昔々、とある山奥に一人の少年が住んでいました。
誰が産んだかもわからない、不思議な少年でした。
少年は力自慢のドワーフよりも力強く、山の近くに住む村人達では誰も敵いませんでした。
みんな、少年を怖がりました。
しかし、その村の村長は少年を大切に育てました。
『例えこの子の正体がモンスターであろうとも、人のように
それに、村長はとある夢を持っていました。
『人はいつかモンスターとも分かり合える日が来る』
そう村長は信じておりました。
少年は毎日その教えを聞き、村の人々を助けました。
年老いたお爺さんの代わりに
村人達も少年のことを段々と恐れなくなりました。
そうして少年のことは、すっかり村の一員だと受け入れてくれました。
そんなある日、モンスターが村を襲いました。
村人達は逃げることしかできず、怖くて足が
そこへ少年が現れ、村の人達を助けるため、見事モンスターを倒しました。
ですがモンスターを倒した少年は村長の夢を壊してしまったと後悔しました。
モンスターと分かり合えると言っていた村長に、少年は合わせる顔がなくなったとそれから村長に会わなくなりました。
その日から毎日毎日モンスターが現れ、その度に少年はモンスターと戦い、そして勝利を収めていました。
その間、少年は毎日毎日後悔していました。
そうして少年がモンスターに連戦連勝を重ねているという噂を聞き、様々な者が村がある山へとやって来ました。
村人達と同じヒューマンや、少年よりも小さい
特に熊人の男とは何度も戦い、そして最高の
そうして村は多くの種族で溢れ、皆が楽しく過ごしていました。
そんなある時、言葉を話すモンスターが少年の前に現れたのです。
「どうか、ワタシとトモダチになってはくださいませんか?」
他の者達は恐れました。
人の姿をして、話せるとはいえモンスターです。
怖がるのは当たり前でした。
ですが少年はそんな彼を受け入れ、友となりました。
そこで少年は、ようやく村長に会いに行き、謝ることができました。
ずっとモンスターを倒す度に
そんな少年を、村長は許しませんでした。
なぜなら、少年は元から悪いことなどしていなかったのですから。
だから、「ありがとう」と少年を抱きしめました。
少年は生まれて初めて涙をこぼしました。
そして少年はその場にいる友と約束を交わしました。
『お前等を
孤独だった少年は、村の者達と家族となり、多くの種族の友を得て、毎日毎日スモウやツナヒキ、カケッコなどをして遊ぶようになりました。
また、
それを聞いた都に住む偉い人が、少年の元を訪ねました。
『君はとても強い。その力を、もっと多くの人をモンスターから護るために、私と共に戦って欲しい』
少年は
『ええ。この力をもっと多くの人のために使えるなら、私は喜んで使いましょう』
と言いました。
そして親友達もオトモとして共に行き、少年と一緒に戦い続けました。
ある時は人を好んで食べる巨大な蜘蛛のモンスターと戦い、ある時は人を襲う妖しき鬼のモンスターと戦いました。
そうして少年と多くの友は偉い人と共に悪いモンスターをたくさん倒したのでした。
お伽噺『ミ⬛︎⬛︎⬛︎ノ・⬛︎太⬛︎』より
────────────────────────
そんな極東のお伽噺を輝夜は思い出していた。
今はアリーゼ達とは別行動をしており、他の【ファミリア】の団員と協力しながら巡回をしているところだった。
先程思い出したお伽話は『アルゴノゥト』が語られた時代より後の物ではあるが、極東では人気のお伽噺だった。
多くの種族、そしてモンスターが手を取り合う物語は正しく夢物語としか言えない内容ではあるが、それでも子供達は目を輝かせ毎晩のように読み聞かせをねだる。
輝夜はあまり聞くことはなかったが、街の子供達がお伽噺を真似て遊んでいる光景は何度か目にしたことがあった。
この話の続きがどうだったかは覚えてはいない。
そもそも、この物語だって誰が語ったかなどわかってもいない。
だからこれは『昔話』ではなく『お伽噺』
誰も見た者がいない『
『アルゴノゥト』も、『フィアナ騎士団』も、その他の物語だって誰もが夢見た『
本当にいるのだと言うのなら、この状況を救っている。
そんなことを思っていた。
「どうかされましたか、輝夜さん?」
「いや、何でもない。くだらないお伽噺を思い出していただけだ」
今は巡回中だ。
アリーゼ達も救助活動が終わり、今は交代で巡回をしていると報告を受けている。
彼女達が頑張っているのに、自分が腑抜けていては絶対笑われる。
輝夜は一層気を引き締めた。
民衆の不安感を
さらにはフィンの言う嫌がらせを行ってきている。
問題が山積みしている中でこれだ。
民衆も冒険者も
だからあんなお伽噺を思い出してしまったのかもしれない。
「私も一度帰って休むか」
そう呟けば、そうならないのが現実である。
「やれ!襲え!無知の罪人どもを血祭りにするのだぁ!」
暴徒と化した
本当に
輝夜達もすぐにその場へと向かい、直ちに鎮圧をする。
自決兵がいれば被害が拡大するため、最早容赦なく斬り捨てたかった。
しかし、アリーゼはなおも
だから敵は再起不能にするように斬っていく。
