ダンまち×Fateシリーズ   作:英雄に憧れた一般人

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投稿が遅くなり、大変申し訳ございません。
お休みも長く頂きましたので、また更新を続けていきます。
不定期にですが、19時投稿とさせていただきます。
またアンケートにお答え頂き、ありがとうございました。
そちらのお話も書かせて頂きたいと思います。


英霊と悪食、光願う前奏曲

 

 

 

 

 

悪しき神との約束の時が満ちたことを【悪食】は悟った。

あまりにも長い胴体をゆっくりと動かし、目の前にある多くの餌がいる箱庭へと身体を動かす。

ある男に殺されそうになり、逃げ出したこの世界、それはこの【悪食】にとって幸運であった。

あの男のような強者はこの世界にはいない。

そう感じられたからこそ、悪神に会うまで暴食の限りを尽くしていた。

そして元の世界では味わえなかった甘露なる餌がこの世界には山ほどいることもこの【悪食】の暴食を加速させていた。

悪神に案内された目の前の箱庭からは更なる甘露の匂いが充満しており、【悪食】は最早待てなかった。

悪神との約束がなければすぐにでも食い尽くしていた箱庭の餌たちは、待てば待つほど食欲をそそらせていた。

ようやくその時が来たと歓喜するように、【悪食】はその牙を鳴らす。

滴り落ちる毒は地面を溶かし、無数の脚で地面を何度も叩きつける。

巻き付いていた山を砕き、準備は整った。

【悪食】は今、正義も悪も喰らおうとする【災厄】へと姿を変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ほれ、頼まれておった物じゃ」

 

「おう、サンキューな!」

 

褐色の肌に長身の体躯、豊満な身体付きの単眼の女性から金時は武器を受け取る。

紅く染まった深紅の弓。

それはかつて読み聞かされた英雄が持っていた弓を模した物。

実物の弓と比べればいくらか質が落ちるだろうが、それでもここまで近付けたのは目の前の女性の腕の高さを感じさせられる。

間違いなく、目の前の彼女は現時点での最上級の仕事をしただろう。

 

「その弓、少々特別製じゃからのう。矢を放てるのは三度までじゃ」

 

「あぁ、充分だ」

 

「いいか、絶対に壊すでないぞ?この戦いが終わった後に色々と調べなきゃならんし、何より貴重な物じゃからな!?」

 

「分かってるよ。だけど、不可抗力っつーもんがあるじゃん?」

 

「不可抗力だろうと壊すな!普通に扱えばまず壊れぬが、お主の場合は話が別じゃからのう!?」

 

何度も注意を受けた金時は目の前の女性に気圧されながらも渋々了承する。

元々三度までしか撃てないのだから、三度目を撃ってしまえば壊れてしまうのだろうが、それでもなるべく丁寧に扱うように気を付けよう。

そう決心しながら弓を担ぐ。

 

「ついでにじゃが、ほれ、お主の斧も診ておいたぞ」

 

「おっ、そいつはありがてぇ」

 

「よく分からん機構だらけで本当にお主というやつは……。また落ち着けば詳しく聞かせろ」

 

「あぁ、ちゃんと全て片付けた後にゃあ、コイツのクールでゴールデンな所を聞かせてやるぜ」

 

「……よく分からんが、まぁ楽しみにしておるぞ」

 

目の前の女性は金時の勝利を確信している訳では無い。

出会ってまだ数日であり、信頼など置けるはずもなく、ただ強いということしか知らない。

それでも金時が見せる笑顔を見ていると、自然と『大丈夫』という気がして来るのだ。

根拠もなく、ただただ大丈夫なのだろうという不確かな自信だけが彼女の中にはあった。

 

「儂んとこの主神かもう一人の鍛治神が本来なら作るべきじゃったろうが、まぁ許せ」

 

「仕方ねぇさ。神サンからしたらオレの姿がどんな風に見えてるだとか分かってるからよ」

 

