ジャンヌとアルフィアの戦闘による爆音がオラリオ中に響き渡り、それは別行動を取っていた輝夜達の耳にも届いた。
すぐさま輝夜は斥候からフィンの指示を聞き、近くで巡回を行っていたシャクティとガレスの二人と合流し、爆音が響く方角へと向かう。
しかし途中で道を阻むように立ち塞がったのはオッタルを倒し、今オラリオを苦しめる原因の一人、【ゼウス・ファミリア】のザルドであった。
「貴様は、ザルド、だったか……」
「全く、つまらない戦に駆り出されたものだ」
目の前の冒険者など眼中に無く、一人ボヤきながら佇む。
エレボスの指示で冒険者がやって来るであろうこの道を塞げと言われ、番をしていたが、エレボスの予想通りやって来た冒険者にも自分にも思わず呆れてしまう。
「ザルド……!本当に儂等の敵に回ったか……!」
「久々だな、老け顔のドワーフ。お前との記憶、不思議と酒場での光景しか思い出せん」
ガレスは驚き、ザルドは笑う。
幾度もオラリオの頂点を賭けて戦い、片や
しかし酒場では酒を飲み交わし、飲み比べをして罰
輝夜はもちろんだが、シャクティも十分には把握できていない。
何の話を聞かされているのかと戸惑う。
ガレスとザルドは久々の語らいにお互い歯を見せていた。
だが、今は倒すべき敵。
ザルドは上げていた口角を下げ、剣を突き立てる。
「ここより進むのなら───俺が飲むのはドワーフの火酒ではなく、『血の酒』となる」
「「「─────っっ!?」」」
ザルドから放たれる
かつての最強を名乗る怪物。
ザルド以上のレベルを持つ者がいてもなお最強と名乗ることが許された正真正銘の傑物。
都市の希望であり、冒険者の憧れだった男は、今では都市を脅かし、市民も冒険者も恐れさせるただの畜生である。
皆が武器を構える。
過去は過去。
今を守るため、各々が覚悟を決める。
「かかって来い、冒険者」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
まずはシャクティが自身の愛用する槍、【スピア・アンクーシャ】でザルドの喉元を突く。
それをザルドは事もなさげに槍を掴み、剣を振りかぶる。
「させるかぁぁぁぁぁぁ!」
カァァァァァァン
それをガレスの愛用する斧、【グランドアックス】でその剣を弾くが、その攻撃の重さで超重量を誇る斧諸共吹き飛ばされてしまう。
シャクティは槍を諦め距離を取る。
しかしここで怯む冒険者ではない。
すぐさま輝夜がザルドの懐へ入り込み、愛刀【彼岸花】を抜き放つ。
「【散らせ一条】!」
カキィィィィィィィン
輝夜の一太刀は確かにザルドへと入った。
確かに、入ったのではあるが、
ザルドはこれも何も無かったかのように掴んでいた槍ごと輝夜を吹き飛ばす。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
「輝夜!」
「余所見とは、いい度胸だ」
「──っ!」
シャクティが一瞬の隙を見せた刹那、ザルドはシャクティと距離を詰め、握りしめた拳をシャクティの腹部へと放つ。
シャクティも避けようとするが、時すでに遅し。
直撃は
ゴリッッッッッ
「カハッ───!!」
声にならない叫びと共にシャクティは近くの建物へと殴り飛ばされる。
壁に叩きつけられ、その壁を壊し更に奥の壁に叩きつけられる。
込み上げてくる血を口から吐き出し、意識が一瞬で持っていかれそうになる。
立ち上がるのすら億劫になりそうになるが、歯を食いしばり、何とか立ち上がる。
だが、それを待つほど、敵も優しくはない。
「───っ!?」
ザルドは何も言わずに再度拳を振り上げる。
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこをガレスが強烈な
いくらザルドと言えど、こればかりは耐えれず吹き飛ばされる。
ガレスは持っていた
「いけるか、小娘!」
「あぁ!しかし、やはり規格外だ!」
「全くだ!おい、そっちの小娘も無事かぁ!」
「問題ない!シャクティ」
「感謝する」
全員が再度整えた所で、ザルドがゆっくりと歩いてくる。
ガレスに吹き飛ばされてもなお大した傷一つついていない所から、
明確な実力差。
勝てる見込みはあまりにも少ない。
しかし挑まねばならない。
ザルドは砂埃を払いながら再度三人の前に立つと思い出したかのように口を開く。
