「ようこそ、【アストレア・ファミリア】へ!乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
定期の
先に帰ってきていたアストレアにより、皆ジャンヌの歓迎会の準備を進められ、『ようこそ【アストレア・ファミリア】へ!』と書かれた垂れ幕をかけていたり、頭にお祝いの時に被る三角の帽子を付けていたり、久々に豪勢な食事が用意されていたり、とジャンヌを歓迎する気満々であった。
帰ってきたアリーゼは嬉しそうに目を輝かせ、輝夜は思わずため息をつき、連れられたジャンヌは目を点にする。
そして急かされ主役席とされる所に座らされ、アリーゼ達も席についたのを確認し、冒頭のかけ声がなされた。
「さぁジャンヌ、遠慮なく食べてちょうだい!とっても美味しいから!」
そう勧められ、ジャンヌは食事を摂ろうとする。
しかし今のジャンヌは受肉に半ば近い状態で顕現しているが、受肉自体はしていない。
魔力で作られた身体であるため、食事はハッキリ言って必要ない。
カルデアとは違い、マスターは言ってしまえばこの世界そのものであり、魔力供給もほとんど必要ない状態。
そんなジャンヌは今を生きる者達の食料を得ることを
自分が食べる分を少しでも他の者達にまわした方がいいのではないか?とそんな風にも考える。
しかし、食べないというのも彼女らの好意を
どうしたものか。
「ジャンヌ?」
ふとアリーゼの呼ぶ声が聞こえる。
ジャンヌが食事に手をつけないことに不安となったその顔には、もしかして本当は嫌いな物があったのでは?や実は高貴な出だからこんな食事を食べられないのでは?と的外れな勘違いをしていますと明らかに書いてあった。
そこでジャンヌは改めて周りを見渡す。
誰もが嬉しそうに、そして何よりもジャンヌを迎え入れてくれている。
多少の思惑があれど、それでも皆の総意は『ジャンヌの歓迎会』をするということだ。
ならば今は受け入れよう。
食料が足りなくなればこの足で運ぼう。
金銭が足らなくなればこの力で稼ごう。
目の前の彼女達は、ジャンヌを共に戦う『仲間』として受け入れてくれたのだから。
「すみません、とても豪勢な食事で、嬉しくてつい」
「そうだったのね……。でも貴方の歓迎会なんだから、こんなに豪勢にしても神様は怒らないわ!」
「まぁ少しやり過ぎって感じだけどな」
「やり過ぎくらいがちょうど良いのよ、ライラ!だって足りなかったら悲しいじゃない!」
「おい、まさか自分で食べたいからとかじゃねえよな?」
「ギクッ……」
「やっぱりじゃねえか!」
アリーゼの言葉に心が軽くなったと思えばライラに指摘されてるようなことを考えていたのか、とズッコケそうになった。
短い付き合いではあるが、ジャンヌはすでにアリーゼはアリーゼらしいという意味が理解できかけていた。
だが彼女のそういった所にこの
それを示すように、皆は笑顔で溢れていたのだから。
「ま、まぁとりあえずいただきましょう!冷めてしまっては美味しさ半減しちゃうわ!」
皆アリーゼに呆れながらも食事に舌鼓を打ち始める。
もちろんジャンヌも食事を摂る。
温かいスープ、力が付きそうな肉、新鮮な味のする魚、どれもが美味しく、疲弊していた心が満たされる、そんな料理であった。
───────────────────────
「少しよろしいですか?」
ジャンヌはある程度食事を摂り終わり、夜風に当たっていると声をかけられる。
昼間に共に人命救助を行った金髪のエルフ、【疾風】リュー・リオンであった。
彼女はまだ世界の本当の汚さを知らないようで、純粋で高潔、
そして何よりこの場の誰よりも『正義』であろうとしている。
それは理想論で、夢物語で、実現なんてすでにほとんどの者達が諦めてしまった事を、それでも成そうと考えている。
そんな少女が自分に何の用だろうと考える。
「昼間はありがとうございました。貴方のおかげで、市民の被害はそれ程大きくならなかった」
「そのことでしたら気にしないでください。私は私のできることをしたまでです」
昼間の
アリーゼと共に加勢に来てくれたのも確かリューであったと思い出し、その後の救命活動も共に行った。
その後ジャンヌはアリーゼに連れられ
本当に真面目だなとジャンヌは笑みを浮かべる。
彼女が【アストレア・ファミリア】に入ったのもきっと神の
「いえ、それでも貴方は勇敢に立ち向かってくださいました。そのことに礼を尽くしたい」
「ありがとうございます。そこまで言っていただけるのです、ありがたく受け取らせて頂きます」
「はい。……あの、一つよろしいでしょうか?」
「え、ええ、構いませんよ?」
リューの礼にジャンヌが応えたことでどこかホッとしたような雰囲気を感じさせた。
やはりこのエルフの少女は眩しい程に真っ直ぐだな。
かつての自分を見ているようだ、と思わず口をこぼしてしまう。
