ダンまち×Fateシリーズ   作:英雄に憧れた一般人

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更新が遅くなりすみません。
続きも執筆中ですのでお待ちください。
感想、評価、大変嬉しい限りでございます。
皆様に楽しんでいただけていることを心から嬉しく思っております。
色々と口調や説明が間違っていることもありますが、その辺りも感想などで指摘していただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。


災厄顕現

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ!」

 

風が駆けた。

瞬きをするその間に目の前にいた同志達は倒れ伏していた。

一体、何が起こった?

 

「はぁぁぁ!」

 

また風が駆け抜けた。

そして次は瞬きもしていないのに隣にいた同志達がやられていた。

何だ、一体何だと言うのだ?

目で追えぬ速度を有するのは年端もいかぬ金髪金眼の少女。

人形のように表情にと

たかが少女相手に、どうして負けている?どうして倒される?

何故だ、何故なのだ!?

 

「大人しくしてたら、痛くないよ」

 

完全に強者の立場からの言葉。

そして憐れみと慈悲を含んだ屈辱を受ける許し難い言葉。

こんな小娘に情けをかけられるなど、あまりにも屈辱的だ!

許せない。許すわけにはいかない!

この小娘は今すぐ殺す!

 

「小娘g─────────!」

 

男が叫び終わる前に決着は着いた。

男は感情に囚われてしまった。怒りと羞恥に囚われてしまったから迫っていた少女の攻撃を見逃した。

少女はただ淡々と与えられた仕事をこなす。

相手が叫んでいようと何をしていようともそれは足を止める理由にも攻撃を止める理由にもならないからである。

 

「アイズ、先行し過ぎるなと何度言えばわかる」

 

「いたっ……!」

 

そんな少女に呆れながらも心配を含んだ声をかけながら頭上に拳骨を落とすのはリヴェリアであり、その姿は母娘の様であった。

拳骨を落とされたアイズはその場にうずくまり、拳骨された頭を抑える。後衛職のはずなのにその拳骨はかなり痛く、先程まで人形の様な冷たさを放っていた少女とは思えない程の変わりようである。

涙目でリヴェリアを睨みつけている姿は本当にただの少女の様であり、ありふれた光景の一部とも思えただろう。

しかし今はそんな光景を見ることがほとんどなくなった時代。

いつか前の平和な時のように……そんな想いを託され、背負っているリヴェリア達はどうしても現状の早期解決をしなければならなかった。

 

「とにかく、敵を倒すのは構わんがもう少し周りを見ろ」

 

「…………」

 

「返事は?」

 

「…………はい」

 

不貞腐れ、目を合わせずに返事をするアイズにもう一度拳骨を落とそうかとも考えるがやめにする。

それをした所で余計に機嫌を損ね、変な意地を張られて独断専行などされては心労が重なるだけだと判断した。

リヴェリアとアイズはもう二年程の付き合いとなるが、だいぶ打ち解けたとは言え未だに二人の間には溝がある。

それは埋めたくても埋めることのできない深い溝で、フィンやガレス、ロキでさえもその溝を埋めることは出来ていない。

埋まらない溝は深く、閉ざされた扉は重く、心の奥底にいるアイズは遥かに遠い。

一番近くにいるはずのリヴェリアでさえそう思ってしまうのだから、他の者達はもっと遠くに感じていることだろう。

強さを求め、忌むべき敵を憎み、ただ前しか見ていないアイズに、何をしてやれるだろうか。そんなことを毎日の様にリヴェリアは考えてしまう。

強くなるための心構えも、強さに呑まれない精神力も、敵の倒し方も、魔法の使い方も、世間の常識も、様々なことを教えてもまだ足りず、伝えたい言葉は百の内の十も伝えられていない。

出会った頃よりは……と思うと同時にまだこれだけしか伝えられていないという事実に歯痒さを感じてしまう。

自身の未熟さは特に。

 

「はぁ……とりあえず、次の目的地(ポイント)まで向かうとしよう。行くぞアイズ」

 

「……分かった」

 

