あけましておめでとうございます。
皆様が良き一年を過ごされますことを祈っております。
また、この作品がその一助となればと思っております。
今年もよろしくお願い致します。
アストレアの登場により、戦況は落ち着きを取り戻した。
金時は彼女が神であることを瞬時に理解し、臨戦態勢を解除する。
ロキとはまた違った雰囲気を持つ女神からは清廉さや慈悲深さを感じとることができ、誰もが思い描く善神像そのものであると感じた。
カルデアにいた女神達と言えば、彼女達は良い意味でも悪い意味でも神らしかったとは言える。それこそ勤勉で純粋な冥界の女主人であるエレシュキガルが善神であると誰もが納得するような魔境だった。
妹のイシュタルは自由奔放で金銭に目が無く、美の女神であることをいい事に好き放題しようとして度々問題を引き起こすトラブルメイカーであったり、金時の同郷である伊吹童子も自由奔放で度々問題を引き起こすトラブルメイカーではあるがそれが百パーセントの善意であったり、アステカの女神ケツァルコアトルは善神なのはわかるのだが、何故かルチャ・リブレというプロレスにハマり、そして何故かサンタもしていたり、その他の女神も皆が本当の意味で神だった。
そんな女神達を見てきたからか、金時からすればアストレアはかなりまともで人に近い善神であると感じとることができた。
人格者、という言葉が相応しいだろう。神であるから神格者の方が正しいか。
神の中でもここまで人に近い神もそういないだろう。
それこそ、先程述べたカルデアにいたエレシュキガルが当てはまる。
人に近いということは、神としてはあまり良くないのかもしれないが、人からすれば同じ視座に立ち、歩み寄ってくれる神こそ自分達の理想の神そのものだろう。
自分勝手な話かもしれないが。
だが、神の血が半分入っている金時だからこそ理解出来る。
どれだけ寄り添うことができたとしても、人にはなれない。
同じ視座に立とうとも、根本がどうしても違い、考えも変わってしまう。
アストレアも、エレシュキガルも、他の神々も、人ではなく神として考慮しなければならない。
そんなことを考えつつ、
そのような困惑した空気を感じ取ったのだろう。
アストレアがザルドの前に立つ。
「そこを通していただけますか」
相手は
彼女の在り方を体現しているかの様なその姿は、厚い雲に覆われ、太陽すら見えないこのオラリオでは
アストレア。
正義を司る星乙女。
誰よりも正義を知り、誰よりも誇り高く、決して折れることのない剣と平等で公正に人を裁く天秤を掲げる気高き女神。
首謀者であるエレボスが真っ先に排除しようとしていたのも、正義の女神である彼女を天界に還せばオラリオの士気が一気に下がる、というのものあったが、彼女のその在り方を恐れたのも含まれている。
自身を
ザルドもまた、アストレアのことは主神のゼウスからよく聞いていた。
あのゼウスですら敬意を表していたのだ。
ザルドにとってそれが何を示しているのかよく理解していた。
「……いいだろう。お前は通るが良い。行け」
「ありがとう、
アストレアのその言葉に、これから何をしたいのかをザルドは察し、無言で頷く。
それを確認したアストレアは、横に
「初めまして。私の名はアストレア。輝夜達の主神をしているわ」
「あぁ、初めましてだ女神様。で、オレに何か用か?」
「えぇ。まずは貴方に感謝を。私の、私達神々の
そう言うと深々と頭を下げるアストレア。
物腰低く金時へ頭を下げるアストレアに金時も驚きを隠せなかった。
神からすれば、金時はどうしても怪物に見えてしまう。
それは金時自身に流れる血が特に影響しており、人はそれほど思うところは無いが、神からすれば怪物が言葉を話しているように思えてしまう。
これがただの怪物であったなら、ここまで拒絶反応も無かったのかもしれない。
だが、彼の親である赤龍は、神として崇められていたのだ。
この世界では、『
エレボスが行った様に、先の話ではフレイヤがイシュタルを還した様に、アルテミスが自身の矢で終わらせた様に。
神であれば、神の力を持つ者であれば、神は殺せる。
ロキが金時を見て真っ先に拒絶したのは、金時が
アストレアもそのことを理解している。
目の前の存在が、いつでも神である自分を殺すことができると、知っている。
そうだとしても、アストレアは自身がすべきことを優先した。
ロキの様に拒絶するのではなく。
エレボスの様に歓喜するのでもなく。
ただ自分達の眷族や多くの民を救ってくれた青年へと礼を述べた。
恐れよりも、拒絶よりも、歓喜よりも、どのような感情を抱こうとも、目の前の青年が成したことに比べれば些事である。
だからこそ、アストレアは下界にいる今も戦っている神々の代わりに、天界へと還されてしまった神々の代わりに、金時へと礼を述べる。
「やめてくれ。オレは自分のすべきことをしただけだ。何も感謝されるようなことはしちゃいねぇ。それに、神様がオレみたいなのに頭を下げるなんてやめといた方がいいぜ?」
