ヤンデレ詰め合わせ   作:小野間トペ

7 / 12
サークルの先輩依存モノヤンデレ

北野先輩は男運がない。

男を取っ換え引っ換えしては愚痴を言ってばかり。

大体一ヶ月も保たない。

大抵相手がクズ彼氏で、先輩と体目当てで付き合っては捨てたり、金銭的な問題を起こしては蒸発する奴ばかり。

そうでなくても先輩とそのうち考えが合わなくなって別れる。

 

これが先輩が1年生の時から続いてるというのが恐ろしい。

先輩は恋に恋しているのだ。

小中高と女子校だったのもあって恋愛というものに飢えていたのだろう。

大学に進学してすぐに彼氏を作ったらしい。

その最初の彼氏が一番マシだったらしいが、そいつは5又かけていたらしく、やはりろくでもない。

なんでそんなに男を見る目が無いのか。

 

もう3年生なんだから流石にもう男を見る目があるかといえば、全く無いのが先輩のすごいところだ。

30人と浮名を流してきた先輩だが、そいつらとの結末は語るまでもない。

 

最早この悪評が学校中に広まってるものだから、学内で先輩と付き合おうとするやつは居ないらしい。

先輩に見初められると、クズ野郎になるなんてジンクスすら生まれる始末だ。

 

しかしながらそんな情報が新入生である俺や友人に伝えられることは無く。

そんな先輩の美貌に釣られてサークルに入ってしまった俺だが、男と付き合ったと自慢気に息巻く先輩の相手をさせられては、別れてからの自棄酒にも付き合わされる。

 

今日も先輩は新しい彼氏が出来たと俺に嬉しそうに教えてくれる。

どうせ一ヶ月も保たないだろうが。

 

「でね!あの子ったらそこで私に甘えてくるのよ〜」

 

「まあ、そこが可愛いんだけどね?」

 

「それは良うござんした」

 

「釣れないわねぇ」

 

「なんとなく行く末が分かるからですよ」

 

「今回ばっかりは自信があるわ!」

 

その自信は何処から来てるのか。

さっぱりわからない。

 

また酒を頼んでいる。

先輩は事ある毎に酒を飲む。

そして潰れる。

付き合い始めも死ぬ程酒を飲んで潰れるし、関係が悪くなっても酒を飲んで潰れるし、別れてもしこたま酒を飲んで潰れる。

 

そんな先輩の介抱をするのは、完全に俺に任せっきりなのだ。

他の先輩や同級生は全く先輩に触れたがらない。

扱いが難しいのもあるが、巻き添えを喰らいたくないのもあるそうだ。

曰く、先輩と関わると、運気が下がるとか。

 

「みんなもじゃんじゃん酒飲みなさいね〜!」

 

「北野先輩が奢ってあげるわ!」

 

止めときなよ、先輩。

 

そういえば、先輩のその財力はどこから来てるのだろうか?

全く見当がつかない。

誰かさんが財閥の令嬢何じゃないかなんて言ってたが、いやいや、そんなまさか。

こんなのがお嬢様なんて、そんな訳ないだろう。

想像力豊かな奴もいるもんだなあ。

 

「矢作も飲みなさいよ!」

 

「痛っ!」

 

酔い始めると攻撃的になるのは本当に止めていただきたい。

先輩の手の届く範囲に居るのは俺だけだから、結果として先輩の攻撃を一挙に受ける必要があるのだ。

 

肩がひりひりする。

痣になってなきゃ良いんだけど……

 

「なんで飲まないのよ!つれないわねぇ」

 

「潰れた先輩を送り届けるのが結果として僕になりますからね!飲んでる場合じゃないですから!」

 

「大丈夫よ!今日ばっかりはセーブするからさ!」

 

「……駄目そうですね」

 

カクテル一気飲みしてる人に言われりゃ説得力は皆無ですよ……

今日は先輩の家に近いから良いけどさ。

こっちの身になって欲しいものですね!

 

「……さて、今回はどれだけ続くものか……」

 

「ん?何かいったぁ?」

 

「気の所為ですよ、先輩。さ、水飲んで」

 

「このペースだとあとちょっとで潰れちゃいますよ!呂律も回ってないみたいですし」

 

「大丈夫よ!先輩に任せなさい!」

 

「何を任せるってんですか……」

 

そんなことをやって、どうなるかというと……

 

「んぅぅ……」

 

「こうなるわけですもんね……」

 

「まだ、まだのめるわよぉ……」

 

「……駄目だこりゃ」

 

俺に介抱されなきゃ立てないのに、よくもまぁそんなことが言えるのか……

 

結局先輩がダウンしたもんだから、飲み会の代金は割り勘。

みんな何時ものことだから表情を崩さない。

 

そりゃそうだ。

だってみんな楽しく飲んでるだけだもん!

