ダンまち×Fateシリーズ   作:英雄に憧れた一般人

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荒ぶる雷と潰えぬ希望

 

 

 

 

 

 

「なに、これ?」

 

アリーゼは訳がわからなかった。

いや、アリーゼだけでなく、ネーゼも、イスカも、マリューも、その場にいない輝夜もライラもリュー達も分からない。

フィンも、オッタルも、シャクティ達団長も、その他の者達もわからない。

そして何より全知零能たる神々すら事態を把握できていなかった。

派閥(ファミリア)による一斉突撃から始まり、闇派閥(イヴィルス)による都市の破壊と自爆テロ攻撃、そして何より九柱の神々の天界への『一斉送還』だ。

希望は潰え、絶望という闇にオラリオは包まれていた。

そこに追い討ちをかけるように今のあまりにも巨大な落雷。

ただでさえ様々な対応に追われている状況だと言うのに、自然災害までも相手にしないといけなくなることに頭を抱えそうになってしまうのは当然であった。

巨大な落雷後、あちこちに雷が落ちており、その中には避難が遅れている区画もあったのを確認してしまった。

急がねばならない。

しかし、アストレアもヘルメスも置いて行くことができず、今自分達の成すべきことが神々の護衛であることを再認識させまずは自分を落ち着かせる。

 

「とりあえず、今から護衛しながら──」

 

「もう、終わりだよ、オラリオは…」

 

「ネーゼ……!」

 

「だって、そうじゃないか……。闇派閥(イヴィルス)だけなら何とかって、思ってた。でも、神々が狙われて、冒険者の戦力が減らされて…おまけに雷なんていう自然災害なんて……無理だよ……」

 

ネーゼだけではない。イスカも、マリューも、心は折れかけていた。

一度は奮い立った。

数日とはいえ、共に戦い、語らい、食事をした少女の覚悟を知っていたから、だから立ち向かおうと奮い立つことができた。

だが、今の状況は何だ?

神々は『一斉送還』され闇派閥(イヴィルス)は勢いを増し、すでに多くの味方が屍へと変えられた。

そこへ鳴り止まない雷。

自然災害にして理不尽の象徴とも言える雷がオラリオを襲っている。

そんな光景を目にしてしまって彼女達には、もう立ち上がる勇気はなかった。

 

「見つけたぞ!それに『正義』の女神アストレア!」

 

「殺せ殺せ!」

 

傷心しきった彼女達の都合などお構い無しに敵はやって来る。

アリーゼは何とかして迎撃しようと剣を構えるが、こちらには戦意を失ったネーゼ達と戦えない神二柱。

最早、勝敗は見えていた。

 

「くっ!ネーゼ、イスカ、マリュー、聞いて。貴方達は戦わなくていい」

 

「だ、だんちょ…?」

 

すでに心の折れてしまったネーゼは力ない声で返す。

頭の回らない今の状況で、ネーゼはただアリーゼの言葉に耳を傾けることしかできなかった。

アリーゼもそんなネーゼを含む他の団員達の様子を把握する。

ならば自分が指示を出すのは、自分達を逃がしたジャンヌのように生かすための指示だ。

 

「その代わり、アストレア様達だけでも逃がして。これは、最後の団長命令よ」

 

その言葉でネーゼ達はアリーゼの考えていることが理解できた。

故にそんなこと認めるわけにはいかなかった。

そんなことをしては、他の団員達の心も折れてしまうと、その場の誰もがわかっていたから。

 

「っ!そんな、そんなこと言わないでくれ、団長!貴方まで喪ったら、私達は、もう、立ち直れない…」

 

「安心しなさい。こんなやつら、私一人で充分よ。…でも、もし私が負けちゃったら、その時は、生きて」

 

アリーゼの覚悟を見た。

いつもの調子にのった様子からでは考えられない程、最後の一言はあまりにも重かった。

止めなければ。

彼女を、私達の『光』を失う訳にはいかない。

もう目の前で仲間を喪う姿は見たくない!

