シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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「────成程。それで私達を」
セミナー3人と入れ替わるように入室したのはエンジニア部の3人。アリスに光の剣を託した鍛治達は、今までの話を聞き────そして。
「勿論協力しよう。支援は惜しまないさ」
と、随分とあっさり協力を承認した。先のセミナーの差押品保管所襲撃と同じようなフットワークの軽さ。
リオは勝手にエンジニア部最大の発明品を奪って行ったのだ。スーパーノヴァの実戦データを集めるという目的を邪魔した以上、エンジニア部に対する事実上の宣戦布告と受け取れる。売られた喧嘩はなんとやら、エンジニア部の部長として到底看過する事は出来なかった。
というのが建前。本音はもっと簡単だ。彼女達もアリスを好いていて、大事にしていた。最高傑作とも呼べる光の剣も託したし、それ以外の支援もしていて可愛がっていたのに……お別れすら言えず、その場に立ち会う事すらできなかった。
そんな悲しい別離なんて、納得できるはずがなかった。
「座標は確認できたけど、問題は潜入方法だね。用心深い会長ならきっと、対侵入者用の防御システムを構築しているだろうから、何の準備もなく接近したら……エリドゥが何故要塞都市と呼ばれているか、身を以て知る事になるだろうね」
「じゃ、じゃあどうすればいいの!?」
「近づく事も難しいなんて……」
「────だけど、それはあくまで何の準備もなく、普通に接近した場合の話だよ」
双子の悲観を打ち払うようにウタハは言葉を紡ぐ。確かに通常の手段……陸路や空路で侵入しようものなら迎撃システムに引っ掛かってそのまま叩き落とされるだろう。撃墜される事を承知で特攻するならば別に良いだろうが、今回は行ったきりの鉄砲玉では駄目だ。目的はアリスの奪還。彼女を連れて、全員でミレニアムの地に戻ってくる事が最低限の勝利条件。捨て身も自爆特攻も許されない。
しかし、それがかなり難易度が高い事は全員承知していた。あのリオが要塞都市と名付けるエリドゥ、想像の範疇にある迎撃システムは全て最高品質の物を備えているだろうし、此方が考えも及ばないようなシステムが設置されているかもしれない。それを掻い潜り、無傷で侵入するのはかなり骨が折れるだろう。
だが────それは、あくまで通常の手段の話。別の……リオが用意した……厳密に言えば、用意せざるを得なかったルートを通れば、もう少し安全に事を運べるだろう。
「都市建設の人手だけだったらリオ会長のドローンだけで事足りるだろうけど、資材となると話は変ってくる。無から有は作れないからね」
「うん。ミレニアム自治区の郊外には、輸送用の無人列車がたくさんある……」
「都市建設の資材をミレニアムから運んでいたと仮定するなら、路線のどれかがエリドゥと繋がっている可能性が高い」
ウタハはあくまで仮説として話していたが、内心では先の言葉が殆ど真実であると確信していた。
リオはミレニアムの会長。その肩書に見合う絶大な権力を持つが……その権力が及ぶ範囲は自治区の中だけだ。学区から出れば、その決定権が及ぶ範囲は他の生徒と大きな差異はない。建材の購入は横領した資金で外部から買っていたとしても……機密を確保する目的があるのならば、資材の運搬は自分の手でやらなければならない。
となると、必然的に自由が効き易いミレニアム自治区内の設備を使用するだろう。そして、都市建設が出来るだけの資材を効率的に運搬できる設備となれば輸送用の無人列車しか考えられない。
「じゃあ、路線さえ分かれば……!」
「あぁ、エリドゥに行けるよ」
「で、でも、路線はいっぱいありますよね……? どうやってエリドゥに繋がる路線を探せば……?」
「そこで私達の出番だよ。道は私達がどうにかしよう。そこで、ヴェリタスの協力も仰ぎたいんだけど……頼めるかな?」
「勿論です。私達も協力は惜しみません」
故に、次の議題は。
「────どうやって連れ戻すかだね。多分、ここが一番難しいポイントだと思うんだけど……」
「えぇ。要塞都市と呼ぶくらいですから……リオ会長には万全の備えがあるのでしょう」
「都市のセキュリティは勿論、防御システムもかなりのレベルだと思うよ」
「それに、要塞都市のセキュリティと防御システムを突破してもまだ問題が残っている」
「話を聞く限り、リオ会長の護衛をしているメイドが一番の障害ですね」
「トキさん……でしたよね?」
飛鳥馬トキ、C&Cのコールサイン
「あの時の、彼女の動き……まるで……」
「うん……チートプレイヤーみたいだったね……」
現実はゲームと違う、という事を加味してもそう言い表すしかないほどの強さ。幾つかの好条件が重なっていたとはいえネルを碌な反撃すら許さず一方的に叩きのめすのは、何か質の悪い夢かジョークかと思ってしまうほど現実味がなかった。
単純な強さ、で言い表せない異質な何か。ネルが『からくり』といったその不明瞭を彼女達は『チート』であると捉えた。つまりは、何か仕組みやロジックがあるのだ。あの出鱈目を支える裏側には、必ず何かがある。