金時はフィンに『強い弓を作って欲しい』と依頼した。

ただ強い弓ではなく、特別な力を有した弓である。

それを叶えるにはオラリオにおる二柱の鍛冶神に頼むしかなかったのだが、二柱はそれを断った。

理由は、未だに金時を信じきれていないからである。

ここにきて信頼だとかという話になってくるのかと思うかもしれないが、鍛冶師にとってそれは重要な話となってくる。

信頼が薄く、よく知らない相手を想って武器を打っても良い物が出来上がる筈がない。

少し未来の話になるが、ヘファイストスがとある神友に頼まれてその眷族に武器を打てたのも、ゴブニュがフィンの武器を打てたのも、そこにあったのは相手への信頼があったからだ。

相手のことを知り、相手のことを思いやることでその武器へと想いが込められていく。

それが金時相手には無理なのだ。

頭では理解している。打たねばならない状況だと。

しかし、神々から見た金時は、どうしようもなく怪物(モンスター)なのだ。

エレボスやアストレアが例外であり、他の神々は金時を信頼出来ていない。

眷族を助けてくれたことを知っている。

無辜の民を助けたことを知っている。

闇派閥(イヴィルス)を倒していることも知っている。

それでも、信頼することを、神々の心が拒絶していた。

生理的嫌悪、とでも言うのかもしれない。

それほどまでに神々は金時へとそんな感情を向けてしまっている。

だからこそフィンはオラリオの中で最も優秀な鍛冶師へと依頼した。

そうして彼女は了承し、オラリオの鍛冶神二柱が合格を出せる弓を打った。

彼女は金時を信用したフィンを信用し、この先の戦いの勝利への想いを込めれたから。

だからこそ、金時へと打った弓は金時のための弓となった。

そこには多くの人々の想いも共に込められている。

戦えない誰かの為に戦う、漢の為の弓である。

 

「勝ってこい」

 

「任せとけ」

 

弓を担ぎ、金時は戦場へと向かう。

しかしその前に尋ねておくことがあった。

 

「そういや、アンタの名前を聞いてなかった」

 

「ん?儂か?ならきちんと覚えておれ」

 

単眼の女性はニヤリと笑いながら名を告げる。

必ず帰って来いという想いを込めて。

 

「儂の名は椿・コルブランド。オラリオで一番の鍛冶師じゃ」

 

「なるほど、覚えたぜ。オレの名は坂田金時。アンタの想いも、この街のヤツらの想いも、全部受け取ったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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城門前。

そこには白のローブと黒のローブそれぞれを着た闇派閥(イヴィルス)がおり、その中心にエレボスがいた。

そしてその者達の元に二つの足音が近付いて来る。

一つは純白の少女。

オラリオ中に声を響かせ、人々に失われたはずの光を照らした聖女。

一つは黄金の青年。

ありとあらゆる敵を即座に倒し、敵が最も危険視する武者。

その二騎の登場に闇派閥(イヴィルス)の面々は身体を強ばらせる。

他のどの冒険者達とも違う。

『勇者』とも『九魔姫』とも『猛者』とも『暴食』とも『静寂』とも違う威圧感。

気を抜けば光に引き込まれてしまいそうな程に眩しく、思わず後ずさりせざるを得なかった。

ただエレボスだけが、二騎と正面から対峙する。

 

「まずは御足労感謝するよ。一応聞いておこうか。どうするのかな?」

 

「決まってます。我々が【悪食】を打ち倒します」

 

「【災厄】ではなく、【悪食】を?」

 

【災厄】と呼ばれていた存在を【悪食】と呼ぶことにエレボスは疑問符を浮かべた。

黒竜には至らずとも、確実に人類の滅びを早めるあの大百足を【悪食】と呼ぶことは、それだけで大きな意味を持つ。

 

「えぇ。あれだけは、我々の手で倒さなければならない。そしてアレは【災厄】と呼ばれるほどの存在ではありません」

 

「アレは自然現象でも何でもねぇ。ただ逃げて来た臆病者だ。だからオレ達で充分なのさ」

 

そこには恐れは無い。

負ける気も無い。

強く、逞しく、そして何より希望に満ちたその眼差しに、エレボスはたまらなくなった。

これだ。これこそなんだ。

対峙した時以上の感動が、エレボスへと襲いかかっていた。

彼等ならきっと大丈夫。

この暗き闇の中でさえ変わらず輝き続ける『英雄』の光ならきっと、悪に堕ちた『英雄』達も、正義を掲げる『英雄』候補達も照らす光となってくれる。

その輝きを見てどう感じたのか、愛しい彼女に聞いてみたくなった。

これからのことが楽しみに満ちていることが、たまらなく嬉しかった。

 