今は考えても仕方ない。

思考を切り替え、今の自分達が成すべきことを成そうと思ったその時、おかしな気配を感じとった。

気配は後ろにあり、振り向けば白い人陰が細い路地に入っていくのが見えた。

明らかに罠だと警鐘を鳴らしている。

こんな時に街を出歩く一般人などいる訳が無い。

仮に一般人だとしても、それこそこの危ない状況で出歩くなどろくでもない人物に違いない。

故に追わない。それが最善であるとリヴェリアは判断したのだが、そんなことお構い無しに後を追った少女がいる。

アイズである。

 

「待てアイズ!」

 

「大丈夫。私なら勝てる」

 

慢心ではなく事実。しかしそれは敵が一人であればの話で、複数人待ち構えている可能性もある。それがわからないアイズではない。

敵が多くても、全員を倒す。

そんな想いを胸に抱きながら白い人陰の後を追った。

入り組んだ路地を使い必死に逃げる白い人陰とそれをエアリアルを纏いながら追跡するアイズ。

その距離は段々と迫っていき、十を数える手前の角で追い付いた。

目の前の人は髪は白く、目元はよく見えないが端正な顔立ちをしていることがわかる。

しかしアイズはそれよりも気になることがあった。

目の前の人間からは人の気配を感じないのだ。

得体の知れない何か、と称するのが適切な気配を放つそれはアイズのスキル【復讐者】もしっかりと発動していたことからモンスターであると考えられる。

どうしてこの街中に?どこから侵入した?目の前のコレは何?

多くの疑問を浮かべながらも剣先を向け、構える。

 

「まぁ待ってくれ、美しいお嬢さん」

 

「!?」

 

目の前のソレは急に喋りだした。

流暢に話すソレに何故か分からない危機感を覚え、アイズは風と共に目の前のソレを斬りつける。

しかし手応えがなく、実体を感じられない。

これは偽物?

 

「おっとっと……いきなり斬りつけるなんて思わなかったよ。それよりも話を──────」

 

また斬りつける。

今度も手応えはない。

本当に何なんだコレは。

それに男の言葉に耳を傾けるのは危険だと感じた。

耳を貸してはいけない。敵だ。倒すべき存在だ。

そう何度も念じ、睨みつける。

 

「少しくらいは話を聞いて欲しいんだけど、嫌われてるみたいだし手短に話そうかな」

 

「…………」

 

「実はこの先に君達の仲間が闇派閥(イヴィルス)に襲われてるんだ。だから助けて欲しいんだ」

 

目の前のソレはどういう訳か救助を求めた。

モンスターの気配を感じさせているにも関わらず、そのモンスターを倒す冒険者を助けようというのだ。

ハッキリ言って理解できなかった。

そんな存在はいていいはずがない。

モンスターは人を殺すもの。

人を助ける怪物など有り得てはいけない。

だってそれは、アイズ自身の否定にもなってしまうから。

だからアイズは認めない。

目の前のソレは嘘をついている。

 

「…………そんなこと、信じられるわけが────」

 

「だが嘘だとも言えないだろう?それに、ここまで来たなら君も感じているはずだよ」

 

目の前のソレの言う通り、近くに大勢が戦っている気配を感じている。それも大勢が数人を囲んで魔法や魔剣を使い、それに抵抗を見せる冒険者。

きっと目の前のソレに誘導されてしまったのだと気付かされた。

手のひらの上で転がされているかの様な感覚に余計に腹を立てる。

イラ立ちと焦燥がアイズを蝕む。

早く倒して救助に向かわなければ。

目の前のソレを生きて逃すわけにはいかない。

 

「貴方は殺す」

 

「それは困るなぁ。だから悪いけど逃げさせてもらうよ」

 

ソレはまた細い入り組んだ路地へと入って行った。

それを逃がすまいとアイズは後を追うが、その路地には既にいなかった。

気配を探ってもどこにも感じられず、ただアイズをここに連れて来るだけだったのが目的だったことが窺える。

そのことにアイズは唇を噛み締め、両手の拳を強く握った。

 

(モンスターに、モンスターのくせに、人を助けるなんて、有り得ない!!)