目の前の少女には聞かれておらず、また自分でも認識できていない。
ふとこぼしたことだが、ジャンヌとリューは根本が一緒だとしても、その育ち方は全く違う。
ジャンヌはすでに成熟しきり、葉が枯れてしまった木だ。生い茂る緑はすでに朽ちたが、短き一生に人々を魅了した花を咲かせた。
対してリューは未だ成長途中だ。
まだまだ未熟で、でもどんな花を咲かせるのだろうか、と楽しみにさせるのが彼女だ。
彼女の先を見てみたい。
かつて絶対的な理不尽と戦い、多くを失い、数多の出会いを果たし、力の無さを理解していながらも『生きたい』と願い立ち向かい続けた『彼/彼女』と同じ様に、その行く末を見てみたい。
そんな風に感じていた。
また、真面目な者同士気が合いそうだなんて考えてもいた。
だから彼女は今、どこか不安そうな表情を浮かべているというのなら、その不安を吐き出させる役割を果たそう。
一人で抱え込む必要はなく、一人で立ち向かう必要も無いのだから。
「……貴方は、『正義』とは何だと考えますか?」
『正義』
人の道にかなっていて正しいこと。
正しい意義、正しい解釈。
辞書にはそう書かれている。
では、人の道にかなうとは、何だ?
正しい意義・解釈の、正しいとは?
どこまでが正しく、何が『悪』なのだ?
多くの人は、きっと答えられない。
それは当たり前のようにあるのに、まるで雲を掴む様に意味を成さない。
故に迷う。
「とある神に言われました。私達の『正義』とは何なのか?と。私達のしている無償の『正義』は、間違っているのでしょうか?」
初対面の者にする話ではないのかもしれない。
リュー自身もそれはわかっている。
だが、彼女になら。
目の前にいるジャンヌであるなら、何か答えてくれるのではないか?
そう
「貴方に聞くのは、間違っているのかもしれない。でも、教えてください。『正義』とは、何ですか?」
「………」
何かに
答えを、これだと言える答えを、彼女は求めている。
その答えをジャンヌの中でも断言はできない。
未だジャンヌですら悩み続ける時はある。
天啓を聞き、旗を手に取り、己も味方も鼓舞し続け戦い、そして『
故に答えは未だ探し求めている。
それでも、彼女は彼女なりの答えを迷子の少女に告げる。
「私も『正義』はわかりません」
「ッ!」
「何が正しくて、何が間違っていて、矛盾だらけで、でもその矛盾を受け入れなければならない。明確な答えなど無いのでしょう」
「そ、そんな……」
リューは絶望する。
きっと彼女ならと、彼女ならば明確な答えを得ているのだと、そう思ってしまっていたから。
そう期待していたから。
ならば、『正義』とは、何のために?
「ですが」
闇に、どこまでも深い『暗闇』に呑み込まれそうな時、『光』を見た。
神々しく、神秘的で、まるで見えない道を照らすような、そんな『光』を見た。
「ですが、揺るがない『正義』はあります。『願い』です」
「ね、『願い』が、『正義』……?」
上手く思考がまとまらず、それでも必死に耳を傾ける。
一言一句たりとも聞き逃してはならない。
『
「はい。正しくありたい、笑い合いたい、明日の話をしたい、だから私達は先も見えない『闇』と戦います。ただの『願い』でしかない。ですが、それは何よりも大切で、決して揺らぐことが無い。そうして多くの『願い』が明日へと続く『意志』となり、誰もが望む『希望』となり、未来を照らす『光』になるのだと、私は思います」
「未来を照らす、『光』……」
「高尚な想いでなくて良い。高潔な信念でなくて良い。ただ明日を願う、それこそが何よりも大切な『
心にかかっていた
しかし、それに対する不安は消えた。
例え神が『正義』を問うてきたとしても、例え『正義』がくじかれようとも、きっと答えることはできないだろう。
しかし、それでも構わない。
何故なら、
かけがえのない友と出会えば聞いてみよう。
『
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歓迎会から翌日以降、フィンの作戦通りに普段と変わらない風に装いながらも爆発物や
相手に気取られないように、慎重に、しかしあくまでも普段通りにと気を付けながら仲間達と巡回をしていたある日、ジャンヌはたまたま教会を見つけた。
元は立派だったのであろう廃教会があることに驚きながらも足を踏み入れた。
仲間達に「少しだけ祈りを」と伝える。
それに仲間達も承諾し別の場所の巡回へと向かった。
誰も使っていない、そのはずなのに手入れは行き届いており、清潔さは保たれていた。
この場所を大切に思う誰かによって、この場所は守られているのだと直感する。
ならば祈る神は違えど、この場所に来たからにはと思いジャンヌは静かに祈りを捧げた。
誰もいない。
誰も見ていない。
だがそれでも、ただ静かに祈り続けた。
