ダンまち×Fateシリーズ   作:英雄に憧れた一般人

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投稿が遅くなり申し訳ありません。
アンケートへの回答もありがとうございます。
番外編はちょくちょく書いていきますので楽しみにしていただければと思っております。
感想や評価も大変嬉しいです。
今回も楽しんで頂けたら幸いにございます。


なんでもない明日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【大百足】

平安時代か室町時代から語られる伝説上の魔物。

その姿は山を七巻半する程長く、黒く覆われた外殻は並大抵の矢も刀も通さぬ程頑強であり、強靭な顎で何でも噛み砕き食する悪食である。

三上山という山に住み着き、その近くに住んでいた人間、家畜、そして龍神の眷属までも喰らったという神食い虫。

まともな人間ならば『倒す』ではなく『やり過ごす』を考えるべき大魔虫。

正真正銘の神々の天敵。

この大百足の前には龍神すらも敵わず、救いを求めていた。

人里へ降り、人の往来の多い橋をその巨躯で塞ぎ、自身を恐れず乗り越える。そんな勇気ある者を待っていた。

だが、人々はそんな龍神の姿を恐れる。

神ではなく大蛇と認識され、魔が蔓延る時代にあっても人を簡単に殺すことの出来る妖魔は恐ろしい存在でしかなく、龍神の事情など知る由もない人々にとってそれは当然のことでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな龍神の願いを叶える武士が現れた。

酒が残っていた彼は酔いながら大蛇と間違え龍神を踏みつけ、それに怒った龍神に喧嘩を売りつけ戦った。そしてあろうことか武士は勝利した。

そして天女に変身した龍神から話を聞けば、龍神との戦闘の熱に浮かされその足で大百足の討伐へと赴き、たった三本の矢で大百足を討伐してみせた。

剛胆にして爽快。無茶や無謀を可能にしてみせた強者(つわもの)

後に百々目鬼(とどめき)などの妖を打ち倒し、不死の魔人すらも倒した武士(もののふ)

彼の者の名は俵藤太(たわらのとうた)

またの名を藤原(ふじわらの)秀郷(ひでさと)

極東の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)であり、不死殺し。

祖先である藤原(ふじわらの)鎌足(かまたり)から伝わる黄金の太刀を振るい、幾度も手柄を立てた勇将。

勇気と武芸を持って彼は不可能に挑み、そして乗り越え偉業を達成した『英雄』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【大百足】との戦闘まで、あと十数時間。

作戦会議は終了しそれぞれが(きた)る決戦に向けて装備を整えていた。

震えながらも準備を進める者、全てを諦め膝をつく者、迫る時を待つ間にも己を鍛える者、何も残らないと嘆き悲しみに暮れる者。

そんな者達がいる場所から少し離れた会議室にて、フィンは金時から【大百足】の伝承を聞いていた。

そして彼とジャンヌの存在のことも。

 

「そうか。【大百足】は強敵だが倒せない相手では無い、ということだね?」

 

「ああ。アレは厄介極まりねぇが、実際に倒されていた。だからこの戦いも無謀なんかじゃねぇ」

 

「それでも君達が圧倒的に不利なことは変わらない。そして危険すぎるということも」

 

「まぁそれは仕方ねぇさ。だけどよ、やるしかねぇだろ」

 

現在において【大百足】にまともに戦えることが出来るのは金時とジャンヌくらいである。

フィン含む他の冒険者達も力を合わせることで犠牲を出しながらもあの【大百足】を討伐することは可能であろう。

しかし、それを今してしまうとその後に待ち受ける闇派閥(イヴィルス)との戦いはかなり疲弊した状態で挑むことになり、敗北する確率を高めてしまうことになる。そうなれば【大百足】を倒したことも水の泡となってしまう。故に戦力は出来る限り温存し、最小限の人数であの【大百足】を倒さねばならない。

それがどれほど愚かで無謀なことか、フィンはよく理解している。

それでも、そうするしか選択肢が無い。

俵藤太がたった三本の矢で勝ったとされているが、それをあのエレボスが知らないはずは無い。対策はされていると考えた方が良いだろう。

同じ手は使えない。戦力も足りていない。武器も整っていない。

だが、勝たねばならない。

これがどれほど無茶なことか、フィンは頭を抱えてしまう。

 

「……ところで、不死殺しというのは?」

 

少し思考の切り替えとして話を聞いていて気になったことを金時へと聞いてみた。

不死の存在。それはこの世界にいるのかは分からないが、もし遭遇してしまえば不利な状況へと陥り、大きな被害を被ってしまう可能性がある。

それを防ぐ為、そして単純に知りたいという好奇心から尋ねた。

 

「オレの住んでたところに不死身のバケモンがいたんだよ。それを倒したんだとよ」

 

「そんなこと可能なのかい?」

 

「普通は不可能だ。どうやって倒したとか詳しくはオレも知らねぇ。だけどよ、あの人は『不可能』を『可能』にしてみせた。誰もが無理だと諦めたことを、あの人はやり遂げた」

 

「……」

 