 

「アイズ!」

 

やっと追いついたであろうリヴェリアが声をかけるがアイズは返事をしなかった。

そのことに違和感を感じたリヴェリアがすぐさまアイズや周囲を探るが、怪しい気配は感知できない。

つまり、アイズ自身に何かをしたか、アイズが何かに深く囚われているか。

そう考えを導き出したリヴェリアはアイズへと近付き、そして脳天にチョップをかました。

 

「いたっ……!」

 

「返事をせぬか馬鹿者」

 

「リヴェリア……」

 

「お前に何があったか知らん。制止の声を振り切ったお前が悪い」

 

「うぅぅぅぅ……」

 

少しいつもの様子に戻ったアイズに安堵をしつつも追っていた謎の存在がアイズに何かしたのは確かだと推察し、言葉をかける。

 

「……何があったかは後で聞かせろ。だからまずは近くで起きている戦闘の援護に向かうぞ」

 

「……うん」

 

その言葉がアイズの思考を切り替えさせ、すぐさま二人で戦闘が行われている方へと向かう。

その様子を気配を消していた白い蛇が見ていたとは気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーディ!かなり押し込まれている!」

 

「もう限界も近い!俺達が道を拓く!だからお前だけでも逃げろ!」

 

「そんなこと出来ない!もう少しだけ耐えて!きっと救援が来てくれるから!」

 

アーディ達【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は闇派閥(イヴィルス)の大量の自爆テロと仲間の犠牲も厭わない攻撃により疲弊する一方であった。

アーディによる統率で何とか持ち堪えてはいるが、それも限界はすぐそこまで迫ってきており、誰か一人でもやられてしまえば瓦解する、そんな危機的状況に追い込まれていた。

相手は次から次へと湧いてくるのに対し、アーディ達は疲弊していく一方。

圧倒的に不利な状況でもアーディは敗北を受け入れなかった。

信じているからだ。

大切な友人がきっと助けに戻って来てくれると、そう信じているからこそアーディはまだ剣を振るい、仲間達を鼓舞し、悪を名乗る有象無象達を相手取ることが出来ている。

他人から植え付けられた薄っぺらい邪悪は恐怖に値せず、死に救いを求めた狂信者を憐れに想う。

意志無き操り人形に屈することは、己の持つ『正義』の否定に他ならない。

故に未だ抗い続ける。

 

「お前達も!我々も!もうじき全てなくなる!何もかも終わるのだ!」

 

「さっきからそればっかりだね。君達のそれについて教えて欲しいんだけど」

 

「貴様らにはどうすることも出来まい。全てを飲み込むアレこそが、我々を天界へと導く光なのだ!」

 

「うん、やっぱり通じないなぁ」

 

アーディは何度か会話を試みようとするも、相手は既に発狂しているのか聞く耳を一切持たない。

何に対しても『災厄』だの『全てなくなる』だのしか情報を得ることが出来ず、相手にしようとすることが馬鹿らしく思える。

出来れば命を奪いたくはない。

そんな綺麗事を言えるだけの余裕がなくともそれだけは忘れたくなかった。それは今の自分を裏切ることになってしまうから。

とある物語が今のアーディ・ヴァルマを形作ったといっても過言ではなく、その物語の英雄のようになりたいと思い、目指し続けてきた。

絶望を希望に変え、悲劇を喜劇へと変えたあの英雄のように。

今の自分はきっとあの英雄よりも強いと確信できる。

しかしそれは数値上の話であり、きっと数値がどれだけ勝っていようとも自分は敗北するだろう。

だって、彼の英雄の勝利条件は拳や剣で相手を叩き伏せることではなく、話術と演技によって笑顔にさせることだろうから。

彼はどんな時でも人々に笑顔をもたらした。

笑わない王女にも、全てを諦めていた占い師にも、たった一人の家族である半妖精の妹にも、老け顔のドワーフにも、部族の戦士たる狼人にも、友となった始まりの鍛冶師にも。

そして、どこか自分の友人に似ている気がする世界中にこの英雄譚を伝えたエルフの吟遊詩人にも。

皆を笑顔にさせた。

皆に笑顔をもたらせた。

皆が笑顔になった。

そんな彼を前にしたら、きっと自分は笑ってしまう。

 

「ふふっ」

 

ふと笑いが零れてしまった。

だって過去の英雄と会えるなんてありえるはずも無いのに。

あぁそうだ。笑おう。

楽観的になれるほど余裕は無いが、絶望的というにはあまりにも足りない。

過去の英雄達はどれほどの困難を乗り越えてきた?

