心に、魂に火が宿った。

 

明暗していた意識が鮮明になり、自然と身体が軽くなる。

 

「えっ………」

 

「へぇ」

 

穂乃果の驚いた声と、黒影の感嘆するような声が響く。

 

「コウタ……もう無理よ!」

 

立ち上がった鎧武がフラフラである事を見て、絵里が叫んでくる。しかし、鎧武はそれには答えず黙って無双セイバーを構えた。

 

「へっ……そうだよ、楽しませてくれねぇとなぁ!」

 

影松を振り回して構えると、黒影は突撃してくる。それぞれ武器を振りかぶって、相手の胴体に叩き込む。

 

火花が散って振り返る瞬間、鎧武は無双セイバーのバレットスライドを引き、黒影に向かってブライトリガーを引いた。

 

「っ!?」

 

突然の銃撃を受けた黒影は衝撃で倒れ込んだ。

 

余裕のない鎧武は、それを見逃さなかった。

 

無双セイバーを地面に突き刺すと、カッティングブレードを2回スラッシュする。

 

 

『ソイヤッ! イチゴ・オーレ!!』

 

 

「お前には弁明の余地はねぇ………」

 

掠れたような声で呟き、鎧武はイチゴクナイを6個投擲した。黒影自身に命中させるのではなく、彼を包み込むように地面へ配置した。

 

すると赤白い光が吹き出て、まるで結界のようになって黒影を拘束した。

 

「なっ……!?」

 

拘束から逃れようと身じろぐ黒影だが、その拘束が解かれる事はない。解くにはそれ相応のエネルギーが必要になってくるからだ。

 

しかし、マツボックリを使っている黒影が、ランクが上のイチゴロックシードを使っている鎧武に勝てるはずがない。

 

黒影の戦闘能力が高いのは、単に初瀬リョウジという少年が強いからだ。格闘、相手に付け入る隙、それらを見逃さない洞察力。その全てが初瀬は優れている。

 

しかし、使っているロックシードは黒影部隊と同じランクCという低ランクのものだ。カタログスペック上で、ランクAのイチゴロックシードに単純な力で勝るはずがないのだ。

 

つまり、アーマードライダーとしての戦いではなく、このように純粋なエネルギーのぶつかり合いにこそ、鎧武に勝機はある。

 

「てめ、ぇ……!」

 

しかし、黒影は驚いた事に少しずつだが腕がドライバーのカッティングブレードへと伸びていた。エネルギー差も気合いでどうにかしてしまう。野獣というよりも規格外の存在である。

 

もっとも、黒影が仕掛けてくるより先に鎧武は動く。ただの拘束で終わらせる気は毛頭ない。

 

無双セイバーに先程まで使っていたオレンジロックシードをセットし、スライドシャックルを差し込んだ。

 

 

『ロック・オン』

 

 

先程の戦いでエネルギーを大分消費したオレンジロックシードだが、まだその輝きは消えていない。

 

セットした瞬間、まるで最後の力を振り絞るかのように輝かしい山吹色の光が溢れた。

 

これほどの力を受けて、いくら規格外とはいえ手負いの黒影が耐えられるはずがない。

 

「…………ァァァァアアアアアッッ!!」

 

掠れながら、絞り出すように声を吐き出す。口の中に血の味が充満したが、こうやって気合いを入れなければ今にも倒れそうだった。

 

鎧武は力一杯、無双セイバーを振りかぶる。もやは無双セイバーの形は山吹色の光に包まれて、1振りの巨大な太刀と化していた。

 

 

『 壱、十、百……オレンジ・チャージ!!』

 

 

静かに告げられる機械音。

 

それは、黒影の耳には死刑宣告のように響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

アーマードライダーデューク。

 

今まで幾度なく人々の前に現れ、インベスからの窮地を救った知る人ぞ知るヒーロー。

 

そのヒーローが、5つの敵意を前にして苦戦を強いられていた。あの無敗の侯爵たる戦士が、インベス相手に蹂躙とまで行かずとも押されているのだ。

 

むろん、アーマードライダーグリドンという戦力を加えたインベス相手に、ユグドラシルの黒影部隊が相手だったらすでに勝負は決していただろう。そういった意味ではデュークは強い。

 

しかし、その強いのは”誰が”なのかを、デュークはよく理解していた。

 

「ちぃっ!」

 

舌打ちとともにビャッコインベスを蹴り飛ばすと、背後から迫ってきていたセイリュウインベスに振り返りざまにソニックアローで斬り付けようとする。しかし、寸の所で後ろへ飛ぶように避けられ、決定打にはならない。

 

先ほどからこれの繰り返しである。明確なダメージを与えられそうになったと思えばギリギリで避けられる。ここまで厄介なインベスを操る相手は初めてである。

 

「ははっ。君、今までNPCとしか戦ってこなかったんだね。もしかして対戦ゲーはお嫌いかな?」

 

「あぁ、嫌いだね。上級者にボコられて100円落とすだけのゲームなんて!」

 

ドンカチを振り下ろしてくるグリドンの攻撃を受け止め、デュークは拮抗する前にその場から転がるように離れる。

 

デュークがいた場所に空中から飛来したコウモリインベスが放った弾幕が襲い掛かる。地面に着弾し舞い上がった砂埃で視界が埋め尽くされるも、デュークはソニックアローの矢を放つためにノッキングドローワーを引き絞る。

 