不可能を可能にする。

それは漫画やアニメではありふれた展開で、きっと友情や努力によって乗り越えられる希望に満ち溢れた物語だろう。

しかし、現実はそうではない。

何度やっても終わりが見えず、目標に達成することが出来ず、道半ばにて心が折れ諦める者が大半であり、だからこそ不可能などと呼称されている。

心が折れず最後までやり遂げる、または折れても再び挑戦することが出来る人間など、一体何人いるだろうか。

ましてや周囲の人々から「不可能」や「無理」だと言われ続け、それでもなお挑み続ける人間など、あまりにも少ないことだろう。

人はそれほどまでに強くはなれない。

夢に絶望せず、明確な目標を見据え、仲間という存在がいてこそ人は不可能に挑むことが出来る。

たった一人で挑むには、『不可能』という壁はあまりにも険し過ぎる。

そのことをフィンも金時もよく理解している。

仲間という存在の大きさがどれほど勇気へと変わるだろうか。

夢や目標という目指すべき到達点がどれだけの力へとなるだろうか。

知っているからこそ、俵藤太の異常性を痛感する。

 

「だから今度はオレがそれをやる番なんだよ、大将。オレがやらなきゃならねぇ。【大百足(アイツ)】が奪った何でもない毎日と、そんなモンを手に入れたくても手に入れられなかった奴らの為にブン殴る!」

 

そしてそんな俵藤太は『英雄』として金時の中に刻まれている。彼の異常性も、成し得た偉業も、勇敢なる精神も、不可能を可能にする希望の象徴こそ金時が憧れ目指す『英雄(ヒーロー)』としての姿なのだろう。

偉人という前例がある。偉業という記録がある。

それらは未知へ挑んだ証であり、その未知を乗り越えた実績である。

記録があるなら越えられる。実績があるなら成すべきことは自然と理解出来る。あとは行動に移し、強い信念と強大な恐怖に恐れない勇気を持って挑むだけである。

前例が無いから作った英雄に比べれば、その指標があり進むべき道が示されている方が余程簡単である。

数々の英雄と出会い、言葉を交わし、共に戦った()の坂田金時だからこそ、無茶でも無謀でもない実現可能な挑戦なのだ。

 

「なるほどね。君の強さの根底を垣間見た気がするよ」

 

「そうかい。なら最後まで見届けろよ大将。オレが、オレ達英霊の在り方ってやつを、お前さん達に見せつけてやる」

 

ニカッと笑うその姿は幼子の様で、あまりにも眩しく輝いていた。

希望に満ち、これから先の未来を見据えた瞳には、一切の陰りは見当たらない。

 

「あぁ、楽しみにしてるよ。だから、必ず生きて帰って来い」

 

「それは命令か?」

 

「そうだ。僕が君の大将としての、絶対の命令だ」

 

「いいねぇ!やっぱりアンタは最高にゴールデンだぜ!」

 

二人で拳を合わせる。

彼等に魔力によるパスも(マスター)使い魔(サーヴァント)という明確な主従関係も無い。

しかし彼等の間には、何物にも変え難い目に見えない確かな絆が結ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

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「話は終わったのか?」

 

「あ、待ってたのかよ。なら────」

 

ゴンッ!

 

「ぶべしっ!」

 

「このたわけが!何故ジャンヌを助けたと報告しなかった!何故私達に事情を話さなかった!何をしているのだ馬鹿者が!」

 

「ええ……」

 

フィンとの話を終え会議室から出て来た金時を待っていたのは、輝夜含めた【アストレア・ファミリア】の面々であり、そして輝夜が真っ先に愛刀(鞘に収まった状態)を金時の頭に振り下ろし、抱え込んでいた不満をぶつけた。

他の面々も言いたいことはあった。うん、それはもうジャンヌのこととか、英霊のこととか、ジャンヌのこととか、これからの戦いのこととか、ジャンヌのこととか……。

しかし輝夜がこの状態の為、金時が退室するまで輝夜を抑えつける方が大変であり、今ではぐったりとしている。だから誰も輝夜を止めることは出来ない。アリーゼでさえも無理である。

 

「大体貴様というヤツはもっと信じてもらおうという気が足りなさすぎる!怪しさ満点で登場しておきながら何が『オレはそのために来た(キラッ)』だ!ふざけるな!ちゃんと説明しろこの馬ぁ鹿が!」

 

「お、おい──────」

 

「口を挟むな青二才!」

 

「オレの方が歳上だが!?」

 

「いいか?貴様一人がわかっていても他がわかっていなければ貴様を信頼しようにも出来んだろ!貴様一人の問題では無いということをしっかりと理解しろこのボケが!」

 

「か、輝夜……少し言い過────」

 

「黙っていろ馬鹿団長!」

 

「はい!」

 

そうして金時は正座をさせられ、ついでに危険な状態にあったアリーゼ達も一緒になって正座をさせられ小一時間ほど説教を輝夜から受けた。

足が痺れても崩すことを許してはくれず、特に金時とアリーゼ、そして巻き添えをくらったライラは鬼の形相で怒る輝夜から執拗に説教をされた。

それも、輝夜が仲間を大切にしているからこそなのだ。そのことをアリーゼもライラも他の【アストレア・ファミリア】の面々も、そして短い付き合いである金時もそれを感じていた。だから大人しく説教を受けている。いるのだが、(いささ)か長かった。