明日を願う者達のために。
これまで命を散らした者達のために。
愛する
そうしてしばしの時間が過ぎ、祈りを終えた時になりようやく気付いた。
フードを被った銀髪の女性がいたことに。
「申し訳ありません。すぐに───」
「いや、構わん」
「しかし…」
「構わんと言っている。それに、貴様は場をわきまえている。ならばこの場にいることを許そう」
フードを被った銀髪の女性は静かなことを好むのだろう。
ここは
なればこそ、場をわきまえ、静かに祈りを捧げる目の前の少女を拒む理由はなかった。
「ありがとうございます。……貴方がこの場所を?」
「ああ、妹が愛していた場所だ」
「そうでしたか。きっと、素敵な方だったのですね」
「……ああ、優しいやつだったよ」
ただ静かに。
しかしお互いを害さない程度に話をする。
顔を見合わす訳でもなく、お互い教会に設置されている椅子に腰をかけ、ただ他愛のない話をする。
妹さんのこと。
この教会のこと。
祈りを捧げること。
それは一刻だったかもしれないし、永遠ともいえる時間だったかもしれない。
だからこそ、ジャンヌは感じ取ってしまった。
「貴方には、何か思い残しがあるように思われます」
「………そうかもしれんな」
静かに、認めるように口に出す。
「よろしいのですか」
「構わん。すでに、その道は捨てた」
すでに切り捨てた道。
選ばなかった未来。
余命
例えそれが雑音ばかりの未来であろうとも、例えそれがつまらぬ結果であろうとも。
例えそれが、最悪の結末を呼ぼうとも。
それが彼女が選んだ道であった。
「ならば、もう一度拾い上げれば良いのです」
「何?」
思わぬ提案をするジャンヌに聞き返す女性。
一度捨てた選択を、もう一度選択し直せと?
そのことに対して少し考える間にもジャンヌは続ける。
「一度捨てたとしても、心残りがあるのなら、それは拾い直せば良い。貴方が何に悔い、何に想いを
人は数多の選択を迫られる。
朝ごはんはパンにするかご飯にするか。
靴は右から履くか左から履くか。
今踏み出すか、いつか踏み出すか。
明日を嘆くか、明日に希望を見るか。
何気ないことから、一生の運命を左右しかねないことまで。
人は多くの選択を常に選び続ける。
だが、選ばなかった選択肢は、間違っていたか?
選ばなかった方が正しかったのではないか?
それもまたよくあることだ。
それについて後悔することもあるだろう。
反省して次に活かそうとするだろう。
だが、その選択肢を切り捨てる必要はない。
失われてしまったのなら、先に述べたことを成すしかないだろう。
しかし、失われていないと言うのなら。
改めて選択しても構わないのではないか?
「人は、何度過ちを犯そうとも、それを正すことができる。何度絶望しようとも、新たな希望を見出すことができる。貴方も、きっと知っているはずです。だから貴方はここにいる」
「………話は終わりだ」
「失礼しました」
ジャンヌの言葉が届いたかはわからない。
ただ今を生きているのなら、例え善人であろうと悪人であろうと、肩を貸すことくらいはできる。
一人で歩み出す勇気が無かったとしても、その一歩を一緒に踏み出すことはできる。
彼女もまた、『願い』を持つ者なのだから。
「………ここに来ることを許す。好きな時に祈りに来るが良い」
「感謝いたします」
だから彼女は選択した。
そして時は、やって来た。
「ねぇ、おじいちゃん。僕のお母さんって、どんな人?」
「お前の叔母、いやお前に似て美人でなぁ。それでいて優しくておっぱいが大きい子じゃったぞい。お前も女の子なら良かったのにのう」
「へぇ、そうなn………えっ?」
番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)
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ベル君がオラリオに来るまでのお話
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金時、師匠になる(終了後予定)
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ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
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英雄神話組の何気ない日常
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花のお兄さん、恋する乙女を応援する
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次回執筆予定のちょっと先出し