待機音に近い音を鳴らしながら下がると、砂埃の中からグリドンが突撃してくる。それはデュークが想定した行動そのものだ。

 

しかし、それ以上にグリドンの見極めは優れていた。

 

「そう来るよねぇ!」

 

「っ!?」

 

デュークが待ち構えて放った矢は、グリドンが振るったドンカチで弾かれる。もう一度、今度は頭めがけて放つが、それは僅かに首を動かすだけで避けられてしまった。

 

まさか簡単に躱されるとは思いもしなかったデュークに隙が生まれ、そこへドンカチの重い一撃が入る。吹き飛びながらもノッキングドローワーを引き絞って放つ。

 

「苦し紛れの攻撃なんてね!」

 

しかし、放った矢もドンカチで弾かれ、デュークは地面に着地したのと同時に足に何かが巻き付いて身体が宙に浮いた。

 

見れば足にカミキリインベスの両腕から伸ばされた触覚が鞭のように絡み付いており、その腕が振るわれデュークの身体はフィールドに叩き付けられた。

 

「………っ!」

 

痛みも唇を噛み締めて耐え、デュークはノッキングドローワーを引いて放つ。矢を頭に受けたカミキリインベスは痛みでよろめき、拘束が緩んだ隙にソニックアローで触覚を斬り捨てる。

 

突然の支えを失ったデュークは地面に落下し、倒れ込んだ公爵をグリドンはつまらなそうに見下した。

 

「やっぱり君、アーマードライダーと戦うのも連携の取れたインベスと戦うのも初めてでしょ」

 

デュークは何も答えない。それは正解だからで、隠す気もないからだ。

 

デュークはアーマードライダーと戦った事はない。他の地方と比べて東京にはユグドラシルの本社があるし、アーマードライダーとは黒影部隊を置いて鎧武達のような例外なだけだ。

 

普通は、アーマードライダーと戦う事などない。それを差し引いてもここまで人間的思考の動きをするインベスと戦うのも経験はなかった。

 

「そして、君自身は弱い。ここまで戦えるのも、ゲネシスドライバーとエナジーロックシードの恩恵があればこそだ」

 

デュークは、アキトは弱い。格闘技術も、避ける見極めも、戦闘経験もアマチュアどころか素人だ。

 

以前、鎧武と龍玄を同時に圧倒した事があったが、不意打ちで先行出来たのと必殺技が当てられた事。そして、何より2人が疲労していた事で勝てただけだ。もし万全な状態で最初から戦えば、龍玄にすら勝てなかっただろう。

 

それほどまでにアキトは弱い。しかし、それを言い訳にするほどデュークは落魄れていない。

 

気丈に立ち上がりソニックアローを構え、グリドンに向かって斬りかかる。

 

「ならば司令塔を潰せば終わる。単純で手っ取り早いけど、舐めてもらっては困るな」

 

ソニックアローをドンカチで受け止めて、身を捻ったグリドンのキックがデュークに入る。

 

「確かに俺は初瀬ちゃんより弱い。きっと葛葉にも勝てないだろう……それでも、一応あの戦乱を勝ち抜いた身なんだ。君に負ける俺じゃないよ」

 

戦乱、というのが何なのかデュークにはわからなかったが、その激しい戦いを生き抜いた猛者だという事はわかる。

 

しかし、それとは別に解せない事があった。

 

「にゃーっ!」

 

その時、凛が操っているコウモリインベスが上空から弾幕をばら撒く。たちまち砂埃で視界が埋まるが、その中からグリドンが跳躍してコウモリインベスの頭上に位置を取った。

 

「そっちから来てくれるなんて好都合!」

 

「にゃにゃっ!?」

 

インベスフィールドはインベスゲームが行われている間に発生している。つまり、どちらかのインベスが全滅すればゲームは終了となりフィールドは消える。

 

このまま凛のコウモリインベスがやられればフィールドは消え、インベスが学校を破壊するだろう。

 

すでに騒ぎを目にした見学者達は離れ、怖いもの見たさで遠目でいるが、もしインベスが襲いかかりでもしたら大変な事ななる。

 

「ゲームセッ……うおっ!?」

 

ドンカチを振り下ろそうとしたグリドンの胸に、強い衝撃と火花が走る。

 

空中で攻撃を受けたグリドンは当然体勢を崩して、先程のデュークのように地面に叩きつけられる。

 

そして、その隙をデュークは見逃さずに追撃し、ソニックアローを振るった。

 

「ハッ!」

 

「なっ、しまっ……!」

 

格下と判断した油断からか、グリドンは次の行動に移れずにデュークからの連撃を全て受けた。いかに素人の攻撃といえど理論上でしか存在しないエナジーロックシードを利用した攻撃に、グリドンは吹き飛ぶ。

 

あまりの凄まじさと連撃の早さに、インベス達に指示を出す暇もなかったようだ。

 

「ぐっ……さすがに威力は段違いだな………」

 

「………どうしてそこまで、この学校を潰す事に加担する」

 

消耗し切ったように身を震わすグリドンに、デュークは尋ねた。

 

「決まってるだろう。それが雇い主の指示だからさ」

 

「なら、どうしてライブを見届けてから、事を始めた?」

 

ぴくりと、グリドンの肩が止まる。

 

その言葉でμ'sのメンバー達も思い出す。城之内は女装をして最初から観客の中に紛れ込んで、一緒になって手拍子したり楽しんでくれていた。

 

