「
原初の幽冥たる神は自身の
本来ならば街は火の海となり、何も知らない民は悲鳴と涙に見舞われ、『正義』を名乗る者達は目の前で民衆を助けることができない絶望に襲われる。
【暴喰】と【静寂】によって多くの冒険者を屍に変え、
しかし、そうはならなかった。
街を火の海に変えれても無知の民への損害はほとんどなく、『正義』の使者は絶望に襲われることは無かった。
【
大きく書き換えられること自体は一種のスパイスだ。
それは良しとしよう。
だからやることは変わらない。
こちらは理不尽の権化を、絶望の『
ならば希望の『
これで
なら天秤は正さないとなぁ?
新しく用意しよう。
絶望の象徴を。災禍の権化を。
天秤は正された。
ここから天秤を傾けさせることは許さない。
もしそうするのであれば、こちらもそれ相応の策を取らせてもらおう。
理不尽には理不尽を。
希望には絶望を持って答えよう。
だから、ここから先は
お前達は黙って見ていろ。
神はそう告げ、闇へと紛れた。
ならば我々も彼らの紡ぐ物語を見届けよう。
ここから先は、新たな未来を紡ぐ物語。
これより描かれるは願いを
今から記されるは、記録には残らず人々に語り継がれる【
────────────────────────
雷の正体を知っている者は、青年と出会った【アストレア・ファミリア】の面々と【ガネーシャ・ファミリア】の何名か、それにリア。
そして正体を知らずとも、その雷に助けられたアリーゼ。
そうだ。
この者が知っている、
未だ鳴り止まぬ雷は、知らない者からすれば天変地異以外の何物でもない。
それはつまり、絶望が続けられているということ。
「まさか天候が介入してくるとは…」
「何で急に雷なんか降ってきてん…それに、雷が降っとるのになんで雨は降ってへんねん…」
「ロキ、自然災害はどうしようもない。それに、自然に敵も味方も関係ない」
「せ、せやけど…」
「それに、僕の指は疼いているが、この雷に対してじゃない」
「なんやて?神の『一斉送還』の他に、何があるって言うねん!?」
中央広場で全体の指揮を執っていたフィンとロキは突如発生した雷に対して違和感を覚えているが、それよりも警戒することがあった。
【
しかし【
どこかに身を潜める理由もなく、この光景を高笑いして自身も加わるはずなのに、その所在が掴めていないことに、あまりにも嫌な予感を感じていた。
(ここから仕掛けてくるか?それとも何か策を用意している?違う、彼女ならもう動いているはず。ということは、倒された?Lv.5であり、対人戦闘ならかなり上の彼女を?一体誰が…)
思考の海に浸かり、あらゆる可能性を模索する。
ヴァレッタが死んだ?
それならもっと敵の士気は落ちている。
身を潜めている?
彼女の性格上あり得ない。
策を用意している?
出し惜しみをする理由があるか?
そうして一つの仮説にたどり着いた。
フィン達が突入した拠点にも、オッタル達が突入した拠点にもヴァレッタはいなかった。
なら、【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の突入した拠点にいた可能性が高い。
そこで迎え撃つはずが、誰かによって戦線離脱を余儀なくされたと考えるべきだ。
そしてそれを行ったのは…
『っ………生死不明』
そう言われたジャンヌだけだろう。
あの場で被害者を抑え、なおかつ敵幹部を今だけでも行動不能にさせたということは大きな意味を持つ。
敵の士気が下がってはいないが、それでもヴァレッタという指揮官がいなければただ暴れるだけの烏合の衆である。
だからまずはオリヴァスとヴィトーが指揮する敵集団を狙うのが得策。
そう考えていた矢先だった。
「だ、団長ぉ!南西で持ちこたえた【ファミリア】が
「……!まさかヴァレッタか!」
ここで動き出した?