「では精々足掻いてくれ、『英雄』達よ。その灯火が消されることの無いように、な」

 

門が開かれ、風が英霊の頬を撫でる。

風と共に鼻につくのは芳醇な死の香り。

一体どれほどの人を喰らったのだろうか。

一体どれほどの営みを喪わせたのだろうか。

一体どれほどの幸せを奪ったのだろうか。

英霊達も言わば奪ってきた側だ。

しかしそれは多くの願いと共にあった。

目の前の敵にはそれが無い。

ただ己の欲を満たそうとするだけの愚かさしか持ち合わせていない。

誰かの幸せも、誰かの願いも、誰かの祈りも嘲る敵に湧くのは純粋な怒り。

英霊達は、奪われた者達の想いと、今を生きる者達の願いを背負い、戦場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ジャンヌと金時が外に出た瞬間、門は勢いよく閉められた。

逃げ道はなくなった。

これが、戦の合図である。

 

「ではバーサーカー、作戦通りに」

 

「応よ!」

 

まずは金時が駆ける

雷を纏いながら目にも止まらぬ速さで大百足の背後を取り、その勢いのまま直ぐに頭上へと斧を叩きつける。

父と母譲りの怪力と雷による一撃は紛うことなく一撃必殺の威力であり、現在確認されている迷宮の孤王(モンスターレックス)ですら耐えるのは至難であろう。

様子見の一撃ではなく、最初から全力の一撃。

それを喰らった大百足は、何事もないように金時を振り払う。

 

「チッ、硬ぇとは思ってたが、硬すぎるだろ!」

 

「指輪を着けても駄目とは、厄介ですね」

 

金時とジャンヌは現在、医神作成の対魔物用特攻礼装である指輪を装着している。

その効果は簡単に言えばLvを一つ上げたステータスを装着者に付与させることができる。

Lv.1の冒険者であれば、『新米殺し』と呼ばれるウォー・シャドウやキラーアントすら余裕で倒すことができ、それこそオッタルに装着させたならばバロールを倒すことすら可能にさせてしまう破格の道具(アイテム)である。

それをより強者である金時が装着した上での一撃を、大百足は何事も無いように受けている。

それが如何に力の差を表しているか、わからない二騎では無い。

 

「甲殻の硬さは理解しました。ならば柔らかい部分を狙うだけですね」

 

「そうさな。援護は頼んだぜ」

 

「お任せを!」

 

すぐさま別の作戦へと移り、二騎は別々に散らばる。

大百足は尚も余裕そうに事を見ていた。

何があろうとも大したことにはならないだろうと高を括っているのだ。

その油断こそが英霊達にとって好機でもある。

 

「照らし出しなさい!」

 

ジャンヌが大百足の足元へ複数の光弾を放つ。

そしてその上の大百足を感知すると光弾は光の柱となり、大百足を下から打ち上げた。

 

「おらぁぁぁぁ!」

 

そこへ金時が斧に雷を纏わせ先程より強力な一撃を大百足の甲殻の反対、無数の脚が生えた胴体へと撃つ。

甲殻で覆われた背中とは違い、多少は硬くともその硬さは甲殻にはかなり劣る。

ならば必然的にその一撃は大百足へ大きな負傷(ダメージ)へと至る。

 

「キシャァァァァァァァァァ!!!」

 

悲鳴のような鳴き声が戦場へと響き渡る。

思った通り、甲殻より柔い胴体への一撃は大百足にとっても受けたことの無い衝撃だったのだろう。

数刻の間のたうち回り、それに巻き込まれない様に金時とジャンヌは少し離れる。

大百足が暴れるごとに地鳴りが起き、木々は倒され、地面は抉られる。

 

「やっぱ裏側は柔けぇ。このまま殴り続ければ弱らせられる」

 

「ですがアレも対策をしてくるでしょう」

 