輝夜の説教が終わった時には、説教を受ける前より更にぐったりとしたアリーゼ達であったが、その二人を横目に金時はすっと立ち上がる。

そう、正座に関してはあまり応えていない。

母を名乗る上司から怒られた時に常に正座をさせられていたのが今回活きたというだけの話である。

そんな金時を見てアリーゼ達は開いた口が塞がらない程に口を開け、輝夜は罰になっていないことにこめかみをおさえる。

 

「そういや聖女サマはどうしたんだ?」

 

「聖女……ジャンヌのことなら彼奴にも既に説教は済ませている。今は行くべき場所があると言ってそこへ向かったらしい」

 

「そうかい。ならオレも少しばかり街を見て回るとするか」

 

「決戦がすぐそこまで迫っているというのに何を呑気なことを」

 

「まぁまぁ輝夜。彼もこっちに来てから自分の時間を全く取れていなかったし、少しくらいは多目に見てあげようじゃない!」

 

「……はぁ。あまり遅くなるなよ」

 

「気ぃつけるわ」

 

金時はそう言って手を振りながら街中へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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金時達が正座をさせられていた時、ジャンヌはとある場所へとやって来ていた。

そこにいるであろう人物に会うために。

建物のドアを開ければ、ステンドグラスから暗い光が差し込んでおり、そこにいた黒いドレスを身にまとった女性が静かに佇んでいた。

 

「やはり、こちらにおられましたか」

 

「私もお前がここに来るだろうと思っていたよ」

 

黒き麗人、アルフィアはそう告げる。

ここで出会った彼女達だからこそ、必ずここで会えると感じ、待ち合わせをしたわけでもなく示し合わせたかのようにこうして再会を果たした。

この場でだけは『正義』と『悪』ではなく、ただ同じ場所で祈りを捧ぐ者として過ごすという暗黙の了解の下に、彼女達は静かに語り合う。

 

「…………」

 

コツコツと足音を鳴らしながらまずは光が差し込んでいる位置まで歩き、そこで膝をつき祈りを捧げる。

静かで、それでいて美しい所作。

ただ祈りを捧げるというだけの行為でありながら、その姿からは神聖さを感じさせる。

アルフィアも椅子に座り瞳を閉じる。

祈る相手も、想う相手も違う。それでも彼女達にとってこの時間は、お互いを理解するのに必要な時間である。

生まれた場所も、育った環境も、超えてきた困難も、そのどれもが違っていても彼女達の中では何かが繋がるのを感じるのだ。

それは目に見えない曖昧なものであったとしても。

 

「まずは、貴女にもう一度会えてよかった」

 

「……そうか」

 

祈りが終わり、ジャンヌは穏やかに口を開く。

言葉に意味を込め、相手へとしっかりと伝わるように言葉を紡ぐ。

 

「はい。貴女とこうしてもう一度話す機会が欲しかった」

 

「説得でもするつもりか?」

 

アルフィアの質問にジャンヌは首を横に振る。

説得は無意味であると既に理解している。アルフィアが何かしらの理由を持ってザルドと共にエレボスに付き従っているということをジャンヌは察していた。

だからこそ、彼女達の説得はここでは無意味なのだ。

それは今起こしている最低最悪の事件を、アルフィア達が抱えている覚悟を嘲笑う行為だと思ったから。

 

「私が話したいのは、これからのことです」

 

「これからだと?」

 

「はい。アルフィア、貴女に御家族は?」

 

ジャンヌの質問に意味が分からないながらもアルフィアは答える。

意味があるのか、意図は何なのか、そういったわからないしがらみを一先ずは置いて、友人と語らうように話をする。

 

「いない。唯一の肉親だった妹も既に旅立った。私も時期に妹の元へと向かうさ」

 

「そうですか。以前仰られていた妹さんですね」

 

「そうだ。私が愛した妹(メーテリア)は儚さを宿しながらも、誰よりも明るく、誰よりも優しく、誰よりも綺麗だった。私の自慢の妹だよ」

 

「私もお会いしてみたかったです」

 

「なら一度会いに行くと良い。墓の居場所を教えてやる」

 

「ならその時は貴女も一緒に」

 

「…………」

 

返答は無い。

それは出来ないと、それはきっと不可能だと、言外にそう告げていた。

 

「私も、ザルドも、もう残された時間は少ない」

 

「…………」

 

「いずれ来る約束の時はもうすぐそこまで迫っている。しかし、私達では最後の英雄にはなれなかった。私達では、成しえなかった」

 

「…………」

 

「だから私達はあの神の思惑に乗ったのだ。今を生きる英雄候補達は、果たして最後の英雄と成り得るのかと」

 

「……成り得なければ、滅ぼすと」

 

「英雄神話の時代を生きた英雄達は神の恩恵を受けずとも数々の偉業を成した。神々が築き上げた千年では駄目だった。私達では届かなかった。ただの人だった者達が出来たことを、私達では出来なかった」

 

大英雄アルバート。彼は【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が挑み敗北した黒竜を相手に人の身にて唯一傷を与えてみせた。

