シャーレ活動備忘録   作:遊園市街

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要塞都市の所以

 降り立った……と言うよりは、ネルによってビルから叩き落とされたトキは遂にC&Cの前に姿を見せた。生徒の名簿にすら記載されていない顔と名前。だが、その身に纏うメイド服と佇まいが彼女が紛れもなくC&Cのコールサイン持ちである事を証明している。

 話に聞いた通りの手練れ。立ち姿の何処にも隙が無い。向けられている視線も此方の出方を観察するような色があり、万事に対応できるように意識を研ぎ澄ませている。ジャイアントキリングなんて叶わない。彼女と戦って勝ちたいならば単純な実力で上回らなければ不可能だろう。

 

「思ったよりも早く現れてくれましたね。ですが、誤差の範囲内です」

「私達が此処に来るのは最初からお見通しだったという訳だ」

「はい。リオ様は全て把握しておいでです。C&Cの判断も、その動きも────勿論、その狙いも、全て」

 

 全て見え透いているが故に、全て掌の上。当然この状況も想定内であるし、イレギュラーなんて無い。リオが描いたシナリオ通りに現実は奏でられている。予定調和の三文芝居の如く。この盤上に居る限り、彼女達は決して敗北を覆せない。その事を誰よりも知っているトキは深々と頭を下げて。

 

「ですので、僭越ながら申し上げます。これ以上の抵抗は無意味です。大人しく投降をお願い致します」

 

 ────だからどうか、投降を。

 トキは別段、積極的に誰かを傷つけたい訳でも戦いたい訳でもない。それが同じ部活の先輩ともなれば猶更だ。同じ部活の仲間……などと云う烏滸がましい事を言うつもりはない。

 ネル以外は初対面であり、アカネも情報は掴んでいたものの顔を合わせるのは初めてだ。そんな状態で仲間、なんて言っても説得力がない。薄っぺらい関係性で変に仲間意識を持たれても相手(先輩達)だって迷惑だろう。それでも同じ学校の、同じ服を纏っている者として……彼女達の身を案じる自由位はある筈だと。

 

 リオの命令にはなかったはずの行為。トキなりの優しさと善意が表れた進言であったが────それは、C&Cを逆鱗を逆撫でした。

 

「ほう……なるほど」

「う~ん、それはちょっと難しいかな?」

 

 C&Cを舐めているとしか言えない降伏勧告にカリンの瞳が鋭くなり、アスナが笑って銃を構える。

 降伏? 冗談じゃない。そんな腑抜けた選択をするくらいなら最初からこんな所に来ていなかった。ネルの意志でリオに歯向かう事を決めたのだ。一人だけ訳知り顔でアリスを殺そうとするあの決定が気に食わないから助けに来たのだ。彼女達が意志を折るのは部長が折れた時だけ。そして、そんな事態は未来永劫起きない事は身に染みて分かっている。

 

 詰まる所、交渉決裂。一昨日来やがれと言わんばかりに銃口をトキに突き付けると────途端、トキの隣にあったAMASの残骸が爆発した。

 

「……!?」

「わっ、ビックリした!」

 

 咄嗟のバックステップでダメージを回避したトキであるが、メイド服のフリルが僅かに煤で汚れた。白に重ねられた黒は良く目立ち、それを何とも言えない無表情で見つめたトキは煙の奥に居る人物を冷たく射貫く。C&Cの4人のうち、爆弾魔なんて1人しかいない。

 

「あら、やはりこの程度では相手になりませんか」

「あ、アカネ……?」

「……室笠アカネ先輩。戦闘では爆発物を利用した広域制圧を得意とする────C&Cの要注意人物」

「ふふ、初対面の後輩にそう言われると少し照れくさいですね。先ほどのはあくまでも挨拶のつもりだったのですが……」

 

 挨拶代わり、と言うが……あわよくば意識を刈り取ろうとしていたのだろう。残骸という意識から外されやすいものに仕掛けられたトラップ(プラスチック爆弾)に加えて、ノーモーションの起爆。爆発自体を回避できたとしても飛び散る破片が第二の凶器となるため、無傷での回避は困難極まる。だが、それでもトキは回避してみせた。話に聞いていた通り。

 

「────」

「初めまして、後輩さん。トキ……でしたね? 先日は部長が大変お世話になったと伺いました」

「世話にはなってねぇよ」

 

