ダンまち×Fateシリーズ   作:英雄に憧れた一般人

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先を照らす光の会合

 

 

 

 

結果から言えば、被害は取り返しのつかない程とまでは至らなかった。

ジャンヌによる、敵の妨害。

アストレア・ファミリアの者達と冒険者や勇気ある協力者による市民の避難により、屋台や家屋は破壊されたものの、死傷者をあまり出さなかった。

被害を可能な限り最小限に留めたと言っても良い。

また、敵の陽動(ようどう)を読み、敵の本隊を潰せたことも被害を留めたことの功績だろう。

そして、それを(おこな)った者達のための会議の場が設けられ、そこに今回の功労者としてジャンヌもアリーゼに連れられて参加するはこびとなったのだ。

アリーゼ自身、ジャンヌへと問いたいことは多々あった。

どこのファミリア所属なのか。

どれくらいのLv(レベル)なのか。

そして、何故()()()()()()()()()()のか。

だがそれを聞く前に、まずは今日起きたことについて、お互いの情報共有が先決であり、その問いは後回しとした。

 

「各【ファミリア】代表、(そろ)ったな。一人例外もいるが、まずは定例の闇派閥(イヴィルス)対策会議を始める──」

 

そう言葉を発したのは、美形のエルフには珍しく、見るからに不摂生な生活をしているのだろうと見て取れるでっぷりと太った体格の男、ギルド長のロイマンである。

ただ、連日やって来る闇派閥(イヴィルス)の件や都市の内外の情勢などによるストレスも不摂生にさせる原因ではあるのだが。

見た目はそんな彼だが、実にエルフらしく傲慢(ごうまん)な物言いで後を続ける。

 

「──その前に、現状の体たらくはなんだ、お前達!連日のように襲撃(しゅうげき)は絶えず、今回ではそこのヒューマンがいなければ危うく大惨事だったではないか!」

 

「さっさと害虫を駆逐(くちく)してえなら、闇派閥(イヴィルス)も追ってダンジョン攻略も進めろなんざ、間抜けな注文を押し付けるんじゃねぇ豚が」

 

ロイマンの文句に口悪く言い返すのは、若い猫人(キャットピープル)の黒髪の男、【フレイヤ・ファミリア】のアレン・フローメル。

主神であるフレイヤを心から敬愛しており、故に過激な言動が目立ち、それがトラブルの元ともなってしまうのだが、その話は今は置いておこう。

彼としてはギルドからダンジョン攻略を頼まれ、その『遠征』から帰れば休む暇もなく闇派閥(イヴィルス)への対応と警戒で都市中を回らされたのだ。

いくら秩序(ちつじょ)のためとはいえ、こんなにも酷使をされれば怒りを覚えない方がおかしいだろう。

隣にいる都市最強の猪人(ボアズ)の男、オッタルは静かに成り行きを見守っているが、ほんの僅かであるが疲れが見える。

それほどまでに『遠征』は過酷であり、その後の巡回も気を緩めれない状況である。

例え最強の男であろうと、一騎当千の英雄であろうと、人であるならば限界があって当然なのだ。

故に彼らに求められるのは迅速な情報共有と速やかな休息である。

それを分かっていない彼らではない。

 

「し、仕方なかろう!男神(ゼウス)女神(ヘラ)が消えた今、都市の内外にオラリオの力を喧伝(けんでん)するのは急務!でなければ、第二、第三の闇派閥(イヴィルス)を生み出しかねん!」

 

自分(てめえ)の趣味の(わり)(いす)が後生大事だと、素直に吐きやがれ。その脂ぎった体で権力にしがみ付きやがって」

 

「アレン、止めよう。話が進まない。率先していがみ合う必要はないはずだ。それに、君たちも早く休息を取りたいはずだよ」

 

二人の会話に口を挟んだのは、見た目は幼いながらもその見た目に似合わない威厳と風格を持つ小人族(パルゥム)の男、【ロキ・ファミリア】団長であるフィン・ディムナである。