割を食ってるのは俺だけだもんな!

俺だけいっつも貧乏くじだ。

 

まぁ、でも。

惚れた弱み、ってやつだろうか。

仕方ないよね。

 

「じゃあ矢作、あとは宜しくな」

 

「あわよくばヤッちまえ!」

 

「先輩!言わせておけば……」

 

「嘘だよ」

 

「まぁ、今度寿司でも奢るからさ」

 

「はいはい……」

 

冗談じゃないって……

 

「そらがとおくかんじるわ!」

 

「……そりゃ遥か彼方ですからね!」

 

まぁ、その後は先輩を背負って家路について、先輩の住んでるアパートまでやってきた。

 

そういえば。

先輩、一軒家に住んでるな。

やっぱり金持ちの家なのか?

 

「先輩!」

 

「Zzz……」

 

「起きてください!」

 

「……へ?」

 

「鍵どこに仕舞ってるんですか?」

 

「……バッグのなか」

 

「そりゃそうでしょうね!そのうちの何処かを聞いてるんですよ!」

 

「どこだったかなぁ?」

 

「はぁ……」

 

まぁ、なんとか鍵を見つけて先輩を家に押し込んだ。

 

「矢作ぃ……」

 

「なんです?」

 

「だいすき」

 

「……そういうところですよ」

 

ずるい。

これだから先輩はずるい。

勘違いさせるようなことを言ってくる。

 

帰路について、ふと考える。

俺と先輩の関係は、このままでいいのだろうか?

新しい彼氏さんには悪いが、別れたらアプローチしてみても良いのだろうか?

 

分からない。

この関係が壊れるのが、怖い。

ずっと先輩と関わっていける今の関係を変化させてしまうのが、怖い。

相手にもし拒絶されたら、となるのが怖い。

 

でも、何時か後悔してしまう気がする。

誰か、先輩と相性がいい男が現れたら、素直に祝福できるか?

 

いや、そうはならないだろう。

絶対に、後悔してしまう。

 

なら、どうする?

 

そんなことを考えながら、河川敷を歩いていた。

空はやっぱり、遥か彼方にある。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

案の定先輩は新しい彼氏と別れた。

なんとその日数、たったの8日間!

2週間というそれまでの最速記録を大幅に更新した。

 

別れた理由は金銭的なもの。

とにかく浪費癖のある男だったらしく、パチンコやりたさに先輩の財布から金を抜き取っていたのを目撃されて、それで終わった。

 

後々の話を聞くと、通っている大学ではパチンカーとして有名だったらしい。

事前に調べておけば、防げた失敗だった。

 

先輩はやはり悲しそうだった。

外部に出会いを求めて、見初めた男だったのも大きかったのかもしれない。

 

またも自棄酒に連れて行かれた。

しかも、サシで。

 

「それでね!あいつ、私の財布から金抜き取って使おうとしてたのよ!」

 

「……そうなんですか」

 

「未然に防げたから良いけど、本当にその時は肝が冷えたわ」

 

「……それは良かったですね」

 

「どうしたのよ?なんかおかしくない、矢作?」

 

「……」

 

意識すると、気まずい。

 

ここで仕掛けるべきなのか?

俺はここで覚悟を決めるべきなのか?

果たしてそれで、俺の求めた結果が出るのか?

 

何も分からない。

手探りで行くしかない。

 

そういえば、先輩はどんな男がタイプなんだろうか?

気にしたことがなかったぞ。

でも、明らかにいま必要な情報だ。

それに合致しているかどうかが大事だ。

 

「そういえば気になるんですけど」

 

「何?」

 

「先輩ってどんなのがタイプなんです?」

 

「なんでそんなに変な男ばっかり掴まされてるかなぁって考えると、そこに原因がありそうなんで」

 

「そうねぇ」

 

考えているらしかった。

本能的に選んでいるとか言われたら困るぞ。

そんなのどうしろってんだ。

 

「あんましわかんないけど」

 

「矢作みたいな男、なのかなぁ?」

 

「そうなんですね、ヤハギみたいな男……」

 

「「は?」」

 

今なんて言った?

確かに『矢作みたいな男』って言ったよな?

 

俺?

マヂで?

 

嬉しいぞ。

嬉しいが。

俺みたいな男を選び取ると、碌でも無い男ばっかりになるのか?

 

あまりにも不名誉じゃないか?

そう考えると嬉しくないぞ。

 

しかも、俺みたいな男だったら、俺を相手に選べば済む話じゃないか?

