ラブ鎧武!   作:グラニ

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7話:戦う理由~常識と非常識の境界線~

近年、少子化の波わ受けて入学希望者を募る為に、学生で結成されたアイドル・スクールアイドル。

 

音乃木坂学院のスクールアイドル『μ's』も学校存続の為に立ち上る。そんな彼女達を守る為、試験的共学科を兼ねて転校してきたアーマードライダー鎧武こと葛葉コウタ。

 

ついに学校存続の未来決めるオープンキャンパスを目前に控えた彼らの元に、元都議会議員の志木が当日、襲撃計画を企てているという情報が入る。

 

襲撃を知らせればオープンキャンパスは中止になる、と判断した鎧武達は知らせずに迎撃をすることを決意する。

 

しかし、結果は世間的にも広がってしまい、オープンキャンパスの戦いは鎧武達の大敗で終わってしまうのだった。

 

 

 

 

葛葉コウタは微睡みの中から覚めると、自分の部屋で体育座りをしている状態で寝ていた事に気付いた。

 

立ち上がると身体の至る所から悲鳴が上がり、意識をはっきりさせるために深呼吸する。

 

酸素を取り入れた事で脳が活性化し、意識が鮮明になっていく。ふと、その際にテーブル上にあるはずの戦極ドライバーがない事に気付いて思い出す。

 

オープンキャンパスから3日が経ち、今日は平日の水曜日だ。しかし、コウタはあれ以降、音乃木坂学院に通う事なく家でダラダラしてしまっていた。

 

姉である葛葉アキラは仕事のためここ数日帰ってきていないので学校についで言及してきたのは弟分の呉島ミツザネだが、コウタの顔を見るなり「学校には休むと伝えときますね」と遠回しに休めと言われた。

 

コウタは洗面台に行って顔を洗い、鏡を見てふと呟いた。

 

「…………酷ぇ顔……そりゃミッチも休めって言うよな」

 

自分でそう言ってしまうほど、今のコウタの顔は酷かった。学校に行けばμ'sのメンバーはもちろん、色んな生徒に心配をかけてしまうだろう。

 

自室に戻ってベットに腰かけ、腰から下げたロックシードを取り出す。

 

高坂穂乃果から託されたオレンジロックシードだが、あの瑞々しい果実のようなオレンジの色は失せており、力を使い果たしたかのように灰色になっていた。

 

ロックシードのエネルギーは無限ではない。一般的に使われているインベスを召喚する程度ならば問題ないが、アーマードライダーはそれを超えた力を使う。早い話しが必殺技の使い過ぎだ。

 

しばらくすれば元には戻るが、ここまで使い尽くしてしまった事に穂乃果に申し訳なさを感じる。

 

と、そこまで考えてコウタは力なく笑った。やはり自分は馬鹿だ。もはやそんな思いも意味ないのに。

 

「…………俺はもう、変身出来ない………………」

 

コウタの独白が響く。

 

オープンキャンパスでコウタは意識を失い、次に気付いた時はμ'sメンバーの1人、西木野真姫の実家が運営している病院だった。

 

そこにいてくれたのはミツザネと九紋カイトの2人で、彼らから残酷な言葉が吐き出される。

 

3人はあくまでも音乃木坂学院に通う学生であり、勉学が本分であったアーマードライダーとして戦う事ではない。

 

よって、戦極ドライバーは没収。アーマードライダーとして戦闘行為を禁ずる。

 

そう言って、南理事長が戦極ドライバーを没収したそうだ。

 

故にコウタは鎧武に変身出来ない。

 

コウタはもう一度ベットに横たわる。そういえば鎧武に変身したての頃も、こうやって部屋でどんな変身ポーズをしようかと色々悩んだ事を思い出した。

 

もうすでに思い出となったしまった力に、コウタは乾いた笑みを浮かべる。それは嘲笑に近く、まるで自身を小馬鹿にしているようだった。

 

「……………何の為に、俺はここに来たんだろうな」

 

コウタの独白に答える者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「にゃー……」

 

星空凛は猫と犬のヌイグルミを抱きしめながらベットにごろんと横たわった。

 

それを見て呆れたように息を吐き、この部屋の主が言ってくる。

 

「パンツ見えてんぞ」

 

「机に向かってたらこちらなんて見えませんー」

 

テーブルに向かって本日の売上などを計算しているのは、凛の幼馴染みの啼臥アキトだ。

 

凛がいるのはラーメン仁郎の2階。即ちアキトの部屋である。

 

仲を取り戻してから早1週間が過ぎて、凛は毎日のようにラーメン仁郎を訪れては今日の事を話していた。ここ1週間に起きた出来事は凛の短い人生においても波乱万丈過ぎた。

 

特筆すべきは、3日前のオープンキャンパスだろう。

 

凛が通う音乃木坂学院は廃校の危機に面していた。オープンキャンパスの結果で廃校を確実にするという瀬戸際で、スクールアイドルμ'sはライブをする事に。

 

結果としてライブは成功した。しかし、その直後に音乃木坂学院は2人のアーマードライダーに襲撃され最悪な形で終わりを告げたのだ。

 

音乃木坂学院にも通うアーマードライダー達が戦ってくれたのだが、彼らは襲撃の可能性を知りつつオープンキャンパスを強行したらしい。それによって音乃木坂学院は世間から批判され、色々とニュース番組で悪い印象として人々に植え付けられている。

 

学校側とユグドラシルの会見により生徒へ直接何かがある、という行為は聞いていないのは幸いと言えるだろう。

 

「……………なんか食うか?」

 

「お腹空いてない」

 

暗い空気を察してくれたアキトに凛がそう答えた途端、くぅーと可愛らしい音が響く。しかし、今は空腹時よりも頭に謎や不安が頭一杯で動けそうになかった。

 

「…………ごめん。気を使わせて」

 

「気にすんな。幼馴染みだろ? 何か作ってくる」

 

「ううん。本当にご飯を食べる気分じゃないから」

 

そう断ると、アキトは少し悲しそうな顔をした。

 

「確かに俺は部外者だけど、ぶっちゃけてくれていいんだぜ?」

 

言葉の意味がわからず首を傾げると、アキトは片目を眇める。

 

「本当に余裕がない時、語尾のにゃーがなくなるよな」

 

「………よく覚えてるね」

 