やろうと思えば、ライブの最中にでも出来たというのに。

 

「………これでもスクールアイドルには目が無くてね。噂のμ'sのライブがどんな物か気になったのさ」

 

「なら、尚更おかしいだろう。音乃木坂学院を潰せば自然とμ'sも消える。アンタの行動は矛盾してるんだ」

 

いや、違うな。そう区切ってデュークは言う。

 

「アンタは他のスクールアイドルのファンで、人気急上昇中のμ'sを邪魔に感じた。そこへ舞い込んできた音乃木坂学院の襲撃依頼、って感じか」

 

その瞬間、グリドンが激しく立ち上がりデュークへドンカチを振りかぶった。

 

「図星かよ」

 

「うるさいっ!」

 

冷静さを欠いた叫びを上げて攻撃するが、デュークは冷静に避けてからソニックアローを振り上げて斬りつける。

 

「俺達、アーマードライダーはスクールアイドルの活動に干渉してはならない。この力はあくまでも暴走したインベスやその関連した事件を解決するためにあるんだ」

 

「黙れよ! 俺達をモルモット扱いしたユグドラシルの都合なんか知った事か! 俺は俺のためにこの力を使う! 困るんだよ、人気が出てもらっちゃ………!」

 

ドンカチとソニックアローがぶつかり、グリドンとデュークの力が拮抗した。

 

「あいつらは頂点でいなければならない……! 他を圧倒する、誰も寄せ付けさせないほどの!」

 

「………頂点だかなんだか知らないけど、ならもっとアンタの行動は間違ってるよ」

 

ドンカチを弾いてグリドンを斬りつけると、デュークは悲しそうな声色で言った。

 

「だって、今アンタがやってる事は、裏を返せばそのスクールアイドルはμ'sに負けるかもしれない、って彼女達を信じてないって認めているようなものじゃんか」

 

はっ、とはっきりとした動揺とともにグリドンの動きが止まる。

 

その決定的な隙は、素人のデュークでさえ見逃す事はないほど大きなものだった。

 

「悪く思うなよ」

 

 

『ロック・オン』

 

 

ゲネシスドライバーからレモンエナジーロックシードを外し、ソニックアローのエナジードライブベイにセットし、上空へと矢を構えた。

 

「っ、しまった!」

 

「遅い!」

 

 

『レモンエナジー!』

 

 

機会音声と共に放たれた矢は上空で一瞬、レモンの果実になってから拡散しグリドンやインベス達に襲いかかる。

 

その攻撃でグリドンが従えていたインベス達は爆散し、グリドン自身も身体から煙を上げるほどのダメージを受けて倒れた。

 

「ぐっ……ま、まだだ…………」

 

それでも立ち上がろうとする姿に、デュークは素直な感嘆を覚えた。あるべきかはさておいて、立ち上がるその姿は素直に賞賛出来る。

 

「なら、潔く散れ」

 

 

『ロック・オン』

 

 

ソニックアローからレモンエナジーロックシードをゲネシスドライバーへ戻し、デュークはシーボルコンプレッサーを1回押し込んでロックシードのエネルギーを解放した。

 

 

『レモンエナジー・スカッシュ!!』

 

 

エネルギーがソニックアローの刀身、アークリムへと集まっていき、フラフラな状態へのグリドンへ斬りかかる。

 

反撃の出来ない者への無慈悲な斬撃。

 

それはデュークなりの、戦士を讃える礼儀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎧武とデュークの必殺技がほぼ同時に決まり、音乃木坂学院を襲撃していたアーマードライダーは撃破された。

 

変身が強制解除された倒れ込んだ初瀬と城之内からそれぞれロックシードが外れ、自然とそれぞれの勝者の手に渡った。

 

「…………? 何で勝手に飛んできたんだ?」

 

「知らないの? インベスゲームでの勝者は相手が使っていたロックシードを獲得する事が出来るのよ」

 

戦いが終わった事に安心したのか、真姫が言ってくる。気付けばデュークの足元には城之内が開錠した5つのロックシードが集まっていた。

 

「そうだったのか。今まで対人なんてそうそうやってないから初めて知った」

 

と、その時デュークは崩れ落ちそうになる鎧武へと手を伸ばして支えた。デュークが苦戦した城之内より遥かに強い初瀬と長い時間タイマンしたのだ、そのダメージは計り知れないだろう。

 

「わ、悪ぃ……ありがとな。アンタのおかげで、誰も怪我しなくて済んだ」

 

「…………自分を勘定に入れろよな。だが、こちらこそありがとう」

 

デュークは変身を解く気はないが、感謝の言葉と共に鎧武の手を取り握手を交わした。

 

鎧武も感謝の気持ちを表すように、しっかりと握手を交わす。

 

これにて一件落着。あとは勝手に事を大きくしてしまいカンカンにお怒りな理事長に土下座して、またもや今回の黒幕である志木を捕まえて万事解決。

 

と、なればよかったのだが、そう簡単に行くほど、現実は甘くはなかった。

 

握手を交わしている鎧武者達は、地鳴りを感じて顔をあげた。

 

「…………気の所為か?」

 

「いや、違う。しかも、なんか嫌な予感が…………」

 

鎧武の呟きにデュークが否定を示したその直後、はっきりとした地鳴りと獣のような咆哮が響いた。

 

その場にいた誰もが身を震わせ、その咆哮がした方を見る。

 

すると、校舎方面の空間に巨大なクラックが出現し、吐き出されるようにして現れた影が3つあった。

 