 ぶっきらぼうなネルのツッコミを無視して、アカネは自身の後輩にして────敵である少女を見る。可憐な笑顔の裏に純粋な感情を隠して。

 

「それに……投降しろという丁寧なご勧告まで頂くなんて……ふふ、貴女がリオ会長のボディーガードを務めている事は伺っていましたが……全く────C&Cを見くびってもらっては困りますね」

 

 純粋な感情とは、即ち怒り。アカネの攻撃性が発露する。C&Cを侮辱されたのだ。ミレニアムが誇る最強のエージェント集団たるC&Cを。数多の任務を乗り越え、輝かしい栄光を打ち立てた仲間達を……無意味と嘲った。腸が煮え繰り返るのも道理というもの。たとえそれが善意から生まれたものであっても、可愛い後輩にして同じC&Cの仲間からの言葉であっても……許せぬものがある。容認できぬものがある。

 共に『最強の集団』という称号を背負う仲間たちを侮辱されて、冷静でいられるものか。

 

「目には目を、歯には歯を。本日はそのために来ておりますから」

 

 故に、暴力には暴力で返礼する。あの日ネルを捩じ伏せたのと同じように捩じ伏せるのだ。そこに加減も容赦も必要ない。

 

「貴女は確かに強いのでしょう。隠し玉は多くあれど、恐らくは貴女こそがリオ会長のとっておき、懐刀となるのも頷けます。ですが、無敵ではありません」

 

 カリンの狙撃は回避された。必殺必中のタイミングと速度であったのにも関わらず、難なく。

 それに対して、ネルの蹴りは回避ではなく防御をした。手札の1つである電磁シールドを展開し、防御に専念し、ダメージを0にした。

 アカネの爆撃は回避されたが、今まで汚せなかったトキのメイド服に煤汚れを刻んだ。

 

 後半二つに共通するのは、トキの行動と対応が咄嗟であった事……読まれていなかったのだ。攻撃の起点はトキの背後と、トキの後方足元────死角。つまり、トキの未来予知にも等しい能力はトキの視野の範囲内でのみ効力を発揮すると推定できる。

 この考察が違っても構わない。何かしらの条件がある事は確定しているため、そこは実戦の中で探ればいいだろう。勝ち筋は、必ずある。

 

「勿論、此処で大人しく投降するのでしたら水に流す事はできますよ? 部長も先の一撃で借りは返したと仰っていましたので」

 

 大人しく尻尾を巻いて逃避を選択するならば見逃すぞ、とアカネはトキと同じように投降を勧める。勿論、素直にトキが頷いてくれるとは思っていないが……それでも、彼女には武器を交わす前に投降を勧められたのだ。ここは同じく、相手にも投降勧告をしなければ失礼だろう。目には目を、と自分で言ったばかりなのだから。

 

「……それはできません。私はリオ様から命令を受けております。指示に背いて行動しているC&Cを制圧せよ、と。そのため、この場から引く事はできません」

「ふ~ん、真面目ちゃんなんだね、トキちゃんは♪」

「想定通りの反応だ。言葉で引いてくれるとは初めから思っていない」

 

 カリンは徐にトリガーを引いてドローンを数機纏めて撃ち抜き、撃破。耳を塞ぎたくなる音が轟き破壊されたドローンが爆発し炎を上げて街を彩った。真横で起きた爆発はトキの余裕を崩す事はなく……武装の使用ができるようにメイド服の一部をパージ。パワードスーツ用のアタッチメントを露出させ、彼女も臨戦態勢となる。

 

「C&Cは秘密のエージェント組織……最初は潜入によって此方を攪乱すると踏んで備えておりましたが、まさか堂々と正面からいらっしゃるとは想定外でした。しかし、作戦と考えると納得もできます。恐らく、私がこの場に居る事もあなた方の作戦の内では?」

「……そうなのか?」

「あはは♪ そうなんじゃないかな~?」

「あら、そうですねぇ……私達としても想定外ですよ」

「────誤魔化そうとしても無駄です」

 

 誤魔化し方がお粗末すぎる。これでは疑ってくださいと言っているようなものだ。沈黙を選択したネルに至っては答えを言っているようなものだし、他のメンバーも似たり寄ったり。やはりと言うべきか彼女達は(はかりごと)が苦手だ。リオには遠く及ばない。