答えるのに間があったのは、自分でも気付いていない事を指摘されて少し嬉しかったからだ。長年の空白を埋めるくらいに、アキトは凛を理解してくれている。

 

だからこそ、この場所はとても心地好く感じ、毎日足を運んでいる。

 

「でも、音乃木坂学院の現状はニュースとかで知ってるでしょ?」

 

「俺が知りたいのはお前の心情。何が不安で、何を考えてる?」

 

アキトの問いかけに、凛は自身の心を見た。疑問は何故、鎧武達は黙って強行したのか。しかし、そこには凛では考えの及ばない事情があるのだろうと、思考を放り投げる。

 

もっと、たった今凛にのしかかっていて気になって気になって仕方がない事。

 

その時、2人の男女の先輩が過ぎった。

 

「…………本当に終わりなのかな、って」

 

言って凛は自覚した。不安で仕方ないのだ。きっと自分だけでなく幼馴染みの小泉花陽も、クラスメートの西木野真姫も。

 

「凛達は穂乃果ちゃんに誘われてスクールアイドルμ'sになったけど、今回の件で廃校が確実になってしまったら……μ'sは解散になっちゃうのかな」

 

アキトはその言葉に返して来ない。凛は続けた。

 

「凛達、頑張って練習してきたよ。最初からいた訳じゃないけど、絵里ちゃん達生徒会ともぶつかったりもしたけど、ようやく9人揃って始まった。途中でコウタ君達も一緒になってコーチしてくれて……」

 

そこで言葉を区切り、凛は思い返す。

 

オープンキャンパスの日。凛は途中からの記憶がない。花陽に聞いた限りではインベスゲームが無理な終わり方をしたため、その衝撃で意識が吹っ飛んだそうだ。

 

真姫の実家が経営している西木野病院で検査を受けて異常は見当たらず一安心したのだが、そこで見たコウタ達に凛は驚きを隠せなかった。

 

コウタにミツザネ、カイトがボロボロの姿だったのだ。頭や腕に包帯を巻き付けて、その痛々しい姿は知っている日常とかけ離れ過ぎていて言葉がなかった。

 

「どうしてこうなっちゃったんだろ………廃校を阻止しようとする事が間違ってるのかな」

 

コウタ達が来た初日と立て続けに起きたインベス事件。それはまるで誰かに学校存続を否定されいるような気分だった。

 

その時、いつの間にかベッドに座ったアキトが凛の頭を撫でてきた。

 

「…………凛は猫じゃないにゃ」

 

「その語尾で台無しだな」

 

まるで子供をあやすような感じではあるが、撫でられるのは嫌いではないので凛は抗議はしても抵抗する事もなく撫でられ続けた。

 

「…………ねぇ、アキトならわかる? どうして3人が学校に黙って戦ったのか」

 

凛の投げた質問に、アキトは撫でる手を止めた。

 

「………なんとなくだけど」

 

「それは男の子だから?」

 

凛の問い掛けにアキトは視線を泳がせる。なんと説明したらいいか迷っている様子だ。

 

「男とか女とか、そんな事じゃないと思う」

 

「………もっと難しいって事?」

「凛が難しく考えれば難しいし、簡単に考えれば簡単なんだと思う」

 

「………言ってる意味がわからないよ」

 

「まぁ、そうだよな」

 

そう区切って、アキトは言う。

 

「でも、多分そうなんじゃないかな。ミッチが打算的な理由で動くとは思えないし、きっと気付けば簡単なんだと思う」

 

「……そう、かな……………」

 

小さく呟き、途端に凛の瞼が重くなる。撫でられた心地良さとベッドの優しさが相まって、夢の国がおいでおいでと手招きしてくる。

 

それに抗う子となく、凛は夢の国へ出立した。

 

ごめんな。

 

最後にどういう訳か謝ってくる声があったが、それが誰のものなのか判断する前に凛は眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に警察の厄介になるのだけは勘弁して欲しいんですけど」

 

木曜の早朝。ミツザネは万葉橋警察署へ足を運んでいた。

 

目の前にはむすっとした態度で腕を組んだカイトが座っており、彼に着替えの服が入った紙袋を押し付ける。

 

「ただでさえ、今は音乃木坂学院は不安定です。そこで警察に補導されたなんて新たなマイナス要素が加わったら最悪です」

 

「オレはもう音乃木坂学院の生徒ではない。知ったことか」

 

「理事長の前で啖呵切ったくらいで学校は辞めれるものじゃありません」

 

ミツザネはこうなるだろうな、と息を吐く。

 

3日前のオープンキャンパスはこちらの敗北で終わった。知られずに勝利しなければならない戦いは学校どころか世間にまで知られてしまい、学校とユグドラシルには電話が鳴り響いているという。

 

あの直後。気を失ったコウタが病院へ搬送されたのを見届けた後、当然のごとくミツザネとカイト、呉島タカトラは理事長に呼ばれた。

 

こちらの事情を伝えてみたものの、結果として大事となり死傷者はそれほど出なかったとはいえ被害を出してしまった。

 

ユグドラシル側にも抗議するとの事で、次に追求されたのはコウタ、ミツザネ、カイトの3人だ。

 

何故、あんな大怪我をしてまで戦ったのか、と。貴方達は学生でありアーマードライダーであるのは、その開発に知らない内に関わっていたからであると聞いていたらしい。

 

事実。ミツザネ達がアーマードライダーになったのは戦極ドライバーの情報収集のために、ある意味でユグドラシルが言うところのモルモットとして関わっだ。

 

そして、今回の件も含めて南理事長は学生がアーマードライダーをしている事はおかしいと言ってきたのだ。アーマードライダーは危険な仕事であり、本来はユグドラシル社員がするべき業務なのだから、という理由だ。

 

そして、3人は戦極ドライバーを没収された。ユグドラシルに返却するとまた彼らに手が渡るとの事で、南理事長が保管するらしい。

 

カイトは当然反発したのだが、普通の学生をしてみなさい。という南理事長の発言に、堪忍袋の緒が切れたのごとく出ていった。

 

『こんな終わった所、微塵も興味はない』という捨て台詞を律儀に残して。

 

それから4日が経ち、学校側はもちろん生徒達ならも鎧武達への批判は出ているらしい。それでもμ'sのせいでライダーが来た、と彼女達へ矛先が向けられていないのは幸いと言えるだろう。