そうして敵を倒した後、民衆の様子を確認すれば、
「どうしてもっと早く来てくれなかったんだ!」
「貴方達のせいで……貴方達が遅かったせいで、あの人が!」
「こんなに苦しいのも、お前達のせいだ!」
助けても、助けても、感謝ではなく、石を投げられる。
輝夜も他の冒険者も、誰も何も言わず次の場所へと向かう。
次の場所でも、きっと石を投げられるのだろう。
どれ程必死になって、命を懸けて守ろうとも、石を投げられるのだろう。
何が『村人達も少年のことを段々と恐れなくなりました』だ。
やはりあれは、どう足掻いても綺麗事しかないお伽噺だ。
だから忘れよう。忘れてしまおう。
あんな『
何も、誰も、助けてなどくれないのだから。
やはりこんな物語を残した昔の吟遊詩人など、大っ嫌いだ。
────────────────────────
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ひっ!」
「ば、化け物め!」
「好きに言いやがれ!」
金時はフィンの指示通り動き、敵の迅速な対処、避難民の護衛などと忙しなく駆け回っていた。
フィンの読み通りに敵がやって来るあまりの的確さに金時はどこぞの数学教授や名探偵、苦労人の軍師を思い出してしまう。
彼等と比べれば多少劣るかもしれないが、逆に言えばそんな彼等に食らいついていける程優秀な存在とも言える。
数学教授も、名探偵も、軍師も、彼等の人並み外れた頭脳は人の領域を超えている。
無数の計算を瞬時に行い、あらゆるパターンを想定してどのような出来事が起きても九九パーセントは予想通りで済ませる。
彼等を驚かせる予想外の出来事とすれば、予想以上のお人好しの善人たる者の行動くらいだろう。
そして、金時もその善人のことは好いていた。
相手がどんな悪性を持っていようとも、相手がどんなに狂っていたとしても、『彼/彼女』は受け止めていた。
受け止め、受け入れ、そして共に笑っていた。
不思議な子供だった。
あぁ、懐かしいなぁとそんな風に思いにふけるが、思考を切り替える。
今の指揮官たるフィンはかなり優秀だ。
先程述べた者達に至らずとも、彼の本質はそこではない。
おそらく、彼は士気を上げる天才の類いだと推測する。
ローマの太ってしまった皇帝やギリシャの英雄達を率いた船長と同じく、できないことをできると思い込ませ、それを実現させる。
人はそういった者を
きっと、フィンは優れた英雄へと至るだろう。
この困難を乗り越えた先に、更なる困難が襲いかかって来ようとも、彼はきっと仲間と共に乗り越えられる。
それがフィンと少し過ごしていた彼の感想であった。
だからまずはこの暗く先の閉ざされた道を切り開こう。そう考え敵を
「素晴らしい、実に素晴らしいとも」
金時はその男に見覚えがあった。
一連の騒動を引き起こし、大々的な宣戦布告を行ったこの事件の首謀者たる原初の幽冥にして地下世界の神と名乗った男、エレボス。
エレボスは護衛を最低限しか連れておらず、全員が下っ端であり、下手をすれば彼は金時に殺されかねない状況であるにも関わらず、彼は尊大に、傲慢に、高圧的に、余裕
そのことに金時も違和感を感じ、ただエレボスを睨みつけていた。
「てめぇは確か、敵の神サンだったな?」
「いかにも。初めまして
「………」
言葉は薄っぺらく、そこに何の感情も込められていない。
ただ機械的に、そうプログラムされているかのように声をかける。
聞くものが聞けば何とも胡散臭く、何とも不気味であろうことか。
エレボスもまた、挨拶をしたというのに返事をしてくれない金時に少し残念そうに眉をひそめる。
「おや、口すら聞いてくれないとは、嫌われてしまったものだなぁ」
「別に。てめぇと話すことがねぇだけだ」
「なるほど。だが私は話したいと思っている」
ほとんどが嘘。
話したいという言葉のみ本当で、後はどうでもいいとでも言いたげな声と表情。
金時の嫌いな類いだ。
かつて戦った
多少なりとも
だからふと言ってみる。
「けっ、ならタイマンでもするか?男が語るっつったら殴り合いしかねぇだろ?」
ニヤリと笑いながら拳を構えれば、目の前の神は予想通りの返事をする。
あぁ、やっぱり気に食わない。
「はははっ、それは困る。見ての通り私は貧弱でね。殴り合いは不得意なのさ」
「そうかよ。なら───」
金時が早々に話を切りあげ、その場を去ろうとする。
もう話すことなどなく、彼と話している間にも多くの民衆が襲われている。
その命を少しでも助けるために、掬い上げるためにもこんな軽薄な男と関わっている暇などありはしなかった。
だが、エレボスはそれをわかって引き止める。
本当にタチが悪い。
「まぁ待てよ、
「………」
金時が呼ばれて思わず足を止めてしまう魔法の言葉。
既に答えは得ている。既に迷いは振り切っている。
しかし、それでも、そうだとしても立ち止まってしまう。
その神意を聞かねばならないために。
「君のことは何となくわかるとも。君達はこの世界に呼ばれたのだろう?そして、その呼びかけに応えたから、どこからともなく現れた」
「………」
何故だ?何故この男は知っている?