 

「先輩達の思惑など分かっております。ゲーム開発部がおりませんね。つまり、そういう作戦なのでしょう? 先輩方は私の足止めを任されている」

「────」

「それは正しいでしょう。リオ様の武装を纏った私との正面対決は先輩達に任せ、その間にゲーム開発部を自由にさせる……それであれば、確かに僅かに勝算はあるでしょう。先輩方の勝利条件はアリスの奪還、エリドゥの陥落や私の撃破ではありません」

 

 トキは「ですが……」と呟き、その手にアームギアを装着する。先日ネルに使った手札にして、リオがトキの能力を見込み、彼女に送った武装の1つ。その威力を身を以て知っているネルは唇を吊り上げ、獰猛に笑った。

 

「ゲーム開発部が突破可能なほど、エリドゥのシステムは甘くありません。作戦を間違えましたね、先輩方。本気でアリス奪還を考えるのであれば、ネル先輩は本命の部隊に行くべきでした」

「ハッ! 聞いてもねぇ事をペラペラとよく喋るなぁ、オイ」

 

 展開したアームギアから10発のミサイルが射出されるが、その全てはネルの銃撃で撃ち落とされる。射出から全機撃墜までにかかった時間は1秒程度。凄まじい攻撃精度と速度。何せ、ネルの真正面にいたはずのトキが、彼女が銃を抜く瞬間を視認できなかったのだ。気づいたら銃を抜いていて、自分の攻撃の全てが捌かれていた現実を前にトキはその表情を僅かに歪めるが……まだ、手は多く残されている。焦る必要はないだろう。

 

「テメェの装備は強力だが……装備が強力なヤツは他にも知ってるんだよ。装備が強ぇなら、それを頭に入れれば良いだけだ。初見なら兎も角、同じ手品が二度も通じると思うなよ、後輩」

 

 武器が強力であるのならば、その選択肢を封殺すれば良い。あのアームギアは確かに強力だ。通常の爆発に加えて、電子機器を破壊するための手段まで搭載されている。加えてホバリングもできる事からドローンのように使用する事も出来ると考えられる。

 このようにタネが割れているなら、幾らでも対応ができるというもの。そして、対応できるなら二度目は通じない。当たり前の摂理だ。この時点でトキの武装が1つ……否、先の蹴りで破壊された電磁シールドを含めると2つ潰された。

 

 ────使用可能な武装は奥の手が1つ。レッグギアが2機、ドローンが4機、他タイプのアームギアが2機。携行火器のアサルトライフル、G11K3(シークレットタイム)。相手はネル(ダブルオー)、出し惜しみをして勝てる相手ではない。となると、取れる手は必然的に限られてくる。

 

「……へぇ」

 

 呟いたネルの眼前、そこには全身を武装で固めたトキが立っていた。

 腕部に装備されたアームギアはネルが見たものよりも小型であり、人体の動きを阻害しない……簡単に言ってしまえば鎧の様な装備。問題なく銃器を握れるだろう。各所に展開しそうなハッチがある事から、恐らくギミックが隠されている。

 脚部も同様に、人体の延長線上にある。各所のハッチは姿勢制御用のバーニアか何かが格納されているだろう。飛べるかは不明だが、陸上での機動力は数段上がったと考えていい。

 そして、彼女を固める4機のドローン。その内の2機が攻撃用で、残りが防御用。攻撃型の装備はミサイルと機関銃、防御はシールドとCIWS。

 

 奇を衒わず、拡張した人体に使いやすい武装を装備する。いかにも優等生なリオらしい回答だ。

 

「それがテメェのフル装備か」

「えぇ、これが私の全力です」

 

 ────あくまで『この場で出せる全力』ですが。トキは心の中で付け加えて、ネルを鋭い眼で射貫く。リオのサポートも正常に機能している。演算も十全。本命の奥の手を確実に通すため、この状態で可能な限りネルを消耗させよう。リオの命令は……絶対だ。

 

「雑魚どもは任せるぞ」

「はーい! リーダー、思いっきりやっちゃって!」

「あぁ、了解した」

「勿論です、部長の邪魔はさせません」

 

 散開し、トキが引き連れて来たAMASと交戦する3人のコールサイン持ち。辺りで戦闘音が奏でられ、この場に立つのはネルとトキの2人。彼女達は全く同じタイミングで構え────戦闘態勢へと遷移する。