でも選ばれてないって、何か理由がありそうじゃないか?

 

「……」

 

先輩は思考がパンクしているらしかった。

あらぬ方向を向いて呆然としている。

 

口が滑ったってやつなのか?

なら本心だよな。

本心だよな?

なら俺ならいいのか?

 

聞くしかないだろう。

この機を逃してはならない。

 

「先輩」

 

「……」

 

「先輩!」

 

「ふぇっ?」

 

「……ほんとに俺みたいなのがタイプなんですか?」

 

「……」

 

無言で首を縦に振った。

確かに縦に振ったぞ。

 

そういうことだよな?

いいんだよな?

アリなんだよな?

 

「先輩!」

 

「何?」

 

「俺じゃ駄目ですか?」

 

「俺みたいのが良いなら」

 

「俺じゃ駄目ですか?」

 

「……」

 

先輩はこっちを真っ直ぐ見据えてくる。

俺も先輩の方に向き直って、相対する。

 

「……」

 

「……」

 

……長いな。

品定めされてるのか?

お眼鏡に適えば良いのだけど。

 

「矢作」

 

「……なんでしょう」

 

「お前は良いのか?」

 

「どういうことですか?」

 

「私と付き合うと、碌な噂とか流されないぞ」

 

「良いですよ」

 

「私、酒癖悪いぞ」

 

「いっつも介抱してるじゃないですか」

 

「でも……その、なんて言えば良いのかな……」

 

言葉に詰まっているらしかった。

なんとかして俺を拒絶しようとしてるのかな。

やっぱり俺じゃ駄目なのかな。

 

「お前がそれで良いなら、良いぞ」

 

「?」

 

「付き合ってやっても良いぞ」

 

「……はぁ」

 

「付き合ってやっても、良いぞ!」

 

相手は覚悟を決めたらしかった。

前のめりでこっちの反応を窺っている。

 

「その、良いですか?」

 

「なんだ?」

 

「この場合って、それを言うのは俺の方ですよね?」

 

「……」

 

「そういうこと言うと冷めると思いますけど……」

 

「そういうとこだぞ……」

 

「申し訳ないです」

 

「気になったら口に出てしまう質なんで」

 

先輩は急にしおらしくなった。

やっぱり俺は好かれているんじゃないか?

その疑問への明確な回答が得られた。

先輩の態度が雄弁に語ってくれている。

 

「先輩」

 

「……なんだ」

 

「一歩踏み出しましょう」

 

「……」

 

「俺と付き合って下さい」

 

「ジンクスだって否定してみせますよ」

 

「……わかった」

 

「宜しくな」

 

あまりにも淡白だとは思うが。

先輩と付き合うことになった。

なんとも急転直下の出来事だけれど。

俺の求めた結果をあまりにも呆気なく手に入れることが出来た。

 

「そんなわけでさ、付き合えることになったんだよ」

 

「良かったじゃない」

 

「アンタ口を開けば先輩先輩って鬱陶しいったらありゃしなかったもの」

 

「それは悪うござんした」

 

「まぁ、報われたじゃないの」

 

「そうなんだよなぁ」

 

今月の定例会。

おんなじ大学に進学した幼馴染との、何気ない会話。

こいつは大学に入って直ぐに彼氏を作っては大学生活を満喫している。

ずっと前を向かない俺を煽り散らかしていたもんだから、一矢報いることが出来た。

 

「お前の方はどうなんだよ」

 

「あいつ?」

 

「そう、そいつ」

 

「そうねぇ……」

 

「あいつ、急にバイトに凝り始めちゃってさ。私のことは放ったらかし」

 

「ほら、私、金銭的に余裕があるじゃない?」

 

「私から旅行を提案したんだけど、あいつ、持ち合わせてなくてさ」

 

「それでバイトをして金をためてる、って訳だ」

 

「そゆこと」

 

倦怠期ではないのだろう。

ある程度丁度いい距離感を掴めたらこうやって相手を見守ってやれるようになるんだろう。

実際こいつは話してるとき矢鱈嬉しそうだし。

 

これからの参考になるから、覚えとこう。

それだけ関係が長く続くなら、の話だけど。

絶対に続けてみせるんだ。

 

「色々と御指導御鞭撻の程、宜しくな」

 

「まぁ、参考になると良いけどさ」

 

「あんたのケースだとなんか変な方に拗れる気がするのよね」

 

「その心は?」

 

「女の勘ってやつよ」

 

「そう言われるとそれ以上の進展がねぇだろうが」

 

「仕方ないじゃない、本能的に察したことなんて言葉にするのは難しいじゃない?」

 

「そりゃそうだけど……」

 

猫の手でも借りたいのが今の俺だ。

どうすれば、一応恋愛経験豊富な先輩と長く関係を持ち続けられるのかが、さっぱりわからない。

 

ありのままでやっていけばいいのか?