その想いだけでネーゼ達は立ち上がる。

しかし、時間は待ってくれない。

 

「ま、まって、待ってくれ、団長!」

 

「アストレア様。どうか、みんなをお願いします」

 

「わかったわ。でもねアリーゼ、貴方も絶対に帰って来ること。わかったわね?」

 

アストレアのその言葉に、アリーゼは答えれなかった。

答えてしまっては、今決めた覚悟が揺らいでしまう。

だから、例えこれが最後の会話になろうとも、答えるわけにはいかなかった。

 

「アストレア様!」

 

「あの子の覚悟を、信じて」

 

ネーゼ達の叫びを聞きつつも、アストレアは静かに告げる。

死ぬつもりはない。でも、死ぬ気で挑む。

それ程の覚悟を彼女は決めている。

ならば信じて待つしかできない。

それが全知零能となった神にできる、唯一のことなのだから。

 

「行こう、アストレア。アリーゼ、ありがとう」

 

ヘルメスに連れられその場の面々は離れて行く。

残されたのはアリーゼと大量の敵。

顔を叩き、剣を抜く。

目を向け、足を踏みしめる。

 

「さぁ、ここから先は通さないわよ!」

 

「なら殺して通るまでだ、愚かな冒険者よ!」

 

少女の覚悟など気付かない愚か者達は一斉にアリーゼへと襲いかかる。

あくまでも時間稼ぎ。

充分時間が稼げたなら逃げよう。

大丈夫。

私の方が強いのだから。

だから、大丈夫。

だい、じょうぶ…。

崩れそうな心を必死に支え、その剣で敵を斬る。

自爆兵の可能性を考慮してできるだけ近付けさせない。

距離を取り、敵を冷静に倒して行く。

冷静に、冷静に、冷静に、冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に冷静に!

右から来た。斬る。左から来た。斬る。前から来た。斬る。斬る。斬る斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る!

ここからは、何人足りとも通さない!

 

「くっ、全員一斉にかかれえ!敵はたった一人!全員でかかれば防ぎ切ることは不可能だ!」

 

ここで敵は数の有利を使ってくる。

いくらアリーゼが強かろうとも、その強さはLv.6のオッタルやLv.5のフィン程の実力は無い。

そのため、数に物を言わせる戦法は敵からすれば最適解で、アリーゼからすれば最悪解であった。

さすがにアリーゼも死を覚悟する。

これは(さば)ききれない。

目の前の理不尽に、自分は倒されてしまうのかと、もうこれまでなのかと、そう思う。

 

(嫌だ)

 

もうこの状況をひっくり返すなどできない。

 

(嫌だ、嫌だ)

 

全て諦めた方が楽になれる。

 

(嫌だ嫌だ嫌だ!)

 

こんな状況ならジャンヌもきっと、許してくれる。

でも、それよりもこんな言い訳に使う自分に怒る。

そう確信する。

 

『アリーゼ、その手は何のためにあるんですか?』

 

聞こえないはずの友の声が聞こえる。

 

『アリーゼ、その足で何をしたいと言っていましたか?』

 

これは幻聴だ。きっと聞き間違いに違いない。

 

『アリーゼ、ごめんなさい』

 

違う!

違う違う違う違う違う!

そこでアリーゼは本音を吐き出す。

ジャンヌに謝って欲しいわけではない。

ジャンヌに奮い立たせて欲しいわけじゃない。

ただ、もう一度ジャンヌと笑い合いたいだけなのだ。

 

(まだ死にたくない!まだ皆と笑っていたい!一緒にご飯を食べたい!一緒に冒険をしたい!一緒に未来を見たい!)

 

心で叫ぶ。

誰も聞かない。誰も知らない。

でも必死に叫び続ける。

 

(まだ、やりたいことがたくさんある!アストレア様とお風呂に入りたい!輝夜と酒を飲み比べをしたい!ライラと一緒にいたずらをしたい!リューと恋バナをしたい!ネーゼともノインともアスタともリャーナともセルティともイスカともマリューとも!みんなと『明日』を過ごしたい!)