「うおっ!?」

 

「うわぁっ!」

 

「くっ……」

 

校庭に現れたのは3人のアーマードライダー。九紋カイトが変身したアーマードライダーバロン、呉島ミツザネが変身したアーマードライダー龍玄、呉島タカトラが変身したアーマードライダー斬月。

 

その3人の後にぬっと現れたのは、人間が見上げるほどに巨大なイノシシの姿をしたインベスだった。

 

「で、でかぁーっ!?」

 

思わず鎧武とデュークが声を合わせてしまうほどの大きさは、当然のごとく他の生徒達にも驚きよりも恐怖を与えるものであった。

 

今だかつてない巨大なインベスの暴走に、生徒や見学者から悲鳴が上が蜘蛛の子が散らすように逃げて行く。

 

イノシシインベスは首をぶるぶると振ると、デュークを見下ろす。より正確には、その足元に転がっているロックシードにだ。

 

「こいつ、一体……!?」

 

「デューク……!? 逃げて下さい!」

 

龍玄がデュークの姿を認めて叫んだ時、イノシシインベスは右前足を軽く払う。たったそれだけなのに凄まじい衝撃が走り、インベスフィールドが硝子のように砕け散った。

 

「うおぉっ!?」

 

余波で吹き飛ばされた鎧武とデュークは顔を上げた時、思わず絶句してしまった。

 

今のでμ's達が踊っていたステージも崩壊し、校庭は抉れ割れ目が生じるという大惨事になっていたのだ。

 

そして、その中でも最悪な光景がデュークの視界に飛び込んでくる。

 

彼女達の中で唯一、インベスを操っていたために、今のでインベスと共に衝撃を受けた凛が、少し離れた位置で倒れていた。

 

さらに最悪というのは重なるもので、イノシシインベスが凛が握り締めているバナナロックシードを狙い足を動かしているのだ。

 

「やべぇっ……!」

 

「凛ッッ!!!」

 

その瞬間。デュークが絶叫にも近い声を上げ、地面を走るかのよに跳躍した。先程の戦いで消耗したとは思えない動きで凛の前に立つと、気合いとともにソニックアローを振り上げた。

 

黄色い剣閃が走り、イノシシインベスの左前足を斬りつける。イノシシンベスが苦痛の声を上げるが傷らしい傷は与えられない。それでも凛を助け出すだけの時間は稼げた。

 

 

片手で凛を抱きかかえると、デュークはすぐさまその場を退いた。思った以上に凛は軽く、気絶しているからか反応はないが外傷など見当たらないため、無事なのは確かだ。

 

数瞬遅れてその場をイノシシインベスが踏みつけ、その衝撃で倒れ込む。何とかデュークが下敷きになって凛を地面から守り、巨大なインベスを見上げる。

 

イノシシインベスは今だに凛が握るバナナロックシードを喰らおうとしていた。これほどの巨大なインベスと対峙した事のないデュークだが、怖気づく訳にはいかない。凛を抱えたままとても戦える状態ではないが、見逃してくれる訳がない。

 

ソニックアローを構えて戦闘態勢に入るデュークだが、そんなイノシシインベスに横槍を入れる者達が現れた。

 

「そらよっ!」

 

「フン!」

 

ボロボロで限界であるはずの鎧武がイチゴクナイを投擲し、バロンが跳躍してイノシシインベスの背に乗るとバナスピアーを突き立てた。突き刺さったイノシシインベスは痛みで絶叫を上げながら身体を揺らし、バロンは振り落された。

 

凛のロックシードは諦めたのか標的を鎧武とバロンに変更したところで、顔に紫色の弾幕が襲撃する。

 

「デューク、凛さんを!」

 

「ゲネシスドライバーだと? リョウマめ、テストには必ず私を同席させろと………!」

 

「兄さん。まずは目の前に集中しましょう!」

 

デュークを見て注意を惹きつけられる斬月だが、ブドウ龍砲で射撃している龍玄に叱咤されて無双セイバーのブライトリガ-を引く。

 

多くの弾幕を受けイノシシインベスの意識から、デュークと凛が完全に消える。その間に凛を抱え上げて黒影部隊によって避難させられたμ's達の所へ向かった。

 

「凛ちゃん!」

 

本当は一緒にいたかったのだろうが黒影部隊によって強制的に引き離された花陽が、涙目になりながら駆け寄ってくる。彼女に凛を預けてデュークはイノシシインベスと平然と戦う鎧武達を顧みた。

 

あれほどの大きさのインベスが出現した、というのはデュークが知る限りでは東京において初めてだ。地方では何度かあったというニュースを目にした事はあったが、これほどのものとは思っていなかった。

 

そして、それに対して平然と戦う鎧武達。普通ならばここにいる生徒達のように驚き、畏怖し、少なくともその存在に圧倒されるのが普通だ。

 

なのに、彼らは普通に戦うという選択をした。それはきっと、これほどの敵と戦うのが初めてではないからだろう。

 

「あーあ、まさか志木の奴があんなの出すなんてねぇ」

 

黒影に拘束され座り込んでいる初瀬と城之内が、イノシシインベスを見ながら言う。巨大な力が目前で暴れているというのに落ち着いているのは、もはや日常化としているからだろいうか。

 

「沢芽シティではあんのが暴れまわるのは普通だったのかよ」

 