神の恩恵が無く、いつ死ぬかもわからないあの時代の困難をどれだけ退けてきた?

これが絶望?

否、否だ。

この程度が絶望なんて言っていいものじゃない。

かつて夢見た誓いが果たせないほど追い込まれていない。

 

「ねぇみんな。こんな時だけどさ、わがまま言っていい?」

 

仲間の命と天秤にかけることではない。

姉やリオンがいたなら確実に説教される。

でも、こんな時だからこそ成すべきだ。

全てを救って皆で幸せな結末(ハッピーエンド)を迎えるために。

 

「私に指揮を執らせて。誰一人、死なせないと約束するから」

 

「アーディ……」

 

「ごめんね。でもさ、誰にも死んで欲しくないんだよ」

 

それを聞いた団員達は肯定するでもなく、否定するでもなく、ただ笑った。

それは自分達も抱いていた想いであり、アーディらしいと思ったから。そうだ、そうだった。厳しく秩序を重んじる姉と違い、誰よりも優しく悪人ですら許してしまうような少女がこのアーディだ。

夢物語を平気で語るような彼女を、団員達は誰よりも知っている。

 

「アーディ、俺達はどうすればいい?」

 

「みんな……」

 

アーディの優しさを見ているから、彼等も自分達の在り方を忘れずに済んだ。

 

「私達だって殺したいわけじゃない。ちゃんと罪を償って欲しいって思ってる」

 

誰も血を流さない、誰も傷つかない、手を取り合い助け合える理想を彼等は目指しているからこそ、敵を殺すという暴力ではなく、敵を捕らえ償わせるという対話を選ぶ。

 

「民衆が笑って暮らせるようにしたいって思ったから【ガネーシャ・ファミリア】に入ったんだ」

 

主神ガネーシャは群衆の主である。

街に住む人々が明日を笑って過ごせるように、彼は常に顔を上げ、民を励まし、仲間達に勇気を与え続け、死者には悲痛な叫びをあげた。

他のどの神よりも人間を愛している彼の姿を見たからこそ彼の【派閥(ファミリア)】に入りたいと門を叩いた。

 

「だからアーディ、我々を導いてくれ!」

 

ガネーシャの理想を成し遂げたいと、いつか成し遂げてみせると誓いがあるからこそ、そのガネーシャの想いを一番引き継いでいるであろうアーディはこの場では適任であった。

だからこそ、この窮地をアーディに託す。

 

「……ありがとう、みんな。それじゃあ、いくよ!」

 

アーディの指揮の下、【ガネーシャ・ファミリア】の反撃の狼煙が上げられた。

アーディの指揮は的確で、シャクティ譲りの判断力の速さが連携の致命傷を避け、敵も味方も守っていた。

またアーディのスキル【正義巡継(ダルマス・アルゴ)】により味方が強化され、戦線の維持を可能にしている。

戦況は相変わらず苦しいながらも先程よりも余裕が見え、お互いを援護出来る程には優位性を取り戻し、ここから更に耐えることは可能であると考えていた。

そこに待ちに待った援軍が来た為、更に戦況は良くなっていく。

 

「やぁ!」

 

「すまない、駆け付けるのが遅くなってしまった!」

 

「【人形姫】!【九魔姫(ナイン・ヘル)】!助かった!」

 

アイズとリヴェリアの到着により戦況は大きく変わる。

アイズの遊撃とリヴェリアの制圧力にてみるみるうちに敵を無力化していき、敵も撤退を余儀なくされていく。

アイズ達が到着してからものの数分で戦闘に幕が降ろされた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ、疲れたぁぁぁぁ」

 

「よくやった」

 

「やったね!リヴェリアさんに褒められた!」

 

戦闘が終了し、その場に腰を降ろしたアーディにリヴェリアが労いの言葉をかければアーディも太陽のように明るい笑みを浮かべる。

死と隣り合わせだった戦闘を終えたことで緊張も解け、しばらくは足に力が入らなそうなアーディだったが、その労いの言葉だけでまだ戦えそうな程に気力が(みなぎ)ってきた。

 

「とりあえず中央広場(セントラル・パーク)へと戻るぞ。何やら敵の動きがおかしい。何か大規模な作戦を起こすつもりのようだ」

 