ゼウスとヘラの眷族達は傷一つ付けられなかった黒竜を相手に、只人でありながら片目を奪い、遠く離れた地へと退けさせることに成功した。

それがどれだけの偉業であったか。それがどれだけアルフィアに現実を突きつけたことか。

人々の悲願を叶える希望を見せたのは神時代の英雄達ではなく、神々が降臨するその前を生きた英雄時代の最高傑作だった。

神々の力を頼っては駄目なのだ。

この神時代を終わらせ、過去へと回帰し、絶望と滅びに満ちたあの時代となれば究極の一を生み出すことが出来る。

 

「神時代の象徴である私達を倒せぬ者達に、約束の時を乗り越えることは不可能だ。これは、人類の未来を賭けた戦いであり、今の人類を担うやつらへの試練というわけだ。まぁ、あの蟲は少々やり過ぎかもしれんがな」

 

自分達を踏み台にして先へと進め。

そして我々の成せなかった悲願をどうか……。

それがアルフィアの言葉に隠された真意。

人類の未来を願うが故の絶対悪なのだ。

その想いをジャンヌはしっかりと聞いた。

彼女の真意も、この計画の意味も、彼女達の願う明日も。

だからこそ、ジャンヌは聞かねばならなかった。

もう一つの真意を。

 

「……もう一つ、隠していることがありますよね?」

 

「…………」

 

「人類の未来を願っているのは本心でしょう。ですが、貴女はまだ隠している。それはきっと、自分達のわがままで、一人の人間としての願いでしょう」

 

「……メーテリアには、子供がいる」

 

「はい」

 

「その子の顔は知っているが、名前は知らん。しかし、あの優しいメーテリアの子供だと言うのなら、きっと母親譲りの優しさをその子は受け継いでいるのだろう」

 

どこか懐かしげに、想いを馳せるように優しい笑みを浮かべる。

それだけでアルフィアが妹のメーテリアをどれほど愛していたことか、どれほどの想いでこの場に居るのか、察することは難くない。

 

「そんなメーテリアの子が、剣を取らず、命を懸けて戦わない世界になって欲しいのさ」

 

名前も知らない。顔も知らない。背丈も、趣味も、嗜好も、得手不得手も、性格も何も知らず、ただ妹の子というだけであるというのにも関わらずこれほどまでに想っているというのは、それだけ妹を愛し、信じているからだろう。

誰よりも優しく、真っ白だった妹を。

 

「……もう会う気は無いのですね」

 

「あぁ。私は既に選択した。この世界における大罪人となる道を」

 

「ならば、その大罪人たる貴女をきっと彼女達が止めるでしょう。私を仲間と呼んでくれた、『正義』の使者達が」

 

「……フッ、まずはあの蟲を倒せたらの話だろうに」

 

「必ず倒しますよ。私達がこの世界に呼ばれたその意味を示す為に」

 

「そうか。なら期待しておくとしよう。お前達の『英雄』としての姿を」

 

彼女の中にあったのは眩しく、揺らめき、決して消えることの無い希望の灯火。

『英雄』という名の篝火(かがりび)

暗く冷たい闇に覆われた『未来』を明るく照らし、数多の可能性を指し示す道標であり、今を生きる者達に勇気を与える希望の象徴。

悪に堕ちた『未来』を願う魔女が渇望した英雄、その行く末を彼女はしかと刻みつける。

自分達が犯したこの大罪が、今を生きる者達への試練と成り得たか見届ける為に。

 

「そういえばこれを貴女に渡して欲しいと」

 

「これは?」

 

そんなことを考えていればジャンヌから液体の入った瓶を渡された。

書いている文字は読めず、ただ何かしらの効能が書かれていることだけは理解できる。

 

「貴女の病気の症状を抑える回復薬(ポーション)とのことらしいです。信頼出来る私達の主治医の作った物なので効果は保証しますよ」

 

「……私のこの症状を知っている医者を名乗る奴は一人しか知らん。昔にあの好々爺の狒々爺が見付けたという男だが、まさかお前達と同じ存在とはな」

 

「そのようですね」

 

ジャンヌや金時の主治医を名乗る医者など一人しかおらず、しかもその医者はジャンヌや金時が英霊だからではなく、生きとし生けるものは全て自身の患者だという傲慢と言うべきか愛が深いと言うべきか迷ってしまうようなことを言ってのけてしまう。

そんな医者はかつて男神(ゼウス)と出会い、送還させかける程までボコボコにし、【ゼウス・ファミリア】や【ヘラ・ファミリア】の主治医としてオラリオに滞在していた。

眷族にはならなかったが、()の医者はありとあらゆる傷を癒してみせた。それが状態異常であれ、呪いであれ、致命傷であれ。

しかしそんな医者でも治せなかったものがある。

医者が何千年生きようとも、全ての病や傷を治すことは出来なかった。

不治の病。消しきれぬ程の猛毒。

だから医者はまた旅に出た。全てを癒せるように。

そんな医者をアルフィアは知っていた。否、一番関わりがあったため知らざるを得なかった。

 

「全く、彼奴とはもう関わりがないと思っていたのだがな」

 

「それは彼が許さないでしょう。貴女の病を完全に癒せて無いですから」

 

「……あぁ、そうだな。(メーテリア)の寿命が延び、僅かでも我が子と触れる時間が増えたのも、あの医者がいたからなのは認めるよ」

 