「日常茶飯事って訳じゃないけど、まぁ稀によくある事だよね。インベスが大量のロックシードを摂取したり、インベスを共食いした結果があの巨大化な訳だし」

 

「くっそ、おい暴れさせろよ! 暴れさせろォォ!」

 

ゆさゆさと動き回る初瀬に溜息をつき、城之内はデュークを見上げた。

 

「まぁ、結果はどうあれ志木の目論見は成功した訳だね。こうなっては音ノ木坂学院ではなく東京が滅ぼされないレベルの事件だ。そんな事態を招いた学校に誰が入学したいなんて思う?」

 

城之内の言葉に、デュークは言い返せない。鎧武やデュークがどれだけ頑張ってこの2人に勝てたとしても、ユグドラシルが襲撃が可能を見出していたのにオープンキャンパスを強行したのは事実だ。それを学校側に報告しなかったのも問題だし、おそらくその事に気付けなかった学校側も批難されるだろう。

 

今すぐこのメガネ野郎を殴りたい衝動に駆られるが、それは近くへ吹き飛んできた鎧武によってかき消された。

 

「ぐっ………!」

 

「コウタ君…………!」

 

倒れ込む鎧武に駆け寄る穂乃果は、そこではっとなった。いつも必勝している鎧武の鎧はこれ以上にないくらい傷ついており、変身しているコウタ自身も無事ではないと悟ったからだ。

 

しかし、自身の傷を顧みずに鎧武は立ち上がると、拘束されている初瀬と城之内に言い放った。

 

「おい、お前らも手伝え!」

 

「……………は?」

 

「あぁいうのを倒す作戦。考えるのは城之内かミッチの仕事だろ!」

 

言っている意味がわからない、と困惑する城之内をよそに鎧武は2人の拘束を解く。ユグドラシル社員の黒影が困惑したようなしぐさを見せるが、鎧武の行動にはもはや慣れた事なのか静観している。

 

「暴れていいのか!?」

 

「今は少しでも人手がほしいんだよ。ほら」

 

先ほど奪ったマツボックリロックシードを初瀬に投げ渡し、鎧武はイチゴクナイを両手に握りしめてイノシシインベスへと立ち向かって行った。

 

「初瀬ちゃん。さっきまでここを潰すために暴れてたのに、今度は救うために暴れるの?」

 

拘束されていた手首をさすりながら城之内が立ち上がる。すると初瀬は活き活きとした顔で言った。

 

「目的なんか知るかよ。俺は暴れたいから暴れるだ。難しい事はお前に任せた」

 

マツボックリロックシードを弄びながら初瀬は戦極ドライバーを腰に巻き付けた。

 

「…………お前は俺が暴れる場所を提案してくれる。それでお前は思い通りに利益を得れればいい。いつもそうだろ? それにな」

 

初瀬はちらりと、μ'sの面々を見やる。

 

「遠かったからちゃんと聞こえてた訳じゃねぇけど……こいつらの曲、もう少し聞いてみたいと思った」

 

その言葉に城之内は心底驚いたような顔をした。

 

「ワイルドじゃないね、初瀬ちゃん。アイドルに興味持っちゃった?」

 

「あぁ、かもな。だから、今度は理由をもって暴れる………お前もそうなんじゃねぇの? さっきから、何か言いたそうな顔してるぜ?」

 

相棒の指摘に城之内は押し黙った。しかし、すぐに顔を上げて頷く。

 

「…………まぁ、悪かったよ。確かに俺が手を出すって事は、俺があの子達を信じられてないって証拠だからね」

 

決してμ'sに向かってではなく空に向かって言うあたり、城之内としては間違った事はしたが後悔はしていない、と言いたいのだろ。

 

城之内は戦極ドライバーを装着すると、デュークに手を差し出す。

 

「返してよ。そのドライバーに普通のロックシードは必要ないでしょ?」

 

「……………さっきまで散々邪魔してきた癖にな」

 

ドングリロックシードをその手に乗せると、フンと城之内はメガネの位置を直し構えた。

 

「よく言うでしょ。昨日の敵は今日の友ってね」

 

 

 

「変身!」

 

「変身」

 

 

『マツボックリ!』

 

 

『ドングリ!』

 

 

初瀬と城之内がロックシードを開錠すると、頭上にアーマーパーツが出現する。ほぼ同時に戦極ドライバーのドライブベイにセットしスライドシャックルを差し込む。

 

 

『ロック・オン!』

 

 

音声の直後に初瀬からは鎧武と同じ法螺貝が、城之内からはカイトと同じファンファーレの待機音が響き渡り、腕を振り上げるようにしてカッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! マツボックリアームズ! 一撃インザシャドゥ!!』

 

 

『カモン! ドングリアームズ! ネバーギブアップ!!』

 

 

再びアーマードライダーに変身した2人は、各々の武器を構えて前に出る。デュークもやれやれと肩を竦め凛を一瞥してから、肩を並べて尋ねる。

 

「で、作戦は?」

 

「正直、この戦力じゃ作戦なんて呼べる物ないよ。ありったけの力をぶつけるだけ!」

 

「いいじゃねぇか。わかりやすくてよ!」

 

黒影が叫び先陣を切るように駆け出す。続いてグリドンとデュークも駆け出し、戦列に加わった。

 

デュークは駆けながらノッキングドローワーを引き絞り、イノシシインベスの顔面に矢を放つ。龍玄や斬月のちまちました弾幕と違って強力な威力を持った矢にイノシシインベスが苦痛の咆哮を上げる。