英霊という存在が他にいたとして、一体誰がいる?
もし他に喚ばれている者がいるなら、どうしてこの場に助けに来ない?
そもそも、これはどういう意図で聞いてきている?
鎌をかけたか?それにしては具体的過ぎる。
ならば、この男は知っているというのか?
英霊という存在を。
「俺も色々と下界は見て回ったんだ。だから、最初はリオン達と共にいたあの子を見て多少の違和感を感じていただけだった」
エレボスはたまたまリオンと共に巡回していたジャンヌを見つけた。
その時はエレボスもわからなかった。
どこか違和感を感じる。
しかし、その違和感の正体が分からなかった。
だから見つけても声をかけなかった。
目の前の少女が、一体どういう存在なのか、決めあぐねていたから。
「でも、君が現れた。君を見て、すぐにわかったよ。君は人の皮を被ったモンスターだと」
エレボスはあえてこの言い方をする。
金時を見て、エレボスは直感的に理解した。
コイツはこの世界の存在ではないと。
そこからはジャンヌに感じていた違和感もすっと解けた。
彼女もまたこの世界の存在ではない。
金時も、ジャンヌも、招かれざる客なのだと、理解できた。
ザルドやアルフィアとも違う存在感。
周囲に嫌でも与えてしまう影響力。
彼らは完成された『真の英雄』なのだと大いに納得した。
これが金時でなければ、
だが、龍と
故にロキは嫌った。
人と神では、見ている
「……そうかもな」
「認めるのか」
金時もそれは勘づいていた。
神と人の感じ方に明らかな差があると、ロキとの一件で嫌でもわかってしまった。
この世界では、例え雷神たる赤龍であっても、神からすればモンスターにしか見えないのだと気付いた。
モンスターとモンスターの子供。
それは言わば
強いモンスターと強いモンスターの掛け合わせなど、化け物以外の何者でも無いと、知っている。
それが普通の者ならば傷付き、生きる意味すら見失っていたのかもしれない。
だが、答えを得ている者には、それは
「あぁ、アンタ達神サンにはオレはきっと醜いバケモンに映ってるんだろうさ。だがな、オレのことを『人間』だって言ってくれたやつがいるんだよ。だからオレはそいつらのためにこの力を奮う。例えどれ程罵られようとも、オレは戦い続けるさ」
金時は知っている。
未来を託す者達の勇気を。
今を生きる者達の笑顔を。
明日を想う者達の尊さを。
どれも大切で、何ものにも変えることができない、誰もが持ちうる偉大さを、金時は知っている。
だから彼は戦う。
戦えない彼らのために。
声なき声を聞いた英霊の一人として。
彼は、その力を
それが、坂田金時という男の生き様である。
「───あぁ、そうだろうとも。君達は、うん、やはり素晴らしい」
「あぁ?」
エレボスは、そんな金時を見て笑う。
嘲笑でも、苦笑でも、冷笑でもなく、優しい目つきで子供を想う親のように優しく笑う。
彼は、
「いや、何でもない。こちらの話さ」
「アンタもよくわかんねぇなぁ」
思わず敵同士だということも忘れて話してしまう。
周りの護衛達は周りの警戒に集中しているためか、二人の会話など聞いていなかった。
だから今だけは、彼らはそんなことを忘れて話すことができた。
そうなるようにエレボスが仕掛けたと気付かないまま。
「そうかい?これでもかなりの悪党だと自負しているんだが」
「甘ぇな。本当の悪党ってやつはもっと悲惨だぜ」
「へぇ、どんななんだい?」
「決まってる。人の不幸を楽しみ、人が絶望するその姿に興奮して、人が壊れていく様を歓喜するようなやつさ」
「おぉっと予想外の答えが返ってきた」
金時の知る本物の話を聞き、思わぬ答えにエレボスは目を丸くする。
そうか、彼も本当の悪を知っているのか。
つくづく驚かされるとエレボスは嬉しそうに笑う。