()の医者はアルフィアもメーテリアも完治させることは出来なかった。

情報が足りず、神の恩恵(ファルナ)によりスキルへと昇華されてしまったことで手が出せなくなってしまった。

例え完治させる薬を作ったとしても、最早治せる術は無かったのだ。

だから彼は旅に出た。確実に病を根絶させる方法を見つけるために。生きとし生けるものの主治医という言葉を真実へとするために。

病の進行を遅らせる薬自体は作れていた。病が日に日に耐性を付けていったとしても、薬の効果によりアルフィアもメーテリアも苦しむことは少なかった。

そんな僅かに稼いだ時間は、アルフィアにとっても、メーテリアにとっても、決して無駄ではなかった。

そのことにアルフィアは感謝はしている。

そしてジャンヌから渡された回復薬(ポーション)もきっと効果があるのだろうと信用していた。

 

「奇妙な縁だよ、本当に」

 

「えぇ、全く」

 

医者を、少なくともその腕を信用しているアルフィアにジャンヌは少し聞きたいことがあった。

彼がこの世界に来てからどれほどの年月が経っているのかはわからないが、そんなにも信用しているというのならその名もかなり知れ渡っていたのではなかろうか?

 

「彼は有名だったのでは?」

 

「いや、彼奴を知っているのは私とメーテリア、呼んだ本神のゼウス。私達の主神のヘラ。あとはゼウスとヘラのそれぞれの団長と、ウラノスの遣いの魔導師(メイジ)くらいだよ」

 

「……?」

 

「彼奴の性格を知っているならその反応もわかる。だがあんなのをこのオラリオに出歩かせてみろ。神嫌いが故に問題しか起こさんぞ?だからゼウスを殴らせ続けさせた」

 

「…………」

 

これはゼウスを不憫と思うべきなのか、彼の神嫌いを嘆くべきなのだろうか……。

しかしまぁ彼と出会ってしまったのが、彼が最も嫌いな神でなおかつ自身の死因の神なのだから避けられない運命だったのだろう、とジャンヌは思うことにした。

静かに姿知らぬゼウスへと合掌しながら。

 

「だからザルドのやつも知らん。薄々気付いていたようではあったが、ヘラやゼウスがする隠し事など自分から首を突っ込みたくは無さそうだったよ」

 

時々受け取っていた自身の毒の進行を遅らせる回復薬を誰が作っていたかはザルドは知らない。かつての都市最強にすら教えていない、それほどまでに彼の取り扱いは慎重でなければならなかった。

そのためかゼウスはともかく、ヘラですら『医者』という言葉を聞くだけで顔を(しか)める程であり、『主治医』なんて聞けば鳥肌が止まらないだろう。彼の前に患者を連れて来ないとはそういうことだ。

 

「ふふっ、本当に彼らしいですね」

 

「あぁ」

 

カルデアにいた時とオラリオにいた時。

異なる場所、異なる状況、異なる仲間。

そうであっても変わらず、ただ目の前の患者を救おうとする彼の姿をジャンヌもアルフィアも同じ姿を浮かべていた。

 

「……それでは、またお会いしましょう」

 

「今度はどこで会うか楽しみにしておくよ」

 

友人として語らい合う時間は終わった。

それぞれの目的を果たすため、彼女達は別れを告げる。

光を示すために。悪を成すために。

そして、かけがえのない『未来』を掴み取るために。

 

「……メーテリア。もし、許されるなら、私はお前の子を一目見たかったよ」

 

誰もいなくなった教会に、『絶対悪』となったアルフィアではなく、『最愛の妹(メーテリア)の姉』としてのアルフィアとして、そんな言葉を残しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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傷がみるみるうちに癒えていく。

ヘルメスから受け取った回復薬(ポーション)の効果は凄まじく、致命傷ですら癒してみせた。

人々は奇跡だと讃えた。

しかしそれが奇跡ではなく、とある人物によって作られた物であると確信を持って答えれる者がいた。

アミッド・テアサナーレ。

【ディアンケヒト・ファミリア】の一員にして(よわい)十二にして既にオラリオの中でも上位の治療師(ヒーラー)として名を広めている少女である。

あと数年もすれば名実共に都市最高の治療師として名を轟かせるだろう。

そんな彼女は自室にてヘルメスの持って来た回復薬(ポーション)をディアンケヒトとミアハと共に調べていた。

 

「どうだアミッド。この回復薬(ポーション)は」

 

「……間違いなく、(せんせい)の作った物です」

 

「君が教えを受けていた人物だったね」

 

「はい。あの方こそ、私が目指すべき存在です」

 

アルフィア達しか知らないはずの医者である彼は今から少し前にオラリオへと来ていた。

それは旅から戻り、アルフィア達の症状の経過を確認するためだったのだが、その時には既に彼等がいなくなった後であった。

マメに連絡をとっていた訳では無かった為、黒竜討伐失敗のこともファミリア解散のことも知らなかったのだ。

そうだとしても彼のするべきことは変わらず、人々を治療しようとしたのだが、そんな時に彼はアミッドと出会った。

冒険者と言えどまだ幼い少女相手に犯罪をしようとした悪漢をパンクラチオンにて撃退し、そこから少しの間ではあったが少女に医療についての知識や呪いや状態異常への対処法、回復薬の作り方等を教えた。