 

「で、イラついたからビートライダーズに喧嘩を売って補導された、と」

 

「…………フン」

 

ミツザネの言い分に反論する気はないらしく、カイトはいつものように鼻を鳴らした。

 

1時間前、タカトラからカイトが警察に補導されたから迎えに行ってくれ、と聞かされた時は本気でぶん殴ろうと思った。しかし、補導されたのは近所の中学生を虐めているビートライダーズを倒した、と聞いて握っていた拳を解いた。あまりにもカイトらしくて笑ってしまったくらいだ。

 

ふと、カイトが立ち上がり歩き出す。

 

「どちらへ?」

 

「便所で着替える」

 

なるほど、とミツザネは男子トイレまで同行して個室の壁に寄りかかって待つ事にする。

 

「葛葉は?」

 

「…………学校は休ませました。正直、見るに耐えない姿でしたから。しばらくは戦えないでしょう」

 

ミツザネがコウタの様子を見に行ったのは昨日だ。兄であるタカトラのサポートのためあちらこちらへと足を運んでいたミツザネがコウタの自宅へ行くと、そこには呆然とした様子で体育座りをしている彼がいたのだ。

 

葛葉コウタを本当の兄のように慕っているミツザネとしては、とても見ていられない姿だった。おそらくカイトが見てもその不甲斐なさに怒るだろう。

 

しかし、それも致し方ないと言えるのかもしれない。

 

コウタは戦極ドライバーの被験者として一番最初にアーマードライダーとなった存在で、それだけ多くの戦いに携わってきた。

 

決して勝利ばかりではなく、むしろ敗北の方が多いくらいだ。それも全ては自分が望んでやった事で、戦う事によって誰かが助かると信じていた。

 

しかし、よりによってその正義感が今回は真逆に働いてしまったのだ。もちろん鎧武が戦わなければもっと被害は広がっていただろうし、そもそも戦うと決定したのはユグドラシルだ。

 

もっとも生徒達には事実と異なり、鎧武が無理矢理決行したと広がってしまったのだ。

 

そして、もっとも決定的だったのは、一番信頼してくれていた女の子が泣いて謝ってきた事。

 

この力を信じてくれた高坂穂乃果が、その力を否定したのだ。

 

「…………気の所為か、以前にもあった気がするんだが」

 

「ありましたね、そういえば………」

 

若干呆れが入った声で言うカイトに、同意するように笑うミツザネ。

 

まだコウタが鎧武になりたての頃、タカトラにボコボコにやられた時があった。その本当の命のやり取りにコウタは恐怖し、今回のように体育座りで「俺はもう、変身出来ない……」と絶望していたのだ。

 

その件がミツザネをアーマードライダーへ導いたりとあったが、少し懐かしさを覚えて笑ってしまった。

 

それから少ししてからカイトが出てきたので、ミツザネは満面の笑顔で告げる。

 

「じゃ、学校行きましょうか」

 

笑顔の裏に有無を言わさない気配を込めたからか、カイトは顔を引きつらせながらも頷いた。

 

警察署から出ると陽は登っており、陽射しが2人を照らしつける。

 

「途中でコンビニ寄るぞ。昨日から何も食べてないんだ」

 

「取り調べってカツ丼出ないんですか?」

 

「ドラマか」

 

ミツザネとカイトはロックビークルを開錠してバイクモードとなったビークルに跨る。仮にもアーマード“ライダー“なのだからバイクの運転など朝飯前だ。

 

本来は通学などの使用は禁止されているのだが、近場までは毎日それで通っている。今更校則も何もなかった。

 

途中のコンビニでパンなどを買って朝ご飯を済ませて、いよいよ2人は音乃木坂学院へとやって来た。

 

すでに時刻は生徒達が登校する時間になっており、女生徒達が音乃木坂学院の敷地内へ足を踏み入れている。

 

3日ぶりの音乃木坂学院はやはりというべきか、至る箇所に工事中の看板や敷居がされており非日常を思い出させるような光景だった。

 

変わった事はもう1つ。周りから向けられている奇異な視線だ。

 

「やだ、あいつらなんで平然と登校してるの………?」

 

「あいつらのせいでウチの学校、ニュースで取り上げられたんでしょ。よく来れるわね、」

 

「私、さっき電車で明らかに避けれてたんだけど………」

 

「九紋なんてここ数日、ビートライダーズを相手に暴れ回ってたらしいよ」

 

こそこそと、裏口を叩いていく女生徒達は前まで仲良く挨拶してくれたクラスメートや先輩後輩達だ。

 

それらを身に受けながら、ミツザネは呟く。

 

「色々と言われてますよ」

 

「堂々と面と向かって言えない弱者に興味はない。お前はどうなんだ、ミツザネ?」

 

「まぁ、弱者かどうか置いといて。僕も元はビートライダーズ……嫌われるのには慣れてます」

 

ミツザネは冷ややかな視線も何処吹く風で受け流し、正門へと潜る。

 

「あ、ミッチー!」

 

その時、声をかけられて振り向くと、駆け寄って来たのは凛だ。その後ろには親友の花陽と真姫もいるが、どこかぎこちない様子だ。

 

それを知りつつ、ミツザネは凛と挨拶を交わす。

 

「おはようございます。凛さん、大丈夫でしたか?」

 

「もー、ミッチもかよちんと同じ事言うー。大丈夫だって、ラーメンも美味しく頂いてますにゃ」

 

からからと笑う凛、いつもの彼女だ。オープンキャンパス時、凛はインベスゲームの余波で気絶してしまったのだ。検査結果に問題とは聞いていたが、やはり実際に元気な姿を見なければ不安は拭えないというものだ。

 

そんな凛の姿を見て、カイトは呆れたように笑う。

 

「それだけ元気なら問題ないな」

 

「おぉ、まさかカイト先輩に心配されるかんて思わなかったですにゃ」

 

カイトの毒づきにも毒を持って返す姿に、ミツザネは苦笑を浮かべる。

 

その笑みが伝染したのか、花陽と真姫を笑みを零ぼす。

 

「凛ちゃん。検査終わってから毎日のように仁郎行ってラーメン食べてるんですよ」

 

「しかも、ほとんどアキトの奢りとかで」

 

「凛さん………」

 

あれだけ危険な目に合ったのに、ラーメンを毎日幼馴染みにご馳走してもらう。その逞しさにミツザネも呆れるしかない。

 