ファミリアの(おさ)としても非常に優秀で、あらゆる状況を冷静に観察・把握し、自分の取るべき行動を理解している。

この定例会議でもしばしば仕切り役ともなっているのは、その場の者たちが彼を適任だと理解しているからだ。

それはアレンも理解している。

しかし、それでもなお悪態(あくたい)をつかずにはいられないのだ。

 

「その口で俺の名を呼ぶんじゃねえ、小人族(パルゥム)虫酸(むしず)が走る」

 

「意思の疎通さえできない眷属(けんぞく)の態度、神フレイヤの品性が疑われるな」

 

そう毒を吐くのは、ギルド長であるロイマンと違い、美形のエルフの中でも特に容姿端麗(ようしたんれい)で高貴さ、高尚さを感じさせる緑髪のエルフの女性。

フィンと同じ【ロキ・ファミリア】で副団長を務めるリヴェリア・リヨス・アールヴである。

エルフ特有の傲慢(ごうまん)さは感じさせないが、この状況を快く思っていないのも確かだ。

故に棘のある言葉を告げた。

だが、そんなことに女神の戦車(アレン)(おく)するはずもない。

 

「──殺されてえのか、羽虫」

 

途端に殺気で満ちる会議室。

【ヘルメス・ファミリア】代表として駆り出された副団長のアスフィ・アル・アンドロメダは胃に穴があきそうなストレスを感じていた。

同時に、絶対に主神と団長を殴ると心に決めているが。

存外この頃から彼女のたくましさを感じさせる。

そんなロキとフレイヤ(ライバル同士)(いさか)いを気にも留めていないのが【アストレア・ファミリア】の副団長、ゴジョウノ・輝夜。夜闇のような黒髪が特徴的な極東出身の女性で、その(たたず)まいも美しいが、いつも通りの光景として呆れて止めることなどしない。

同じく呆れているのが、長身と怜悧(れいり)な顔立ちから麗人と呼ぶに相応しい女性、【ガネーシャ・ファミリア】団長であるシャクティ・ヴァルマである。

いつ本格的に動くかわからない闇派閥(イヴィルス)相手に警戒をし続けなければならないこの状況では、時間は一秒でも欲しい。

だからこそ、彼女は一刻も早く情報共有を行い、それを持ち帰り、ファミリアに情報共有などを行いたいのが本音だ。

 

「ロイマンを庇うわけではないが……先の奇襲を食い止められなかったのは儂の責任だ。詫びのしようもないわ」

 

剣呑とした空気の中で口を開いたのは街の巡回、敵の鎮圧を行ったガレス・ラングロックであった。

彼はフィンの指令で爆発物の警戒を【ガネーシャ・ファミリア】の憲兵団と共に行っていた。

そのため、白昼堂々と往来の中心で仕掛けられた凶行への対応が遅れてしまったのが、彼が詫びる理由である。

それを知らされていなかった【アストレア・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の面々は良い気はしないだろう。

現にフィンへと非難の矛先が向けられていた。

フィンの決断は冷静で、現実主義だ。

だから非情な決断を取る事が出来る。

それが罪なき民()を切り捨て、敵の本隊()を取る結果であったとしても。

 

「そこのヒューマンがおらなければもっと被害は拡大しておっただろう。この場で改めて礼を言わせてもらう」

 

「いえ、私は当然のことをしただけです。貴方達が敵を鎮圧してくださったから、市民の避難がスムーズに行えました」

 

「そう!私もお礼が言いたかったの!街の人達を助けてくれて本当にありがとうね!」

 

ここでやっと、今回の功労者であるジャンヌへと視線が向けられた。

敵の襲撃への迅速な判断。

少しの時間とはいえ、Lv.5と渡り合える実力。

彼女を呼んだのもそのことを問いただすためである。そして、いざという時に彼女を確実に仕留めれるように、である。

そのことをジャンヌもこの場に呼ばれた時から察していた。

それゆえ、ここから彼女は言葉を尽くし、目の前にいる彼らの信頼を得なければならない。

かつてのあの時のように。

信頼を勝ち取り、最前線で旗を振るうその役目を全うするために。

 