それからというもの、アミッドは元々あった才能を更に開花させていった。

主神(ディアンケヒト)には多少の事情を話し、渋々承諾させ教えを()うたあの時間はアミッドにとってかけがえのない時期であり、彼女の往くべき道を決定づけた。

全ての傷を癒す。

その信念が彼女を成長させ続けていた。

そんな彼女だからこそ、師事していた彼の回復薬(ポーション)だとすぐに分かった。

 

「まさかヘルメス様とお会いしていたとは。ですがこの回復薬(ポーション)があれば即死でない限り癒すことは可能です。しかし、今の私達ではこの回復薬(ポーション)を作ることなど出来ません。それはお解りだと思います」

 

「あぁ、これは我々神々の領域に存在する物だ。これで回復薬(ポーション)なのだ。もしその彼が万能薬(エリクサー)でも作ろうものなら、それこそ()()()()()()()()()()へと至るだろうな」

 

「はい。もしかすると、(せんせい)はその一歩手前まで辿り着いているのかもしれません」

 

事実、彼の作った回復薬を使用した患者達はどれほど大きな傷であろうとも傷跡すら残さず癒してみせた。大きな火傷も、身体を蝕む毒も、大きく斬られた裂傷も、そのどれもを癒した。

ただ腕や脚が失くなった場合は、あるならばくっつけることは可能なのだが、肉も骨もなければ元のように戻すことは出来なかった。

そればかりはいくら彼の回復薬でも治せなかった。

欠点とも言えない欠点はそれくらいであり、正しく神の御業とも言うべき物を作り上げたのだった。

 

「……そやつもきっと英霊という存在なのだろう。人の身でここまでの技術を手にする等、それこそ何千年と生きてなければ不可能だ」

 

「同感だ。なんなら神々が神の力(アルカナム)を使ってもこれと同等の物を作るのが関の山だろうな」

 

「儂をお前と一緒にするな!儂ならばこれくらいの回復薬(ポーション)なぞちょちょいのちょいだ!」

 

ディアンケヒトの言う通り、彼は英霊だ。

そしてなおかつこの世界に喚ばれてから三千年以上も経とうとしている。その間に彼は医療における技術や知識を高めていった。

薬学医療、外科医療、魔術医療のどれも彼の右に出る者は神の力(アルカナム)を使える神にもいないたろう。

それほどまでの完成度をこの回復薬は誇る。

正しく医療の到達点の一つであると言えるだろう。

 

「アミッド、君の意見を聞くことが出来て良かった。私に出来ることがあれば手伝うと約束しよう」

 

「感謝致します」

 

約束を交わし、冒険者を支える二大医療派閥(ファミリア)の会合は終わり、これから激しくなると予想される闘いを前に、彼等は改めて決意を固めた。

 

あらゆる傷を癒してみせる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

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都市は暗かった。

厚い雲に覆われ、陽の光をここ数日はまともに見れていない。

それだけでも憂鬱になるというのに、更に問題がある。

いつ終わるかもわからない正義と悪の戦争。

そのどちらも飲み込み何も残らず消し去ろうという【災厄】の存在。

人々は下を向いていた。

(うずくま)り動こうとしない。

寝そべり起きる気力すらない。

星も太陽も見えない空を見ることもしない。

誰もが追い詰められていた。

誰もが希望を持てずにいた。

誰もが明日を諦めていた。

どうせ死ぬならば、愛する者と一緒にいたい。生まれたこの街で息絶えたい。冒険者の最期を見届けたい。そんな想いを抱えていた。

 

「…………」

 

そんな状況をただ一人、金時は見つめていた。

このオラリオの行く末、ひいてはこの下界に生きる人と神々の行く末を決める一大決戦が始まるというのに、冒険者達の士気は最悪だと言ってもいいだろう。

歴戦の老将達も、新進気鋭の若人達も、疲れ切っていた。

逃げ出せない現状に。逃げても無駄だという状況に。

それは冒険者に限らず、オラリオに住んでいた一般市民達も同じである。

戦えない自分達の不甲斐なさを。

逃げることしか出来ない情けなさを。

大切な者を喪った悲しみを。

皆、ただ嘆くしか出来なかった。

 

「…………」

 

「もう……終わりだ……」

 

「どうして、どうしてあの人が……!」

 

「死にたくない。死にたくないよ……」

 

生きてしたいことがあった。

店を開き、冒険者達を労いたいと思っていた若者がいた。

子供をこさえ、幸せな日々を夢見ていた夫婦がいた。

冒険者に憧れ、弛まぬ努力を続けていた子供がいた。

下界に生きる人間の笑顔が堪らなく嬉しいと感じる神がいた。

みんな死んだ。

開くはずだった店は破壊され、若者がいた跡など残されておらず、胎児を宿した母親を庇った父親も、その父親が庇った母親も殺され、弛まぬ努力は無駄であったと嘲笑われながら子供は無惨に殺され、始まりの演出のために天界へと神は還された。

みんな、明日を望んでいた。

みんな、今日を生きていたかった。

みんな、昨日を忘れられなかった。

いつか来る平和はいつ訪れるかもわからず、先の見えない道を歩むことに耐えられなくなっていた。

次は自分の番かもしれない。

もしかしたら隣にいる人かもしれない。

父かもしれない。母かもしれない。祖父かもしれない。祖母かもしれない。友かもしれない。仲間かもしれない。同僚かもしれない。恋人かもしれない。子供かもしれない。

次は、誰を犠牲にすれば、平和は訪れる?