大百足は一頻(ひとしき)り暴れた後、改めて二騎をその目に映した。

それは餌だと思っていた存在。

矮小で脆弱で簡単に噛み殺せるただの餌。

そう思っていたのに、思わぬ攻撃に大百足は怒りが湧いた。

この怒りは元の世界から逃げ出す要因となったあの武士へのものと重なる。

たった二本の矢で死ぬ直前まで追い詰められ、ギリギリで逃げ出すことが出来たが、それはあまりにも屈辱だった。

そうして今、また同じように屈辱を受けた。

侮っていた相手からの手痛い反撃。

それは大百足を本気で怒らせる要因となった。

この世界の同一個体を喰らい、この世界に適応した大百足にとって初めての脅威であると、認識したのだ。

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

先程よりも大きな鳴き声で金時達へと迫る。

その速度は尋常ではなく、判断が少し遅れれば致命傷を負いかね無かった。

 

「コイツ、速ぇ!」

 

「顎の牙に注意しましょう!その毒は例え英霊の身であろうとも容易く溶かすはずです!」

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「くっ!」

 

大百足はまずジャンヌへと狙いを定めた。

ジャンヌの攻撃が起点となったのを理解していたからこそ、その判断は早かった。

ジャンヌへ向けて突撃し、今にも喰らおうとしている。

それをジャンヌは旗を器用に使い何とか耐えているが、突撃された衝撃で足に力を込めても後ろへ後ろへと押し込まれていく。

旗でジャンヌを食べれないと感じた大百足は次に毒牙とは違う顎でジャンヌを捕らえようとする。

 

「オレを、忘れてんじゃねぇ!!!」

 

が、そこを金時が割り込む。

斧による一撃で顎を片方粉砕し、更に顔面へと一撃を打ち込む。

大百足はそれにたまらず怯み、仰け反ってしまう。

 

「助かりました!」

 

「まだだ!来んぞ!」

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

大百足は仰け反った反動を活かしてもう一度ジャンヌへと突撃をする。

次は旗で受け止められないように顎を広げて襲いかかる。

それをジャンヌは横へと転がることで回避し凌ぐ。

ジャンヌが居たであろう場所は地面から飲み込まれ、そこにいれば一溜りも無かったことだろう。

 

「くっ!単純な突撃ばかりですが、何度も続けられれば厄介です!」

 

「それにさっきよりも明らかに動きが良くなってやがる!もう少し痛手を負わせたかった所だが、仕方ねぇか」

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

まともに話す時間すら与えようとせず、更に攻撃の手を緩めない。

何度もジャンヌへと一貫して襲いかかり、その度にジャンヌは回避か金時に助けてもらっている。

明らかに脅威度を金時より上だと認識されていることに、歯噛みをしてしまう。

しかも大百足は段々と攻撃の速度が速くなっており、その分威力も増してきていた。

数百年以上本気を出してこなかった大百足は、ようやくその身体を本気で動かし始めたのだ。

とある男から受けた傷は癒え、痕が僅かに残っているだけである。

その傷も甲殻に覆われ、最早致命傷とはならない。

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「チッ!」

 

ふとした一撃が金時を襲った。

だがその一撃はあまりにも重く、簡単に金時を吹き飛ばした。

軽かった。本当にたまたま当たった一撃だったのだ。

そんな一撃に金時は危機感を覚えた。

 

(おかしい!明らかにさっきより断然こっちの方が重てぇ!!千年以上生きてたからってこんなに力が急に上がるはずが……!)

 

最初は油断してたから、と考えられるがそれにしてもなのだ。

何かしらの作用が大百足に影響を及ぼしているのか、はたまた元からそのような効果を有していたのか。

それを今の金時では答えに導くことが出来なかった。

故に、警戒レベルを上げて一撃一撃を致命傷とならないように凌ぐべきだと考える。

 

「聖女サマ!明らかにコイツ強くなってやがる!」

 

「えぇ!これは異常です!他のモンスターやエネミーでも、こんなことは……くっ!」

 

話すのを許さないと言うように大百足は攻撃を仕掛ける。

毒牙で襲い、強靭な顎で挟もうとし、脚で踏みつけようとする。

その攻撃に段々と押され始めてしまう。

 

(まるで、我々のような対英霊用の何かを受けているような!……まさか、かの神がこの怪物に何かした?それならば、この怪物の認識を改めなければ!)