 

「さぁ、リベンジマッチと行こうか」

「……此処は通しません」

「知らねぇよ────ぶっ飛ばして通るまでだッ!」

 

 

 

 

「これで……!」

 

 コトリのM134(プロフェッサーK)。モーターにより高速で回転する銃身、6本に束ねられた暴力から吐き出される無数の弾丸は分間2000から4000発にも及ぶ。地下という逃げ場のない閉鎖空間に於いてこの武装は最高峰の制圧能力を叩き出し、前方にいた大半のAMASを薙ぎ払った。

 

 そして、もう一人。この地下で最高クラスの制圧能力を持つ生徒が居る。

 それがヒビキだ。持つ武装は迫撃砲、M224(ファンシーライト)。60mmの口径を持ち、迫撃砲の中では中迫撃砲という部類にカテゴライズされる。天井がある都合上、高い射角を取り遮蔽物越しの攻撃や真上からの攻撃は不可能であるが、グレネードランチャーのような運用は充分可能である。そして、彼女ほどの頭脳を持つならば弾道計算や偏差射撃もお手の物。コトリの射角外、撃ち漏らした敵を的確に攻撃し……そして、全てのドローンをスクラップにしたことを確認した彼女はゴーグルを上げて残骸が散らばる一面を見渡した。

 

「邪魔なドローンは全部倒した……!」

 

 ゴーグルに搭載されているセンサーからは動体反応や熱源反応は得られなかった。前方も、モモイ達が担当している後方も。ウタハの方を見ると、彼女も静かに頷いた。彼女もヒビキと同様に敵が居ない事を確認したのだろう。

 

『皆、油断しないで! そろそろ地上だよ!』

 

 ヴェリタスの通信をバックミュージックに彼女達は地上へ繋がる階段を一気に駆け上がる。ドローンの追撃はない。響く音は人数分の足音と呼吸音、そして銃器が奏でる騒々しい音だけ。

 随分と地下深くにステーションを作ったのだろう。10階層分ほどは駆け上がった筈なのにまだ地上は見えない。そして、それだけ時間が経ってしまえば当然敵も集まって来る訳で。

 彼女達の後方から機械音が聞こえた。

 

「ッ! 増援!」

 

 振り返った視線の先、暗い闇の中であっても目立つ白を基調とした期待と同色のカメラアイ。先ほど粗方片付けたはずの陸戦型AMASが隊列を組んで押し寄せている。

 

「マキ、数は分かる?」

『先行してるのが7! 後方には……分かんない! でも最低20はいる!』

「……流石に真面に相手したくないね」

 

 30機程度、別に倒せなくはないだろう。先のようにコトリとヒビキを中心にして残りのメンバーを露払いに徹させれば少ない消耗で撃破すること自体は可能だ。

 だが、今回はスピード勝負。アリスのヘイローがどのタイミングで破壊されるか分かったものではない。リオの性格上、破壊可能なら即座に実行に移すだろうから……雑兵掃除に時間を掛けることは悪手だ。タイムリミットが不明であるならば、可能な限り早く彼女の元へと辿り着きたい。

 

「全部倒したはずなのに、どうして……!」

『恐らく、エリドゥの構造が関係していると思う。都市全域に迷宮のように地下通路が張り巡らされていると仮定したら……』

「そこを通れば増援も早く送り込まれる……そういう訳だね」

『ごめん……私達のリサーチが足りなかった』

「ううん、マキ達の所為じゃないよ」

 

 そうしている内に、ドローンの追い縋る手がどんどんと近づいてくる。ここで少女達は二択を迫られる。迎撃を優先するか、地表に出る事を優先するか。

 迎撃するならば、階段というあまり良くない足場で戦う事を強制される。地表に出る事を優先しても、恐らくは待ち伏せは居るだろう。

 何機いるかは分からないが、その待ち伏せに加えて追ってきているドローンを相手にするのは少々骨が折れる。

 そして、このドローン達もエリドゥの防衛機構の内の1つに過ぎない。中央タワーに近づくにつれてどんどんと厳しくなるだろう。それなのに、こんな序盤も序盤で消耗するのは……余りにも手痛い。

 