そうでは無いと結論づけたばかりであると言うのに、己の読みが甘いことに
「………違います。大剣を持った戦士と……女の魔導師に……一瞬で……たった二人に、やられたっす……」
「!!」
まさかの敵の出現に親指の疼きが強まった。
これだ、これが敵の士気が下がらない理由。
圧倒的強者の存在。
それこそが敵を未だに勢い付かせるモチベーションとなっていたわけだ。
敵の情報がもっと欲しい。
でなければ、ここで敵は更に勢いを増す。
そうなれば今の状況が一変しかねない。
そう考えた矢先、雷が四つ、同じ場所に落ちた。
それは、報告があった南西区画。
そこだ。敵はそこにいる。
雷が同じ場所に何度も落ちることは多々ある。
それ自体は不思議なことでは無い。
しかし、それは塔や山といった高い場所という条件付きだ。
平地で、それも先程までランダムのように落ちていた雷が急に同じ箇所に四つも落ちることは確率論から言ってもかなりレアなケースである。
不可能とまではいかなくとも、それが人為的に引き起こされたということの方がまだ理解できる。
天候を操る。
敵か味方かは分からずとも、規格外の怪物であることは紛れもない事実だ。
すぐさまどんな容姿で、どんな武器を持っているのか確認する必要があった。
「斥候に今すぐあの雷が四つ落ちた場所に向かえと伝えてくれ。近くに人がいれば、それが該当する人物の可能性が高い」
「りょ、了解っす!」
ラウルに指示しを出し、速やかに特定を急ぐ。
とにかく、今は恩恵を失った冒険者の保護を優先するべきだ。
恩恵のない冒険者など敵からすれば格好の的である。
力無い市民と同じ、只人でしかない。
たとえ獣人やエルフ、ドワーフであろうともそこは変わらない。
一人でも生存を急がねばならない。
怪物が
いつ死ぬかわからないそんな状況は冒険者達の士気の低下、民衆の信用の失墜を意味する。
それを少しでも減らすためには、情報を集めるしかない。
「伝令!た、たった今、南西区画にて、大剣を振るう鎧の男が、お、【
「なんやて!?
都市最強が負けた。
これほど嫌な報せはあるだろうか。
皆、自身の身体の体温が下がっていくのをまざまざと感じていた。
心の拠り所、圧倒的期待、彼ならばこの状況を覆してくれる、そういった期待はあまりに脆く、崩れさった。
避難していた市民も、戦っていた冒険者も、誰もが絶望へと突き落とされた。
冒険者と相対していた敵はその報せで一気に勢いづく。
そして、悪い報せとは続くものだ。
「ロ、ロキ!団長!り、リヴェリアさんとガレスさんが……敗北したと、報せが……」
さらに動揺は伝わる。
味方の士気が一気に下がっていくのが誰もが感じ取っていた。
それはこの都市にいる最強達では、敵の怪物と呼ばれる存在には勝てない、勝てるわけが無いということを示していた。
冒険者は膝をついた。
市民は泣き崩れた。
敵は歓喜の雄叫びを上げた。
今宵の勝敗は、決したものだった。
「な……!二人は無事なんか!?」
「【
「っ!敵の情報は!」
「は、灰色の髪の魔導士、妙齢の女性!超短文詠唱を駆使し、桁違いな攻撃はおろか、魔法による砲撃も効かないそうです!」
(
ロキは眷族の二人の無事を確認でき、まずはホッと胸を撫で下ろす。
フィンも二人の無事を確認すればすぐに敵の情報を確認する。
そしてそれはある意味最悪の情報でもあった。
かつての最強を誇った者達。
(八年前から能力に変動がなかったとしても、どちらも
「戦況を掌握された………!これが『切り札』か、
思わず唇を噛むフィン。
敵に良いように踊らされ、まんまと術中に嵌められたことに、悔しさを隠しきれなかった。
このままでは今まで以上の被害がでてしまう。
それが何よりも辛い状況であった。
すぐに対策を考え直さなければ、と考えているところに新たな報せが来る。
「【アストレア・ファミリア】より伝令!雷は味方!後で直に報告をするため、今は気にするなとのことです!」
「はぁ!?なんやそれ?」
「っ!【アストレア・ファミリア】は会ったのか!なら、雷は放置。まずは敵の今の動きを最優先して教えてくれ!あとザルドとアルフィアの位置には誰も向かわせるな」
「了解!」
ロキは未だ頭を悩ましているが、フィンは今の状況で最も嬉しい情報を手に入れた。
雷が味方ということは、降り注いでる所は敵が固まっているということ。
少しでも敵の数が減るのはあまりにも良い状況としか言えなかった。
絶望が希望に変わる一手。
その兆しが見えた。
────────────────────────
順番は狂ったが、それでも概ね計画通りだ。
神々の『一斉送還』は成され、ザルドとアルフィアが敵の主力を倒した。
そこに敵とは言え、知らない者からすれば絶望となる雷が降った。
敵の士気が落ちた。
たとえ【勇者】が何かしようとも、今の彼らにそれを覆す程の力は残っていない。
さぁ、仕上げといこう。
彼らに、彼女らに、神々に、『正義』の正体を告げよう。
時代が名乗りし暗黒の名のもと、
下界の希望を
最大級のパフォーマンスをしよう。
この大地が結びし
我が一存で握り潰す」
最高級の絶望を与えよう。
純然たる混沌を導くがため」
君達の目にはどう映る?