今はその選択肢が最大手だ。

こいつの助言はあんまり参考になりそうにない。

 

「ま、それなりに頑張ってみるよ」

 

「それが一番良いと思うわよ」

 

「力み過ぎも良くないし」

 

「自分のペースでやってみるよ」

 

「駄目だったら私を呼びなさい」

 

「イベントでもなきゃ手伝うわよ」

 

「ありがとな」

 

チャイムが鳴る。

3限が始まった合図だ。

 

「そろそろ行くわ」

 

「彼氏んとこか?」

 

「そ」

 

「じゃ、またな」

 

「ん」

 

軽いな。

そういう関係だから色々と相談したりできるんだけどな。

有り難い限りだ。

 

「さて、次は英語だろ?」

 

グループディスカッションだったはず。

グループは何故か男は俺だけ。

やりづらいったらありゃしない。

 

でもまぁ、だから手を抜け、とはならない。

ぶっちゃけグループ内で英語が一番できるの俺だし。

なんとかしないと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

先輩と付き合って一ヶ月が経った。

 

今までの関係とあまり違いはない。

なんというか違いがないのが特徴だった。

関係を前進させようとも、後退させようともしなかったのがこの一ヶ月のハイライトだ。

 

無理にスケジュールを変えてまで会おうとはしないで、互いに余裕のある時間帯に、会いたければ会う。

週末になったら土日のどちらかは会って、宅飲みか居酒屋に行って酒を飲んだ。

その週にあったことを共有して、先輩がアホなペースで飲んで、潰れた先輩を介抱して、ちゃんと寝たことを確認したら家路に就いた。

 

あんまりにも変化がなくてびっくりだった。

これって何時ものやつじゃないか!

距離が縮まる気配が全く無いんだ。

その距離感が良いから付き合おうとしてこなかったのだろうか?

 

そうなると合点がいく。

先輩は俺みたいのと関わりを持っていたいけど、付き合うまでは行かない。

だから俺みたいなのが好きとは思えど、恋愛対象としては見ていなかった。

だから、手の届くところに置いておいて、他に彼氏を作る。

 

そうなると先輩もクズでは?

キープされる俺の身にもなってほしい。

恋愛感情が俺にあったから事態が大きく拗れてるのもあるが。

 

そうだよな?

そうなると一つ考えつくことがある。

同族だからそういった奴としか付き合えてなかったのでは?

クズはクズ同士としか付き合えないのでは?

 

そうなると俺もクズになってしまうのだが。

あまりにも遺憾すぎて寝てる先輩を叩き起こしてしまいたい。

そこんところどうなんだ?

俺を相手に今の今まで選ばなかった理由が欲しい。

納得したい。

先輩の口から、その心を聞きたい。

 

「Zzz……」

 

「まぁ、もう遅いんだけどな」

 

「お休みなさい、先輩」

 

「Zzz……」

 

にしたって彼氏がいるのに寝るかね?

やっぱりそういった対象に見られてなくねぇか?

 

先輩の家を後にして、考える。

考えれば考える程、先輩がクズであるという結論が出てしまうのだが。

 

いやいや。

流石に惚れた相手にマイナスなイメージを持ちたくないぞ。

何かのっぴきならない理由があったに違いない。

 

でもそれって何?

知らん。

 

話し合いの場を設けたほうが良さそうだけど。

そこではっきりと拒絶されたら?

そこで俺に恋慕の情が無いと言われたら?

 

考えたくないな。

またの機会ということで一つ……

 

先輩の家からうちにつくまでの道なり。

河川敷は真っ暗だ。

街灯はあるけれど、その程度でどうこうなる暗さではない。

 

この川みたいに、情に流されて今の関係にあったりしないだろうか?

 

この話は止めにしよう。

心臓に、胃に悪い。

 

「……ってな感じなんだよ」

 

「やっぱりなんかおかしい気がするわよね」

 

「でも、その違和感の正体がわからないんだよ」

 

「口が滑って俺がタイプだって言うのは事故だったとしよう」

 

「でも、付き合ってから進展がないのはどうなんだ?」

 

「いつも通りだぞ?」

 

意図が分からないのが困るんだ。

怖くて聞き出すことも出来ないし。

 

「……そういえばあんたに聞いたことなかったけどさ」

 

「どんなペースで会ってるんだっけ?先輩と」

 

「週7だけど?」

 

「……は?」

 

「対面で会うのは週5とかかな」

 

「それ以外は電話したりしてる」

 

「……まさかそれ、付き合う前からそうなの?」

 

「そうだけど?」

 

頭を抱える璃子。

そんなにやばいか?