「そういえば、あの神から聞いておけと言われていたことがあった」
「何?」
「問おう。『正義』とは」
「「「───つっ!?」」」
それは、今一番聞かれたくない質問。
誰もが迷い続け、闇に負けたそれを胸を張って答えることが如何に難しいことか。
問われたからには答えねばならない。
口を開き、答えようとも声が出せないシャクティ。
口を閉ざし、答えを出さないガレス。
そして、口を開き、自身の答えを口にする輝夜。
「……知れたこと。大義名分を得るための『武器』だ。言動の暴力を正当化するための、色のない旗」
「輝夜……」
「そして最善を目指し、磨耗していく過程そのものだ」
その答えを聞き、ザルドはエレボスの気持ちがわかった気がした。
あの神に誘われ、かつて守った者達とこうして敵対しているが、その理由の一つを見つけた気がした。
「つまらん」
「何?」
だから一言で切り捨てた。
失望に値する答えに、言葉を尽くす必要がなかった。
「つまらん、と言ったのだ」
「貴様!」
「お前のそれは、失望した振りだ。自分を偽り、気取ったように諦観する。裏切られた現実を、認めたくないと親に縋る幻想。お前のそれは、『未練』だ」
「───ッッ!?」
ザルドにはわかる。
彼の持つ『悪食』を極め過ぎたが故に五感は研ぎ澄まされ、
だからこそ、輝夜の持つそれも感じ取ってしまえた。
少女は、未だ夢を諦めきれない哀れな
「ドワーフ。お前の『正義』も聞きたかったが、やめだ。やはりお前達には、失望しかない」
「勝手を抜かしおって!そんなことを許すと?」
「これ以上は時間の無駄だ。大人しく酒に溺れてろ」
ザルドが横一閃、剣を
それだけで風は衝撃を
ガレスが前に出て斧を盾として衝撃を受ける、がそれを耐えるための力が足りない。
超重量の斧も、それを支える力自慢のドワーフを、障害とすら感じない衝撃は三人を屋外へと吹き飛ばした。
「ぐぁっ!」
「ぐぉぉぉぉぉぉ!」
「クソッ!」
先程よりも
それでもこれで証明されてしまった。
ザルドが本気で来てしまえば、彼等に僅かな勝機すら失われてしまうということ。
幸い、道を通さないことがザルドの目的であり、時間稼ぎができていれば構わない。
殲滅すれば済む話なのかもしれないが、それはギリギリの所で回避し続けている彼等を褒めるべきだろう。
一瞬の油断が命取りとなる。
より一層、彼等は気を引き締めて挑まねばならない。
「道を塞げ、と言われていたが、貴様等には失望しかない。故に、俺の独断でお前達を終わらせてやろう」
「チッ!」
「まだそのような目を向けれるか。威勢だけは良いな」
「ハンッ、それが冒険者じゃ!お主もよく知っておろう」
「……あぁ、そうだったな」
ザルドは思わず目を細める。
兜によりガレス達には見えずとも、ふと思い出してしまった。
かつての仲間達のことを。
それが、二度と帰ってこない幻想だと、改めて感じる。
そうだ。
威勢だけ、威勢だけだった。
あの光景を見たアルフィアは言った。
「失望した」と。
最強を名乗る者達は、誰もが怖気付き、逃げ惑い、蹂躙され尽くした。
たった一人の英雄も現れない。
自分達こそが英雄だと、自分達ならば成し遂げられると、言っていた彼等は惨めに、無惨に、醜い肉塊すら許されず殺し尽くされた。
当然の帰結だ。
自分達は驕っていたのだ。
その強さに。今までの偉業に。
栄光に溺れた者の末路。
それがあの惨状だった。それだけの話。
あの時、アルフィアは思わず呟いてしまったらしい。
「英雄が欲しい」と。
それが、動機。
精霊と共に立ち向かい、片目を失わせた『大英雄』を。
多くの英雄の先駆けとなった『始まりの英雄』を。
数多の騎士を率いて道を切り拓いた『勇者』を。
『狼帝』を。『大戦士』を。『争姫』を。
多くの英雄を、『
彼等ならば、きっと。
そう願わずにはいられなかった。
だからザルド達は壁となる。
越えられないならば、それは平和の終わりを意味し、多くの犠牲から一の『
超えたならば、それは未来への希望を示し、多くの願いから百の『
これは、下界を憂いた、一人の神と、二人の元英雄の
故に、ザルドはまた剣を薙ぐ。
暴風に近い衝撃を起こし、再度三人へと襲いかかる。
「朽ちろ、冒険者───」
先程で証明している。
彼等に耐える手段はない。
ならば先程より強力なアレを、受けきれるはずがない。
最早雌雄は決した。
そう確信していた。
ザンッッッッ!