「僕からも【ファミリア】を代表して礼を。僕の名前はフィン・ディムナ。君の名前を聞いてもいいかな?」

 

「はい。私の名はジャンヌ・ダルク。救いを求める声を聞き、ここオラリオへやって来ました」

 

「救いを求める声?」

 

その言葉に誰もが疑問を浮かべた。

救いを求める声など日常茶飯事で、毎日誰もがその声をあげている。

力を持たない無辜の民から、いつ死ぬかわからない恐怖と闘う冒険者まで。

団長であるフィンやシャクティ達でもその声を心の奥底ではあげている。

それを聞いたという。

あまりにも与太話でしかない。

しかし嘘をついているようには見えない。

本当の目的を隠すための演技にしては綿密に計画が練られており、しかし本音と言うには信じ難い。

それが彼らが判断するに困る要因である。

 

「そうです。助けを求める声を、明日を願う声を私は聞きました。救いを求めるその手を掬い上げるために、私は来たのです」

 

「そんな馬鹿げたこと、信じるわけねえだろうが」

 

「あまりにも都合が良過ぎではないか?」

 

「正直、疑わしいとしか」

 

誰もが疑いの目を向けてくる。

特に疑うのはアレン、輝夜、アスフィである。

他の者達は判断しかねている、といったところ。

こうなることもジャンヌは予想の範疇(はんちゅう)

(はな)からこれで信用などしてくれないと理解していた。

だから次に考えていた行動に移る。

策は、何重にも用意するのが戦いの常なのだから。

 

「ですから、貴方達に試していただきたい」

 

「試す?」

 

「この地の神は、人の心が読めるのでしたよね?その力で私の真意を図っていただきたいのです」

 

彼女にとって、本来神とは主のことを指す。

だが主以外を神と認めない、という程でも無いのだ。

かつて一人の同じくらいの歳をした『彼/彼女』に呼ばれた時には神と呼ばれる存在とも共闘した。

その記録を持つが故に、この世界の神という存在も否定をしない。

 

「なるほど。確かに神は嘘かどうか分かる。しかし君が闇派閥(イヴィルス)かどうかわからない今、それを行うのは危険因子(リスキー)だと、君もわかっているんだろう?」

 

「それを承知の上での交渉です。私はすでに、この身をこのオラリオの平和のために捧げる覚悟は出来ています」

 

これは賭けである。

もっと学があれば言葉を尽くし、より優位に交渉を進めることができただろう。

しかし、ジャンヌは英霊とはいえ元は農民の娘。

言葉を尽くそうにもその言葉を知らないのだ。

ならば示すは覚悟。それしか無いだろう。

 

「私はジャンヌを信じるわ!だって、誰よりも早く闇派閥(イヴィルス)と戦って、誰よりも街の人を助けていたんだから!」

 

まずは一人。

『正義』を重んじるアリーゼにとって、ジャンヌは好ましい人物以外の何者でもなかった。

そして一番近くでジャンヌを観察したのもアリーゼである。

怪我人を助けてまわる献身性、その優先順位を決める判断力、そして何より、僅かでも救える可能性のある者は何が何でも助け出そうとするその信念。

どれもアリーゼにとって理想像ともいえる存在となっていた。

だからこそアリーゼは一番に肯定の意を示した。

 

「団長、それがこっちの情報を得るための自作自演かもしれないのだぞ?それでも信じるって?」

 

「ええ!それにね、彼女をここで信じなきゃ駄目だって言ってるの!私の勘が!」

 

輝夜の経験則からアリーゼにそう言われると信じざるを得ない。

彼女の勘は当たる。

今までの『冒険』だって彼女の勘に助けられた場面はいくつもあった。

我らが団長がそう言うなら、と呆れながらも大人しく賛成する他なかった。

 

「儂も保証しよう。この娘の目、行動には一切の迷いが無かった。信じるに値すると思っておるぞ」

 

そしてこの場でも信頼度の高いガレスからの支持。

フィンもリヴェリアもガレスのことはよく知っている。

なればこそ、より一層ジャンヌの意見を考慮する必要が出てくる。

裏切り(リスク)心強い味方(リターン)か。

最早答えは出ているようなものだった。

 

