新年のちょっとしたお話を書きたかったので、現在執筆させていただいている作品の少し未来のお話を書かせていただきました。
暖かい目でお読みください。
「明けまして、おめでとうございます!」
その言葉を引き金にして、あちこちで木の容器ジョッキをぶつける音が聞こえてくる。
新年を迎え、楽しげに人々が食事や酒を楽しむのはオラリオの
様々な屋台が立ち並び、多くの人が思い思いに楽しんでいた。
もちろん神々も例外ではない。
「ぷはぁぁぁぁぁ!ベル君、おかわり!」
「あまり飲み過ぎたら駄目ですからね、神様」
幼女の見た目をしながら大きな双房を揺らし、酒を勢いよく飲むのは今話題の【ヘスティア・ファミリア】の主神、ヘスティアであった。
そして話題の原因である駆け出しの冒険者ベル・クラネルであった。
二人も新年を祝うためこうして来ていた。
様々な屋台を巡り、舌鼓をうち酒を飲む。
去年起きたことを話しつつ、今年の目標を話したりもする。
誰もがそんな風に楽しそうに過ごす様をベルも楽しそうに眺めていた。
「どうしたんだい、ベル君?」
「いや、色々とあったなぁと思いまして」
「まぁ確かに、色々あったね〜」
彼等は本当に色々あった。
あったと言ったらあったのだ。
毎度毎度騒ぎの中心にいて、その度に成長をして、そしてまた騒ぎに巻き込まれ……
息付く暇もなかった彼等にとって、今こうしている時間はとても穏やかに過ごせる珍しい時間であろう。
「ねぇベル君」
「なんですか神様?」
「
その質問にベルは息を飲んだ。
とある出会いを果たした。
共に笑い、共に食事をし、共に戦い、そして消えた彼のこと。
未だベルの中に英雄の在り方の一つを示してくれた彼を、ベルは忘れることなど出来なかった。
それはあの戦いを見届けた神々も一緒だった。
ベル・クラネルに全てを背負わせるはずだったあの状況を、あらゆる事象が重なりベル・クラネルという
もっと話したかった。
もっと共に戦いたかった。
もっと、冒険したかった。
それを知っているからこそ、聞かずにはいられなかった。
ベルは少し考えた後、自分なりの答えを話す。
「引きずっていない、と言えば嘘になります。あの人のことなんて、忘れることが出来ませんから」
でも、と言葉を続ける。
「でも、僕はあの人にたくさん教えてもらいました。たくさんの勇気をもらいました。だから、あの人に褒めてもらえるように、あの人の背中を超えれるような英雄になりたいって思いました」
それは嘘偽りない本心。
ベルの中では既に揺らぐことのないものとなっている。
故に、ヘスティアの心配は杞憂となった。
「それに先生も言っていました。『アレはあの糞爺と思考回路が一緒だ。気にするだけ無駄だ』って!」
「うん!君の先生は相変わらず辛辣だね!」
ベルのことが別の方面で心配となり、先生とやらにもまた話さないといけないと頭を抱えるヘスティアであった。
特にベルの先生ともう一人の保護者を説得しなければベルとのイチャイチャラブラブな夢を現実にすることは出来ない。
先生の方は神が嫌いで、保護者の方はベルのことを宝物のように想っているために説得も容易ではない。
だが、こんなことでくじけない。壁は超えるためにあるのだから。
恋する乙女ヘスティア。
彼女はそう決意するのであった。
「あ、ベル様〜!」
「よっ、ベル」
「ベル殿〜」
「ベル様!」
そんなこんな話していれば、いつも共に迷宮ダンジョンへと行く仲間達が集まる。
短い茶髪に小柄な身体の
ヴェルフは【ヘファイストス・ファミリア】に、リリもお世話になった人へ、命と春姫は【タケミカヅチ・ファミリア】への挨拶回りをそれぞれ行い、その後合流してベルを探しながら屋台を巡っていたらしい。
皆、新年を祝うということで極東の習わしに沿い、着物や袴と言った和服に身を包んでいた。
またお酒も配られていたこともあり、皆ほんの少し頬や鼻が赤くなっている。
いつもの面々が揃い、話もまた弾む。
出会った時のこと、一緒に迷宮ダンジョンに潜った時のこと、【アポロン・ファミリア】との
どれも彼等を成長させた出来事であり、とても辛く苦しいものもあった。
それでも今は笑うことが出来るということに、彼等は喜びを感じていた。
「あ、ベルさん!」
「どうも、クラネルさん」
そう声をかけられ声のする方を向けば、今度は『豊穣の女主人』に務める給仕シル・フローヴァと【アストレア・ファミリア】のリュー・リオンが共に歩いて来た。
シルは『豊穣の女主人』の宣伝も兼ねて色々と周り、リューはそんなシルに連れられて色々と屋台を周っている所だった。
大所帯になり始めたベル・クラネル一行。
ベルの目の前でもリューと命以外の女性陣が火花を散らしながらベルの隣を取り合い、そんな渦中のベルはよく分からない様子で困惑し、それを見ていた冒険者達は睨みつけたり、泣き崩れたりと騒がしくなる。