サークルの先輩後輩の関係ってそんなものじゃないのか?

 

「……はっきり言ってあんたら異常よ」

 

「そうなのか?」

 

「うちらだって会って週2とか3よ」

 

「それが?付き合ってもない男女が?週7で会ってたって?」

 

「頭おかしいんじゃないの?」

 

「そりゃ関係の進展もクソも無いでしょうよ!」

 

そんなにやばいのか?

てっきりみんなそんなもんだと思って……

 

「その先輩、やばいんじゃない?」

 

「なんでさ?」

 

「あんたの話がホントのことなら、そいつ、付き合ってる男ほったらかしてあんたとずっとイチャコラしてたのよ?」

 

「あんたと付き合ってるからって他の男となんにもしない確証が無いじゃない?」

 

「貞操観念ってのが欠如してんじゃないの?」

 

「……そうなのか」

 

「嫌でしょ?他の男とその先輩がイチャコラしてんの」

 

「それは、そうだ」

 

「一応、付き合ってるんだし」

 

それは困る。

先輩の交友関係は全く知らない。

それはまずいのでは?

相手を信じきれないというのは恋愛関係において致命的じゃないか?

 

「……先輩に聞いてみる」

 

「それが良いと思うわ」

 

「後悔したり、手遅れになる前になんとかしなさい」

 

「行ってくる」

 

「達者でね」

 

これは信用問題だ。

聞き出さなければならない。

手心を加えてはならない。

 

俺が納得するような回答を、先輩から貰わなければならない。

 

「先輩」

 

「何?矢作」

 

「話がしたいんですけど」

 

「これから授業だからさ、夜にウチでじゃ駄目?」

 

「……分かりました」

 

決戦の日は今日だ。

俺と先輩の関係を決定づける、そんな日だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「で?話って何?」

 

「先輩」

 

「何か俺に隠してることってありません?」

 

「……なんのことだよ?」

 

「俺、幼馴染が居るんですよ」

 

「そいつに色々と相談したんですけど、俺らの関係って異常みたいなんですよ」

 

「毎日のように会って、それが付き合う前からそうで」

 

「今も恐ろしいペースで会っては飲んでるって」

 

「俺、サークルの先輩後輩ってそんな関係だと思ってたんですけど」

 

「彼氏がいる女と、後輩の男が毎日のように会ってるって、あまりにも不健全じゃありません?」

 

「……」

 

目が泳いだりは無い。

目を合わせようとはしてこない。

やはり何か後ろめたいことがあるのだろうか?

 

「単刀直入に言って、他に俺みたいな関係の男、居ませんか?」

 

「会う頻度は俺以下でも、恋愛感情が多少あるような男」

 

「居るなら教えて下さい」

 

「俺、今のままじゃ先輩を信じられないんです」

 

「……」

 

「頼みますよ、先輩!」

 

「ホントのことを教えて下さい!」

 

先輩はこちらを向くことはない。

じっと床を見つめている。

丁度、親に叱られているときの子供のようだ。

 

「……」

 

「やっぱり俺以外に男が――」

 

「居ない!」

 

「居ないの!」

 

「うわっ!」

 

勢いよく俺に向かって襲いかかってくる。

反応に遅れて押し倒されてしまった。

 

「矢作以外には居ないの!」

 

「矢作と初めて会ってから、矢作に慰められてからは、居ないの」

 

「どういうことですか?」

 

「私、私と一緒に居てくれる人が欲しかったの」

 

「だから最初は、優しそうな人とか、助けを求めてるような人とばっかり付き合ってた」

 

「でも、皆私を見てはくれなかったの」

 

「皆、私がお金だったり、体だったりを差し出すのを期待してるだけ」

 

「皆私と一緒に居てくれない」

 

「そうやって一年間過ごして、2年生になって、矢作に会ったの」

 

先輩にしつこく勧誘されて、このサークルに入った。

飲みサーだとは思わなかったけど。

先輩のそばに居られるなら、いいと思った。

 

「矢作はさ、私のこと、どう思ってたの?」

 

「どうって何も、可哀想な人だなぁって思ってましたけど」

 

「その同情が、あのときの私には必要だったの」

 

「他の皆は下心丸出しで接してきてさ、男ってこんなものなのかななんて思ってたの」

 

「でもさ、矢作はさ、ただ私の側にいるだけ」

 

「何をするでもなく隣に居てくれたの」

 

「それが嬉しかったの」

 

チキって何も出来なかった、が正しいですけどね!