頻りに笑った後、花陽がふと尋ねてくる。

 

「あの、コウタさんはどうですか?」

 

「怪我は大した事ありません。ですが、念のためにしばらく休んでいるよう言っておきました」

 

「そうじゃなくて………」

 

ミツザネの返答に、かなり聞きづらそうに真姫が繋げた。

 

コウタが担ぎ込まれた病院は彼女の実家が経営していたのだから、怪我の具合は知っているはずだ。真姫を通して他のμ'sメンバーにも通じているだろう。

 

「その、あの時凄く消沈していたから……大丈夫かなって」

 

「あぁ、アレですか。唯単にドライバーを取り上げられて戦えない事に消沈してるだけですから、そのうち立ち直りますよ」

 

深刻な雰囲気を払拭するように、軽い口調で答えるミツザネ。それは長い時間一緒にしたミツザネ達からしても、あの程度の消沈は何度かあった事だ。

 

葛葉コウタは感情の浮き沈みが激しい。最初の頃はミツザネも真姫達のように心配はしていたものの、今では「あぁ、またか」と希薄な反応をするくらいである。

 

しかし、真姫はその返答に納得していないのか、少し不満そうに言った。

 

「…………そんなに貴方達は戦いがしたいの?」

 

その言葉に、ぴしりと周囲の緊張感が増した。少し遠めで聞き耳を立てていた登校中の生徒達も足を止めて、驚いたように真姫を見ていた。

 

対して、ミツザネははてと首を傾げている。

 

「カイトさん。言われてますよ」

 

「あざといボケはやめて答えてやったらどうだ。本気みたいだぞ?」

 

カイトの言う通り、真姫だけではなく花陽も真剣な表情をしている。凛は困った様子で、真姫とミツザネを交互に見やる。

 

決しておふざけが出来る空気ではない。周りの生徒達も傾聴しているようだ。

 

「…………僕達だって、戦いを出来れば回避したいですよ」

 

「なら、どうしてオープンキャンパスを強行したのよ!?」

 

耐え切れなくなったように、真姫が激高した。普段から面倒そうに物事を見て非協力な真姫が本気で叫ぶ、というところを初めて見た花陽と凛は驚いた顔をした。

 

真姫は3日前の事を思い出したのか、震える手で自身の両腕を抱え込む。

 

「…………怖かった。凄く怖かったのよ……インベスが目の前でじっとこちらを見てて…………凄く、怖った……」

 

あの不遜な真姫が弱音を吐いてしまうほど、あの出来事は心に刻まれてしまったらしい。取り乱さない所を見るとトラウマまではいってないものの、やはり恐怖は拭えないようだ。

 

「どうして、どうして強行なんかしたのよ!? そんな事しなければあんな怖い思いも、コウタも大怪我なんかしなかったし、学校もこんなにはならなかった!」

 

強く、叫ぶように言い放って真姫はミツザネを睨んでくる。そこには敵意というよりも心底わからない、という疑念の色があった。

 

「どうして? ミッチ達と一緒になって少ししか経ってないけど、決してこんな無茶苦茶なやり方をするような人じゃないって思ってた……だけど、本当な違うの!? 答えて!」

 

その問い掛けに、ミツザネはふと頬を緩めて、

 

「ありがとうございます。まだ、少しでも僕達の事を信じようとしてくれ」

 

素直に礼を述べた。今の真姫の言葉には、ミツザネ達はそんな事をするような人達ではない、という意味合いが込められていた。

 

叫ぶほど怖い目に合っても尚、信じようとしてくれている。その事が嬉しかった。

 

「ですが、答えは決まっています。戦うしかなかったから戦った。それだけです」

 

無情の宣告のようにミツザネが言い放つと、真姫だけでなくその場にいた全員が愕然となる。

 

そして、真姫は今度こそ怒りの形相でミツザネに詰め寄った。

 

「何よそれ……巫山戯ないで! そんなのが答えになると思ってるの!?」

 

「真姫とまったくの同意見ね」

 

その時、校舎の方から声が飛び、外野の合間を縫ってこちらへ歩いてくる長身の少女と、豊かな胸を揺らす少女の姿があった。

 

「そんな答えで私達を納得させられるとでも思ってるの?」

 

「流石に今回ばかりは、カードじゃなくて2人の口から聞きたいね」

 

生徒会長と副会長、絢瀬絵里と東條希は出会った頃とは違い剣呑な瞳で睨んでくる。

 

その視線の先にいるのはミツザネではなくカイトだ。

 

「カイト。貴方、昨日ビートライダーズの中学生に暴行して補導されたでしょう。保護者の方から苦情が来たわ」

 

「なっ、待って下さい! 確かにカイトさんは補導されましたが、それにはきちんと理由があって………」

 

絵里の言葉に反応してはんろんするミツザネだが、それをカイトが手を上げて制す。

 

「弱者を痛ぶる事しか出来ない屑に本当の強さを知らしめた。それだけの事だ」

 

「弱者? 強さ? 馬鹿じゃないの!?」

 

「カイトのせいで朝から音乃木の生徒の保護者からも苦情も来てんねんで。おかげで1時間目は自習になりそうや」

 

カイトがいつもの調子で答えると、2人は怒って反論する。生徒会としても非常事態と取ったのか、あの希でさえ激高していた。

 

「貴方達は自分達が何をしたか理解しているの? 貴方達のせいで学校の存続は台無しよ!!」

 

絵里にそう言われ、ミツザネとカイトは顔を顰める。ミツザネ達にとって、それが一番の敗北を意味する言葉だ。例え判断したのは大人であっても戦ったのは彼らであり、その結果を導いてしまったのも彼らである。

 

「どうしてあんな事を………せめて相談なりしてくれれば」

 

「そうしたら、オープンキャンパスは中止になっていました」

 

「当たり前や! 危険があるとわかってて、みすみす……」

 

次に反論してきたのは希だ。当然、それは正しい判断だろう。

 

「そうやって先送りにして、逃げるだけか」

カイトがいつもの不遜な態度を崩さずに言った。

 

「今回のオープンキャンパスを中止にしたところで、この先の体育祭や文化祭。他の行事にも同じ事が付き纏う事になる。早いか遅いかの差、それだけだ」

 