 

やりたいことを思い出す。

やらなければいけないことを思い出す。

まだ手は動く。まだ足は走れる。まだ心は、『生きたい』と叫んでいる。

 

(だから、死にたくない!!!)

 

その叫びは、確かな魔力の高まりであった。

『勇気』を帯びた魔力は多くの者は気づかない。

だが、その『勇気』を感じ取った者は確かにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………え?」

 

アリーゼが生きたいと願ったその時、雷は目の前に落ちてきた。

目の前に落ちたからだろうか、先程落ちた雷よりも音はかなり大きく、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。

そうして目を開けば、襲いかかろうとした敵は全員雷に焼かれ、少し焦げた匂いが辺りに漂っている。

あまりにも突然の光景に、アリーゼは戸惑うしかなかった。

 

「な、何が、起きた………?」

 

「か、雷が、落ちた?」

 

「ちッ、偶然だ!かかれえ!」

 

敵は再度襲ってくる。

そしてまた

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、また……?え、どうして……」

 

二度目の雷もまた、敵のみを焼き焦がした。

偶然にしてはあまりにも出来過ぎている。

まさかと、とある仮説を思い付く。

 

「まさか、この雷は、自然災害じゃない?」

 

「くそっ、雷ごときに邪魔をされてたまるかぁ!行けぇ!」

 

その仮説へと至ったアリーゼに、またもその出来事は発生する。

仮説は、証明された。

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

「これは、偶然なんかじゃない。この雷は、誰かが操っている!でも、こんな大規模魔法、聞いたことがない…」

 

誰かによる意図的な落雷。

それも正確に敵のみを焼き焦がしている。

この状況はアリーゼにとってあまりにも喜ばしい出来事だった。

この意図的な落雷を起こした者は、アリーゼではなく、敵を狙った。

それはアリーゼ達に味方してくれる可能性が高いのだと、その証拠となり得るのだから。

光が見えた。

だが謎も残る。

一体、これ程の落雷をどんな人物が起こせるのだろうか、と。

オラリオで最も優秀な魔導師は現時点では【ロキ・ファミリア】のリヴェリアだろう。

だが、リヴェリアにこれ程の大魔法を起こせるなら最初からしているはずである。

とすれば、ジャンヌのような第三者による介入。

それが一先ず導き出せた結論であった。

敵は落雷によって全滅。

後顧(こうこ)(うれ)いは絶たれた。

安心してみんなを追うことができる。

 

「みんなの後を追わないと!」

 

そう話す彼女の顔には、敵と対峙した時のような今にも泣き出しそうな表情はなく、まるで素敵な夢を見たかのような少女らしい華やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、あっちは大丈夫そうだな。しかしこの世界に来てからというもの、力が漲るな。魔力もオレがいた時代よりも濃い。まさか、マジでいんのか、神様が…」

 

「神様?神様はいるよ!」

 

途中で人助けを行い、敵を倒しながら歩いていると親とはぐれた少女を金髪の青年は保護した。

くまのぬいぐるみを抱えており、ゴールデン愛らしいその姿を青年は助けずにはいられなかった。

そうして青年は少女を肩に担ぎながら、とりあえずは少女の親がいるであろう方向へと歩いているというわけである。

他愛ない話もしながら歩き、時には助け、時には倒すその姿に少女は『英雄(ヒーロー)』の姿を見る。

それに青年はこの世界のことを全くと言っていい程知らなかった。

そのため少女が青年にこの世界について教える。

その一つが神がいるということ。

 

 

「マジか!そいつはゴールデンだな!おっと、ちょっと目と耳を塞いでてくれ。ぬいぐるみに耳を塞いでもらっておきな」

 

「うん!」

 

「よっしゃ、派手に行くぜぇ!」

 