「───何?」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
暴風を斬り裂いて現れたるは二人の女。
一人は己の『正義』を看破され、それを認めつつも、はらわたが煮えくり返っている極東の少女。
もう一人は腹を殴られ壁にぶち当てられたことの借りを返そうと槍で貫こうとする青髪の女性。
二人の強襲を難なく受けるが、先よりも威力が増しており、少しだけ後ろへ後退りをさせられる。
何が起きたのか、ザルドには思い当たらなかった。
意志の力で実力差をひっくり返せるほど、世の中は甘くない。
しかし、現に彼女等は一瞬だがザルドを後退させた。
それは何よりも信じるべき事実である。
「どうした!あれだけイキがっていたくせに、か弱い女二人も受け止められないか!」
「落ちたものだな、最強とやらも!」
そこへ二人が更に言葉で追撃をする。
それはあまり意味の無いのかもしれない。
しかし、続けることに意味がある。
僅かな勝機を
決して、無駄であったと言わせないために。
「小癪な」
「それお代わりじゃ!」
「ぐっ!」
輝夜とシャクティと入れ替わるようにガレスが強烈な攻撃を放つ。
それを剣で受け止めるが、地面はザルドの踏んばりに耐えきれなくなり僅かに沈む。
ガレスの末恐ろしい膂力を見誤った。
評価を改める必要があると判断し、ガレスを弾き返す。
突然の力の向上。
何が力を与えたのか、ザルドにはわからなかった。
「急に力が増した……これは、『怒り』か」
「そうだ!貴様の質問に答えてやれば、勝手に批評を述べられ、勝手に失望され、辱めを受けた!その怒りだ!」
「
「貴様の攻撃など、効くわけがあるまい!その湿気た面をした貴様なんぞに負けては、フィンとリヴェリアに一生笑われるわ!」
輝夜は私怨。シャクティは煽動。ガレスは嘲笑。
それぞれがそれぞれの理由を怒りに変え、挑む。
例え届かなくても、それよりも考えるべきはどうやり返すか。
目の前の男に一泡吹かせる。
それが三人が共通する考えであった。
敵は強大。
引く訳にはいかない。
「私に考えがある」
「ほう。言ってみろ、小娘」
「それはだな───」
即席で行われる作戦会議。
それを待つくらいはザルドも許し、静かに見守る。
如何なる作戦が来ようとも、その全てを弾き返す実力を彼は有していた。
そのため待つ。
彼等の精一杯の足掻きを、待つ。
「儂は構わん。シャクティ、お主はどうだ?」
「私も構わない。輝夜、任せたぞ」
「あぁ、あの男にやり返さねば、この怒りも収まらないからな」
作戦会議は終わり、再度戦闘態勢を取る。
そして、再びゴングは鳴らされた。
シャクティが槍で突く。
それをザルドが掴もうとするが、シャクティも同じ轍を踏まない。
槍を回転させ、速度を上げて兜を突く。
それによりザルドの兜を脱がすことに成功する。
そしてシャクティはその槍をそのままザルドに掴まれないように追撃をしつつ引っ込め、後ろにいたガレスと入れ替わる。
ガレスの戦斧による一撃をザルドは剣を振り、受け止める。
そこへシャクティが横から再度攻撃を加える。
ザルドはその槍を難なく受け止めようとして、そこで完全な死角が生まれていたことに気付く。
そして、それが意図して作り出された死角だと悟り、その死角に目を向ければ─────何も無かった。
そこに輝夜がいると、確信していた。
しかし、いない。
そこでこれさえも囮だと気付き、再び前を向けば、そこに輝夜はいた。
片方はガレスの戦斧を。
もう片方はシャクティの槍を相手している。
輝夜の居合を止める術は、今のザルドにはなかった。
「居合の太刀───『双葉』」
輝夜は二刀の小太刀の居合を放つ。
完全に決まったように思えた。
しかし、それを受けるほど、『最強』は安くはない。
「フンッ!」
シャクティの槍を掴み、シャクティごと輝夜を薙ぎ払う。
さらにガレスも斧ごと吹き飛ばされる。
僅かな隙を与えたにも関わらず、その隙をものともしないなど、やはり目の前の男は最強なのだと再認識する。
