シャーレ活動備忘録 作:遊園市街
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燃え上がる炎と、風に乗って運ばれる熱。ひび割れたコンクリートの上には空の薬莢と爆破したビルの破片や撃墜されたヘリの残骸。原型を留めていないほど暴虐の限りを尽くされたAMASのなれ果てが街を破滅的に彩り、また1つ刹那的な花を咲かせる。
「やっほ~!」
アスナの心底明るい声音と、相反する様な圧倒的な暴力。AMASは彼女の弾丸の前に成す術なく鉄屑となり、瞬く間に壊滅する。そして最後は爆発し、辺りにドローンだった何かがまき散らされた。
「あははっ! どんどん爆発してく!」
「……これで、100台目」
動力部を一撃で射貫いた所為か自爆が行われず比較的原型が残っている残骸に足を掛けたカリンは息を1つ吐きだして、銃のリロードを行う。
────あれで100台目。3桁の大台を突破した。だが、ドローンの数も勢いも一向に減っておらず、向けられる殺意と銃口の数に減少傾向は見られなかった。これでは突入前に想定した数字を上方修正する必要があるだろう。
1体の戦闘能力は別段高くなく、精々その辺りのドローンに毛が生えた程度。しかし、数で押されると少々面倒なものがあった。弾薬にだって限りがある。別に銃が無くても徒手空拳で戦う事もできるが、効率は格段に落ちてしまうのだ。戦局を決めるスピードが今回の肝であるため、撃破効率が下がる事は歓迎できない。
「……終わりが見えない」
「えぇ、想定より数が多いですね」
カリンの隣に音もなく降り立ったのはアカネ。そして、一拍置いて爆発音が轟き、何かが崩れる音。音の聞こえる方角に目を向ければ丁度真ん中あたりからビルがへし折れ、倒壊している途中だった。眼を凝らしてよく見れば中には大量のAMASが倒壊に巻き込まれて右往左往しており、数秒後には全機が瓦礫と区別がつかなくなるだろう。
間違いなくアカネの仕業だろう。ドローンを可能な限り引き付け、爆弾を大量に仕掛けた逃げ場のないビルに閉じ込め、あとはタイミングを見計らってビルごと爆破。ネルは言わずもがな、彼女も周りを一切気にせず伸び伸びと戦えていて、かなり活き活きしているように見える。
そういえば部長は、とカリンは思って視線を上げると……彼女は空戦型AMASと超高速のドッグファイトを繰り広げていた。尤も、超高速なのはネルだけであり、ドローンは彼女の圧倒的な速度と攻撃力を前に成す術なくスクラップになるばかりだが。
足場にしたビルがみるみるうちに建築物としての体を保てなくなり、二丁のSMGが直線状にあった一切合切を薙ぎ払う。破壊し、失墜するドローンすらも足場にし獰猛に敵を狙い続けるその姿は宛ら猟犬や獅子。生粋の捕食者が今の彼女を形容する言葉として最も相応しいだろう。
「……今の所、派手に暴れて騒ぎを起こす、という陽動の目的は達成できていますが……」
アカネは時計を見る。もう直ぐ本命部隊がエリドゥに突入する時間だ。ポイントから引き離せたドローンは何機か分からないが、それでも彼女達の突入が少しでも楽になる事を祈ろう。そう思い、アカネは爆弾でドローンのお掃除をしようとした時────カリンが弾かれたように顔を上げた。約200m離れたビルの屋上、自身達を見下ろす人影。
「そこッ!」
照準を合わせ、引き金を引くまでに1秒足らず。一切のブレも狂いもない、脳天を直撃するコース。着弾までコンマ数秒のオーダーであり、如何なる強者であっても見てから反応する事はほぼ不可能。反射神経の限界という、人体の構造上仕方がない問題が横たわっているのだ。だが────。
「避けた……?」
「あら」
「わぁ! すご~い!」