「……兎に角、アタシ等に必要なのは作戦だな」
「────え?」
今、有り得ない人から有り得ない言葉が聞こえた気がする。そう言わんばかりの顔を向けた先には真剣な表情のネルが座っていて。
「ね、ネル先輩? 大丈夫? 熱とかない?」
「もしかして、大けがした反動で……」
「あぁ? なんの話だ? つーかお前等はアタシよりも自分の心配をしろよ」
心配の声を投げかけてもぶっきらぼうな親切心が返ってくるばかりで、真剣な表情は消えない。『まさか、本当に頭を……』とネルに物凄く失礼な事を思った時、C&Cのメンバーが少女達に耳打ちして。
「……任務モードの部長だ」
「そうそう! 仕事モードになった部長はと~っても真面目なんだから!」
「ふふっ、実はそうなんです」
「な、なるほど……!」
そもそも、真面目でなければ武力を行使する組織の長になれていない。リオは癇癪玉、とネルの事を称していたが、その真面目さは買っていたのだ。C&Cの部長を任せる程度には。
「うーん……ネル先輩、どういう意味か聞いてもいいかな?」
「無事要塞都市に着いたとしても、だ。其処がリオの領域である以上、アタシ等の動きは丸見えだ。誰が何と言おうが、アイツはビッグシスターだからよ」
「えーっと、つまり?」
「単純な話だよ。あれこれ浅知恵をこねくり回す暇があるんだったら、初っ端から突っ込んだ方が良いって事だ。この面子でリオに頭脳戦を仕掛けても勝てる訳がねぇ。先生かヒマリが居れば話は別だったんだが……居ない奴は頼れないからな」
「ですが部長、それこそリオ会長の思うツボでは……」
「だから作戦が必要つってんだよ」
ネルはその顔を大胆不敵に歪めて。
「正確には、陽動作戦か」
「陽動作戦……」
「このゲームの勝利条件は単純明快だ」
────アタシらがやられる前に、
それ以外には勝利条件は存在しない。敗北条件はアリスの死、またはメンバーの脱落。
ならば、やるべき事は唯一つ。
「アタシ等C&Cが正面から突っ込んで騒ぎを起こしてやる。そうしたらリオはアタシ等側にトキを派遣せざるを得なくなるだろ? ついでにドローンも引っ張り出せたらベストだ。アタシ等がエリドゥの戦闘能力を釘付けにしてる間にお前達がチビを救え。どうだ? 簡単な話だろ?」
「でも、それだとネル先輩達の負担が……」
「あ? アタシを誰だと思ってやがる」
余りにも頼もしすぎる言葉。自分こそがミレニアム最強であるという自負が現れた、ネル以外が発しようものなら傲慢とも呼べる宣誓。
「アイツには一杯食わされたからな。次会ったらやり返してやるって決めてたんだよ。後は、それを実行するだけだ」
「……分かった、従おう」
「うんうん! 私達に任せて♪」
「ふふ、精一杯頑張りますね」
C&C全員が味方となり、共に戦ってくれる。その安心感は途轍もない。彼女達の強さは一度戦ったから身に染みて分かっている。このメンバーなら、エリドゥの強固な防御を突破できる可能性はあるはずだ。
「それでは、これで決まりですね。正面は私達C&Cが担当いたします」
「あぁ、最低でもトキはアタシが、ドローンはアスナ達で足止めする。お前達はアタシ達を気にせず前へ進め」
「後方から侵入するのはその他のメンバー……ゲーム開発部と私達かな?」
「私達ヴェリタスは遠隔で支援するね」
「防衛システムのハッキングは私達に任せて!」
「はい、完璧にやり遂げてみせます」
作戦は決まった。
まずはC&Cが突入し、正面で暴れて陽動を引き受ける。恐らくリオは自身の手札の中で最も強力なトキを投入し、ネルにぶつけるだろうから、ネルは彼女を足止めする。他のメンバーにはドローンを投入するだろうから、併せてそれも足止め。エリドゥの戦力を分断する。これは目立てば目立つほどいい。兎に角派手に暴れて、リオの意識のリソースを此方側に多く割かせる。
その後はゲーム開発部とエンジニア部が突入する。この時の突入経路はC&Cと別が望ましい。C&Cがエリドゥ側の戦力を引き付けている間に中央タワーに向かい、アリスの奪還を目指す。
防衛システムやセキュリティの解除は遠方からヴェリタスが行い、彼女達を支援を行う。
「ヴェリタス、エンジニア部。ルートの割り出しにかかる時間は?」
「1時間……と言いたいところだけど、10分で済ませるとも」
「上出来だ。作戦決行は10分後。各自、準備は済ませておけよ」
ネルはそう言い放ち、モモイに視線を配る。最後はお前が締めろ、と言わんばかりに。その意思を受け取ったモモイは力強く頷いた。
「よし、これで行こっか! 目標は要塞都市エリドゥの中央タワー、屋上付近! アリスが連れて行かれた場所! 勝手に家出したアリスを! 私達の手で連れ戻すんだよ!」
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10分後。作戦のブリーフィングも済ませた少女達はその手に銃を取る。アリスを奪還するために、彼女が何度だって憂いなく笑えるように。
「────作戦開始!」
姫を救う戦いが、始まった。