それでも輝夜の太刀は、確かに届いた。
「
ザルドの頬からは久しく見ていなかった赤い液体が流れる。
自身の血。
目の前の冒険者達はボロボロとなりながらも、策を練り、諦めを捨て、挑み続けた結果を、確かに見せつけた。
これにはザルドも静かに口角を上げる。
「見事だ」
「あれだけしても、頬の傷一つか!」
「十分じゃ!今までは傷一つ入っておらんかった!」
「その通りだ、小娘。よくぞ傷を付けてみせた。ここから、貴様等に敬意を示そう」
瞬間、ザルドの纏う魔力量が明らかに増大した。
先程までとは比べ物にならない、圧倒的な魔力量。
理不尽な暴力。
その表現が正しいと思えるほどの力量差。
ザルドのこの攻撃を耐える如何なる手段を用いようとも、そのことごとくが目の前の不条理によって破壊され尽くすだろう。
それは技ではない。
それは技術ではない。
それは、ただの一薙ぎ。
ただの一閃が、絶望的なまでの実力差を指し示した。
彼等は、嵐に飲まれた。
────────────────────────
お伽噺を思い出していた。
幼い頃は大好きで、夢と希望に溢れた物語に憧れていた。
勧善懲悪が大半で『正義』が『悪』を倒すその姿は、幼い少女にはあまりにも眩しかった。
世界はこんなにも美しいんだろうと、人はこんなにも優しいのだと、信じて疑わなかった。
しかし、現実はそうではなかった。
醜い権力争い。
汚らわしい大人の目つき、言葉。
自由のない生活。
好きでもない男に言い寄られる日々。
あまりに嫌になった。
お伽噺のような世界は、本当にただの夢。
ありえもしない幻想で、誰も助け出してくれない現実。
だから信じなくなった。
だから家を出た。
苦しいこの生活から抜け出せるなら、何でも良かった。
そうして、気が付けば冒険者となっていた。
それも何の因果か、『正義』の眷属になっていた。
自分の『正義』が、何をなせると言うのだろうか。
好きだったお伽噺はもうほとんど内容も覚えていない。
自分が信じたものは裏切られる。
それがあまりにも悔しくて、捨てきれなくて、だから抱き続けて。
自分が、自分だからこそ、現実に裏切られた自分だからこそ、未来を生きる子供達に、その在り方を示せるんじゃないかと、思っていた。
でも、自分では出来なかった。
自分では、届かなかった。
私の『正義』じゃ、足りなかった。
『『明日』を願うなら、オレはどこにだって駆けつけてやるからよ』
どこからともなく男の声が聞こえた。
何でもない、ただの口約束。
そんなことを思い出していた。
そういえば、あの男を見てあるお伽噺を思い出したな。
人と、エルフと、ドワーフと、小人族と、多くの獣人と、そしてモンスターが手を取り、多くの怪物を倒す物語を。
オーガの長を倒したり、巨大な大蜘蛛を倒したり、様々な『冒険』をした彼を、うらやましく思っていた。
これを語った青年は「多少脚色しているがな」と、あたかも自分が語り始めたかのように言っていたが、それも大して気にも留めていなかった。
それほどまでに、このお伽噺は
夢を捨てきれない、幻想を抱き続ける少女にとって、この物語は忘れたくても忘れられない、そんなお伽噺。
唄もあったか。
まさかりかついだ ⬛︎太⬛︎。
くまにまたがり おうまのけいこ。
だったか。
ずっと思い出さなかった。
ずっと思い出したくなかった。
思い出してしまえば、縋ってしまうとわかっていたから。
でも、この状況で思い出してしまった。
幼い少女が、胸を躍らせ、目を輝かせ、世界に希望が満ち溢れていると教えてくれたその物語を。
あぁ、なんというタイトルだったかな。
そうだ。
『ミナモトノ・金太郎』だったな。
思い出せば、目の前は光に包まれた。
────────────────────────
「確かに届いたぜ、アンタの『明日』を求める声がよ」
英雄とは、誰かに求められた時に颯爽と現れるもの。
「悪ぃな、遅くなっちまってよ」
英雄とは、人々の希望に成りうる光の象徴である。
「でも、もう安心しな。オレが、アンタの『明日』を守ってやる」