そんな負の感情の奔流が金時へと押し寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

思考の海に浸かり、闇に引っ張られそうになっていた金時を呼ぶ声があった。

幼い少女の呼び声。

振り返れば、そこには熊のぬいぐるみを抱えた少女がいた。

銀色のボブカットに活発そうな雰囲気の少女を、金時は知っていた。

この世界に喚ばれた日に助けた少女リアであった。

 

「よぅ、元気にしてたか?」

 

「うん!すごく怖い時もあったけど、でもお兄ちゃんのおかげで頑張って生きてるよ!」

 

「そうか。そいつは良かった」

 

そう言って頭を撫でるとリアは嬉しそうに頬を染めた。

 

「あのね!避難してた場所からね!お兄ちゃんの姿が見えたんだよ!すごく速くて、ビューン!って走るお兄ちゃんはすごくかっこよかったんだよ!」

 

「へぇ、よくオレだってわかったな?」

 

「だってお兄ちゃんは最高にゴールデンだもん!」

 

そう話す少女の笑顔は、この暗い闇に覆われたオラリオの中ではあまりにも輝いて見えた。

己が何の為に戦っていたのか。

その理由を改めて金時は思い出していた。

あぁそうだ。この笑顔だ。この笑顔を守るために、戦っていたのだ。

 

「あ、【アストレア・ファミリア】のお姉ちゃん!」

 

少女の目線の先には金時をこっそり付けていたであろうアリーゼとリューがいた。隠れていたつもりであったのだろうが、少女の眼は見逃さなかった。

 

「あ、アハハハハハ〜」

 

「だから言ったではありませんか、アリーゼ。尾行など止めようと」

 

「でも気になるじゃない!時々なんか紙を置いていく以外は本当にただ街を見て回っていただけみたいだけど」

 

生真面目なリューを無理矢理連れて尾行し、挙句に冒険者ではない少女に見つかるなどアリーゼは良く悪くも冒険者らしくないのかもしれない。

 

「あー、心配かけちまったか?」

 

「そんなことは無いわ!ただ気になっただけなの。本当にそれだけ!ごめんなさいね、邪魔しちゃって」

 

「別に気にしてねぇさ」

 

お互いの気にかかっていたことも解消されアリーゼは金時のそばにいる少女へと視線を移す。

金時にならい視線が合う高さまで膝を下ろして頭を撫でる。

 

「貴女も元気そうで何よりだわ!」

 

「うん!お姉ちゃん達がこの街のために戦ってくれているおかげだよ!」

 

「っ!」

 

「そ、それは……」

 

ふと放たれた感謝の言葉。

大抗争が始まってから浴びてきた罵詈雑言とは違う純粋な感謝。

その言葉をどうすればいいのか、彼女達は迷ってしまった。

こんな自分達が、こんな不甲斐ない自分達が、感謝などされてもいいのか?

あれだけ謳っていた『正義』を見失い、剣を振るう理由すらも見失いかけている自分達が。

 

「素直に受け取っておきな。これが、アンタ達が命を懸けて守ったモンだ。守りきれなかったモンもあっただろうけどよ、間違いなくアンタ達は守ったんだよ。コイツの『明日』をよ」

 

その疑問に対し金時が見透かしたかのように答える。

無力だと嘆き苦しんでいても彼女達は歩みを止めなかった。

偽善と罵られようともその偽善を尽くし続けた。

それでも間に合わなかったこともあるだろう。

助けれなかった命もあるだろう。

しかし、助けることが出来た命もあったのだ。

 

「コイツだけじゃねぇ。アンタ達は今までも守ってきたんだ。だから誇れ。胸を張れ。そして『明日』を目指せ。それが、アンタ達の『正義』の証明になると思うからよ」

 

悩み続け未だに見出せない答え。

金時も、ジャンヌも、『正義』が何なのかということを知っているのだと察しはつく。彼等の中にある明確な答え。

それを見つけるまでに一体どれほど悩み、もがき、苦しんだのだろうか。

答えは違うのかもしない。明確な答えなど存在しないのかもしれない。それでも金時の言葉が、リアの言葉が彼女達の背中を押した。

今進んでいるその道は、間違いではないと。

 

「……ありがとう!おかげで元気百倍!勇気凛々よ!」

 

「お、おう……なんかわかんねぇけどそいつは良かった。でもその言葉は辞めといた方が良い気がするぜ」

 

ニコニコと笑顔となったアリーゼに少し困惑しながらも笑顔になったことに安堵する金時。

リューの方も何か考えに(ふけ)っている様子であるため、今はそっとして置いた方が良さそうだと考える。

 

「他に回る所はあるの?なんかオラリオを一周していたみたいだけど」

 

「いや、まぁ何となく見て回りたかっただけだよ。あとは会えたら良かったんだが、そっちはそっちで何とかなるだろ」

 

「?」

 

「そんじゃ戻ろうぜ。じゃあな嬢ちゃん」

 

「うん!頑張ってね、ゴールデンなお兄ちゃん!」

 

「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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エレボスが用意したのは【災厄】だけではなかった。