「そうみたい。何かずっと『何もかも終わる』とか『【災厄】が』って言ってたから、多分それを起こすつもりなんだと思う」

 

「なるほど。フィン達なら詳しい情報を持っているだろう。すぐに引き上げ────────」

 

皆、戦闘終わりということもあり気が緩んでいた。

後は戻るだけだと油断していた。

外からやって来る存在に対する警戒など、しているはずも無かった。

だから、誰もが感じた。

絶対的な恐怖を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避難していたオラリオの住人達は混乱した。

 

「ここから出してくれ!!」

 

「もう嫌!もう嫌!」

 

「死にたくない死にたくない死にたくない!」

 

「皆死ぬんだ!皆、ここで死んじまうんだ!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者達は感じたこともない恐怖を体験した。

 

「何なんだ、何なんだよ……」

 

「どうしてだよ!俺達が何をしたって言うんだよ!?」

 

「もう終わりだよ……」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

「勝てるわけないだろ!何なんだよアレ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

神々は嫌悪感を顕にした。

 

「全く、最悪な気分やわ」

 

「まさか、まだあんなのが残っていたなんて……」

 

「今からでも民を逃がさねば!」

 

「それは余計な混乱を招きかねない。アレは、オラリオに来る前に仕留めるしか方法は無い」

 

「本当に、醜いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

連れてきた闇派閥(イヴィルス)達は歓喜した。

 

「最っ高の気分だぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「オラリオの崩壊。何とも呆気ない幕引きだった」

 

「ええ、その様子をこんな特等席から観られるなんて、嬉しい限りですよ」

 

「綺麗……」

 

「ええ、すごく素敵だわお姉様……」

 

 

 

 

 

 

 

 

歴戦の戦士達は思考する。

 

「すぐに情報を集める!冒険者を全員中央広場(セントラル・パーク)に集めろ!」

 

「すぐさまフィン達の元へ向かうぞ!アレをオラリオに入れてはいけない!」

 

「全く、厄介極まりないものを呼びおって!」

 

「……フィン達と合流だ」

 

「チッ……早く行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、英霊達はソレを見つめる。

 

「急がないと!」

 

「まずは大将達と合流だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が見つめる先にそれはいた。

襲撃によりオラリオの城壁が崩れたその場所からソレは見えていた。

否、これを見せるためにそこの城壁を破壊したのだろう。

住人達も感じた。

冒険者達も見てしまった。

神々も吐き気を催した。

誰もが感じたことのない恐怖と嫌悪の具現。

山に体を巻き付け、オラリオを眺める姿はご馳走を楽しみにする子供の姿。

顎肢(がくし)と呼ばれる毒牙をカチカチと嬉しそうに鳴らす。

触覚もソワソワと動かし、今か今かと待ち侘びる。

山を七巻半する体から伸びる無数の脚に力を込め、巻き付く山を思わず壊してしまいそうになる。

黒く輝く体は黒曜石の様に光りながらも宝石の様な優美さはなく、妖しく輝く様に人々は心の底から嫌悪する。

もうすぐ、もうすぐだ。だからまだ待て。

そうやって邪神は宥め、演説をする。

 

「オラリオにいる諸君。君達に一日だけ時間を与えよう」

 

よく通る声はオラリオ中に響き渡り、誰もが静かにその声を聴いた。

 

「私も神だ。下界を想う心くらいはある。だから君達に考える時間を与える」

 

誰もが理解している。

アレから逃げることなど出来ないと。

それを知った上でエレボスが提案していることに神々は舌打ちをする。

 

「逃げても構わない。爪を研いでも構わない。その全てが無に帰すとしても、君達の生きた輝きは私が覚えていよう」

 

全て無駄であると言い切った。

無駄な混乱を招くその言葉は本当に耳障りでしかなかった。

希望など与えない。

絶望など生温い。

 

「だから安心して、最後の時を過ごしてくれ給え」

 

邪悪な笑みと共に告げる。

竜を喰らい、蛇を喰らい、神を喰らい、人を喰らい、全てを無に帰すその悪食の化身の名を。

【災厄】と呼ばれたその存在の名を。

 

「この【大百足】が全てを喰らい尽くすその時まで、どうか君達が幸せでありますように」

 