誰もが新年で浮かれ、幸せを願っている。
新年を皆が祝い、暖かな空気に包まれているオラリオ。
新年に希望抱くその様子は、きっと誰もが追い求めていた光景だろう。
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【ロキ・ファミリア】本拠ホーム『黄昏の館』
そこでも新年を祝い、宴が行われていた。
「皆飲んで食べてパーッといくでぇ〜!!」
主神であるロキはすでに
そして女性冒険者にセクハラしようとしたり、男性冒険者に一芸をさせたり、自分が騒いだりしていた。
つまりただの酔っ払いである。
そんな主神の行いに頭を痛くするリヴェリア、同じように騒ごうとするガレス、そしてその全てを許容しているフィン。
いつも死地とも言える迷宮ダンジョンで戦っている彼等を、この日ばかりは許していた。
「フィン」
そんなフィンに声をかける女性がいた。
【ロキ・ファミリア】の主力にして、オラリオでも注目と人気を集める【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインであった。
彼女は喧騒から離れるという理由があったが、フィンに聞きたいことがあったため声をかけたのだった。
「どうしたんだい、アイズ?」
「
「…………そうだね。
「……そう」
「アイズ」
「わかってるよ。でも、まだ教えて欲しいことがたくさんある」
それは一人の男。
七年前のあの日に出会い、強さを証明し、
いつからか行方不明となり、ずっと探し続けているにもかかわらず、手がかりが一切掴めないということに、フィンもアイズもそれがどういうことか理解していた。
あの日、あの
それは恋ではない。
それは嫉妬ではない。
それは羨望だ。
誰よりも輝き、一瞬の煌めきで厚く暗い雲に覆われていたあの時のオラリオに光を見せたあの姿に、アイズはずっと手を伸ばしていた。
強さだけではないあの光の正体を、探し求めていた光だと確信したから。
最近は同じような光を放つ少年と出会い、その光の正体も掴みかけ始めていた。
だから、もう一度話したかった。
その光が、自分にも宿すことが出来るのか。
故に探し続けていたが、何の進展もなかった。
一番仲の良かったであろう【アストレア・ファミリア】がその件に関して口を閉ざしていることから、何かしらの事件に巻き込まれ、そのまま……ということだろうと結論はついていた。
その事件についてもフィンの仲では確信めいた答えを得ていた。
それでも答えを口にしない。
目の前の少女がまだ、その可能性を知りながらも探し続けているために。
「大丈夫だよ、フィン」
「?」
「私はあの人達の背中をちゃんと見た。だから、何をすべきかわかってるよ」
彼女の中ではすでに決まりきっている覚悟。
その覚悟は揺らぐことがなく、目指すべきものも理解している。
過去の英雄達のようになれないとしても、彼等に近付くことはできる。
その瞳で見続けた過去は、その耳で聴き続けてきた想いは、その胸で感じた心は何も間違いではないと教えてもらった。
それをフィンも知っている。
彼も教えてもらったから。
皆を導く者としてのその在り方を。
「そうだね、僕も同じだよ。そんな彼等に報いるためにも、この平和を僕等も守ろう」
「うん」
少女と青年は人知れず約束を交わした。
守るべきものを、今この時を繋いだあの英雄達への感謝と想いへと報いるために。
番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)
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ベル君がオラリオに来るまでのお話
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金時、師匠になる(終了後予定)
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ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
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英雄神話組の何気ない日常
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花のお兄さん、恋する乙女を応援する
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次回執筆予定のちょっと先出し