ひょい、と軽々しく。人影はカリンの弾丸を躱した。まるで初めからそこに来ることが分かっていたように。攻撃の先読み、という生易しい次元の話じゃない。アレは最早、未来予知と同等レベルだ。
「……お出ましだな」
カリンは煙吐くライフルを下ろし、その視線を鋭くする。あの人影こそがリオ側の最高戦力にして、不明点。彼女達の前に立ち塞がる────最大の障害。
此処までは想定通り、後は少女の相手をネルが────と思ったら、既に彼女は少女の背後に居て。
「────ッ」
「此処はアタシの距離だ」
その華奢な足を振り抜いた。
咄嗟に展開される積層型電磁シールド。絨毯爆撃すら防ぎきるリオ手製の専用装備。だが、ネルはそんなものはお構いなしに脚力を解放しシールドの上から思いっ切り少女を蹴り抜く。圧倒的な膂力に裏打ちされた蹴りは少女が立っていたビルの角を崩し、爆発したように瓦礫が舞う。降り注ぐ破片は容易く人を殺傷せしめる巨大な殺意、運悪く真下に居たAMASは回避する間もなく瞬く間に全滅。そして、蹴られた本人たる少女は弾丸の様な勢いで着弾し、コンクリートが捲れ上がり地面が揺れた。
例えヘイローを持つ少女であっても確実に意識は刈り取れる威力だった。どれだけ強くても戦闘能力はがた落ちしているだろう。だが────煙が晴れた後には、一切の手傷を負っていないトキが涼しい顔で立っていた。盾にしたであろう電磁シールドは見るも無残な姿に成り果てているが、それ以外は一切無傷。服に汚れすらついていない。
その光景にC&Cも驚愕するが……同時に納得した。確かに、この実力であればネルを抑え込めるだろうと。そして、その強さにからくりがある事も分かる。彼女本人も勿論強者であろうが、それを後押ししている何かが存在しているのだ。恐らくはリオの何かしらだろう。少し厄介だな────と彼女達は意識を鋭くした。
「取り敢えず、あん時の借りは返したぜ……新人」
ビルから降り立ったネル。好戦的に歪んだ笑みを浮べる彼女とは対照的に、少女は鉄仮面のように無表情であった。ネルの声に対する反応も見せず、破壊の限りを尽くされた要塞都市の成れ果てを氷のような瞳で一瞥し……そして、最後にC&Cの4人を見る。
「……お待ちしておりました、先輩方。C&C所属、コールサイン
芝居がかった優雅な所作でスカートを摘まみ、トキは深々と頭を下げた。
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C&Cが地表で派手に暴れている時と同じくして、ゲーム開発部とエンジニア部はエリドゥ内部の駅に進入していた。薄暗い非常灯に照らされる無人駅。恐らくは資材置き場も兼ねているのだろう。整理整頓された様々な物資が辺りに積まれていた。しかし、それらを片付けてスペースを確保すればキヴォトスに多くある駅と大きな差はない。人が生活する事を想定しているような構造であるのに、人の気配も生活も一切感じない事が不気味さを助長させていた。まるでこの世ならざる場所に足を踏み込んだような、あるいは霊長類が死に絶えたポストアポカリプスのような……そういった、非現実感が景色の裏側に燻っている。
「此処が……」
「エリドゥ……」
「此処にアリスちゃんが……」
きょろきょろと辺りを見渡しても、資材とレール、列車以外には何もない。人も、ドローンも。不気味なほどに静まり返った場所だからか、呼吸音と足音、布の擦れる音だけがやけに響く。金属をそのまま打ち付けた様な簡素な階段を使って列車から降りると、冷たい空気が肌に張り付いた。
「よし、想定通り物流輸送用無人列車でエリドゥに来れたね」
「うん、ヴェリタスが手伝ってくれたおかげ」
「流石ヴェリタスです! まさか列車のシステムごとハッキングしてくださるとは!」
『ちょっと言葉に棘ない? 気のせい?』