 どの択を選んでも旨味がない。少しずつ、だが着実にリオは少女達を磨り潰しに来ている。圧倒的に有利だから油断や慢心の1つくらいしてくれてもいいのに、遊びや隙が皆無だ。ただ只管、合理的に、完璧に。二重三重に張り巡らされた蜘蛛の糸、神算鬼謀の体現者。

 

 さて、どうするか────誰もがそう考えたとき、ユズは足の速度を緩めて最後尾になった。

 

「ごめんなさいッ!」

 

 その一言と共に発射されるグレネードランチャー。狙う場所はドローンではなく足場である階段そのもの。アリスがネルに対抗した手段と同じ手を彼女も取った。

 爆発音が響き渡り、煙が晴れた場所には大きな風穴が空いていて……それを前にドローンは足止めを食らう。迂回路を探すが、此処は階段。そんな都合の良いものは何処にもない。空戦型が居ないのか、完全にドローンと少女達は分断された。

 

「すごいよユズ! 超ナイス!」

「う、うん……階段はなくなっちゃったけど……」

「いや、構わないさ。退路は終わった後に考えよう」

 

 ────リオの性格上、負けたときに抵抗するとは考えにくい。彼女達が目的……アリスの奪還を果たした場合は恐らく素直に帰してくれるだろう。つまり、退路が必要な時は奪還作戦が失敗した(アリスが死亡した)場合。そして、『アリスが殺されて素直に逃げ帰るか』と問われれば否だ。よって、退路はそもそも必要ない。あとは進むだけだ。

 

 道を断たれたならば、と言わんばかりに執拗に射撃をする先行部隊のドローンに見向きもせず少女達は再び階段を駆け上がる。これで最悪は防げた。だが、この先は恐らく空戦型も投入されるであろう。先ほどのように陸路を断っても追撃の手を緩ませることは叶わなくなる。それが今後にどう影響するのかは不明であるが……それでも、今は前に進まなければ。

 

「出口が見えたよ!」

 

 最前列のモモイが指差す先、そこには光があった。人工的な明かりではなく、太陽光。それを見て、全員が更に速度を上げて長い階段を上る。地表付近の構造は一般的な地下鉄の駅のような造りになっていて、最早迷う部分はない。そして、少女達は地表マイナス数cmを踏みしめて────。

 

「よーし! 外に出れた!」

「ふむ、此処がエリドゥ……凄まじいね」

 

 犇めき合うように立ち並ぶビル群。事前に資料として目を通した設計当初の図面よりも数段発展している要塞都市を前に全員が固唾を呑んだ。スケールが違いすぎる。たった一人でメガロポリス級の都市を形にするなんて誰もが出来の悪い冗談だと思ってしまうのに、リオはその絵空事を実現させてしまった。間違いなく同じことは誰にもできないであろう大偉業だ。

 

「……それで、ここから何処に向かえばいいの?」

『アリスがいるのは中央タワー。ここだけセキュリティが段違いだから詳しい構造とかは分からないけど……それでも確率は高いと思う』

『現在地からルートを算出しました。左手にある大通りを真っ直ぐ北に進めば辿り着けます』

 

 ヴェリタスから端末に送信されたマップに映る赤いマーカーが現在地。其処から伸びる点線に従い進めば、確かに中央タワーに辿り着けそうだ。碁盤の目のように理路整然と張り巡らされた道路。マップやガイドが無いと景観がほぼ同じな事も相まって迷子になる事間違いなしだが……今回はヴェリタスという頼れるハッカー集団がバックについている。迷う事はそうないだろう。

 

 少女達は聳え立つ摩天楼の中、最も目立つ中央タワーを見上げる。直線距離で約10kmは確実に離れているであろうにも関わらず、その威容は他の建造物と一線を画していた。あの場所にアリスが……そう思うと自然と銃を握る手に力が籠る。

 

 望むのはアリスの奪還。誰もが笑えるハッピーエンド、誰一人欠ける事のない大団円。

 アリスの涙を、言葉を、絶望を否定する為に────此処まで来た。

 

 仕方がない事だからと目を覆って天使の輪を欠けさせることが正道であり真理であると宣うのならば……その正道も真理も、悉くを否定する。リオの目的に妥当性や正誤があるかなんて興味はない、そんな事は心底どうでもいい。ただ、その目的の為に友達を犠牲にする事が許せないのだ。