まぁ、近くにいられればそれで満足って感じだったし。

 

「新しい恋を探そうとも思ったんだけどさ」

 

「そうしたら、矢作は離れてくんじゃないかって思ったの」

 

「だったら矢作と付き合おうと思ったけど」

 

「拒絶されちゃったら、私、耐えられないし」

 

「そう考えたらさ、どうすれば良いか分かんなくなっちゃった」

 

「初めてだったの」

 

「離れていってほしくないな、って思ったのは」

 

「だから、サークルの皆に協力してもらったの」

 

「私が、彼氏を作っては手酷い仕打ちを受けて、心に傷を負う女を演じられるように」

 

「その相手が、矢作になるように」

 

「……へ?」

 

なにそれ。

なんのことだ?

 

「矢作の優しさを試しちゃった」

 

「矢作に会ってから付き合ってた男って、皆嘘なの」

 

「存在しない男と付き合って、存在しない男から酷いことされて、存在しない男と別れて」

 

「その度に傷付くふりをして」

 

「皆にはその相手を矢作にしてもらうようにお願いしたの」

 

「皆私に触れたがらなかったのも、それが理由」

 

そんなことってあるのか?

俺の興味を引くためにそこまで?

 

訳がわからない。

 

「私に近づくのは、矢作だけ」

 

「矢作は、私の期待通りの事をしてくれたの」

 

「私の我儘に付き合ってくれて、何をしても許してくれて」

 

「だから、なんとしてでも矢作を私のものにしたくなった」

 

「そんときは、私が離れようとすれば、矢作から動いてくれると思ってたけど」

 

「実際は、その逆」

 

「矢作が離れようとするのを、私が必死に引き止めた」

 

思い返してみれば。

先輩と関わって少しした頃、叶わぬ恋と悟って距離を置こうとしたことがあった。

その時確かに、先輩側からアプローチらしきものを受けた気がする。

どんなのかは覚えてないけど。

 

「そんな生活を続けてたらさ」

 

「私、おかしくなっちゃったみたいで」

 

「矢作が居ないと、生活できなくなっちゃった」

 

「……なんですって?」

 

「矢作に会わないで一日を終えようとするとさ、耐えきれないくらい不安になるんだ」

 

「どうしょうもなくなるくらい不安で仕方なくなって、その日は眠れない」

 

「夜を明かしたら、どうにかして、どんな手を使ってでも矢作に会ってた」

 

「飲みに無理矢理連れてって、出来るだけ一緒に居た」

 

「そんな生活を続けてさ、毎日のように矢作に会えるようになったから、今の私が保ててるんだ」

 

「そうはならなくなったら、耐えられない」

 

されるがままに抱きしめられる。

抵抗はしない。

抵抗をしたら、何かが簡単に折れてしまいそうな気がした。

 

「そうやってだましだましやってきて、ようやく矢作からアプローチしてくれた」

 

「不慮の事故だったけど、結果として付き合えた」

 

「嬉しかった」

 

「嬉しかったけど、そこから先が分からなかったの」

 

「私、普通の恋愛なんてしたことない」

 

「何をすれば良いか、さっぱりだったの」

 

「だから、今までの関係を続けることにして――」

 

「……今に至る訳ですか」

 

そんな状態だとは思わなかった。

そこまで思い詰めているとは思っていなかった。

 

というか全く以て初めての情報だらけなので、何がなんだか分からない。

 

今までの彼氏のあれこれが、全部嘘?

サークルの皆がグル?

気がつけばそんだけ依存されてるなんて、誰が想像しようか?

 

「……あんまり上手く状況を飲み込めてないんですけど」

 

「そんな先輩でも、愛しますから」

 

「そんな先輩だって、受け止めて見せますよ」

 

「矢作……」

 

「……うん」

 

「よろしくね」

 

「はい」

 

「任せて下さいよ」

 

上手く話が纏まった所でこの体勢を何とか……

 

何とかして……

 

その……

 

「解いてくれません?先輩」

 

「……」

 

「……駄目」

 

「いい感じだったじゃないですか!」

 

「このままお互いを理解して一歩踏み出そうって感じですよね?」

 

「このまま仲良くお話でもして慰め合えば良いじゃないですか!」

 

「……わたし」

 

「私、聞いてない。矢作に幼馴染が居るの」

 

「しかも、女の子、なんでしょ?」

 

「それは、そうですけど……」

 

今度は両肩を掴まれる。

力はあまりにも弱い。

わなわなと震えてさえいる。

 