この手の輩が簡単に諦めるはずはない。それはすでに今回が2度目という事が証明している。

 

「なによ、それ………つまりは、この学校の廃校は運命だもでも。阻止すること自体が無駄だとでも言うの!?」

 

今まで四苦八苦してきた練習や激突も無駄だったと言われたからか、絵里が叫ぶ。

 

そして、それを皮切りに2人の男子生徒へ罵詈雑言が飛び交った。

 

内容はほとんど同じで、纏めると「お前達なんか来なければ」というものだ。

 

μ'sメンバーから罵倒の言葉はないものの、まるで敵を見るかのような目で睨んできている。

 

敵意、罵詈雑言。この場の全てがミツザネとカイトの敵のようだった。

 

その中にいても、2人は目を逸らす事も反論する事もなく、その攻撃を一心に受けていた。

 

これは仕方が無い事だ。人は感情が昂った時、何かしらにぶつけられなければならない生き物だ。そして、ミツザネ達は何を言おうが敗北者である。

 

あの戦いに負けた。だから音乃木坂学院は今、こんな姿になっている。これはその結果だと、自分達が招いた結果だと。

 

だから、ミツザネ達には罵倒されなければならない。彼女達の悪意を受け止めなければならない。

 

そう思っていると、2人の前に1人の少女が立ちふさがった。しかし、彼らに向かい合うのではなく、背を向けて。

 

その後ろ姿に、ミツザネとカイトは驚愕のあまり目を見開いた。

 

「皆、ちょっと待ってよ!」

 

生徒達を宥めるように、高坂穂乃果が叫ぶ。遅れて幼馴染みの園田海未と南ことりがやってくる。息を切らしているあたり突然走り出した穂乃果を慌てて追い掛けて来たようだ。

 

「確かにミッチ達は無理に決行したよ? だけど、今までインベス事件から守ってくれてたのは3人だよ! なのに、急にこんな皆で責めて……そんなの卑怯だよ!」

 

「穂乃果………」

 

海未が穂乃果の名を呟くと、ことりと顔を見合わせて苦笑する。そこにはまさしく穂乃果らしい、とい言葉が顔に出ていた。

 

「穂乃果さん… ……」

 

「フン。やはり同類だったか」

 

ミツザネとカイトはほんの少しだけ嬉しそうに笑みを浮かべる。覚悟はあってもあの状況は辛いものがある。

 

「それに、2人もだよ!」

 

突如、穂乃果はミツザネとカイトを振り向いて人差し指を突き付けた。

 

「どうしてオープンキャンパスを強行したのか。それと」

 

そこで穂乃果の表情が、悲しみに染まった。

 

「どうして、コウタ君もカイト君もミッチも……そんなボロボロになるまでライダーとして戦うの?」

 

その言葉にミツザネとカイトは息を詰まらせる。

 

罵詈雑言よりも心に強い衝撃を齎すその言葉は、決して明かしたくない過去を話すという事になる。

 

それは、沢芽シティで起きた戦乱時代を掘り返さなければならないからだ。

 

はっきりとした動揺が顔に浮かんだからか、それを別の意味で受け取ったらしい穂乃果は顔を沈ませた。

 

「………どうしても話してくれないんだ」

 

「………ごめんなさい」

 

穂乃果が悔しさのあまり唇を噛み締める。それがわかってしまうから、余計にミツザネの良心が傷んだ。

 

「………ライブの時ね。ミッチは知らないかもさはれないけど、μ'sは私達9人だけじゃないって思ってた。だって、もう仲間だと思ってたから………」

 

その言葉は穂乃果の嘘偽りのない本音だった。それを吐露した彼女は、俯いて身体を震わせる。

 

そして、本当に小さく嗚咽を漏らす彼女に、ミツザネは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

決して穂乃果を泣かせたくて、あの戦いをした訳ではない。

 

決して皆から恨まれるために、決断した訳ではない。

 

なのに。

 

どうしても、世界は望まない結果ばかりをミツザネに突きつけてくる。どうしようのない現実という形で。

 

だが、それに黙って屈するミツザネではない。それを認めてしまう事は、今までの戦いすらも否定する事になるからだ。

 

「…………僕達だって、穂乃果さん達を仲間だって思っています。絶対に口にしないだろうけど、カイトさんも。もちろん、コウタさんだって」

 

ミツザネの言葉に顔をあげた穂乃果に、少年は追い討ちをかけるようにそれでも、と言葉を区切る。

 

「仲間であっても、話せない事はあります」

 

「何故ですか………? 話してくれないと、納得も信用も出来なくなってしまいますよ」

 

穂乃果の代わりに海未が言う。彼女もまた、問い詰めるのでも批難するのでもなく、素直な疑問として口にしていた。

 

わかっている。彼女達の疑問ももっともだ。学校襲撃などという漫画のような出来事が、つい4日前に起きて巻き込まれたのだから。

 

しかし、その疑問を晴らす事はミツザネには出来なかった。真実は必ずしも人を幸福するとは限らない。残酷に現実のみを突きつけてくるのだ。

 

「……………あ」

 

海未の言葉にミツザネが黙っていると、ふと凛が正門の方を見て声を漏らす。

 

その声でミツザネも振り向くと、そこに立っていたのは居づらそうな顔をしたアキトだった。前に見たようなラーメン屋の制服ではなく、ポロシャツにジーンズと肩掛けカバンという私服姿だ。

 

「アキト!」

 

「えっと、なんかすげー取り込み中っぽいけど入っても大丈夫?」

 

少し嬉しそうな顔をして駆けて行く凛を見て、カイトはミツザネに訊ねた。

 

「誰だ?」

 

「啼臥アキト。凛さんの彼氏さんです」

 

何の躊躇いもなく爆弾が投げ込まれ、どよめきと驚愕が女子生徒達に広がる。

 

それを聞いたアキトは呆れたように、ミツザネへと歩き出した。

 

「あのな、ミッチ。前も言ったけど、俺はこんなぺちゃパイなんかよりも」

 

「にゃあぁっ!?」

 

アキトの言葉を遮るように、凛が咆哮した。

 

次の瞬間、駆けていた凛が加速してその勢いに乗って跳ぶと、見事に空中で身を捻って回し蹴りをアキトの首へ叩き込んだ。

 

その際にちらりとパンツがちらりと見えたりしたが、放物線を描くようにして吹き飛ぶアキトのせいでラッキーとも思う余裕すらなかった。

 