彼女達の言葉の節々から『お前達も来い』という棘が感じられたが……ハレは『まあいいや』と軽く流した。ハードを扱うエンジニア部と違い、ソフトを扱うヴェリタスは侵入経路さえ用意されていれば仕事はできるのだから。
『……気を付けてね。その通路の先、地上に出たらもう完全にエリドゥの敷地内だよ』
『一応、ちゃんとモニタリングしてるから安心してね!』
『ですが、此方で拾えなかった何かが突然現れるかもしれません。此処は既にリオ会長のテリトリーです。くれぐれもご注意を』
その言葉に誰もが息を呑み、銃を握り締める。ウタハも雷ちゃんの調子を確かめ、スタンバイモードで起動させた。此処は既に相手の領域内、何が飛び出してきても不思議ではないのだ。特に今回の相手はあのリオだ。想像の上を行くとんでもない兵器やら何やらの相手をしなければならない可能性がある。油断なんて出来る訳がないのだ。
そう思っていると、上……地表から振動が伝わり爆発音が聞こえてきた。一回ではない、断続的に、何回も。激しい戦闘が起こっているようだった。
「……C&Cの降下が成功したようだね。現在はドローンとリオ会長直属のC&C……確かトキ、だったかな? 彼女と交戦中だ。随分派手に暴れてくれているようだね。おかげで此方側の守りが手薄になっている」
「マキ、そっちはどうなってるの?」
『大混戦も大混戦。ホント、とんでもない事になってるよ!』
マキはC&Cを映しているモニターを視ながら『うひゃー』と感嘆の声を漏らす。少し前にC&Cに喧嘩を売ったが……今思うと随分命知らずな真似だと思う。兎に角、ネルが途轍もない。一人だけ生きている世界が違う。そして、そんな彼女と真っ向勝負できているトキも凄まじいし、他のC&Cもネルには劣るが出鱈目な事には違いない。C&Cがミレニアム最強の武力集団だと言われている理由が言葉ではなく目で以て分かった瞬間であった。
────リオもC&Cが陽動で本命がゲーム開発部達である事は見抜いているだろう。だが、関係ないのだ。見抜かれようが見抜かれまいが、相手に無視できないと思わせる事ができればそれで良い。そもそも、バレずに侵入なんて都合の良い事ができるとは思っていない。最初からバレる事を前提で、速攻を仕掛ける。相手に立て直す隙も、戦力を集中させる隙も与えない。スピードこそがこの作戦の肝だ。
そう考えると、この作戦は今の所順調に事が運んでいると言える。リオ側の最高戦力と思われるトキと大量のドローンはC&Cに釘付けにされ、守りは手薄。ならば、後は勢いのまま行ける所まで────そう思った時、皆の前に数機のドローンが姿を見せた。
「おや、中々素敵な子だね。迷子かな?」
「いやいや! 迷子じゃないよウタハ先輩ッ! これ、リオ会長のドローン!」
「分かってはいたけど、早い……!」
リオのドローン、AMASの襲来。気付かれているとは思っていたが、それでもドローンを送り込むまでのスピードが速すぎる。弾かれたように銃を構える突入部隊のメンバー達であるが……その様子がおかしい事に気付いた。現れただけで、銃を一向に撃ってこない。見物に来ただけのようにも見えるドローンを訝し気に眺めていると……再び通信が入った。
『大丈夫、そのドローンは攻撃してこない』
『バレる前に制圧終わってるよ! ついでに周辺のネットワークは私達でハッキングしたから、地上までは安全に出れるはず!』
「わ、そんな事も出来るんだ……凄いね……!」
「ヴェリタスだからできた事だね。ここまでは悪くない走り出しだ」
そう言い、各々が銃を持ち、引き金を指に掛ける。ヴェリタスがハックしたドローンは確かに襲ってこないだろう。だが、カウンターハックされる危険が無い訳ではないのだ。敵は倒せるときに倒すのが鉄則、逃がす理由はない。
誰かに急かされる訳もなく、正確無比に弾丸を打ち込みドローンを破損。完全な沈黙を確認した後、彼女達は地上へと続く階段を駆け上がった。