全てを喰らう怪物は嬉しそうに咆哮する。

耳障りな鳴き声。

聞くに絶えない雑音。

聞いた者の中には吐き気を催し、その場に吐き出してしまう者もいた。

醜悪な存在に対して強力な拒絶反応を引き起こす。

地獄絵図。そんな言葉を体現したかのようだった。

エレボスはそのままどこかへと去って行き、【大百足】は大人しく山に体を巻き付けて眠りについた。

たった一日。

残された命の時間に力を持たない者達はオラリオの外へ出ようとし、冒険者は諦めと恐怖で動けなくなり、多くの神々も去ろうとする。

オラリオに残ると言った者は僅か。

更に戦うと決めたのはほんの一部の冒険者達だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど。あれが【災厄】か」

 

「まさか、あれ程までとは思いませんでした」

 

震えるリューとそのリューを抱きしめるアーディから報告を受けたフィンは親指を噛みながら思考を巡らせる。

本部には【ロキ・ファミリア】幹部、【フレイヤ・ファミリア】幹部、【アストレア・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】幹部、そしていくつかの残ることを決めたファミリアとその神々、そして英霊二騎であった。

状況は最悪。

打つ手など無いに等しいこの状況に頭を抱える。

 

「あんなもの、どうしろというのだ……」

 

「シャクティ。君の言いたいことはわかる。だけど───」

 

「なら策はあるのか?今のこの状況で、どうすると?」

 

「あぁ。だから今からその策を練るところだよヘディン」

 

「それでは遅い。今から練った策など無意味だ。あるのだろう、既にお前の中にこの状況を打破する策が」

 

「…………」

 

絶望に呑まれながらも必死に抗おうとする彼等の姿は正しく英雄と呼ぶに相応しいのだろう。そしてこの最悪の状況を想定していたフィンの頭の中には【白妖の魔杖(ヒルドスレイブ)】ヘディン・セルランドの言う通りこの状況でも覆すことの出来る策を既に考えついていた。

しかしそれは最悪に近い犠牲を生みかねない策であり、戦力が大幅に減少しかねない策とは呼べない様なものだった。

 

「犠牲無しでアレを倒すことは不可能だ。誰だ。誰を犠牲にアレを討つ?」

 

ヘディンのその言葉で多くの者が顔を青ざめさせる。

自分が犠牲になるかもしれない。そのことに顔を俯かせる。

誰だって死ぬのは怖い。

死んでしまえば、友や仲間達と笑い合ったり、くだらない喧嘩をしたり、美味しい物を食べたり、そんな日常や幸せを享受することが出来なくなってしまう。

それがたまらなく怖いのだ。

震え合う者同士で身体を支え合ったり、足に力が入らなくなる者、押し潰されそうな恐怖に必死に耐える者など様々である。

この場に恐怖を感じていない冒険者など、一人もいないのだ。

中心にて策を考えるフィンとヘディンでさえ、感じている。

 

「……それは」

 

「言え。お前はその責任を背負う義務がある」

 

「ヘディン、お主は何を焦っておる?」

 

「焦るに決まっているだろう。アレは戦況など一瞬どころかたった一撃で終わらせることの出来る存在だぞ?それを前にしてここで何時間時間を潰すつもりだ」

 

実際、時間に限りはある。

一日と告げられた制限時間は刻一刻と迫っており、早くしなければ何も出来ないまま【大百足】と対峙しなければならない。

そうなれば敗北は必定であり、成すすべもなくオラリオにも下界にも滅びが待ち受けている。

だからこそ、今決めなければならない。

 

「まぁ少し待ちたまえよ眷族(こども)達」

 

「ヘルメス?」

 

「やぁアストレア、久々だね。熱い抱擁でもしたい所だけど、今は一刻を争うからね。……ジャンヌちゃん、金時くん。君達宛だ」

 

ヘルメスは会議室に入るなりいつもの軽い口調とは裏腹にジャンヌと金時にとある医者から預かった物を渡す。

それぞれの中には手紙と何かしらの札。そして液体が入った瓶であった。

手紙に書かれた文字はこの世界のものではなく、それを読むことが出来るのはジャンヌと金時のみである。

そのため書かれた内容をジャンヌが読み上げる。

 