「……リヴェリア」

 

「わかっている。すでに向かわせている」

 

「ありがとう、話が早くて助かるよ。アリーゼ、悪いが君達の主神を呼んでくれるかい?」

 

「ええ、もちろんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

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「そんで呼ばれたんがうちらってわけか」

 

「あぁ、わざわざすまないね。神アストレアも来てくれて感謝する」

 

「構わないわ。私も会いたかったの」

 

一柱(ひとり)はどこか軽そうなノリの赤い髪に糸目の女性。

もう一柱(ひとり)は清廉を体現したかのような長い栗毛が特徴的な女性。

ジャンヌは目の前の二柱(ふたり)を瞬時に理解した。

あぁ、本物の神が目の前にいる、と。

かつて会った神霊に近い雰囲気ではあるが、やはりこちらの世界の方が信仰心が強いのか、はたまた魔力濃度が濃いためか、かつて見た神霊よりも神だとはっきり認識できた。

 

「うちがロキや。ガレスが世話なったみたいで、ありがとうな!」

 

「私はアストレアよ。よろしくね」

 

ジャンヌはすぐに思考を切り替える。

相手は神。

気軽に話しやすい雰囲気をまとってはいるが、その目、特にロキの閉じられた間から見える目には警戒と品定めをするような獰猛さが見え隠れしていた。

なら相応の対応が求められる。

故にとった行動は、

片膝をつき、手を組んで祈りを捧げる。

例え他宗教・他神話の神であろうとも、敬うことは忘れてはならない。

 

「……へぇ、じぶん、(わきま)えてるやん」

 

「ロキ、いじわるをしないの。ジャンヌも顔を上げて」

 

「ちょっとしたジョークやって〜」

 

ロキもアストレアもその行動の意味を即座に理解し、思わず賞賛の声をこぼす。

一先(ひとま)ず及第点。

神への接し方、それも聖職者のような在り方にちょっとした違和感を感じつつも先に済ませておくべきことを済ませようと考える。

 

「それで、うちらが今から嘘ついてないか見るわけやけど、質問はフィン達に任せるで?」

 

「あぁ、そっちの方が効率的だ。じゃあまずは最初の質問。君は闇派閥(イヴィルス)かい?」

 

「いいえ」

 

即答。

余計な疑念を持たせるわけにはいかないジャンヌは堂々と、言い(よど)みなく答えねばならない。

また長々と話しても、それは言い訳のようにも聞こえてしまう耳障りな文字の羅列にならぬよう、気をつけなければならないのも確かである。

最小、最低限の返答。

それがこの場に求められていること他ならない。

 

「…嘘ちゃうで」

 

「OK。なら次の質問。君がさっき言ったここへ来た理由は本当かい?」

 

「はい」

 

「…嘘はついてないわ」

 

淡々と質問を続けるフィンとそれに答えるジャンヌ、そしてジャンヌの返答の真偽を確かめるロキとアストレア。

この場は彼らの声しかなく、他の者たちは最大限の警戒を敷いている。

重く、先程の殺気に満ちた空間とはまた違う空気感に並の冒険者では秒でダウンする程、この場は緊張感に満ちていた。

それを意に介さず答え続けるジャンヌの胆力にはフィンも思わず舌を巻いてしまう。

これほどの逸材が、いったい今までどこにいたのだろうか、と。

そんな風に考えながら様々な質問をしていると、ふと引っかかってしまった。

 

「なら次の質問。君はどこの所属の【ファミリア】だい?」

 

「私は【ファミリア】には所属しておりません。しかし、我が信仰は(しゅ)へと捧げております」

 

冒険者達は驚きを隠せなかった。

彼ら彼女らは神の恩恵によってその常人とは一線を画す力を発揮出来る。

しかし目の前の少女はファミリアに所属していない。

それは神の恩恵を受けていないということに等しい事実となってしまう。

しかし神々は別の驚きを優先した。否、してしまった。

 

(しゅ)やと?ちょい待ち自分、それ本気で言ってるんか?」

 