青年は少女を肩から降ろし、少し離れた場所に行く。

そうして少女を抱えていた手とは逆の手で持っていた手斧を天高く掲げる。

目を閉じ、周囲の魔力探知を行うと、暗い魔力の塊をいくつか見つける。

狙いは定まり、魔力を溜め、手斧を一気に振り下ろす。

その瞬間、暗雲からは雷が降り注ぎ、暗い魔力の塊が消えていくのが感じ取れる。

青年は元々それ程の力を持っているわけではなかった。

しかし、青年の血には雷神たる赤龍の血が流れている。

それがこの世界との相性を引き上げ、普通に召喚された時よりも一段二段上の状態のステータスへと引き上げられているのだ。

この世界に当て嵌めるなら、推定Lv.7、といったところだろう。

さらに、この青年のステータスを引き上げる理由がもう一つあるのだが、それは後にわかるだろう。

 

「よし、もう大丈夫だぜ」

 

「お兄ちゃん、本当にすごい!かっこいい!」

 

「そうかそうか!ならそういう時、もっとクールな言葉があるぜ」

 

「え、なになに!」

 

「それはな、『ゴールデン』!って言うんだよ」

 

「ゴールデン!」

 

「そう、ゴールデンだ!」

 

「リア覚えたよ!ゴールデン!」

 

「ああ!最高にゴールデンだ!」

 

青年と少女は楽しそうに、何でもないように歩く。

周りの悲惨な光景に最初は怯えていた少女はおらず、今を生きることが楽しくて仕方ないと『希望』に溢れた様子の少女に、青年もつられて笑う。

一人でも子供を笑顔にさせることができる。

それはあまりにも、ゴールデンだろう?

そんなこんなで歩いていれば、前方から複数の人影を視認できた。

女性、いや少女が数人と男が何人かいるようで、どうやら瓦礫(がれき)などを退()かし、救助を行っているようだ。

 

「手伝わねぇとな」

 

「あ、【アストレア・ファミリア】のお姉ちゃん達と【ガネーシャ・ファミリア】の人達だ!」

 

「あん?アストレアに、ガネーシャ?」

 

青年の脳裏に浮かぶのは、天秤にジャーマンスープレックスや日頃からルチャ好きの女神とプロレスをしている金髪ドリルの女神の少女と、いつもは石像に(こも)ってゲームやアニメばかり見ているぐうたら生活を送っているだらしない体つきの女神の少女であった。

大丈夫か、それ?

だが目の前の彼らは常日頃から人助けをしているらしく、とりあえず善人ではあるようだ。

いや目の前の光景を見ればわかるのだが、青年の知っている名前の神物(じんぶつ)がそれなので仕方ないのだ。

 

「手伝うぜ!」

 

「おぉ、助かる!」

 

突然現れた青年に皆警戒するが、肩に少女を担いでいるデカい手斧を持った青年など聞いたことがなく、そして少女はくまのぬいぐるみを抱えながらニコニコしている。

少女を降ろす時もゆっくりと降ろし、少女へ負担をかけないように配慮している様子を見て、「こんな悪党いてたまるか!」というツッコミをせざるを得なかった。

 

「いくぜ、ゴーーールデン!」

 

「ご、ごーるでん?」

 

「ゴールデン!」

 

そのかけ声と共に青年が一気に瓦礫を除けたことで、埋まっていた住民の救助が速やかに行われた。

規格外な力に、その場の冒険者達は青年が格上だと理解する。

数人がかりで持ち上がる瓦礫を青年は一人で持ち上げたのだ。

少なく見積ってもLv.5なのでは?と推測していた。

ただ、かけ声のゴールデンはわからない。

 

「貴方は、リアさん…」

 

「あ、【アストレア・ファミリア】のお姉ちゃん!」

 

青年と同じかけ声をする少女リアに、その場にいたリューは見覚えがあると気付く。

以前助け、巡回中に礼を言ってくれた少女だと思い出し、リアが生きていることにリューはホッとしていた。

もしかすると、一度助けた者を助けることができなかったかもしれなかったのだ。

目の前の青年がそうならないように救ってくれた。

それがどれ程心の支えとなることか。

 