 

 その一念を胸に少女達は要塞都市を駆け抜ける。振動する地面から隔壁がせり上がり、彼女達の道を断とうとするが……システム面はヴェリタスが見ている。隔壁は完全に上り切らず、1m弱程度の壁になるのみ。そして、その程度の高さの壁で少女達の進撃を止められる訳もなく軽々しく飛び越えてタワーを目指す。

 

『エリドゥのAIからカウンターハックを受けました。私が対処に当たります』

『うん、実働部隊の援護は私達に任せて』

 

 都市の自動防衛システム。今まで殆ど無視していたヴェリタスの援護を的確に潰しに来ていた。ヴェリタスの援護がなければエリドゥの防衛機構を突破できないと踏んだのだろう、確かにそれは半分当たりだ。そして、この状況は予想済み。この場合は────。

 

「我々の出番という訳ですね!」

「うん、手筈通り私達で現地のシステムはある程度受け持とう。ヴェリタスには及ばないが、それなりにソフトも弄れるさ」

「うん……任せて……!」

 

 ゲーム開発部に同伴し、現地にいるエンジニア部がヴェリタスが担っていた役割を受け持つことで強引に解決する。確かに彼女達の専門はハードウェアだが、それはソフトウェアがからっきしである事を意味しない。寧ろ、彼女達は其処らのプロよりも精通している。エンジニア部の発明品に搭載されているプログラムやファームウェア、ソフトウェアは全て自前のもの。知識も経験も充分だ。

 

 持ち込んだ機器を使用し、システムに侵入し、書き換え、突破していく。リオもC&C側に多くのリソースを割かなければならない関係上、彼方側と比べると苛烈ではないが……それでも手強いものは手強い。隔壁以外にもミサイルやレーザーやらCIWSやらがせり出して侵入者を排除せんと攻撃を開始する。

 それに加えてAMASまで参戦し、彼女達の道を塞ぎ銃を構える。懸念通り空戦型も配備されていて、陸戦型と半々程度。少々面倒な手合いであるが、少女達は一切減速せず果敢に突撃し。

 

「どいたどいたー!」

 

 躊躇なくトリガーを引き、ドローンを粉砕する。跳ねた弾丸が道路やビルの外壁に当たっても一切の損傷が見られない。流石要塞都市だ。硬度も強度も申し分ない。

 ……それだけに、この都市の建築物や道路をスナック感覚で破壊していくネルの異常さが浮き彫りになっていくのだが。

 

 コタマがエリドゥの攻性システムと激闘を繰り広げている間に、ハレとマキは攻撃兵装のシステムを落としに掛かる。次々と区画を突破していく作戦のため無視しても大事には至らないだろうが、兵装の有効射程が分からない都合上、無視するわけにもいかない。

 何と戦う想定であるのか一切分からない過剰な兵装を一つ一つ解除していくと、彼女達を狙う銃口の数が少しずつ減っていく。

 最後の1つ、まかり間違っても人に向けるべきでない馬鹿げた口径のレーザーをハッキングしたと同時にドローンの残数もゼロとなる。中央タワーを望むこの区画に敵性反応は皆無だ。

 

「制圧完了!」

「先を急ごう。増援は来ているかな?」

『来てるけど、数は少ないし距離も離れてるから無視しても大丈夫だと思うよ!』

 

 マップに新たに映ったマーカーが増援。しかし、マキの言う通り距離も離れていて数も少ない。恐らくはC&Cに使っていたドローンを此方側に回したのだろう。これなら無視しても構わない。

 尤も何故今になってC&Cに回していたドローンを此方に向かわせたのか……その意図が分かりかねる事に僅かな不安を覚えてしまうが。何か、大事な事を見落としているのかもしてない────その疑問がウタハの内心を黒く彩った。

 

『大丈夫、道案内とシステムは任せて』

『ささ、このままGOGO~!』

 

 ヴェリタスの頼もしい声に従い、先を目指そうとしたその時────地面が揺れた。

 

「何ッ!?」

「こんな時に地震!?」

「……いや、これは……」

「ううん、地震じゃない。()()()()()()()()()()()。一体何が起きてるの……?」

『モモ、ミド! そっちで何が起きてるか見える!?』

 

 ────遂に、要塞都市エリドゥがその本領を表す。

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