そんなエレボスを気にした様子もなく金時は自分が会った悪について話す。
「何よりそいつは自分が外道だと理解しながらそれを嬉々として受け入れて実行するようなやつだ」
「ふむ、それは悪党を通り越した外道では?」
そうだ。
それはただの悪ではなく、快楽を求める狂人の類だ。
狂っていると自覚しながらもなおも狂うことを辞めない。
辞められない、のではなく、辞めない。
あまりにもタチが悪すぎる。
悪党よりもよっぽど悪をしている。
そんな指摘をすれば、金時も納得したように頷く。
「かもな。あー、そうだな。悪党と外道の違い?つーのはわかんねぇけどよ、悪党って呼ばれる連中が持ってるモンは知ってるぜ?」
そこでふと思い当たるものがあった。
正義にも、悪にも持っているもの。
創作物において、悪党と呼ばれる者達は外道と呼ばれる者達よりも遥かに人気が高い理由。
悪党であるからこそ、悪役を理解しているからこそ、彼等が持つそれは正義の味方にも劣らず輝いている。
エレボスは聞きたい。
金時の持つ、一種の答えを。
「ほう、それは?」
「
「……」
悪役を悪役たらしめるもの。
正義と対立し、それでもなお誇り高く持ち続けるそれを、金時はある意味尊敬していた。
数々の凶悪犯罪を起こして最後には名探偵に敗れた悪のカリスマを。
国を守るため数多の敵を葬ったが故に怪物として語られてしまった王を。
そして何より、快楽のまま、自分が思うがままに生き、その結果討伐されても恨みも呪いも吐くことなく散った鬼の頭領を、知っている。
世間で悪党と言われようとも、金時はその者達の信念を知っている。
例え一生懸けてわからずとも、彼らの生き様に敬意を持っている。
だから、目の前のエレボスのその在り方に金時は気付いた。
「揺らがねぇ信念を持ってる。アンタだって見りゃわかる。確かな信念が感じられる」
「褒められるような物は持っていないんだがね」
「そんなことは知らねぇけどよ、でも、アンタは悪ぃ神サンじゃねぇよ。いや、ガキどもを泣かせたからそこは許せねぇが」
悪党であると断じてなお、金時はエレボスを悪ではないと言った。
どれ程の命を手にかけたとしても、金時の目には確かな誇りを持っている男だと映っていた。
許せないことは多々あれど、特に許せないことが子供を泣かせたことであることが真っ先に出てくる辺り、正真正銘のお人好しではあるのだが。
「……ふはっ、ふはははははははは。なるほど、聞いてた以上のお人好しだ」
「余計なお世話だ」
エレボスは爆笑し、金時は恥ずかしくなってしまった。
そんな彼を見て、エレボスは更に込み上げる笑いを何とか堪え、金時へ別れを告げる。
「引き止めて悪かった。どうか、その姿を、在り方を、今を生きる者達のために奮ってくれたまえ」
「言われなくともやってやるさ」
「あぁ、楽しみにしているよ」
金時は
周りの部下はその余波で気を失ってしまったことにつくづく人ではないと思い知らされる。
だが、その中に秘める心は、何よりも人間らしいその姿にエレボスは嬉しく思う。
きっと彼ならば、こちらの用意する困難にも恐れず立ち向かってくれるだろうと。
そして何より、その困難さえも打ち砕いてくれるだろうと。
「これは、ちゃんと準備を進めなければな。きっと、下界を生きる彼等にとって、これ以上無い光景となるだろうさ」
エレボスは新たな楽しみを見つけた。
この舞台は多くの勇気と覚悟が求められる。
だから、その火付け役を彼等に頼むとしよう。
この混沌たるオラリオに、確かな進むべき『光』として、その勇姿を見てもらおう。
『絶対悪』だからこそ、『光』を求めるのは、間違ってはいないだろう?
「また会おう、
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