「は、ハラショー………」

 

凛のアグレッシブな面を初めて見たからか、絵里が引き攣った顔で一通りの出来事を眺めていた。

 

その反応は他の生徒達も同じで、泣いていたほのかですら唖然となっている。

 

「凄い。一瞬でシリアスがコメディに変わった」

 

「いや、お前のせいだろ」

 

わかりきった呟きに突っ込むカイト。

 

見事に植木まで吹き飛んだアキトは、ばっと立ち上がると凛へと詰め寄った。

 

「だぁかぁらぁ……なんでお前はすぐ人を蹴ったり物を投げたりするんだよ!?」

 

「にゃぁっ!? アキトが悪いんでしょ! 勝手に凛をぺちゃパイ扱いして!」

 

「どこからどう見てもぺちゃパイじゃねぇか! あちらにいる先輩と差が歴然過ぎるだろ! 胸囲の格差社会か!」

 

女子校だというのに臆面もなく胸の話しで痴話喧嘩を起こす光景は、μ's1年組とミツザネにとっては見慣れたものでも他の人には異様な光景に見えたらしい。ほぼ全員がドン引きしていた。

 

「えっと、それでアキト君は何のために音乃木坂に来たの?」

 

「おぉ、そうだったそうだった」

 

いつまで経っても話しが進まないと判断して声をかける花陽に、アキトは思い出したようにカバンから携帯電話とマツボックリロックシードを取り出した。

 

「あ、凛の携帯」

 

「昨日、ウチに忘れてったろ。携帯もそうだけどロックシード忘れるとか危険意識無さ過ぎ」

 

ごめんごめんと2つを受け取る凛を見て、昨日とウチという単語から方程式を成り立てたミツザネはピンと豆電球が光ったように閃いた。

 

「夕べはお楽しみでしたね」

 

「? 何が?」

 

「ミッチ、お前よくそんなボケ言えるな………」

 

意味がわからず首を傾げる凛と、呆れるアキト。

 

ふと、アキトは呆れたまま思い出したかのように言い出した。

 

「あぁ、そうだ。礼を言わないとな」

 

「礼?」

 

はて、感謝されるような事をしただろうか。心当たりのないミツザネは首を傾げるが、それすらも面白そうにアキトは笑った。

 

「ありがとな。お前達がオープンキャンパスを強行してくれたおかげで、俺“達“の世界は守られたよ」

 

突然の言葉だっだが、その意味に気付いた瞬間。

 

ミツザネの気配が豹変した。瞠目した瞳に暗がりが宿り、読み取れない感情が顔に張り付く。それだけで周囲の温度が低下したような錯覚を受け、怒りで熱くなっていた女子生徒達が熱を奪われ凍り付いたようにその場に縫い止められた。

 

「………君、なんなの?」

 

「おっ、その反応はドンピシャだな?」

 

周りだけでもこの反応だというのに、その得体の知れない感情を真正面に向けられているアキトは愉快そうに言う。

 

「アキト……どういう意味?」

 

豹変したミツザネから視線を外せず、震える声で凛が訊ねる。

 

「常識的に考えてみろよ。常識的に考えて襲撃があるとわかってて、大勢の人が集まるオープンキャンパスをやるわけないだろ」

 

「…………で、でも実際に彼らはオープンキャンパスを強行したわ。それに違いは……」

 

重苦しい空気の中で、何とか言葉を紡ぐ絵里。しかし、アキトはまるで物語を告げる語り部のごとく言う。

 

「そう、現実としてミッチ達……ユグドラシルは学校に秘匿してオープンキャンパスを強行した。何故か?」

 

そこでわざと区切り、間を置いてからアキトは言った。

 

「例えば、オープンキャンパスを中止したりなんかしたら、音乃木坂学院に関係する全ての人間に被害が及ぶとしたら?」

 

その発言に、その場にいた女子生徒全てが驚愕の反応を示した。

 

ミツザネとカイトは驚きもせずに、見定めるようにアキトを睨む。

 

そのアキトは、まるで別人のようにこの状況を楽しむがごとく嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、再び寝入ってしまったコウタは珍しく秋葉原へと足を運んでいた。

 

平日ではあったが時間帯は放課後で、学校帰りの学生で街はごった返していた。その中には秋葉原に学校があるUTX高校などの制服を着た学生も見られ、活気づいているように思える。

 

コウタが秋葉原の街に出た理由。それは単に家の食料が尽きたからである。さらに前から秋葉原には行ってみたいと思っていたので、ついでで足を運んだのだ。

 

アニメやゲームが盛んな電気の街、という印象を持っていたがら歩けば至って普通に大手衣類メーカーの店舗などがあり、そっち方面一色という訳ではないようだ。

 

コウタが田舎者のようにほぉぁぁ、と感嘆の声を上げていると、駅近くのビルに備え付けられねいる巨大モニターに同い年くらいの3人の少女達が映った。

 

その下には人だかりが出来ており、コウタが何となく足を運ぶと人だかりから歓声が上がり、モニターの画面がPVへと変わった。

 

「……………あぁ、こいつらがA-RISEか」

 

誰となくごちり、せっかくなので敵状視察ではないが踊りを見る事にした。

 

A-RISEはUTX高校が生徒集めのため公認したスクールアイドルであり、その頂点に立っている少女達と言っても過言ではないほどの実力を持ったチームだ。

 

音乃木坂学院へ転入する前にミツザネとちらっとだけ動画を見てみたのだが、一瞬にして引き込まれてしまったのを今でも覚えている。

 

ビートライダーズとして路上ダンスを繰り広げていたコウタとしてもダンスの切れなどは凄いと感じたほどだ。聞けば大手レコード会社と提携しており、プロから曲を提供してもらったり踊りを指導してもらっているらしい。

 

しかし、今はあの時ほどのダンスへの熱情はないからか、モニターに映る彼女達の踊りを凄いと思いつつも一般的な感想しか抱けなかった。

 

いや、熱情というよりも4日前のオープンキャンパスでの事が、未だに尾を引いているのだ。

 

コウタは必死に戦った。褒められた戦いでも、誰かに褒められたくて戦った訳でもない。

 