 

デュークだけでなく黒影とグリドンという敵だったはずのライダーが援軍に来た事に、鎧武達は驚きもせずに連携を受け入れていた。

 

「みなさん!」

 

「話しは後。何か作戦ある?」

 

左前脚をドンカチで叩きながらグリドンが龍玄に尋ねると、ブドウ龍砲の緑宝撃鉄を引きながら答えた。

 

「あるわけないじゃないですか!」

 

「だろうね。俺も手がまったく浮かんで来ないし」

 

城之内が呟き後ろへ飛び退き、それと入れ替わるように黒影が前へ突き進む。

 

「らぁっ!」

 

気合いと共に突き出された影松がイノシシインベスの肩にあたる箇所に突き刺さり、その痛みでイノシシインベスが咆哮して飛び跳ねた。

 

「うぉっ!?」

 

その衝撃で影松がすぽんと抜けて、黒影は宙へ放り出される。その黒影を追撃しようと動くイノシシインベスを、バロンが阻止するかのごとくバナスピアーを突き出した。

 

先程から交互に攻撃を繰り返しているが、決定打になりはしない事は誰もがわかっていた。ただでさえ疲弊している状態なのだ。先に潰れるのはどちらかなど明白だ。

 

「このままではまずいな……」

 

「せめて、スイカが使えれば………」

 

「………あ。あるぞ」

 

斬月と龍玄の呟きに今思い出したように、鎧武がスイカロックシードを取り出した。

 

その瞬間。本当に一瞬ではあるが、デュークを除いた全アーマードライダーの突き刺さるような冷たい視線が鎧武へ注がれた。

 

「「「「「さっさと使えバカ野郎!!」」」」」

 

「わ、悪かったって!」

 

全アーマードライダー達からの叱咤に謝りながら、鎧武はスイカロックシードを開錠した。

 

 

『スイカ!』

 

 

頭上にクラックが出現するが、周囲の人々は唖然となった。その大きさが尋常ではなく、さらにはアーマーパーツが降りてこないのだ。

 

しかし、鎧武は慣れたようにイチゴロックシードとスイカロックシードを取り替えて、スライドシャックルを差し込んでカッティングブレードをスラッシュした。

 

 

『ソイヤッ! スイカアームズ!』

 

 

途端に、クラックから巨大な影が落下してくる。それが大きなスイカだと気付いた時には、鎧武が押し潰されていた。

 

「嘘……」

 

「鎧武が…………」

 

「潰されちゃったわよ!?」

 

まるでコントのように潰された鎧武に真姫、絵里、にこが反撃するのではなかったのか、と声を上げる。周りだけでなくイノシシインベスもどう反応したらいいのか困ったように硬直している。

 

取り敢えずつついてみるか、とでも言うようにイノシシインベスは左足を上げた。

 

しかし、触ろうとした足はスイカがごろんと動いた事によって空を切ったのだ。

 

「……………今、動いたよね?」

 

「動いたね」

 

花陽が希に確認を取るが、その場にいる全員が見たものだ。

 

もう一度イノシシインベスが足を振り上げると、スイカはその場で物凄い勢いで回転し始め、イノシシインベスの頭にゴールするかのように激突し宙へ舞った。

 

 

『スイカアームズ! 大玉、ビックバン!!』

 

 

「これがスイカアームズだ!」

 

空中でスイカが変形し、まるでロボットのような姿となりスイカのような刀身が両端に付いたのようなスイカ双刃刀を構えた。

 

よく見れば鎧武が中におり、アーマーパーツを纏っているのがよくわかる。

 

「か、かっこいいかも…………」

 

「……………マジで?」

 

ことりの呟きに聞こえない程度で、割と本気で疑問を抱いてしまうデューク。

 

「おらぁっ!」

 

スイカ双刃刀をくるくると周りイノシシインベスを斬りつけると、今までとは違ったはっきりとしたダメージを与えるかのようにその巨体が吹き飛んだ。

 

イノシシインベスが悲痛の咆哮をあげると、前足で助走をつけてから鎧武へと突撃してきた。本来らば避けている突進も、スイカアームズの今なら真っ向からも受け止められる。

 

まるで相撲取りのぶつかり合いのごとく激突した鎧武とイノシシインベスの力は拮抗していた。

 

しかし、それも最初だけであり今までのダメージが蓄積している鎧武がほんの少しずつ後退しているのが見えた。

 

「まずい。このままだと学校の外に出るぞ!」

 

「だったら手を貸してよ、バナナのライダー」

 

事態が事態なだけに焦るバロンに、先程凛から回収したバナナロックシードをソニックアローにセットしながらデュークが言った。

 

 

『ロック・オン。バナナチャージ!』

 

 

「バナナじゃない。バロンだ!」

 

 

バロンは反論しながら、カッティングブレードを2回スラッシュする。

 

 

『カモン! バナナ・オーレ!!』

 

 

ロックシードのエネルギーを解放し、バナスピアーとソニックアローを地面に突き立てる。

 

するとエネルギーとなったバナナがイノシシインベスを地面から突き上げ空中に上げると、さらに空中で出現したバナナが檻のようになりイノシシインベスを拘束した。

 

「今だ、葛葉!」

 

「っしゃぁっ!!」

 

ぐるんぐるんとスイカ双刃刀を振り回したが鎧武は跳躍し、その中でカッティングブレードを1回スラッシュする。

 