「もちろんです、神ロキよ」

 

(しゅ)

それは、例え一族再興を掲げる【勇者】であろうと、100年近く生きたエルフであろうと、都市最強と呼ばれる【猛者】であろうと、知らない単語。

普通に考えれば、フィン達であればロキ、シャクティ達であればガネーシャなど主神を意味する言葉と捉える。

それは人類の話。

神々にはその言葉の意味が違う。

かつて人類が神の力を借りずモンスターたちと戦っていた時代、いや、それよりも前の時代かもしれない。

とある女性に、神の子とされる赤ん坊が生まれた。

誰もが奇跡の存在と(たた)えた。

その赤ん坊はあらゆる奇跡を起こし、あらゆる偉業を成した。

『英雄』ではなく、『神の子』あるいは『救世主』

神が眷族を子供達と呼ぶのとは訳が違う。

天界の神々とは違う存在。

それは神が下界に降り立つまで、人々の信仰の対象として語り継がれていた存在。

神が降り立った後は信仰の対象が変わってしまったため、今ではほとんど聞くことがなくなったが故に今を生きる冒険者は知らない。

しかし、長い時を生きる神であるからこそ知っている言葉。

神の子である彼を指す言葉。

神が降臨するまで人々の心を支えた存在。

それが(しゅ)である。

その信仰者が目の前の少女だという。

信じられない。

しかし嘘をついていない。

それがその場にいた二柱(ふたり)の神にとってあまりにも信じ難いことであった。

その神々の様子を悟ったフィンもまた、何かしらのイレギュラーであることを理解し、とある提案をする。

 

「君のステータスは正直恩恵を受けていないにしては規格外だ。だから、君のステータスを見せてもらいたい」

 

「と、言いますと?」

 

「僕ら神の眷族には恩恵を授かると背中にその情報が記載されるんだ。だから、それをこの場で見せてもらいたい」

 

「待てフィン!彼女にこの場で脱げと!?」

 

フィンの提案にいち早く反応した【ガネーシャ・ファミリア】団長のシャクティ・ヴァルマは勢いよく立ち上がった。

人前、それも初対面の者達ばかりでなおかつ男もいるこの場で、少女に対して服を脱げという提案はあまりにも酷だろう。

それをしなければ疑いを晴らせないのも確かなのであるが、同じ女性として、シャクティは看過できない提案である。

そういった反対意見も見越して、フィンは言葉を続ける。

 

「もちろんだよ、シャクティ。ロイマンには退席してもらうが、その他の冒険者をこの場から少しでも遠ざけるのは正直したくない」

 

「しかし、闇派閥(イヴィルス)ではないと神々が…」

 

闇派閥(イヴィルス)でなくとも、それに関連した組織の存在かもしれない。警戒しておくに越したことはないよ」

 

「それはそうだが……」

 

フィンの言葉は最もだ。

何より、ジャンヌは気付かぬうちに恩恵を神に与えられている可能性もあるのだ。

そうであるならば、彼女が知らないというだけでどこのファミリアにも所属していないということも嘘ではないため、神も見抜けないこととなる。

そういった可能性を一つでも潰すためには手段や恥など選んでられない。

 

「私は構いませんよ。それで少しでも疑いが晴れるといのなら」

 

「なら決まりだ。ロイマン、退室してくれるかい」

 

ジャンヌがフィンの意見に肯定の意を示したことで他の者は口を出せなくなった。

本人が良しとしている以上、他者が何を言ったとしてもそこに意味はなくなってしまう。

 

「俺も興味ねえ。出て行く」

 

そう言うとアレンもすぐさま外へと出た。

だが気配で扉の外にいるのがわかる辺り、ジャンヌを気遣っての行動だろう。

そんなことを本人に言えば、殺されかねないが……。

 

「そうかい。オッタル、君はどうする?」

 

「……ここに残ろう。ただし、この目はフレイヤ様のためのものだ」

 

「感謝するよ。ガレスは?」

 

「儂も目は伏せておく。さすがにそんな趣味は無いからのう」

 