 

歴戦の英霊ですら、最早防戦一方となるしかない状況であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ジャンヌ!」

 

ジャンヌと金時の二騎と大百足との戦闘は戦争遊戯(ウォーゲーム)で用いられるような水晶玉を通してオラリオ中に中継されていた。

それはもちろんジャンヌや金時と親しい者達にも見せられており、その者達からすれば気が気で無かった。

最初は上々と言えた。

金時の一撃を与え、このままいけると思えた。

しかしそれ以降大百足の勢いが増していき、今では防戦一方となってしまっている。

そのことが皆歯痒くて仕方なかった。

 

「フィン!やっぱりアタシ等も加勢に行くべきだ!」

 

「そうよ!皆で挑めばきっと!」

 

「それは許可できない。僕達が今行ってしまえば後に控えている最終決戦の勝率は著しく下がる」

 

「それもオラリオがあればの話だろ!今あのクソ蟲をやらなきゃそんな話無意味だ!」

 

「ライラ落ち着け」

 

「これが落ち着いてられるかよ!」

 

ライラやアリーゼの気持ちは痛い程フィンや輝夜も分かっている。

今すぐにでも加勢に行き、確実に大百足を倒すべきだろう。

しかし、フィンも輝夜も約束をした。

僅か数日だけの関係でありながらも、信じるに値すると感じた彼等との約束をフィン達は信じていた。

だから今は控える最終決戦の為に戦力は温存しておかなければならない。

 

「はっ……自業自得だろ」

 

「あぁ!?」

 

そんな中で冒険者側の士気は最悪と言って良かった。

 

「アイツ等のせいでこんなことなってんだろ?ならアイツ等があんな目に合ってても当然だろ」

 

「テメェ、アイツ等のあの姿見てよくそんなこと言えるな!」

 

ライラは激怒する。

何も知らない、何も分かってない、無恥厚顔な目の前の冒険者は現実から目を逸らし、ただやり場のない怒りを誰もが恐怖した怪物と戦う英霊に向けていることに。

 

「元はと言えばアイツ等のせいだろ!?俺達は巻き込まれただけじゃねぇか!」

 

闇派閥(イヴィルス)自体は前からいただろうが!そんなこと言うなら【黒竜】に負けた男神(ゼウス)女神(ヘラ)に文句を言いやがれ!」

 

「そ、それは!だけどあんな化け物は少なくともアイツ等のせいで!」

 

「そこまでだ、お前達」

 

そこで諌めたのはジャンヌ達の戦いを静観していたリヴェリアであった。

 

「止めるな【九魔姫(ナインヘル)】!コイツはいっぺんぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!」

 

「その気持ちは今はまだ溜めておけ。最終決戦は必ず起きる。その時にその怒りをぶつけろ」

 

頭に血が上っているライラを何とか落ち着かせる。

ライラは目の前の冒険者に対し人睨み聞かせた後、少し離れた場所へと座る。

 

「ちっ!」

 

「貴様もだ。ここに残ると覚悟したのだろう?ならことの成り行きは黙って見届けろ」

 

「っ!……わかったよ」

 

冒険者もリヴェリアの凄みに観念し、バツが悪そうにその場を後にした。

遠ざかる冒険者と入れ替わるようにアリーゼがリヴェリアへと近付く。

 

「ありがとう、【九魔姫(ナインヘル)】」

 

「礼は構わん。正直、私はあの者達と関わりが少ない。だからフィンやお前達ほど信頼も思うところも無いだけだ」

 

「それでも嬉しかったわ」

 

「そうか。私としては勝ってもらわねば困るからな」

 

アリーゼとしても落ち着く要因となった。

今すぐにでも助けに行きたいという気持ちはライラ以上にあり、その衝動は抑え切れるものでは無かった。

そういう意味ではリヴェリアの凛とした声はその場を落ち着かせた。

様々な思いがありつつも、あの場では正しい選択だっただろう。

その意図も理解したリヴェリアは少し素っ気ないような返事をしてしまう。

 

「おい!アレ!」

 

そうして落ち着いたのもほんの僅か。

見ていたライラの声と共に水晶を見れば、そこに映るのは、腹部を刺され血に染る友の姿であった。

そして悪いことは続けざまに起きる。

 

「だ、団長っ!闇派閥(イヴィルス)が出たっす!【暴喰】と【静寂】も一緒っす!!」

 