ただ、μ'sのライブを潰されたくないから戦った。今までの努力を知っているから、理不尽な理由でその努力を潰したくなかったのだ。

しかし、結果は散々だ。さらには穂乃香に戦って欲しくなかったと言われた時、コウタの刀は折れてしまった。

 

褒められたかった訳ではない。しかし、戦いを否定しても欲しくはなかった。

 

コウタには戦う事でしか、彼女達の力にはなってやれないのだ。ダンスのコーチは彼女達の背中を押してやっているだけで、肩を並べて同じ道を歩いている訳ではない。

 

それらが否定され、さらには戦う力さえ奪われてしまった。

 

正直。腐りたかったのかもしれない。

 

コウタはA-RISEのダンスから目を逸らすようにその場を去った。

 

ビートライダーズだった頃は良かった、と今でも思う時がある。過去を思い返しても無駄とわかっていても、やはり思わずにはいられない。

 

コウタ達の出身地である沢芽シティはユグドラシルという大企業の傘下に収まった福祉地方都市だ。そのため沢芽シティにある学校や店もユグドラシル傘下の子会社であり、学校も廃校などの危機に陥る事はまずなかった。

 

なので沢芽シティではスクールアイドルよりもビートライダーズが活発になり、庶民の娯楽となっていたのだ。

 

その中でも上位に位置したチーム鎧武に所属していたコウタは、毎日のように仲間と踊って他のチームとのランキングを競って切磋琢磨していった。

 

しかし、いつからだろか。このままでいいのかと思うようになったのは。ずっと仲間達と適当にフラフラして、何も職にも就かずに。

 

そう思ったのは、きっと姉である葛葉アキラが過労で倒れたと入院した時だ。

 

コウタに両親はいない。幼い頃に離婚して母親に引き取られ、そのまま交通事故で亡くなった。

 

年離れた兄が父に引き取られたが、まともに遊び相手をしてもらった記憶はなく、コウタにとってアキラは姉であり母であった。

 

そんなアキラが倒れたと連絡してきたのは、まさかの兄・戦極リョウマだった。

 

『お前がフラフラしていた結果だ。下らない事で僕の研究の邪魔をしないてくれるかな』

 

記憶にあった幼い兄ではなく成人となった男と再会して最初に言われた言葉に、かっとなって殴り飛ばしたが、リョウマはそれ以上は何も言わずに去っていった。

 

それが家族だった人に向かって吐く言葉かと憤ったが、今にして思えば幼稚だったのは自分の方だと思う。

 

あの人はそういう人で、アキラが倒れたのは紛れもないコウタのせいなのだ。

 

だから、ちゃんと真っ当な人間になろうと決意して、生きようとした矢崎だっただろうか。

 

戦極ドライバーを手にしたのは。

戦極ドライバーを手にしてから事態は急変してしまい、地獄のような戦いの日々が始まりはした。

 

楽しい事よりも辛い事の方がたくさんあったし、傷ついたりしたのも確かだ。

 

それでも毎日が充実していた事に変わりはない。

 

「……………俺、後悔してるのかな」

 

「い、インベスだぁーっ!」

 

そうぼやいた直後、悲鳴とともに聞こえた声にコウタは走り出した。

 

向かったのはUTX高校ビルの地下にある駐車場だ。お嬢様が多く通っているのか高級そうなリムジンなどが並んでいる事に驚いたが、コウタはビルへの出入口に気付く。

 

そこでUTX高校の制服を着た女子生徒が、インベスに連れ去られようとしていたのだ。

 

「なろっ……!」

 

コウタは懐に突っ込んでオレンジロックシードと戦極ドライバーを取り出そうとして、オレンジロックシードはエネルギー切れで色を失い、戦極ドライバーも手元にない事を思い出す。

 

「…………ちくしょう!」

 

「いやっ、は、離して!」

 

戦う力がない事に悔しさを覚えるが、女子生徒の声で現実に引き戻された。悔やんでいても仕方が無い。ドライバーが無くても戦わなければ傷付くのは女子生徒だ。

 

決意を固めて近くにあった消化器を掴み、コウタはインベスへと駆け出した。

 

「っらぁ!」

 

背後から思い切り消化器を振り下ろすと、後頭部を叩かれたインベスは仰け反って女子生徒を離す。

 

しかし、そんな攻撃で有効的なダメージを与える事が出来る訳もなく、攻撃された事により怒ったインベスはコウタへと目標を変えた。

 

それでいい、とコウタはインベスの攻撃を避ける。転がったりバク転したりと多彩な動きでインベスの攻撃を避けながら、尻餅ついて驚いている女子生徒へ言った。

 

「早く君は逃げて! ユグドラシルのアーマードライダー部隊を呼ぶんだ! あとついでにパンツ見えてる!」

 

「なっ………!?」

 

コウタの言葉に襲われていたという恐怖が吹き飛び、顔を真っ赤にした女子生徒は所謂M事開脚という体制から足を閉じて立ち上がった。

 

「き、君は!?」

 

「見てわかるでしょ! こいつ引き止めておくから………うわっ!?」

 

その時、視線を女子生徒へ向けてしまっていたからだろうか。インベスの攻撃を反射的に避けるものの、右足を抉いて転倒してしまった。

 

倒れるコウタに追撃しようとしてくるインベス。踏み付けようと足をあげるインベスを見て、コウタは腕と腹筋背筋の力だけでハンドスプリングのように跳ね上がってその場から離れる。

 

「ちょっと……!」

 

「痛ってー……仕方ねぇか」

 

コウタは懐からパインロックシードを取り出し開錠した。

 

コウタ達の隣にクラックが縦に出現し、飛び出すように召喚されたシカインベスはインベスに向かって突撃する。

 

初級インベスと上級インベスでは力の差がありすぎる。インベス自身も理解しているのか、シカインベスを見た途端に動揺して動きを止める初級インベス。

 

シカインベスの攻撃を受けて倒れ込むと、すぐ横の地面にクラックが開き、そこへ逃げ込むように初級インベスは転がって入って行った。

 

危機を脱したと確認したからか、女子生徒は安堵の息をついてコウタへと歩み寄る。

 

「大丈夫なの、君?」

 

「それって俺がする質問だよな……っ!」

 

立ち上がろうもするも足に痛みが走り、その場に蹲ってしまうコウタ。

 

「だから大丈夫なの、って聞いたじゃない」

 

「この程度、どうって事ねぇよ。帰って冷やせばどうとでもなる」

 