『久々だな裁定者(ルーラー)狂戦士(バーサーカー)。挨拶は省く。お前達に手紙を書いたのは【大百足】をお前達に討ってもらうためだ』

 

「えっ……?」

 

『アレは冒険者では無理だ。例え過去の英雄でも不可能だ。お前達だ。アレは本来この世界にはいなかった。だが僕やお前達がいたからアレはこの世界に顕現した』

 

「どういうことだ」

 

「まずは続きを聞こう。話はそれからだ」

 

『だからアレの討伐はお前達に任せる。僕はやるべきことがある。その代わり、一緒に入れているそれを使え。それならアレを倒せる。細かな調整は出来なかったが、お前達なら使いこなせる。任せたぞ』

 

一通り読み終えたジャンヌは周囲を見渡す。

不安と懐疑的な視線が混在する中で話すべきことを話す。

 

「まず、私と金時は人ではありません」

 

その言葉に薄々気付いていた者、上手く意味を飲み込めない者、興味が無い者と反応は様々であることを感じながらも話を続ける。

 

「詳しいことは省きますが、私と金時、そして手紙の主は英霊と呼ばれる存在です」

 

「時間が惜しい。手短に説明しろ」

 

「英霊は一種の精霊です。私達は本来、もっと昔に生きた存在であり、死した後、世界と契約を結び人理の守護者となった者達のことを言います」

 

『魔術概念における正式名称は『境界記録帯(ゴーストライナー)

神話や伝説の中で為した功績が信仰を生み、その信仰をもって人間の霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた人間サイドの守護者。

それが実在であろうとなかろうと、人類が存在する限り常に在り続けるもので、実在した英雄でも、実在しなかった英雄でも、英霊が“地球で発生した情報”である事は変わらない、時間軸の外にいる純粋な『魂』であり、無色の力』(引用:TYPE-MOON Wiki)

と長々と説明があるが、例え簡略化して説明しろと言われても難しい。

これが【万能の天才】レオナルド・ダ・ヴィンチや【名探偵】シャーロック・ホームズならば容易いのだろうが、彼等はいない。

そのためジャンヌが理解している範囲での説明となってしまう。

 

「えっと…………つまり?」

 

「私達の身体は魔力で出来た人形とでも考えてください」

 

本体から切り離された分霊。そしてこの世界での状態は正しく魔力人形と言っても差し支えないものだ。

例えこのジャンヌや金時が死亡しようとも、本体には特に影響はなく、重篤な危機(エラー)が発生することもない。

だからこそ魔力人形という説明でも通じる。

ただし、世界が呼び出し作った魔力人形となるが。

 

「何だと?」

 

そしてそのことの反応したのはオラリオでも特に魔法に精通しているリヴェリアである。

彼女からすれば魔力人形など作れるものではなく、レア魔法である分身魔法やそれに準ずる魔法であれば可能である、というもの。

目の前のジャンヌや金時がそうであると言われても到底信じられることではなかった。

魔力の歪みはなく、血を流し、普通の人と同じように生きる姿を見てきたからこそ、余計に信じれなくなっていた。

 

「そして、私達はこの世界の存在ではありません。別世界、異世界の英雄が私達なのです」

 

「なるほど、概ね理解出来た。ならどうして君達はあの【災厄】と関係があるんだい?」

 

細かな所は時間が無いため理解を止め、手紙にあった部分の疑問点をジャンヌ達に聞く。

そしてその質問に対して答えるのは【大百足】をジャンヌよりも知り、この場の誰よりも知っている金時である。

 

「アレは本来俺達の世界で倒された存在だ。だからこの世界にはいないはずだった。だけど俺達が呼ばれたことであっちの世界とこっちの世界が僅かに繋がっちまった。それを辿ってやって来ちまったんだろうさ」

 

自分なりの解釈も踏まえ説明をする。

そのことに理解が百%出来なくともある程度必要な情報を得ることには繋がった。

だが、それが出来るのはこういった異常事態(イレギュラー)に慣れている者達であり、そうでない者達はそうはいかない。

 

「ならアレは、お前達のせいじゃないか!」

 

「何が英雄だ!何が異世界だ!お前達のせいでこんなことになったんじゃないか!」

 