それに勘づいたのはフィンだけであり、他の多くの冒険者や市民達はまだ知らない。フィンの指示により迷宮(ダンジョン)へと偵察隊が送られており、あと少しすれば帰還してくる頃だろう。

今はまだ時間がある。

しかし、先に【災厄】を打ち倒さなければこの水面下での作戦も水の泡と化す。

エレボスは確実にオラリオを滅ぼすつもりであった。

このことを知らせれば僅かな士気は最早立ち直れない程に落ちるだろう。

『絶望』なんて生ぬるいとすら感じてしまう。

だから託すしか無かった。

本当はジャンヌ達も取っておきたかった。

しかしそれを敵が許すはずも無かった。

確実に仕留める。

どの選択肢も最善を尽くさなければ勝てないほどにオラリオは追い詰められていた。

 

「悪いね」

 

「構いませんよ。私達は本来ここにはいなかったはずの存在。私達のせいであの【災厄(モンスター)】をこちらへと呼んでしまった」

 

「だが君達のおかげで多くの人が救えた。それは間違いなんかじゃないよ」

 

「ありがとうございます」

 

青年は託した。

今を生きる者達へ光を見せて欲しいと。

俯く顔を上げるために。

折れた膝をもう一度立ち上がらせるために。

誰もが見失った光をもう一度信じるために。

だから少女は応えた。

踏み出す勇気は青年に託した。

少女達が作り出した光へと至る道を歩むための勇気を。

 

「私達が必ず、貴方達へと繋いでみせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聞け、オラリオにいる全ての者達よ!」

 

オラリオ中に響くその声に誰もが耳をかした。

俯きながらも、悲しみに明け暮れながらも、怒りに身を焦がれながらも、その声は自然と耳に届いた。

 

「今、私達は暗く閉ざされた闇の中にいる。終わりが見えず、奮い立つための力は残されていないのかもしれない」

 

事実、誰もが疲れ切っていた。

(ことごと)く希望は潰され、絶え間なく押し寄せる絶望がオラリオを襲った。

 

「築かれた平和は破壊され、大切な者を喪った者も多くいるでしょう」

 

思い出の詰まった家は跡形もなく、帰る場所を失うこともあった。

助けが間に合わなかった者は多く、目の前で喪うこともあった。

 

「そして今、目の前には強大な【災厄】たる悪食が私達を食らいつくさんとしている」

 

山に巻き付き、今か今かと待ち侘びる蟲が更に恐怖を煽る。

 

「秩序は燃え尽きた。多くの意味が消失した。私達の未来は、たった一秒で奪われた!私達の道は既に閉ざされた!」

 

無法と化したこの都市から富も、名声も、安寧も、未来も失い奪われた。進むはずの道も、引くべき退路も、いざという逃げ道すらも失われた。

彼等は、籠の中の鳥である。

 

「ならば我々が道を照らしましょう!」

 

旗を地面に打ち付け、金属がぶつかる甲高い音が響く。

 

「貴方達が生きたいという願いを!夢や希望を語る今日を!何でもない明日を!我々が守り抜きましょう!」

 

それは一筋の光。

一度も見ることの出来なかった陽の光。

 

「顔を上げなさい!空を見上げなさい!貴方達が流した涙も!怒りも!苦しみも!憎しみも!その全てを我々が果たしましょう!」

 

人々は光に釣られ顔を上げた。

その光が差す人物を認識した。

 

「ここに約束を致しましょう。必ずや、我々が『正義』を示し、『災厄』を打ち倒すことを!」

 

不可能を可能にしてしまいそうな程に眩しかった。

 

「我等二騎(ふたり)が、最初の勝者と名乗りを挙げましょう!」

 

その勝利は、まるで約束されたかのように。

 

「見届けなさい!我々の勝利を!」

 

彼等なら、彼女達ならば、あの【災厄】にすら打ち勝てるのかもしれない。

 

「我が真名はジャンヌ・ダルク!主の御名のもとに、貴公らの盾となろう!」

 

死者が生者を導いてはならない。

それはジャンヌが自身を罪人(つみびと)だと理解しているため。

かつての戦争にて旗を先頭で(かざ)し、多くの仲間達を扇動してその手を血で染めたから。自身の手も、仲間の手も、敵の手も。

そうして最期には異端なる魔女として処刑された。

このことを彼女は受け入れている。

自身を一度も聖女などと思うことはせず、罪人であるからこの手で生者を導くなど烏滸(おこ)がましいと彼女は考えている。

しかし肩を貸すことは許される。

共に歩むために。

その背を支えるために。

前へと進もうとする意志を後押しするために。

だからこそ示すのだ。

どんな絶望の中でも。どれほど暗い闇の中でも。

変わらず輝く光が必ずあるのだと。

これが開戦の狼煙。

正義と悪の最終決戦の前哨戦。

燦然と煌めく星々の記録の本来存在し得ない希望を示す戦いの幕が上がる。

 

 

 

 

 

番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)

  • ベル君がオラリオに来るまでのお話
  • 金時、師匠になる(終了後予定)
  • ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
  • 英雄神話組の何気ない日常
  • 花のお兄さん、恋する乙女を応援する
  • 次回執筆予定のちょっと先出し
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