コウタはシカインベスを手招きして支えになるよう指示する。シカインベスはどういう訳か屈んでコウタを背中に背負った。

 

「って、おい。立たしてくれるだけでいいって!」

 

コウタがばしばしとシカインベスの頭を叩くが、シカインベスは主の言う事を聞かずに女子生徒を見やった。

 

「……………そうね。保健室で軽い手当でもしましょうか」

 

「何通じあってんだ、お前ら!? いや、いいよ。ほっとけば直る……人の話しを聞けぇ!」

 

主を無視して女子生徒に案内されるまま歩き出すシカインベス。

 

当然、残っていた生徒達に奇異な目を向けられるコウタだった。

 

連れて行かれたのは保健室で、ベッドに座らされて女子生徒は姿を消した。数分で戻ってきたかと思うと、保健室の先生らしき白衣を着た女性と一緒に戻ってきた。

 

「彼が?」

 

「はい。私を助けてくれた時に足を捻ってしまったようで」

 

女子生徒の説明に納得がいったのか頷くと、コウタに素足を見せるように言う。

 

コウタの素足に触れたりして、軽く処置を始める先生。

 

「はい、これで大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます。先生」

 

特にこれといった事をする訳でもなく、捻った足に湿布を貼ってくれた先生にお辞儀をする女子生徒に、コウタとシカインベスも釣られてお辞儀をした。

 

その姿に保健室の先生はくすりと笑う。

 

「インベスに担ぎ込まれた少年をツバサさんが案内している、と聞いて驚いたわ。本当は女子高に男子を連れ込むのはアレなんだけど………」

 

「はい、わかってます。ですが、彼は……」

 

「えぇ。ウチの希望を守ってくれた恩人だものね。他の先生方にも伝えておくわ」

 

ありがとうございます、と再度女子生徒の礼を受けて先生は去っていった。

 

残されたコウタは器用に部屋の端っこで正座しているシカインベスを見やった。

 

「別にこの程度、いつもの事だろ?」

 

すると、シカインベスはとんでもないと言わんばかりに立ち上がり、ばさばさと身体を震わす。

 

何を仰るか。そうやって貴方が自身を顧みないから、穂乃果様を泣かせる結果になってしまったのですぞ。

 

そう言われているような気がして、コウタは渋い顔をする。

 

「今回とそれは関係ねぇだろ………」

 

「いい子ね。君のインベス」

 

お辞儀をしていた女子生徒はこちらを振り返り、シカインベスの頭を撫でた。

 

「ありがとう。助けてくれて」

 

「あぁ、いいよ。気にしなくて。それより、何でインベスなんかに襲われていたんだ?」

 

脱いでいた靴下を履きながらコウタが訊ねると、女子生徒は困ったような顔をした。

 

「多分、ファンの人だと思う。前からかなり過激な人がいたから………」

 

その言葉にコウタはまじまじとその女子生徒を見やった。

 

低身長ながらぱっちりとした瞳に前髪を切りそろえて額を見せる髪型。

 

コウタはその少女に見覚えがあった。わりと最近に。

 

というか、さっきモニターで見た。

 

「もしかして、A-RISEの?」

 

「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は綺羅ツバサ、A-RISEのリーダーやってます」

 

「俺は葛葉コウタ」

 

にこりと笑う綺羅ツバサの笑顔はアイドルらしく、万人を魅力するようなものだった。しかし、そもスクールアイドルには疎いコウタは淡白な反応だ。

 

「………もしかして、あまり私の事知らない?」

 

「あー、悪い。そこまでスクールアイドルに詳しい訳じゃないんだ。君のこともさっきモニターに映ってたから知ってただけで………」

 

そうコウタが答えると、ツバサは物珍しそうな顔をした。

 

「へぇ……この御時世にスクールアイドルに興味ないって、変わってるわね」

 

「まるで田舎者扱いだな」

 

コウタは靴を履いて立ち上がり、調子を確かめるために軽く足首を回す。微かに痛みは走るものの、歩く分には問題ないだろう。

 

「ありがとな、大丈夫そうだ」

 

「ねぇ、君これから時間ある?」

 

突然の質問にコウタは目を丸くする。スクールアイドルの中でもトップグループ、そのリーダーがそんな事を聞いてくる意図がわからなかった。

 

「特にないけど」

 

「なら、少し付き合って欲しいの」

 

そう言ってツバサは、コウタに向かって手を伸ばす。

 

「デートしましょ」

 

それはアイドルとしてやっちゃいけない事なんじゃないか、そう思っても気迫に負けて言い出せないコウタだった。

 

 

 

 

 

 

葛葉コウタが所有するロックシード

 

 

・パイン

・イチゴ

・マツボックリ

・サクラハリケーン

 

 

 

 

次回のラブ鎧武!は………

 

 

 

「どうよ、感想は」

 

「ありのーままのー、自分を見せるのよー」

 

「ちょっと、それどういう意味!?」

 

初対面なのに馴れ馴れしくデートするコウタとツバサ。

 

 

 

「葛葉君は、私にとって憧れの人だったから………」

 

トップアイドルではなく、1人の女の子を見せるツバサ。

 

 

 

「星空、お前いい女になるぞ」

 

「にゃにゃっ!?」

 

まさかのカイト×凛!? どうするアキト!?

 

 

 

「お前達は戦う以外の選択肢がなかったんだからな」

 

アキトが語る戦うしかなかったという理由。

 

 

そして、彼らから語られるそれぞれが戦う理由とは。

 

それを聞いた少女達は………

 

 

 

 

 

 

次回、ラブ鎧武!

 

8話:戦う理由 ~信念と証明が原動力~

 

 

 




μ's関連と凛ちゃんのソロ曲揃えたら1万吹っ飛んだ。

何を言っているか(ry


はい、財布が吹っ飛んだグラニです。

ようやくオープンキャンパス事後編の終わりが書けてきたので投稿です。長いなぁ………そして支離滅裂………

けど、やっぱりこういう話しは必要だと思うのです。

仮面ライダーフォーゼの修学旅行編で弦太郎に戦うのはおかしいと高村優希奈のような反応が当たり前だと思うのです。

だから、ここではそれについて長々とやっていきます(爆)

次回は少しだけお待ちください。

そう長くは待たせません(ハジマリノオト(ry

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