「OK。それじゃあ準備をしよう」

 

ジャンヌは壁を正面にして立ち、構わず上の服を脱ぎ始めた。

他の冒険者、特に女性陣はやはり気になるようで少しでも(はずかし)めないようにと脱いでる間は壁となる。

オッタルとガレスは目を伏せ、しかしいつでも動けるようにただじっと待ち、アレンとロイマンの退室は完了しているため、男でその様子を見ているのはフィンだけであった。

提案者として、ここで目を背けるのもまた無責任。

それは、【勇者】には相応しくない行いだと考えているからこそ、そうせざるを得なかった。

内心はやはり、多少の申し訳なさを感じるほどではあるのだが。

ジャンヌが上の服を脱ぎ終わったのを確認すると、渋々女性陣は壁をやめ、ジャンヌの背中を神々とフィンに見せた。

そこにあったのは、四つの翼とその中心には左右対称の紋様のタトゥーが赤く刻まれていた。

それは誰も知らない。

知るはずがないもの。

全知零能である神ですら知りえないそれは、裁定者(ルーラー)として呼ばれたわけではない彼女を『ジャンヌ・ダルク』として繋ぎ止めるための物であった。

ここに聖杯戦争は無い。

ここで聖杯大戦は起きない。

ここは特異点ですらない。

故に令呪ではなく、これはこの世界における(しゅ)の恩恵を示すもの。

他の神が読むことは許されない。

それがこの場の全員が理解できた唯一の警告(メッセージ)であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ジャンヌは信用できるか否か。

その決定的な判断はできなかった。

あまりにもイレギュラーすぎる存在に、頭を悩ますしかできない現状なのが辛いところであった。

ただ質問を続けたことで、その善性は信頼に値すると誰もが確信を得ていた。

悪意なく悪事を働くこともなく、彼ら『正義』が掲げる秩序に賛同の意を示す。

信用はできないが、信頼はできる。

過去の不確定要素よりも、未来の希望に賭ける。

それが彼らの判決。

ジャンヌは、信頼を勝ち取ることに成功した。

 

「ねえ、一つ良いかしら?」

 

「確か、アリーゼさん、でしたよね?何でしょうか?」

 

服も着終わり、話し合いを再開するまで少しの休息となった時にアリーゼはジャンヌに(たず)ねた。

とても明るく、殺気立った空間でも物怖(ものお)じしない胆力にジャンヌも感心していた。

それに、一番にジャンヌを信頼すると言った彼女に、ジャンヌは誰の信用もなかったこの世界でとても心強かった。

それがどれほど嬉しかったことか。

そんな彼女からの質問を拒む意味などなかった。

 

「ジャンヌって好きな食べ物は何かしら!」

 

「………えっと、これと言って好き嫌いは」

 

突拍子(とっぴょうし)の無い質問に、思わず困惑し普通に答えてしまうジャンヌ。

アリーゼはそんなジャンヌにお構いなしといった様子で話を進める。

 

「そっか!なら食欲には自信あるかしら?いっぱい作ろうと思ってるの!」

 

「…え?……ん?」

 

「団長、ジャンヌが困ってる。はぁ…、私の名前はゴジョウノ・輝夜。ここにいる者達と話し合って、お前の身柄は【アストレア・ファミリア】が預かることになった」

 

困惑し続けるジャンヌに助け舟を出したのは副団長の輝夜。

アリーゼの突拍子の無さや自由さに呆れながらも、明らかに足りていない説明を補足する。

疑いなどよりも哀れみと同情が勝ってしまった辺り、彼女も『正義』の眷族(ファミリア)に所属するだけのことがあるようだ。

彼女はきっと「違う」と否定するだろうが。

 

「そういうことだったのですね…。改めまして、私の名はジャンヌ・ダルク。精一杯、お力添えをさせていただきます」

 

「そうかしこまらないで。この会議が終わり次第、貴方の歓迎会をしようと思ってるの。だからアリーゼも楽しみにしてるのよ♪」

 

「そういうアストレア様もすごく楽しそうよ!やっぱり、私は神様すら楽しませることのできる天才なのね!」

 