「その子に、私、取られないよね?」

 

「……彼氏がいますよ」

 

「他にも、矢作の周りに女の子が沢山いる」

 

「只の友達ですって……」

 

「相手はどう思ってるか分からないじゃない!」

 

「そりゃあそうでしょうね!」

 

駄目だ。

多分だけど錯乱してるぞ。

何とか穏便に済ませたいけど……

 

「……取られちゃうの……取られちゃうのよ……」

 

跳ね除けたらまずいことになるのは俺にもわかるぞ。

絶対に今の関係が破綻する。

 

「……だからね」

 

「私、これしか思いつかないんだけど……」

 

そう言うと、服を脱ぎ始める。

 

「!?」

 

「ごめんね」

 

「でも、それしか引き止められる方法が思いつかないの」

 

「矢作の優しさに付け込むことになるから……」

 

「……だからごめんね」

 

「本当にごめん」

 

「ごめんなさい……」

 

順々に服をはだけさせていく先輩。

 

止めてはいけない。

止めたらきっと、先輩の何かが壊れて、取り返しがつかなくなる。

だから、されるがままにしよう。

 

役得だと思えばいい。

彼氏彼女の関係なら、やってもおかしくない。

だから、静観しておこう。

 

でも……

 

「先輩」

 

「?」

 

「責任は、取りますからね」

 

「……うん」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

先輩は、取り繕うことを止めたらしかった。

今までの勝ち気ではきはきした調子の先輩から、急に自罰的でダウナーな先輩へとジョブチェンジしてしまった。

 

サークル仲間も流石にその変化に驚き、俺に詰問してきたが、きっと俺が原因だけど俺が悪いわけではなくないか?

そんな状態だとはつゆも知らなかったんだもん。

きっかけが俺だから申し訳ないとは思うが、全面的な責任は負わんぞ。

 

先輩のライフスタイルも大きく変わった。

まず、必要にかられて同棲を始めた。

あの日から一緒に居ることに固執している。

毎日のように終電で我が家にやって来るもんで、それはちょっと無理がないか?ということで先輩の家に俺が住むことになった。

 

何をするにも一緒だ。

生活の基盤が完全に俺を元にして出来ている。

朝起きるのも、食事をするのも、出かけるのも、寝るのも一緒にしたがるし、最初は授業を受けたりだとか、俺の友達の付き合いにも同行しようとしてきた。

流石にまずいので説き伏せたが。

 

そんな先輩は基本的には普通の生活をしようとしている。

授業にもちゃんと出席しているし、単位も足りていて、勉学においては問題ない。

人間関係だって、今までの水準では厳しいが、取捨選択して最低限はこなしている。

最近は俺と離れるときに駄々を捏ねなくなった。

 

しかしながら、兎に角俺と一緒に行動したがるし、俺と女子が関わるのを全力で阻止したがる。

 

履修登録はもうしてしまったから変えられないが、そんなことは気にせず俺と一緒に家を出ようとする。

それじゃあ火曜1限とかに間に合わないんだって!

必修ですよ、その単位!

 

更には人間関係の構築にも問題が発生している。

その、俺が女子と関わろうとすると、精神を病みだす。

どんな間柄であろうが、俺に近づく女子に危機感を覚えているのだとか。

 

女子が俺と親密そうな雰囲気を醸し出そうもんなら、なんというか、その、バッドに入ってしまう。

誰かに危害を加える訳では無い。

ただひたすらに、病みだす。

死んでやる!とかではない。

自分が相手より劣っているとかなんとか言って、自罰的になる。

これはいけない。

 

これを立ち直らせるのに時間が掛かるもんだから、そうそう女子と大っぴらに関われない。

こうなるともう、これまで友達になった女の子たちとも、疎遠になる他ない。

 

そういった行動を、先輩自身申し訳無さを感じてはいるようだ。

しかし、俺が奪われてしまうといった危機意識や、俺主体故に居なくなってしまうと回らなくなってしまう自分の不甲斐なさからどうしてもそういった行動に出てしまうらしい。

 

「どうしても、どうしても矢作だけは取られたくないの」

 

「無理なことは分かってるの。分かってるけど、私だけの矢作になって欲しいの」

 

「本当は、二人だけで何処かへ行ってしまいたいの」

 

「お願いだから、私から離れないでね」

 

惚れた相手にそう言われりゃ、そうするしかないわな。

ってことで、今俺は男友達位としか関わりがない。

男友達とも、休日に少し遊べる程度。

日を跨ぐと大変だ。

 