「いえ、それでも私は感謝を告げます。貴方の勇気と献身により、多くの命が救われました。そこに人か怪物かなど、関係はありません」
金時の言い分も分かる。
金時自身この世界に呼ばれ、己の役割を理解した上での行動であり、言ってしまえば自分のためにしただけのことである。
それで誰かが助かったなら良い事だが、理由が理由であるため礼を言われる様なことではないと考えていた。
また神からすれば近寄りたくもない怪物であるとも何となしに理解していた金時からすれば、この光景はあまりよろしくないと理解している。
そのためそういった言い分となったのだが、それをあっさりと受け入れる様な神ではないのがアストレアである。
自身の眷族だけでなく、平穏に生きていた民達も救っていた目の前の青年に対して礼を述べることなど、彼の偉業に比べればあまりに容易いことであり、
神々の常識から外れ、人と共に助けに走る女神からすれば、金時はそれだけの存在なのである。
そこに、神を殺せる怪物などという前提はどうでも良かった。
「oh…、こいつは強ぇ女神様だ。ならその礼を受け取らせてもらうぜ」
「ええ。そうしていただけると幸いです。私はこれから、エレボスのもとへ向かいます。貴方達も無事であることを祈っております」
そう言ってアストレアはザルドが空けた道を進んで行った。
それを確認したザルドはすぐに道を塞ぎ、己の使命を全うしようとする。
体力はそこそこ回復しているが、金時との戦闘が思いの外堪えている部分もあり、もう一度金時と全力で打ち合えば先に力尽きるのは自分の方だと直感していた。
故に、手段を選んではいられなかった。
「仕方ない。どこぞの誰かは知らんが、貰った物はありがたく使わせてもらおう」
ザルドは
すると、みるみるうちに体力は回復し、毒の侵食も少し軽減した。
恐らく、
今まで飲んできたどの薬よりも効果が高いと感じることから、かなり薬に詳しい人物によって造られたのだろうとは分かるが、そんな人物をザルドは聞いたことがなかった。
このオラリオで優秀な
また自分達の同胞は既にほとんどがこの世を去っている。
そうなると、オラリオの
その者ならば、この毒も完全に癒せたのだろうか、などと考えてしまうが、今は万全の状態となったこの身体を動かしたくて堪らなかった。
もう一度、もう一度、何度でも打ち合いたい。
その想いを胸に、目の前の
そんな考えになってしまうのも、彼が未だ
「さて、俺は回復した。今一度かかって来るがいい、ヒヨっ子共」
万全とも言える状態に戻ったザルドの覇気はこれまで以上であった。
かつての都市最強。
その名に恥じぬ佇まいや迫力だけで気圧されてしまう。
当時を知るガレスからすれば金時がいるとは言え、厄介極まりなかった。
「
「構わん。おい小僧、お前は戦えるのか?」
輝夜は金時にそう言い放つ。
あまりの突然な呼び方に金時も思わず目をギョッとさせてしまう。
金時からすれば歳下で、それも未成年である輝夜から『小僧』なんて呼ばれるなど思ってもみなかったのだ。
そりゃあ度々子供っぽい一面を見せる時もあるが、それでも小僧は無いだろう。小僧は。
「小僧って、オレはアンタより歳上のはずだぜ?」
実際にそうである。
「呼び方など後にしろ。できるかできないかを聞いている」
そして金時の返答を歯牙にもかけない輝夜。
だが、質問自体は至って真面目であった。
目の前の敵が本気を出そうかという状態。
輝夜達が束になっても敵わない、そんな怪物に対抗できるのが同じく怪物並の力を有する金時しかいなかった。
そこに余裕を持ち合わせている訳が無かった。
「そうだな……余裕だぜ?」
意図を汲み取った金時はそんな風に返事をする。
オレは余裕だ。お前達は、着いて来れるか?とでも煽る様に笑顔を輝夜達へと向ける。
こんなことをされてしまっては、『冒険』をしたくなってしまうというのが冒険者の性なのだろう。
輝夜も、ガレスも、シャクティも、同じ様に笑みを浮かべる。
目の前には圧倒的な強敵。
隣にはそれを上回る程の力を持つ怪物。
恐怖と勇気が混在するその状況こそ、
「ということらしいぞ」
「ハッハッハッ!それは心強いわ!儂は【ロキ・ファミリア】のガレスじゃ!よろしく頼むぞ、小僧!」
「助かる。貴殿がサカタだったな。私は【ガネーシャ・ファミリア】の団長をしているシャクティだ。よろしく頼む」
「おう!よろしく頼むぜ!」
隣に立つ仲間を知った。
共に戦う友を得た。
彼等に退路は不要。
彼等の瞳は既に、皆が望む明日しか映っていなかった。
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最強と怪物の戦いを見た男は成すべき答えを得た。
女神の為に死力を尽くし続けていた男は、今一度己を見つめ直すことが出来た。
無闇矢鱈と剣を振るうのではない。