「はぁ……もうツッコまんからな……」

 

いつものやり取りなのだろうか。

その場の彼女達は、誰よりも楽しそうに会話に花を咲かせていた。

調子づく団長(アリーゼ)も、呆れてる副団長(輝夜)も、微笑ましく見守る主神(アストレア)も。

そして、そんな彼女らに迎え入れられる英霊(ジャンヌ)もまた、今は聖女としてではなく、一人の少女として会話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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休憩後に話し合いは再開し、シャクティ達が制圧した『悪人共の違法市(ダーク・マーケット)』についての情報共有に始まり、様々な伝達事項が伝えられた。

そしてオッタル達が見付けた壁を破壊した者について、シャクティ達が遭遇した素性不明の魔導士・魔法剣士についての情報共有が行われ、敵の主な戦力をお互いが把握し合う。

【顔無し】

殺帝(アラクニア)

白髪鬼(ヴェンデッタ)

謎の破壊者と魔導士。

その他にも様々な脅威を改めて把握したところで、フィンは『本題』へと移る。

それは、【ヘルメス・ファミリア】による闇派閥(イヴィルス)の新たな拠点の発見。

本拠地と(もく)される三つの拠点の同時突撃。

それが今回の『本題』であった。

部隊は一つは【ロキ・ファミリア】

一つは【フレイヤ・ファミリア】

最後の一つを【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の合同部隊。

他ファミリアにもギルドから協力を要請し、【ヘルメス・ファミリア】は都市全体の警戒が任せられた。

作戦開始は三日後。

そこで戦局を決定付ける。

その作戦にジャンヌは【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の合同部隊と共に行動することとなった。

これで全ての通達は終わった。

否、終わるはずだった。

 

「──ッ!」

 

ジャンヌ(イレギュラー)の存在を敵も知っていた。

先程のことがあり、多少の警戒もしていた。

だが、それが末端の構成員にまで伝わるほど時間はなかった。

故に気付かれてしまった。

敵は気付かれたことすら気付かず、その場を去ってしまった。

 

「どうしたの、ジャンヌ?」

 

「フィン、作戦日時を変更しましょう」

 

「どうしてだい?」

 

「敵に聞かれました」

 

「「「「「「ッ!」」」」」」

 

誰も気付かなかった。

その中でジャンヌのみが気付いた。

そのことにその場を去ろうとしていた面々も立ち止まる。

 

「………それは本当かい?」

 

「はい。貴方の解散のかけ声と同時に、音を殺して去っていく気配を感じました」

 

「気のせいでは?」

 

思わずアスフィはそう疑ってしまう。

音を殺して去っていく者の気配を感じるなど、そんな芸当ができるわけがないと思ってしまうのは仕方のないことである。

特に【万能者(ペルセウス)】と呼ばれるアスフィは様々な魔道具(マジックアイテム)を作成できる彼女にとって、音を殺す靴も気配を探知できるイヤリングも作ろうと思えば作れる。

それは生身の人間ではできたとしてもかなり難しいことだからだ。

魔道具(マジックアイテム)はそんな風に自分にできないことを補うために作る。

それを何もなしでできるなんてと疑ってしまうのも無理ない話なのだ。

 

「いえ、気のせいではありません。フィン、このままだと敵は万全の状態で迎え撃ってきます」

 

「しかしジャンヌ。貴殿のそれが仮に本当だとして、戦力や武器を整えるのに日を縮めてはこちらも万全とは言えんぞ」

 

ジャンヌの言う通り、今のままでは敵は万全の準備をした上で冒険者を迎え撃つだろう。

しかしリヴェリアの言うことにも一理ある。

今の状態で奇襲をかけたとして、装備は手入れが完璧ではないためいつ壊れるかもわからない。

一瞬の隙が命取りになると戦場で戦う者達は知っている。

だからこそ、敵に作戦を知られていようとこちらは完璧な準備をして臨まねばならない。

 

「ではこのまま敵の思惑通りに事を運びますか?そうなると、こちらが圧倒的に消耗させられます」

 