先輩は、俺が居ないと眠れなくなってしまっている。

それがわかったのは、俺が諸事情で実家に帰らなければならなかった時だ。

その時は大丈夫だと言っていた先輩だったが、俺が実家に帰ったその日からヤバくなっていた。

 

「そっちにはどれくらい居ないといけないの?」

 

「大体2日位だと思いますよ」

 

「女の子に言い寄られたりしてない?」

 

「してませんよ」

 

「私一人で住んでたはずなのに、家が広く感じるの」

 

「早く帰ってきてね」

 

それから色々あって夜電話ができず、2日後に帰ってみると、大変なことになっていた。

 

「ただいま帰りまし……」

 

整然としているはずのキッチン周りが大変なことになっている。

棚とかからものがめちゃくちゃにぶちまけられている。

手当たり次第に物を探したりすると、こうなるだろう。

 

となると強盗に入られたか?

 

リビングに踏み込む。

カーテンが開いていない。

暗くてよく見えないな。

 

明かりのスイッチを手探りで点ける。

リビングも酷い感じだ。

そこかしこにものが散乱している。

家を出るときはこんなんじゃなかったぞ。

 

見ると、部屋の隅っこに、布団が丸まっている。

微かに震えている。

 

先輩だ。

 

「先輩!」

 

「……」

 

布団を剥がすと、先輩が居た。

こちらに顔を向けているのだが、目線が合っていない。

過呼吸になっていて、手元もおぼつかない様子だ。

 

明らかな恐慌状態だ。

 

「何があったんですか!」

 

「……」

 

「誰か入ってきたんですか?」

 

「……ちがう」

 

「違うんですか?」

 

「……やはぎ、いない、くらい、こわい、なにもわかんない、こわい……」

 

うわ言のように呟いている。

心ここにあらずといった感じだ。

 

――俺が居ないだけで、こうもなるのか?

 

その後は事後処理に追われた。

先輩は、最初こそ普通に生活するべく活動していたが、俺からの連絡が途絶えると途端に不安になり、夜も眠れず、神経過敏になったところで配達が来て、そのインターホンで錯乱したらしい。

ここまで追い込まれた先輩は初めて見た。

 

ここから何時もの(それでもかつてより遥かに低調)先輩に戻すために一週間掛かった。

長期休暇で本当に良かった。

じゃなかったらふたりとも留年だ。

 

そんなこんなで、色々はあったが冬休みを乗り越えた。

俺はゼミを選ばなきゃで忙しくなっていた。

先輩は就活をどうするのかと見ていたのだが……

 

「私?私は家業を継げば良いの」

 

先輩はなんと有名企業の社長令嬢だったらしい。

そんな話初めて聞いた。

なんで言わなかったのかと聞けば、聞かれなかったからとぴしゃり。

確かにそりゃそうですけど。

 

「矢作は、うちに来るわよね?」

 

「……行かないとどうなります?」

 

「退学に追い込むし、私は死ぬわ」

 

「……話だけでも聞きに行きましょうか」

 

段々と取り返しのつかない方に行ってしまってる感は否めないが。

それも、仕方ない。

だって俺が選んだ道だし。

 

「矢作は、いつまで一緒に居てくれるの?」

 

「それ、答えを決めさせるつもりありませんよね?」

 

「どうかしら」

 

「……出来るだけ長く、ってことでどうですか?」

 

「及第点ね」

 

「それは良うござんした」

 

なんというか、満ち足りている。

憧れの先輩と付き合って、同棲して、将来?を誓い合って。

予定通りでも予想通りでも全くないし、前途多難なんだが。

だいぶ依存されてるし。

 

でも、心から幸せだと言える。

明日になって夢だって言われたらマジで許さん。

結構歪んだ、いびつな関係だとは思うが。

これで良い、と思えている。

 

さぁ、明日は土曜日。

何をしようか。

 

「先輩は何かしたい事とかありますか?」

 

「忘れたの?実家に行くのよ」

 

「……そうでしたね」

 

ヤバいこと忘れてた。

当日は口が乾くわ冷や汗は出るわで酷いんだろうけど。

きっと大丈夫だ。

 

「明日のために寝ましょうか」

 

「それが良いと思うわ」

 

体を密着させる。

もう慣れっこだ。

こうもしないと眠れないらしい。

 

「お休みなさい、先輩」

 

「……ふたりのときはなんて言うんだっけ?」

 

「わかりましたよ」

 

「お休みなさい、桜綺」

 

「良くできました、歩」

 

疲れからか直ぐに眠気が襲ってくる。

好きな人とふたり同衾して過ごすなんて。

なんて贅沢なんだろうな。

 

なんて考えて、意識を手放した。

幸せな夢を、見られる気がする。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。