 

『ソイヤッ! スイカ・スカッシュ!!』

 

 

ぐるぐると回すスイカ双刃刀からスイカの果実を思わせるような檻が放たれ、さらにイノシシインベスをエネルギー空間に閉じ込める。それごと真上からスイカ双刃刀を構えて強襲し、乱舞のごとく斬りつけた。

 

それは巨体なイノシシインベスに終焉を齎すのには相応しい一撃であり、空中でエネルギー空間ごと爆発を起こした。

 

爆炎の中からスイカアームズを脱ぎ捨てた鎧武が現れ、戦極ドライバーにセットされていたスイカロックシードはエネルギーを使い果たしたかのように灰となり消えていった。

 

それにより鎧武の変身が解け、人間の姿に戻ったコウタは息と共に緊張を吐き出す。

 

それに伴いデュークを除いたアーマードライダー達も戦極ドライバーのロックシードを閉じ、変身を解く。

 

コウタはそこで、はっとなったように振り向く。そこかにはインベスとの戦いで潰れてしまったステージがあった。

 

ライブ自体はギリギリ成功したと言えよう。しかし、その直後にオープンキャンパスは失敗した。

 

もっと自分達がしっかりしていれば、このような事態なかはならなかった。その悔しさがコウタの胸一杯に広がり、自分が許せない気持ちで心が染まっていく。

 

「コウタ君………」

 

声をかけられて振り向くと、そこには穂乃果を始めとしたμ'sの面々が。傷らしい傷はみあたらないものの、せっかく今回のライブにあたってことりが作った衣装も、戦いの余波を受けて切れたりしてしまっている。

 

それが彼女達を戦いに巻き込んでしまったという実感と、下手をしたら傷付けてしまっていたかもしれないという可能性がコウタの心を締め付けてくる。

 

「ご、ごめん! せっかくのオープンキャンパス……俺達のせいで台無しになっちゃって……もっとしっかりしてれば」

 

コウタの言葉は、叩くような乾いた音で途切れる。

 

穂乃果が目に涙を溜めて大きく揺らし、振り払った手が震えていた。

 

遅れて頬が熱くなり、痛みが走る。

 

そこでようやく、穂乃果に頬を叩かれたのだと、コウタの思考は理解した。

 

「ほ、穂乃果………?」

 

「穂乃果、ちゃん………?」

 

μ'sの中でも一番付き合いが長い海未とことりでさえ驚きのあまり目を見開いている。

 

誰もかれもが口を開けない。穂乃果という少女の性格を知る音乃木坂学院の生徒ならば驚くばかりで、避難していた見学者達も尋常ではない空気に息を飲むばかりだ。

 

「……………違うよ」

 

やがて、声を漏らしたのは穂乃果だ。溜め込んでいた涙をついに崩壊させて、μ'sの率役者はその内を漏らした。

 

「違うよ。どうして………? コウタ君も、カイト君もミッチも学生なんだよ!? 確かに変身出来るベルトを持ってるよ……だけど、こんなになるまで戦わなくても…………!」

 

穂乃果がそっと右腕に触れると痛みが走った。そこでコウタは自分の右腕から血が流れている事に気付く。

 

ずっと戦ってきたコウタ達からしてみれば、この程度の傷は慣れっこだ。痛いには痛いが、いまさらどだばたする程ではない。

 

しかし、普通の女の子である穂乃果にとって、それは非日常に面した結果なのだ。穂乃果だけではなく他の人々にとっても、この戦いというのは異質の世界なのだ。

 

溢れ出る涙を拭う事もせずに、穂乃果はコウタの右腕を優しく握る。

 

「………ごめんなさい」

 

短く呟いた言葉は、まるで呪詛のようにコウタの心を縛り付けた。

 

「ごめんなさい………コウタ君や誰かが傷ついてまでこんな事……………」

 

謝罪の言葉が何度も告げられる。決して穂乃果は悪くないのに、コウタ達が勝手にやった事なのに。

 

謝る必要はない。そう言えばいいはずなのに、コウタは言う事が出来ない。肯定する訳ではない。

 

「こんな事………誰かが傷ついてまでやる事じゃないのに。コウタ君が傷ついてまで」

 

その瞬間、コウタの表情が強張る。瞳が大きく揺れて、その一言で視界が揺れた。

 

コウタの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウタさん!!」

 

「葛葉!!」

 

こと切れた人形のように倒れたコウタに駆け付けつつ、ミツザネが咄嗟にこちらを一瞥して口を動かした。

 

イマノウチニニゲテ。

 

それを読み取ったデュークは小さく頷き、今だ気絶している凛を一瞥してから誰にも気付かれないようにその場を去った。正直言えば鎧武の事も気にはなったが、近寄るには正体を明かす必要があった。

 

それだけは出来ない。それは“盟約違反“だ。

 

無我夢中で走ったからか、いつの間にか音乃木坂学院からかなり離れた下水道に行き着いた。

 

 

そこで上下に展開しているエナジーロックシードを閉じて変身を解いたアキトは、ズキッと走った脇腹の痛みに顔を顰める。

 

「っ、てぇー………」

 

イノシシインベスに襲われかけた凛を助ける際に無理な動きをした代償だが、アキトは気にせず戦った。

 

思えばコウタの方がよっぽど重症だ。外傷も、内面も。

 

「くそっ……!」

 

痛みを忘れるために、思い切り下水道に拳を打ち付ける。

 