「お、知り合いか?なら良かった。この子を親御さんの所まで連れて行きたいんだが、あんた等はわかるか?」

 

青年は再度リアを抱え直し、リューへと質問をする。

リアはとても嬉しそうに青年に抱えられ、青年も少女の知り合いがいることを嬉しく思ったようで、屈託のない笑みを浮かべた。

まるで大きな子供のようだとついつい思ってしまう。

青年からは悪意を感じないため、避難場所も教えていいだろうと一瞬輝夜に視線で指示を仰ぎ、輝夜はこくりと頷いた。

 

「そうでしたか。まずはこの子を助けていただき、ありがとうございます。それでですが申し訳ない、我々もわからない」

 

「そうか。なら人が集まってるところを教えて欲しい」

 

「ならこの先を進んだ所に一つあるのと、もう一つはそれを超えた大通りを進めばあります」

 

口での指示ではあるが、男青年はしっかりと聞き、目で確認していた。

根は真面目なのだろう。そんな風にリューの目には映った。

きっと、ジャンヌとも良き友にこの青年はなれたのだろう、と今この場にいない仲間に、『正義』について教えてくれた友に想いを馳せる。

そのことに少し胸が苦しくなるが、それでもまだ耐えなければならない。

それが、彼女との約束だから。

 

「そうか…ちょっとこの子を頼む」

 

「え?」

 

青年は説明を聞き終えた後、何かしらを感じ取ったらしく、抱えていた少女をリューへと預ける。

青年は少し避難させてる場所から離れ、片手で持っていた手斧を天高く掲げ、先程と同じように魔力を溜め始めた。

何をし始めたのかわからない周囲の者達は、とりあえず青年から離れ、身の安全を確保する。

ただ少女だけがすごく嬉しそうに、楽しそうに笑っている。

 

「お兄ちゃんすごいんだよ!ゴールデンなんだよ!」

 

「ご、ごーるでん?」

 

言葉の意味がわからず、首を傾げる。

うん、普通の人はわからないとも。

安心するといい、エルフの少女よ。

 

「ん?今誰か───」

 

「しゃっ!いっちょ派手に行くぜぇ!」

 

青年が手斧を振り下ろし、地面へと叩きつける。

すると暗雲は轟々(ごうごう)(うな)りだし、そうしていくつかの地点へと雷は落とされた。

 

「なっ!」

 

「こ、これは!」

 

「雷を起こした正体は、この男!?」

 

男青年のしたことに全員が驚き、身構える。

Lv.5以上のステータスに加え、かけ声、いやほとんど無詠唱であれ程の威力を持つ落雷を引き起こすことができるのだ。警戒するなという方がおかしい。

そんな誰しもが警戒をする中、輝夜だけが静かに青年を見つめていた。

 

「………」

 

(こんな馬鹿な話、あってたまるか。あれは、あれはただの御伽話(むかしばなし)だぞ…)

 

「どうした輝夜?」

 

「いや、何でもない。だが男、後で話がある。この救助作業が終わり次第、少し顔を貸せ」

 

「え、あ、あぁ、いいぜ…」

 

輝夜はそこで違和感を覚える。

先程までリューや【ガネーシャ・ファミリア】の団員には普通に話していた。

だが、どうして自分と話す時だけ怯えたようにたどたどしくなるのだ?