怒りに任せ弱者を八つ当たりの道具にするのではない。
己が目指すべき頂きとは、遥か高く、たった一人にのみ許された場所であり、人々の誇りに満ちた絶対的な称号である。
男は何度も思い返す。
何度も、何度も、何度も何度も、追いつこうとして挑み、挑み続け、そして何度も敗北の味を、倒れ伏した土の味を、強くなりたいと渇望を潤すために啜り続けた泥水の味を思い出した。
今回の敗北はまた積み重なっただけの話。
故に、今度こそ証明しなければならない。
女神の汚れを払うために。
怪物が見せてくれた頂きへと登るために。
男は剣を握る。
剣を握るその手には、今までとは比べ物にならない覚悟があった。
「……やるぞ」
「ああ」
男を待っていた同じ女神の眷族達。
彼等もまた見ていた。
最強と怪物の戦いを。
自分達では届かないと思わされた頂点の戦いを。
しかし、だからこそ挑み続ける。
今は届かないのかもしれない。
今、届かないのだとしても、それが諦める理由にはならない。
そんな簡単に諦めることが出来るような弱者はここにはいない。
自分こそがその頂きを手にすると目をギラギラと輝かせる。
女神の隣に立つ権利を欲するため。
女神の寵愛を一身に受けたいと思うがため。
「その首を獲る」
「させん」
言葉は要らない。
言葉の代わりに放つはこれまで磨き上げてきた技。そして新たな覚悟を宿した高みを目指す渇望。
女神に捧げる舞でもなければ、いつもの様な殺し合いでもない。
ただひたすらに、強さを求めて剣を、槍を、斧を、槌を、己が持つ武器をぶつけ合う。
無骨に、泥臭く、何度も打ち付け合う。
余分な物を削ぎ落とし、完成された強さをこの場の誰かが手にするまで続ける。
終わりなど来ないのかもしれない。
そうだとしても彼等は続ける。
今、出来うる限りの最強を生み出し、過去と決別するために。
敗北はもう数え切れないくらい知っている。
だからこそ、今度こそはまだ知らない味を知りたい。
最強を打ち倒し、過去を乗り越え、新たな頂きに立つ、その味を。
「そうよ。鍛えなさい。そして、証明するの。貴方達こそが、このオラリオで最強だということを」
彼等の女神もその様子を見続けている。
高め合い、研磨され、新たな輝きを見せようとする彼等を更に輝かせるために、女神は彼等を競わせた。
それでも、何かが足りなかった。
何が足りないのか、何を与えれば良いのか、何を奪えば良いのか、何が足りていないのかを女神はわからなかった。
己の伴侶を求めていた女神は静観をするしか出来なかった。
そんな時に金時とザルドの戦闘が起き、そこで眷族である彼等と共に感じた。感じ取らないなど無理な話であった。
最強の戦い。
力も、技も、何もかもが一流であり、何もかもが最強を示すものそのものであった。あの戦いを見て、心を躍らせない者はいない。
それが着火剤、否、起爆剤となり彼等の士気を爆発させた。
彼等はより高みへと至ることになるだろう。
その光景を早く見たい。
彼等の力強く
そう思わせてくれた金時に女神は感謝をする。
例え同胞が化け物と呼び忌み嫌おうとも、女神の中ではそんなことどうでも良いと思える程の影響をもたらせてくれた。
伴侶にしたいとは思わない。
金時の魂は、汚れを知らない純白ではなく、汚れも絶望も知り、それでもなお人を助けたいという強き願いを力にして輝く黄金色なのだ。
女神には眩しすぎる。
だから伴侶にはなり得ない。
金時の戦いから眷族達へと視線を移す。
彼等を信じているからこそ、女神は何も言わない。
きっと彼等なら大丈夫だと、信じているから。
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「ふぅ〜、だいぶ運べたなぁ〜」
男は多くの荷物の前で汗を拭う。
今の状況において、兵糧攻めをされている冒険者や市民達に充分な量の食糧を提供するためにも、男は最小人数で荷物をオラリオへ運び込んでいた。
男は不真面目な所が目立つが、それでもやる時はやる神だ。
アストレアが最前線で治療を続け、ロキがフィンと作戦を組み立て、フレイヤが最強の英雄を作り出そうとしている。
ガネーシャは民を励まし、ディアンケヒトとミアハが傷を癒している。
誰もが自分に出来ることをしているのだ。
この男、ヘルメスだって働かない訳にはいかない。
敵に気付かれぬように、食糧を優先的にオラリオへ運ぶ。
それが彼に出来ることだった。
「食糧はだいぶ集まったし、あとは
今はオラリオ外の街も
オラリオにいくら
そうさせないためにも、少しでも負担を減らせるようにと思いこうして集めているわけであるが、そう簡単に集まらないのが現実である。
「ヘルメス様!」
そんな時、一人の眷族がやってきた。
息を切らしながらヘルメスの元へ駆け寄り、息を整えてから話し始めた。
どういう訳か、無料で
それもかなり多くの
その
信じ難い話ではあるが、それを信じて