「っ!ここで休ませてはくれないか。すぐに向かわせる!リヴェリアとガレスを先頭にそれぞれ向かってくれ」

 

「わかった」

 

「任せろ」

 

「なら私達も!」

 

「いや、君達【アストレア・ファミリア】は待機だ。その代わり他の者達を同行させる」

 

ここでただ休ませてくれないあたり、さすが悪神といった所だろうか。抜け目のない策をいくつも用意しているエレボスに舌を巻かされる。

しかしただやられる訳でもない。フィンは迅速に対応を考え、新たな計画を立てていく。

己の成すべきことをするために、今は他のことなど考えている暇はない。

ふと目を向けた水晶に、全身から血を流す金時の姿があろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おらぁっ!!」

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

気を抜いた訳では無かった。

ジャンヌも金時もこれまで以上に警戒をしていた。

それでもなお、その警戒を掻い潜り【悪食】の攻撃は英霊の防御を突破し、ジャンヌの腹部に穴を空けた。

血と共に出る魔力を感じながら、旗を支えにジャンヌは立つ。

金時がどうにか踏ん張ってはいるが、それも時間の問題であろう。

全身から血を流す金時、腹部に穴が空いたジャンヌ。

そして未だほぼ無傷な大百足。

戦局は最悪と言っても良いだろう。

そんな状況であろうと、彼等の目に敗北も諦めも映し出されてはいなかった。

 

「聖女サマ!動けそうか!?」

 

「ええ。急所が外れていたのが幸いでした。バーサーカー、貴方は!」

 

「オレも問題ねぇ!この程度なら山にいた時からよくできた傷だ!」

 

お互い無理をしているとは感じている。

しかしそれでも彼等は立ち続ける。

この戦いを見ている仲間のため、悪のため、守るべき民のため。

この戦いに敗北が許されないことを、彼等が一番理解していた。

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

攻め時と捉えた大百足は攻撃の手を緩めるどころか更に加速させていく。

それはジャンヌと金時をより追い詰めるということ他ならない。

 

「ぐっ……おぉぉぉぉぉ!!」

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

金時の必死の抵抗を嘲笑うように、大百足は何度も何度も執拗に甚振(いたぶ)る。

無邪気な子供が遊ぶ玩具のように。

トドメを刺せばいいものを、大百足はまだ刺さない。

そう、ただ食べることだけに重きを置いていた蟲は、抵抗する者を弄ぶということを覚えた。

抵抗など無意味で、しかしそうやってどうにかしようとするその努力が、あまりにも滑稽に見えたから。

大百足は今、この状況を楽しんでいるのだ。

自分は絶対的な強者であると改めて認識したが故に。

 

「聖女サマ!動けそうか!」

 

「えぇ、ご迷惑をおかけしました。いけます!」

 

ジャンヌの腹部に開いていた穴は何とか塞がり、もう一度戦線に復帰をする。

それさえも大百足は喜び、顎をカチカチと鳴らす。

その顔は下卑た笑みを浮かべているようにも見え、心底人を不快にさせる。

その余裕が恨めしく、しかし決定打に欠けている彼等はそれを受け入れるしか無かった。

 

「キシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「うるせぇ!人を見下しやがって!テメェこそたった一人の人間に尻尾巻いて逃げてこっちに来たくせによ!」

 

「キシャ…………」

 

先程まで高らかに鳴いていた声が止んだ。

それは金時の言葉の意味を理解していたからだ。

余裕を見せていた。

圧倒的優位だと嗤っていた。

しかし金時は、見事に大百足の()()()()()()()()

大百足にとって一番の屈辱。

思い出したくも無い過去。

それは何百年経とうと忘れることの無い唯一の汚点。

そのことを目の前の青年に思い出させられた。

あぁ、許し難い。

 

「ギシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

攻撃の速度が更に上がる。

先程までとは比べ物にならない速度で大百足は金時を攻め立てる。

ジャンヌのことは最早眼中に無く、その眼には金時しか映し出されていない。

 

「こっちに来やがれ、臆病(チキン)野郎が!!」

 

「ギシャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

金時は更に煽り、完全に大百足を引き付ける。

それこそが金時の狙い。

金時は難しいことはわからない。

名探偵や軍師のような策は立てれない。

王や将軍のような指揮は出来ない。

しかし戦士としては優れている。

盾としても、矛としても、金時は壊れることは無い。

だからこそ、時間を稼ぐことを考えた。

この場には自分より優れた聖女がいる。

彼女ならば自分では気付かない何かに気付くことが出来るだろう。

その信頼のみで金時は動く。

出来ない、とは思わないから。

 

(大百足は明らかに私達との戦いでギアを上げている。医神の彼からの情報ではそういったことは書かれていなかった。つまり、()()()()()()()()()()()()()()ということになる。まさか、過去の英雄と呼ばれる存在を多く喰らったから?対英雄特攻を発動させている?)

 

似たような前例をジャンヌは知っている。

『少年/少女』の記憶を辿ったとある記録。

そこでは『少年/少女』は数多くの魔神柱を撃破してきたことで、彼/彼女に魔神柱特攻という効果が付与されていた。

なら数百年以上生きてきたこの大百足も同じく、長い年月で喰らってきた当時の英雄達の数の増加に伴い、英雄特攻という効果を発現していても何ら不思議はない。

だがそれだけでは解決出来ないこともある。

いくら甲殻が硬いと言っても、坂田金時という英霊の中でも魔性・神秘殺しの逸話を有する存在が傷一つ付けられないというのはあまりにもおかしい。

特に坂田金時のその身は赤龍と山姥の力を受け継いでいる。

ならば大百足はまだ何かを隠しているのではないだろうか?

ジャンヌは更に注意深く大百足を観察する。

 

(動きは俊敏。力はバーサーカーより上。全身は漆黒の甲殻の覆われている。脚も大きく、一本でも我々より遥かに大きい。……漆黒?)

 

そこでジャンヌはとある物語を思い出した。

この世界に来て聞かされた騎士団物語。

『フィアナ騎士団』に登場したとある存在。

エピメテウスという人物は神の炎を使い多くのモンスターを燃やし尽くした。しかし、そんな彼の炎ですら燃やせなかった存在がいた。

地下迷宮(ダンジョン)より生まれし()()の怪物。

単眼の王、バロール。

勇者フィンと女神フィアナによる決死の特攻にて打ち倒した英雄時代の怪物。

もし、そんなバロールと同じく地下迷宮(ダンジョン)で生まれていたとしたら?

そしてその大百足をジャンヌ達がいた世界の大百足が食べていたとしたら?

その仮説を証明するように、神の血が流れている金時と戦っている時の方が大百足は余裕を見せている。

得手不得手もある。機会(タイミング)もある。

しかし、証拠が揃いすぎている。

 

(神エレボス!何と用意周到な!一体いつからこのような存在を見付けていたというのですか!)

 

全てエレボスの手のひらの上という事実にジャンヌは悪寒が走った。

奸計を巡らせ、まるで蜘蛛の巣のようなその策にジャンヌも金時も冒険者達も絡め取られてしまう。

なんと邪悪なことか。

あの邪神の本心はわからない。

善良な想いを隠しているのかもしれない。

だがそれは手を抜く理由にはならない。

 

(……バーサーカーが時間を稼いでくれている今、今しかない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい。あれほどの英雄達ですらあの怪物に打ちのめされている」

 

城壁の上で邪神は笑みを浮かべる。

あまりにも上手く嵌っているこの策に。

あまりにも規格外な怪物の活躍に。

あまりにも無惨に弄ばれる英雄に。

その笑みは邪悪そのもので、誰もが嫌悪するような笑みである。

 

「下界に降りてきて本当に良かった」

 

そんな言葉を思わず呟いてしまう。

あくまでも『絶対悪』として本心を知られないように。

自身が『絶対悪』を標榜する神として。

 

「なぁ、そうは思わないかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

「っ!」

 

再び、少女と神は対峙する。

目の前の邪神に、『正義』の在り方を示すために。

 

 

 

 

 

番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)

  • ベル君がオラリオに来るまでのお話
  • 金時、師匠になる(終了後予定)
  • ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
  • 英雄神話組の何気ない日常
  • 花のお兄さん、恋する乙女を応援する
  • 次回執筆予定のちょっと先出し
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