今回は完全に敗北だ。一般人に明確な怪我人が出なかったのはわずかばかりの救いだが、後々の事を考えればマイナス要素の方がでかい。

 

世間にはインベスに襲撃されるとわかりつつオープンキャンパスを強行した、とうレッテルだけが行き渡るだろう。世の中の情勢とはそういうものだ。

 

アーマードライダーが撃退したと言ってもギリギリの瀬戸際。そんな危ない学校に我が子を通わせようとする親などいるはずもなく、生徒も然りだ。

 

μ'sのライブは成功した。それは間違いない。

 

しかし、勝負に勝って試合に負けた。今回を表すにはまさしくそれだ。

 

「随分と苛立ってるなァ。お前は音乃木坂学院の生徒じゃないじゃないか」

 

投げ掛けられた言葉に殺意を抱き、アキトは吠える。

 

「テメェ………! よくも抜け抜けと現れられたもんだな………!」

 

「おいおい、あまりにもらしくないじゃないか」

 

現れた男、DJサガラを睨みアキトが言う。スクールアイドルやビートライダーズを取り扱ったネットラジオ番組、ダンスダンスホットラインを切り盛りしている男だが、番組のようなポップな衣装ではなく、どこかの宗教団体や奇怪な民俗を思わせる衣装という姿だった。

 

サガラはアキトの脇腹を見やり、そっと手を翳す。それだけで不可視の力が走り、痛みが消える。

 

「お前は強くなったか弱くなったか、と二択になれば確実に弱くなっただろう。もっとも、それも世界を面白くするにはいい調味料になるなら、俺は大歓迎だがな」

 

いつまでも調子を崩さないサガラに、アキトはその場に腰を下ろして尋ねる。

 

「…………何故、志木とかいう小悪党に手を貸した?」

 

「その方が世界は面白くなるからだ」

 

間髪入れずに返ってきた言葉は、やはりと思わざる得ない言葉だった。

 

「言われなくてもわかっているだろう? 世界をより面白くする。それが俺の役目だ」

 

そう言って笑うサガラは踵を返す

 

「かつては俺以上にこの役割を果たしていたお前が、今は足掻く側にいるのはどういう気分だ?」

 

「…………案外悪くねぇよ」

 

「本当にらしくないな。お前……本当にあの######か?」

 

途端にサガラの言葉が歪んで聞こえる。雑音とも騒音とも取れる言葉は、この世界では言語に出来ないが故のものだ。

 

その名を認めるのを世界が拒んでいる。当たり前だ。その名を確立するという事は世界を狂気に晒すという事になるのだから。

 

「今の俺はアキト。啼臥アキト………それ以上でもそれ以下でもない」

 

「…………そこまで身を落とす覚悟があるのなら、俺も今後は人の名で呼ぼう。啼臥アキト」

 

サガラはそう言うと、アキトに背を向けたまま歩き出す。そして何の前触れもなく、その姿が幽霊のように消えていった。

 

お前の選択がどんな風に世界を面白くしていくのか、楽しみにしているよ。

 

そんな言葉を耳奥に残して。

 

気配も完全に消えたサガラに、アキトは言う。

 

「わかってない。わかってないよ………お前が思っている以上に、人間は面白い」

 

アキトは立ち上がると下水道を出るべく出口を探し始めた。

 

その後ろ姿は言葉が示す通り、その背中はまるで今の状況を楽しんでいるように肩が震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

啼臥アキトが所有するロックシード

 

 

・レモンエナジー

・バナナ

・サクラハリケーン

・ローズアタッカー

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は…………

 

「…………俺はもう、変身出来ない………………」

 

力無く項垂れるコウタ。

 

 

 

「パンツ見えてんぞ」

 

「机に向かってたらこちらなんて見えませんー」

 

元気を無くす凛に溜息を吐くアキト。

 

 

 

「流石に警察の厄介になるのだけは勘弁して欲しいんですけど」

 

「オレはもう音乃木坂学院の生徒ではない。知ったことか」

 

不貞腐れるカイトとその保護者となっているミツザネ。

 

 

 

「ありがとな。お前達がオープンキャンパスを強行してくれたおかげで、俺“達“の世界は守られたよ」

 

ミツザネに不適に言葉と嗤いを向けるアキト。

 

 

 

「デートしましょ」

 

突然の美少女からのお誘いに、コウタは…………

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

7話:戦う理由~常識と非常識の境界線~

 

 

 

 

 




まさかの2万文字超え。アリアWがだいたい6000文字程度なのにこの差……ここまで読んでくださってありがとうございます。

悶々と書いてみましたオープンキャンパス編、如何でしょうか。

平成VS昭和で士が「ライダーの戦いは所詮、殺し合い」と称しているようにライダーの戦いなど結局は殺し合いなんですよね。

そこで、鎧武本編からしたら平和だけど、やっぱり危険な戦いである事に変わりはない。という事で、戦いからほど遠い住人である穂乃果達一般人から見て、もし友達が自分達に黙って戦っていたら、という観点において書きました。

舞といったヒロインポジションがμ'sになる訳です。

ただ今回は黙って勝手にやられた訳で、どうしてそんな無茶を………というのが彼女たちの心情でしょう。

どうしてコウタ達がそこまでして戦うのか、その理由は次回で明らかにしたいと思います。

……………まだ序盤なのに戦う理由まで切り込むのは性急すぎたかな…………ww



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