途中途中で
そこには、山の様に積み上げられた
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「ちッ!!イラつくイラつくイラつくぅ!!」
神々のそれぞれの動きの他にも動く者達がいた。
『死の七日間』初日にとある聖女にやられ、部下達に連れられて逃げ帰っていたヴァレッタは治療を終え、戦線に復帰していた。
既に数日が過ぎていたこともあり、その間、エレボスの指示があったとは言え冒険者達に、特に気に食わないフィンに良いようにされていたことが彼女を余計に苛立たせていた。
敵冒険者を見つけ次第殺し回っているが、それでも彼女のイラつきはおさまることがない。
また、それだけでなく
嫌がらせの様な作戦を繰り返してはいるが、冒険者側には余裕がみられる。
ここで何かしら打撃を与えなければ、この戦いの勝者が冒険者側になる可能性がかなり高まってしまう。
それを避けるためにもヴァレッタは思考を巡らせ、彼女側の勝率を上げる策を考え続けていた。
(何か奇襲を仕掛けるか……だが何処を攻める?市民の避難は既にほとんどが終わっていて、その場所も警備は厳重だ。不用意に行けばこっちがやられちまう。ならまだ避難が終わっていない所か?そこも冒険者が固まっていやがる。完全に後手に回らされている!)
ヴァレッタという指揮官がおらず、英霊という強力な戦力が冒険者側にいたということが今回の戦いを大きく変えた。
オリヴァスもヴィトーも指揮官という点では足りない。
オリヴァスは脳筋だし、ヴィトーは単独での動きの方が有効である。
大勢を動かす指揮官というのならヴァレッタが適任であるのだが、彼女以外にいないのが
「ヴァレッタ様」
「何だ!」
「エレボス様より伝言です」
その言葉でヴァレッタはイラつきを抑える。
陰湿で人の嫌がることを簡単に思いつき実行出来る今回の主犯からの伝言を一言たりとも聞き逃すことは出来なかった。
「『作戦変更。直ちにオラリオを落とす。
「……アハァ」
甘美な声をあげる。
それは全てを終わらせる作戦。
例え失敗しようとも、敵の主力を大幅に削ることの出来る最高で最悪な策。
敵はただの肉塊となり、オラリオは真の絶望を味わうこととなる。
知っているのは極少数。
しかしそれでも構わない。
神も、市民も、冒険者も、誰も退けることなど出来ぬ災厄。
「この
少しずつ、冒険者側は希望を取り戻していた。
この戦いは失う物が多く、それでも勝利を目指し戦い続けていた彼等には間違いなく希望が満ちようとしていた。
その全てぶち壊す最高の絶望。
これを歓喜せずにはいられなかった。
そうと決まればすぐさまヴァレッタは動き出す。
エレボスの見解では、成功と失敗は五分五分と言っていた。
使う時期も、もう少し後だと考えていた。
しかし、早まった。
ということは失敗する確率の方が少し高くなるだろう。
ならその失敗を前提に準備を進めれば、疲弊しきったオラリオを攻め落とすことなど容易い。
それに、ヴァレッタ達にはまだザルドとアルフィアという最強の手札が残されている。
この戦は勝ったとヴァレッタはほくそ笑む。
例えどんな
それでも念には念をいれる。
準備を整え、確実に息の根を止めるために。
「待っていろよ、オラリオ。お前達の息の根をしっかりと止めてやるよ」
絶望は、怪しい音をたてて忍び寄る。
「楽しみだなァ、フィィィィン。お前の絶望する顔が、今から楽しみだよォ。それとあの糞女ァ。アイツの絶望に満ちる顔が楽しみで今から抑えらんねぇよォォォ!」
狂気は高らかに笑いながら剣を振る。
隠れていた冒険者も、逃げ遅れた市民も、真っ赤な血に染めあげながら、目的の場所へと歩みを進める。
番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)
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ベル君がオラリオに来るまでのお話
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金時、師匠になる(終了後予定)
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ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
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英雄神話組の何気ない日常
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花のお兄さん、恋する乙女を応援する
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次回執筆予定のちょっと先出し