怯えたような、困惑したような、なんでそんな反応を示すのか、疑問を抱く。

 

「何で急に怯えるんだ…」

 

「いや、べ、別に怯えてるわけじゃねぇよ?」

 

「……」

 

「……」

 

精一杯の強がり。

何故か汗をかいたり、口笛を吹いていたり、誤魔化そうとしてる感が半端なかった。

そこで輝夜の加虐心(かぎゃくしん)に火がついた。

否、つけてしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「………………(ニコッ)」

 

「………………(ビクッ)」

 

「何やってんだよ、お前等……」

 

ライラは思わずツッコミを入れてしまう。

目の前の二人が急に黙ったと思えば青年は青年でで口笛を吹いたり、目をオロオロさせ始めるし、輝夜は輝夜でずっと青年を見つめ、しまいにはニコッとライラ達ですら背筋が凍るような微笑を浮かべるのだ。

ツッコまなければ青年が哀れで可哀想であった。

 

「すまんライラ。この男、少し面白くてな」

 

「はぁ、とりあえず旦那、後で色々と話が聞きたい。すまねぇが良いか?」

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

青年もライラには普通に接する辺り、輝夜自体に苦手意識があるのではなく、輝夜のような人間が苦手なのだろうという当たりをつける。

可哀想ではあるが、後の尋問は輝夜に任せた方が良さそうか、いやアリーゼの方が気が合いそうで適任か?なんか二倍うるさくなりそうで適わない。などと考え考える余裕も出てきたライラであった。

そんな折、青年から急に笑みが消えた。

 

「わりぃ、少しやべぇのを見つけた」

 

「何?」

 

「後で合流する。どこに向かえば良い?」

 

青年の先程までに見せなかった真剣さは、自分達にはわからない逼迫(ひっぱく)した事態であるという事だろう。

何より、青年からは怒りにも似た殺気のような雰囲気をまとわれていた。

リアはリューと話しているため、青年の様子に気付いた様子はなく、輝夜も「そのまま少し離れてろ」というジェスチャーをリューへと送る。

リューも何かしらの異変に気付いたらしく、リアを少し離れさせた。

 

「あの塔が見えるな?夜が明けるまでにあの塔の下にいる金髪の小人族(チビ)の所に来い」

 

「オーケー、恩に着る」

 

「…何を感じた?」

 

輝夜は聞かない、ということができなかった。

一体何が彼の怒りに触れたのか。

それを知るべきだと、知らねばならないと感じさせていた。

理屈など、理由など、何も分からないというのに。

 

「詳しくはわかんねぇよ。だが、反応が一気に消えた」

 

「っ!それは、どのくらいの規模だ…!?」

 

「ざっと二十は消えた。一人、ゴールデン強ぇやつがいる」

 

「……わかった。とにかく、お前には聞きたいことはたくさんある。必ず戻って来い」

 

「あぁ、オレも聞きたいことは山ほどあるんだ。必ず戻ると約束する」

 

『そして必ず、オレは何があろうとも、お前達の元に戻って来ると約束しよう!』

 

とあるお伽噺の一節を思い出す。

あまりに夢物語過ぎる、しかしそうであって欲しいという願いが込められた、それなりに人気のあった昔話。

輝夜もたまたま読んだだけの物語。

それが今になって頭の片隅から出てきた。

 

「それじゃ、すまねぇが行ってくる!」

 

「なんていう速さだ」

 

「一体彼は……」

 

「とりあえず、私達は私達のすることをするぞ!」

 

青年は風も音も置き去りにして駆けて行った。

あのデカい体格からは想像もつかない速さは、誰も目で追うことを許さない。

輝夜の号令で何とか気を取り直し、救助作業を続けるのだった。

ただ一人、輝夜だけは胸につっかえる何かの答えを知りたいと、青年の去った方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなぁ。こいつはひでぇ有様だ」

 

青年が着いた時には、そこは血の海に染まっていた。

息すら許されず、夢すら語らせず、まるで嫌いな物を食べる子供のような汚さが、その場の惨劇を表していた。

 

「ほう、少しは喰らい甲斐のあるやつが来たか」

 

青年が静かに屍を眺めていると、この場を作ったであろう張本人が声をかける。

全身真っ黒な鎧に包まれた男は、己と同等より少し小さい大剣を片手で持っており、そして何より鎧の上からでもわかる威圧感を放っていた。

金髪の青年は怒る。

目の前の男は、やってはならないことをやったから。

青年は嘆く。

明日を見たいと願うまだ若い子供達に未来を示せなかったことを。

だから、目の前の男は許せなかった。

 