英雄とは、それはそれは、カッコイイ存在である。
「推参!頼光郎党、坂田金時!」
目の前に立ちはだかるはかつての最強。
対してその最強に立ち向かうは
どちらも圧倒的実力を有すると、輝夜は知っている。
だが、輝夜は信じている。否、信じざるを得なかった。
いつも誰かの
泣いている子供には笑顔を振りまき、子供と一緒に笑い合う。
己の何かを悩み、それでも悪を許さず、己の折れぬ『正義』を貫くその姿に、輝夜は『光』を見ていた。
誰にも気付かない。自身ですら気付かなかったその光を、輝夜は求めていた。
幻想は現実へと変わった。
夢は光となった。
裏切られ続けた少女には、彼の光はあまりにも眩し過ぎてしまった。
だが、今はそれくらいが良い。
その光が、少女の進むべき道を照らし出してくれているのだから。
「名乗り、か。ならば応えよう。我が名はザルド!【ゼウス・ファミリア】の【暴喰】にして、このオラリオの敵となる者!」
「そうかよ。アンタの敵は、きっとオレじゃねぇ。オレの敵も、アンタじゃねぇ。でもよ、アンタがコイツらの明日を奪おうってなら、オレは全力で立ち向かわせてもらうぜ!」
「抜かせ小僧」
一触即発の状況。
お互いの名を、あの時知ることができなかったそれを、今ここで果たす。
【暴喰】と【黄金】
魔力はお互い高め続け、その場の魔力濃度はどんどんと高まっていく。
ザルドは剣に、金時は手斧に。
魔力の高まりを十分に感じた。
それが準備完了の合図。
静かに、ただ静かに、両者は構える。
呼吸すら忘れかねないほど、緊迫した状況。
そして、両者は同じタイミングで武器を振るう。
ドゴォォォォォォォォォォォン!!
あまりに大きな魔力のぶつかりは、とてつもない破壊力を引き起こす。
出会い、打ち交わしたあの時よりもさらに本気の打ち合い。
たった一度の打ち合いにより、周囲の建物はことごとく粉塵へと還り、暴風は上へと舞い上がり、一種の竜巻を作り出していた。
近くにいた輝夜達もすぐさま逃げるがその衝撃でかなり吹き飛ばされてしまう。
ジャンヌとアルフィアとはまた違ったレベルの戦い。
向こうが技なら、こちらは力。
圧倒的な力をただ打ち合っただけでこの威力である。
最早彼等に割って入るなど不可能である。
「「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
カキィィィィィィィン
カキィィィィィィィン
お互い二度、三度と打ち合い、その場は更に混沌と化す。
誰も近寄ることができず、止めることを許さない。
言葉はなく、ただ打ち合い続ける。
その光景を、誰も信じたくはなかった。
「…………なんなんだ、あれは」
「信じられん。あやつ、本当に人間か」
「少なくとも、お前のところの神は化け物だと言っていたぞ」
「だろうな。今の状況なら、それも信じられるわ」
ボロボロになりながらも見ていた三人はあまりの状況に呆然と見ていることしかできなかった。
今ならどんな冗談ですら信じられそうな、それほどまでの光景が目の前を支配している。
「…………」
そして、その三人以外にも一人、目の前の光景を見ている者がいた。
身体中の傷は癒えておらず、ただ闇雲に戦い続け、女神からの指示でひたすら仲間達と戦い続けた男が、その光景を見ていた。
女神もそれを良しとし、何も言わず、男に任せた。
強くなりたい。
ただそう思った。
落ちこぼれで、何度も敗北し続け、それでも立ち上がり続けた男は、目の前の光景を目に焼きつける。
これが頂点を極める戦い。
これが己が超えるべき到達点。
拳を握りしめ、一瞬の瞬きすらも許さないように目を見開き続ける。
「「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
お互い武器を弾いた。
その結果、ザルドは剣を、金時は手斧を手放し、両者得物を失った。
しかし、それで止まるわけがなく、次はお互い拳を撃ち合う。
金時はその手を赤く染め上げ、人外の力を存分に引き出す。
ザルドは過去に喰らってきたモンスターのその力を拳にこめ、これまた人外の力を存分に引き出す。