暴悪?───結構」
君達はどんな想いを抱く?
それこそ邪悪にとっての至福。
大いに怒り、大いに泣き、
大いに我が惨禍を受け入れろ」
今こそ君に問いたい、リオン。
原初の幽冥にして、地下世界の神なり!」
君にとって、『正義』とは?
今の君に、答えることができるのかい?
この惨状を見て、君はどんな答えをだす?
混沌を退けようというのなら!
我等もまた『巨悪』をもって秩序を壊す!」
どうか俺を失望させないでくれよ?
君に、このオラリオの『未来』を期待しているんだから。
さぁ、始めよう。
未来を賭けた戦いを。
君達が進むべき道を決める儀式を。
──我等こそ『絶対悪』!!」
挑め冒険者。立ち向かえ雛鳥達。
君達の『正義』を、我等『絶対悪』に見せてみろ!
彼等の『失望』を、圧倒的な『希望』に変えてみせろ!
────────────────────────
「ったく、身勝手な神サンもいたもんだな」
青年は瓦礫を退けたり、敵を倒しながらボヤく。
彼等の目的などわからないし、どうでもいい。
それにこれはきっと、今を生きる彼等にとって必要なことなのだと何となくわかる。
彼等が『絶対悪』を口にした。
『人類悪』でも『必要悪』でもなく、『絶対悪』を名乗った。
ならば彼等はこの戦場に、この戦いに全てを賭しているはずだ。
主犯はあの神様で、男と女は神様に乗っかった。
他の連中は上手いこと
この戦いの行く末に、本来なら自分はいらないはずだと考える。
しかし、それでも呼ばれたということは、何か成すべきことがあるのだろうと予測する。
彼等では乗り越えられない何かが、彼等に必要となる何かが呼ばれた理由なのだ。
だからこそ、手を貸すのは人助けのみ。
敵を打ち倒すのは今を生きる者達の役割。
己がするのはそれだけで良い。
英霊なんて本来そういうものだろうと考え、また一つ瓦礫を退かす。
その瓦礫を退かしたことで、全てのパーツは出揃った。
あとはピースを嵌め込むだけ。
青年は瓦礫の下の空間に降りる。
そこで血を流す少女を抱え、また上へと跳躍する。
「なるほどな。俺達の役割は、何となく理解したぜ」
青年は少女に負担がかからぬように歩く。
血を流しているが生きている。
この時代だからこそ、この世界だからこそ、そして彼女も呼ばれた者だからこそ、未だ身体を留めている。
「くたばるのは、まだ早ぇぞ、聖女サマ」
炎に身を焼かれた聖女と雷霆たる青年は、ここに出会いを果たした。
それは奇しくも、始まりの英雄が振るった二つの剣と同じであったのだ。
番外編で読んでみたいのは?(時間軸などに合わせ執筆時期が異なります)
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ベル君がオラリオに来るまでのお話
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金時、師匠になる(終了後予定)
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ジャンヌとアストレア・ファミリアの女子会
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英雄神話組の何気ない日常
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花のお兄さん、恋する乙女を応援する
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次回執筆予定のちょっと先出し