真っ当な意見である。

ジャンヌと金時、そして【医神】である彼の英霊がこの世界に来たことで繋がりを得てしまった。

【大百足】自体は偶然の産物で【医神】がこの世界に来てから数百年程した時にこちらとあちらの【大百足】が繋がってしまい生まれた混成獣(キメラ)とも言える存在である。

そしてこちらには彼の武士が存在していなかった。

故に今日まで生き延び、多くの英雄を返り討ちにして喰らい尽くし、そしてエレボスによって連れて来られた。

だからこそ、【大百足】は英霊のせいであるというのは何一つ間違ってはいないのだ。

 

「お前達が、お前達のせいで!」

 

「そこまでじゃお主等。今ここでそんなこと言っても仕方あるまい」

 

「黙れ!お前達は強いからそんなことが言えるんだよ!」

 

「なら今すぐここから去れ。貴様等の様な雑魚に構っている時間は無い」

 

「何だと!」

 

「辞めろ。今は時間が無い。くだらない言い争いはそこまでだ」

 

フィンの一喝によりその場は何とか収まったが、主要派閥(ファミリア)ではない者達からすれば金時達にそう怒りをぶつけたくなってしまうのも無理ない話ではある。

 

「分かってるさ。これは俺達の責任だ。だから、アレは俺達が討つ」

 

「無茶だ!アレをたった二人でどうにか出来るわけが無い!」

 

「そうよ!英霊とか何か分からないけど、協力して倒すべきよ!」

 

金時に待ったをかける輝夜とアリーゼではあるが、この選択が最善であると心の中で理解していた。

英霊が有する力は人知を超えていると幾度か目にしている。

その力を持ってすれば勝てるのかもしれない、そう誰もが抱いていた。

もちろん策を弄し、強力な武器と装備によって迎え撃つというのなら協力という策は意味を成せていただろう。

しかし、今はたった一日という時間しか与えられず、準備をする時間など彼等には圧倒的に足りていなかった。

 

「アリーゼ、輝夜。私達英霊は既に死んだ身です。こうして存在出来ていることは奇跡なのです。だから、今を生きる貴女達の未来を、どうか私達に護らせてください」

 

「ジャンヌ…………」

 

「アレは私達の敵です。私達の手で倒すべき『悪』なのです。ですから、どうか貴女達は備えてください。アレを倒した後、それがこの戦いを終わらせる最後の戦いとなるはずです」

 

ジャンヌの説得にアリーゼは何も言えなかった。

言葉を出そうにも上手く口が動かず、喉からも声が出せなかった。

分かっている。これが最善手だと、分かっている。

頭では理解出来ている。間違いなくこれが正しいと理解している。

それでも、心が、魂が否定する。

それは団長としての意地で、友としての矜恃で、少女としてのわがままである。

せっかく再会出来た。

死んだかもしれないと不安に駆られながらも生きていると信じ、そして再会出来たからこそ、もう一度喪うのがとてつもなく怖かった。

それは他の面々も一緒で、特にリューは一層その想いが強かった。

それでも彼女達は受け入れなければならなかった。

 

「よし、なら詳しく策を詰めよう。他に必要な準備があるかい?」

 

「あー、大将。一つ注文良いか?」

 

「何だい?可能な限りは応えるよ」

 

「一つ用意して欲しいもんがある」

 

アリーゼ達を置いてジャンヌ達は作戦を詰めていく。

必要な物を各自揃え、戦いの準備を進めていく。

その瞳には一切の迷いはなく、己の使命にのみ見据えていた。

敗北は許されない。

どれほど恨まれようとも、どれほど罵られようとも、彼等にはそれを受けるだけの責任がある。

それは英霊としてこの世界に召喚された時から決まっていた覚悟。

誰もが憧れ、理想を抱き、明日を望んだからこそ。

生者の行く末を決めることは出来ない。

しかし、道を照らすことは出来る。

導くのではなく、肩を貸し、背中を押し、道を歩む勇気を与えることは出来る。

それを証明するための戦い。

これは、英霊の存在を証明するための戦いである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)

  • ベル君がオラリオに来るまでのお話
  • 金時、師匠になる(終了後予定)
  • ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
  • 英雄神話組の何気ない日常
  • 花のお兄さん、恋する乙女を応援する
  • 次回執筆予定のちょっと先出し
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