「……あんたの考えはわかんねぇ。けどよ、大人がガキを殺すのは、間違ってんだろ」

 

「……」

 

鎧の男は何も答えない。

己の『願い』の前に、その理屈は意味を持たないから。

 

「あんたにどれほど志し(たけ)ぇもんがあってもよ、それだけは踏み越えちゃならねぇ…踏み越えちゃいけねぇ一線だろうが!」

 

「……ならば俺が間違っていると、結果で示せ」

 

鎧の男は大剣を構える。

金髪の青年は手斧を肩に担ぐ。

風が吹く。

火の海の中、建物が燃える音だけがその場には響いていた。

静かな、ただ静かな時が流れる。

二人の間に瓦礫が落ちてきたその刹那、二人は音を置き去りにしてお互いの武器を交えた。

雷が落ち、辺りの火は風を与えられことで更に燃え盛り、崩壊しかけていた建物は武器の交わる衝撃でいくつか粉々に破壊される。

一度、二度、三度、四度と武器を交える。

その度に雷は落ち、炎の勢いは増していき、建物は粉々に崩れ去る。

規格外同士の怪物達に言葉は無く、ただ己の意思を武器へと込めうち放つ。

だからわかった。

 

「ちっ、あんたはクズだ。でもよ、本当のクズってやつは、もっと酷い悪臭がするもんだぜ」

 

「……」

 

数度打ち合った短い間で青年は感じ取った。

青年はかつて出会ったことがある。

性根から腐りきった自らの快楽に狂った男を知っている。

それに比べれば、目の前の男の臭いなど、上辺だけの悪臭でしかなかった。

真の悪党に、男はなれていなかった。

理不尽の化身にはなっていただろう。

不条理の暴力にはなっていただろう。

だが、それで外道へと堕ちるわけではないのだ。

 

「その目がまだ濁りきってねぇなら、『明日』を夢見るガキの命なんか、奪ってんじゃねぇよ…」

 

青年はその言葉を残して、戦いをやめた。

目の前の男の思惑はわからない。

だが、己の(かべ)ではないと悟った。

故に青年はその場を去る。

この戦の主役(えいゆう)は己ではないと理解したが故に。

 

「……見抜かれていたか。だが、お前の事もよくわかった。いくら何でも、馬鹿正直にも程があるぞ、完成された『英雄』よ」

 

男は兜を脱ぎ、去っていく青年の姿を見る。

兜の下には多くの傷跡が残っており、男のこれまでの壮絶さを表していた。

既に先が長くないため、今回の計画にある目的を持って男は参加したわけであるが、その短い未来の内に先程の青年と相見(あいまみ)えたことは、男にとって僥倖(ぎようこう)であった。

純粋で、真っ直ぐで、優しく、既に『絶望』を乗り越えたそんな瞳から、揺らぎない信念を感じた。

それこそ完成された『英雄』なのであろう。

自身も、【静寂】も、かつての仲間達でも届かなかった、神時代より前に生きた今も語り継がれる『英雄』と同じ存在なのだと確信する。

男はらしくなく笑う。

そんな存在をこの目で見ることができた。

ならば、彼らが望む『最後の英雄』もまた、夢物語では無いのかもしれないと思ったために。

あの青年は、敵であろうとも笑わせてしまうのか…。

もう一度青年の去る姿を見て、男は兜を被り直す。

先に待つ、都市最強(うぬぼれ)を喰らうため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本来であれば、ザルド、アルフィアが暴れてからの神々の一斉送還でしたが、今回時系列が逆となってしまっております。
英霊が召喚されたことによる弊害として大目に見ていただけると幸いです。
申し訳ありません。

番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)

  • ベル君がオラリオに来るまでのお話
  • 金時、師匠になる(終了後予定)
  • ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
  • 英雄神話組の何気ない日常
  • 花のお兄さん、恋する乙女を応援する
  • 次回執筆予定のちょっと先出し
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