人外と人外。
あまりにも激しい打ち合いは、一撃一撃が大気を揺らし、オラリオ中へと響き渡らせる。
「「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
ただ叫ぶ。
負けたくない。負けるわけにはいかないと、己の心がそう叫んでいる。
目の前の敵は、稀にみる好敵手なのだと、お互いが理解する。
こんな状況でなかったなら、相撲をとったり、一緒に
出会う時が違えば、もっと早かったなら、あの時の失望は変わっていたのかもしれない。
しかし、それは過ぎた話。
ならば、今は存分に楽しもう。
ザルドはそう考え、その顔に笑みを浮かべる。
だが、時間がそれを許してくれない。
「はぁ、はぁ……止めだ」
「はぁ、はぁ……何故だ!」
先に止めたのは金時。
金時の拳は未だ健在ではあるが、所々手袋の皮がめくれていた。
しかし止めにするほど消耗はしていない。
対してザルドは鎧を纏っているため手の状況がわからずとも、鎧は撃ち合った箇所にへこみが見られた。
しかしザルドも止めにするほどではなかった。
「アンタ、もうそろそろ時間だろ」
「───っ!?」
「撃ち合って、時間が経つにつれて、アンタの力が弱まっていくのを感じた。そんなアンタとやり合っても、意味がねぇ」
金時は以前の打ち合いでは気付かなかった。
だが、今回は先に三人との戦闘による時間経過があった。
そのため、ザルドが本気を出す時間は減っていた。
これが輝夜達ならばまだ十分に戦えていただろう。
しかし、金時は常に全力で挑まねばならない相手。
それが今の状況にも繋がる。
「…………気付かれていたか」
「嫌でもわかる。それに、言ったはずだ。アンタの敵はオレじゃねぇ」
金時はザルドに挑むべき挑戦者のその存在を感じ取っていた。
見ているのに気付いた。
それだけで彼が戦った意味があった。
頂点の戦いというものを示すことができた。
ならば、彼はまだまだ強くなるだろうと確信する。
「だが、ここを通すなと神から言われていてな。お前さんでも通すことはできん」
「別に構わねぇよ」
金時は拳を解き、赤い手をいつもの肌の色へ戻す。
金時自身もそんな拳を見てつくづく人外だと感じはするが、それはそれだ。こんな拳も人助けになるなら別に赤くなろうが青く染まろうがどうでも良かった。
人を助けることができる。
その事実だけで金時は良かった。
そんな金時の後ろから歩いてくる音が聞こえる。
三人の足音もあるが、その後ろからもう一人の歩いてくる足音が。
その足音は軽くて、しかし地を踏みしめるようにしっかりとした足取りで歩みを進める。
一体誰だろうか、と思い振り返る。
そこには先の三人と、栗色の長い髪をたなびかせた、神々しい清廉な女性。
『正義』の女神、アストレアであった。
番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)
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ベル君がオラリオに来るまでのお話
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金時、師匠になる(終了後予定)
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ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
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英雄神話組の何気ない日常
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花のお兄さん、恋する乙女を応援する
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次回執筆予定のちょっと先出し