「いつ武器が壊れ、アイテムが尽きるかわからない状況で戦いに挑めという方が無茶だ。その隙を敵が見逃すはずないぞ」

 

「しかし!」

 

「二人とも、まずは落ち着け。フィン、どうするんじゃ?」

 

何とかガレスが二人を(なだ)め、作戦の指揮官であるフィンの言葉に耳を傾ける。

二人の意見も正しい。

その正しさを理解した上で作戦を考慮しなければならない。

ジャンヌの言う日時の変更による敵への奇襲。

リヴェリアの言う武器やアイテム等の戦力の補充。

その他にも考慮すべきことを考え尽くした上で下す決断は───

 

「……作戦日時に変更はない」

 

「フィン!」

 

「だが、こちらも無策で戦う訳にはいかない。リヴェリア、輝夜、アスフィ、敵が仕掛けてくる時間と場所、人数を知っているなら、君達はどうする?」

 

「何?───私なら仕掛けてくる場所に戦力を集め迎え撃つ」

 

リヴェリアは突然の問いに疑問を感じたが、すぐさまフィンの考えていることを察し、すぐさま作戦を考える。

そうして他の名前を呼ばれた者達も質問の意図を汲み取り、自分なりに考え、意見を述べていく。

 

「私も賛成だ。だがこちらの戦力も無闇と使いたくはない。私なら罠を仕掛ける」

 

「例えばどんな罠だい?」

 

「それは色々とあるが、手っ取り早いのは爆はt……」

 

輝夜も言いかけて気付いた。

敵が大量に抱えている爆発物。

冒険者が来るとわかって待ち伏せしているというのなら、それを使用しない手は無い。

 

「なるほどね。確かにそれなら今回使用しなかった爆発物を使えるわね!今回無かったってことは、かなりの量をまだ残しているでしょうから」

 

「敵も馬鹿じゃねえ。待ち伏せした所だけを狙うってのも考えにくい」

 

アリーゼも輝夜の発言から冷静に考え、今回使用してこなかった大量の爆弾の使い道を考え出すことができてしまった。

アリーゼの意見に賛同するようにアレンも敵の作戦について自身の意見を述べる。

冒険者を一気に殲滅(せんめつ)させるには、固まっていることが望ましいが、そうではない。

都市全体に冒険者が警戒網を敷いている。

 

「となると、アスフィ。爆発物が仕掛けられるかもしれない。街の人達を少しずつでも良い、中央広場(セントラルパーク)に集めてくれ」

 

「爆発物の回収ではなく?」

 

「爆発物は何がきっかけで爆発するかわからない。だから避難を優先させた方が人の被害が減る」

 

「なるほど、わかりました」

 

物的被害よりも人的被害。

物は、例え失ってもまた作り直せる。

しかしそれは人がいてこそである。

人がいなければ、物は直せず、街を立て直すということも無理となる。

人が残れば、また人は歩き出すことができる。

例えどれほど立ち止まることがあっても、座り込んでしまっても、上を向き、前へと歩むことができる。

一人で駄目なら二人で。

二人で駄目なら三人で。

そうして人は人と繋がりを増やすことができる。

それが人の強さである。

なればこそ、一人でも多く救うことが明日へと繋げる希望となる。

 

「ありがとう。敵はおそらくこちらの予想を超えた手を打とうとしているだろう。だが、それもジャンヌという招かれざる者(イレギュラー)によってこちらも警戒すべきことを見直せた。敵に作戦を知られたと気付かれぬよう、細心の注意を払ってくれ」

 

「任せて」

 

「了解しました」

 

「それでは、二度目となるが、解散」

 

行く末は変えられた。

喪われるはずの多くの命はこの日、明日へと繋がる希望へと成った。

そのことを、まだ誰も知らない。

例えそれが、全知零能たる神々であっても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)

  • ベル君がオラリオに来るまでのお話
  • 金時、師匠になる(終了後予定)
  • ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
  • 英雄神話組の何気ない日常
  • 花のお兄さん、恋する乙女を応援する
  • 次回執筆予定のちょっと先出し
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